開発途上国におけるICT 技術を活用した道路分野 ODA 事業のあり方に関するプロジェクト研究 (CIM 技術 ) JICA 社会基盤 平和構築部運輸交通 情報通信グループ第一チーム 建設技術研究所 建設技研インターナショナル 1
1. 背景その 1 一般的に 開発途上国では 先進諸国と比較し 技術人材数 能力 予算が不足しているため 道路事業全般にわたり 調査 設計 品質管理の不備に伴う初期欠陥 補修対策の欠陥の事例が報告されている また 維持管理段階では 対処療法的な管理が 道路施設寿命の短命化 ライフサイクルコストの増加を招いている さらに 建設年度 調査 設計 諸元 品質管理情報など 維持管理に必要な情報が不明な施設が多数存在することや 該当情報へのアクセス性が低い環境下にあるといった課題が挙げられる 開発途上国が抱える課題の解決に向け 調査 設計 品質管理 並びに維持管理等 一連の道路事業管理における効率的なシステムの構築が求められる中 その一手法として ICT 技術の活用が期待される 他方 我が国が掲げる 質の高いインフラ の観点からは 道路インフラの建設生産性システムの効率化を図ることも重要である 2
1. 背景その 2 生産性向上の一つの手段として Construction Information Modeling/Management( 以下 CIM) に関する研究 開発が 進められている CIM 技術は CIM モデル (3 次元測量 / 図面データ 属性情報 ) を活用することにより 道路事業の川上の測量 計画から道路事業進捗段階に合わせて CIM モデルを連携 発展させ 情報の利活用 設計の最適化 施工の高度化 効率化 維持管理の効率化 情報の一元化等の一連の道路事業マネジメントシステムの効率化 高度化を図るものとして期待されている 道路事業上流側 道路事業下流側 作成 計画モデル 追加 更新 調査モデル 連携 発展 追加 更新 設計モデル 追加 更新 施工モデル 追加 更新 管理モデル 利用利用利用利用利用 CIM モデルを共有する場 ( モデル空間 ) 関係者で共有 出典元 : 国交省カ イト ライン 3 出典元 : 米国におけるCIM 技術調査 2013: 土木学会
2. 課題 調査の目的 方法 CIM 技術の特徴 1 CIM モデルは 収用情報 ( 幾何情報 属性情報 ) の自由度が高く 多くの情報が収用される 2 活用範囲 期間が広く 関係者が多い 多種多様な効果が得られる CIM 実装の問題点 1 CIM モデルの収用情報は 使用目的 ( 効果 ) に沿って決定される したがって 使用目的をあいまいとしたまま運用した場合 モデル構築の無駄 ( 幾何情報 属性情報の入力 ) を生み 不効率を招く 2 多くの効果が期待できるが 効果を得るために解消すべき課題も付随する 課題の中には 解消に時間を要する課題もある 課題解消せず導入した場合 不整合が生じる 1 CIM 技術活用による様々な効果を一つ一つ分解し 活用目的を明確にする 2 効果特定に併せて 解消すべき課題を特定する 分解した効果の優先順位を決定し 課題解消の都度 CIM 機能を部分的に事業へ導入することにより 実装の迅速化を図る あるいは CIM 技術以外の別の手法により該当する効果を得る 目的 1: 日本及び先進国の事例に基づき CIM 技術の効果 課題が道路事業業務プロセス沿って体系化される 目的 2: 日本及び先進国のCIM 技術の実装に係る現状の制度基準 / 取り組みが明らかになる 調査方法 : 日本及び先進国の文献調査と並行して 道路事業の業務プロセスに沿っ 4 て CIM 技術の効果 課題を整理した 併せて 制度 取り組みを整理した
3. 効果の体系 番号 1 2 3 効果機構 ( メカニズム ) 機械化による業務の半自動化 フロントローディング コンカレントエンジニアリング 凡例 : 効果が発現する業務 : フロントローテ ィンク により一時的に負荷がかかる業務 官主導で実施される効果 民主導で実施される効果 実施されていない効果 取組成果 (outcome) 道路事業プロセス効果 / 目的状況 (output) 定性的定量的日先進測設入施維協な成果な成果本国量計札工持議 3 次元測量 / 計測による現場幾何条件取得の簡素化 歩掛の情報化施工 (ICT 土工 ) による施工能力向上業務の 27% 品質 出来形管理の簡素化効率化 向上数量算出支援 現場条件把握の正確性向上による工法選択の適正化 部材の干渉チェック ( 本設 ) 合意部材の干渉チェック ( 仮設 ) 事業費 形成の時系列の不整合チェックの 迅速化事業者間の業務調整 20% 情報一元化に事業の発注単位間の業務調整削減 よるフ ロシ ェクトマ 品質 1 発注単位の施工部隊 ネシ メント支援確保 資機材共有者間の業務調整 工期の 3 次元可視化事業者間の業務調整 10% 縮 手戻りによる事業の発注単位間の業務調整減 防止関係者間理解 1 発注単位の施工部隊 の向上資機材共有者間の業務調整 3つの効果メカニズムと10 種の使用目的 1 機械化による業務の半自動化 :ICT 機械の性能を活かして 既往の業務の時間短縮 大量データの取得を簡素化すること 2フロントローディング : 業務の初期工程 ( フロント ) に負荷をかけ ( ローディング ), 作業 検討を前倒しで進めること 3コンカレント エンジニアリング : 製造過程において 各部門間で情報共有を行い 複数の工 5 程を同時に行うことにより 施工期間の短縮やコストの削減を行うこと
3. 効果の体系 番号 1 効果機構 ( メカニズム ) 機械化による業務の半自動化 凡例 : 効果が発現する業務 : フロントローテ ィンク により一時的に負荷がかかる業務 官主導で実施される効果 民主導で実施される効果 実施されていない効果 取組成果 (outcome) 道路事業プロセス効果 / 目的状況 (output) 定性的定量的日先進測設入施維協な成果な成果本国量計札工持議 3 次元測量 / 計測による現場幾何条件取得の簡素化 27% の情報化施工 (ICT 土工 ) による施工能力向上業務の 歩掛品質 出来形管理の簡素化効率化 向上数量算出支援 ドローン測量 MG による施工 3 次元幾何情報 機械化による業務の半自動化の使用目的 ( 効果 ) UAV 等による現地の3 次元幾何情報データ取得の短期化 情報化施工による施工能力向上 出来形管理支援による管理の簡素化 数量算出支援による出来高等把握の簡素化 出来形管理支援 成果業務の効率化を生み 27% の歩掛向上 ( 土工 ) 6 出典元 : 欧州におけるCIM 技術調査 2014: 土木学会
3. 効果の体系 番号 2 効果機構 ( メカニズム ) フロントローディング 凡例 : 効果が発現する業務 : フロントローテ ィンク により一時的に負荷がかかる業務 官主導で実施される効果 民主導で実施される効果 実施されていない効果 取組成果 (outcome) 道路事業プロセス効果 / 目的状況 (output) 定性的定量的日先進測設入施維協な成果な成果本国量計札工持議現場条件把握の正確性向上による工法選択の適正化 合意形成の部材の干渉チェック ( 本設 ) 迅速化 部材の干渉チェック ( 仮設 ) 品質確保 手戻り防止時系列の不整合チェック 高密度配筋の干渉チェック 出典元 :2017 施工 CIM 事例集 ( 日建連 ) 複雑な構造物の施工ステップ検討 ( 時系列の不整合チェック ) フロントローディングの使用目的 ( 効果 ) 本設 仮設の干渉チェックによる手戻防止 下流側で検討していた事項を前倒し 時系列の不整合チェックによる無駄防止で検討し 手戻りを防止 7 工法選定の適正化による品質確保
3. 効果の体系 番号 3 効果機構 ( メカニズム ) コンカレントエンジニアリング 情報一元化による PM 支援 3 次元可視化による関係者間理解の向上 取組成果 (outcome) 効果 / 目的状況 道路事業プロセス (output) 定性的 定量的 日先進測設入施維協 な成果 な成果 本 国 量計札工持議 事業者間の業務調整 事業の発注単位間の業務調整 合意形成 の迅速化 1 発注単位の施工部隊 資機材共有者間の業務調整 品質確保事業者間の業務調整 事業の発注単位間の業務調整 手戻防止 1 発注単位の施工部隊 資機材共有者間の業務調整 出典元 : 米国における CIM 技術調査 2013: 土木学会 凡例 : 効果が発現する業務 : フロントローテ ィンク により一時的に負荷がかかる業務 官主導で実施される効果 民主導で実施される効果 実施されていない効果 コンカレントエンシ ニアリンク の使用目的 ( 効果 ) 情報一元化による事業マネジメント ( 工程 コスト等 ) 支援 3 次元可視化による関係者理解の向上 事業全体で多くの関係者の協働体制を促進 出典元 : 欧州における CIM 技術調査 2014: 土木学会 成果 : 合意形成の迅速化 品質向上 手戻り防止 事業費 20% 削減工期 10% 縮減 8 フロントローテ ィンク と併せて
3. 効果の体系 番号 1 2 3 効果機構 ( メカニズム ) 機械化による業務の半自動化 フロントローディング コンカレントエンジニアリング 凡例 : 効果が発現する業務 : フロントローテ ィンク により一時的に負荷がかかる業務 官主導で実施される効果 民主導で実施される効果 実施されていない効果 取組成果 (outcome) 道路事業プロセス効果 / 目的状況 (output) 定性的定量的日先進測設入施維協な成果な成果本国量計札工持議 3 次元測量 / 計測による現場幾何条件取得の簡素化 27% の情報化施工 (ICT 土工 ) による施工能力向上業務の 歩掛品質 出来形管理の簡素化効率化 向上数量算出支援 現場条件把握の正確性向上による工法選択の適正化 部材の干渉チェック ( 本設 ) 合意部材の干渉チェック ( 仮設 ) 事業費 形成の時系列の不整合チェックの 迅速化事業者間の業務調整 20% 情報一元化に事業の発注単位間の業務調整削減 品質よるPM 支援 1 発注単位の施工部隊 確保 資機材共有者間の業務調整 工期の 3 次元可視化事業者間の業務調整 10% 縮 手戻りによる事業の発注単位間の業務調整減 防止関係者間理解 1 発注単位の施工部隊 の向上資機材共有者間の業務調整 CIM 技術は 効果 ( 機能 ) ごとに分解可能 各効果は 発現する業務プロセスが違う コンカレント エンジニアリングは 意思決定の適時化と並行作業を狙っている 誰がどの段階でどのような情報に基づいて誰と調整し どのような意思決定をするのか? 英国高速鉄道のポスターより 9
4. 課題 関連する効果の枝番 課題 15 種 測量 道路事業プロセス 維 設 入 施 持 計 札 工 管 理 1-3 出来形管理基準の改定 1-4 積算 ( 数量算出 ) 基準の改定 2-1,2-2 CIM 情報の瑕疵担保責任の取扱いに関する改定 2-1,2-2 構造解析の3 次元化の基準整備 1-1~3-2 設計 ( 図面作成 /CIM 作成 ) ツール ソフトウェアの開発及びコスト回収 2-1~2-4 事業途中からのモデル構築方法の検討 2-1~3-2 調達制度の見直し 3-1 建設時データから維持管理事業データへの引継ぎ情報の規定 3-1 属性情報のコード化 1-1~3-2 大規模データの収用技術の開発 / 収用技術方法の検討 1-1~3-2 データの蓄積 更新体制の確立 3-1 セキュリティ機能の整備 3-1 セキュリティ体制 1-1~3-2 データ引継ぎのための交換標準フォーマットの整備 1-1~3-2 人材育成 技術的課題 ソフト開発 データ収用技術の開発 セキュリティ機能の整備 交換標準フォーマット 制度的課題 基準類の作成 ( 出来形 積算 設計等 ) 調達手法の導入検討 人材育成 情報の瑕疵担保責任の取扱 凡例 制度的課題 技術的課題 課題の特徴機械化による業務の半自動化に付随する課題が影響する業務範囲は 狭い 協議 コンカレントエンシ ニアリンクに付随する課題 は 影響する業務範囲が広い 各業務プロセスで不整合の有無を確認する必要がある 10
効果 課題 5. 効果と課題の関連性 番号 1 2 3 番号 効果機構 ( メカニズム ) 機械化による業務の半自動化 フロントローディング コンカレントエンジニアリング 枝番 効果 / 目的 (output) 定性的な成果定量的な成果日本 1CIM 技術活用による様々な効果を一つ一つ分解し 活用目的を明確にした 2 効果特定に併せて 効果に付随する課題を特定した 効果及び課題を特定したため 今後 分解した効果の優先順位を決定等 計画立案の基礎資料としての活用ができる 例として 課題解消の都度 CIM 機能を部分的に事業へ導入することにより 実装の迅速化 11 を図れる または CIM 技術以外の別の手法により効果を得る検討が可能 先進国 測量 道路事業プロセス発注維持設計 施工管理入札 1-1 3 次元測量 / 計測による現場幾何条件取得の簡素化 1-2 情報化施工 (ICT 土工 ) による施工能力向上 業務の 27% の歩掛 1-3 品質 出来形管理の簡素化 効率化 向上 1-4 数量算出支援 2-1 現場条件把握の正確性向上による工法選択の適正化 2-2 部材の干渉チェック ( 本設 ) 2-3 部材の干渉チェック ( 仮設 ) 2-4 時系列の不整合チェック 事業者間の業務調整 合意形成 事業費の 事業の発注単位間の業務調整の迅速化 20% 削減 3-1 情報一元化によるPM 支援 1 発注単位の施工部隊 品質確保 工期の 資機材共有者間の業務調整 手戻り防止 10% 縮減 事業者間の業務調整 事業の発注単位間の業務調整 3-2 関連する効果の枝番 3 次元可視化による関係者間理解の向上 1 発注単位の施工部隊 資機材共有者間の業務調整 課題 成果 (outcome) 取組状況 協議 測量 道路事業プロセス維持設計入札施工管理 1 1-3 出来形管理基準の改定 2 1-4 積算 ( 数量算出 ) 基準の改定 3 2-1,2-2 CIM 情報の瑕疵担保責任の取扱いに関する改定 4 2-1,2-2 構造解析の3 次元化の基準整備 5 1-1~3-2 設計 ( 図面作成 /CIM 作成 ) ツール ソフトウェアの開発及びコスト回収 6 2-1~2-4 事業途中からのモデル構築方法の検討 7 2-1~3-2 調達制度の見直し 9 3-1 建設時データから維持管理事業データへの引継ぎ情報の規定 10 3-1 属性情報のコード化 11 1-1~3-2 大規模データの収用技術の開発 / 収用技術方法の検討 12 1-1~3-2 データの蓄積 更新体制の確立 13 3-1 セキュリティ機能の整備 14 3-1 セキュリティ体制 15 1-1~3-2 データ引継ぎのための交換標準フォーマットの整備 16 1-1~3-2 人材育成 協議
6. 各国の制度 日本の CIM 技術効果の着眼点 : 情報化施工 UAV 測量といった 機械化による業務の半自動化 が多い 英国 米国の着眼点 : フロントローディング コンカレント エンジ ( 特に PM の向上 ) また 先進国では CIM 技術と合わせて Early Contractor Involvement (ECI) や Construction Management (CM) 方式を調達方式として採用し PM を一部 外部委託している 図 : 英国の情報マネジメント主要フェーズ 出典元 :PAS 1192(British Standards Institute) BS1192/PAS1192 シリーズ -BIM 実施にあたっての業務段階をまたがったデータ管理の考え方 受発注者間のデータのやり取り 管理等について 整理して示した BIM 推進の基本となる英国基準 CIC BIM Protocol-BIM 使用に関する責任 自由 制限を取り決めている標準的なプロトコル BS8541 シリーズ -BIM 関連部品のライブラリ集 COBie UK- 設計 施工段階から運用段階へと建物の情報を受け渡すためのデータフォーマット BS11000 シリーズ - 企業が他社と協力して事業を実施できるようにするためのフレームワーク 法令や契約条件で 関係者の活動を義務化する必要がある このため 英国では これまでに BIM プロトコル セキュリティマニュアル コード等が整備されてきた 12
7. 建設業体系の比較先進国で CIM 技術が積極的に採用される理由 出典元 : 米国におけるCM 方式活用状況調査報告書参考資料 2 項目 日本 米国 発注者の監督能力 高 中 ~ 低 工事発注単位規模 中規模ロット 小規模ロット 下請けの能力 高 求められるPM 能力 中 大 (CMが代行) 求められる工事発注単位のマネジメント能力 中 小 日本と先進国では 事業への関係者の役割分担が違う CIM 技術の効果的な制度設計を行っていくためには 日本と先進国の建設業体系 関係者の役割の差異を把握した中で 先進国の制度設計方法を参考にするこ 13 とが望ましい
8.ODA 事業における CIM 実装の方向性その 1 活用方法の一覧 14
8.ODA 事業における CIM 実装の方向性その 2 (1) データマネジメント (2) 施工監理 (3) 情報化施工 15
8.ODA 事業における CIM 実装の方向性その 3 (4) 3 次元可視化 (5) 維持管理段階での活用 (6) 3 次元測量 16