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5. 先端的科学 技術による保存研究アブ シール南丘陵遺跡における GPR 探査 11 アブ シール南丘陵遺跡における GPR 探査 * 岸田徹 1 * 津村宏臣 2 * 3 渡邊俊祐 1. はじめに 本調査では 遺跡の保存管理のための地下遺跡マップを作成することを目的として アブ シール南丘陵遺跡において GPR(ground penetrating radar: 地中レーダ ) 探査を実施した 今回は 特にシャフト墓の発見に焦点を絞り探査を行った 探査に使用した機器は 米国 GSSI 社製 SIR-3 アンテナは中心周波数 2MHz である カエムワセトの石造建造物跡や イシスネフェルトのトゥーム チャペル ( 神殿付貴族墓 ) が存在する丘陵頂部 及び石積み遺構が発見されている丘陵裾部や斜面 また 丘陵周辺部で遺構の存在が予想される箇所に計 5 か所の探査区を設定した 各探査区の位置は Fig.1 に示す 探査は 29 年 8 月に行い 総探査測線長は約 19,6m となった 2. 地中レーダ探査 地中レーダ探査とは 送信アンテナより地中にレーダ波を送りこみ 比誘電率の異なる境界面 ( 土層の変わり目や石 空洞など ) からの反射波を 受信アンテナで受信して地下を探る方法である 反射波の強度や減衰の様子 反射波受信までに要した時間を解析し 地下の地層構造 空洞や埋設物等の位置 深度を推定する 一般に 探査結果は 各測線で得た受信波の強度 往復時間から擬似的な地中断面図 (GPR profile) を作成して表示する 本稿では 右側の縦軸に 往復時間とレーダ波の伝搬速度より計算される地表からの推定深度を示している また 横軸は 測線上での位置を表している 今回は 全測線で得た探査データを総括し time slice 図法による解析も行っている (Conyers and Goodman 1997) この図法では まず 各測線の profile を総合し 走時のある時間幅 ( 深度範囲 ) の反射波強度を選別し 平均化を行う そのデータを平面的に配置 内挿することで 設定した深度範囲での地下構造を平面図化する 反射の強弱を色分けしながら様々な深度での平面図を作成し 異常応答の変化を検討することで 遺構や遺物の平面分布を検討することが可能となる また 探査でとらえた地下の異常応答や反射面が 単なる自然の地層境界であるのか 人工的な遺構を捉えたものであるのかを判断するうえでは 探査地の地形も考慮に入れて検討する必要がある 本調査では 探査と同時に レーザーレンジファインダー (LRF) を用いた地表面の三次元計測も実施しており 取得した XYZ データから地表面の形状モデルを作成し 探査データの地形補正を行っている * 1 同志社大学文化情報学部実習助手 * 2 同志社大学文化情報学部准教授 * 3 同志社大学大学院文化情報学研究科修士課程

12 エジプト メンフィス ネクロポリスの文化財保存面から観た遺跡整備計画の学際的研究 研究報告集第 1 号 3. 探査結果 まず始めに トゥーム チャペル内で発見され 発掘調査によりその位置や規模が判明している シャフト A 上において実験的に探査を行い GPR 探査でシャフトがどの様な異常応答を示すのか確認した Fig.2 に探査結果を示す 図は深度約 12cm と 27cm で解析した time slice 図と シャフトを東西に横断する測線上で得られた profile を三次元的に組み合わせて表示している 赤色の領域が強い異常応答を示している 探査の結果 シャフトは強い反射を示す異常として明瞭に捉えられ GPR 探査はシャフトの発見に有効であると考えられた 本調査では 同様の異常パターンを一つの目安として 他の場所で捉えた異常応答がシャフトであるか否かの判読を行うこととした 以下に各探査区で得られた結果を示す (1) トゥーム チャペル及びその周辺 Fig.3 には トゥーム チャペル周辺で得られた全ての profile から作成した time slice 図を示している time slice 図は 地形の形状に沿うように地形補正を加えてある 探査結果には シャフト A と類似した異常を示している箇所がいくつか見られた 探査区北端に表れた強い異常は シャフトの可能性があると考えられ 探査後に発掘調査が行われた しかし 掘り込みは確認することができたものの シャフトではなく土坑であることが判明した 土坑中には多数の石材が投棄されており これらが強い異常をもたらした要因だと考えられた トゥーム チャペル西側の探査区では帯状に続く異常応答が認められた これは地形の等高線にほぼ沿うように伸びており トゥーム チャペル西端に北から伸びてくる小谷によって分断された岩層の端部が捉えられたものである トゥーム チャペル南東の探査区に現れた異常も同じ岩層によるものと考えられる その他に トゥーム チャペルの北西部に 1 つの大きな異常 ( 異常応答 B) と 南西部に 2 つの異常 ( 異常応答 A) が発見された Fig.4 には 同探査区で得られた全深度での異常の三次元分布を示している 地表から異常が連続しているものは 地表面または地表近くに埋められた金属製のゴミによる異常 ( の可能性が高い ) と判断できる 異常応答 B は地表近くから異常が続いており 後世に埋められた ( もしくは埋まった ) 金属物と考えられた 異常応答 A は地表下約 1.5m 深度から異常が認められ シャフト A が示した異常の表れかたと類似している このことから異常応答 A の方がシャフトの可能性は高いと考えられる (2) カエムワセトの石造建造物中央部 石造建造物の中央部 石碑が発見された北側及び西側に L 字型の探査区を設定した 探査結果を Fig.5 に示す 強い異常を示す領域が 3 か所捉えられたが 空洞やシャフトとしては異常が小さく 礫 もしくは比較的大きな石 ( 人頭大程度か ) による異常と考えられる (3) 石積み遺構南側 丘陵の南裾部に構築された石積み遺構の南側で探査を行った 同探査区の北側約 1/3 は過去の発掘トレンチと重なっている そこで得られた time slice 図を Fig.6 に示す 石積み遺構壁面から南に約 3m の地点に 1 箇所 約 12m の地点で 2 か所の異常応答を捉えた 過去の発掘調査成果から 石積み遺構に近い 1 か所の

5. 先端的科学 技術による保存研究アブ シール南丘陵遺跡における GPR 探査 13 異常はシャフトを捉えたものと考えられた Fig.7 に示す異常の三次元分布図から 残り 2 箇所の異常のうち西側のものは地表近くから深部へと続いており 金属ゴミの可能性がある 東側の異常については地表下約 2m からと深部から認められる異常であり シャフトの様な遺構である可能性が高い しかし 同地点は発掘調査区内にあたり トレンチや 発掘調査終了後に埋まってしまった金属物などの影響を受けている可能性もあり 解釈には注意が必要である (4) 丘陵南側斜面 代表的な profile を Fig.8 に示す 同 profile 図は 探査測線の最高地点を仮標高 m として地形の補正を行っている 図では地表からの深度約 1 ~ 1.5m に存在する基盤層と上層の砂層の境界面が 測線距離 19 ~ 29m の間で途切れており 人為的に基盤層を掘り込んだ遺構が存在する可能性がある 異常応答の三次元分布図 (Fig.9 左 ) から この基盤層の不連続範囲は約 1m 1m の方形を呈していると推定される また Fig.9 右に示す地表下約 1.9m で解析した time slice 図からは 探査区のほぼ中央に強い異常が認められる この異常は地層の不連続が認められた地点のやや北西に存在しており 掘り込み部分の北西部に 隣接する様に別の遺構がある可能性も考えられた (5) 丘陵周辺部 丘陵の周辺にはシャフトの痕跡であると考えられる窪みがいくつか存在している (Fig.1) 我々は Site No.5 と名付けられた南北に 3 つ並んだ窪み 及びその周辺に見られる比較的大きな窪みを対象として探査を実施した Fig.11 に代表的な測線 (Line51, 37) で得られた profile を示している 測線は Fig.12 で示すように Site No.5 を南北に横切る位置にある Fig.12 上段の Line51 では 14 ~ 2m では周辺に認められる成層構造 ( 礫層か ) が途切れており 人為的に改変 ( 掘削 ) されていることを示唆している どの深度まで掘削されているのかは profile からは推定することはできないが シャフトである可能性は高い Fig.11 下段の Line37 では 16m 地点及び 38 ~ 4m の範囲で地層の不連続が認められる このことから Site No.5 の 3 つの窪みのうち南と北の 2 つは シャフトの可能性がある しかし 中央の窪みについては 礫層を掘削しておらず 少なくとも深度 1m 以深の深さをもたないことがうかがえる Fig.12 には基盤層の境界面直下にあたる深度 11 ~ 141cm で解析した time slice 図を示している Site No.5 周辺に認められる強い異常は同深度での礫層の広がりを示している これとは別に 探査区の西側で南北に帯状に伸びる異常応答が捉えられた 異常は 地形が小高い丘上に状になっている部分に沿って存在しており この異常も 遺構ではなく 礫層の分布を示していると考えられる その他に目立った異常はなく シャフトを示すような局所的な異常応答も認められなかった 4. まとめ 今回の調査では アブ シール南丘陵遺跡において シャフト及び その他の遺構の存在を探るべく GPR 探査を行った シャフト A で試験的に探査を行い それによって得られた異常応答のパターンを手掛かりに シャフトの有無を探った その結果 丘陵の頂部で 2 か所 石積遺構南側でも 2 か所 シャフトと推定される異常応答を検出した 丘陵斜面では 基盤層の不連続から 大規模な方形の掘削跡とみられる地点を推定した 掘削を示唆する地下の異常は site No.5 の窪みでも検出することができた

14 エジプト メンフィス ネクロポリスの文化財保存面から観た遺跡整備計画の学際的研究 研究報告集 第1号 現段階では シャフト A で得られた一種類のパターンしか異常応答を見分ける手掛かりがなく シャフ トと土坑 その他の遺構との判別は容易ではない また丘陵頂部と周辺部では土質が異なっており シャフ トの異常応答のパターン自体も大きく異なっている可能性があり 注意が必要である 今後 発掘結果と探 査データを詳細に比較 検討し 典型的なシャフト及びその他の遺構の異常パターンを判別 分類すること が課題となる また 異なる周波数のアンテナを使用する 他の探査法を組み合わせるなどして できるだ け多くのデータを集めることも必要となってくる データの蓄積により探査精度は向上し 同遺跡及び周辺 部も含めた より高精度の地下遺構マップを作成することが可能となろう 遺構種別による異常応答のパタ ーン分析が確立できれば 本遺跡だけではなく その他の同様の遺跡においても有効な調査法として活用が 見込まれるようになると考えられる アブ シール南丘陵遺跡 トゥームチャペル ④ ① ② 石造建造物跡 ⑤ ③ 4m 1 2m Fig.1 GPR 探査範囲 ① トゥームチャペル及びその周辺 ② 石造建造物中央部 ③ 石積み遺構南側 ④ 丘陵南側斜面 ⑤ 丘陵周辺部 East シャフトA West -12cm -22cm トゥームチャペル -32cm 5m 5m Y X シャフトA Z Fig.2 1m シャフト A の位置と探査範囲 赤枠で示す 及び XY, XZ 平面でみた異常応答の三次元分布 図右中赤色で示す領域が反射の強い領域を 青色は弱い領域を表している

5 先端的科学 技術による保存研究 アブ シール南丘陵遺跡における GPR 探査 土坑 岩層 異常応答 B トゥームチャペル 岩層 異常応答 A Fig.3 トゥームチャペル周辺部の time slice 図 解析深度 約 114-142cm 土坑 異常応答 A 異常応答 B 岩層 Fig.4 トゥームチャペル周辺部における time slice 図 解析深度 約 143-171cm と 異常応答の三次元分布図 反射の強い領域をピンク色で表わしている 15

16 エジプト メンフィス ネクロポリスの文化財保存面から観た遺跡整備計画の学際的研究 研究報告集第 1 号 石碑 Fig.5 石造建造物中央部における time slice 図 ( 解析深度 : 約 1cm) および異常応答の三次元分布図 ( 反射の強い領域を赤色で表わしている ) 石積遺構 異常応答 Fig.6 石積み遺構南側における time slice 図 ( 解析深度 : 約 312-343cm) 異常応答 2 4 (m) Fig.7 石積み遺構南側における time slice 図 ( 解析深度 : 約 312-343cm) と異常応答の三次元分布図 ( 反射の強い領域をピンク色で表わしている )

5 先端的科学 技術による保存研究 アブ シール南丘陵遺跡における GPR 探査 17 N S 地層の不連続 Fig.8 丘陵南側斜面における代表的な GPR profile Line9 異常応答 地層の不連続部分 Fig.9 丘陵南側斜面における異常応答の三次元分布図 左 及び time slice 図 解析深度 約 19cm と重ね合わせた図 右 Fig.1 丘陵周辺に存在する地表面の窪み 北から

18 エジプト メンフィス ネクロポリスの文化財保存面から観た遺跡整備計画の学際的研究 研究報告集第 1 号 South Line51 地層の不連続 North 2. 深度 (m) シャフトか 1 2 3 4 5m 測線距離 (m) South North シャフトか Line37 4. m 地層の不連続 2. 深度 (m) 1 2 3 4 5m 測線距離 (m) Fig.11 丘陵周辺部における代表的な GPR profile(line51: 上 Line37: 下 ) 4. m 異常応答 岩層 Line51 Line37 Site No.5 Fig.12 丘陵周辺部における time slice 図 ( 解析深度 : 約 11-141cm)