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は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

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15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit


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改訂後改訂前 << 効能 効果に関連する使用上の注意 >> 関節リウマチ 1. 過去の治療において 少なくとも1 剤の抗リウマチ薬 ( 生物製剤を除く ) 等による適切な治療を行っても 疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与すること 2. 本剤とアバタセプト ( 遺伝子組換え ) の併用は行わな

己炎症性疾患と言います 具体的な症例それでは狭義の自己炎症性疾患の具体的な症例を 2 つほどご紹介致しましょう 症例は 12 歳の女性ですが 発熱 右下腹部痛を主訴に受診されました 理学所見で右下腹部に圧痛があり 血液検査で CRP 及び白血球上昇をみとめ 急性虫垂炎と診断 外科手術を受けました し

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

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対象疾患名及び ICD-10 コード等 対象疾患名 ( 診療行為 ) ICD-10 等 1 糖尿病 2 脳血管障害 3 虚血性心疾患 4 動脈閉塞 5 高血圧症 6 高尿酸血症 7 高脂血症 8 肝機能障害 9 高血圧性腎臓障害 10 人工透析 E11~E14 I61 I639 I64 I209 I

接歯や粘膜上皮に付着できない菌も組織定着が可能です ( 図 2) 口腔ケアが低下し異菌種間の凝集を仲介する細菌種の Fusobacterium や Actinomyces などが増えると プラーク量は一気に増加します ( 図 2) 徐々にプラーク内の嫌気度が増し 歯周病原菌 Porphyromona

浜松地区における耐性菌調査の報告

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2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子 高齢化社会を迎えていますが 基礎疾患を有する人々の増加とともに これらの菌による市中での侵襲性感染症が再び増加しており しかも重症化しやすく 死亡や重篤な後遺症を残す例も散見されています b 溶血性レンサ球菌の中でヒトの疾患と関連するのは A 群溶血性レンサ球菌 (GAS) B 群溶血性レンサ球菌 (GBS) そして C G 群レンサ球菌 (SDSE) の 3 菌種が特に重要です 本日は これら 3 菌種の病原性 臨床的 疫学的特徴 そして薬剤耐性の現状について 厚生労働省 新型インフルエンザ等新興 再興感染症研究事業 の中で 私が代表を務めます 重症型のレンサ球菌 肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析 その診断と治療に関する研究 の成績から その一端を述べたいと存じます 病原因子溶血性レンサ球菌は 図 -1 の上段に示すように 血液を溶かしながら培地上に発育してくる菌です GAS と SDSE の溶血性は強く GBS のそれはやや弱いのが特徴です GAS と SDSE は菌体表層から線維状に伸びた M タンパクを持ち これが宿主細胞への付着に関与して

います また,M タンパクは抗オプソニン活性を有し 宿主免疫系からの回避にも関わっています その他にも 組織壊死や菌の拡散を助長するストレプトキナーゼやヒアルロニダーゼといった酵素を産生し それらの産生が高まりますと壊死性筋膜炎や劇症型感染症といった特徴的な病態を引き起こします 一方 GBS では 菌体表層のポリサッカライドでできた莢膜が主要な病原性因子として知られ 中でも Ia Ib III 型が特に重要です 年齢分布と基礎疾患保有状況 3 菌種による侵襲性重症感染症の年齢分布は図 -2 に示します これらは 2010 年度に全国から収集され 解析された症例です 最も多かったのは SDSE (n = 271) 次いで GBS (n = 232) GAS (n = 131) の順でした このような症例の多くは 3 ヶ月未満の新生児にみられる GBS 感染症を除き 50 歳代以上で増加しているのが特徴です ただし 菌種別の発症年齢の分布をみますと 微妙な違いがあります GAS の平均年齢は 57 歳 若年層から 80 歳代と年齢は幅広く分布しています これに対し SDSE では 50 歳代から発症例が急速に増加し 平均年齢は 74 歳 60 歳代以上が 83% と圧倒的多数を占めています もうひとつの GBS による発症も 成人の平均年齢は 70 歳 60 歳以上が 78% に達しています 菌種による発症年齢の違いは基礎疾患保有状況とも密接に関連しています GAS 発症例では 53% SDSE では 71% GBS では実に 82% が基礎疾患を有していました 高齢者の多い SDSE と GBS 例ではさまざまな基礎疾患保持例が多く 特に GBS では糖尿病 悪性腫瘍 肝疾患などの保持例が他の菌種に比して有意に多い成績となっています いずれにしても 基礎疾患保持例では これら溶血性レンサ球菌に対する感染リスクは高いということであります 疾患の比較菌種別にみた感染症 ( 疾患 ) の違いは図 -3 に示します それぞれの菌種において敗血症例の割合が高いのですが 原因菌によって違いが見られます すなわち GAS は 別名化膿レンサ球菌ともいわれるように 壊死性筋膜炎 蜂窩織炎 化膿性関節炎等 化膿性疾患が多くみられています その他に 劇症型レンサ球

菌感染症 (STSS) も含まれています SDSE による感染症も GAS と同様の傾向が認められますが GAS よりも蜂窩織炎が多く 化膿性関節炎例では人工関節の挿入例の多いことが注目されます SDSE は GAS と同じような病原因子を持った菌なのですが いくつか保持していない病原因子があり その違いが重症度に反映されていると思われます 一方 成人の GBS 感染症では 敗血症が 56% を占めています この菌は組織壊死に関わる病原因子を有していないためか 劇症例は稀であります 予後の比較図 -4 は 3 菌種それぞれによる発症例の予後に関する成績です 死亡例 と 明らかな後遺症を残した例 を 予後不良 として集計しますと GAS では 22.1% SDSE では 17.3% そして GBS では 12.9% となっています もう少し詳しく死亡例における入院日数を調べてみますと GAS による死亡例は平均 1 日 SDSE では 3 日 GBS 例では 7 日の入院日数と差があります 特に後述するように 病原性の高い emm1 型で発症しますと 時間単位で悪化します 時間外受診例で溶血性レンサ球菌感染症が疑われる場合には 予後不良となりやすいことに留意し 速やかな対応が必要となります 予後不良例における血液検査値の特徴 成人発症例の入院直後の血液検査値と予後との関係を表 -1 に示します GAS 例 では WBC が 5,000/μl 以下であった症例中に占める 予後不良例 の

割合は 39% WBC が ³ 5,000/μl 以上であった症例群と較べると 予後不良の発生率 はオッズ比で 4.2 倍高くなっています PLT でも 13 10 4 /μl 以下の症例群の 予後不良例 は 予後良好群に較べオッズ比で 7.5 倍高くなっています 同様に SDSE 例 でも WBC が 5,000/μl 以下であった症例群の 予後不良の発生率 は 3.6 倍 PLT でも 4.5 倍と高くなっています 一方 GBS 例 では WBC あるいは PLT 値とも 予後不良例 と 予後良好例 の間に差は認められていません 菌の疫学と病原性との関係 GAS や SDSE の疫学解析には 病原性が明らかな M タンパクをコードする emm 遺伝子解析による型別法が世界的な主流となっています 図 -5 は 2010 年に収集された GAS 株の emm 型の成績ですが emm1 型が飛びぬけて多く しかも赤で示した死亡例や予後不良例が有意に多いことが示されています この傾向は欧米でも同様であります SDSE も M タンパクを保有していますが SDSE 株では emm 型 stg6792 型が優位でありましたが この菌の疫学成績は米国のそれとは明らかに異なっています 抗菌薬感受性と耐性遺伝子 2010 年収集株の GAS,SDSE および GBS の抗菌薬感受性を表 -2 に示します ちなみに GAS および SDSE では b ラクタム系抗菌薬に対する耐性株は報告されておりませんが

GBS では軽度耐性株がわが国から報告されています 私どもの成績でも 軽度耐性株が成人由来で 1% 程認められています 今後このような耐性菌が新生児重症感染症に多い莢膜 III 型に出現しますと 治療に難渋することが危惧されます ML 耐性では 3 菌種とも耐性株が存在し その割合が GAS では 55% SDSE で 19% GBS では 21% となっています 耐性菌はいずれも増加傾向にあります ニューキノロン系薬耐性菌は GBS で急速に増加し臨床的に問題となっています 薬剤の標的である DNA ジャイレースとトポイソメラーゼ IV に変異が生じています 耐性菌は GAS で 15% SDSE で 14% 程度ですが 成人由来の GBS 株は既に 60% が耐性で それらの莢膜型はほとんどが Ib 型です おわりにまとめを申し上げますと 溶血性レンサ球菌による市中型重症感染症の対策には 三つのことがあげられます 第一に 予防として 基礎疾患を含めて生活習慣病などの改善が挙げられます 第二には発症例に対する治療薬ですが レンサ球菌に対しては基本的にペニシリン系薬です そして, 第三に抗菌薬の的確な選択とその適正使用のためには 正確かつ迅速な検査と持続的サーベイランスが必要です