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FRBR モデルを前提とする集中型目録と分散型目録の連携手法の検討 田辺浩介慶應義塾大学メディア コミュニケーション研究所 108-8345 東京都港区三田 2-15-45 tanabe@mwr.mediacom.keio.ac.jp 原田隆史慶應義塾大学文学部 108-8345 東京都港区三田 2-15-45 ushi@slis.keio.ac.jp 概要書誌データベースの FRBR 化と実用的な速度での複数の図書館の横断検索を実現するためには 目録作成を集中化させるためのシステム構成が望まれる 本稿では FRBR を前提とした書誌データベースを 書誌管理システムと所蔵管理システムのふたつのシステムに分離して構築し これらを Web 上で用いられる標準的なプロトコルを用いて連携させるための手法を示す キーワード総合目録, AtomPub, FRBR Collaborating union catalog and distributed catalog based on FRBR model Kosuke Tanabe Institute for Media and Communications Research, Keio University 2-15-45, Mita, Minato-ku, Tokyo, 108-8345, JAPAN tanabe@mwr.mediacom.keio.ac.jp Takashi Harada School of Library and Information Science Keio University 2-15-45, Mita, Minato-ku, Tokyo, 108-8345, JAPAN ushi@slis.keio.ac.jp Abstract Union cataloging is preferred to build a FRBRized catalog and achieve high performance to search several catalogs in libraries. In this article, we suggest a method for building a FRBR-based catalog with loose-coupling between a bibliographic management system and collection management systems using Web standard protocol. Keywords Union catalog, AtomPub, FRBR 1. OPAC の高度化と FRBR 図書館目録のコンピュータ化 オンライン化の進展は 従来のカード目録では不可能だったタイトルのキーワードや出版者等からの検索を可能とした 現在 オンラインで提供される図書館目録 (OPAC) は 多くの図書館で提供されてきており 図書館サービスに不可欠な存在となってきている しかし OPAC はまだまだ目録として不十分であるという指摘もある たとえば Yee は現在の OPAC は目録 (catalog) と言えるものではなくファインディングリスト ( 特定の本を見つけるためのリスト ) にすぎないと述べている 1) 橋詰は Lubetzky や Svenonius による目録が果たすべき役割についての記述をもとに 現在の目録の問題のひとつが ある著作に関係する出版物を特定し それ

らを関連づけて示すことが難しい点にあることを指摘している 2) このような問題を解決する有用なツールとして 近年注目を集めているのが IFLA が提唱する 書誌レコードの機能要件(Functional Requirements for Bibliographic Records: FRBR) モデル 3) である このモデルの有効性は認められてきており OCLC の Worldcat.org 4) をはじめとして多くの書誌データベースに FRBR モデルが適用 (FRBR 化 :FRBRized) されてきている このような 書誌データベースの FRBR 化を行うためには 既存の書誌レコードを FRBR モデルに対応した形に変換する作業と 新たに作成する書誌レコードを FRBR 形式で作成することの両方が必要とされる このうち 前者については そのための基礎的研究として 著作の自動的な同定手法などが検討され 徐々に解決されてきている 5)6)7) しかし 今後生み出される新しい資料についてのオリジナルな書誌の作成を支援する仕組みについては これまであまり検討されてこなかった 特に 現在は複数の図書館が分担して書誌レコードを作成することも多い 目録作成を分担して集中型目録を作成しようとする 目録センター館 構想が注目されているが 国立情報学研究所の次世代目録ワーキンググループがまとめた最終報告書 8) の中でも FRBR 化の利点と記述の困難さは述べられているものの 目録センター館 構想と FRBR 化の関連は特に述べられていない 今後 集中型目録と FRBR 化の関係を検討することはますます必要となろう 2. 集中型目録 分散型目録における横断検索現在 NACSIS-CAT をはじめとしていくつかの集中管理型の構成を持つ総合目録が運用されている このような総合目録を対象とした検索を行うことで 複数の図書館を横断した検索が容易に実現できる しかし 現在作成されている総合目録の多くは 参加する各図書館のローカルな所蔵データベース ( いわゆる OPAC) との連携が十分に考慮されているとはいえない たとえは NACSIS-CAT の一般利用者用ユーザインターフェイスである NACSIS WebCat において横断検索を行った場合でも 実際の利用のために各図書館内の所在情報や実際の貸出状況を知るためには 資料検索後に再度各図書館の OPAC にアクセスし 改めて所蔵情報を検索しなければならない 一方 各図書館が提供する OPAC を用いて 複数の図書館を横断検索するための手法として HTTP のような広く使われるプロトコルや Z39.50 のような情報検索用プロトコルを用いた分散型処理手法が用いられてきた これは 利用者が入力した検索語を複数の図書館の検索システムに問い合わせ その検索結果を表示するものである しかし 分散型目録を順次利用していくという形式での横断検索は その利用にあたって以下のような問題が存在する (1) 図書館によってシステムが異なるため 統一的な検索を行うことができない たとえば ブール演算子の挙動が図書館によって異なることも多い また 図書館システムが変更された場合などエラーが数多く発生する原因ともなる (2) 検索速度が遅い たとえば ある図書館のシステムの反応が遅い場合 全体のレスポンスがその図書館に引っ張られて低下してしまう (3) 検索結果の表示方法が洗練されていない たとえば 各図書館の図書館システムの検索結果画面をそのまま表示する場合があり 統一されたユーザインターフェースを提供できていないことが多い 全国 46 都道府県の横断検索システムを対象して検索結果が全て表示されるまでの平均検索時間を調査したところ 図 1 に示すように横断検索の対象図書館数が 20 館未満もしくは 21~40 館の場合で 38~97 秒 対象図書館数が 41 館以上の場合には 88 秒 ~222 秒という非常に長い検索時間が必要であった また タイムアウトなどの理由が発生して検索できない図書館の割合は 図 2 に示すように最大で 26% に達した 第 1 章および第 2 章で述べたようなような問題を解決するためには 検索対象となる書誌データが FRBR 化され これを集中管理 あるいは少なくとも検索用インデックスの集中管理することが

必要であると考えられる 本研究では Web 上で用いられる標準的なプロトコルとファイルフォーマットを用いた FRBR モデルを前提とした書誌集中管理による総合目録の構築方法を示す 図 1. 横断検索の平均検索時間 図 2. 平均エラー数 3. システム構成本システムは書誌管理システムと所蔵管理システムのふたつに大きく分けることができる すなわち 書誌に関しては集中管理を行い 所蔵に関しては各図書館で個別に管理するという構成である システム構成図を 図 3 に示す なお 本システムは開発効率の向上と図書館への広い普及を目的とするため すでにオープンソース ソフトウェアとして公開されている図書館管理システムである Project Next-L Enju 9) をベースとして開発を行った 書誌管理システム インターネット 構内 LAN 所蔵管理システム (A 館 ) 所蔵管理システム (B 館 ) 所蔵管理システム (C 館 ) 所蔵管理システム (D 館 ) 図 3. 書誌管理システムと所蔵管理システムの構成 Enju は単体で 著作 (Work) 表現形 (Expression) 体現形 (Manifestation) 個別資料

(Item) の 4 要素を管理することができる したがって 書誌管理システムおよび所蔵管理システムの両方で Enju を用い, それぞれで必要な管理機能を用いることとした 各要素に対応するひとつのインスタンスは RDBMS 上の 1 レコードとして表現され 一意な ID 番号と URL が付与される URL は以下の構文となるが これは Ruby on Rails で生成される標準的なアプリケーションの規約によるものである http://{ 書誌管理システムのホスト名 }/{FRBR の要素名 ( 小文字 複数形 )}/{ID 番号 } 例 : http://enju.example.jp/manifestations/20 3.1 書誌管理システム書誌管理システムは FRBR における 著作 表現形 体現形 間の関連を管理するシステムであり 図書館によって異なるものではない 図書館資料そのものに関する情報を取り扱うものである 実際に本システムを運用する場合には 国や都道府県などの広範囲な組織において管理されることが妥当であると考えられる また これらとは別に書誌管理システムを利用する図書館 ( 所蔵管理システムを利用する館 ) の URL をあらかじめ登録し 各図書館の所蔵管理システムから送信されるリクエストの識別を行う機能もあわせもつ 書誌管理システムは 図書館司書だけが操作するものではなく 一般の利用者ならびに後述の所蔵管理システムが インターネット経由で利用する 図書館司書はシステムにログインして書誌を作成することができる また一般の利用者は このシステムに対して資料の横断検索を行う 3.2 所蔵管理システム所蔵管理システムは 各図書館の LAN 内で運用され FRBR における 体現形 と 個別資料 間の関連 ( 所蔵情報 ) や利用者の個人情報の管理 資料の貸出 返却などの業務を担当するものである このシステムも図書館司書と一般の利用者の両方が利用するシステムであり 図書館員は所蔵登録や利用者管理 貸出管理を 一般の利用者は各自が所属する図書館の所蔵検索を行う 3.3 システム間の通信方法書誌管理サーバと所蔵管理サーバの間の通信は REST over HTTP による Atom 出版プロトコル (Atom Publishing Protocol : AtomPub) を用いて行う AtomPub は登録するデータを Atom フォーマットによって送信するためのプロトコルであり 主にブログ記事の作成や更新に利用される事例が多いが 図書館の分野においても機関リポジトリで用いられる たとえば SWORD プロトコル 10) が AtomPub を採用している また 同様に HTTP over REST と AtomPub を用いているものとして Ross Singer によって提案されている Jangle 11) があり システムの利用者や資料を Actors/Collections/Items/Resources の各モデルで表現している AtomPub は仕様が公開されており (RFC5023 12) ) また広く普及している HTTP を用いているため Web ブラウザや既存の図書館システムのみならず HTTP を理解するさまざまなアプリケーションやプログラミング言語のライブラリによってデータの登録や交換を行うことができる 本システムでは 書誌管理システムと所蔵管理システムの間で 体現形 の情報を交換するために AtomPub を利用している 3.4 書誌の登録オリジナルな書誌の登録を行う場合は まず図書館員が Web ブラウザを用いて書誌管理システムにログインし 著作 表現形 体現形 に相当する書誌を登録する 手順は以下のとおりとなる (1) 登録しようとしている書誌に対応する 著作 を検索し 選択する もし検索することができなか

った場合は 新たに 著作 に対応する Work レコードを作成する (2) 表現形 に対応するレコードを作成する 新たに作成する Expression インスタンスは関連する Work レコードの id を含んでいる必要がある (3) 体現形 に対応するレコードを作成する 表現形同様 新たに作成される Manifestation インスタンスは関連する Expression レコードの id を含んでいる必要がある 書誌の修正の際も 同様に図書館員が書誌管理システムにログインして 当該書誌の修正を行う 3.5 所蔵の登録各図書館の所蔵登録にあたっては 以下のような手順をとる (1) 図書館が新しい資料を受け入れる際 所蔵管理システムは書誌管理システムに対して その資料がすでに書誌管理システムに登録されているかどうかを問い合わせる 問い合わせのためのクエリは ISBN や NCID など Manifestation 要素の識別子を用いる (2) 書誌情報の取得のためのリクエストとレスポンスの例を図 4 に示す HTTP のヘッダは一部省略している 図 4 書誌管理システムに対する検索のリクエストとレスポンスの例

(3) 書誌管理システムから当該 体現形 に対応するレコードが存在するというレスポンスが得られた場合 所蔵管理システムはそのレスポンスに含まれている書誌情報 ( タイトルなど ) を取得して Manifestation インスタンスを作成し 所蔵管理システムローカルの RDBMS のレコードとして登録する この時 所蔵管理システム上の Manifestation インスタンスに対応するレコードには 各図書館固有の ID 番号を付与する (4) 書誌管理システム上に当該 体現形 に対応するレコードが存在しなかった場合 図書館員は書誌管理システムにログインし 対応する 著作 表現形 体現形 の各要素に対応するレコードを手動で作成する 作成が完了した時点で 改めて所蔵管理システムから書誌管理システムに対して AtomPub のリクエストを送信する (5) 各図書館の図書館員は 所蔵管理システムに Item インスタンスに相当するレコードを作成し 自館の所蔵情報 ( 請求記号 バーコード番号 排架場所など ) を登録する (6) 所蔵管理システムは同時に 個別資料 に対応した 体現形 の識別子 (ISBN など ) と 個別資料 に対して所蔵管理システムで付与された URL を書誌管理システムに送信する 書誌管理システムは 引き渡された 体現形 の識別子と URL を参照し 対応する資料に所蔵館名を登録する 13) この時点で各図書館での受入作業が完了し 書誌管理システムで所蔵情報が検索できるようになる (7) 書誌情報の登録のためのリクエストとレスポンスの例を図 5 に示す HTTP のヘッダは一部省略している 図 5 書誌管理システムに対する書誌登録のリクエストとレスポンスの例

3.6 所蔵情報の更新所蔵情報の更新 ( 各図書館での除籍も含む ) は 所蔵管理システムでのレコードの操作を行った後 AtomPub 経由で書誌管理システムに反映させる 具体的には 所蔵管理システムが書誌管理システムに対して更新対象の資料の検索を行った後 その資料に対応する書誌管理システム上の URL に PUT メソッドによるリクエストを送信する 4. 資料の検索書誌管理システム 所蔵管理システムのいずれも 図書館員や一般の利用者からの検索を受け付けるようになっている 検索リクエストとレスポンスには 書誌管理システムに登録されていない図書館の書誌データベースとの横断検索を考慮して SRU 14) を用いることができるようになっているが 書誌管理システムに登録されている図書館に対しては各館に SRU のクエリを発行する必要がないため 高速な検索を行うことができる 5. 評価と検討すべき課題 Enju の構築に用いている Ruby on Rails は 標準で REST over HTTP によるデータ登録に対応している 15) このため Enju を利用して構成されている書誌管理システムは 機能的には 体現形 だけでなく 著作 表現形 の登録も各図書館のローカルのシステムを用いて REST over HTTP で行うことができる しかし 今回はあえてその構成を取らず 書誌管理システム上に図書館員のユーザアカウントを作成し ログインさせるようにしている これは 書誌管理システム上に主なユーザたる図書館員を集めることにより 書誌作成を介した図書館員の活動やネットワークを可視化させ 協同作業を活発に進められるようになることを狙っている 一方 所蔵管理システムが書誌管理システムに送信する Atom については 現時点では FRBR の各要素のインスタンスを単純に 1 件ずつ送信するのみであり より効率のよい通信を行うには 複数の要素で構成される場合の Atom での表現方法を検討する必要がある また SWORD や Jangle, NCIP 16) との相互運用性の検討も必要となるであろう 謝辞本稿の作成にあたっては 慶應義塾大学の加藤草平氏に調査の協力を得ました 感謝いたします 注 引用文献 1) Yee, Martha M. FRBRization: A method for turning online public finding lists into online public catalogs. Information Technology and Libraries. 2005, Vol. 24, No. 34, p. 77-95. 2) 橋詰秋子. FRBR からみた日本の図書館目録における著作の傾向. 慶應義塾大学 OPAC を例として. Library and Information Science. 2007. Vol.58, p.33-48. 3) International Federation of Library Associations and Institutions. Functional Requirements for Bibliographic Records: Final Report. K. G. Saur, 1998, 136p. 書誌レコードの機能要件 IFLA 書誌レコード機能要件研究グループ最終報告. 日本図書館協会. 2004, 121p. 4) OCLC. Worldcat. org. http: / /www. worldcat.org/, (accessed 2009-10-16). 5) 谷口祥一. FRBR OPAC 構築に向けた著作の機械的同定法の検証 JAPAN/MARC 書誌レコードによる実験. Library and information science, 2009, Vol.61, p119-151. 6) FRBR Work-Set Algorithm. http://www.oclc.org/research/activities/past/orprojects/frbralgorithm/algorithm.htm (accessed 2009-10-12) 7) RDA: Resource Description and Access. http://www.rdaonline.org/ (accessed 2009-10-12) 8) 国立情報学研究所学術運営 連携本部図書館連携作業部会. 次世代目録所在情報サービスの在り方について ( 最終報告 ). 2009. http://www.nii.ac.jp/cat-

ILL/archive/pdf/next_cat_last_report.pdf (accessed 2009-10-15) 9) Home next-l Github. http://wiki.github.com/nabeta/next-l (accessed 2009-10-15) 10) SWORD AtomPub Profile version 1.3. http://www.swordapp.org/docs/sword-profile-1.3.html (accessed 2009-10-15) 11) Jangle Specification Version 1.0. http://www.jangle.org/spec/1.0 (accessed 2009-10-15) 12) The Atom Publishing Protocol. http://www.ietf.org/rfc/rfc5023.txt (accessed 2009-10-15) 13) Item を書誌管理システムで扱うことも実装上は可能だが 書誌管理システムに至るネットワークが切断されると館内での貸出 返却業務が行えなくなってしまうため Item の管理は各図書館の LAN 内に構築した所蔵管理システムにおいて行うようにしている 14) SRU: Search/Retrieval via URL. http://www.loc.gov/standards/sru/ (accessed 2009-10-15) 15) Rails 1.2: REST admiration, HTTP lovefest, and UTF-8 celebrations. http://weblog.rubyonrails.org/2007/1/19/rails-1-2-rest-admiration-http-lovefest-and-utf-8- celebrations (accessed 2009-10-15) 16) Welcome! NISO Circulation Interchange Protocol (NCIP Z39.83). http://www.ncip.info/ (accessed 2009-10-15)