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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形


共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

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Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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生物時計の安定性の秘密を解明

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

スライド 1

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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平成14年度研究報告

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

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報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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平成24年7月x日

論文の内容の要旨

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

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報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血管に溜まっていくことが動脈硬化の原因となる 3. マクロファージ内に存在するたんぱく質 MafB は マクロファージのアポトーシス( 細胞死 ) を妨げることで マクロファージの血管での蓄積を促進する 国立大学法人筑波大学医学医療系 生命領域学際研究センターおよび国際統合睡眠医科学研究機構濱田理人助教 中村恵弥博士 高橋智教授らは 遺伝子発現を調節するはたらきを持つたんぱく質 MafB が 白血球の一種であるマクロファージのアポトーシスを阻害することで 動脈硬化の病態を悪化させることを発見しました 動脈硬化は 酸化コレステロールなどの脂質が血管の傷などから血管内皮下に溜まり これを取り除くために血液中からやってきたマクロファージがその場に蓄積することで血管が狭くなってしまった病態です しかしこれまで マクロファージが血管内皮下にとどまる詳しい仕組みはよくわかっていませんでした 今回 本研究グループは マクロファージ内でMafBが酸化コレステロールからのシグナルを受け取り マクロファージのアポトーシスを阻害していることを明らかにしました 同時に 動脈硬化モデルマウスの動脈硬化病変部でMafBのはたらきを抑えると マクロファージのアポトーシスが誘導され 動脈硬化病態が顕著に改善することを突き止めました さらに その詳しいメカニズムとして MafBがアポトーシス阻害たんぱくAIMの遺伝子発現を直接調節することを明らかにしました これらの結果は新しい動脈硬化治療法開発の基盤につながるものと期待されます 本研究は 筑波大学島野仁教授 東京大学宮崎徹教授 カルフォルニア大学ピータートントノズ教授の協力を得て行われ 2014 年 1 月 20 日 ( 日本時間 19 時 ) 付で科学雑誌 Nature Communications に公開されます * 本研究はJSPS 科学研究費の助成を受けたものです 1

研究の背景免疫細胞の一つであるマクロファージは 外界から侵入した細菌などの有害なものに対して防御的に働いたり 体内の老廃物などのゴミを取り除いたりして体をきれいな状態に保っています しかし 動脈硬化症においてはマクロファージのこの機能がむしろ病態に悪くはたらくことがわかっています 動脈硬化では 高血圧や糖尿病などによって血管に負担がかかると 血中の脂質であるLDLコレステロールが血管内皮下に入り込み 酸化されます この酸化されたLDLコレステロール ( 酸化 LDL) は悪玉コレステロールとも呼ばれるように 周りの細胞に対して毒性を持つことから これを取り除くためにマクロファージが集まってきます 過剰に酸化 LDLが存在すると それを取り込んだマクロファージ細胞内には酸化 LDLの分解産物による油滴ができ 泡沫化します これを泡沫細胞といいます この泡沫細胞が蓄積することで血管内膜はどんどん厚くなり 動脈硬化が進行していきます ( 図 1) 近年の解析により 動脈硬化初期病変の進行にはマクロファージのアポトーシスが関与していることがわかってきました 1) 転写因子注 MafBがマクロファージで発現していることは知られており 1990 年代から多くの研究グループが精力的にMafBの機能解析を行ってきました マクロファージにおけるMafBの具体的な機能は明らかになっていませんでした そこで本研究グループは疾患に関連したマクロファージに注目し MafBの機能の解明を行ってきました 研究内容と成果本研究に先立ち 本研究グループは MafBが生体内でどのようなはたらきをするのかを調べるために MafBを産 2) 生できないマウス (MafB 欠損マウス ) を2006 年に作製しています ( 参考文献 ) 今回 さらに移植実験注により血液細胞のみMafBを欠損した動脈硬化モデルマウスを作製し 動脈硬化の病態変化を検討しました その結果 血液細胞 MafB 欠損マウスでは動脈硬化病変部の面積 ( 脂肪の蓄積 ) が減少することが明らかとなりました ( 図 2) また このマウスの病変部ではアポトーシスが増加しており アポトーシス抑制たんぱくAIMの発現が著しく減少していました ( 図 3A) さらに MafBがどのようなシグナルを受けてAIMを制御しているのかを検討したところ 酸化コレステロールによっ 3) て活性化された核内受容体型転写因子注 LXRがMafBを制御していることが LXR 欠損マウスの解析により明らかとなりました ( 図 3B) このことから 酸化コレステロールからのシグナルをMafBが伝達し マクロファージのアポトーシス阻害を行うことで 動脈硬化を進行させることが明らかとなりましました ( 図 4) 今後の展開 MafB が AIM 遺伝子の発現を調節する機構は今のところ動脈硬化病変部でのみ観察されていることから このメ カニズムをターゲットにした新しい動脈硬化治療法の開発が期待されます 2

参考図 3

4

用語解説注 1) 転写因子 DNA の特定の部位に結合し 標的遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする 注 2) 移植実験 X 線を照射することにより動脈硬化モデルマウスの造血系細胞を破壊し そこに MafB 欠損マウス由来の造血幹細胞を多く含む胎児肝臓細胞を静脈注射により移植した 移植後 2 ヶ月以上経つとほぼ完全に MafB 欠損マウス由来の血液が置き換わる 注 3) 核内受容体型転写因子転写因子の一種であるが それ自体がある特定のホルモンや分子と結合することにより活性化されて遺伝子の発現を制御する 例えば LXR は酸化 LDL の分解産物オキシステロールと結合することにより 標的遺伝子の発現を調節することが明らかとなっている 注 4) 単球血液中に存在するマクロファージに分化する前段階の白血球 単球が血管外の組織に遊走するとマクロファージに分化する 注 5) アゴニスト特定の核内受容体型転写因子を活性化させる化合物 例えば GW3965 は LXR を特異的に活性化することができる 参考文献 Moriguchi T, Hamada M, Morito N, Terunuma T, Hasegawa K, Zhang C, et al. MafB is essential for renal development and F4/80 expression in macrophages. Mol Cell Biol. 2006 Aug;26(15):5715 27. 掲載論文 題名 MafB promotes atherosclerosis by inhibiting foam cell apoptosis (MafB は泡沫細胞のアポトーシスを抑制することで 動脈硬化を促進する ) 掲載誌 Nature Communications 問合わせ先 高橋智 ( たかはしさとる ) 筑波大学医学医療系教授 濱田理人 ( はまだみちと ) 筑波大学医学医療系助教 5