Untitled

Similar documents
ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

スライド 1

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

Untitled

論文の内容の要旨

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

研究成果報告書

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

-119-

Untitled

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

Untitled

Untitled

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

cover

Untitled

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

J Life Sci Res 2014; 12: Osaka Prefecture University Journal of Life Science Research Online ISSN

背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

STAP現象の検証結果

表1-4B.ai

Untitled

博士の学位論文審査結果の要旨

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

論文の内容の要旨

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

Untitled

Untitled

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

Microsoft PowerPoint - 市民公開講座19Feb2016文京区v8の配布用.pptx

H27_大和証券_研究業績_C本文_p indd

<原著>IASLC/ATS/ERS分類に基づいた肺腺癌組織亜型の分子生物学的特徴--既知の予後予測マーカーとの関連

Untitled

<4D F736F F D20834E E815B82CC8DEC90BB B835A838B838D815B835882F08E E646F6378>


長期/島本1

酵素消化低分子化フコイダン抽出物の抗ガン作用増強法の開発

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

Powered by TCPDF ( Title 造血器腫瘍のリプログラミング治療 Sub Title Reprogramming of hematological malignancies Author 松木, 絵里 (Matsuki, Eri) Publisher P

1-4. 免疫抗体染色 抗体とは何かリンパ球 (B 細胞 ) が作る物質 特定の ( タンパク質 ) 分子に結合する 体の中に侵入してきた病原菌や毒素に結合して 破壊したり 無毒化したりする作用を持っている 例 : 抗血清馬などに蛇毒を注射し 蛇毒に対する抗体を作らせたもの マムシなどの毒蛇にかまれ

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

研究成果報告書

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

【Webinar】顕微鏡観察だけでなく、定量的解析から見える事

研究成果報告書

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍における高頻度の 8q24 再構成 : 細胞形態,MYC 発現, 薬剤感受性との関連 Recurrent 8q24 rearrangement in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm: association wit

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

Untitled

Microsoft PowerPoint

Untitled

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

Msx2

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 中谷夏織 論文審査担当者 主査神奈木真理副査鍔田武志 東田修二 論文題目 Cord blood transplantation is associated with rapid B-cell neogenesis compared with BM transpl

<4D F736F F D C668DDA94C5817A8AEE90B68CA45F927D946791E58BA493AF838A838A815B83585F8AB28DD79645>

角田, 中村, 櫻田, 松田, 佐藤, 嘉山 Ⅰ. 緒言神経膠腫は全脳腫瘍の約 4 分の1を占める代表的な悪性脳腫瘍である 病理組織所見と臨床悪性度 ( 予後 ) の両者を併せた総合的な悪性度の分類としてWHO 分類が最も一般的に用いられており グレードⅠからⅣまでの4 段階に分けられている グレー

本文27/A(CD-ROM

パーキンソン病治療ガイドライン2002

27巻3号/FUJSYU03‐107(プログラム)

第101回 日本美容外科学会誌/nbgkp‐01(大扉)

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

tnbp59-20_Web:P1/ky108679509610002943

Microsoft Word - 学位論文内容の要旨 .doc

周期的に活性化する 色素幹細胞は毛包幹細胞と同様にバルジ サブバルジ領域に局在し 周期的に活性化して分化した色素細胞を毛母に供給し それにより毛が着色する しかし ゲノムストレスが加わるとこのシステムは破たんする 我々の研究室では 加齢に伴い色素幹細胞が枯渇すると白髪を発症すること また 5Gy の

2011 年 8 月 25 日放送第 74 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 1 会長講演 毛成長誘導の主役は毛乳頭細胞? 毛包幹細胞? 北里大学皮膚科教授勝岡憲生 はじめに毛髪の生物学的特性に関する基礎研究は ラットの髭から採取した毛乳頭細胞の培養の成功に端を発します 1980 年代初め Jaho

Taro-kv12250.jtd

平成18年3月17日

Microsoft PowerPoint - 2_(廣瀬宗孝).ppt

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

学位論文内容の要旨 Abstract Background This study was aimed to evaluate the expression of T-LAK cell originated protein kinase (TOPK) in the cultured glioma ce

様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 21 年 6 月 2 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :26 ~ 28 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 炭酸ガスおよび半導体レーザーによるオーラルアンチエイジング 研究課題名 ( 英文 ) Oral an

STAP現象の検証の実施について

Microsoft PowerPoint - 資料3-8_(B理研・古関)拠点B理研古関120613

コラーゲンを用いる細胞培養マニュアル

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

骨形成における LIPUS と HSP の関係性が明らかとなった さらに BMP シグナリングが阻害されたような症例にも効果的な LIPUS を用いた骨治癒法の提案に繋がる可能性が示唆された < 方法 > 10%FBS と 抗生剤を添加した α-mem 培地を作製し 新生児マウス頭蓋骨採取骨芽細胞を

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

Transcription:

上原記念生命科学財団研究報告集, 23(2009) 71. 間葉系細胞へ分化する能力を有するグリオーマ細胞の characterization と組織内局在 岩下寿秀 Key words: グリオーマ, 間葉系細胞,side population * 愛知医科大学医学部病理学講座 緒言腫瘍組織はヘテロな細胞集団であり,at random に増殖していると考えられてきたが, 最近の研究結果から腫瘍組織にも正常の組織と同様のヒエラルキーが存在する可能性が示唆されている. しかし, ヒエラルキー上位および下位にある腫瘍細胞の組織内における局在やその性格について分かっていないことが多い. そこで, 神経系悪性腫瘍である悪性グリオーマにグリア系細胞へ分化する方向にコミットした腫瘍細胞と分化の方向性が決定されていない未分化な腫瘍細胞の 2 種類が混在しているものと考え, その 2 種類の細胞の性格を決定することとそれらの相互関連について検討した. 方法 1. グリア系細胞への分化誘導ラットグリオーマ C6 細胞に camp (cyclic AMP) を加えると GFAP (glial fibrillary acidic protein) を発現するグリア系細胞へ分化する. 抗体が FACS(fluorescence activated cell sorting) に利用可能な 65 種類の細胞表面マーカーに対するプライマーを作製し,RT-PCR (Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction) を行い,cAMP を加えた分化する前後の細胞表面マーカーの RNA 量を比較した. 2. 免疫染色と FACS 一次抗体として抗 CD81 抗体, 抗 CD31 抗体, 抗 GFAP 抗体および抗 alpha SMA (alpha smooth muscle actin) 抗体を使用した. 二次抗体として Alexa 546 または Alexa 488 conjugated anti rabbit IgG,Alexa 546 または Alexa 488 conjugated anti mouse IgG を使用した.FACS では PE conjugated anti mouse IgG を使用した. 3. マイクロアレイ解析 CD81 陰性および陽性グリオーマ細胞から採取した RNA をビオチンラベルし, 約 27,000 probe sets が載っている Filgen 社製のマイクロアレイにハイブリダイズさせた. 統計処理には Filgen 社製の software を使用した. 4. Side population (SP) 解析 DNA 結合色素である Hoechst 33342 で CD81 陰性および陽性グリオーマ細胞を染色し, フローサイトメーターで縦軸に 424/440nm 横軸に 640/695nm を plot した二次元展開を行い, 通常の G0/G1 よりもさらに暗い部分である SP を観察した. 5. 間葉系細胞への分化誘導 (a) Smooth muscle or myofibroblast differentiation CD81 陰性および陽性グリオーマ細胞を TGF (transforming growth factor)-β 1(10ng/ml) 存在下で 3 日間培養し, 抗 alpha SMA 抗体にて免疫染色を行った. (b) Osteoblast differentiation * 現所属 : 浜松医科大学病理学第二講座 1

CD81 陰性および陽性グリオーマ細胞を dexamethasone (0.1μM),ascorbic acid (0.2mM),beta-glycerophosphate (10mM) 存在下にて 2 週間培養し,BCIP/NBT (5-bromo,4-chloro,3-indolylphosphate/nitro blue tetrazolium chloride) 溶液を加えて,alkaline phosphatase (ALP) 陽性細胞を顕微鏡下で確認した. 結果ヌードマウス皮下にラットグリオーマ C6 細胞の腫瘍を作製し, 抗 GFAP 抗体で免疫染色をすると, 血管の周囲に存在するグリオーマ細胞は GFAP が陰性の未分化な腫瘍細胞であると考えられ, 血管から遠い場所にあるグリオーマ細胞は GFAP が陽性のグリア系細胞にコミットした腫瘍細胞であると考えられた ( 図 1).GFAP の発現と相関する細胞表面マーカーを検索したところ, グリオーマ C6 培養細胞が camp によってグリア系細胞に分化する際,CD81 が有意に増加することがわかった. 抗 CD81 抗体を用いて免疫染色を行うと, 血管の周囲に存在するグリオーマ細胞が CD81 と GFAP が共に陰性であったが, 血管から遠い場所にあるグリオーマ細胞が CD81 と GFAP は共に陽性であった ( 図 2). 図 1. C6 グリオーマ皮下腫瘍における GFAP の組織内局在. C6 グリオーマ細胞 (50 万個 ) をヌードマウス皮下に移植して形成された腫瘍を 2 週間後摘出し,4% paraformaldehyde にて固定し, 凍結切片を作製した. 抗 GFAP 抗体 ( 赤 ) および血管内皮細胞に特異的な抗 CD31 抗体 ( 緑 ) によって免疫染色を行うと血管周囲の腫瘍細胞は GFAP を発現せず, 血管から遠い場所の腫瘍細胞は GFAP を発現している. 図 2. C6 グリオーマ皮下腫瘍における GFAP と CD81 の組織内局在. C6 グリオーマ皮下腫瘍を GFAP 抗体 ( 赤 ) および抗 CD81 抗体 ( 緑 ) によって免疫染色を行った.GFAP 陽性の大 部分の細胞は CD81 を共に発現するので黄色に染色されている. 2

ヌードマウス皮下腫瘍から FACS によって分取された CD81 陽性グリオーマ細胞を培養すると CD81 陰性グリオーマ細胞が生み出されたことから,CD81 陽性グリオーマ細胞が陰性グリオーマ細胞よりもヒエラルキーの上位に存在することが推測された. そこで,CD81 陰性および CD81 陽性グリオーマ細胞の遺伝子プロファイル ( マイクロアレイ解析 ) を行うと,CD81 陰性グリオーマ細胞ではⅠ 型 collagen, Ⅲ 型 collagen, Fibrillin-1 等の間葉系細胞に発現する遺伝子や P-glycoprotein が upregulation していた. 一方,CD81 陽性グリオーマ細胞では CNPase (2',3'-Cyclic Nucleotide 3'-Phosphodiesterase) や Proteolipid protein 等のオリゴデンドログリアに発現する遺伝子等が up-regulation していた.CD81 陰性グリオーマ細胞に P-glycoprotein が強く発現していたことから,SP analysis ( 血液幹細胞や筋幹細胞をはじめ, いろいろな組織の幹細胞が SP に存在する ) を行うと,CD81 陰性グリオーマ細胞の多くの細胞が SP に存在し,CD81 陽性グリオーマ細胞は non-sp に存在した ( 図 3). しかし,non-SP である CD81 陽性グリオーマ細胞の方が有意に高い腫瘍形成能および浸潤能を有していた. 図 3. CD81 陰性および陽性グリオーマ細胞の SP 解析. DNA 結合色素である Hoechst 33342 で CD81 陰性および陽性グリオーマ細胞を染色し, 縦軸に 424/440nm 横軸に 640/695nm を plot した二次元展開を行い, 通常の G0/G1 よりもさらに暗い部分である SP を観察した. P- glycoprotein の阻害剤である verapamil によって SP にある細胞は Hoechst 33342 を細胞内から排泄できず,Hoechst 33342 を細胞内に蓄積させ non-sp に移動する. CD81 陰性および陽性グリオーマ細胞を TGF beta 1 で刺激すると,CD81 陰性グリオーマ細胞のみに alpha SMA 陽性の smooth muscle または myofibroblast に分化した細胞が見られた ( 図 4). また, 骨芽細胞へ分化を誘導する培養条件下で は CD81 陰性グリオーマ細胞のみに ALP 陽性細胞の骨芽細胞様細胞が認められた ( 図 5). 3

図 4. CD81 陽性または CD81 陰性グリオーマ培養細胞の TGF-β1 による間葉系細胞への分化. TGF (transforming growth factor)-β 1(10ng/ml) 存在下で 3 日間培養し, 抗 alpha smooth muscle actin (alpha SMA) 抗体を用いて免疫染色を行った.CD81 陰性グリオーマ細胞のみに alpha SMA 陽性の smooth muscle または myofibroblast に分化した細胞が認められる. 図 5. CD81 陽性または CD81 陰性グリオーマ培養細胞の骨芽細胞様細胞への分化. CD81 陰性および陽性グリオーマ細胞を Dexamethasone (0.1μM), Ascorbic acid (0.2mM), betaglycerophosphate (10mM) 存在下にて 2 週間培養し,NBT/BCIP を加えて alkaline phosphatase (ALP) 陽性細胞を顕微鏡下で観察した.CD81 陰性グリオーマ細胞のみに ALP 陽性の骨芽細胞様細胞が認められる. 4

以上の結果から, 間葉系細胞に分化する能力を有する CD81 陰性グリオーマ細胞は CD81 陽性グリオーマ細胞から生じ, 血管の周囲に局在し,P-glycoprotein を発現する抗がん剤耐性の SP に相当する細胞であることが明らかになった. 考察 (1) ヒトに発生するグリオーマ症例の一部において間葉系細胞への分化が観察され, それに対して gliosarcoma という疾患概念が導入されたが, グリオーマの間葉系細胞への分化のメカニズムは現在のところ不明である. 我々の研究はグリオーマの間葉系細胞への分化のメカニズムを解明する端緒になるものと考えられる. (2)SP にある腫瘍細胞ががん幹細胞であると主張する論文が発表されている 1, 2). しかし, この研究で SP にある CD81 陰性グリオーマ細胞が non-sp にある CD81 陽性グリオーマ細胞より腫瘍形成能と浸潤能が低かったことは,SP にある細胞が必ずしもがん幹細胞の性格を持つとは限らないことを示している. 本研究の共同研究者は, 愛知医科大学医学部病理学講座の佐賀信介教授, 黒川景講師である. 文献 1) Kondo, T., Setoguchi, T. & Taga, T. : Persistence of a small subpopuplation of cancer stem-like cells in the C6 glioma cell line. Proc. Natl. Acad. Sci., 101 : 781-786, 2004. 2) Harris, M., Yang, H., Low, B., Mukherjee, J., Guha, A., Bronson, R., Shultz, L., Israel, M. & Yun, K. : Cancer stem cells are enriched in the side population cells in a mouse model of glioma. Cancer Res., 68 : 10051-10059, 2008. 5