北海道大雪山におけるブルーベリー近縁種ヒメクロマメノキの探索・収集

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Transcription:

原著論文 植探報 Vol. 27: 41 ~ 45,2011 北海道大雪山におけるブルーベリー近縁種ヒメクロマメノキの探索 収集 伊藤祐司 農業 食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 水田作研究領域 果樹育種班 Exploration and Collection of Hime-kuromamenoki (Vaccinium uliginosum L. var. alpinum Bigelow)in the Daisetsu mountains in Hokkaido Yuji ITO Fruit breeding unit, Lowland Farming Research Division, NARO Hokkaido Agricultural Research Center.1 Hitsujigaoka, Sapporo 062-8555, Japan Summary An Exploration for collecting Hime-kuromamenoki (Vaccinium uliginosum L. var. alpinum Bigelow), a Japanese wild relative species of Blueberries was conducted from September 27th to October 1st, 2010. Two scions and some fruits each of a total of two Hime-kuromamenoki plants was collected in the central caldera of the Daisetsu mountains. 1. 目的日本にはブルーベリーの近縁種であるスノキ (Vaccinium) 属植物が19 種分布する 1). 北海道農業研究センターでは健康機能性があり栽培性が良好なブルーベリーの育種研究のためにこれらの近縁種の探索 収集を進めている. 収集できたものは果実アントシアニン組成の解析等の研究を行っている. 今回はスノキ属のうち, クロマメノキ ( スノキ属クロマメノキ (Vaccinium) 節 ) に着目した. クロマメノキは本州中部以北の山岳に自生分布するとされている種である 1). 日本に自生するクロマメノキには, 基本種のクロマメノキ (Vaccinium uliginosum L.) の他に本州の 3,000 m 級の高山と北海道の約 1,400m 以上の高山に生える変種ヒメクロマメノキ (Vaccinium uliginosum L. var. alpinum Bigelow) の 1 種 1 変種がある. 本州中部に自生するクロマメノキには8 倍体個体もあるといわれる 1). ヒメクロマメノキはクロマメノキの高山型変種であるが, 果実成分やクロマメノキ基本種との染色体数の違いと形態との関係などについての研究報告はほとんどない. そこで, 今回は寒地特産果樹育種素材としての研究 評価のため, 北海道の高山でヒメクロマメノキを探索 収集することを計画した. 同地域には, クロウスゴ (Vaccinium ovalifolium J.E.Smith) の変種ミヤマエゾクロウスゴ (Vaccinium ovalifolium J.E.Smith var. alpinum (Tatewaki)Yamazaki) も分布している可能性があるので同時に調査することとした. 図鑑 1) 等によると, ヒメクロマメノキは北海道, 本州 ( 中部以北 ) の高山の岩礫地に生える. - 41 -

マット状に広がる落葉低木で, 高さ 10 ~ 20 cmで, 葉は小さく長さ 5 ~ 15 mm, 鋸歯はなく両面無毛, 果実は球形で径約 8 mm, 黒紫色に熟し表面に白粉があるとされている. 近縁の基本種クロマメノキとの違いは, 丈が小さく, 葉が小さく, 花はやや小さいとされている (Table 2). 2. 調査 収集の地域および方法事前調査及び文献等調査により, 北海道最高峰を含み自生地情報が多く得られた大雪山を調査予定地とすることとした. クロマメノキは挿し木及び種子発芽が比較的容易であるため, 最低限の小枝と種子用の果実を採取することを考えた. ヒメクロマメノキは, 調査予定地付近では9 月に果実が成熟するとの事前調査情報を得た. その時期にあたる2010 年 9 月上中旬に現地調査を行うことを計画した. 探索調査および採取地は, ヒメクロマメノキが自生している可能性が高くて土地所有者からの許可が得られる場所である必要がある. この要件を満たす場所として, 大雪山中央カルデラ付近の国有林を調査候補地とした. 土地所有 管理者である北海道森林管理局上川中部森林管理署に入林及び採集許可を申請し, 許可 ( 平成 22 年 9 月 1 日付,22 上中管第 391 号 ) を得た. 対象地域で最大 10 個体のヒメクロマメノキ及びミヤマエゾクロウスゴから小枝各 3 本と果実少量の採取許可を受けることができた. なお, 大雪山中央カルデラは大雪山国立公園特別保護地区であるため環境省に自然公園法に基づく同国立公園指定植物損傷の許可申請を行い, 許可 ( 平成 22 年 8 月 4 日付, 環北地国許第 100804001 号 ) を得た. さらに, 大雪山中央カルデラは特別天然記念物であるため文化庁に天然記念物の現状変更許可を申請し, 許可 ( 平成 22 年 9 月 8 日付,22 受庁財第 4 号の911) を得た. 文化庁の許可がやや遅れる見込みとなったため, 調査予定期間を9 月下旬に変更した. 許可を得た調査対象地域近くまでは事業用車及び公共交通機関を用いて移動し,3 日程度をかけて徒歩で許可地域内の対象種を詳細に探索し, 許可を得た範囲の小枝と果実の採取を行うこととした. 3. 結果および考察探索調査 収集は,9 月 27 日から10 月 1 日の4 日間で行う予定であったが, 台風の接近, 通過による悪天候及び強風により9 月 30 日のみとなった. 大雪山中央カルデラまでは層雲峡からの公共交通機関と徒歩によって向かった. 調査地付近は風衝地とハイマツが多く自生する地域とがあった. 風衝地は火山礫主体の荒れ地で, ハイマツ, ガンコウラン, ウラシマツツジ, キバナシャクナゲ, クロマメノキ, コケモモなどの低木が単独あるいは混生してまばらに生えていた (Fig. 1). 自生地での簡易な観察調査で小葉であることが確認された (Fig. 2, Fig. 3). ヒメクロマメノキの自生を確認したので, 標準的な個体合計 2 個体から小枝と少量の果実を採取した (Table 1). ハイマツ林の周辺にもヒメクロマメノキの自生を確認したが, 寒波で積雪があり台風通過後の吹き返しの強風が風速 30m 近くに強まったため, 自生分布を確認したのみで, 詳しい調査および採取の実行は断念せざるを得なかった. 以上の調査の結果, 大雪山中央カルデラの風衝地やハイマツ林の周辺にはヒメクロマメノキが多く自生していた. しかし, クロウスゴの変種であるミヤマエゾクロウスゴを発見することはできなかった. 採集品の枝についていた葉の大きさについて,2007 ~ 2008 年に富山県立山で探索 収集したクロマメノキ基本種のそれと比較した (Table 2). 今回採集品の葉長の平均は図鑑記載の最大 - 42 -

である15mmよりわずかに大きかったが, 基本種と比較すると明らかに小さく, ヒメクロマメノキ (Vaccinium uliginosum L. var. alpinum Bigelow) であると判定した. 採取した小枝は冷蔵保存した後,2011 年 4 月に北海道農業研究センターにおいて挿し木を行った. 現在発芽展葉している. 挿し木発根率が比較的良好な植物であるので2 個体とも苗が得られると考えている. 少量採取した果実中の種子については今後播種する計画で保存中である. 個体化できたものは果実アントシアニン組成の解析等による育種素材としての評価研究や交雑試験等を行うとともに, 貴重なブルーベリー近縁野生遺伝資源として栄養体による個体保存を行う. なお今後, 我が国のクロマメノキ自生地の南限である浅間山や草津白根山などに自生するクロマメノキ基本種 (Vaccinium uliginosum L.) の果実の大きい個体群 (8 倍体を含むとされている ) に関するブルーベリー近縁果樹遺伝資源調査 収集を早い時期に実施したいと考えている. 謝辞本調査に当たり, 土地所有 管理者である北海道森林管理局上川中部森林管理署から立ち入り及び試料採取許可を受けた. 調査地域に関する情報提供及び手続きで上川中部森林管理署の村上氏には多大なご協力をいただいた. 自然公園法関係では環境省から許可を受け, 天然記念物関係では文化庁から許可を受けた. 環境省上川自然保護官事務所の熊谷自然保護官には自然公園法の許可, 上川町教育委員会の池端氏には天然記念物現状変更の許可に関する事前相談及び手続きで多大なご協力をいただいた. 北海道農業研究センター研究支援センター業務第 2 科の柳谷氏には全調査に同行して困難な条件での調査 収集に多大な尽力をしてもらった. 紙面をお借りして心より感謝の意を表します. 引用文献 1) 山崎敬 (1989) スノキ属日本の野生植物 木本 Ⅱ p150-156. 平凡社 - 43 -

Table 1. 収集リスト Collection number List of collected genetic resources. JP number in NIAS genebank Collection date Sample Type Taxon Japanese Plant Name Prefecture Municipality NARCH-2010-F001 242149 2010/9/30 scion,seed Vaccinium uliginosum L. var.alpinum Bigelow Hime-kuromamenoki Hokkaidō Kamikawa-town NARCH-2010-F002 242150 2010/9/30 scion,seed Vaccinium uliginosum L. var.alpinum Bigelow Hime-kuromamenoki Hokkaidō Kamikawa-town - 44 - Table 2. 収集個体とクロマメノキ基本種 ( 立山 ) との葉形態の比較 A comparison of leaf characteristics between Vaccinium uliginosum collections in this survey (Daisetsu) and type species in Tateyama. Collection Name Collection Site Latin Name Leaf Length(mm) Leaf Width(mm) DAISETSU-1 Daisetu Mountains Vaccinium uliginosum L. var. alpinum Bigelow 16.3 ± 0.45 11.8 ± 0.71 DAISETSU-2 Daisetu Mountains Vaccinium uliginosum L. var. alpinum Bigelow 16.6 ± 0.48 11.0 ± 0.54 TATEYAMA-4 Tateyama Vaccinium uliginosum L. 28.4 ± 0.91 15.2 ± 0.47 TATEYAMA-7 Tateyama Vaccinium uliginosum L. 28.6 ± 0.34 17.8 ± 0.49 Average ± SE(N = 10)

Fig. 1. 大雪山のヒメクロマメノキ自生状況 ( 点在する小葉の紅葉樹がヒメクロマメノキ ) Some habitats of Hime-kuromamenoki in the Daisetsu mountains. Fig. 2. 大雪山のヒメクロマメノキ樹 ( 青色果実と紅葉 ) A Hime-kuromamenoki plant in the Daisetsu mountains. Fig. 3. 大雪山のヒメクロマメノキの果実および紅葉 F r u i t s a n d l e a v e s o f a H i m e - kuromamenoki plant in the Daisetsu mountains. - 45 -