地すべり学会関西支部大豊地すべり調査 調査報告 メンバー高知大学笹原克夫, 日浦啓全 ( 名誉教授 ) 徳島大学西山賢一京都大学松浦純生, 末峯章, 土井一生国土防災技術 ( 宮本卓也, 井上太郎 相愛山崎尚晃, 松田誠司 四国トライ松尾俊明, 吉村典宏長崎テクノ 讃岐利夫木本工業株西森興司町田博一

Similar documents
<8B4C8ED294AD955C E31302E E82B782D782E892F18CBE816A2E786C7378>

<4D F736F F D20926E82B782D782E88CA48B865F938C89A18E5289E6919C89F090CD5F8FAC8CB45F2E646F63>

近畿地方整備局 資料配付 配布日時 平成 23 年 9 月 8 日 17 時 30 分 件名土砂災害防止法に基づく土砂災害緊急情報について 概 要 土砂災害防止法に基づく 土砂災害緊急情報をお知らせします 本日 夕方から雨が予想されており 今後の降雨の状況により 河道閉塞部分での越流が始まり 土石流

22年5月 目次 .indd

<967B95B6>

<4D F736F F D2091E E8FDB C588ECE926E816A2E646F63>

SABO_97.pdf

【論文】

平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中

第 7 章砂防第 1 節砂防の概要 秋田県は 北に白神山地の二ツ森や藤里駒ケ岳 東に奥羽山脈の八幡平や秋田駒ヶ岳 南に鳥海山など 1,000~2,000m 級の山々に三方を囲まれています これらを水源とする米代川 雄物川 子吉川などの上流域は 荒廃地が多く 土砂の発生源となっています また 本県の地

スライド 1

<4D F736F F F696E74202D208E518D6C8E9197BF325F94F093EF8AA98D CC94AD97DF82CC94BB92668AEE8F8082C98AD682B782E992B28DB88C8B89CA2E B8CDD8AB B83685D>

第 7 章砂防 第 1 節 砂防の概要 秋田県は 北に白神山地の二ツ森や藤里駒ヶ岳 東に奥羽山脈の八幡平や秋田駒ヶ岳 南に鳥海山など 1,000~2,000m 級の山々に三方を囲まれています これらを水源とする米代川 雄物川 子吉川などの上流域は 荒廃地が多く 土砂の発生源となっています また 本県

2.2 既存文献調査に基づく流木災害の特性 調査方法流木災害の被災地に関する現地調査報告や 流木災害の発生事象に関する研究成果を収集し 発生源の自然条件 ( 地質 地況 林況等 ) 崩壊面積等を整理するとともに それらと流木災害の被害状況との関係を分析した 事例数 :1965 年 ~20

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint Presentation

~ 二次的な被害を防止する ~ 第 6 節 1 図 御嶽山における降灰後の土石流に関するシミュレーション計算結果 平成 26 年 9 月の御嶽山噴火後 土砂災害防止法に基づく緊急調査が国土交通省により実施され 降灰後の土石流に関するシミュレーション結果が公表された これにより関係市町村は

PowerPoint プレゼンテーション

溶結凝灰岩を含む火砕流堆積物からなっている 特にカルデラ内壁の西側では 地震による強い震動により 大規模な斜面崩壊 ( 阿蘇大橋地区 ) や中 ~ 小規模の斜面崩壊 ( 南阿蘇村立野地区 阿蘇市三久保地区など ) が多数発生している これらの崩壊土砂は崩壊地内および下部に堆積しており 一部は地震時に

2. 急流河川の現状と課題 2.1 急流河川の特徴 急流河川では 洪水時の流れが速く 転石や土砂を多く含んだ洪水流の強大なエネルギー により 平均年最大流量程度の中小洪水でも 河岸侵食や護岸の被災が生じる また 澪筋 の変化が激しく流路が固定していないため どの地点においても被災を受ける恐れがある

Microsoft Word doc

1.2 主な地形 地質の変化 - 5 -

Microsoft PowerPoint - 参考資料 各種情報掲載HPの情報共有

横書き 2組

.....u..

土砂災害防止法よくある質問と回答 土砂災害防止法 ( 正式名称 : 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関 する法律 ) について よくいただく質問をまとめたものです Ⅰ. 土砂災害防止法について Q1. 土砂災害は年間どれくらい発生しているのですか? A. 全国では 年間約 1,00

平成29年7月九州北部豪雨の概要 7月5日から6日にかけて 停滞した梅雨前線に暖かく 湿った空気が流れ込んだ影響等により 線状降水帯 が形成 維持され 同じ場所に猛烈な雨を継続して 降らせたことから 九州北部地方で記録的な大雨と なった 朝倉では 降り始めから10数時間のうちに500ミリを 超える豪

実施概要 平成 5 年度第 回災害対策等緊急事業推進費 ( 主な対策の ). 梅雨前線に伴う豪雨により被害を受けた地域における対策 5 件 674 百万円 ( 国費 ) 具体的には ()~(5) のとおり () 河川 ( 補助 ) (5) 国道 ( 直轄 ) よどがわすいけいふるかわ 平成 5 年

図 東北地方太平洋沖地震以降の震源分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 ) 図 3 東北地方太平洋沖地震前後の主ひずみ分布図 ( 福島第一 第二原子力発電所周辺 )

この台風による和歌山県全域での被害をみると, 人的被害は, 死者 56 人 ( うち災害関連死 6 人 ), 行方不明者 5 人, 負傷者 9 人, 物的被害は, 全壊 371 棟, 半壊 1,842 棟, 一部破損 171 棟, 床上浸水 2,680 棟, 床下浸水 3,147 棟, 浸水被害 1

ha ha km2 15cm 5 8ha 30km2 8ha 30km2 4 14

新潟県連続災害の検証と復興への視点

資料 -5 第 5 回岩木川魚がすみやすい川づくり検討委員会現地説明資料 平成 28 年 12 月 2 日 東北地方整備局青森河川国道事務所

新都市社会技術融合創造研究会研究プロジェクト 事前道路通行規制区間の解除のあり方に関する研究

<4D F736F F D20967B95B681698DC58F498D D8E968C888DD A2E646F63>

避難勧告等の 判断 伝達マニュアル ( 土砂災害編 ) ひと 緑がかがやく田園と交流のまち 安全に安心して暮らせるまちの実現に向けて ( 概要版 ) 平成 26 年 9 月 1 日 北海道長沼町

Microsoft Word - H 記者発表_名張川3ダム演習_ .doc

<31352E91808DEC90E096BE8F EA94CA94C5816A2E786477>

熊本地震の緊急調査報告

土砂災害警戒情報って何? 土砂災害警戒情報とは 大雨警報が発表されている状況でさらに土砂災害の危険性が高まったときに, 市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の方々が自主避難をする際の参考となるよう, 宮城県と仙台管区気象台が共同で発表する防災情報です 気象庁 HP より :

別添フロー 地すべり 事業着手の前年度まで 全体計画と構造協議の流れ 事業着手年度以降 ( 整備計画や事業実施計画に位置付け ) 時間の経過 事前協議に必要な地質調査等の実施 詳細設計を実施するための 地すべりブロックの特定 対策工の概略設計 追加調査の実施 事前協議 事業の必要性 費用対効果 交付

リサーチ ダイジェスト KR-051 自然斜面崩壊に及ぼす樹木根系の抑止効果と降雨時の危険度評価に関する研究 京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻特定教授杉山友康 1. はじめに 鉄道や道路などの交通インフラ設備の土工施設は これまでの防災対策工事の進捗で降雨に対する耐性が向上しつつある一方で

<4D F736F F D B4C8ED294AD955C8E9197BF E894A8AFA8B7982D191E495978AFA82C982A882AF82E996688DD091D490A882CC8BAD89BB82C982C282A282C4816A48502E646F63>

国土技術政策総合研究所 研究資料

深層崩壊危険斜面抽出手法マニュアル(素案)

177 箇所名 那珂市 -1 都道府県茨城県 市区町村那珂市 地区 瓜連, 鹿島 2/6 発生面積 中 地形分類自然堤防 氾濫平野 液状化発生履歴 なし 土地改変履歴 大正 4 年測量の地形図では 那珂川右岸の支流が直線化された以外は ほぼ現在の地形となっている 被害概要 瓜連では気象庁震度 6 強

図-2 土砂移動発生箇所 国土地理院の判読結果 4による 図-3 傾斜区分と土砂移動発生箇所 国土地理院の判読結果 4に よる の関係 根谷川 AMeDAS三入観測点 太田川 可部東地区 広島市安佐北区 八木地区 緑井地区 広島市安佐南区 地質区分 産業技術総合研究所シームレス地質図より関 図-4


西日本豪雨 市民への緊急メッセージ 記者発表会 防災学術連携体幹事会 趣旨 防災に関わる56の学会ネットワークである防災学術連携体は 平成 30 年 7 月豪雨による西日本を中心とした豪雨災害に関して緊急集会を行い 地球環境の変化は自然災害として身近に迫っており 今後 夏後半から秋にかけては大雨が降

ダムの運用改善の対応状況 資料 5-1 近畿地方整備局 平成 24 年度の取り組み 風屋ダム 池原ダム 電源開発 ( 株 ) は 学識者及び河川管理者からなる ダム操作に関する技術検討会 を設置し ダム運用の改善策を検討 平成 9 年に設定した目安水位 ( 自主運用 ) の低下を図り ダムの空き容量

目次 1. はじめに 1 2. 協議会の構成 2 3. 目的 3 4. 概ね5 年間で実施する取組 4 5. フォローアップ 8

地盤に関連した法律の出来た背景 立法の契機 立法の推移 1950 建築基準法 ( 中規模の地震対応 ) 1957 集中豪雨による地すべり災害 1958 地すべり等防止法 1961 集中豪雨で宅地造成地の崖崩れ災害 1961 宅地造成等規制法 乱開発 スプロール化 1968 都市計画法 ( 開発許可制

国土技術政策総合研究所 研究資料

2

NMM-DDAによる弾塑性解析 およびその適用に関する研究

Copyright (2016) by P.W.R.I. All rights reserved. No part of this book may be reproduced by any means, nor transmitted, nor translated into a machine


 

平成31年度予算概算決定額 森林整備事業 治山事業 林野公共事業 (平成30年度1次補正予算額5,199百万円 182, ,049 百万円 平成30年度第2次補正予算額 32,528百万円) 臨時 特別の措置 として31年度概算決定額44,128百万円を別途措置 対策のポイント 林業の成

平成 29 年 7 月九州北部豪雨における流木被害 137 今回の九州北部における豪雨は 線状降水帯 と呼ばれる積乱雲の集合体が長時間にわたって狭い範囲に停滞したことによるものである この線状降水帯による記録的な大雨によって 図 1 に示す筑後川の支流河川の山間部の各所で斜面崩壊や土石流が発生し 大

<4D F736F F D2091E682508FCD816091E682528FCD95F18D908F912E444F43>

1 吾妻町 平成18年3月27日に東村と合併し東吾妻町になりました 2 六合村 平成22年3月28日に中之条町に編入しました 5.2-2

7 制御不能な二次災害を発生させない 7-1) 市街地での大規模火災の発生 7-2) 海上 臨海部の広域複合災害の発生 7-3) 沿線 沿道の建物倒壊による直接的な被害及び交通麻痺 7-4) ため池 ダム 防災施設 天然ダム等の損壊 機能不全による二次災害の発生 7-5) 有害物質の大規模拡散 流出

写真 -1 南阿蘇村阿蘇大橋地区の斜面崩壊発生状況 ( 国際航業株式会社 株式会社パスコ撮影 ) 図 -2 平成 24 年九州北部豪雨災害時及び熊本地震時の土砂移動分布図 図 -3 平成 24 年九州北部豪雨災害時及び熊本地震時の土砂移動分布図 ( 阿蘇山外輪部の一部を拡大 ) 図 -2に示すとおり


土砂災害防止法ホームページの改造について

の設置に加え 崩壊斜面の周辺に伸縮計 地盤傾斜計等を設置し計測データによる監視を行うとともに 定点カメラによる視覚的監視を行っている なお 地震動や雨量 各観測計器に基準値を設け 基準値超過時の作業中止基準を定め運用している 2.2, 崩壊地内の無人化機械による施工崩壊斜面上部に残る不安定土砂の崩壊

津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

PowerPoint プレゼンテーション

) km 200 m ) ) ) ) ) ) ) kg kg ) 017 x y x 2 y 5x 5 y )

資料 4 安全 安心の確保 ~ 道路の防災 震災対策 ~ Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism

Microsoft PowerPoint - CS立体図による危険地把握e(HP用)

平成 3 1 年度 記者発表資料 平成 3 1 年 2 月 4 日九州地方整備局武雄河川事務所 災害時協力会社の公募について ~ 災害への迅速かつ的確な対応のため ~ 国土交通省武雄河川事務所では 災害時等における 迅速な被災状況の把握 円滑で的確な対応 を強化するため 事前に建設業等関係者の皆様と

Microsoft PowerPoint - 宇治災害2

国土技術政策総合研究所 研究資料

<4D F736F F D208BD98B7D92B28DB88EC08E7B95F18D908F915F96788CA42E646F63>

Microsoft Word - ver41 技術発表会の原稿(H27)

kisyahappyou

あおぞら彩時記 2017 第 5 号今号の話題 トリオ : 地方勤務の先輩記者からの質問です 気象庁は今年度 (H 29 年度 )7 月 4 日から これまで発表していた土砂災害警戒判定メッシュ情報に加え 浸水害や洪水害の危険度の高まりが一目で分かる 危険度分布 の提供を開始したというのは本当ですか

刈羽村の宅地被害宅地の背面は砂丘で 敷地内の地下水位が浅いことから 液状化に伴う地盤変状が多く発生した この地域は 2004 年新潟県中越地震の際にも 液状化によると考えられる地盤災害が発生しており 被害の大きな住宅は建て替えを行っている 中越地震では地下水の浅い宅地に被害が集中したことから 宅地を

浸水深 自宅の状況による避難基準 河川沿いの家屋平屋建て 2 階建て以上 浸水深 3m 以上 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 浸水深 50 cm ~3m 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難上階に垂直避難 浸水深 50 cm未満 緊急避難場所, 近隣の安全な建物へ水平避難 自宅に待

Microsoft PowerPoint - 02 関(HP用).pptx


0.45m1.00m 1.00m 1.00m 0.33m 0.33m 0.33m 0.45m 1.00m 2

土地改良523号.indd

79!! 21

Microsoft Word - 概要版(案)_ docx

目次 動作環境について... 2 山地災害危険箇所マップとは... 3 更新情報を見る... 5 関連サイトのリンク情報を見る... 6 利用上の留意事項を確認する... 7 山地災害危険箇所マップを参照する... 8 地図の表示範囲を変更する ( 拡大 縮小 移動 )... 9 地図の表示内容を変

平方・中野久木物流施設地区

untitled


連載 土砂災害の解消を目指して v1140 P.indd


気象庁技術報告第134号表紙#.indd


平成 31 年度宮崎河川国道事務所災害時協力会社募集要項 1. 目的宮崎河川国道事務所では 管理する大淀川 小丸川 宮崎海岸 国道 10 号 国道 220 号 東九州自動車道 霧島砂防を主に 災害が発生し または発生のおそれがある場合に迅速な状況把握 ならびに的確な災害対応を図るため 下記の部門にお

平成 30 年度農村地域防災減災事業 ( 美馬 3 地区 ) ため池ハザードマップ作成委託業務 特記仕様書 経済建設部 農林課

Microsoft PowerPoint 「平成28年熊本地震活動記録(第17報) 案-2.pptx

( 対象区域 ) 第 5 地区計画の対象区域は 工業団地 ( 国母工業団地 南部工業団地 機械金属工業団地 ファッション工業団地 ( アリア ディ フィレンツェ ) をいう 以下同じ ) の区域内及び隣接地又は近接地 ( おおむね工業団地から500メートル以内 ) とする ( 区域の設定 ) 第 6

農地等斜面災害緊急調査表 ( 案 ) 巻末 -1

Transcription:

地すべり学会関西支部大豊地すべり調査 調査報告 メンバー高知大学笹原克夫, 日浦啓全 ( 名誉教授 ) 徳島大学西山賢一京都大学松浦純生, 末峯章, 土井一生国土防災技術 ( 宮本卓也, 井上太郎 相愛山崎尚晃, 松田誠司 四国トライ松尾俊明, 吉村典宏長崎テクノ 讃岐利夫木本工業株西森興司町田博一 地研山本亮輔中根久幸日本工営 丸晴弘 その他現地調査に際しては, 高知県土木部防災砂防課, 国土交通省四国地方整備局河川部, 国土交通省四国地方整備局四国山地砂防事務所に同行いただき, ご支援いただきました 記して感謝申し上げます

1. はじめに 本調査団では 8/30~31 の両日にかけて当該地域の状況を視察した. 箇所名は高知市鏡的渕地区を手始めとして大豊町に移動し, 順次怒田 寺内, 大平 川戸連火の5 地区の調査を実施した ( 図 -1).8 月 3 日に高知県に影響を与えた台風 12 号と 9 日の台風 11 号により大豊町では多くの箇所で地すべり活動が顕在化 活発化した. 人的および建造物等に対する甚大な被害は出ていないものの 多くの箇所で避難指示が出され 住民の生活 経済活動等に大きな影響をもたらしている. この間, 高知県と国土交通省が災害対応に当たった. 本調査については高知市, 大豊町は言うまでもなく高知県, 国土交通省四国地方整備局からの多大な協力を得た. 地すべりの頻発した地区に最も近い国土交通省の佐賀山観測局 ( 図 -2) の記録によれば 8/1~10 の間の累加雨量は 1,721.0mm を記録している. 鏡的淵, 寺内 そして大平の地すべりは 8 月 4~9 日と二つの台風の間の無降雨期間にも運動を継続した. 地質との関連では鏡的淵は蛇紋岩分布地域に近接していること, 大豊地区は三波川南縁から御荷鉾帯にかけて地域であり, 地すべりの発生と地質帯との関連も考察されねばならない. 今後の資料収集とそれを基にした議論が必要となる. 大豊町寺内 大豊町川戸連火 大豊町 大平 大豊町 怒田 佐賀山観測点 高知市 鏡的淵 図 -1 地すべり発生位置図 Google map 使用

図 -2 嵯峨山観測局の降雨記録

2. 鏡的渕地区 台風 12 号の豪雨 (8 月 1 日 ~4 日 : 連続雨量 1,037mm 最大時間雨量 80mm 観測点: 鏡 ダム ) により発生した鏡的渕地区の災害は 崩壊幅 120m 崩壊長さ 100mを呈する大規模 崩壊と さらにその上部 100m 付近で確認される縦断方向に複数存在する段差亀裂であり これは後退性地すべりの運動を示すと考えられる 写真 -1 8 月 3 日崩壊直後の崩壊面全景 崩壊面末端は二級河川鏡川一支的渕川が縦断しており 河川閉塞による二次災害の恐れも考えられる さらに対岸には住宅地が存在し保全人家 12 戸が立地しており 避難指示が継続中である 地元住民によると 最上流側の谷部が先行崩壊した とのことであり これに助長される形で今回の大規模崩壊に至ったものといえる 写真 -2 先行崩壊した最上流側の谷部 崩壊面上部にて確認される亀裂は高さ 1~2m 程度の段差を伴い 最長で 120m 程度の連続性が確認されている 崩壊幅と同程度の亀裂の連続性が認められることから 今回の崩壊上部に後退性地すべりが存在すると考えられ 今後の調査が重要と考える 写真 -3 崩壊面上部で確認される段差亀裂 1 写真 -4 崩壊面上部で確認される段差亀裂 2

3 寺内地区 寺内地区は 林野庁所管の 寺内地すべり防止区域 内の北縁部に位置する 道路面に発生した地すべり側壁のクラックや 頭部滑落崖の位置から 幅 70 80m 斜 面長 300m 程の範囲で地すべりが発生している と判断される 現地調査では 道路より 100m 程 上部の山腹斜面内に 今回の豪雨で発生したと 判断される新鮮な滑落崖 写真-5 を確認し 周辺の踏査を重点的に実施した その他 道路 面には地すべり両サイドのクラックが路面を 横断して確認される 写真-6 応急の安全対策 としては 伸縮計 写真-7 および警報機によ る民家敷地内クラックの監視 緊急調査として 写真-5 頭部滑落崖 h=0.4m 調査ボーリングを実施中である 写真-6 道路部の地すべり側壁クラック 写真-7 道路直上のクラックと伸縮計 その他 想定地すべりブロックより下流側で 小崩壊と土石流が発生 写真-8 し ており 周辺の道路にも変状 写真-9 が認められている この道路の変状は被災直 後の調査時に比べて進行が認められる 写真-8 崩壊および土石流箇所 写真-9 路面の変状箇所

今後の本格的な調査実施にあたっては, 頭部滑落崖の変動量の把握 地すべりブロック区分, そして下流側の崩壊等変状と地すべり本体との関連性について検討する必要がある 特に頭部の滑落崖は, さらに後退して地すべりブロックの範囲が拡大しないかどうかを確認する必要がある

4. 怒田地区 怒田 八畝地区地すべり防止区域の面積は 411ha に達し 日本でも最大級の破砕帯地すべりが分布しているため 地すべり対策には多額の費用と高度な技術が必要であることから 昭和 57 年 4 月より直轄地すべり対策事業を実施している 怒田 八畝地区では 地すべりを不安定化させる地下水を排除するために 抑制工を主体として事業を実施している 写真 -10 怒田地区直轄地すべり対策事業位置図 怒田地区では 約 3,5km 離れた大滝雨量観測局 ( 国土交通省設置 ) において 8 月上旬の台風 12 号と 11 号で 1,418mm の降雨が観測された この降雨によって写真 -10 に示すように怒田地区の想定地すべりブロック外の下部斜面で崩壊が起こった この崩壊は写真 -11 に示すように 地下水が集中して 起こっていることは明らかである この崩壊により これより上部の斜面において安定性が崩れてクラックが発生している 今回の降雨期間において怒田 八畝地区の地すべり対策実施ブロックでは 地表面に設置している伸縮計に大きな変位は観測されていない 怒田地区では 写真 -12 に示すように 52 基の集水井が施工されていることから 地すべり対策工としての抑制工が有効であることを実証していると推察している 写真 -11 斜面崩壊 写真 -12 集水井の施工例

5. 大平地区 集落を結ぶ町道に亀裂が見つかり民家が被災した高知県大豊町大平地区において 主に町道よりも上方の斜面の踏査をおこなった 斜面中央部に落差 30-40 cm 程度の明瞭な新しい段差亀裂 ( 写真 -13) を遷緩線に沿って確認した 亀裂は連続性が高く 斜面上流写真 -13 連続する新しい段差亀裂 ( 斜面中央部 ) 側に沿って道路の横断亀裂や石積みの緩み ( 写真 -14) まで続いていた この段差亀裂の数十 m 上方には高低差 5 m 程度の旧滑落崖が認められ その直下にも遷緩線に沿って開口亀裂が部分的で不明瞭ではあるものの確認できた 今回の地すべりは これらの亀裂のどちらか ( もしくは両方 ) を頭部とするように発生したものと推定され その大きさは道路よりも上の領域だけで長さ 150-200 m 幅 100-150 写真 -14 道路沿いの石積みの緩みと伸縮計 写真 -15 被災した民家 m に及ぶ また 遷緩線の下流側ではガリー状の沢地形や開口亀裂が認められ その延長上に被災した民家 ( 写真 -15) があった また 今回被害をもたらした地すべりブロックの下流側の斜面においては 馬蹄形状の急崖とその下部に数段の緩傾斜面が認められ 変動履歴のある別の地すべりブロックが示唆された 先述の旧滑落崖より数十 m 上方に位置し この地すべりブロックの滑落崖となりうる地点においては 10 cm 程度の開口亀裂が確認された ( 写真 -16) 今後 この地すべりブロックも含めてブロックの分割 確定を進め それぞれのブロックにおける変動について注視する必要がある 写真 -16 旧滑落崖より上方に見られた開口亀裂

かわどつれび 6. 川戸連火地区 平成 26 年 8 月 2 日 ~4 日までの台風 12 号の豪雨により 川戸連火地区では 幅約 120m 長さ約 150m の地すべりが発生し 町道を押出し民家裏まで土塊が迫ってきた また 隣接 して幅約 40m 長さ約 20m の町道を含む土塊が崩壊して土石流となって下流の家屋と道路を 急襲した 以下に 状況写真を示す 隣接崩壊部の全景 土石流と家屋