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人類が初めて目にした天然ウナギ卵 ウナギ産卵場 2000 年の謎を解く 文責塚本勝巳 ( 東京大学大気海洋研究所教授 ) 要旨 2008 年より共同でウナギ産卵場調査に取り組んできた東京大学海洋研究所 ( 現東京大学大気海洋研究所 ) と水産総合研究センターは 海洋研究開発機構の学術研究船 白鳳丸

3-3 現地調査 ( カレイ類稚魚生息状況調査 ) 既存文献とヒアリング調査の結果 漁獲の対象となる成魚期の生息環境 移動 回遊形態 食性などの生活史に関する知見については多くの情報を得ることができた しかしながら 東京湾では卵期 浮遊期 極沿岸生活期ならびに沿岸生活期の知見が不足しており これらの


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ンゴ類及びその他底生生物 ) の生息状況を観察した ジグザグに設置したトランセクト ( 交差することのないよう, かつ, 隣り合う調査線の視野末端が重複するように配置された調査線 ) に沿って ROV を航走させ トランセクト上に宝石サンゴがあった場合は 位置 種 サイズ等を記録した 同時に海底の操

1 アライグマの 分布と被害対策 1 アライグマの分布 1977 昭和52 年にアライグマと少年のふれあいを題材とし たテレビアニメが全国ネットで放映されヒット作となった それ 以降 アライグマをペットとして飼いたいという需要が高まり海 外から大量に輸入された しかしアライグマは気性が荒く 成長 す

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第1部 わかやまの貴重な動植物 1 選定の考え方 (1) 対象種 県内域に生息 生育する陸産 淡水産及び汽水産の野生動植物とする ただし 海域を生息域とするウミガメ類については 産卵地が県内域で確認されている種を 選定の範疇に含めた 原則として外来種や飼育種 栽培種は除外するが これらに該当する種で

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さけますセンターでは 前身である旧北海道さけ ますふ化場等の組織も含め 明治 21 年から石狩川水系千歳川においてサケの人工ふ化放流を実施しており 昭和 11 年からはサクラマスの人工ふ化放流にも取組んでいます 千歳川では 大正 9 年に王子製紙第四ダムが完成して以降 海から約 80 km 上流に位

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区を設けた 光源には W 水銀灯 ( 東芝 HFX) を 試験水槽には 1l ポリプロピレン製ビーカーを用い 水槽の側面を黒マルチ ( 日本農業システム.mm 厚 ) で完全に覆い 上面に寒冷紗 ( 又は 9 遮光 ) を複数枚重ねることで表面照度を調節した 試験水槽は 3W チタンヒーターを設置し

121022資料1さっぽろビジョン(素案)

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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妊娠 出産 不妊に関する知識の普及啓発について 埼玉県参考資料 現状と課題 初婚の年齢は男女とも年々上昇している 第一子の出生時年齢も同時に上昇している 理想の子ども数を持たない理由として 欲しいけれどもできないから と回答する夫婦は年々上昇している 不妊を心配している夫婦の半数は病院へ行っていない

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ポイント 藻類由来のバイオマス燃料による化石燃料の代替を目標として設立 機能性食品等の高付加価値製品の製造販売により事業基盤を確立 藻類由来のバイオマス燃料のコスト競争力強化に向けて 国内の藻類産業の規模拡大と技術開発に取り組む 藻バイオテクノロジーズ株式会社 所在地 茨城県つくば市千現 2-1-6

学習指導要領

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サクラマスの生態と山形県における現状

どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

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ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

Transcription:

完全養殖への挑戦その 1 田中秀樹 ( 養殖研究所生産技術部繁殖研究グループ ) 1. はじめに今から6 年前 水産総合研究センター第 1 回成果発表会で 私たちは 40 年来の夢,30 年間の奮闘 -ウナギ人工種苗生産技術の開発- と題して 世界で初めてウナギの稚魚 を飼育下で作り出すことに成功した成果を発表しました ( 図 1) 日本でウナギ人工種苗生産研究が始められてからおよそ 40 年 北海道大学で人工ふ化に成功してからおよそ 30 年にして 多くの先人たちの努力の成果を礎として幸運にも一 つの節目に到達したのでした その後も 関係 者が総力を結集してウナギ人工種苗生産技術の 向上を目指す研究が継続されています その結 果 親魚養成 成熟制御 仔魚 の餌や飼育方 法などさまざまな技術が改良され 良質卵を安 定して得ること 仔魚の奇形を低減すること 日齢 100 までの生残率を大幅に高めることなど 多くの成果が得られました そして さらに次 のステップとして完全養殖を実現させ 安定的 大量生産につなげることが期待されています 2. ウナギ ~ 謎多き魚 ウナギは 世界の温帯から熱帯にかけて 19 種 (3 亜種を含む ) が分布しています それら の内 東アジアに分布するニホンウナギ (Anguilla 図 1. 世界初の人工生産ウナギ稚魚 japonica)( 標準和名はウナギですが本稿では他の種類と区別する必要がある場合はニホンウナギと呼びます ) ヨーロッパから北アフリカに分布するヨーロッパウナギ (Anguilla anguilla) 北米東岸に分布するアメリカウナギ (Anguilla rostrata) は比較的資源量が多く 特にニホンウナギとヨーロッパウナギは養殖も盛んに行われており 水産上重要種となっています これらのウナギは養殖条件下あるいは河川や湖沼 沿岸などでは どんなに大きくなっても どんなに年をとっても 決して自然に成熟 産卵することはなく 人類はウナギの受精卵やふ化仔魚を目にしたことがなかったので その一生についてはほんの 100 年ほど前までほとんど分かっていませんでした 19 世紀末にイタリアの研究者が 地中海で採集されるレプトセファ 9

ルスと名付けられた透明な柳の葉のような形の奇妙な魚がその後成長 変態して ヨーロッパウナギの稚魚になることを初めて発見しました この発見をもとに デンマークの海洋学者ヨハネス シュミットは より小さく より若いレプトセファルスを追い求めてゆけばウナギの産卵場にたどり着けるのではな 図 2. 日本のシラスウナギ漁獲量 ( 水産統計年報のデータより ) ( 年 ) いかと考えて調査を繰り返し 北米大陸東方の サルガッソー海がヨーロッパウナギとアメリカ 精によってふ化させることには世界中で誰も成 功していなかったのです ウナギの産卵場であることを 1922 年に報告し ました この様にして ヨーロッパウナギの一生については 断片的な情報からその概要が明らかにされました ちょうどそのころ日本では 初冬から早春にかけて沿岸や河口に来遊するシラスウナギと呼ばれる透明な稚魚を種苗として利用する ウナギの養殖技術が開発されました 第二次世界大戦の後 電動揚水ポンプや池の水を撹拌する水車の導入 配合飼料の開発などによって ウナギの養殖生産量は急激に増大しましたが シラスウナギの漁獲量は減少傾向にあり 深刻な種苗不足に陥りました ( 図 2) そこで サケのように人工ふ化によって稚魚を作りだすことが期待されましたが その技術開発は容易ではありませんでした ヨーロッパウナギの生活史が断片的に明らかにされていたといっても 成熟の進んだウナギや受精卵は当時全く見つかっておらず 飼育下でも成熟が進まないため ウナギを人工的に成熟させて卵と精子を取り 人工授 3. 生活史の解明と人工種苗生産研究の進歩日本でウナギの人工ふ化の研究が始められた当時 ニホンウナギの生活史 特に外洋における初期生態や産卵回遊生態については全く明らかにされておらず ヨーロッパウナギの研究レベルに大きな後れを取っていました 生活史の研究は 成熟生理の解明にも重要な情報をもたらすので 人工種苗生産の研究の推進にも密接な関わりがあるのです 1960 年代からウナギの人為催熟の研究が始められた一方で 67 年にはニホンウナギのレプトセファルス幼生が初めて捕獲されました 北海道大学で世界初の人工ふ化に成功した 1973 年には 白鳳丸の調査によって 52 個体ものレプトセファルス幼生が採集されています 大量の小型の幼生が白鳳丸によって採集され 産卵場がほぼ特定された 1991 年には 愛知県水産試験場で雌化養成親魚からふ化仔魚を得ることに成功し 以後 水産総合研究センターにおけるウナギ人工種苗生 10

産技術の急速な進歩へとつながりました 人為催熟 人工ふ化 飼育によって得られる知見が 天然の仔魚の生息環境 親魚の遊泳水深を知る手がかりとなり 2005 年のプレレプトセファルス幼生採集成功や 2008 2009 年の親魚捕獲成功へとつながりました 一方 天然の幼生の捕獲によって 人工ふ化仔魚飼育の目標が定まり 実際の捕獲水域の環境データを参考にして飼育環境条件の修正がなされました このように 2つの研究は互いに重要な情報を提供しあいながら 急速な進歩を遂げ 今世紀初めの飼育下でのウナギ稚魚の誕生と今日の海洋での生活史のほぼ完全解明へとつながったのです ( 図 3) 4. 稚魚誕生までの技術開発 1990 年代初めに養殖研究所がウナギ人工種苗生産技術開発に本格的な取り組みを始める以前は 人工ふ化は出来たものの 親魚として天然下りウナギを使っていたために確保できる実験魚の数と季節が限られていた上に 成熟誘起に成功する確率が低く 良質卵が得られることは極めてまれでした また まれに卵が得られても 雄の成熟がうまくいかず 活性の高い精子が用意できないために受精できなかったという残念なケースもありました さらに 千載一遇の好条件が重なってふ化仔魚が得られても 仔魚の餌の見当がつかないうえに仔魚が得られる機会が極めて偶発的であったためにさまざま な餌を準備することが出来ず 飼育実験を計画的に実施することが出来ませんでした 養殖研究所では 親魚として愛知県水産試験場で開発された雌化した養殖魚を用いることによって 周年にわたって豊富な実験魚を利用できるようになりました 従来の成熟誘起法では 良質卵を排卵させる成功率が低いという問題がありました その原因はサケの脳下垂体抽出液の注射によって卵黄形成を促進した後 最終成熟 排卵を促進するステロイドホルモン (DHP) を投与する適正なタイミングがつかめていなかったことであることを突き止めました そして卵巣中の卵を一部取りだして顕微鏡観察することによって 適正なタイミングを判定する技術を開発しました 雄の精子については 事前に採取して活性を確認した上 希釈して冷蔵保存することによって 卵が採れたときにはいつ 図 3. ニホンウナギの生活史 ( 推定 ) でも利用可能な状態で用意しておくことが出来 11

図4 ウナギの人工催熟法 るようになりました その結果 従来に比べて 仔魚が得られる機会が飛躍的に高まったことか ら 仔魚の餌の研究も計画的に実施できるよう になりました 図4 仔魚飼育を成功させるには有効な餌の探索が 最大の課題でしたが 養殖研究所や当時の日本 栽培漁業協会 現 水産総合研究センター栽培 漁業センター には さまざまな海産魚の仔魚 飼育の経験と技術があり 多くの研究者 技術 者の意見と協力によって さまざまな餌を試す ことが出来ました その結果たどり着いた有効 な餌の材料がサメの卵だったのです その後シ ラスウナギまでの飼育成功には 民間企業との 共同研究による飼料の改良も大きく貢献しまし た こうして 2002 年に飼育下でシラスウナギま で育てることに世界で初めて成功しましたが 親魚や卵 仔魚の質は依然として不安定で 仔 図5 飼育下でのウナギの変態過程 バー 10mm 12

魚には奇形が見られることが多く 成長速度は天然の半分程度にすぎない上に生残率は低く 目標とする安定的大量生産の実現には克服しなければいけない壁が数多く残されていました ( 図 5) 5. 稚魚誕生以降の進歩 2005 年に始まった官学連携のプロジェクト ³ では 水産総合研究センターおよび大学関係者 などわが国のウナギ研究に関わるほとんどの研 究者が結集して ふ化後 100 日目までの生残率 を従来の 10 倍に引き上げることを目標に 親 魚養成 催熟技術の向上 幼生の飼餌料開発お よび飼育環境の最適化などの課題に取り組んで います 水産総合研究センター養殖研究所のグループ は ふ化後 8 日目の生残率が 80% 以上である良 質卵の成分分析から ビタミン C 含量が高く ビタミン A や E が適量含まれていることが重要 であることを明らかにし 親魚への経口投与や 注射による投与でこれらの栄養素の卵への強化 と卵質の改善が可能であることを明らかにしま した 成熟誘起においては 従来は水温 20 で 実施していたのを 15 に下げると 最終成熟誘 起のタイミングを取りやすく良質卵が得られる 確率が高くなることが分かりました 卵および ふ化仔魚の飼育環境に関しては 従来よりも高 温 (24-25 ) 高塩分 (34-35 ) で最も奇形 の発生が少なくなることが明らかになりました この条件は 今年度 開洋丸の調査によって採 ³ 表. 給餌開始から日齢 100 までの生残率 (2007 年以降 ). 集されたプレレプトセファルスの生息環境と非常によく一致しています また 飼育水に卵白を 10ppm 程度添加することによって 仔魚が水面の表面張力によって空中に露出し 死亡するのを防ぎ 初期の生残率を高めることができることが示されました これにより 初期飼育の安定度が飛躍的に向上しました 飼育水槽内に発生する微生物が飼育初期の死亡に関与しており 水槽内を清潔に保つことが生残率向上に重要であることも明らかになりました これらさまざまな成果を総合して飼育を行うと プロジェクト開始前は 0.2% 程度だった給餌開始から日齢 100 までの生残率が 表のように大きく向上しました 現在は さらにその先のシラスウナギまでの生残率向上を目標として 研究が続けられています 6. 完全養殖に対する期待飼育下で初めてシラスウナギの生産に成功してからおよそ 7 年が経過し 水産総合研究センターでは完全養殖を目指して人工生産ウナギを親魚にするために養成を続けています ( 図 6) 人工種苗が養殖用種苗として実用化されるため 13

図 6 完全養殖が実現できれば 養殖用種苗としての天然シラスウナギ 催熟用親魚としての天然下りウナギが不要になり 天然資源への影響がなくなります には 大量生産のための餌と飼育方法の開発が ことによって病気や寄生虫の発生を根絶するこ 不可欠であり この課題に取り組んでいく必要があ とや 人工生産ウナギの世代を重ねることによっ ります て成長や肉質の優れた系統を作り出すことも期 人工種苗は季節を問わず生産が可能であるた 待できます 天然種苗以上に安心 安全で高品 め 特に需要が大きい早期種苗の供給に寄与で 質の人工種苗を安定供給し 将来的には 養殖 きる可能性もあります さらに 完全にコント 用種苗を全て人工種苗でまかなうことができる ロールされた環境下でシラスウナギを生産する ようになれば 天然資源に依存しない 理想的 な ウナギの完全養殖 が実現することになる のです 14