2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

物学的現象をはっきりと掌握することに成功した論文である との高い評価を得ています 2. 研究成果ブフネラゲノムの全塩基配列の決定に当たっては 全ゲノムショットガンシークエンス法 4 を用いました 今回ゲノム解析に成功したのは エンドウヒゲナガアブラムシ (Acyrthosiphon pisum) の

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

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図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

平成 31 年 4 月 24 日 発表機関 基礎生物学研究所 鳥取大学 琉球大学 広島大学 中央大学 産業技術総合研究所 学習院大学 イモリの再生能力の謎に迫る遺伝子カタログの作成 新規の器官再生研究モデル生物イベリアトゲイモリ 本研究成果のポイント 1. 新規モデル生物 #1 イベリアトゲイモリ

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

博士学位論文審査報告書

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

生物は繁殖において 近い種類の他種にまちがって悪影響を与えることがあり これは繁殖干渉と呼ばれています 西田准教授らのグループは今まで野外調査などで タンポポをはじめとする日本の在来植物が外来種から繁殖干渉を受けていることを研究してきましたが 今回 タンポポでその直接のメカニズムを明らかにすることに

TuMV 720 nm 1 RNA 9,830 1 P1 HC Pro a NIa Pro 10 P1 HC Pro 3 P36 1 6K1 CI 6 2 6K2VPgNIa Pro b NIb CP HC Pro NIb CP TuMV Y OGAWA et al.,

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

我々のビッグデータ処理の新しい産業応用 広告やゲーム レコメンだけではない 個別化医療 ( ライフサイエンス ): 精神神経系疾患 ( うつ病 総合失調症 ) の網羅的ゲノム診断法の開発 全人類のゲノム解析と個別化医療実現を目標 ゲノム育種 ( グリーンサイエンス ): ブルーベリー オオムギ イネ

共生菌が植物と共存するメカニズムを解明! ~ 共生菌を用いた病害虫防除技術への応用にも期待 ~ 名古屋大学大学院生命農学研究科の竹本大吾准教授と榧野友香大学院生 ( 現 : 横浜植物 *1 防疫所 ) らの研究グループは 共生菌が植物と共存するためのメカニズムの解明に成功しました 自然界において 植

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領域代表者 : 金井求 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 研究期間 :2017 年 7 月 ~2023 年 3 月上記研究課題では 独立した機能を持つ複数の触媒の働きを重奏的に活かしたハイブリッド触媒系を創製し 実現すれば大きなインパクトを持つものの従来は不可能であった 極めて効率の高い有機合

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

2019 年 1 月 21 日 自然科学研究機構基礎生物学研究所東北大学大学院生命科学研究科産業技術総合研究所 サンゴがもつ緑色蛍光タンパク質の働きが明らかに ~ 蛍光による共生パートナーの誘引 ~ サンゴ礁を形作り 南の海の生態系の維持に不可欠な存在であるサンゴは その多くが紫外線や青色光を受ける

Microsoft Word - 別紙2【研究成果のリリース文】太田邦史【最終版】

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コントロール SCL1 を散布した葉 萎 ( しお ) れの抑制 : バラの葉に SCL1 を散布し 葉を切り取って 6 時間後の様子 気孔開口を抑制する新しい化合物を発見! 植物のしおれを抑える新たな技術開発に期待 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (WPI-ITbM) の木下俊則

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

生物時計の安定性の秘密を解明

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広島大学関係報道機関 平成 31 年 4 月 24 日 発表機関 : 基礎生物学研究所 鳥取大学 琉球大学 広島大学 中央大学 産業技術総合研究所 学習院大学 イモリの再生能力の謎に迫る遺伝子カタログの作成 ~ 新規の器官再生研究モデル生物イベリアトゲイモリ ~ 本研究成果のポイント 1. 新規モデ

< 内容 > 乳がんは女性の罹患率が第一位のがんで 日本人女性の約 11 人に 1 人がかかり 近年患者数は上昇傾向にあります 乳がんの約 60 70% は 女性ホルモンであるエストロゲンと結合して細胞増殖に働くエストロゲン受容体 (ER) を生産 ( 発現 ) しています そのため エストロゲンの

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見


1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

報道関係者各位 平成 29 年 2 月 23 日 国立大学法人筑波大学 高効率植物形質転換が可能に ~ 新規アグロバクテリウムの分子育種に成功 ~ 研究成果のポイント 1. 植物への形質転換効率向上を目指し 新規のアグロバクテリウム菌株の分子育種に成功しました 2. アグロバクテリウムを介した植物へ

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

小嶋紀行:希少種ササバギンランの生育環境特性:横須賀市久里浜におけるマテバシイ植林の事例

細胞の構造

植物機能改変技術実用化開発 ( 事後評価 ) 分科会資料 植物機能改変技術実用化開発 ( 事後評価 ) 分科会資料 個別テーマ詳細説明資料 ( 公開 ) 植物で機能する有用フ ロモーターの単離と活用 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科新名惇彦 山川清栄 1/29 背景 目的

植物科学最前線 5:110 (2014) 菌従属栄養植物の菌根共生系の多様性 谷亀高広北海道大学北方生物圏フィールド科学センター植物園 北海道札幌市中央区北 3 条西 8 丁目 ( 現所属 : 国立科学博物館筑波実験植物園 つくば市天久保 4-1-1) Takah

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図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

平成14年度研究報告

細胞膜由来活性酸素による寿命延長メカニズムを世界で初めて発見 - 新規食品素材 PQQ がもたらす寿命延長のしくみを解明 名古屋大学大学院理学研究科 ( 研究科長 : 杉山直 ) 附属ニューロサイエンス研究セ ンターセンター長の森郁恵 ( もりいくえ ) 教授 笹倉寛之 ( ささくらひろゆき ) 研

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

平成 30 年 9 月 5 日 国立研究開発法人海洋研究開発機構 国立大学法人筑波大学 海洋微生物の中に隠された新しいウイルスワールドを発見 ~RNA ウイルス網羅検出技術の開発と海洋微生物への適用 ~ 1. 概要国立研究開発法人海洋研究開発機構 ( 理事長平朝彦 以下 JAMSTEC という) 海

特集Ⅰ 5 光合成を捨てた植物の新戦略 分子メカニズムからの解明 関連する 生物 学科 関連する 化学 工学 学問 化学 生物 学 植物 学 農学 バイオテク ノロジー 根寄生植物の寄生メカニズム ゲノム解読とモデル実験系の確立で農業被害の撲滅に道 若竹 崇雅 Takanori Wakatake 吉

図ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク

東京医科歯科大学医歯学研究支援センター illumina Genome Analyzer IIx 利用基準 平成 23 年 10 月 1 日医歯学研究支援センター長制定 ( 趣旨 ) 第 1 条次世代型シークエンサーはヒトを含むあらゆる生物種の全ゲノム配列の決定 全エキソンの変異解析 トランスクリプ

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極限乾燥耐性生物ネムリユスリカのゲノム概要配列を解読

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報道関係各位 日本人の肺腺がん約 300 例の全エクソン解析から 間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見 新たな発がんメカニズムの解明やバイオマーカーとしての応用に期待 2018 年 8 月 21 日国立研究開発法人国立がん研究センター国立大学法人東京医科歯科大学学校法人関西医科大学

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成 27 年 4 月 20 日 報道機関各位 東北大学大学院農学研究科 イネの効率的な窒素利用機構を解明 - オートファジーがイネの成長と窒素転流の鍵を握る - 概要 東北大学農学研究科の和田慎也助教 石田宏幸准教授らの研究グループは オートファジー と呼ばれる真核生物に共通する細胞内成分の分解機

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PRESS RELEASE (2017/7/28) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

植物の細胞分裂を急速に止める新規化合物の発見 合成化学と植物科学の融合から植物の成長を制御する新たな薬剤の探索 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) の南保正和 ( なんぼまさかず ) 特任助教 植田美那子 ( うえだみなこ ) 特任講師 ( 同大学院理学研究科兼任 ) 桑田

1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

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ポイント 先端成長をする植物細胞が 狭くて小さい空間に進入した際の反応を調べる または観察するためのツールはこれまでになかった 微細加工技術によって最小で1マイクロメートルの隙間を持つマイクロ流体デバイスを作製し 3 種類の先端成長をする植物細胞 ( 花粉管細胞 根毛細胞 原糸体細胞 ) に試験した

長期/島本1

Transcription:

2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の大和政秀准教授と基礎生物学研究所の重信秀治特任准教授らの共同研究グループは ラン科植物ハマカキランのアルビノ個体を用いたトランスクリプトーム解析 ( 遺伝子発現の網羅的解析 ) により 共生菌類から炭素化合物を受容する菌従属栄養性 すなわち菌類への寄生に関与する遺伝子群の探索に取り組みました 葉緑素を失う突然変異は植物の間で広くみられる現象ですが 通常このようなアルビノ個体は 種子に貯蔵された養分を使い果たすと枯れてしまいます しかし ハマカキランのように もともと菌への寄生能力を獲得している種の場合 アルビノ個体でも生育可能です アルビノ個体は 同種内で生じた突然変異であるため通常の緑色個体と遺伝的背景が似通っています その一方 葉緑素を失っているために 緑色個体より菌従属栄養性に強く依存していると考えられます よって本研究では アルビノ個体で発現量が増加している遺伝子群は菌従属栄養性に関与している可能性が高いと考え このような遺伝子群の探索を行いました その結果 アルビノ個体で遺伝子発現量が増加する遺伝子群と 通常の菌根共生 ( 多くの植物にみられるアーバスキュラー菌根共生や独立栄養性のラン科植物の菌根共生 ) で発現する遺伝子群との間に高い共通性がみられることを明らかにしました これまで菌従属栄養植物で見られた菌根共生については 緑色植物からの進化の過程で菌根菌の分類群が劇的に変化するパートナーシフトが認められることなどから 一般的な菌根共生とは異なるしくみを持っているとも考えられていました しかし今回の研究成果は 共通のしくみを利用している部分が予想より多い可能性を示唆するものです この研究成果は 1 月 19 日に Molecular Ecology にオンライン掲載されました

研究の詳細 植物を定義づける重要な形質として 葉緑素をもち 光合成を行う ことが挙げられます しかし 植物の中には光合成をやめて キノコやカビの菌糸を根に取り込み それを消化して生育するものが存在します このような植物は 菌従属栄養植物と呼ばれます 植物がどのようにして自身の最も重要な特徴ともいえる光合成をやめ 寄生生活を営むことができるのかは 植物学上における非常に大きな問いといえます しかし一般に菌従属栄養植物は 最も近縁な独立栄養植物とでさえ 系統的に大きくかけ離れています そのため寄生性を可能にした適応進化以外にも さまざまな変異が見られ どのような遺伝子群が菌寄生性の獲得に寄与したのかを明らかにするのは困難です ( 図 1) そこで本研究では 発達した緑葉を展開し 一見すると光合成だけで生存可能のように見えるにもかかわらず 菌類にも炭素を一部依存しているラン科のハマカキランに着目しました 興味深いことに ハマカキランを初めとする部分的菌従属栄養植物は 完全に葉緑素を失ったアルビノ突然変異体を生じることがあります ( 図 2) 通常の植物であれば 葉緑素を失ったアルビノは 種子に貯蔵された養分を使い果たすと枯れてしまうのですが 部分的菌従属栄養植物のアルビノは 元々寄生能力を獲得しているため 葉緑素を持つ通常個体と同程度まで成長し 花を咲かせることができることが知られています このようなアルビノ個体は 葉緑素を持たないため もはや部分的菌従属栄養

性ではなく 完全に菌に依存して生育しています 緑色個体とアルビノ個体のゲノム配列 はほぼ同一であるため アルビノ個体と通常個体との比較は 菌従属栄養性の分子遺伝学 的解析の理想的な材料といえます ( 図 3) 上記の背景のもと ハマカキラン緑色個体およびアルビノ個体それぞれ 3 個体の根から抽出した RNA を用い トランスクリプトーム解析を行いました その結果 植物側では アーバスキュラー菌根性の植物や独立栄養性のラン科植物で菌根共生に関与する遺伝子群が アルビノ個体において高発現していることがわかりました また複数の植物ホルモン生合成関連遺伝子群の発現パターンも アルビノ個体とアーバスキュラー菌根菌が感染した植物との間で類似点が認められました これらの結果から 菌従属栄養植物においても 通常の菌根共生と同様のメカニズムを利用して菌根菌を定着させている可能性が示唆されました これまで菌従属栄養植物で見られる菌根共生は 劇的な菌根菌のパートナーシフトが見られることなどから 一般的な菌根共生とは異なるしくみを持っているとも考えられていました しかし今回の研究成果は 共通のしくみを利用している部分が予想より多い可能性を示唆するものです 用語解説 1 菌従属栄養植物光合成能力を失い 菌根菌や腐朽菌から養分を奪うようになった植物のこと ツツジ科 ヒメハギ科 リンドウ科 ヒナノシャクジョウ科 タヌキノショクダイ科 コルシア科 ラン科 サクライソウ科 ホンゴウソウ科などが該当し これまで日本からは約 50 種が報告されている 研究助成 本研究は文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究 複合適応形質進化の遺伝子基盤

解明 および日本学術振興会科学研究費補助金挑戦的萌芽研究の支援を受けて行われま した また 基礎生物学研究所次世代 DNA シーケンサー共同利用実験の一環として実施 されました 論文情報 タイトル Comparison of green and albino individuals of the partially mycoheterotrophic orchid Epipactis helleborine on molecular identities of mycorrhizal fungi, nutritional modes, and gene expression in mycorrhizal roots. 著者 Suetsugu K, Yamato M, Miura C, Yamaguchi K, Takahashi K, Ida Y, Shigenobu S, Kaminaka H 掲載誌 Molecular Ecology 問い合わせ先 研究内容に関する問い合わせ 神戸大学理学研究科生物学専攻生物多様性講座生態 種分化分野特命講師末次健司 TEL:078-803-5713 ( 研究室 ) 080-6115-2652 ( 携帯 ) E-mail: suetsugu@people.kobe-u.ac.jp 鳥取大学農学部生物資源環境学科植物分子生物学分野准教授上中弘典 TEL:0857-31-5378 ( 研究室 ) E-mail: kaminaka@muses.tottori-u.ac.jp 千葉大学教育学部理科教育講座准教授大和政秀 TEL:043-290-2602 ( 研究室 ) E-mail: myamato@chiba-u.jp 基礎生物学研究所生物機能解析センター特任准教授重信秀治 Tel: 0564-55-7670 E-mail: shige@nibb.ac.jp

各機関問い合わせ先 神戸大学総務部広報課 TEL:078-803-6696 E-mail:ppr-kouhoushitsu@office.kobe-u.ac.jp 鳥取大学総務企画部総務課広報企画室 TEL:0857-31-5006 E-mail:toridai-kouhou@ml.adm.tottori-u.ac.jp 千葉大学企画総務部渉外企画課広報室 TEL:043-290-2232 E-mail:bag2018@office.chiba-u.jp 基礎生物学研究所広報室 TEL: 0564-55-7628 E-mail:press@nibb.ac.jp