前川の水質実態とその浄化についての提言 吉田重方 ( 名古屋大学名誉教授 ) 東郷町環境課
Ⅰ はじめに図 1に示すように東郷町内には境川に直接 あるいは間接的に流入するいくつかの小河川と雨水幹線排水路がある このうち 前川は愛知池周辺の丘陵地を水源とした全長約 6km の河川であり その河川水は直接 町内の最大河川である前述の境川に流下している 東郷町では愛知池 ~ 前川 ~ 境川に至る河川とその周辺をグリーンベルトと位置づけ 多様な生物が生存 生息し 住民が安らぎを求めて集える環境に改善することを町の基本計画で提案している 1) ここでは 現在の前川の水質実態を明らかにするとともに その浄化対策の指標について取りまとめた Ⅱ 前川の水質実態 表 1 は BOD 水質の類型区分 2) に従ってまとめた平成元年 ~19 年度にかけての東郷町 内の河川と雨水幹線排水路の年平均水質 ( 春季 秋季 冬季の 3 回調査 ) の年次変化を示 す 表 1 水質類型区分よりみた町内河川 雨水幹線排水路の BOD の年次推移 調査河川 (No.) 調査年度 1 2 3 4 5 6 7 8 9 平成元年 F F D C D F E D - 2 F F F D C D F E - 3 F E F E D D F F - 4 F F E E D D F E - 5 F F D D C D F F - 6 F F E D D D F F - 7 F F F D F D F F - 8 F F E E D D D F - 9 F F F C E D F F - 10 F E E C E C F F - 11 F F D C D D E F - 12 F E F C C C D E - 13 F F E C D C F E - 14 F E (D) C D D F F - 15 F F D C F C F F - 16 F D C C C C F D - 17 F D D C C C F E - 18 F D D C B D D F E 19 F C D B C F F F D (D) 年度内 3 回調査のうち異常値を除いた2 回調査の平均値 No.1 千子川 No.6 境川 ( 下流 ) 類型 AA:1mg/L 以下 No.2 春木川 No.7 長池雨水幹線排水路 A:2mg/L 以下 No.3 羽根穴川 No.8 三ッ池雨水幹線排水路 B:3mg/L 以下 No.4 前川 No.9 西の川 C:5mg/L 以下 No.5 境川 ( 上流 ) D:8mg/L 以下 E:10mg/L 以下 F:10mg/L 以上 前川 (No.4) の水質は平成元年 から平成 9 年にかけては不安定に推 移していたが 平成 10 年以降 C 類型 (5 mg /L) となり 安定して改 善されていることがうかがえる さ らに 平成 19 年は B 類型 (3 mg /L) まで改善されていた それに比べて 他の河川 雨水幹線排水路の水質は 悪く とくに千子川 (No.1) で は経年に伴う水質改善は全く認めら れなかった また 雨水幹線排水路 (No.7,8) の水質は概して河川の ものに比べて悪かった このように 前川の水質は町内河川 雨水幹線排 水路の中では最も良好といえる
一方 境川に設けた愛知県の類型区分によれば 境大橋 ( 大府市 ) より下流域は類型区分 C(5mg /L) に 新境橋 ( 刈谷市 ) より上流域は類型区分 B(3mg /L) に指定されている それより上流に位置する町内の境川では 当然 類型区分 B(3mg /L) 以上となることが求められている 3) しかし 平成 19 年度の境川の町内上流の調査地点 (No.5) では水質区分 C, 下流調査地点 (No.6) では水質類型 Fとなっており 明らかに水質は基準値より悪い状況にあった 上記の町内下流調査地点における水質悪化には前川以外の町内河川 雨水幹線排水路からの汚濁水の流入が大きく関わっていることは言うまでもない さらに 前川においても安定して良質の水質を維持するためには さらなる浄化が必要である 図 2は前川におけるBODの時季別年次推移を示す 前川の水質はいずれの時季においても平成 9 年度まで高濃度で大きく変動したが それ以降は比較的低濃度で推移した 時期別にみると 秋季は春季 冬季に比べて低く 平成 19 年度には1.9 mg /Lとなった また 冬季と春季を比べると平成 1 0 年以降 常に冬季の方が高く 平成 19 年では春季では3.0mg /L 冬季では3.8mg/Lであった 冬季においてBOD 濃度が高く推移する主な原因はBOD 濃度の高い生活排水が農業排水や降雨水で希釈されることなく河川に流下することによるものと推察される したがって 前川のBOD 浄化には生活排水の浄化が不可欠と考えられる 河川の水質はBOD 以外にもいくつかの要因について規制されている 表 2は水環境に関わる汚濁物質と有害物質を示す 4) これまでの調査では 東郷町内の河川から有害物質( 重金属 有機塩素系化合物 農薬など ) は全く検出されなかった しかし 栄養物質である全窒素と全リン濃度が高く また 大腸菌群数やふん便性大腸菌群数が多いことが報告されている 5) 前者には農業排水に由来するものも含まれるが 前 後者とも生活排水に由来するものが大部分である とくにふん便性大腸菌群数は温血動物や人間のふん便に由来するものである 東郷町内での牛や豚およびニワトリなどの家畜飼養数が少ないことを勘案すれば その汚染源は家庭からの浄化槽排水によるものと推察される
表 2 水環境に関わる汚濁物質および有害物質 有機性汚濁浮遊物質にごり酸素濃度栄養物質大腸菌群数有害物質 BOD ( 生物化学的酸素要求量 ) COD ( 化学的酸素要求量 ) SS ( 浮遊物質 ) 透視度 透明度 DO ( 溶存酸素濃度 ) 全窒素 (T-N) 全リン (T-P) 大腸菌群数 ふん便性大腸菌群数 重金属等 有機塩素系化合物等 農薬その他 有機性汚濁の指標の1つ 微生物により5 日間に消費される酸素量 (mg/l) で示される この値が高いほど有機性汚濁が進行していることを意味する 河川等の有機性汚濁の指標として用いられている BODと同じく有機性汚濁の指標とされ 酸化剤 ( 過マンガン酸カリ ) で酸化するときに消費される酸素量 (mg/l) で示される 湖沼や閉鎖性海域の有機性汚濁の指標として用いられて いる 粒径 2mm 以下の水に溶けない懸濁物質のことを指し 無機性のものと有機性のものから構成される その値が高いほど汚濁が進行していることを意味する また そのものは沈降した場合 河川などの汚泥層 ( ヘドロ ) の原因物質となり その腐敗分解によって水中の酸素濃度が低下し 底泥に棲む魚類や貝類の生息を脅かす 水中に含まれる浮遊物質やコロイド物質などによる濁りの程度を示す指標であり 透視時計という底部に流出管についたメスシリンダーに水を入れ 底部に置いた白色板の二重黒線 ( 太さ :0.5mm) が識別できる限界の深さ (1cm:1 度 ) で表わす 透明度板と呼ばれる直径 30cmの白色円板を水中に吊るし 識別できる限界の深さで示す 水深の深い湖沼や海域で用いれれる 水中に溶け込んだ酸素濃度 (mg/l) を指し BODやCODとは逆にその値が低いほど汚染が進行していることを意味する コイなどの腐敗物を食用とする魚などでは2~3mg/Lno 水中でも生息できるが 一般の魚では4~5mg/L 以下では生息できないとされる 溶存態の無機窒素 ( アンモニア態 硝酸態 亜硝酸態 ) と有機態窒素および懸濁態窒素より構成される 生活排水 農業排水および工場排水などから供給される藻類や植物プランクトンの著しい増殖を誘発する物質である また 湖沼や閉鎖性水域でのアオコや赤潮の発生原因ともなる 窒素と同様に生活排水 農業排水および工場排水から供給される富栄養化原因物質である 藻類や植物プランクトンの異常増殖をもたらし 水質悪化を規制する重要な塩類であ人や動物のふん便中には大腸菌が生息しているため ふん便による汚染の程度を知るために用いられきた しかし 大腸菌群には人や動物の腸内に生息する細菌以外に 水中や土壌中に生息する菌も計数される欠点がある しかし 両者を区分して測定することが困難であるため 大腸菌汚染の指標として古くより用いられてきた 水質環境基準としては 50 ~50000MPN/100ml 以下とされている ふん便に由来する大腸菌群を示す これまで水浴場の可否評価は大腸菌群数を基準 (5 10 4 MPN/100ml 以下で可 ) としたが 現在はふん便性大腸菌群数を基準 (1000 個 /100 ml 以下で可 ) としている 水質汚濁防止法では 以下の物質を有害物質として許容濃度が設定されている カドミウム 鉛 六価クロム 砒素 水銀 アルキル水銀, セレン PCB, トリクロロエチレン テトラクロロエチレン ジクロロメタン 四塩化炭素 1,2-ジクロロエタン1,1-ジクロロエチレン シスー 1,2-クロロエチレン 1,1,1-トリクロロメタン 1,1,2-トリクロロエタン 1,3-ジクロロプロパンチウラム シマジン ベンチオカーブベンゼン ホウ素 フッ素 硝酸 亜硝酸 表 3 は平成 19 年度における前川の時季別および年平均の流量および水質を示す ph は 7.4~7.7( 年平均値 :7.5) の狭い範囲内にあり 平成元年 ~ 平成 18 年度間の平均値と同程度であった 一般に降雨水の ph は大気中の二酸化炭素や大気汚染 酸性ガスである硫酸や硝酸ガスを吸収しているために弱酸性を示すが 土壌との接触時間 水質項目 平成 19 年度春季秋季冬季年平均 平成元年 ~18 年平均 ph 7.4 7.7 7.4 7.5 7.4±0.2 EC(mS/m) 19 25 23 21 34.5±37.9 *** 流量 (m 3 / 秒 ) 6.4 2.5 4.2 4.4 6.3±3.2 透視度 (cm) * 31 31 31 31 30.1±2.2 溶存酸素濃度 (mg/l) 9.2 11.0 14.0 11.4 10.2±0.7 BOD(mg/L) 3.0 1.9 3.8 2.9 5.6±2.0 COD(mg/L) 5.3 3.7 4.9 4.6 6.1±0.9 SS(mg/L) 7 0 2 3 7.8±7.2 T-N(mg/L) 2.0 3.0 4.4 3.4 3.6±0.6 T-P(mg/L) 0.2 0.21 0.24 0.22 0.31±0.09 大腸菌群数 (MPN/100mL) 1.2 10 5 2.0 10 3 2.1 10 4 4.8 10 4 7.1 10 4 ~5.8 10 4 ふん便性大腸菌群数 ( 個 /100mL) **** 1.3 10 3 5.2 10 2 1.5 10 2 6.6 10 2 1.6 10 3 ふん便性大腸菌群数 / 大腸菌群数 100(%) 1.1 26 0.7 1.4 1.3 NO 3 -N(mg/L) ** 1.3 2.0 1.4 1.6 - NO 3 -N/T-N 100(%) 65 66 32 47 - *:30cm 以上は 31 と表示 **: 平成 19 年度より調査 ***: 平成 4 年度冬季の異常高値を除く ****: 平成 17 年度より調査 表 3 平成 19 年度の前川の水質 の長い場合には土壌の イオン交換作用などで 中性化する それとは 逆に藻類の異常増殖し た水中の ph は溶存す る二酸化炭素の消費に よってアルカリ化する ことが知られている 6) したがって 同河川水 は水田などの農地や宅 地排水などを主な水源 とするものと考えられ る
ECは 水中の無機イオンの総量を示す指標であり イオン濃度が大きいと高くなる 山林域を水源とする河川水では低い値をとる 7) これに対して 農地からの肥料成分や生活排水が流入する河川水では高い値となる 本河川のEC 値は先年度 ( 平成元年 ~ 平成 18 年度 ) のものに比べて低く 農地や生活排水からの汚染水の流入が低下していることがうかがえる また 流量は先年度のものに比べて減少していた 上記のようなECや流量の減少原因の一つは 下水道整備に伴う生活排水の流入量の低下によるものと推察される また 春季の流量が秋 冬季のものに比べて多い原因は農地の主体を占める水田からの代かき 田植えに伴う水田排水の流入によるものと考えられる 30cm以上の場合 31cmと記した透視度調査ではいずれの時季とも31cmとなり 先年度のものと大差はなかった 溶存酸素濃度 (DO) は水中に溶けている酸素濃度を意味し その濃度が低いほど河川の有機汚染が進行し 魚類や底泥生物が生息し難い状況となっていることを意味する 前川のDOは9.2~14.0mg /L( 年平均 :11.4mg/L) と極めて高く 先年度よりもやや改善されていた BODおよびCODは有機性汚濁の指標とされるものである とくにBODは微生物によって分解される易分解性有機物を指し その増加はDOの低下に結びつき易い 毒物以外の原因で生じる河川での魚類の大量壊死の多くは上記の水中の溶存酸素濃度の低下によるものである 前川のBODは1.9~3.8mg /L( 年平均 :2.9mg/L) であり 先年度のものに比べて低く 改善されていた しかし 愛知県の水質類型基準によると 東郷町を含む境川上流域のBODは3.0mg /Lとされ 同流域に流下する前川でもBODがさらに改善されることが望ましい CODもBODと同様に先年度よりも改善されていたが 季別ではBODと同様に秋 冬時季に比べて春季で最も高かった 春季における流量が秋季に比べて高いにもかかわらず BODやCODが高い原因は代かきや田植えに伴う汚濁落水の流入によるものと推察される このことは 春季に高いSS 濃度を示すことからもうかがえる 栄養物質であるT-NやT-Pは農地への施用肥料および浄化槽処理排水や台所 風呂などからの生活雑排水に由来する それらの濃度は春季や秋季に比べて冬季において高く 家庭排水が主たる原因とみなされた また それらの栄養物質も先年度に比べて改善されていた 大腸菌群は主に人や温血動物の腸内に生息する細菌を指すが 土壌など広く生息する細菌の一部も含まれる 平成 19 年度の前川の年平均大腸菌群数は先年度のものとほとんど変わらなかったが 春季では10 5 MPN/100mL 秋季では10 3 MPN/100mLと時季による差異がみられた 上にも記したように大腸菌群にはふん便中の大腸菌群以外に土壌や水中に由来する大腸菌群が含まれるために浄化槽から河川に流出する大腸菌群を把握するためには ふん便性大腸菌群数を区別して計測することが不可欠である ふん便性大腸菌群数は平成 17 年度より調査を開始したが 平成 19 年度におけるふん便性大腸菌群数は春季を除き やや菌数低下がみられた また 大腸菌群数に占めるふん便性大腸菌群数の比率は 春 冬季では約 1% 程度であったが 秋季では26% と顕著に高かった
硝酸性窒素 (NO 3 -N) は平成 19 年度より調査を開始した項目であるが 秋季では春季 や冬季に比べてやや高く 年平均では 1.6 mg /L であった また T-N に占める NO 3 -N の比率は春季では 65% 秋季では 66% であるのに対して冬季では 32% と顕著に低か った その原因は 冬季の低温による硝酸化成能の低下によるものとみなされる 表 4 は平成元年から 19 年にかけて調査した水質結果から得られた BOD とその他の水 質要因との相関をまとめたものである 表 4 年平均値よりみた前川のBODと他水質要因との相関 BODはCOD T-N T-PおよびS 水質要因相関係数 Sと正の相関があり その中でもCO 流量 -0.173 DやT-Nとの間には有意性が認めら溶存酸素濃度 -0.425 れた これに対して 流量と溶存酸素との間には負の相関があったが 両者 COD SS 0.708 *** 0.024 間には有意性は存在しなかった この T-N 0.609 ** T-P 0.271 ことは COD あるいは T-N を測定す ることによって前川の BOD の状況を ある程度 把握できることを意味する ** : 1% 水準で有意 *** :0.1% 水準で有意 表 5 は BOD と時季別に調査した COD T-N および溶存酸素濃度との相関を示す B OD は COD と正の相関を示すが その相関は冬季 秋季 春季の順に高く 冬 秋季で は有意性が確認できた BOD と T-N との間にも正の相関があったが 両者の間には冬季 においてのみ有意性が認められた これに対して 溶存酸素濃度との間には春季と秋季に おいて正の相関があったが 有意性は春季においてのみ認められた 一般に BOD と溶存 酸素濃度との間には負の相関が存在する ことが多く 上記の結果と一致しなかっ た その原因は不明であるが BOD は 30 5 日間に消費する酸素濃度を示 すものである 前川の春季における水流 は早く また 河川長が約 6km と短い したがって BOD の高い汚濁水が前川 に流入したとしても調査地点までに要す る時間は短く 河川中の溶存酸素濃度が 十分低下するのに要する時間がなかった ことによる可能性が高い 水質要因 COD T-N 溶存酸素濃度 表 5 時季別にみた前川の BOD と COD T-N および溶存酸素濃度との相関 * :5% 水準で有意 ** :1% 水準で有意 *** :0.1% ッ水準で有意 春季 秋季 冬季 0.265 0.516** 0.926*** 0.265 0.349 0.615* 0.502* 0.270-0.198 表 6 はふん便性大腸菌群数の調査を開始した平成 17 年度以降の季別の大腸菌群数とふ ん便性大腸菌群数を示す 大腸菌群数は 1.7 10 3 ~2.8 10 5 MPN/100mL 生 息し 年度や時季により 10~100 倍程度の差異があった また 時期では 18 年度を 除き 秋季に低い値を示すことが多かった 一方 ふん便性大腸菌群数は 1.5 10 2 ~ 3.9 10 3 個 /100mL 生息し 平成 17 年度は秋季 平成 18,19 年度は冬季に最 も減少していた ふん便性大腸菌は人や家畜の腸内細菌に由来するものであり 牧場や養
鶏場の家畜由来のものが限定さ れている前川では その由来は住 宅地の浄化槽に由来するものが 大部分であると考えられる 営農 活動が低下して河川水への住宅 排水の影響がより直接的に反映 するとみなされる冬季のふん便 性大腸菌群数は 平成 17 年度で は 1.5 10 3 18 年度では 3.6 10 2 19 年度では 1. 5 10 2 と年次の進行に伴って 低下傾向を示した 同流域では下 水道整備が行われている状況にあり 下水道への接続が住宅地からのふん便性大腸菌の流 下を抑制した可能性が高い このことについては 同河川を流域とする各地区の下水道整 備状況や下水道接続率等を精査し 評価する必要がある また 表には大腸菌群数に対す るふん便性大腸菌群数の比率が示してある 同比率は 0.7~26.8% と時季および年 度によって大きく異なっていた その中でも秋季において高い値をとることが多かった 同時季におけるふん便性大腸菌群数は他時季のものと大差なく その原因は大腸菌群数の 低下によることは明らかである その原因は現在のところ不明であるが 前記のように大 腸菌群は土壌や水中にも生息しているために田畑から河川への流出水量が減少することが 起因している可能性がある これまで河川の水質は BOD を基準として判断されることが多かったが 河川と人との ふれあいを基準として水質を評価しようとするときには BOD だけでは不十分である とくに河川を水遊び場とする場合 水中の有害微生物の存在が重要な評価基準となる これまでも水浴場としての基準が設けられており 大腸菌群数が 5 10 4 MPN/100m L 以上 ふん便性大腸菌群数が 10 3 /100mL 以上の場合は不可と評価されている 8) 図 3 は上記の基準に 基づいて前川における 平成 17~19 年度の 計測値をプロットした ものである その結果 11 プロッ トのうち 7 プロットが 上記の基準から外れて いた また 適合した 4 プロットは秋季 (10 月 調査 ) の 3 プロット ( 平 成 17 年 平成 19 年 表 6 平成 17~19 年度における前川の時季別大腸菌群数およびふん便性大腸菌群数 年度 時季 大腸菌群数 a) ふん便性大腸菌群数 b) b/a 100 (MPN/100mL) ( 個 /100mL) (%) 春季 2.8 10 5 3.4 10 3 1.2 17 秋季 3.5 10 3 2.2 10 2 6.3 冬季 9.2 10 4 1.5 10 3 1.6 春季 6.8 10 4 3.9 10 3 5.7 18 秋季 8.8 10 4 7.5 10 2 0.9 冬季 9.3 10 4 3.6 10 2 0.4 春季 1.2 10 5 1.3 10 3 1.1 19 秋季 2.0 10 3 5.3 10 2 26.8 冬季 2.1 10 4 1.5 10 2 0.7 20 春季 9.4 10 4 9.5 10 2 1.0 秋季 1.7 10 3 3.1 10 2 18.2
平成 20 年 ) と冬季 (2 月調査 ) の 1 プロット ( 平成 19 年 ) であり いずれの年度でも 水遊びに最適な春季 (6 月 ) では基準値以上に汚染が進行していた したがって さらな る水質浄化が求められる Ⅲ 前川の水質浄化対策 図 4 は前川とその周辺環境の概略を示す 前川 の源流域は 現在 愛知池となっている町北部の 丘陵地にあったが 現在の水源は南木戸上池およ び下池を水源とする小口川と篠木池を水源とす る篠木川である 下流に向かって前川の右岸に位 置する小口川には丘陵地に開発された押草 白鳥 御岳地区および県営諸輪住宅からの生活排水が 流下したのち 前川に流入する さらに 小口川 と前川の合流地点より下流から前川の水質調査 地点 ( 図 1 No4) 間には諸輪地区の生活排水 と右岸に沿って広がる田畑からの農業排水が混 ざり合って前川に設けられている排水溝を通し て前川に流下している 一方 前川の左岸には水 田が多く存在し 住宅地が少ない ただ 篠木川 上流には一軒の大規模養鶏場がある これら前川 右岸の排水は篠木川を通して あるいは直接 排 水溝を通して前川に流下している したがって 前川の右岸排水は生活排水の影響を強く受け 左 岸排水は農業排水の影響を強く受けているもの とみなされる そこで 図 3 に示したふん便性大腸菌汚染の原因を明らかにするために 小口川および篠 木川と前川の合流地点 (No.14 No.15) と前川の水質調査地点 (No.4) に おけるふん便性大腸菌群数と有機性汚濁物質量 (BOD COD) を調査した その結果 表 7 に示すように ふん便性大腸菌群数 は平成 20 年春季では篠木川で最も少 なく 小口川で最も高かった さらに 平成 20 年秋季には小口川のふん便性 大腸菌群数が 3.1 10 3 から 4.1 10 2 まで低下していた この低下に は同河川を集水域とする地区における 浄化槽から下水道への接続率の増加が 表 7 篠木川 小口川および前川のふん便性大腸菌群数 BOD および COD 河川名調査地点ふん便性大腸菌群数 BOD COD 調査時季 (No.) ( 個 /100mL) (mg/l) (mg/l) 篠木川 15 5.0 10 2 2.6 6.5 小口川 14 3.1 10 3 4.8 11.0 前川 4 9.5 10 2 3.5 4.8 篠木川 15 7.8 10 2 1.7 3.3 小口川 14 4.1 10 2 3.1 6.3 前川 4 3.1 10 2 2.4 3.1 春季 (H20.6) 秋季 (H20.10) 大きく起因しているものと考えられる また 前川のふん便性大腸菌数は春季には上記の 2 河川の中位にあったが 秋季には最も低かった 有機性汚濁の指標である BOD や CO
D は春 秋季とも篠木川に比べて小口川において高かった 表 8 には小口川 篠木川および前川の ph,ec 形態別無機態窒素および無機 態リン酸濃度を示す ph EC および 無機態リン酸濃度は小口川と篠木川間 で大きな差異はみられなかったが 小口 川の無機態窒素濃度 (NH 4 -N NO 3 -N) は篠木川に比べて高く 窒素汚濁 が顕著であることがうかがえた このことから 小口川から流下するふん便性大腸菌群数 や窒素濃度の高い有機性汚濁排水が比較的良質の篠木川の水によって希釈されるため 前 川の調査地点では小口川のものより低下したものと考えられる 表 8 篠木川 小口川および前川の水質 ( 平成 20 年 10 月 ) 水質項目 河川篠木川小口川前川 ph 水素イオン濃度 7.3 7.4 7.3 EC(mS) 電気伝導率 0.22 0.23 0.19 NO 3 -N(mg/L) 硝酸性窒素 3.4 4.8 2.0 NO 2 -N(mg/L) 亜硝酸性窒素 t t t NH 4 -N(mg/L) アンモニウム態窒素 0.8 2.0 0.7 PO 4 -P(mg/L) リン酸態リン 1.73 1.66 0.58 t:0.009mg/l 以下 したがって 前川の水質浄化には小口川に流れ込む生活排水の水質改善と篠木川の水量 増加が有益な手段となりえるものと考えられる 前者の生活排水の水質改善については 多く設置されている単独浄化槽からの下水道への接続が最も有効であるが それ以外にも 現在 稼動している単独浄化槽の適切な運転と浄化槽排水の消毒および下水道未接続住宅 からの生活雑排水の浄化が緊急の課題となる さらに 生活排水の流入した小口川での植 生による直接的浄化や休耕田などを利用した間接的浄化を行ったのち 前川に流下させる ことがさらに有効とみなされる 一方 やや小口川より水質の良い篠木川の水質浄化には 雨水や湧水を利用した希釈効果による改善が望まれる このことは 上記の単独浄化槽か ら下水道への接続に伴って生じる前川の水量を確保する上からも不可欠である この場合 でも ふん便性大腸菌群数の低下を図るために養鶏場排水の適切な管理が望まれる さら に 上記の 2 河川と前川の調査地点間で直接前川に流下する諸輪地区の住宅からの生活排 水の浄化も前川の水質改善に大きく影響するものと考えられる この点に関しては すで に下水道整備を終えた諸輪地区における下水道接続率を高めることが必要である Ⅳ まとめ東郷町には愛知池から前川を通じて境川に至る河川域をグリーンベルトと位置づけ 河川敷の整備や河川水質およびその周辺景観を良好に保ち 町民にレクレーションや保養の場などとして多目的利用しようとするグリーンベルト構想がある その試みの 1 つとして 現在 境川の河川敷にテニスコートやドッグラーンフィールドが整備され 愛知池を取り巻く周辺道路には遊歩道が設けられ ウオーキング等に広く利用されている また 6 月上旬には前川の吉田橋周辺にはヒメボタルが飛び カワセミも飛来することもあるとの情報も寄せられている しかし 前川から境川に至る河川堤防や法面は 一部区間の草刈等による環境整備は行われているが 大部分は年間を通して放置され 雑草や潅木に覆われた状況下にある また 前川の水質はこれまでも東郷町内の他河川に比べて良好であるが 川遊びができるほどきれいとはいえない 環境省による 人と河川の豊かなふれあいの確保 を基準とした評価では 川の中に入って遊ぶことができるにはふん便性大腸菌群数が10 3 個 /100mL 以下であることが求め
られている 9) しかし 前川の現状は上記の基準を十分に達成しているとはみなし難い その原因の主体は前川の右岸の丘陵地に位置する住宅地からの生活排水に由来する浄化槽排水によるものと推察された したがって 前川右岸からの高濃度のふん便性大腸菌を含む高有機性汚濁水の流入軽減が不可欠である そのためには下水道整備と下水道への接続率の向上 単独浄化槽から合併浄化槽への転換および生活雑排水の浄化が求められる それ以外に 比較的水質の良い篠木川の水量を確保し その希釈効果が前川の水質改善に有効と考えられる 引用文献 1. 東郷町都市計画課 : 東郷町グリーンベルト構想 (2002) 2. 愛知県 : 平成 16 年度版環境白書 水環境 p.52 (2004) 3. 愛知県 : 公共用水域及び地下水の水質調査結果 p.77(2007) 新項目設定の背景と意義について 特集 水質環境基準の追加項目の意義と処理技術 環境技術 29 279-282 (2006) 4. 東郷町経済建設部環境課 : 境川の健康診断 - 東郷町域 東郷町内河川における大腸菌群の生息実態 p.1-9(2008) 5. 山本勝博 井上晴貴 : 初瀬川の水質調査に基づく河川の環境改善についての考察 環境技術 29 386-392 (2000) 6. 梅本諭 駒井幸雄 : 山林域小河川における栄養塩類の濃度変動と流出特性 国立環境研究所研究報告 No.144, 101-113(1999) 7. 愛知県健康福祉部生活衛生課 : 平成 17 年度海水浴場調査実施要領 (2005) 8. 岡下淳 : 新しい河川の水質指標とその試行について 用水と廃水 49 40-4 6(2006)