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生物時計の安定性の秘密を解明

様式 F-19 科学研究費助成事業 ( 学術研究助成基金助成金 ) 研究成果報告書 平成 25 年 5 月 15 日現在 機関番号 :32612 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2011~2012 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) プリオンタンパクの小胞輸送に関与す

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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平成14年度研究報告

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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すことが分かりました また 協調運動にも障害があり てんかん発作を起こす薬剤への感受性が高いなど 自閉症の合併症状も見られました 次に このような自閉症様行動がどのような分子機序で起こるのか解析しました 細胞の表面で働くタンパク質 ( 受容体や細胞接着分子など ) は 細胞内で合成された後 ダイニン

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

第 20 講遺伝 3 伴性遺伝遺伝子がX 染色体上にあるときの遺伝のこと 次代 ( 子供 ) の雄 雌の表現型の比が異なるとき その遺伝子はX 染色体上にあると判断できる (Y 染色体上にあるとき その形質は雄にしか現れないため これを限性遺伝という ) このとき X 染色体に存在する遺伝子を右肩に

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

図 Mincle シグナルのマクロファージでの働き

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

15K14554 研究成果報告書

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

様式)

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

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脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

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平成24年7月x日

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

1. 背景ヒトの染色体は 父親と母親由来の染色体が対になっており 通常 両方の染色体の遺伝子が発現して機能しています しかし ある特定の遺伝子では 父親由来あるいは母親由来の遺伝子だけが機能し もう片方が不活化した 遺伝子刷り込み (genomic imprinting) 6 が起きています 例えば

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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1. 2. 3. 4. 5. 6. WASP-interacting protein(wip) CR16 7. 8..pdf Adobe Acrobat WINDOWS2000

論文の内容の要旨 論文題目 WASP-interacting protein(wip) ファミリー遺伝子 CR16 の機能解析 氏名坂西義史 序 WASP(Wiskott-Aldrich syndrome protein) ファミリータンパク質はWASPとN-WASPが存在する 双方とも低分子量 Gタンパク質 Cdc42からのシグナルを受け取りアクチン重合を促すArp2/3 複合体を活性化させるタンパク質であり 生体内のアクチン細胞骨格制御において重要な役割を担っている またWIP(WASP-interacting protein) は 生体内で WASPと結合しているタンパク質で 哺乳類ではその近縁分子としてWICH CR16タンパク質が存在している 近年 WIPを欠損したT 細胞では WASPを欠損したT 細胞と同様に 抗原受容体が惹き起こすシグナリングに異常が見られることが報告され WIPはWASPと共に生体内での正常なアクチン重合制御に重要な機能を果たしていることが明らかになった しかしWIPタンパク質は血球系細胞に限局して存在しており 他の組織でのWIPファミリータンパク質の生理機能は不明であった 私は WIPファミリータンパク質が生体内で重要な機能を果たしていると考え,CR16タンパク質の機能解析を行った 方法と結果 CR16は生体内でN-WASPと複合体を形成し 精巣と海馬に存在している まず私は データベース上に報告されていたヒトCR16 遺伝子配列を含むEST 配列を元

に マウス脳 cdnaライブラリーからマウスcr16 遺伝子をクローニングした ( データ本文中 ) その結果 報告されていない挿入配列があることがわかり その配列を調べたところWIPタンパク質のWASP 結合ドメインに相当していた そして私は異所的に発現させたCR16タンパク質も内在性のCR16タンパク質もN-WASPタンパク質と複合体を形成していることを見いだした (Fig.1) 次に 抗 CR16 抗体を作製しウェスタンブロッティング法でCR16タンパク質の組織分布を調べた結果 CR16タンパク質は脳と精巣に多く存在しているはCR16 遺伝子の欠損動物およびCR16 遺伝子の正確な発現場所 時期を特定する目的で,CR16 遺伝子の開始コドン直下をLacZ 遺伝子に置換する遺伝子欠損マウスの作製を行った その結果, CR16 遺伝子へテロ欠損マウスの解析で,CR16 遺伝子は海馬錐体細胞 顆粒細胞及 Fig.1 N-WASP CR16 ことを示した (Fig.2) さらに私 Fig.2 CR16 び精巣セルトリ細胞にて発現し, その細胞質にCR16タンパク質が存在していることが分かった ( データ本文中 ) CR16タンパク質の海馬における機能の解析私はヘテロ遺伝子欠損マウスを交配させ,CR16 遺伝子ホモ欠損マウスの作製を行った ホモ遺伝子欠損マウスは野生型マウスと比較して外見や体重など特に目立った変化は無く, また受動的逃避行動実験を用いた行動解析実験においても変化は認められなかった ( データ本文中 ) CR16 遺伝子の欠損は精子形成不全による雄性不稔を生じる CR16 遺伝子が精巣のセルトリ細胞で発現していることから, 私はCR16 遺伝子欠損マウスを用いて交配実験を行った その結果, ホモ遺伝子欠 出産率 (%) 100 80 60 40 20 受精率 (%) 100 80 60 40 20 損雄マウスを雌と交配させた 0 0 -/- +/- -/- +/- Fig.3 CR16KO

場合 交配した雌の出産率が有意に下がり, かつ産まれた場合の平均仔数も下がることが明らかになった (Fig.3) ホモ欠損マウスの精子の異常が示唆されたので, 体外受精実験を行ったところ ホモ遺伝子欠損マウスの精子では卵の受精率が有意に低下した (Fig.3) さらにホモ遺伝子欠損マウスの精子を顕微鏡観察したところ 精子頭部に奇形が多く認められ 精子の形態に異常をきたしていた ( データ本文中 ) これらのことから CR16ホモ遺伝子欠損マウスでは精子形成不全が生じ雄性不稔であることが示唆された CR16タンパク質はセルトリ細胞- 精子細胞間の正常な接着に必要である 次に私は精子の形成不全がどのような原因で生じているか明らかにするため マウス精巣切片を観察した その結果 精子頭部を篭状に包み込むセルトリ細胞側のアクチン線維の形態に異常が認められた ( データ本文中 ) また ホモ遺伝子欠損マウスの精細管では 未成熟の精子細胞がアクチン線維の篭から脱離しているものも観察され セルトリ細胞と精子細胞の結合が損なわれていることが明らかになった ( データ本文中 ) 精子細胞とセルトリ細胞の結合は精子の育成に重要であることから 精子の形成不全はセルトリ細胞と精子細胞の結合不全によるものと考えられた CR16はN-WASPとセルトリ- 精子細胞ジャンクションを結ぶタンパク質である セルトリ細胞と精子細胞の結合は 細胞間接着分子 Nectinを含むAdherens Junction が重要であることが明らかになっている また Adherens Junctionには接着部位を裏打ちするアクチン線維の存在が重要であると考えられている そこで 遺伝子欠損マウスの精巣でセルトリ- 精子細胞ジャンクション (SSpJ) がどのようになっているか観察した まず Nectinファミリータンパク質の精細管内の局在を観察したとこ ろ 遺伝子欠損マウスでも精子細胞側のNectinタンパク質とセルトリ細胞 Fig.4 側のNectinタンパク質が正しく結合していた ( データ本文中 ) Nectinタンパク質は細胞外シグナルを受けて細胞質側のCdc42を活性化しアクチンの重合を生じることが明らかになっている Cdc42のターゲットとしてN-WASPが重要であることがわかっているため 次に精細管内でのN-WASPの局在について観察した その結果 野生型セルトリ細胞では N-WASPがSSpJに存在し アクチン線維の籠のところに共局在していることがわかった (Fig.4) 一方 CR16ホモ遺伝子欠損マウスのセルトリ細胞ではそのような局在は観察されなかった これらのことから CR16ホモ遺伝子欠損マウスではN-WASPがSSpJに正し

く局在することができずアクチン線維の籠の形態が異常になり SSpJに異常が生じると考えられた 実際 SSpJの構成タンパク質のひとつであるAfadinの抗体と精巣組織溶解液を用いた免疫沈降実験を行ったところ 野生型マウスではAfadinとN-WASPの共沈が観察されるが ホモ遺伝子欠損マウスでは観察されなかった (Fig.5) これらのことから CR16 遺伝子欠損マウスではN-WASPとSSpJの複合体形成が損なわれており CR16タンパク質がN-WASPを SSpJにつなぎとめるのに重要な役割を果たしていると考えられた (Fig. 6) 考察とまとめ私は本研究において (1) 機能未知のWIPタンパク質ファミリータンパク質 CR16がN-WA SP 複合体を形成しと海馬と精巣に存在すること (2)LacZ 置換型へテロ遺伝子欠損マウスの作製によりCR16遺伝子の発現プロファイリング行い,CR16 遺伝子が海馬錐体細胞 顆粒細胞, 精巣セルトリ細胞で発現していること,(3)CR16 遺伝子ホモ欠損マウスの海馬機能には変化が見られないこと,(4)CR16 遺伝子がマウスの精子の正しい形成に重要で,CR16遺伝子欠損は男性不稔を生じること,(5)CR16タンパ Fig.5 Afadin Fig.6 N-WASP SSpJ CR16 ク質が精子細胞 -セルトリ細胞間の正しい結合に重要であること (6)CR16タンパク質がアクチン重合タンパク質 N-WASPとSSpJを結ぶタンパク質であることを明らかにした このCR16タンパク質がN-WASPタンパク質と共にSSpJにおいて機能しているという知見は WIPタンパク質がWASPタンパク質と共に免疫細胞においてT 細胞 - 抗原提示細胞間の細胞接着に機能している知見と併せ WIPファミリー分子が細胞間接着に関わるアクチン線維の制御において機能し それが正しい生理機能の獲得に必要であることを証明した WIPには様々なファミリー分子が存在することから 今後相互に比較検討を加えながら 生体内でアクチン細胞骨格系が巧みに調節され多様な生理機能を獲得するメカニズムが明らかになってゆくものと考えられる