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資料 3 エアフィルタによるナノ粒子の除去について 産業医科大学産業生態科学研究所労働衛生工学研究室 明星敏彦 平成 20 年 4 月 1 はじめに気中に浮遊するナノ粒子の除去が 従来のミクロン粒子に対するエアフィルタで可能かを現状わかる範囲で示す ナノ粒子は1から100nmの粒径範囲であるが ここでは当面の関心として粒径 10から100nmに焦点をあて 1から10nmについても一部ふれる 2 ナノ粒子曝露のリスク低減措置の検討と実施労働安全衛生法 ( 平成 18 年改正 ) に導入された化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針を基に考えると リスク低減措置として以下のような対策が考えられる 1) 設計や計画段階での措置 - 有害性の調査検討 2) 工学的対策 - 密閉化 局所排気装置の設置など 3) 管理的対策 -マニュアルの整備 曝露管理 教育訓練など 4) 個人用保護具の使用個人用保護具については前の1) から3) の措置を講じた上での使用となる 3 ナノ粒子の捕集除去工学的対策や個人用保護具においては気中に浮遊するナノ粒子の除去技術が必要となる 気中の粒子除去技術のひとつにエアフィルタがあり 防じんマスク 掃除機 排気装置などで使用されている その構造は積層状 綿状 ろ紙状 スポンジ状 膜状など種類があるが ここでは主に紙や不織布のような構造の繊維層フィルタについて考察する エアフィルタの特徴として以下の点があげられる 利点として高効率で比較的圧力損失が低いこと 欠点として再利用が困難で 使い捨てとなること 粉じん則 13 条に示されている除塵装置の中でろ過式除塵装置では 通常バグフィルタといわれるものが使用され 堆積した粉じんの払い落としにより連続使用が可能であるが ここで述べるエアフィルタではない 4 エアフィルタのろ過捕集性能エアフィルタは表面だけでなく内部にある一本一本の繊維が粒子を捕集する エアフィルタの捕集効率に関係する因子としては フィルタの構造 粒子の特徴 流入速度がある 1) フィルタの構造繊維の太さ 充填密度 充填状態 繊維の荷電状態など 2) 粒子粒径 粒子の形状 荷電状態 液体か固体か 3) 粒子流入速度 1

粒子の捕集効果としては 慣性効果 さえぎり効果 拡散効果 ( ブラウン拡散 ) がある 図は 10 μm の繊維に沈着捕集されたエアロゾル粒子で 左は粒径 1.0 μm 右は 0.3 μm の粒子である 左の写真は慣性さえぎり効果で粒子が捕集されている例 右の写真は拡散さえぎり効果で粒子が捕集されている例である 粒子はそれぞれ画面に向かって流入し 一本の繊維に捕集されている 右の拡散効果では繊維の裏側にも粒子は捕集されている ( 金岡千嘉男 江見準 平木外二 明星敏彦 : 慣性さえぎり支配域におけるエアフィルタ繊維上での粒子堆積形状 粉体工学会誌, 24:74-80 1987) 慣性 さえぎり 拡散効果に加えて 静電気を付加した繊維により粒子を捕集するフィルタが広く使用されている 特に呼吸用保護具ではほとんどの使い捨て式防じんマスクと一部の取り替え式防じんマスクに使用されている これは静電気の効果により 吸気抵抗の低いろ過材を作ることが可能なためである 繊維の静電気力は粒子が電荷を持たない場合でも影像力により捕集することが可能である 理論的に 粒子とエアフィルタの条件と粒子捕集の効果の関係は 全ての場合においてフィルタの繊維の太さが細い場合にろ過捕集効率は増加する しかしながら 慣性効果では粒径と流速が大きい方がよく 拡散効果は粒径と流速が小さいほうがよい したがって 粒子は粒径が小さくなるほどエアフィルタを漏れてくるわけではない 4.1 エアフィルタによるナノ粒子のろ過捕集について ( 粒径 10 から 100nm まで ) - 最も通過しやすい粒子の粒径は 300nm? 長年 エアフィルタのもっとも通過しやすい粒径は 0.3 μm (300 nm) といわれてきた エアフィルタの性能試験粒子もこのサイズを念頭において設定されてきた これを確認するため 試験粒子として塩化ナトリウム水溶液を噴霧乾燥して得たエアロゾルを用いた 測定装置は手製であるが 現在よく用いられているSMPSとほぼ同じ原理の測定装置で 20から400nm くらいまでの粒子の粒径別の粒度分布を計測できる エアロゾルのフィルタ通過率はフィルタ前後の濃度比から得られ ろ過捕集効率との関係は (=100- 捕集効率 ) である 2

測定結果を図に示す ろ過材は旧検定合格の防じんマスク用ろ過材を 流量 30L/minで試験した場合の結果である ここで示した結果は約 10 年前のデータで 現在の検定合格品については測定していない ( 明星敏彦 DMA,CNC を用いたフィルタ捕集効率の迅速測定, 第 14 回エアロゾル科学 技術研究討論会予稿集, p72-74 北九州 (1997)) 図の左はガラス繊維からなるろ過材 右は静電気力に依存ずるフィルタの粒径別の通過率である ガラス繊維のろ過材では粒子がもっとも通過しやすい ( 捕集が難しい ) 粒径は約 220nm であった より大きな粒子は慣性さえぎり効果で より小さな粒子は拡散さえぎり効果で捕集される しかし もっとも通過しやすい粒子の粒径はフィルタによって異なり 右の静電力によるフィルタでは50nm とナノサイズにもっとも高い通過率をもつことがわかった この傾向はフィルタの種類ごとに異なるが 使い捨て式防じんマスクのフィルタは概ねこのような傾向を示した ここで示した結果と同様な結果が最近米国から報告されている 1) Martin S, and Moyer E : Electrostatic Respirator Filter Media: Filter Efficiency and Most Penetrating Particle Size Effects, Applied Occup Environ Hyg (2000) 15: 609 617. 2) Kim SC, Harrington MS, Pui DYH: Experimental study of nanoparticles penetration through commercial filter media, J Nanoparticle Research (2007) 9:117 125. 3) Rengasamy S, Verbofsky R, King WP, Shaffer RE: Nanoparticle penetration through NIOSH-approved N95 filtering-facepiece respirators, J Int Soc Respiratory Protection (2007) 24:49-59. 4.2 エアフィルタによるナノ粒子のろ過捕集について ( 粒径 1 から 10nm まで ) -ナノ粒子では熱反発は起きるか? 粒子のフィルタ繊維への捕集効率はその衝突効率と付着効率の積で表される 10nm 以上では付着効率はほぼ100% と見なすことができるので 衝突した粒子は捕集される 一方 常温ではガス分子は熱運動のエネルギーが付着のエネルギーより大きい ( 熱反発 thermal rebound と呼ばれる ) ため付着効率はほぼ0% となる 1 から 10nm の粒径のナノ粒子は ガス分子と微小粒子の境界にあり 熱反発 3

もあるのではないかといわれている この場合 付着効率が低く粒子は繊維に衝突しても捕集されないことになる (Wang H.C. & G. Kasper: Filtration efficiency of nanometer-size aerosol particles, J. Aerosol Sci. (1991)22: 31 41) 実際に Kim らが計測した結果では 粒径 2 nm 以下から熱反発が生じている 2 nm 以上では拡散効果で通過率は低下し 2 nm 付近で最小値をとり 2 nm 以下では上昇している 2 nm 以下での通過率の増加はガス分子と微小粒子の境界に近づいているためと思われ 粒子が繊維に衝突しても捕集されずに跳ね返る熱反発現象が起こったためと考えられる (Kim CS, Bao L, Okuyama K, Shimada M, Niinuma H: Filtration efficiency of a fibrous filter for nanoparticles, J Nanoparticle Research (2006) 8: 215 221) 5 防じんマスクの現状 粉じん作業に用いる防じんマスクは機械等検定規則に基づき その性能を検定した上で販売されてい る 防じんマスクには 除塵能力別に 使い捨て式 6 種類 取り替え式 6 種類 防じん機能付きの防毒 マスクで6 種類の区分がある 防じんマスクの規則ではろ過材の性能試験用粒子は以下のように規定されている 試験粒子 塩化ナトリウム DOP 平均粒径 0.06~0.1μm 0.15~0.25μm 幾何標準偏差 1.8 以下 1.6 以下 試験流量 85 L/min 表から塩化ナトリウム試験用粒子の粒径はナノサイズであるが 個数基準で幾何平均径が 0.1μm (100nm) で幾何標準偏差が 1.8 である場合 質量基準では幾何平均径は 0.25μm となる また捕集効率測定用装置が光散乱式の粉じん計であり 光散乱方式の限界からナノ粒子を計測していない 従ってもっとも通過しやすい粒径を 300nm として評価するこれまでの考え方を踏襲したもとのといえる 6 ナノ粒子からの作業者の呼吸保護防じんマスクのろ過材 ( エアフィルタ ) のろ過捕集効率だけでは着用者の呼吸保護は決まらない つまり マスクの中に有害物が侵入する経路はエアフィルタだけではない 呼吸保護の目的は 呼吸用保護具内部の空気 ( または呼吸用ガス ) に含まれる有害物質が管理濃度や許容濃度などの規制値を上回らないことである ここでは濃度倍率と防護係数が因子としてあげられる 濃度倍率と防護係数の関係は以下のようである 防護係数 > 濃度倍率の場合呼吸保護は良好防護係数 < 濃度倍率の場合呼吸保護は危険濃度倍率 : 呼吸用保護具を使用する環境を記述する因子であり 環境中に存在する有害物質の最悪の場合における濃度の 管理濃度や許容濃度など曝露限界濃度に対する比率 4

防護係数 : 呼吸用保護具の防護性能を表す因子であり 環境中に存在する有害物質の保護具への漏れ率 ( 密着の良否による面体等と顔の隙間からの漏れと ろ過式保護具の場合はろ過材からの漏れの和である全漏れ率 ) の逆数である 防護係数を求めるには 全漏れ率を実測する場合と 定められた値 ( 指定防護係数 ) を用いる場合がある 指定防護係数 : 実験室内で測定された多数の防護係数の代表値であり 訓練された着用者が正常に機能する呼吸用保護具を着用した場合に少なくとも得られるであろうと期待される値である この値については各国の政府や各工業標準によって異なった値を示している 一例として米国 NIOSHのナノ粒子に関する指定防護係数を示す 米国における防じんマスク等 指定防護係数 取り替え式半面形防じんマスク指定防護係数 10 HEPA 付き全面型防じんマスク指定防護係数 50 電動ファン付き防じんマスク指定防護係数 50 (Approaches to Safe Nanotechnology: An Information Exchange with NIOSH (2006)Department of Health and Human Services, Centers for Disease Control and Prevention, National Institute for Occupational Safety and Health) 一般には 99.9% の捕集効率のろ過材付きの半面マスクの防護係数は 1000(=100/(100-99.9)) と考えるかもしれないが 実際には防護係数は 10 と見なされている つまりろ過材以外の漏れがある と考られている 7 まとめ 1) エアフィルタはナノ粒子をろ過捕集できるか ナノ粒子は拡散効果で捕集されるが 静電気による捕集の効果は弱い 熱反発は2nm 以下の粒子では起きるようであるが 未知の点が多く 現状は研究段階である 2) 現在の防じんマスクの試験法はナノ粒子の捕集能力を担保しているか 現在の試験方法はサブミクロン粒子を対象としており ナノ粒子については直接測定していない 静電気による捕集に依存しないフィルタならば現状でも十分と思われるが 数 10nmのナノ粒子の捕集効率の測定はそれほど困難ではなく 試験方法に導入することを検討してもよいのではないか 3) 防じんマスクの呼吸保護は十分か 高効率のろ過材のついた防じんマスクを与えれば作業者の曝露防止の問題が解決するわけではない 5