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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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汎発性膿庖性乾癬の解明

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

TNF 受容体関連周期性症候群 1. 概要近年 国内外で注目されている自己炎症性症候群の一つであり 発熱 皮疹 筋肉痛 関節痛 漿膜炎などを繰り返し 時にアミロイドーシスを合併する事もある疾患です TNF 受容体 1 型の遺伝子変異が原因ですが 詳しい病態は解明されていません 全身型若年性特発性関節

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

2015 年 3 月 26 日放送 第 29 回日本乾癬学会 2 乾癬本音トーク乾癬治療とメトトレキサート 名古屋市立大学大学院加齢 環境皮膚科教授森田明理 はじめに乾癬は 鱗屑を伴う紅色局面を特徴とする炎症性角化症です 全身のどこにでも皮疹は生じますが 肘や膝などの力がかかりやすい場所や体幹 腰部

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

ある ARS は アミノ酸を trna の 3 末端に結合させる酵素で 20 種類すべてのアミノ酸に対応する ARS が細胞質内に存在しています 抗 Jo-1 抗体は ARS に対する自己抗体の中で最初に発見された抗体で ヒスチジル trna 合成酵素が対応抗原です その後 抗スレオニル trna

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

平成24年7月x日

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

性疾患等政策研究事業 ( 難治性疾患政策研究事業 ) などの支援のもとで行われました 研究の背景 :A20 ハプロ不全症の発症メカニズム 1 ベーチェット病類似の早期発症型自己炎症性疾患として TNFAIP3 遺伝子がコードするた んぱく質 A20 のハプロ不全を病因とする A20 ハプロ不全症が

cell factor (SCF) が同定されています 組織学的に表皮突起の延長とメラノサイトの数の増加がみられ ケラチノサイトとメラノサイトの増殖異常を伴います 過剰のメラニンの沈着がみられます 近年 各種シミの病態を捉えて その異常を是正することによりシミ病変の進行をとめ かつシミ病変の色調を薄


The Japan Society for Clinical Immunology

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

遺伝性毛髪疾患の患者が受診した際には 遺伝子検査を行う前に正しい臨床診断を決定することが極めて重要です まず 他の遺伝性疾患と同様に家族歴を聴取して家系図を作成し その後 毛髪症状について詳しく診察を行います 特に頭部について 毛髪の肉眼所見や頭皮の状態などをチェックすることがポイントです さらに

呈することです 侵さない臓器は無いと言ってもいいくらいに現在までに多くの臓器病変が記載されています ( 表 2) ただし 悪性腫瘍( 癌 悪性リンパ腫など ) や類似疾患 (Sjögren 症候群 原発性硬化性胆管炎 Castleman 氏病 二次性後腹膜線維症 肉芽腫性多発血管炎 サルコイドーシス

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 5. 免疫学的検査 >> 5G. 自己免疫関連検査 >> 5G010. 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク

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公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

2015 年 4 月 16 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東部支部学術大会 3 シンポジウム1-1 Netherton 症候群とその類症 旭川医科大学皮膚科教授山本明美 はじめに Netherton 症候群は魚鱗癬 竹節状の毛幹に代表される毛の異常とアトピー症状を3 主徴とする遺伝性疾患ですが

とが多いのが他の蕁麻疹との相違点です 難治例ではこの刺激感のために日常生活に支障が生じ 重篤な随伴症状としてはまれに血管性浮腫 気管支喘息 めまい 腹痛 嘔気 アナフィラキシーを伴うことがあります 通常は暑い夏に悪化しますが 一部の症例では冬期の運動 入浴で皮疹が悪化することがあり 温度差や日常の運

056 ベーチェット病

第6号-2/8)最前線(大矢)

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

乾癬なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

ROCKY NOTE 血球貪食症候群 (130221) 完全に知識から抜けているので基本的なところを勉強しておく HPS(hemophagocytic syndrome) はリンパ球とマクロファージの過剰な活性

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肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

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161 家族性良性慢性天疱瘡

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

乾癬と掌蹠膿胞症の診断と最新の治療 福岡大学医学部皮膚科学教室今福信一 (2016 年第 17 回博多リウマチセミナー ) 乾癬はかつては慢性の炎症により角化の異常が生じる 炎症性角化症 と理解されてきたが その後の治療の進歩により皮膚のみならず関節炎や症状を呈する炎症性疾患と認識されるようになって

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2019 年 4 月 1 日放送 第 42 回日本小児皮膚科学会 1 教育講演 2 自己炎症性疾患アップデート 和歌山県立医科大学皮膚科准教授金澤伸雄はじめに自己炎症性疾患は 狭義には 炎症シグナルや自然免疫系の遺伝子異常による希少疾患を指します 臨床的に感染症 アレルギー 自己免疫疾患に似ますが 無菌性でアレルギーの原因となるような抗原がなく 各種自己抗体も陰性です 組織学的には リンパ球よりも好中球 マクロファージ系細胞の活性化が主体となります つまり自己炎症性疾患の自己は 英語では auto ですが self ではなく むしろ automatic や autonomous といった意味になります 原因不明の特発性かつ慢性再発性 反復性の炎症性疾患というと 慢性特発性蕁麻疹や多型慢性痒疹 慢性色素性紫斑など 皮膚科では実はありふれた疾患とも言えます 原因不明の場合 アレルギーを想定して抗原検索し 膠原病や自己免疫を疑って各種自己抗体を検査しますが さらに自己炎症を疑えば遺伝子検索を行う ということになります 遺伝性自己炎症性疾患関連遺伝子変異の国際的なレジストリである Infevers には 30 遺伝子の変異による 40 疾患が登録され 増加し続けています 本邦でも 平成 21 年度から厚労省難治性

疾患克服研究事業の対象となり 診療実態や病態解明が進んだ結果 平成 27 年から クリオピリン関連周期熱症候群 (CAPS) TNF 受容体関連周期性症候群 (TRAPS) ブラウ症候群 家族性地中海熱 (FMF) 高 IgD 症候群 (HIDS) 中條 - 西村症候群 化膿性無菌性関節炎 壊疽性膿皮症 アクネ (PAPA) 症候群 慢性再発性多発性骨髄炎が さらに平成 29 年から遺伝性自己炎症疾患として NLRC4 異常症 ADA2 欠損症 エカルディ グティエール症候群 平成 30 年から A20 ハプロ不全症が 指定難病となりました さらに このうち患者の多い CAPS TRAPS FMF ブラウ症候群と HIDS を含むメバロン酸キナーゼ欠損症について診療ガイドラインも策定されました A20 ハプロ不全症このうち 新たに指定難病となった A20 ハプロ不全症について紹介します 症状として反復性の発熱 口腔内アフタ 下痢 血便などの消化器症状 外陰部潰瘍 関節炎 毛嚢炎様 ざ瘡様 結節性紅斑様などの皮疹 虹彩毛様体炎 網膜ぶどう膜炎などの眼症状 自己免疫性の甲状腺炎や肝炎などの自己免疫疾患症状 検査所見として炎症所見陽性 便潜血陽性 針反応試験陽性を示し A20 をコードする TNFAIP3 遺伝子に疾患関連変異を同定することで診断します 家族性ベーチェット病とも呼ばれていたものですが 消化器症状が強く 自己免疫疾患を伴う点でベーチェット病と鑑別されます 重症度分類として 食事 ベッドへの移動 整容 トイレ 入浴 歩行 階段 着替え 排便 排尿といった ADL 機能を評価する Berthel Index が採用され 今後難病の重症度評価基準として広く使われるようになる可能性があります 自己炎症性角化症次に 多様な表現型と遺伝子型をテーマに まず自己炎症性角化症について紹介します 乾癬は遺伝的素因が大きく関与しますが ゲノムワイド関連解析によって PSORS と名付けられた乾癬感受性遺伝子が 15 ヶ所あることが知られていました このうち PSORS1 は HLA-C ですが PSORS2 が CARD14 遺伝子 PSORS14 が IL36RN 遺伝子であることが判明しました CARD14 は3 世代にわたる大きな家族性乾癬の家系の解析によって

2012 年に見出されたもので この遺伝子変異による乾癬は CARD14 関連乾癬 (CAMPS) と名付けられました さらに CARD14 遺伝子の変異は汎発性膿疱性乾癬 (GPP) の患者や 家族性毛孔性紅色粃糠疹の患者にも認められ いずれも炎症発現に重要な転写因子である NF-κB の活性化を誘導する変異であることがわかっています 一方 家族性 GPP の家系の解析から 2011 年に見出されたのが IL36RN です 私達も IL36RN 遺伝子変異を持つ症例を経験しましたが 2 歳半で発症し数年おきに汎発化を繰り返していました IL-36 は IL-1 ファミリーに属するサイトカインで IL-1 に拮抗する受容体アンタゴニストがあるように IL-36 にも受容体アンタゴニストが存在し それをコードするのが IL36RN 遺伝子です この遺伝子変異による GPP や乾癬は IL-36 受容体アンタゴニスト欠損症 (DITRA) と名付けられ IL-36 シグナルが一旦活性化すると抑えることができないために重症化すると考えられます これら CAMPS や DITRA に対して 従来の炎症性角化症に 遺伝子変異による自己炎症性の発症メカニズムが加わった 自己炎症性角化症という新しい疾患概念が提唱されています PAPA 症候群と関連疾患次に 先に難病指定で触れた PAPA 症候群とその関連疾患について紹介します PAPA 症候群は その名の通り 主として3 歳以下に化膿性無菌性関節炎を発症し 思春期以降に壊疽性膿皮症や嚢腫性ざ瘡を生じる常染色体優性の稀な疾患です PSTPIP1 遺伝子の変異によって FMF の原因であるピリンを介してカスパーゼ1が活性化し IL-1βの産生が亢進することが原因と考えられますが 疾患原性が明らかな変異は限られます 一方 これら3 症状に加え 成長障害や汎血球減少 リンパ節腫大 脾腫などを呈する重症例があり 血中亜鉛とカルプロテクチンが異常高値であることから高亜鉛血症 高カルプロテクチン血症 (Hz/Hc) と呼ばれていましたが 2015 年に PSTPIP1 遺伝子変異が同定され PAPA 症候群の重症型であることが判明しました これに対し 2012 年に 壊疽性膿皮症とア

クネに加え 化膿性汗腺炎を呈する疾患が PASH 症候群と名付けられ新しい PAPA 症候群関連疾患として報告されました 当初 PSTPIP1 遺伝子変異は伴わないとされましたが 私達は PSTPIP1 遺伝子の新しい変異を伴う家族例を経験し報告しています その後少数ながら PASH 症候群に化膿性無菌性関節炎を呈する症例や乾癬性関節炎を伴う症例も報告され それぞれ PAPASH 症候群 PsAPASH 症候群と呼ばれています 化膿性汗腺炎においては近年 家族例の解析から毛の分化に関わる Notch シグナルを制御するγセクレターゼ酵素複合体を形成する遺伝子に変異を持つ症例が報告され その遺伝的背景が明らかになりつつありますが PASH 症候群においても このうち NCSTN 遺伝子に変異をもつ症例が報告されています 乾癬とともに 好中球性化膿性無菌性皮膚炎症における多様な自己炎症性背景の存在が伺われます プロテアソーム関連自己炎症性症候群次に 中條 西村症候群を含むプロテアソーム関連自己炎症性症候群 (PRAAS) について紹介します 中條 西村症候群は 本邦において凍瘡を伴う骨骨膜症として 1939 年から報告され 長く本邦特有の疾患とされてきましたが 2010 年に欧米から類似症例が JMP 症候群や CANDLE 症候群として報告されたのを契機に研究が進み まとめて PSMB8 を始めとするプロテアソーム関連遺伝子の変異を伴う PRAAS と総称されています 本邦の中條 西村症候群の症例は皆同じ PSMB8 変異を持ち和歌山を中心とする狭い地域に集中しますが 私達は凍瘡様皮疹や脂肪萎縮 大脳基底核石灰化などの特徴を有する全国の類似症例について遺伝子解析を行い PSMB9 遺伝子に新しい変異を持つ症例や 核酸分解酵素である TREX1 遺伝子に変異を認め臨床的に家族性凍瘡様ループスとも呼ばれるエカルディ グティエール症候群の症例 これまでに報告のない IFN 制御因子の遺伝子変異を伴う症例などを見出しています これらの疾患は いずれも IFNαや IFNβなど I 型 IFN の活性化を伴いいわゆる I 型 IFN 異常症を呈することから インフラマソーム IL-1βの異常による多くの自己炎症性疾患に対して 全身性エリテマトーデスや皮膚筋炎などの自己免疫疾患に近い第二の自己炎症性疾患として特異な地位を占めます 最近 PRAAS に対して JAK 阻害薬の高い有効性が報告されたのも興味深いところです

新学会による遺伝子検査体制最後に 新学会による遺伝子検査体制について簡単に説明させて頂きます CAPS における NLRP3 遺伝子 HIDS における MVK 遺伝子 PAPA 症候群における PSTPIP1 遺伝子 遺伝性自己炎症疾患の 4 疾患における 10 遺伝子の変異解析が保険適応となりましたが 一般の検査会社では取扱いがありません そこで 平成 29 年夏に発足した日本免疫不全 自己炎症学会 (JSIAD) が中心となって検査体制づくりを進めています 平成 31 年 1 月現在 学会 HP での症例相談フォームができ かずさ遺伝子研究所内のかずさ遺伝子検査室と契約を結べば検査依頼できるようになっていますが 結果報告に対する学会サポート体制はまだ未構築です