indd

Similar documents
2019 年1月3日熊本県熊本地方の地震の評価(平成31年2月12日公表)

Microsoft Word - 223回予知連表紙.doc

<4D F736F F D2091E F195AC89CE975C926D D89EF5F97B089A99387>

九州地方とその周辺の地震活動(2016年5月~10月)

Microsoft Word - 05_衛星合成開口レーダー120123

indd


「活断層の長期評価手法」報告書(暫定版)

8-2 近畿・四国地方の地殻変動

令和元年6月 地震・火山月報(防災編)

<4D F736F F D2092F188C48F D89BF8F E6919C8D A76312E312E646F63>

平成 30 年 4 月 9 日 01 時 32 分頃の島根県西部の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

<4D F736F F D D082B882DD90AC89CA95F18D908F F312D385F895E896388CF2E646F63>

図 東北地方太平洋沖地震以降の震源分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 ) 図 3 東北地方太平洋沖地震前後の主ひずみ分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 )

この資料は速報値であり 後日の調査で変更されることがあります 時間帯 最大震度別回数 震度 1 以上を観測した回数 弱 5 強 6 弱 6 強 7 回数 累計 4/14 21 時 -24 時 /15 00 時 -24 時 30


<4D F736F F F696E74202D AD482C682E882DC82C682DF90E096BE8E9197BF C C C816A2E B93C782DD8EE682E890EA97705D>

平成28年4月 地震・火山月報(防災編)

平成19 年(2007 年)新潟県中越沖地震の評価(平成19年8月8日)

<4D F736F F D B4988C994BC E88E695578D8289FC92E881698F4390B A>

68 国土地理院時報 2016 No だいち 2 号による緊急観測だいち 2 号は, だいちの後継機として 2014 年 8 月から定常的な観測を開始し,2014 年 11 月からデータの定常配布が始まった. だいち 2 号の主な性能は表 -1 のとおりである. 表 -1 だいち 2

地震の概要 検知時刻 : 1 月 3 日 18 時分 10 発生時刻 : 1 月 3 日 18 時 10 分 マグニチュード: 5.1( 暫定値 ; 速報値 5.0から更新 ) 場所および深さ: 熊本県熊本地方 深さ10km( 暫定値 ) 発震機構 : 南北方向に張力軸を持つ横ずれ断層型 ( 速報

目 次 1. 想定する巨大地震 強震断層モデルと震度分布... 2 (1) 推計の考え方... 2 (2) 震度分布の推計結果 津波断層モデルと津波高 浸水域等... 8 (1) 推計の考え方... 8 (2) 津波高等の推計結果 時間差を持って地震が

プレス発表資料 平成 27 年 3 月 10 日独立行政法人防災科学技術研究所 インドネシア フィリピン チリにおけるリアルタイム 津波予測システムを公開 独立行政法人防災科学技術研究所 ( 理事長 : 岡田義光 以下 防災科研 ) は インドネシア フィリピン チリにおけるリアルタイム地震パラメー

佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

火山ガスの状況( 図 8-5 図 9-4) 1 日 6 日 8 日 14 日 20 日 22 日に実施した現地調査では 火山ガス ( 二酸化硫黄 ) の1 日あたりの放出量は700~1,800 トン (10 月 :500~1,70 トン ) と増減しながら 概ねやや多い状態で経過しました 地殻変動の

2016年10月21日鳥取県中部の地震の評価(平成28年10月22日)

Microsoft Word - 概要版(案)_ docx

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - 平成23年度ANET取組2

【集約版】国土地理院の最近の取組

Microsoft Word - ksw_ver070801_NIED_Inv.doc

2018 年6月18 日大阪府北部の地震の評価

平成 28 年 4 月 16 日 01 時 25 分頃の熊本県熊本地方の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

Microsoft PowerPoint - 資料4-1.ppt [互換モード]

火山噴火予知連絡会会報第 129 号 防災科学技術研究所の基盤的火山観測網で観測された * 草津白根山 2018 年 1 月 23 日噴火に伴う広帯域地震記録 Characteristics of broadband seismic record accompanying the eruption

2

平成28 年4 月16 日熊本県熊本地方の地震の評価(平成28年4月17日)

火山ガスの状況 ( 図 8-5 図 9-4) 10 月 2 日 9 日 17 日 18 日 23 日に実施した現地調査では 火山ガス ( 二酸化硫黄 ) の 1 日あ たりの放出量は 500~1,700 トン (9 月 :90~1,400 トン ) と 概ねやや多い状態で経過しました 地殻変動の状況

スライド 1

200km 20 30km EDM GPS JERS-1 SAR

火山ガスの状況( 図 8-5 図 9-4) 12 日 18 日 25 日 27 日に実施した現地調査では 火山ガス ( 二酸化硫黄 ) の1 日あたりの放出量は 900~1,600 トン (11 月 :700~1,800 トン ) と 増減を繰り返しながら概ねやや多い状態で経過しました 地殻変動の状

概論 : 人工の爆発と自然地震の違い ~ 波形の違いを調べる前に ~ 人為起源の爆発が起こり得ない場所がある 震源決定の結果から 人為起源の爆発ではない事象が ある程度ふるい分けられる 1 深い場所 ( 深さ約 2km 以上での爆発は困難 ) 2 海底下 ( 海底下での爆発は技術的に困難 ) 海中や

Microsoft PowerPoint - 24p-29p(宮川)GEONET-GNSS時代の幕開け-

<4D F736F F D208DC58F49365F817582BE82A282BF AB18FC289F090CD82C982E682E891A882A682E782EA82BD96B693878E A788

年間の火山活動

報告書

2009 年 11 月 16 日版 ( 久家 ) 遠地 P 波の変位波形の作成 遠地 P 波の変位波形 ( 変位の時間関数 ) は 波線理論をもとに P U () t = S()* t E()* t P() t で近似的に計算できる * は畳み込み積分 (convolution) を表す ( 付録

GMT v3.4.6 Document from psxy

8km M km M M8.4 1M M M 東北地方太平洋沖で想定されていた地震 Fig % 8 9% M8. 6 3m M % Fig.1 Distribution of

Microsoft PowerPoint - 西村先生【30枚】 公開講座.pptx

(/9) 07 年に発生した地震の概要. 佐賀県の地震活動 07 年に佐賀県で震度 以上を観測した地震は 9 回 (06 年は 85 回 ) でした ( 表 図 3) このうち 震度 3 以上を観測した地震はありませんでした (06 年は 9 回 ) 表 07 年に佐賀県内で震度 以上を観測した地震

日本海溝海底地震津波観測網の整備と緊急津波速報 ( 仮称 ) システムの現状と将来像 < 日本海溝海底地震津波観測網の整備 > 地震情報 津波情報 その他 ( 研究活動に必要な情報等 ) 海底観測網の整備及び活用の現状 陸域と比べ海域の観測点 ( 地震計 ) は少ない ( 陸上 : 1378 点海域

03_資料2_清水委員講演資料

日本海地震・津波調査プロジェクト

Microsoft Word - kirishima-sinmoe11.doc

PowerPoint プレゼンテーション

火山活動解説資料平成 31 年 4 月 14 日 17 時 50 分発表 阿蘇山の火山活動解説資料 福岡管区気象台地域火山監視 警報センター < 噴火警戒レベルを1( 活火山であることに留意 ) から2( 火口周辺規制 ) に引上げ> 阿蘇山では 火山性微動の振幅が 3 月 15 日以降 小さい状態

2_時報120.indd

スライド 1

4-2 伊豆地方の地殻変動

11- 11  2010 年10 月25 日インドネシア,スマトラ南部の地震(Mw7.7)について

InSAR GPS InSAR+GPS JERS-1 InSAR GPS InSAR GIS GPS InSAR LOS Line-Of-Sight GPS GPS SAR GPS SAR GPS SAR JERS-1 SAR InSAR GPS InSAR SAR GSISAR

火山活動解説資料 ( 令和元年 5 月 ) 栗駒山の火山活動解説資料 ( 令和元年 5 月 ) 仙台管区気象台地域火山監視 警報センター 火山活動に特段の変化はなく 静穏に経過しており 噴火の兆候は認められません 30 日の噴火警戒レベル運用開始に伴い 噴火予報 ( 噴火警戒レベル 1 活火山である

平成 30 年 6 月 18 日 07 時 58 分頃の大阪府北部の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

第 109 回 火山噴火予知連絡会資料 2008 年 2 月 15 日 東北大学大学院理学研究科

資料6 2016年熊本地震と関連する活動に関する総合調査

2018年11月の地震活動の評価(平成30年12月11日)

目次 第 Ⅰ 編本編 第 1 章調査の目的 Ⅰ-1 第 2 章検討体制 Ⅰ-2 第 3 章自然 社会状況 Ⅰ-3 第 4 章想定地震 津波の選定条件等 Ⅰ-26 第 5 章被害想定の実施概要 Ⅰ-37 第 6 章被害想定結果の概要 Ⅰ-48 第 7 章防災 減災効果の評価 Ⅰ-151 第 8 章留意

国土地理院時報118.indb

平成26年8月豪雨災害(広島豪雨災害) におけるCOSMO-SkyMed衛星観測結果

地震の将来予測への取組 -地震調査研究の成果を防災に活かすために-

図 年 [ 高度利用者向け ] 半月ごとの緊急地震速報発報回数 東北地方太平洋沖地震からほぼ単調に減少していた緊急地震速報の発報回数は 2015 年のほぼ安定した発報回数分布が 2016 年は急増しました 熊本地震直後では半月で最大 158 回 福島県沖の地震の後には 98 回となり

H19年度


日向灘 佐伯市で震度 2 を観測 8 日 08 時 33 分に日向灘で発生した M3.9 の地震 ( 深さ 31km) により 佐伯市 愛媛県西予市 高知県宿毛市などで震度 2 を観測したほか 大分県 宮崎県 愛媛県および高知県で震度 1 を観測しました ( 図 1) 今回の地震の震源付近 ( 図

Microsoft Word - Noto_6Apr2007.doc

予報時間を39時間に延長したMSMの初期時刻別統計検証

広域地殻変動データに基づくプレート境界の固着とすべりのモニタリングシステムの開発 ( 第 3 年次 ) 実施期間平成 26 年度 ~ 平成 28 年度地理地殻活動研究センター地殻変動研究室小沢慎三郎矢来博司 1. はじめに日本列島では, 平成 23 年 (2011 年 ) 東北地方太平洋沖地震をはじ

PowerPoint プレゼンテーション

7- 11 平成19 年(2007 年)新潟県中越沖地震について

豪雨・地震による土砂災害の危険度予測と 被害軽減技術の開発に向けて

大大特研究委託業務の成果報告書の作成について(案)

Title 1-10 ALOS/PALSAR によって観測された, アリューシャン列島 オクモク火山における2008 年噴火 ( セッション1: 地震 火山 ) Author(s) 宮城, 洋介 Citation SAR 研究の新時代に向けて (2013) Issue Date UR

11-1 最近の地震観測の精度 ~気象庁における地震観測業務~

国土地理院時報118.indb

202 国土地理院時報 影の違いなどを総合的に判断して取得した また 今回の地震で生じた亀裂かどうか容易に識別できな い場合は 地震発生前に撮影された空中写真と比較 して確認を行った ただし すべての範囲を同じ縮 尺レベルで判読できている訳ではないうえ 判読者 の違いにより取得基準に若干のぶれがある

高分解能衛星データによる地形図作成手法に関する調査研究 ( 第 2 年次 ) 実施期間平成 18 年度 ~ 測図部測図技術開発室水田良幸小井土今朝巳田中宏明 佐藤壮紀大野裕幸 1. はじめに国土地理院では, 平成 18 年 1 月に打ち上げられた陸域観測技術衛星 ALOS に関して, 宇宙航空研究開

2018 年の山形県とその周辺の地震活動 1. 地震活動の概況 2018 年に 山形県とその周辺 ( 図 1の範囲内 ) で観測した地震は 2,250 回 (2017 年 :2,447 回 ) であった 山形県内で震度 1 以上を観測した地震は 図の範囲外で発生した地震を含めて 47 回 (2017

Microsoft PowerPoint - 三重県沖地震

国土地理院時報124.indb

火山活動解説資料平成 31 年 4 月 19 日 19 時 40 分発表 阿蘇山の火山活動解説資料 福岡管区気象台地域火山監視 警報センター < 噴火警戒レベル2( 火口周辺規制 ) が継続 > 中岳第一火口では 16 日にごく小規模な噴火が発生しました その後 本日 (19 日 )08 時 24

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

報道発表 平成 30 年 9 月 6 日 05 時 10 分地震火山部 平成 30 年 9 月 6 日 03 時 08 分頃の胆振地方中東部の地震について 地震の概要検知時刻 : 9 月 6 日 03 時 08 分 ( 最初に地震を検知した時刻 ) 発生時刻 : 9 月 6 日 03 時 07 分

DE0087−Ö“ª…v…›

l l l

「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)」平成18年度実施計画 九州大学大学院理学研究院 課題番号:2102

科学9月特集C_青井.indd

<4D F736F F F696E74202D208CB48E7197CD8A7789EF8AE989E6835A C478CB3816A2E B8CDD8AB B83685D>

àÛç¸íÜ.pdf

Transcription:

45 Crustal Deformation and a Fault Model of the West - off Fukuoka Prefecture Earthquake in 2005 測地観測センター小清水寛 畑中雄樹 根本盛行 Geodetic Observation Center Hiroshi KOSHIMIZU, Yuki HATANAKA and Moriyuki NEMOTO 地理地殻活動研究センター西村卓也 今給黎哲郎 村上亮 Geography and Crustal Dynamics Research Center Takuya NISHIMURA, Tetsuro IMAKIIRE and Makoto MURAKAMI 測地部藤原智 Geodetic Department Satoshi FUJIWARA 要旨 2005 年 3 月 20 日 10 時 53 分頃に福岡県西方沖でマグニチュード (M)7.0 の地震が発生した. 国土地理院の電子基準点網 (GEONET), 三角点復旧測量結果及び人工衛星を用いた干渉 SAR( 合成開口レーダー ) の観測結果から, 福岡県地方を中心に詳細に地殻変動が検出された. これらの観測データを解析することで, 地震観測の結果と調和的な左横ずれの断層運動モデルが求められた. さらに,GEONET による GPS 連続観測結果により, 一部の観測点で地震後の余効変動に伴う地殻変動が検出された. 1. 地震活動の概要と観測態勢 2005 年 3 月 20 日 10 時 53 分頃に福岡県西方沖の深さ約 10km で M7.0 の地震が発生し, 福岡県と佐賀県で最大震度 6 弱を観測した. 地震活動は本震 - 余震型 ( 大きな地震が発生後, その付近で最初の地震より小さな地震が続発すること ) で, これらの地震は, 主として玄界灘から志賀島付近にかけて北西 - 南東方向に線状に分布している. 地震観測から求められる余震分布と本震の発震機構から推定される震源断層は, 北西 - 南東方向に伸びるほぼ鉛直な断層面を持つ左横ずれ断層である.2005 年 11 月 30 日までの最大の余震は,4 月 20 日の M5.8 の地震 ( 最大震度 5 強 ) で, 玄界灘から志賀島付近にかけての余震域内の南東端付近で発生した. この地震により一時的に余震活動が活発化したが, 全体の活動は本震 - 余震型で推移しており, 余震活動は減衰してきている ( 地震調査研究推進本部,2005). 当該地域では, 類似した地震の記録がないために, どのような発生機構の地震であったのかを解明することは, 今後の地震発生の予測等のために重要である. また, 余震が南側の福岡市内に近い端で発生したことにより, 福岡市内を走る活断層への影響を見積もるためにも, 地殻変動の分布からも今回の地震の全体像を求める必要性があった. 地震発生後,GEONET を構成する GPS 連続観測点の 15 時までのデータ ( 緊急 (S2) 解 ) を解析し, 観測 された地殻変動, 及びそれから推測された断層モデルを地震発生当日夕刻に緊急発表した. さらに,GPS 連続観測点の 3 月 23 日までのデータ ( 迅速 (Q2) 解 ) を解析した結果, 福岡観測点のデータから地震後の余効変動が検出されたため, その推移をより詳細に監視するために,GPS 機動連続観測点が新たに設置された. また, 地震に伴う詳細な地殻変動を把握するために, 福岡県地方を中心に三角点の緊急復旧測量が 4 月に実施された ( 平井ほか,2006). 2. 観測データ 2.1 GPS 連続観測結果福岡県北部は, 西山断層, 警固断層など, 北西 - 南東走向の活断層が複数存在するが,1923 年以降, 地震活動は低調のまま推移している. 国土地理院の GEONET による地震前 5 年間の GPS 連続観測データから得られた歪図を図 -1 に示す. この期間ではフィリピン海プレートの沈み込みに伴う東南東 - 西北西方向の定常的な圧縮傾向以外に, 芸予地震 (2001/3/24, M6.7), 豊後水道のゆっくり滑り (2003 年夏 ~ 秋 ), 阿蘇山及び桜島の火山活動の影響などが含まれている. 歪図からは, 地震前 5 年間の福岡県地方は地殻の歪みが小さかったことがわかる. 地震前後の GPS 連続観測結果によれば,2005 年 3 月 20 日福岡県西方沖を震源とする地震 (M7.0) に伴い, 福岡観測点 ( 福岡県福岡市東区 ) が南西へ約 18cm, 前原観測点 ( 福岡県前原市 ) が南へ約 9cm 変動するなど, 福岡県地方を中心に地殻変動が検出された ( 図 -2,3).

46 国土地理院時報 2006 No.109 図 -3 地震時の基線ベクトル成分の変化グラフ 図 -1 九州地方の地殻水平歪 その後の地震活動は,M7.0 の地震を本震とする本震 - 余震型で推移し, 余震活動は順調に減衰している. 最大余震は 2005 年 4 月 20 日に志賀島付近で発生した M5.8 の地震であり, 最大震度 5 強を観測したが, 地震に伴う顕著な地殻変動は観測されていない. 本震後では, 福岡観測点, 及び本震後に設置された M 海の中道観測点 ( 福岡県海の中道海浜公園内 ) において, 余効変動が観測されている ( 図 -4). 図 -4 地震後の基線ベクトル成分の変化グラフ筑紫野 - 福岡基線については, 地震前の長期の成分変化を添付. 図 -2 地震時の水平 上下変動図 M 海の中道観測点は地震後に設置されたため, データは存在しない. 震源域近傍の福岡観測点における変動は, 本震後では現在に至るまで水平方向で 1~2cm 程度であり, 本震時の水平変動量 18cm の高々 2 割である. これと対照的に, 本震後の福岡観測点の沈下量は 3cm 程度と本震時の沈下量に匹敵する. この上下変動は, 同じく震源域近

47 じく震源域近傍に位置するM 海の中道観測点でも観測されているため, 局所的な地盤の影響に伴う現象とは考えにくい. これらの余効変動のメカニズムについては, 観測されている余効変動の水平変動量と上下変動量の比が, 地震時の変動と異なることから, 本震時の断層全体が一様に余効すべりするというような単純なモデルでは説明できず, 今後詳細な解析を行っていく必要がある. 図 -5では地震後の余効変動の推移を, 筑紫野 - 福岡基線ベクトル成分の変化率で見たものである. 正味の余効変動を見積もるため, プレート運動に伴う経年変化や年周的な変動を取り除き,90 日間のデータから水平成分変化率 [m/yr] を回帰計算して, その値を計算期間の中間日に表示している. 地震前は基線ベクトルの成分変化がほぼ直線的に推移しているため, 東西成分 南北成分とも変化率は0を中心としてばらついている. 地震前のデータから得られる変化率のばらつきは東西方向で年間 2mm 程度, 南北方向で年間 5mm 程度である. 地震後の水平変化率は長期的には減衰傾向を示し,2005 年 6 月以降では平均すると東西 南北ともに年間 5mm 程度になった. 2003/04/012005/03/01 図 -5 筑紫野 - 福岡基線ベクトル成分の変化率 90 日間のデータを1 日ずつずらして計算. 表示位置は, 計算期間の中間日. 最終表示日は2005 年 9 月 29 日 2.2 干渉 SAR 処理データ欧州宇宙機関 (ESA) の人工衛星である ENVISAT ( エンビサット ) の SAR データを用いて, 福岡県西方沖を震源とする地震の地殻変動を求めた. 地震前の 2005 年 2 月 23 日と地震後の 2005 年 3 月 30 日に衛星から撮影された SAR 画像を用いて干渉処理を行った. 干渉 SAR には衛星軌道誤差及び大気中の水蒸気分布の不均一によって生じる長い空間波長をもった誤差が含まれる. 衛星軌道誤差については GPS 連続観測データを用いて画像の傾きの補正を行ったところ,GPS と干渉 SAR との残差の標準偏差は 1cm となり, 時期的に大気も安定していたことから,1cm 程度の精度で地殻変動を求めることができた. 図 -6 に干渉処理の結果得られた変位量観測値を 示す. 衛星電波の地表への入射角は約 23 度, 地表から見た衛星の方位は約 102 度であり, 東南東からの観測となる. 図の数値 ( 単位 :cm) は衛星 - 地表の視線方向の変位を示し, マイナスは衛星から遠ざかる ( 西向きまたは沈下 ) 変位を表す. 震源に近い福岡市の西の糸島半島で最大 5cm 衛星に近づく変位, 海の中道で最大 5cm 衛星から遠ざかる変位が観測された. なお,ENVISAT 衛星は,C バンドと呼ばれる波長の短い (5.6cm) 電波を使用しているために, 一般に植生が多い地域や地形が急峻な地域では良好な干渉が得られにくく, 図 -6 においても山地などでは地殻変動量は得られていないため, 糸島半島や海の中道の干渉していない地域ではこれ以上の変位があったものと推定される. 図 -6 干渉 SAR による変位量観測値 3. 地殻変動統合解析による地震のすべり分布 GPS 連続観測データによる本震時の地殻変動 ( 図 -2) や余震分布から, 北西 - 南東方向のほぼ垂直に立った断層面をもつ左横ずれ断層モデルが示唆される. そこで,GPS 連続観測データに加え, 干渉 SAR 処理結果, 三角点復旧測量結果 ( 平井ほか,2006) を用いて本震の矩形断層モデルと断層面上でのすべり分布を推定した (Nishimura et al.,2006). 用いた干渉 SAR データは図 -6 に示した 2 月 23 日から 3 月 30 日のものである.GPS データは,GEONET 最終 (F2) 解の 3 月 10 日 ~ 19 日と 3 月 21 日 ~ 30 日の平均値の差と, 同期間の GPS 固定点 3 点, 海上保安庁海洋情報部 DGPS 局 1 点のデータを用いている. 1 枚の矩形断層を仮定して, そのパラメータを最小自乗法を用いて推定すると, 長さが約 24km, 幅約 8km の断層が約 1.3 m すべったと推定された. 次に, ここで推定した断層の位置, 走向, 傾斜角を用いて, 断層面を走向方向と傾斜角方向に広げた 32km 16km の面を仮定し, この面を 2km 四方の小領域に分割して, 各小領域のすべり量とすべり角を推定した.

48 国土地理院時報 2006 No.109 なお, 理論値の計算には,Okada(1985) の半無限弾性体の解を用いており, すべり分布が滑らかになるような拘束をかけている. このように推定した断層モデルは,GPS 連続観測及び三角点復旧測量結果をよく説明することができる ( 図 -7). また, 干渉 SAR による変動量分布もよく説明する ( 図 -8). 図 -7 GPS 連続観測点と三角点での地震時変動量と計算値の比較矩形の領域は, すべり分布を推定した断層面を表す. 太い矢印と細い矢印は,GPS 連続観測点と三角点での変動量を示す. 赤丸は, 気象庁一元化震源による余震分布. 図 -8 干渉 SAR による変動量と計算値の比較 推定されたすべり分布 ( 図 -9) を見ると, 本震震央位置から東南東側の浅い部分にすべりのピーク ( 約 1.9 m) があり, 地震波形のインバージョン結果とおおむね調和的である. また, 余震は本震のすべり域の深部を中心として取り囲むような場所で発生していることがわかる. 剛性率を 30GPa と仮定すると, 全体の地震モーメントは,8.7 1018Nm( モーメントマグニチュード 6.6 相当 ) となる.

49 図 -9 推定された断層面上でのすべり分布赤と青の点は,3 月 20 日及び3 月 21 日 ~ 29 日に発生した余震分布. 4. まとめ福岡県地方は, 地震計記録開始以降 2005 年初頭に至るまで地震活動が低調であり, 地震直前の 5 年間にわたる GPS 連続観測結果による地殻水平歪みも小さかった. その後,2005 年 3 月 20 日に福岡県西方沖で M7.0 の地震が発生し, 国土地理院の GEONET, 三角点復旧測量結果及び干渉 SAR の観測結果から, 福岡県地方を中心に詳細な地殻変動が検出された. これらの観測データを統合して解析した結果, 地震観測の結果と調和的な左横ずれの断層モデルが推定された. 更に GPS 連続観測を継続した結果, 地震後に一部の観測点で余効変動に伴う基線変化が検出された. 余効変動は, 長期的には減衰傾向にあり,2005 年 11 月現在ではほぼ終息しているように見える. なお, 本解析では, 気象庁一元化震源と海上保安庁海洋情報部 DGPS 局のデータを使用した. 両機関に厚く御礼申し上げる. 参考文献平井英明, 横川薫, 齋田宏明, 湯通堂亨, 植竹政夫 (2006): 平成 17 年 (2005 年 ) 福岡県西方沖を震源とする地震に伴う測地測量の取り組み, 国土地理院時報,109,35-43. Nishimura, T., S. Fujiwara, M. Murakami, H.Suito, M. Tobita, H. Yarai(2006):Fault model of the 2005 Fukuoka-ken Seiho-oki earthquake estimated from coseismic deformation observed by GPS and InSAR, Earth Planet Space(in press). Okada, Y.(1985):Surface deformation due to shear and tensile faults in a half-space, Bull. Seismol. Soc. Am. 75, 1135-1154. 地震調査研究推進本部, これまでの地震活動の評価,http://sparc1038.jishin.go.jp/main/(accessed 9 Nov. 2005).