話法 Celce-Murcia と Larsen-Freeman(1983, pp. 459-472) 高橋 根岸 (2014, pp. 290-305) に基づいて 話法について 通常の視点とは異なる視点から 概略的に述べる 1 話法 英語文法における 話法 という用語はいかなる意味なのかについて確認しておく 話法という文法用語は 簡単に言うと 発話の伝達方法 という意味である 1.1 直接伝達方法 ある発言をした人の発言において使用された言葉を 一切変えることなく そのまま他の人に伝える伝達方法を 直接伝達方法と呼ぶ 直接伝達方法は 一般に直接話法と呼ばれる しかし ここでは 直接伝達方法という用語を使用する 直接伝達方法の例として次のものが挙げられる John ( ジョン ) という人が 最近いろいろな困難に直面しているためか 友人トムと話しているとき I am unhappy. と言ったとする トムが家で母親と話しているとき ( 例文 1)John said, I am unhappy. と言ったとする この場合 この文は ジョンが言った言葉を 一切変更することなしに トムが母親に伝達している このように だれかの発言において使用された言葉を一切変更することなしに他の人に伝達する方法を直接伝達方法と呼ぶのである 1.2 間接伝達方法 これとは対照的に だれかの発言において使用された言葉を 一切変更することなしに他の人に伝達する方法によらず 従属節という形式を使用して伝達する方法を 間接伝達方法と呼ぶ 間接伝達方法は 一般に間接話法と呼ばれる しかし ここでは 間接伝達方法という用語を使用する 間接伝達方法の例として次のものが挙げられる John ( ジョン ) という人が 最近いろいろな困難に直面しているためか 友人トムと話しているとき I am unhappy. と言ったとする トムが家で母親と話しているとき ( 例文 2)John said that he was unhappy. と言ったとする この場合 トムは ジョンが言った言葉を一切変更することなしに母親に伝達するという行為を遂行していない トムは ジョンが言った言葉を that he was unhappy という that を先頭語とする従属節を使用して母親に伝達している このように だれかの発言において使用された言葉を一切変更することなしに他の人に伝達する行為を遂行せず 発言内容を that を先頭語とする従属節を使用して他の人に伝達する方法を間接伝達方法と呼ぶのである - 1 -
( 例文 2)John said that he was unhappy. において John said を伝達節 said を伝達動詞 that に続く節を被伝達節と呼ぶと 間接伝達方法は 表 1 のように表わすことができる 表 1 間接伝達方法 伝達節被伝達節例文 (2) John said that he was unhappy. 以後 間接伝達方法の目的で使用される文を 間接伝達方法文と呼ぶ 2 間接伝達方法における時制形 間接伝達方法において使用される動詞の時制形のパターンには次の 3 種類が考えられる 2.1 発言直後未遂文 第 1 に ある行為に関するだれかの発言を 発言直後に間接伝達方法により他の人に伝えようとする時 伝達動詞および被伝達節動詞共に 現在時制形を使用することが多いと言える このとき 被伝達節中に描写されている行為は未だ遂行されていない状況にある つまり 間接伝達方法文において 被伝達節における行為が未だ遂行されていない状況にある場合で こうした意味を有する文を だれかの発言直後に使用する時 発言直後未遂文と呼ぶ アメリカ人大学生の友人同士が 3 人でブロードウェー ミュージカルのレ ミゼラブルを見に行った場合を例にして考えてみよう 3 人の名前は ジョン トム ケンとする ジョンとトムはレ ミゼラブルがとても見たかった しかし ケンは 2 人に強く誘われたからついてきた ケンは 他の 2 人に 面白くなかったたら 上演途中でも帰るとあらかじめ断ってついてきた ジョン トム ケンと並んで座ってショーを見ていた 休憩時間が近づいて来たとき ケンがトムに耳元で何かを小声で言った 例文 (3)Ken: I am leaving during intermission. ジョンがトムにすぐに What did he say?( 今 ケンは何と言ったんだ ) と尋ねた このとき ケンは休憩時間の間に帰ると言っている とトムが言いたければ 次のように言うだろう この時 ケンはまだ休憩時間の間に帰るという行為を遂行していない状況にある 例文 (4)He says that he is leaving during intermission. この文を表 2 で表してみると 次のようになる - 2 -
表 2 発言直後未遂文 伝達節被伝達節例文 (4) He says that he is leaving during intermission. このとき 伝達動詞 says は動詞 say の現在時制形であること また 被伝達節中の動詞である被伝達節動詞 is は be 動詞の現在時制形であることに注意してほしい このように ある行為に関するだれかの発言を 発言直後に間接伝達方法により他の人に伝えようとする時 被伝達節における行為が未遂の場合 伝達動詞および被伝達節動詞共に 現在時制形を使用することが多いと言えるであろう 2.2 過去未遂文 第 2 に ある行為に関するだれかの発言を 発言後しばらくして間接伝達方法により他の人に伝えようとする時 伝達動詞は過去時制形で 被伝達節動詞は現在時制形を使用することが多いと言える このとき 被伝達節中に描写されている行為は未だ遂行されていない状況にある つまり 間接伝達方法文において 被伝達節における行為が未だ遂行されていない状況にある場合で こうした意味を有する文を だれかの発言後しばらくして使用する時 過去未遂文と呼ぶ アメリカ人大学生の友人同士が 3 人でブロードウェー ミュージカルのレ ミゼラブルを見に行った場合を例にして考えてみよう 3 人の名前は ジョン トム ケンとする ジョンとトムはレ ミゼラブルがとても見たかった しかし ケンは 2 人に強く誘われたからついてきた ケンは 他の 2 人に 面白くなかったたら 上演途中でも帰るとあらかじめ断ってついてきた ジョン トム ケンと並んで座ってショーを見ていた 休憩時間が近づいて来たとき ケンがトムに耳元で何かを小声で言った 例文 (3)Ken: I am leaving during intermission. ジョンがトムにしばらくして What did he say?( 今 ケンは何と言ったんだ ) と尋ねた このとき ケンは休憩時間の間に帰ると言った とトムが言いたければ 次のように言うだろう この時 ケンはまだ休憩時間の間に帰るという行為を遂行していない状況にある 例文 (5)He said that he is leaving during intermission. この文を表 3 で表してみると 次のようになる - 3 -
表 3 過去未遂文 伝達節被伝達節例文 (5) He said that he is leaving during intermission. このとき 伝達動詞 said は動詞 say の過去時制形であること また 被伝達節中の動詞である被伝達節動詞 is は be 動詞の現在時制形であることに注意してほしい このように ある行為に関するだれかの発言を 発言後しばらくして間接伝達方法により他の人に伝えようとする時 被伝達節における行為が未遂の場合 伝達動詞は過去時制形で 被伝達節動詞は現在時制形を使用することが多いと言えるであろう 伝達動詞において過去時制形が使用される理由は この文を発話したトムにとって ケンの発話はすでに過去の時間に属すると認識されていると考えられるからである 2.3 過去既遂文 第 3 に ある行為に関するだれかの発言を 発言後しばらくして間接伝達方法により他の人に伝えようとする時 伝達動詞は過去時制形で 被伝達節動詞は過去時制形を使用することが多いと言える このとき 被伝達節中に描写されている行為は既に遂行されている状況にある つまり 間接伝達方法文において 被伝達節における行為が既に遂行されている状況にある場合で こうした意味を有する文を だれかの発言後しばらくして使用する時 過去既遂文と呼ぶ アメリカ人大学生の友人同士が 3 人でブロードウェー ミュージカルのレ ミゼラブルを見に行った場合を例にして考えてみよう 3 人の名前は ジョン トム ケンとする ジョンとトムはレ ミゼラブルがとても見たかった しかし ケンは 2 人に強く誘われたからついてきた ケンは 他の 2 人に 面白くなかったたら 上演途中でも帰るとあらかじめ断ってついてきた ジョン トム ケンと並んで座ってショーを見ていた 休憩時間が近づいて来たとき ケンがトムに耳元で何かを小声で言った 例文 (3)Ken: I am leaving during intermission. 休憩時間にケンが劇場を出た後 ジョンがトムに What did he say?( 今 ケンは何と言ったんだ ) と尋ねた このとき ケンは休憩時間の間に帰ると言った とトムが言いたければ 次のように言うだろう この時 ケンはまだ休憩時間の間に劇場を出るという行為を既に遂行した状況にある 例文 (6)He said that he was leaving during intermission. この文を表 4 で表してみると 次のようになる - 4 -
表 4 過去既遂文 伝達節被伝達節例文 (3) He said that he was leaving during intermission. このとき 伝達動詞 said は動詞 say の過去時制形であること また 被伝達節中の動詞である被伝達節動詞 was は be 動詞の過去時制形であることに注意してほしい このように ある行為に関するだれかの発言を 発言後しばらくして間接伝達方法により他の人に伝えようとする時 被伝達節における行為が既遂の場合 伝達動詞は過去時制形で 被伝達節動詞は過去時制形を使用することが多いと言えるであろう 以上 発話の伝達方法について述べた 発話の伝達方法においては 時制形の一致がかかわることが多い 時制形の一致は 書き言葉 および 言語規則に忠実であろうとする口語においてしばしば適用される言語規則である しかし 上述のとおり 時制形の一致という言語規則に従わない言語使用が実際には見られる 発話の伝達方法という言語規則が いかなる文脈において どのように適用されているのかについて注意しながら英語学習をすることが重要である 3 間接伝達方法における言語形式変換 間接伝達方法によって発話内容を伝達するとき 発話において実際に使用された表現を適切に変換する必要が生じる場合がある 以下において 場合に分けて いかなる表現をどのように形式変換するのが適当なのかについて述べる 3.1 法助動詞 間接伝達方法文においては 次の理由により 法助動詞の使用法に注意を要する 例えば アメリカ大統領が 2024 年にオリンピックがアメリカで開催されると発表したとする 例文 (7) において コロンの後が アメリカ大統領の発言である 例文 (7)The U. S. president: The Olympics will be held in U. S. in 2024. 実際の発話である The Olympics will be held in U. S. in 2024. を間接伝達文であらわすと 例えば 例文 (8)The U. S. president said that Olympics would be held in U. S. in 2024. となる 例文 (8) を表であらわすと 表 5 のようにあらわすことができる - 5 -
表 5 法助動詞の形式変換 例文 (8) 伝達節 The U. S. president said that Olympics 被伝達節 would be held in U. S. in 2024. 表 5 中の例文 (8) を見ればわかる通り 伝達節における動詞である伝達動詞 said は動詞 say の過去時制形である また 被伝達節中の動詞である被伝達節動詞 would は法助動詞 will の過去時制形である したがって 例文 (8) は時制形の一致という文法規則が適用されている文であるから これを 時制形の一致文 と呼ぶことができる しかし 西暦 2024 年は未だ到来していないため 2024 年にオリンピックがアメリカで開催される という意味のことを言いたければ 例文 (9)The Olympics will be held in U. S. in 2024. のように言うことができる こうした事情があるとき アメリカ大統領が 2024 年にオリンピックがアメリカで開催されると発表した という意味の英文として 例文 (10) The U. S. president said that Olympics will be held in U. S. in 2024. が使用されることがある 例文 (10) を表であらわすと 表 6 のようにあらわすことができる 表 6 容認される時制形の不一致文 例文 (8) 伝達節 The U. S. president said that Olympics 被伝達節 will be held in U. S. in 2024. つまり 時制形の一致文ではない文を 時制形の不一致文 と呼ぶと 被伝達節の内容が発話時点において事実として正しい場合 時制形の不一致文も使用されることがある アメリカ大統領が 2000 年にオリンピックがアメリカで開催されると発表した という意味の英文としては すでに西暦 2000 年がすでに到来しているため 現時点において * 例文 (11)The U. S. president said that Olympics will be held in U. S. in 2000. と言うのは適当であるとは言えない *( アステリスク ) 印は その文が英語話者にとって一般的に容認されない文であることを示す - 6 -
表 7 容認されない時制形の不一致文 例文 (11) 伝達節 The U. S. president said that Olympics 被伝達節 will be held in U. S. in 2000. 例文 (11) が英語話者にとって一般的に容認されない文である理由は 表 7 における被伝達節の内容が 現時点において事実として正しいとは言えないからである 間接伝達方法文においては 上述の理由により 法助動詞の使用法に注意を要する 3.2 指示語 間接伝達方法文においては 次の理由により 指示語の使用法に注意を要する 例えば ボブが気心の知れた友人と共に 行き慣れない超高級料理店に招待されて出されたごてごてとした料理を見て こんなごてごてとした料理は好きじゃない と その気心の知れた同席した友人にそっと言ったとする 例文 (12)Bob: I don t like this fancy cooking. 例文 (12) において コロンの後が ボブの発言である 後日 その時の話を 別の場所で 別の友人に話す時 実際の発話である I don t like this fancy cooking. を間接伝達文であらわすと 例えば 例文 (13)I said that I didn t like that fancy cooking. と言うであろう 例文 (13) を表であらわすと 表 8 のようにあらわすことができる 表 8 指示語の形式変換 伝達節被伝達節例文 (13)I said that I didn t like that fancy cooking. 表 8 中の例文 (13) を見ればわかる通り 伝達節においては 例文 (12) における指示語 this は形式が変換され that に変化している これが 間接伝達文における典型的な指示語の形式変換の例である しかし 状況が変われば この指示語の形式変換が生じない場合が考えられる 例えば ボブが別の日にまた 行き慣れない同じ超高級料理店に別の気心の知れた友人と共に招待されたとする そして出された料理が先日のごてごてとした料理だとする そのとき ボブがその気心の知れた友人に 先日の経験を話し こんなごてごてとした料理は好きじゃないとあの時も言ったんだ とそっと言ったとする そのような事情であれば おそらくボブは次のように言うだろう - 7 -
例文 (14)I said that I didn t like this fancy cooking. 例文 (14) を表であらわすと 表 9 のようにあらわすことができる 表 9 指示語の形式不変換 伝達節被伝達節例文 (14)I said that I didn t like this fancy cooking. 例文 (12)Bob: I don t like this fancy cooking. 例文 (14)I said that I didn t like this fancy cooking. を比較すれば分かるとおり 例文 (14) は 例文 (12) の間接伝達文である しかし 例文 (12) において使用されている指示語 this は例文 (14) において that に変換されていない これは その指示語の指し示す指示対象物が 例文 (13) を発話したときは眼前にあったが 例文 (14) 発話したときは眼前になかったという異なる事情があるからである このような理由により 間接伝達方法文においては 指示語の形式変換については 具体的な事情を十分勘案した上で 適切な使用法を心がける注意が必要である 引用文献 Celce-Murcia, M., & Larsen-Freeman, D.(1983). The Grammar Book: An ESL/EFL Teacher s Course. Boston Massachusetts: Heinle & Heinle Publishers. 高橋潔 根岸雅史. (2014). 基礎からの新々総合英語. 東京 : 数研出版. - 8 -