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石井研雑誌会 No. 1154 M2 小倉一将 構造学的に見た Electron bifurcation はじめに Electron bifurcation は酵素反応の一種であり 酸化還元的な発エルゴン反応と吸エルゴン反応が共役するシステムのことを指す フラビンや鉄硫黄クラスターなど様々な電子伝達物質がこのシステムに関わっており その詳細な分子メカニズムは未解明な部分が多い 今回の雑誌会では Electron bifurcation 機構を持つタンパク質の例を紹介するとともに Electron bifurcation を行うタンパク質の構造解析を行った研究を紹介する Electron bifurcation 機構を持つタンパク質 1. Transmembrane bc1 complex 電子伝達系に関わるタンパク質であり 複合体 III とも呼ばれる このタンパク質が行う反応は Q サイクルと呼ばれ 還元型の CoQ からシトクロム c へと電子が渡されると同時にプロトンが汲みだされる タンパク質内の電子伝達物質としてはヘム [2Fe-2S] クラスターがあり [2Fe-2S] クラスターの 1 つの Fe 原子は特徴的な配位をするため 発見者の名をとって Rieske 中心と呼ばれる 構造解析が行われ X 線結晶構造が明らかになっている Wikipedia より引用 2. Electron transferring flavoprotein-butyryl-coa dehydrogenase (Etf-Bcd) complex 現在最も研究されている Electron bifurcation を行うタンパク質であり 電子伝達物質にフラビンが用いられていることから この反応は Flavin-based electron bifurcation と呼ばれる clostridia 属の酪酸形成の鍵酵素である 今回紹介する論文ではこのタイプのタンパク質を扱う 3. Heterodisulfide reductase (Hdr) メタン生成菌がもつ酵素で 水素または還元型 CoF の還元力を利用して CoM-S-S-CoB のジスルフィド結合を切断 ( 還元 ) し さらに還元力を他の物質に渡す機能を持つ 電子 1

伝達物質は FAD ヘム 鉄硫黄クラスターと 種によってさまざまである Hydrogenobacter thermophilus TK-6 でも相同性のあるタンパク質が見つかっており 硫黄代謝に関わるこ とが示唆されているがはっきりとした機能は分かっていない Wikipedia より引用 Studies on the mechanism of electron bifurcation catalyzed by electron transferring flavoprotein (Etf) and butyryl-coa dehydrogenase (Bcd) of Acidominococcus fermentans Nilanjan Pal Chowdhury, Amr M. Mowafy, Julius K. Demmer, Vikrant Upadhyay, Sebastian Koelzer, Elamparithi Jayamani, Joerg Kahnt, Marco Hornung, Ulrike Demmer, Ulrich Ermler, and Wolfgang Buckel THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 289, NO. 8, pp. 5145 5157, February 21, 2014 Background Electron bifurcation システムで最もよく研究されているのは electron transferring flavoprotein-butyryl-coa dehydrogenase(etf-bcd) 複合体である このタンパク質は clostridia 属の酪酸生産の鍵酵素であり クロトニル CoA をブチリル CoA に還元する反応及びフェレドキシンの還元反応と NADH の酸化反応を共役させている Electron bifurcation のさらなる知見を得るために 筆者らはグルタミン酸発酵を行うグラム陰性菌の Acidominococcus fermentus の Etf-Bcd 複合体 (EtfAf-BcdAf) の結晶構造解析を行い これらのタンパク質の生物化学 動力学的解析を行った 遺伝子の同定 Etf をコードする遺伝子は A. fermentus 内に 2 つ存在した formezane producing NADH-dependent assay と MALDI-TOF-MS による N 末端シークエンスにより グルタミン酸発酵条件で Acfer_0556(αサブユニット ) と Acfer_0555(βサブユニット ) が Etf として同定された Etf を大量に得るために大腸菌による異種発現を行った αサブユニットの C 末端に His-tag を付け 精製タンパク質を得た (Fig. 1) ゲルろ過によりヘテロ二量体を形成することが分かり HPLC でタンパク質内に 2 分子の FAD を持つことが示された 2

Acfer_1477 が Bcd として同定された ゲルろ過によりホモ四量体を形成することが示唆 された 分子内に 1 つの FAD を持つことが示された 動力学的解析 Etf Bcd NADH クロトニル CoA フェレドキシンがそろったときに Etf-Bcd 活性が確認され (1.5 U/mg(U = µmol/min)) 反応産物は NAD + ブチリル CoA H2 であった 活性測定系中のヒドロゲナーゼがフェレドキシンをリサイクルし Eq. 1 から Eq. 3 のような反応が行われたと考えられた NADH を NADPH に置き換えたところ 反応は見られなかった 反応に必要な NADH とクロトニル CoA の量比は 2:1 であり (Fig. 2A) 最も反応が効率よく進んだのは フェレドキシン : Etf: Bcd (tetramer) が 2:1:0.5 の時であった (Fig. 2B, C) これは Etf-Bcd 複合体が Figure 5 のような状態で働くことを示唆している NADH の量が 70 µm よりも多くなると Etf-Bcd の反応速度は阻害を受けた (Fig. 2D) これは複合体を形成しない Etf が NADH をトラップしているためであると考えられた ヒドロゲナーゼが存在しない条件で反応を行い フェレドキシンのスペクトラムを観察した (Fig. 2E) スペクトラムは DTT で還元した状態と一致し 反応によってフェレドキシンがほぼ 100% 還元されることを示した Etf Af の構造結晶構造解析により 1.6A の分解能の構造が得られた (Fig. 3A) またこれを人為的に 3 つのドメインに分けることとした ドメイン I(αサブユニット 5-199) ドメイン II(αサブユニット 215-340) ドメイン III(βサブユニット 1-219) ドメイン I とドメイン III は強力に相互作用していた 一方でドメイン II は柔軟なリンカーを持ち 2 つのドメインに覆いかぶさるように相互作用していた 2 分子の FAD が見られたが両方とも酸化型であった (α-fad β-fad) α-fad の結合 α-fad はドメイン II と III の境界に存在しており Arg-α253 Tyr-β40 Gln-α289 3

His-α290 などと相互作用していた (Fig. 4A) α-fad の N1-C2=O 部分はヒスチジン アルギニンなどの正電荷を持つアミノ酸と相互作用しており これが負電荷の FAD - FADH - の安定化につながり高い酸化還元電位を生み出していると考えられる (α-fad/α -FAD - E0 = +81 mv α-fad - /α-fadh - E0 = -136 mv) このため α-fad は Electron bifurcation を行うフラビンとしては適切でないことが示唆された β-fad の結合 β-fad はドメイン III の中に存在しており Thr-β25 Gly-β123 Arg-α146 などと強固に相互作用している (Fig. 4B) O2 は Asp-β93 Glu-β131 と向い合せになっており この反発がイソアロキサジン環の不安定化を招き 低い酸化還元電位を生み出している (β -FAD/β-FAD - E0 = -280 mv) したがって β-fad は Electron bifurcation のフラビンに向いていると考えられた Etf-NAD + 複合体の構造 NAD の電子密度は ADP 部分しか見られなかったため モデリングを行った (Fig. 4C) NADPH はタンパク質主鎖とぶつかるため存在できないことが示唆された モデリングされた NAD + はβ-FAD と相互作用しているが 一方で NAD + のリボース-ニコチンアミド部位は Ile-α157 Val-β223 Ser-β226 の側鎖とぶつかってしまう 実際には NAD の結合によってタンパク質の構造変化が起こるのではないかと考えられた Bcd Af の構造 結晶構造解析により 1.9A の分解能の構造が得られた Bcd はホモ四量体を形成しており それぞれに FAD(Dh-FAD) を有していた (Fig. 5) Etf Af -フェレドキシン Etf Af -Bcd Af の構造モデル C. acidiurici のフェレドキシンを用いて Etf とフェレドキシンの結合モデルを作成した (Fig. 6) 鉄硫黄クラスターとβ-FAD のイソアロキサジン環の距離は 6.5A であり 素早い電子伝達が可能であると考えらえた Etf と Bcd のモデル構造において α-fad と Dh-FAD の距離は 30A 以上であった 適切な電子伝達のためには少なくとも 14A が必要であり これを行うためにドメイン II の構造変化が必要であると考えられた ヒトの medium chain acyl-coa dehydrogenase-etf (MCAD-Etf) の構造データを用いて再び距離を測定したところ 10A となった α-fad β-fad 間の電子伝達 Etf 内の α-fad β-fad 間の距離は 18A であった 比較的柔軟に動くことができるド メイン II が構造変化することでその距離は 14A になった (Fig. 7) この構造変化はヒトの 4

MCAD-Etf でも確認されており NADH や Bcd の結合が構造変化の引き金になると予想さ れた 分光学的解析 Etf 内の FAD が NADH によってどのように還元されているかを調べた 大腸菌から精製された Etf に FAD を加えたところ ヘテロ二量体あたり 2 分子の FAD が結合していた (Fig. 8) 10 µm の Etf( つまり 20 µm の FAD を含む ) に 10 µm の NADH を加えたところ スペクトラムの形は酸化型 FAD と還元型 FAD を混ぜたピークと一致した (α-fadh - とβ -FAD) さらに 20 µm の NADH で FAD は完全に還元された状態になった (α-fadh - とβ-FADH - ) Etf を KBr で処理したところ 約半数の FAD が取り除かれた (Fig. 8) β-fad は Etf 内に強固に存在しているため 除かれたのはα-FAD だと考えられた この Etf(10 µm の FAD を含む ) に 10 µm の NADH を作用させたところ すべての FAD が還元された β-fadh - は電子をα-FAD とフェレドキシンに一つずつ渡さなければならない したがって セミキノン型のα-FAD - はβ-FADH から電子を受け取ってはいけないことになる Bcd が Etf の FAD 還元にどのような影響を与えるか調べた Bcd 四量体と Etf を 1:2 の比率で混合し NADH を加えたところ 1 NADH/Etf(=2FAD) で 370nm の吸光 ( セミキノン型 FAD のピーク ) が最も高くなった 一方で Bcd が存在しない条件では 0.5 NADH/Etf で 370nm の吸光が最も高くなった これは Bcd が結合することでα-FAD - がセミキノン型から還元型へ変換されるのを防いでいると考えられた また この系において NADH の代わりにブチリル CoA を加えたところ セミキノン型のα-FAD - が観察されたことから α-fad はβ-FAD と Dh-FAD をつなぐ電子キャリアとして働くことが示された (Fig. 9D, E) メカニズムの提唱ここまでの実験で Etf-Bcd 複合体では以下の反応が行われていると考えられた 1 NADH からβ-FAD へヒドリドが移動し β-fadh - を形成する (Fig. 10A, B) 2 β-fadh - からα-FAD へ電子が移動した後 ドメイン II の構造変化が起こり α -FAD - と Dh-FAD の距離が近くなる (Fig. 10C) 3 フェレドキシンと Dh-FAD が還元される (Fig. 10D) 4 1~3の手順が繰り返されクロトニル CoA がブチリル CoA に還元される (Fig. 10E-A) まとめ A. fermentans の Etf-Bcd 複合体の遺伝子を同定し タンパク質の X 線結晶構造解析を行った 動力学的解析 分光学的解析をすることで Etf-Bcd 複合体における Electron bifurcation の分子メカニズムを提唱した 5

感想 Electron bifurcation と構造解析という 自分の研究に直結したテーマの論文であり 参考になることが多かった 特に動力学的解析 分光学的解析の部分はこれから研究を進めていくフェレドキシン還元系の実験で非常に役立ちそうである 一方で 結晶構造解析を用いて反応の分子機構を解明することの難しさも改めて感じた 電子の受け渡しの一つを取っても 様々な結晶構造解析とモデリングを試みなければならないことからも相当な労力と努力が必要だろうと感じた また著者らは今回 結晶構造から反応機構を予測できたことで 他の Flavin-based electron bifurcation タンパク質でも同じような機構が予想できるであろうと述べているが この種類のタンパク質でも電子運搬体の種類は様々であり そう単純には行かないであろうと思った 6

参考 : フラビンのスペクトラム http://www.dojindo.co.jp/letterj/128/review/01.html より引用