PI S A型 読解力 では,義務教育修了段階 にある生徒が,文章のような 連続型テキス り,児童 自身の考えを明確にし構成する力を 育成できるような指導の充実が求められ る 非連続型テキス ト ト 及び図表のような を幅広 く読み,これ らを広 く学校内外の様々 国語科の授業をよりよいものに していくために な状況に関連付けて,組み立て,展開 し,意 は, 児童個々の考えをまとめる とい う点を大切 味を理解することをどの程度行 えるかについ にした り, お互いの考えを高め合 うような 授業 て,可能な限 り客観的にみることをね らい と を行った りすることが必要であるとされている している さらには,読解力を高める授業を工夫すること ができるよう, 指導のね らい を 7つに分類 して 示 している 2) 文部科学省 読解力向上に関する指導資料 まず, テキス トを理解 評価 しなが ら読む力を 文部科学省の 読解力向上に関す る指導資料 では,PI S A調査 読解力)の結果を踏まえた授業 高めること に関連 しては,次の 3つである 改善の方向について,次の 3点を基本的な考え方 目的に応 じて理解 し,解釈す る能力の育成 として挙げている 評価 しなが ら読む能力の育成 課題に即応 した読む能力の育成 ア PI S A調査のね らい とするところは,現行 学習指導要領で子 どもに身に付 けさせた 次に了テキス トに基づいて 自分の考えを書 く力 い と考えている資質 能力 と相通 じるもの を高めること に関連 しては,次の 2点である であることか ら,学習指導要領のね らいと テキス トを利用 して 自分の考 えを表現す る 能力の育成 す るところの徹底が重要である イ PI S A調査の結果か ら明 らかになったこ 日常的 実用的な言語活動に生かす能力の育 成 とと,教育課程実施状況調査の結果 とには 共通点があることか ら,教育課程実施状況 最後に, 様々な文章や資料を読む機会や,自分 調査の結果 を受 けた改善の提言 も併せて の意見を述べた り苦いた りする機会を充実す るこ 指導の改善に生かす ことが重要である と に関連 して,次の 2点を挙げている 多様なテキス トに対応 した読む能力の育成 り 読解力は,国語だけではなく,各教科, 自分の感 じたことや考 えた ことを簡潔 に表 総合的な学習の時間な ど学校 の教育活動 現する能力の育成 全体で身に付けてい くべきものであ り,敬 以上のようなね らいをもった授業を,国語科だ 科等の枠 を超 えた共通理解 と取組 の推進 が重要である けでなく,学校の教育活動全体で行ってい く必要 ここで示 されているのは,授業をこれまでのも があるとされている したがって,読解力向上の の とまった く異なるものにす るとい う考え方では ための授業づ くりを行ってい くためには,この 7 ない 学習指導要領のね らい とするところの徹底 つの 指導のね らい に対応する授業を工夫 して が重要である と述べているように,学習指導要 い くことになる 本研究では,7つのね らいの うち, テキス トを 領に示 されていることを, どれだけ実現できるか 利用 して自分の考えを表現す る能力の育成 を取 が問われているのである り上げて授業づ くりを考えてい く 読解力向上に また,平成 1 3,1 4年度教育課程実施状況調査の 関する指導資料 でも指摘 されているように,児 結果 を踏まえ,次のような提言を示 している 童は, 自らの考えや感想を自由に記述することに 相手や 目的などに応 じ, 自分の考えを明確 ついては,できていることが多いしかし, 課題 に して内容 を構成 してい くとい う問題 につ や条件に応 じて関連付 けて表現す ること は,な いて,通過率が設定通過率を下回ると考えら かなかできないのが現状であろ う文章をよく読 れ る結果がでている取 り上げる言語活動に み,そこにある表現を根拠 として書 くこと, 自分 おいて,児童個々の考えをまとめることを一 の考えや生活経験 と結び付けて考えることなどは, 層重視 し,相互評価などを活用 してお互いの これか ら伸ば してい かなければならない能力であ 考 えを高め合 うよ うな工夫 を行 うことによ る 75
る能力 がどのように表れているのか考えてい く 抽出した児童について の姿を A児は捉えているように思 うそして, は A児 積極的に意見を述べる方ではないが,周 あ は,父親が うまく言葉にできない複雑な思い を抱えていることを表 した表現である りの様子を見て挙手する昨年 と比較すると他の 内容の解釈に関わるところでは, 喜んでいる 児童 との関係の中で A児が意見を言 う場面が増え ゆみ子を見て幸せだった と書いている話 し合 いの中で お父 さんはゆみ子を高い高いしている ている友達の考えを自分の考えの中に取 り入れ て発言する姿も見 られるまた,問いかけられた とき,悲 しい気持ちだったと思います理由は, 深いため息 からそ う思います とい う他の児 ことに対する自分の考えを常に用意 している思 いや考えを書 くときにはそれが顕著に表れてお り, 童による発言もあり,A 児もこれが手放 しに喜べ 今回はお父 さんの立場で作品を読んでいる ゆみ子 る幸せだとは思っていないだろう また, B児 自分の意見や考えを,理由や根拠 と合わ はどう思っているだろう とい う言葉が続 くのは せて述べることができる周 りの児童もB児の考 ゆみ子 と楽 しい時間を共有 して幸せを感 じている えを頼 りにし,肯定的に話を聞いている分から ないことがあったらどこが分からないのかについ 父親 と,ゆみ子の将来を案 じて,心の中で問いか ける思いを抱えている父親のどちらの心情も捉え, ているからだと考える父親の中にある様々な葛 て発言するまた,少数派の考えであっても,周 りに流 されずに自分の考えを述べることができる 藤が, はあ とい うため息の表現につながって 今回はお母 さんの立場で作品を読んでいる いるさらに, ゆみ子は一つだけの幸せをおぼえ O 心の記録 について てどんな子になるだろう と書いているが,作品 作品は児童の話 し合いによって 3つの場面に分 の中で 一つだけ に続 く言葉 として 幸せ は け,各場面で 心の記録 丑 ③ を書いた場面 出てこない これは,A 児が戦争中にある唯一の にタイ トルをつける活動も行った 幸せ が父親の高い高いであると解釈 していた 1 p p. 7 2-7 4 飢2 お父 さんやお母 さんの願い と推測する 2 pp.7 4 飢3-7 7 お父 さん,いってらっしゃい 3 pp.7 8-7 9 平和よ,つづけ 親 ど,自分のことも大事だ と思 う とい う考えと 1 )心の記録 お父 さんやお母 さんの願い は自分のことより子 どものことを大事に思 うと思 児童の話 し合いの中で, 親は大人だ し親だけ とい う考えが出たA児はこのとき発言 しな う A児) 今 日, 一つだけ の言葉を言ったゆみ子のし かったしかし, 後者の思いを持っていたことが, ょうらいが心配になったよゆみ子を高い高いして, ゆみ子がこの口ぐせをおぼえて しまったことを 喜んでいるゆみ子を見たら幸せだったゆみ子はどう 思っているだろうはあゆみ子は一つだけの幸せを おぼえてどんな子になるのだろうすごく心配だゆ み子がこの口ぐせをおぼえて しまったことをとても こうかいしている とい うところから判断できる 心の記録① の全体を通 して, それは,A児が 心配や後悔,父親 として責任を感 じているともと れる言葉を書いていたか らである こうかいしている だいじょうぶなのか B児) 今からどうやって生きていけばいいのよ 一つ A 児はゆみ子の父親の心情理解に意欲的に取 り だけo 以外に言葉をおぼえなかったらゆみ子のしよう 組み,物語の世界に入 り込んでいる らいはどうなるんでしょうねoお父さんが戦争に行った まず, 今 日 とい う書き始めか ら,A児 自身が らどうしようかなあ わたしの分もゆみ子にあげなきや 時間を設定 した これは,おそ らくゆみ子を高い 高い した 日のことである次に, よ J, だ とい う文末表現に着 目する ゆみ子のし ろ う B児のグループでは, なんてかわいそ うな子 は,そのときの父親 ょうらいが心配になったよ でしょうね一つだけちょうだい と言えば,なん の真っ直ぐな思いが表れている一方で, ゆみ子 と言ったときのお でももらえると思ってるのね はどう思っているだろう, ゆみ子は一つだけの 母 さんの気持ちを知る とい う学習課題を設定 し 幸せをおぼえてどんな子になるのだろう は,心 の中をめぐっている思いである 先行き不透明な たそこで, 心情を探るためにセ リフを読んだ り, 想像 した心情の根拠を作品から見つけようとした 不安な時代を憂い,ゆみ子の将来を心配する父親 りする姿が見 られたその中で B児は, ゆみ子の 7 7
とも併せて述べていた 3 )心の記録③ 平和 よ,つづ け 作品を通 して母親の様々な心情 と出合い,B 児 A児)ゆみ子,とっても良い子になってよかったなあ 自身 も揺れ動 きなが ら 心の記録 を書いてきた はじめは心配 してたけど,安心したよゆみ子,一輪 そ して, よ うや くここで, これまで とは違 う母親 のコスモスをいっぱいにしてくれてありがとうや さ のゆみ子-の思いに気づ くことができた 心の記 しい子になって良かったコスモスを大事にしてくれ 録③ は①,② と同様 に母親の立場で書かれてい て うれ しいなあ こんなにお母さんを手伝ってくれて る しか し, これまで とは違い,文の中に何度 も ありがとう昔より,できることがふえて,お母さん お父 さん が登場す る これは, 自分の立場 を もたすかるよ 自分は手伝えないけど,これからもお 主張す る母親 よ りも,いつ も近 くに父親がいると 母さんをよろしくねいつまでもおてつだいをしてあ 感 じられ るよ う,ゆみ子に気遣 う母親 を,B児が げてね 感 じ取 ることができたか らだ と考 える作品を読 ゆみ子, とって も良い子になってよかったな み進 めてい く中で,B児が最後にた どりついたの あ J, ゆみ子,一輪のコスモスをいっぱいに して はやは り母親の温かな愛情だった と考 える くれてあ りが とう か らは,成長 したゆみ子 を温 4 考察 かい 目で見ていることが分かるまた,前向きな 教職専門実習Ⅲでの授業実践を通 して了テキス 言葉が多 く見 られ,ゆみ子-の思いが優 しく語 り かけるよ うな文章で書かれている トを利用 して 自分の考 えを表現す る能力の育成 は じめは心配 してたけ ど は, これまでの父 に着 目し,読解力 を高める授業を探った その結 親 の心情の移 り変わ りを押 さえているその上で, 1 0年後のゆみ子 に 安心 したよ とい う思いで 果,重要であったのは次の 3つの点である まず一つ 目は,言語活動 を明確 にす ることで, い ることが分かるまた,この 安心 したよ は 目的を意識 しなが ら文章を読むことができるとい だい じょうぶなのか とゆみ 心の記録① で うことである今回は 心の記録 を書 く とい 子の将来 を心配 していた ことに対応 しているよ う う言語活動 を取 り入れたその活動 を中心に しな にも思える 昔 より,できることがふえて,お母 が ら各場面の学習課題を児童が設定 している児 さんもたすかるよ 自分 は手伝 えないけど, これ 童は 心の記録 を書 くとい う目的に合わせ なが か らもお母 さんをよろ しくね と優 しく頼 もしく ら,知 りたいまたは考 えてみたい と思 う登場人物 成長 したゆみ子の姿 を想像 し,父親の心情 を言葉 の心情 を探 っていた よ うに思 うまた,文章を読 心の記録 の全体 を通 して,A児 は一貫 に した む 目的を児童 自身が理解 していると,学習にも意 して 自分の 目と父親の 目を重ね,ゆみ子を大事に 欲的に取 り組む ことができる実際に授業の中で, 見てきたのである 今 日も書 くよね と聞かれ ることがあった 児 童な りに了今 日はお父 さんやお母 さんの気持 ちを B児)ゆみ子は,あの戦争の時代からよく 1 0年後まで どのよ うに 自分の言葉で書 こ うか と考えなが ら, 生きてこれたねゆみ子は 1 0年前のお父さんを覚えて 学習課題 と向き合っているよ うに感 じた ないかもしれないけど,家の前にあるたくさんのコスモ それに加 えて,児童 につけたい能力を焦点化 し, スを何回も見たらお父 さんのことを思いだせると思 う 思考の過程が積み重なるよ うな言語活動 を行 うこ よお父さんは天国にいるからお母さんはたい-んだけ とも大事であることが分かった今回,児童 につ ど,ゆみ子がお昼を作ってくれると楽になるからもっと けたい能力は テキス トを利用 して 自分の考 えを お昼を作ってねお父さんも天国からゆみ子のことを見 表現す る能力 であ り,学習指導要領 と重ねなが てるよ ら単元計画 を立てた様々な読む力がある中で, ゆみ子は,あの戦争 の時代か らよく 1 0年後 それ をすべて同時に高めることは難 しい授業全 まで生きてこれたね と書いた言葉の裏 には お 体 としての流れ も見通 して単元計画を立て,つけ 母 さん も安心 していると思 う ゆみ子はできるこ たい能力が毎時間の積み重ねによって,ついてい とも増 えた し良かった とい う授業における発言 くよ うに しなければな らない今回児童は,全体 があったまた, 今はも う心配 とか,育てる自信 の学習の中で 心の記録 を 3回書いている各 があま りないってい うのはない と思 う とい うこ 場面の登場人物の心情 を読み取 るだけではな く, 79
できないだろうそこで,まずは ごんぎっね る 自分は友達に何を紹介 したいのかを明らかに を共通教材 とし, 紹介の仕方を全体で考えてい く することが重要なことである ここでは, どのような紹介カー ドが良い かを児童 が考えられるようにすることが目的のため,登場 本の紹介活動は, 私の紹介カー ドを見て,みん なおもしろそ うって言っていた うれ しかったな 人物の心情や情景についての細かい読み取 りは行 あ 了友達が紹介 してくれた優 しいきつねの話を わない描写や挿絵,あるいは自分の感想などを 読んでみたいなあ とい うような思いを児童が持 手がか りに,友達に紹介 したいことを選び, 自由 に紹介カー ドを書かせるようにするそ して,全 ち,友達の紹介の良さを認め合えるような時間に していきたい紹介カー ドは図書室に置いていっ 体でカー ドを見合って,本を紹介する上でカー ド でも見 られるようにし,児童の学習の成果を学校 に書かれると良いことについて話 し合 う このよ 生活に反映させることも大切だと考えている うな全体での活動を取 り入れることで,児童は紹 本 を紹介す る様子や紹介カー ドの内容はもと 介カー ドの大まかなイメージをつかみ,友達に本 より,友達に紹介 された本を読み,本を通 して児 の良さやおもしろさを紹介するためには,細かい 童が交流 している姿を見ることができれば,読解 読み取 りも大事だとい うことに気づ くだろう 力の向上に結び付いているのだろうと考えている 次に,今度は個人で きつね の出てくる物語 を選び,友達に紹介するための準備- と学習は移 の る ここでは, 小学校学習指導要領 国語 指導事項 場面の移 り変わ りに注意 しなが ら,壁 場人物の性格や気持ちの変化, 情景などについて, 叙述を基に想像 して読むこと を押さえる必要が ある具体的には,同じ本を選んだ人同士で疑問 に思 うところや気になる部分などについて話 し合 い,登場人物について理解 した り,その本を読ん だことがある友達に分からない表現を尋ねた りし なが ら学習を進める叙述を基にして想像 した り 根拠を明らかにして自分の考えを広げた りしなが ら, 自分の読みを追究 していくような時間にして いきたいと考える 自分が物語の良さやおもしろ さに気づ くことができれば,おそ らく友達に紹介 したい とい う思いは高まっていると考えられる 第二次には, 友達に伝 える とい う相手意識 を持って本の紹介カー ドを作るここで大事にし たいことは, 読解力向上に関する指導資料 の 様々な文章や資料を読む機会や,自分の意見を 述べた り書いた りすること にあるもう一つの 自 分の感 じたことや考えたことを簡潔に表現す る能 5 到達点と課題 本研究では, 小学校学習指導要領 国語 と 関連付けた授業実践 と単元の開発を行った授業 実践を通 して,児童の作品を分析 し,思考を考察 すると, 目的を意識 しなが ら文章を読むことや思 考の過程が積み重なる言語活動を設定すること, 自分の考えに対 して根拠や理由を持つことが重要 であると分かった 本研究は,中学年を対象 としてきたが,他学年 における読解力を高める授業づ くりも必要である そこで,今回立てた授業構想を他学年においても 活かす方法を考えていきたいまた,他の 読解 力を高める指導のね らい にも目を向けながら, さらに授業構想を増や して授業実践をしていきた い今回は扱わなかった説明的な文章での読解力 を高める授業づ くりの可能性も探っていきたい 今後も, 小学校学習指導要領 国語 と 読 解力向上に関する指導資料 に挙げられている 7 つの指導のねらいを関連付けながら,継続的に授 業づ くりを行い,授業実践において一つ一つ効果 を検証 していくことが筆者の一番の課題である 力の育成 である単にあらす じを紹介するよう なカー ドではなく,自分の読みが反映するような 引用 参考文献 カー ドにしてい く必要があるつま り,自分が感 中央教育審議会, 幼稚園 小学校 中学校 高等 じたことや考えたことがカー ドに書き込まれてい 学校 盲学校 聾学校及び養護学校の教育課程 る必要がある さらに,それ らの文章が感想の羅 998 の基準の改善について,1 列にならないよう,簡潔 さと分か りやす さの視点 井上一部 他): 読解力向上をめざした授業づ く を持って紹介 したいことを書 くように工夫する,東洋館出版,pp. 8-l l,2006 り 文部科学省, 読解力 向上に関する指導資料 読 また,紹介 したい内容はそれぞれであると予想 さ 解力向上プログラム,2 0 05 れるので,書 く内容は統一 しなくても良い と考え 81