当院での 肩痛に対する治療 関西電力病院整形外科 三宅孝宏
肩の解剖 鎖骨 肩峰 肩鎖関節 肩甲骨 肩関節 三角筋 上腕骨 腱板
腱板とは 腱板は肩甲下筋 棘上筋 棘下筋 小円筋 4 つの筋腱で構成されます 2 1 2 3 上腕二頭筋長頭 (LHB) 4 前から 後ろから 1 肩甲下筋 (SSC) 作用 内旋 2 棘上筋 (SSP) 作用初期の外転 3 棘下筋 (ISP) 作用 外旋 4 小円筋 (TM) 作用 外旋
腱板断裂 加齢および繰り返す機械刺激 外傷を原因として腱板の腱線維が断裂した状態 40 歳以上の男性で右肩に好発 発症年齢のピークは 60 歳加齢変化で断裂を生じる 60 歳で 4 分の 1 が 70 歳で半数が断裂 断裂しても症状がない人もいるが夜間痛 動作時の痛みなど症状がみられたら治療が必要
五十肩 50 歳ごろ 肩を中心に痛みが生じ 時に腕まで広がりやがて自然に治っていく状態 肩が痛い =( イコール ) 五十肩ではない中には関節鏡が必要な患者もいる 長年 投薬や注射で改善がない 腱板断裂等があるかも
MRI での腱板断裂の大きさの分類 正常腱板 小断裂 中断裂 大断裂 小断裂 : 棘上筋の大結節付着部での断裂 中断裂 : 断裂部が骨頭 2 分の1を超えない 大断裂 : 断裂部が骨頭 2 分の1を超える 広範囲断裂 : 腱板が関節窩を超えて引き込まれている 小から大断裂までは再建を考慮 MRI の sagittal を確認する広範囲断裂はパッチ形成 ( 大腿筋膜を使用 ) さらにはリバース人工肩関節
完全断裂と部分断裂 関節面側の断裂 拘縮をきたしやすい 滑液包側の断裂 インピンジを伴いやすい 完全断裂
腱板は使っていないと脂肪に変わる Goutallier 分類 : 棘上筋の脂肪変性の程度をみる Stage0: 脂肪変性なし Stage1: わずかに脂肪変性 Stage2: 筋肉成分 > 脂肪成分 Stage3: 筋肉成分 = 脂肪成分 Stage4: 筋肉成分 < 脂肪成分 Stage0 Stage2 Stage3 Stage0~2 までは腱板再建を考慮 Stage3 と 4 は再建しても成績悪い 再断裂がおきやすい
腱板は断裂すると脂肪変性をきたす 早期の手術が望ましい 脂肪変性は筋力低下 可動域制限につながる手術をしても棘下筋まで脂肪変性をきたすと改善しない棘上筋は改善することがある脂肪変性をきたす前の手術が望ましい Daniel Goutallier 1994 肩甲下筋上縁と上腕二頭筋長頭に関連した棘上筋部分断裂は肩の痛みにつながる いずれ棘上筋完全断裂に移行するので早期の修復を推奨する Do-Young Kim 2012 当院でも 1~3 か月の保存療法で改善なければ手術を勧めている
当院での腱板断裂の治療 肩の動きが悪い ( 拘縮あり ) 肩の動きが悪くない ( 拘縮なし ) 経過が長い 経過が短い まずはリハビリで拘縮をとる 1-3 か月を目安に 手術加療以後リハビリ加療 早期回復を希望夜間痛が強い外傷性 症状の残存 1-3 か月を目安にリハビリ 改善
手術までのリハビリ加療 ( 振り子運動 ) リハビリ室で理学療法士に自宅でもできるように指導してもらいます 拘縮強ければ定期的に外来リハビリ (1-3 か月 )
肩関節鏡手術とは φ4mmの内視鏡を関節内に挿入 大量の水 ( アルスロマチック ) を流しながら手術を行う 1: 三角筋を温存できる 2:5mmほどの傷が4-6か所程度出血が少ない 侵襲の少ない手術 3: モニターを見ながら術野を共有でき安全 4: 常に洗浄 感染の可能性が非常に低い 手術創部 アルスロマチック
当院の手術室 4K モニター
ビーチチェアポジション座った姿勢で手術を行います
肩関節鏡で扱う疾患 1: 腱板断裂 2: 肩峰下インピンジメント症候群 3: 石灰沈着性腱板炎 4: 反復性肩関節脱臼 ( バンカート病変 ) 5: 肩甲骨関節窩骨折 ( 骨性バンカート ) 6: 拘縮肩 ( 凍結肩 ) 7:SLAP 損傷 8: 上腕骨大結節骨折 9: 肩鎖関節脱臼 10: 上腕二頭筋長頭筋腱損傷 11: 投球障害肩 12: 色素性絨毛結節性滑膜炎
腱板断裂の一例 69 歳男性 現病歴 :3 か月前から右肩痛がみられ 開業医で加療するも改善せず 夜間痛もひどいとのことで当院受診 既往歴 : 特記すべき事項なし 理学所見 : 屈曲 140 外転 140 外旋 1st30 内旋 L1 MMT 棘上筋 4 棘下筋 4 肩甲下筋 4 Lift off- Belly press- Yergason- Speed+ Painful arc+ Drop arm- Neer+ Hawkins+ JOA スコア 66 点
初診時 MRI 中断裂 Goutallier 分類 stage0 農作業が早くからしたいとのことで手術を希望 鏡視下腱板縫合術 (Suture-bridge 法 ) を行った
鏡視写真 肩峰 腱板 上腕骨頭 腱板は断裂しており上腕骨頭が露出していた 手術を行い 上腕骨頭は腱板で覆われた
術後 1 年夜間痛なし農作業復帰屈曲 170 外転 170 外旋 1st50 内旋 Th10 JOAスコア ( 術後 1 年 ) 96 点 術前 術後半年
術後半年で再建腱板の評価を MRI で行います 菅谷分類 術後半年 Type1: 腱板に厚み 一様に低信号 Type2: 腱板に厚み 一部に高信号混在 Type3: 連続性は保たれているが厚みがない Type4: 一部のスライスで連続性がない Type5: 連続性の途絶部分が大きい 一般に Type4 と 5 は再断裂ありと考える再断裂していても臨床所見は問題ないことが多い 術前
術後成績 当院で肩関節鏡を受けられた方は術前 術後 3 カ月 6 か月 1 年で肩スコアをとっています 下のグラフは術前後の肩スコア (JOA スコア ) の比較です 100 90 術前 術後 80 70 60 50 40 30 20 10 0 肩関節鏡全症例 鏡視下腱板縫合 p<0.05
術前後の比較 鏡視下腱板縫合 80 例 他の肩関節鏡手術 45 例 平均年齢 65.61 歳 57.13 歳 平均フォロー期間 9.79か月 7.67か月 屈曲 112.75 157.38 103.33 156.00 外転 95.56 154.25 93.33 152.22 外旋 43.00 54.50 33.67 53.33 内旋 L1 Th11 L3 Th11 スコア 55.44 92.54 47.55 85.43
手術の実際 手術時間 : 約 1 時間半 ~3 時間 消毒 麻酔 レントゲンなどでプラス 1-2 時間手術室に滞在します 手術 1 滑膜切除 : 掃除 洗浄 2 肩峰下除圧 : 腱板の上の骨を削って腱板の通り道をつくります 3 腱板縫合 :Suture-bridge 法といいます 4 関節唇修復 : 必要に応じて骨頭を安定させる関節唇を 修復します
滑膜切除 肩峰下除圧 カニューラを設置してここから器具の出し入れをします
腱板縫合 (Suture-bridge 法 ) のシェーマ 上から見た図 断裂した棘上筋腱 完成図 内側アンカー 上腕骨大結節外側縁 外側アンカー
Suture-bridge は接触面積と圧を大きくする 腱板の修復を促す Suture-bridge は従来の Double row に比べて腱板と Footprint の接触面積が増えて接触平均圧もあがる Kyung Cheon Kim 2012 Suture-bridgeのほうがDouble rowよりも接触面積が大きく再断裂も少ない 2 年の再断裂率は15% Park 2007 Cadaver でノットレスの Suture-bridge を Double row と比較して接触面積と圧は大きかったが有意差はなかった Mark Tompkins 2011 Double row Suture-bridge
断裂した腱板の確認 腱板 大結節 Footprint U 字型の中断裂上腕骨頭 ( 大結節 Footprint) が露出してしまっている
内側アンカー設置 直径 4.5 から 5.5mm 吸収性アンカー
腱板にアンカー糸をかける道具 1 スーチャースネアパッサー スーチャーグラスパー 2 トルーパス マイテックパッサー スコーピオン 2TRUEPASS 1SutureSnare パッサー 90 度
器具を使用して腱板に糸をかける
外側アンカー設置 2 外側アンカーの設置
頻度は少ないですが以下のような合併症 併発症があります 出血肩関節鏡はほとんど出血しません 感染肩関節鏡は大量の水を流しながら手術をするので 他の手術と比較して感染のリスクは少なくなります アンカーの脱転 腱板の再断裂 再建腱板の癒着 神経 血管損傷部分的なしびれ ( 下肢にも生じうる ) や運動障害を生じる場合があります 血栓性静脈炎 肺梗塞座位の手術のためエコノミー症候群と同じで血栓ができることがありえるので 弾性ストッキング フットポンプなどで予防します その他の併発症 再手術関節鏡で治療できることには限界があります後日 癒着に伴う拘縮解離および人工関節などの手術が必要になることもありえます
術後 術後は 3 週間ウルトラスリングを装着して外転位を保つ 外転位を保つ理由は手術中 軽度外転位で腱板を縫合しているから シャワー用の装具を 使用して 術後 2 日目 からシャワーに入れます
術後リハビリ ウルトラスリング固定期間も 痛みに応じた積極的な他動運動を行います ( 動かさないと血腫で癒着を生じてしまうから ) 手術翌日 ~3 週 : 他動運動 ( リハビリの先生に動かしてもらう ) 肘関節 手関節 手指も積極的に動かします 3 週でウルトラスリングが外れたら退院 3~6 週 : 外来リハビリ 他動運動 振り子 健側保持 6 週 ~12 週 : 自動運動 ( 自分で動かす ) 開始術後 3(~5) か月で外来リハビリ終了重いものを持ったり運動したりは術後 4~6 ヶ月してからです
反復性肩関節脱臼 Bankart 病変 脱臼を繰り返すことにより その後軽度の外力 でも脱臼を繰り返すようになったもの 通常の Xp 脱臼時の Xp 骨頭が前方に脱臼している
反復性脱臼になると肩関節の外転外旋に対して脱臼不安感を訴える (anterior apprehension sign 陽性 ) 若い男性に多い ( 男女比は 4:1) 初回脱臼の年齢と反復性脱臼に移行する割合 10 代 90% 以上 20 代 80% 30 代 50% 脱臼しやすい肢位
反復性肩関節脱臼の一例 症例 :32 歳男性現病歴 : 仕事中に転倒して受傷 他院で肩関節脱臼との 診断をうけて徒手整復前 2 週間後 仕事中に手を伸ばしていたら再脱臼して当院受診 MRI axial 像 前方関節唇 ( ストッパー ) が欠如 後 後方関節唇 ( ストッパー )
鏡視下 Bankart 肩甲骨関節窩の 3DCT JuggerKnot 関節窩前方にアンカーをうって前方関節唇を作成 術後 3DCT 術後 1 年可動域制限もなく脱臼不安感なし 半年後 MRI
Bankart 手術の術後リハビリ ウルトラスリングを約 4 週間着用 4 週間は外旋は 0 度まで 2 週間は屈曲外転は 90 度まで自動運動はウルトラスリングが外れた術後 4 週から 外旋を制限するのは縫った前方がひらいて脱臼するから
腱板広範囲断裂 症例 :74 歳男性現病歴 : 転倒して右肩脱臼骨折他院で観血的整復術を受けたが挙上困難認め当院へ紹介 自動挙上 40 度 MRI で腱板広範囲大断裂認めた
リバース人工肩関節 2014 年本邦に導入適応は70 歳以上で腱板修復不能挙上困難 ( 偽性麻痺 ) に対して三角筋の力を利用して肩をあげる人工関節 手術資格 : 100 件以上の肩手術 ( うち腱板 50 件 人工関節 10 件以上 ) 当院では三宅 丸尾が資格あり
術中風景 術直後 Xp 術直後 Xp
肩痛でお困りの際は 三宅 ( 外来 : 水 金 ) 丸尾 ( 外来 : 火 木 ) を受診してください 初診時は開業医からの紹介状持参で お願い致します 肩関節鏡手術は月 ( 火 金 ) に行って います