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H19年度

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水防法改正の概要 (H 公布 H 一部施行 ) 国土交通省 HP 1

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<GK クルマの保険 ( 車両保険 )> ( 自動車によるあて逃げに限ります ) お客さまのおクルマは 車両保険 に加入していますか? 自動車保険の車両保険では 一般車両 もしくは 10 補償限定 のいずれでも 台風や集中豪雨による洪水の事故が対象となります 地震 噴火またはこれらによる津波 によっ

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これだけは知っておきたい地震保険

(/9) 07 年に発生した地震の概要. 佐賀県の地震活動 07 年に佐賀県で震度 以上を観測した地震は 9 回 (06 年は 85 回 ) でした ( 表 図 3) このうち 震度 3 以上を観測した地震はありませんでした (06 年は 9 回 ) 表 07 年に佐賀県内で震度 以上を観測した地震

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ハザードマップポータルサイト広報用資料

177 箇所名 那珂市 -1 都道府県茨城県 市区町村那珂市 地区 瓜連, 鹿島 2/6 発生面積 中 地形分類自然堤防 氾濫平野 液状化発生履歴 なし 土地改変履歴 大正 4 年測量の地形図では 那珂川右岸の支流が直線化された以外は ほぼ現在の地形となっている 被害概要 瓜連では気象庁震度 6 強

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地震保険と当社31 経社会活動資料編保険金の支払 1-1 保険 日 の 1-2 保険 日 の 保険の の 保険 保険の の 保険 保険 の 100% 保険 の 60% の 60% 保険 の 30% の 30% 保険 の 100% 保険 の 50% の 50%

目次 1. はじめに 2. 津波警報改善の方向性及び検討会の検討事項 2.1 津波警報改善の方向性 2.2 検討会の検討事項 3. 検討会での議論の概要 意見募集結果 3.1 検討会における意見 3.2 提言案に対する一般や自治体の意見 4. 提言 4.1 津波警報や津波情報の見直しに関する基本方針

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目次 第 Ⅰ 編本編 第 1 章調査の目的 Ⅰ-1 第 2 章検討体制 Ⅰ-2 第 3 章自然 社会状況 Ⅰ-3 第 4 章想定地震 津波の選定条件等 Ⅰ-26 第 5 章被害想定の実施概要 Ⅰ-37 第 6 章被害想定結果の概要 Ⅰ-48 第 7 章防災 減災効果の評価 Ⅰ-151 第 8 章留意

図 2. 函館市周辺地図 ( 枠内 : 調査地域 ) 侵入 さらに奥まで波が伝わったとされる. さらに, 函館湾側の被害が大きかったのは, 函館が砂州に広がる市街地であることに加え, 波の侵入した場所が 市街の密集した地域であった ことを結論づけている ( 佐藤,1998). 他にも建設省国土地理院

「次世代スーパーコンピュータ戦略プログラム」 分野3 防災・減災に資する地球変動予測 提案概要

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2. 津波被害の概要 2.1 津波とは (1) 津波の発生海底の地下浅い場所で大きな地震が発生したときに その地震によって海底の地殻変動 ( 隆起 沈降 ) が起こる この海底の変形に伴って海面が変動し あたかも池に石を投げ入れた時のように波となって四方に広がっていくのが津波である 地震で海底の広い範囲が急激に隆起あるいは沈降すると, その上にある海面が瞬時にほぼ同じ形で上下に変動する これが津波発生の最初の形である 図 2-1 プレート境界型の大規模な地震によって津波が発生する様子 ( 出展 : 津波防災マニュアル 気象庁 ) (2) 津波の特徴 1 波長海域で吹いている風によって生じる波浪は海面付近の現象で 波長 ( 波の山から山 または谷から谷の長さ ) は数メートル~ 数百メートル程度である 一方津波は 地震などにより海底地形が変形することで周辺の広い範囲にある海水全体が短時間に持ち上がったり下がったりし それにより発生した海面のもり上がりまたは沈みこみによる波が周囲に広がって行く現象である 津波の波長は数キロから数百キロメートルと非常に長く これは海底から海面までのすべての海水が巨大な水の塊となって沿岸に押し寄せる このため津波は勢いが衰えずに連続して押し寄せ 沿岸での津波の高さ以上の標高まで駆け上がる さらに 浅い海岸付近に来ると波の高さが急激に高くなる特徴がある また 津波が引く場合も強い力で長時間にわたり引き続けるため 破壊した家屋などの漂流物を一気に海中に引き込むこともある 図 2-2 津波と波浪の違い ( 出典 : 気象庁 HP) 4

2 伝搬津波は 海が深いほど速く伝わる性質があり 沖合いではジェット機に匹敵する速さで伝わる 逆に 水深が浅くなるほど速度が遅くなるため 津波が陸地に近づくにつれ後から来る波が前の津波に追いつき 波高が高くなる 水深が浅いところで遅くなるとはいえ オリンピックの短距離走選手なみの速さで陸上に押し寄せるため 普通の人は走って逃げ切れない 図 2-3 津波の伝わる速さ ( 出典 : 気象庁 HP) 3 陸上への浸水大津波の場合 津波が防潮堤などの護岸を越流して陸上に浸水し その津波エネルギーによって 甚大な人的 物的損害を被ることになる また 浸水する時だけではなく 津波が引く時も流れが大きく 大きな被害を生む 障害物がない海岸や河口付近では 段波上に遡上して流速が 3~5m/s になるため 危険度が極めて高くなる 浸水域は川に沿って市街地に伸び 河口付近では漁船や漂流物などの流れ込みのため被害が集中することもある 津波は周期が長いため 少しでも開口部があると そこから海水が陸上に浸水する また下水管を伝わって内陸に浸水した例もある 切り立った地形に津波が遡上した場合は 沿岸での津波の高さ程度まで浸水する また 地形によっては より高いところまで津波が這い上がることもある 図 2-4 津波の遡上 ( 北海道南西地震による津波 ) ( 出典 : よくわかる津波ハンドブック東海 東南海 南海地震津波研究会,2003) 4 繰り返しの発生津波は複数回押し寄せる 10 回以上押し寄せることもあり 第 2 波 第 3 波が最も大きくなる傾向がある また 津波がくる前には潮が引く というのは間違いであり 突如として大きな波が襲来することもある ( スマトラ沖地震 ) 5

スマトラ沖地震 インド洋大津波 : タイ 図 2-5 インド洋大津波 津波について説明があるサイト 茨城県河川課 http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/doboku/01class/class06/tsunami/index.html 石垣島地方気象台 http://www.okinawa-jma.go.jp/ishigaki/tmanual/home.htm 兵庫県 http://gakusyu.hazardmap.pref.hyogo.jp/bousai/tsunami/opening.html 岩手県山田町 http://www.town.yamada.iwate.jp/05_bousai/tunami.html 6

2.2 津波被害の事例 (1) 過去の津波被害記録我が国における津波被害の記録としては 北海道南西沖地震が記憶に新しいところである 津波被害の具体的な記録は それ程多くは残っていないが 昭和に入って チリ地震津波 三陸地震津波 昭和南海地震 日本海中部地震などがある 記録が残っている津波被害は表 1-1 のとおりである 表 1-1 過去の津波被害 西暦 年号 月日 地震名称 特質 1707 年宝永 4 年 10 月 28 日 宝永地震 遠州灘津波高 3~5m 1731 年享保 16 年 10 月 7 日 岩代 ( 宮城県南部 ) 1736 年享保 21 年 4 月 30 日 仙台東方沖 1793 年寛政 5 年 2 月 17 日 陸前 陸中 磐城 1854 年安政 1 年 12 月 23 日 安政東海地震 遠州灘津波高 4.5~7m 1896 年明治 29 年 6 月 16 日 明治三陸地震 津波高最大 38.2m 1897 年明治 30 年 2 月 20 日 宮城県沖 1933 年昭和 8 年 3 月 3 日 昭和三陸地震 津波高 10m 以上 ( 最大 28.7m) 1944 年昭和 19 年 12 月 7 日 東南海地震 遠州灘津波高 1~2m 1946 年昭和 21 年 12 月 21 日 昭和南海地震 1960 年昭和 35 年 5 月 22 日 チリ地震津波 津波高八戸 5m 志津川で約 1km 遡上 1964 年昭和 39 年 6 月 16 日 新潟地震 液状化現象 1968 年昭和 43 年 5 月 16 日 十勝沖地震 1978 年昭和 53 年 6 月 12 日 宮城県沖地震 仙台新港津波高 49cm 1983 年昭和 58 年 5 月 26 日 日本海中部地震 1993 年平成 5 年 7 月 12 日 北海道南西沖地震 津波高最大 31m 1994 年平成 6 年 12 月 28 日 三陸はるか沖地震 津波高宮古 55cm 2004 年平成 16 年 12 月 26 日 スマトラ沖地震 津波による死者行方不明者約 30 万人 7

(2) 津波による被害津波高 1m 程度以下の場合では顕著な被害は想定されていないが 2m 以上となると建物の全壊が生じるとされている 図 2-6 津波の大きさと被害の程度 ( 出典 : 東北大学災害制御研究センター津波工学研究報告. 首藤伸夫,1992) 注意! 津波の高さが 50cm 程度になると 成人でも津波によって生じる流れは無視できなくなります 水位が膝を超えると自由を奪われ転倒するなどのおそれがでてきます 実際 1983 年 ( 昭和 58 年 ) の日本海中部地震では 青森県十三湖河口から逃げる人が 70cm の津波に追いつかれ 9 人のうち3 人が帰らぬ人となりました 8

被害事例 昭和三陸地震 地震概要 被害状況 発生日時 昭和 8 年 3 月 3 日 死者 行方不明者数 1,408 名 1,203 名 震源 岩手県釜石市東方沖約 200km M8.1 住居被害 6,357 戸 最大震度 震度 5 最大津波高 28.7m 明治の津波の教訓が生かされたものの 冬の真夜中の発生であったため大惨事となった 強烈な地震だったため 殆どの人が目覚めたが 冬に津波は来ない 強い地震の時は津波は ない などの誤った言い伝えを信じた者もいた 三陸はこの津波と明治三陸地震津波とで 津波常習地として世界的に名が知られ Tsunami という国際語ができた 図 2-7 昭和三陸地震による被害 ( 左 : 釜石市右 : 大船渡市 ) 出典 : 左 : 東北地方整備局釜石港湾事務所 HP 右 : 岩手県立博物館 HP 北海道南西沖地震 地震概要 被害状況 発生日時 平成 5 年 7 月 12 日 死者 行方不明者数 172 名 26 名 震源 北海道南西沖 M7.8 住居被害 6,849 戸 最大震度 震度 6( 推測 ) 最大津波高 29m 震源に近い奥尻島では 昭和 58 年 5 月 26 日発生の日本海中部地震の際に津波による被害 ( 奥尻町青苗地区で4mを超えたところがあったものと推測された ) を受けており 住民は自らの判断で地震発生直後から着のみ着のままで高台へ避難するなど その時の教訓が生かされた しかし 津波の来襲が極めて早く また その規模も予想をはるかに上回る大きな津波であったことから 多くの人々が逃げ遅れ多くの生命を失う結果となった 図 2-9 北海道南西沖地震による被害 ( 出典 : 奥尻町 HP) ( 左 : 津波により陸上げされた漁船の重油による引火右 : 土留めのコンクリート擁壁の倒壊 ) 9

被害事例 昭和南海地震 地震概要 被害状況 発生日時 昭和 21 年 12 月 21 日 死者 行方不明者 1,330 名 113 名 震源 和歌山県潮岬南南西沖 78km M8.0 住居被害 11,591 戸 最大震度 震度 5 最大津波高 4~6m 安政地震で多少の津波に対する知識は持っていたが 地震の揺れ方が大船に乗ったように ゆさゆさとゆったり4,5 分続いても家屋の倒壊が少ないので安心して 津波が来るということが頭にピンとこず 油断していた 図 2-8 昭和南海地震による被害 ( 徳島県 ) ( 左 : 牟岐町 道路に押し上げられた漁船右 : 牟岐町 津波来襲後の様子 ) 出典 : 徳島気象台 HP 図 2-9 昭和南海地震による被害 ( 高知県 ) ( 左 : 須崎町 津波による惨状右 : 須崎市 船入れ場に流れ込んだ木材 ) 出典 : 高知県危機管理部 HP 10

2.3 津波浸水予測シミュレーション津波が道路に及ぼす被害については 津波浸水予測シミュレーションの結果により想定することとする 津波被害軽減対策計画策定の基礎資料となる津波浸水予測結果としては 中央防災会議の各専門調査会の報告書と それを基に各自治体で実施した予測結果とがある 解説 各自治体が行う津波浸水予測シミュレーションについては 中央防災会議報告書内容を踏襲した中で 地形のメッシュデータの精度向上 ( 中央防災会議 50m メッシュ ) および過去の津波被害の実績を考慮した津波浸水予測を実施していることが多い (1) 津波高さについて 用語 1 津波高 2 津波水位 3 津波浸水深 4 津波遡上高 表 2-1 津波における用語の定義定義平均満潮位から水面高さの最大値基準面からの水面の高さ陸域において現地盤からの津波高さ津波が河川等を遡上した時の最大高さ 2 3 4 1 図 2-10 津波高さの定義 ( 出典 : 和歌山県 HP) 被害区分 床上 ( 全壊 ) 床上 ( 半壊 ) 床上 ( 軽微 ) 床下浸水 浸水深 (H) 木造建物 非木造建物 2.0m~ - 1.0m~2.0m - 0.5m~1.0m 0.5m~ ~0.5m ~0.5m 浸水の目安 2 階の軒下まで浸水する程度 (5.0m) 1 階の軒下まで浸水する程度大人の腰までつかる程度大人の膝までつかる程度 図 2-11 浸水イメージ ( 出典 : 和歌山県 HP) 11

(2) 浸水予測シミュレーション津波浸水の予測については 一般的に以下の手順で実施する 1 津波外力 ( 対象地震 ) の想定 2 地形データの作成 3 初期条件等の設定 入力 4 再現シミュレーション 5 予測シミュレーション 6 計算結果の出力 図 2-12 津波浸水予測計算の流れ ( 出典 : 津波 高潮ハザードマップマニュアル ( 財 ) 沿岸開発技術研究センター,2004) また ハザードマップ作成における諸条件は 表 2-2 に示す諸条件を対象とする 浸水予測 浸水予測図の作成の詳細においては 様々な文献等に記載されているため ここでは割愛する 表 2-2 津波ハザードマップ作成時の諸条件項目津波ハザードマップ作成時の諸条件津波外力 1. 地震断層モデル 2. 地震断層モデルで表現される初期水位地形条件 3. 格子間隔 4. 標高 5. 河川地形条件潮位 6. 潮位 ( 天文潮 ) 構造物条件 7. 構造物条件 8. 構造物の地震被害解析法 9. 津波数値解析手法 12

浸水予測図事例 津波浸水予測図例 ( 和歌山県 ) 図 2-13 浸水予測図の例 ( 和歌山県 )( 出典 : 和歌山県 HP) 津波ハザードマップ公開状況 国土交通省河川局 HP http://www1.gsi.go.jp/geowww/disapotal/publicate/index.html 全国の津波ハザードマップの公開状況とインターネット公開している自治体については日本地図よりサイトへリンクしている 13