Surgical Alternatives to Hysterectomy in the Management of Leiomyomas 子宮摘出術に代わる子宮筋腫の外科的選択肢 ACOG PRACTICE BULLETIN 2000 M6 31 番小松未生
子宮筋腫 女性の骨盤内腫瘍で最も頻度が高い 大部分は無症状 治療は子宮摘出術が一般的 挙児希望 子宮温存希望の女性も多い 治療法の選択肢は増えているが その有効性や問題点を検討する必要がある
背景 子宮筋腫 頻度 :25-50%(80% とする報告もあり ) 主症状 : 不正性器出血腹部圧迫感 疼痛過多月経に伴う鉄欠乏性貧血 * 腹部の不快感は 妊娠中の子宮増大に伴う不快感に似ている 良性腫瘍 症状のある時のみ治療が必要 症状や治療には 筋腫の大きさと位置が関与する
子宮摘出術に代わる外科的治療法
筋腫核出術 ( 開腹 ) 特徴 挙児希望または子宮温存希望の女性にとって 選択肢となる 肉眼的に明らかな筋腫のみ適応となる
腹腔鏡下筋腫核出術 特徴 : 切開創が小さい ( ただし最低 3 箇所 ) 適応 : 光学嘴管で十分観察できる大きさ ( 巨大筋腫には不適 )
子宮鏡下手術 特徴 : 筋腫が関与する出血のコントロールに有効子宮を縮小することはできない 適応 : 粘膜下筋腫 ( 内腔突出を認めるもの )
子宮鏡下内膜焼灼術 (Endometrial Ablation) ( レーザー 熱 物理的 化学的内膜破壊 ) 特徴 : 月経時の出血を軽減できる 筋腫が残存しても 月経時の出血はおこらない
マイクロ波子宮内膜焼灼術 原理 : 子宮内膜を全て焼灼して 子宮からの出血をなくす * 妊孕性の温存は不可
その他の治療法 子宮動脈塞栓術 プロゲステロンアンタゴニスト GnRH アンタゴニスト 特徴 : いずれも効果的な治療である 課題 : 症例数が不十分フォロー期間が短い妊孕性に対する安全性が確立されていない
臨床的考察と推奨される治療法 1. 子宮摘出術とその他の手術の比較 2. 外科的治療の補助的薬物療法の効果 3. 核出術後妊婦での帝王切開と経膣分娩の比較 4. 筋腫切除と無治療で妊娠率の比較 5. ホルモン補充療法 (HRT) の筋腫に対する影響 6. 無症状の患者に対しては無治療でよいか 7. 手術療法と無治療での妊孕性への相違
1. 症状のある患者における 子宮摘出術とその他の手術の比較
経腹的筋腫核出術 vs 子宮摘出術 長い経過をみて 痛み 出血 再発 合併症 患者の満足度 以前の研究 核出術の方がリスクが高い 最近の研究 両者のリスクは同じ ( 再発を除く )
経腹的筋腫核出術 過多月経の改善率 :40-93% 長期予後では 筋腫の再発あり 超音波を使った再発の評価以前の経腹エコー : 27%/10 年最近の経膣エコー : 51%/5 年 筋腫核出後に出産した女性では 再発率が低いという報告あり 核出術時に予期せぬ全摘術に進むリスクあり 熟練した術者では低い (<1%)
腹腔鏡下筋腫核出術 ( 経腹的筋腫核出術と比較 ) 腹腔鏡下手技の問題点 1. 小さな腹壁の創から大きな筋腫を取り出すこと 細切術により可能に 2. 子宮の修復 熟練した技術が必要 5-8cm 以上 多発筋腫 深部筋層内筋腫では 開腹術の方が適する 合併症は 2-8% 増加 ( 子宮腹膜瘻 術後の妊娠中の子宮破裂 ) 再発率高い (33%/27 ヶ月 )
子宮鏡下筋腫核出術 100~200 症例 : 良好な結果の報告あり ほとんどの患者で過多月経の改善 再手術が必要な症例もある 16%( 平均 9 年後 ) 5%(3 年後 ) という報告あり 妊孕性温存は良好 ( 術後 59% で妊娠あり )
子宮鏡下内膜焼灼術 (Endometrial Ablation) 不正性器出血のみの女性にとって 出血のコントロールに効果的 子宮筋腫あり 40% の失敗率特発性過多月経 5% の失敗率 現在 筋腫のある女性への内膜焼灼術に対するエビデンスはない
2. 外科的治療を行う患者にとって 補助的薬物療法は効果があるか
術前補助療法 GnRHアゴニスト 長所 : 子宮を縮小させる手術時間 手術時出血量 術後疼痛が減少 短所 費用が高価 長期の使用で骨密度低下 短期間でも重篤な副作用あり 筋腫が柔らかくなり 手術操作がしにくくなる
術中補助療法 バソプレッシン 子宮筋層へのバソプレッシンの注入により出血量が減少する 子宮鏡手術の際 子宮頸部へのバソプレッシンの注入により出血量減少の報告あり
3. 核出術後の妊婦では 帝王切開と経腟分娩の どちらがよいか?
筋腫核出術後の帝王切開と経腟分娩を直接比較した報告はない 臨床的には 核出時に内膜を損傷した場合は帝王切開が勧められている 核出術後の子宮破裂 : 大部分は帝王切開の既往あり 筋腫核出術でも 子宮筋層を損傷するため 子宮破裂を起こしうる
4. 子宮筋腫をもつ不妊の患者では 筋腫切除と無治療では どちらが妊娠率が高いか?
筋腫自体が不妊の原因となるかの評価は難しい 筋腫による子宮内腔の変形が 不妊の原因となり得る 子宮内腔の変形のある女性では 体外受精胚の着床率が低い 筋腫以外に理由のない不妊患者に筋腫核出術を施行すると妊娠率が増加した (1-2 年後に 40~60% に ) という報告もある
5. 閉経期の女性において ホルモン補充療法 (HRT) の 筋腫に対する影響は?
従来は子宮筋腫がエストロゲン依存性である為 子宮筋腫の問題は閉経後は解決する と考えられていた HRT をうける女性が増えるにつれ 筋腫の症状持続の可能性がある
HRT と子宮筋腫に関する報告 筋腫のある女性が HRT を受けると 不正性器出血が増加した 閉経期のHRTは 筋腫を増大させるか? 経皮投与 (1 年 ) 増大 (+) 14.3~19.7mm 経口投与 増大 (-) ただし追跡期間短い 臨床的に有意かどうか不明
6. 無症状の患者に対して 無治療にて管理することは 外科的治療よりも優れているか?
無症状の子宮筋腫 無治療が標準的 肉腫 ( 悪性 ) との鑑別が重要鑑別の主なポイントは 子宮の急激な増大 術前診断が子宮筋腫の症例 0.2~0.3% 術後初めて肉腫肉腫と診断と診断 急激な増大 (+) 筋腫も多い 子宮の増大の速さのみでは鑑別不能
子宮が強い尿管の圧迫をおこして腎機能が障害されたという報告あり 挙児希望 習慣性流産 (+) の患者は 明らかな子宮腔の変形がある場合 無症候性であっても治療が必要かもしれない 良性腫瘍における子宮摘出術後の死亡率 (1.0-1.6/1,000) 子宮摘出は慎重に考慮すべき 挙児希望 不妊 (-) の女性に 筋腫核出術を勧めるかについて一致した見解はない
子宮が大きいと 無治療 卵巣の評価が困難 ( 早期の卵巣癌の発見が不可能 ) 手術 術中合併症が増える 子宮が小さいときに手術を行った方がよい 無症状の筋腫への介入に対する適切な議論はない
7. 将来的に手術の可能性のある 女性では 手術と無治療で 妊孕性への影響はどうか?
症状なし + 妊娠希望 無治療 症状軽度 + 妊娠希望 再発の危険のため 実際的な介入は妊娠となるべく近い時期に行う 手術の場合 筋腫核出術後の癒着は避けなければならない たとえ生殖補助技術が可能であっても!
Summary Level A: 確かで一貫した科学的根拠に基 づいて推奨されるもの 症候性の筋腫 子宮摘出術が確実 症候性の筋腫で 子宮温存を望む 経腹的筋腫核出術が安全で効果的 GnRH アゴニストの術前の使用は有効 筋腫核出術術中のバソプレッシンの使用は出血の減少に効果あり
Level B: 限られた 一貫性のない科学的 根拠に基づくもの 筋腫の急速な増大という点のみでは 子宮筋腫と肉腫の鑑別はできない
Level C: 主に一致した意見 専門家の 意見に基づくもの 腹腔鏡下筋腫核出術は 安全で効果的 ( 中等度の筋腫 ) 妊娠希望の女性にとっては 安全性についてさらなる研究が必要 子宮鏡下筋腫核出術は 粘膜下筋腫の過多月経のコントロールに有効
子宮鏡下内膜焼灼術は特発性過多月経のコントロールには有効 筋腫の患者ではさらなる研究が望まれる 筋腫は不妊の原因になりうるが 術前に 包括的な不妊の評価を行わなければならない 筋腫のある閉経女性が HRT を受けた場合 出血 筋腫増大の可能性はあるが その程度は HRT を禁止するほどではない