医学部医学科 2 年免疫学講義 10/27/2016 第 9 章 -1: 体液性免疫応答 久留米大学医学部免疫学准教授 溝口恵美子

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1. 免疫学概論 免疫とは何か 異物 ( 病原体 ) による侵略を防ぐ生体固有の防御機構 免疫系 = 防衛省 炎症 = 部隊の派遣から撤収まで 免疫系の特徴 ⅰ) 自己と非自己とを識別する ⅱ) 侵入因子間の差異を認識する ( 特異的反応 ) ⅲ) 侵入因子を記憶し 再侵入に対してより強い反応を起こ

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

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報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

研究の中間報告

免疫再試25模範

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

読んで見てわかる免疫腫瘍

免疫学過去問まとめ

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第5章 体液

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

32 章皮膚の構造と機能 a b 暗帯 (dark zone) 胚中心 (germinal center) 明帯 (light zone) c 辺縁帯 (marginal zone) マントル帯 子として Th0 から誘導され,IL-23 刺激により生存維持される. 上皮細胞や線維芽細胞を介して好中

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

研究の中間報告

目次 1. 抗体治療とは? 2. 免疫とは? 3. 免疫の働きとは? 4. 抗体が主役の免疫とは? 5. 抗体とは? 6. 抗体の構造とは? 7. 抗体の種類とは? 8. 抗体の働きとは? 9. 抗体医薬品とは? 10. 抗体医薬品の特徴とは? 10. モノクローナル抗体とは? 11. モノクローナ


卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

5. T 細胞 TCR( 抗原受容体 ) を発現 抗原断片と MHC の複合体を認識 機能的に以下の 3 つに分類できる ヘルパー T 細胞免疫の応答の調節 免疫機構の制御 (Th1 細胞,Th2 細胞,Th17 細胞など ) 細胞傷害性 ( キラー )T 細胞標的細胞を傷害制御性 T 細胞 T 細

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

70,71 図 2.32, 図 2.33, 図 2.34 C3b,Bb C3bBb 70,71 図 2.32, 図 2.33, 図 2.34 C3b2,Bb C3b2Bb 72 7 行目 C3 転換酵素 (C4b2b) C3 転換酵素 (C4b2a) 91 図 2.50 キャプション 12 行目 リ

図形の表現 5 チャートの作成 1, 作成チャート 右図は 平成 23 年 10 月 8 日付け朝日新聞 3 面より 下図は実際作成した図です 2, 樹状細胞について本年のノーベル医学生理学賞は 樹状細胞 を発見した功績に対して 米ロックフェラー大のラルフ スタインマン教授が選ばれた この樹状細胞は

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2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

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2017 年度茨城キリスト教大学入学試験問題 生物基礎 (A 日程 ) ( 解答は解答用紙に記入すること ) Ⅰ ヒトの肝臓とその働きに関する記述である 以下の設問に答えなさい 肝臓は ( ア ) という構造単位が集まってできている器官である 肝臓に入る血管には, 酸素を 運ぶ肝動脈と栄養素を運ぶ

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

感覚細胞 網膜 retina の模式図 光 脳へ 神経節細胞 介在神経 光受容体細胞 人の網膜 薄明では 109個 網膜周辺部に分布 形だけ 6 錐体細胞 色の識別 3x10 個 色は認識 Cone cell 感度は低い 網膜中心部に分布 できない 桿体細胞 明暗のみ Rod cell 感度は高い

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

リンパ組織における抗原特異的なナイーブ T 細胞の捕捉と活性化 捕捉 活性化 ナイーブT 細胞末梢循環中移動所属リンパ節でAgを提示した樹状細胞に出会う TCR を介して活性化される 5 日以内 エフェクター T 細胞 Ag 認識後 5 日以内に増加 リンパ節を出て局所へ移動

スギ花粉の捕捉Ys ver7.00

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ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

第一章自然免疫活性化物質による T 細胞機能の修飾に関する検討自然免疫は 感染の初期段階において重要な防御機構である 自然免疫を担当する細胞は パターン認識受容体 (Pattern Recognition Receptors:PRRs) を介して PAMPs の特異的な構造を検知する 機能性食品は

ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

2. Tハイブリドーマによる抗原認識二重特異性を有する (BALB/c X C57BL/6)F 1 T 細胞ハイブリドーマを作製した このT 細胞ハイブリドーマは I-A d に拘束された抗原 KLH と自己の I-A b 単独を二重に認識した 外来抗原に反応するT 細胞が自己のMHCによって絶えず

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

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< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

免疫本試29本試験模範解答_YM

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

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3 樹状細胞 dendritic cell( 以下 DC) 全 の組織に広く分布する 表 に存在するものはとくに Langerhans 細胞と呼ばれる 最も強 な抗原提 能 を持つ 抗原提 に特化した細胞 (Antigen presenting cell, APC) 組織内で外来抗原を取り込むと 所

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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免疫リンパ球療法とは はじめに あなたは免疫細胞 ( 以下免疫と言います ) の役割を知っていますか 免疫という言葉はよく耳にしますね では 身体で免疫は何をしているのでしょう? 免疫の大きな役割は 外から身体に侵入してくる病原菌や異物からあなたの身体を守る ことです あなたの身体には自分を守る 病

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

8) 抗体について,B A) 抗体は 主に γ 領域に存在する B) 単一のモノクローナル抗体を産生する 9) リンパ節について,C B) リンパ節におけるクラススイッチは二次リンパ濾胞の胚中心で起こる C)HEV( 高内皮性細静脈 ) はリンパ節傍皮質に存在する 10)B 細胞について C) メモ

博第265号

度に比しあまりにも小さい2 階建てのその建物に驚いた これは分子生物学のパイオニアであり ノーベル医学生理学賞受賞者でもあったスタンフォード大学の教授である Arthur Kornberg と Paul Berg そして Charley Yanofsky らが 分子生物学を応用科学に役立てたいと考え

平成24年7月x日

日本組織適合性学会誌第20巻2号

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

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ヒト胎盤における

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研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

化学物質の分析 > 臨床で用いる分析技術 > 分析技術 > 免疫学的測定法 1 免疫学的測定法 免疫反応を利用して物質を分析する方法として 免疫学的測定法 ( イムノアッセイ ) がある イムノアッセイは 抗体に抗原を認識させる ( 抗原抗体反応を利用する ) ことにより 物質を定量する分析法であり

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寺さんのもっと健康セミナー (その8) 花粉症

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

本研究成果は 2015 年 7 月 21 日正午 ( 米国東部時間 ) 米国科学雑誌 Immunity で 公開されます 4. 発表内容 : < 研究の背景 > 現在世界で 3 億人以上いるとされる気管支喘息患者は年々増加の一途を辿っています ステロイドやβ-アドレナリン受容体選択的刺激薬の吸入によ

VENTANA PD-L1 SP142 Rabbit Monoclonal Antibody OptiView PD-L1 SP142

STAP現象の検証の実施について

無顆粒球症

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

2 1 章 免疫とは 免疫系概説 厳密にと非の区別を行う獲得免疫について述べることにする 獲得免疫系にとって非を と区別する目印となる物質のことを antigen という 免疫系はそのようなの出現に対 してそれを排除するような行動を開始するのである その仕事をする免疫系の中心となっている細胞 がリン

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

図 Mincle シグナルのマクロファージでの働き

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医学部医学科 2 年免疫学講義 10/27/2016 第 9 章 -1: 体液性免疫応答 久留米大学医学部免疫学准教授 溝口恵美子

体液性免疫 B 細胞が分化した形質細胞によって産生される抗体による免疫反応で主に次の 3 つの作用からなる 1) 中和作用 : neutralization: 抗体による細菌接着の阻害 2) オプソニン化 : 細菌が抗体 補体によって貪食されやすくなる 3) 古典経路による補体系の活性化 : 抗体による補体活性化とそれによるオプソニン化の促進と一部細菌の直接融解

9-1 体液性免疫応答のシグナルの始動 胸腺依存性抗原 Thymus-dependent antigen (TD 抗原 ) Ag BCR MHCクラスII 分子による抗原提示 Ag ペプチド断片 MHC クラス II 分子 1 B cell サイトカイン 抗原と B 細胞上の受容体が結合して第 1 のシグナルが入る

胸腺非依存性抗原 Thymus-Independent antigen (TI 抗原 ) T 細胞がない状況下でも B 細胞に刺激が入る 1) 自然免疫系のリセプターに抗原の一部が結合する直接結合する場合 2) 単に重合した抗原によって膜結合型 IgM が架橋する場合 自然免疫系のレセプター Ag 1 2 B cell

免疫グロブリン 免疫グロブリン (immunoglobulin) B リンパ球が最終的に分化した形質細胞によって細胞外に分泌される液性成分のこと 免疫グロブリン単量体 : 2 つの L 鎖と 2 つの H 鎖のジスルフィド結合を介して単量体を形成 V: variable C: constant

抗原結合領域 : L 鎖と H 鎖の可変領域が Ig の抗原 ( エピトープ ) 結合領域となるポケットをつくる 抗原結合領域 タンパク A エピトープ 1 エピトープ 2 抗エピトープ 1 抗体 抗エピトープ 2 抗体 どちらも抗タンパク A 抗体

New 認識連関 linked recognition l 特定の B 細胞は 同一抗原に応答するヘルパー T 細胞によってのみ活性化され得る l ヘルパー T 細胞によって認識されるエピトープは B 細胞に認識される抗原に連関していなければならない l ヘルパー T 細胞と B 細胞とは必ずしも同じエピトープを認識する必要はない 例 ) ヘルパー T がエピトープ 1,B 細胞がエピトープ 2 を認識して良いが どちらもタンパク A 抗原に関与している Janeway s 免疫生物学原書第 7 版 p391, 図 9.4 参照のこと

免疫グロブリンの種類 IgM 5 量体 J 鎖 アイソタイプ : 形質細胞によって細胞外に分泌される液性成分のこと IgD IgG IgA IgE J 鎖 サブクラスヒト (G1, G2, G3, G4) マウス (G1, G2a, G2b, G3) 2 量体 分泌片 ( 分解から保護 )

各免疫グロブリンの特徴 IgM: 一般的に抗原刺激後に最初に産生される Ig で 抗原の不動化と補体古典的経路の活性化を効率よく誘導する IgD: 単量体でほとんどの B 細胞に発現している IgG: 1 細胞膜型あるいは分泌型の単量体として存在する 2 4つのサブクラスがあり 血中のIgはこれらのIgGサブクラスがほとんどを占める 3 抗体依存性細胞障害性活性 (ADCC) を誘導する Ex) 胎盤 à 胎児へ IgA: 1 単量体または二量体として存在する 2 上皮細胞上のレセプターを介して粘膜表面から分泌される 3 分泌型 IgA として日々多量に分泌される IgE: 1 血中濃度は比較的低い 2 ほとんどがマスト細胞 好塩基球 単球 好酸球の細胞表面に存在 3 即時性過敏反応に関与 Ex) 母乳 à 新生児へ

B 細胞の特徴 B 細胞 : 1 骨髄の多能性造血幹細胞からできる 2 B-1 細胞と B-2 細胞の 2 系統の細胞がある 3 個々の B 細胞は特異性を持ち ただ 1 つのエピトープを認識する Ig を産生する B-1 細胞 (CD5 陽性 ): 1 胸腔や腹腔に多く そこで自己複製する 2 抗体産生時には Th 非依存性 B-2 細胞 (CD5 陰性 ): 骨髄から供給される細胞で リンパ器官や組織に広く分布している 2 抗体産生時には Th 依存性

New 脾臓 (spleen) 網状の組織に赤血球が充満して肉眼的に赤く見える赤脾髄 ( 横隔膜の直下 ) PALS: Peri-arteriolar lymphoid sheath

抗原結合性 B 細胞は二次リンパ組織の T-B 境界領域で T 細胞と遭遇する 脾臓 1) 抗原結合性 B 細胞の脾臓 T 細胞領域における捕捉 2) 抗原結合性 B 細胞とヘルパー T 細胞との相互作用による細胞分裂の開始 3) 抗原結合性 B T 細胞の赤碑髄への移動と B 細胞増殖による一次反応巣形成および形質芽細胞への分化 ヘルパー T 細胞へと分化 抗原特異的な T 細胞と B 細胞とが出会う 抗体産性能のある形質細胞へと分化 胚中心を形成 形質細胞 : 抗体を大量に分泌するが もはや抗原やヘルパー T 細胞には反応できない Janeway s 免疫生物学原書第 7 版 p386, 図 9.7 より抜粋

活性化した B 細胞が濾胞へ移動し増殖して胚中心を形成する 大部分が CD4+ T 細胞 循環している小型 B 細胞が濾胞の端に存在している 濾胞樹状細胞の密なネットワーク 密集した中心芽細胞が増殖している 胚中心で起こること : 1)B 細胞の増殖 2) 体細胞高頻度突然変異 3) 抗原結合の強さによる細胞選択 Janeway s 免疫生物学原書第 7 版 p389, 図 9.10 より抜粋

活性化 B 細胞の体細胞高頻度突然変異によって高親和性の抗体を産生する形質細胞および高親和性記憶 B 細胞となる 胚中心でB 細胞のIg 可変部で体細胞高頻度突然変異が起こる (somatic hypermutation) 大部分 低親和性に変異 活性化 (-) ごく一部 高親和性に変異 活性化 (+) アポトーシスを起こして除去される CD40 CD40L の結合 (cross-linking) による BCR の抗原結合性の増強 記憶 B 細胞または形質細胞への分化 Janeway s 免疫生物学原書第 7 版 p391, 図 9.11 より抜粋

免疫グロブリンのクラススィッチング 遺伝子 静止期 : 細胞表面 IgM, IgD 発現 IgM 産生 IgG1 と IgE 産生 転写を誘導 転写を誘導 IgG2b と IgA 産生 転写活性化を受けた二つの重鎖 C 遺伝子のうち いずれか一方が実際にスイッチされる 赤矢印は転写を表す Janeway s 免疫生物学原書第 7 版 p393, 図 9.12 より抜粋

免疫グロブリンクラスの発現抑制におけるサイトカインの役割 誘導 IgG1, IgE 産生亢進 IgA 産生著増 IgG3, IgG2b 産生亢進 IgG2b IgA 産生亢進 Janeway s 免疫生物学原書第 7 版 p394, 図 9.13 より抜粋

各免疫グロブリンクラスは体内に選択的に分布する IgG, IgM: 主に血漿中に存在 脳には Ig が存在しない IgG IgA 単量体 体内の細胞外組織液 IgA 二量体 : 乳汁を含む上皮分泌液 IgG: 胎盤輸送で母体から胎児へ IgE: 上皮下にあるマスト細胞に結合 Janeway s 免疫生物学原書第 7 版 p404, 図 9.22 より抜粋

形質細胞の特徴 形質細胞 : 1 最終分化した B 細胞からできる Ig 産生 / 分泌細胞である 2 代謝の活発な大型の細胞と車軸様の核をもつ 3 Ig を膜のレセプターとして使うことをやめた細胞

特性 内因性 誘導性 静止期 B 細胞 形質芽細胞 形質細胞 Janeway s 免疫生物学原書第 7 版 p387, 図 9.8 より抜粋

NK 細胞と NKT 細胞の特徴 NK 細胞 : 1 T 細胞 B 細胞のどちらのマーカーも持たない細胞群 2 ウイルス感染細胞や腫瘍細胞などを殺すことができる 3 対象とする細胞の膜を障害するために放出される顆粒 (perforin, granzyme B) を細胞質内に持つ 4TCR を欠く 5KAR, KIK 等のレセプターを持つ NK T 細胞 : 1 極端にレパトワを欠く TCR を発現した NK 細胞群 2 CD1d により提示される脂質や糖脂質に反応して 大量のサイトカインを分泌する

CBT 過去問集 1 1) 無ガンマグロブリン血症において異常が観察される細胞はどれか? A. マクロファージ B. 好中球 C. 好酸球 D. B 細胞 E. T 細胞

CBT 過去問集 2 解答が間違っていました 2) 主に血液中に分布し IgE の Fc 部分と結合する受容体を持つ細胞はどれか? A. 単球 B. 好中球 C. 好塩基球 D. 肥満細胞 E. リンパ球 血液中に分布する顆粒白血球の亜群で FcεR を持つ 肥満細胞も FcεR を有し これに結合したフリーの抗原が結合してヒスタミンやロイコトリエンなどを放出して I 型アレルギー反応に関与する 抗塩基球は主に末血中に分布するが 肥満細胞の分布は主として粘膜下組織や結合組織等に分布する

CBT 過去問集 3 3) 液性免疫と最も関係するのはどれか? A. 感作リンパ球 B. 抗原抗体反応 C. ウイルス感染 D. 遅延型アレルギー E. 慢性拒絶反応 液性免疫は B 細胞から分泌される抗原特異的な抗体によって引き起こされる

CBT 過去問集 4 4) リンパ節の胚中心で起っているのはどれか? A. 多能性幹細胞の分化 B. 自己に反応する T 細胞の排除 C. B 細胞のクラススイッチ D. 好中球による抗原提示 E. 老廃した赤血球の除去

CBT 過去問集 5 5) 免疫に関して誤っているのはどれか? A. B 細胞は抗原提示提示することができる B. ヘルパー T 細胞タイプ 1(Th1) は細胞性免疫を活性化する C. ヘルパー T 細胞タイプ 2(Th2) は IL-4 を産生する D. 調節性 T 細胞は自己免疫を抑制するように働く E. NK 細胞は遺伝子再構成を行なう NK 細胞は抗原レセプターを持たないので 遺伝子再構成はみられない

CBT 過去問集 6 6) ナイーブ B 細胞と比較してメモリー B 細胞の特徴で誤っているのはどれか? A. IgMの産生がIgGより多い B. 粘膜上皮下や脾臓に局在する C. 抗原に対する抗体の親和性が高い D. 寿命が長い E. 再感染に速やかに活性化する IgG が IgM より多い

CBT 過去問集 7 7) 能動的獲得免疫はどれか? A. 母乳による移行抗体 B. ワクチン接種による抗体産生 C. 投与された抗血清中の抗体 D. リゾチームによる殺菌 E. 貪食細胞による細菌 能動的獲得免疫とは 抗原感作に起こる特異的生体反応のこと

CBT 過去問集 8 8) ヘルパー T 細胞と細胞 X の相互作用の図を示す これにより X は何に分化するか? 抗原蛋白 A. 樹状細胞 B. 肥満細胞 C. 形質細胞 D. 細胞傷害性 T 細胞 E. NK 細胞 IL-4 IL-5 IL-6 放出 T 細胞受容体 X MHC クラス II 抗原ペプチド X は B 細胞であり この相互作用のあと形質細胞に分化していく Helper T cell

CBT 過去問集 9 9) IgG の構造の模型を示す で示す領域が関与するのはどれか? A. 抗原提示 B. 補体活性化 C. 抗原との結合 D. 抗原プロセッシング E. サイトカイン活性化 Fab Fc 補体 白血球結合部位 抗原結合部位

CBT 過去問集 10 10) 免疫グロブリンの説明について誤っているものはどれか? A. IgAは粘膜の免疫を司る B. IgDはH 鎖とL 鎖からなる C. IgEは二量体である IgEは単量体である D. IgGは胎盤を通過する E. IgMは感染時 最初に産生される

CBT 過去問集 11 11) 次の構造を持つ抗体はどれか? A. IgA B. IgM C. IgG D. IgD E. IgE

CBT 過去問集 12 11) 次の構造を持つ抗体はどれか? A. IgA B. IgM C. IgG D. IgD E. IgE

CBT 過去問集 13 13) 免疫グロブリンの遺伝子再編成が起こる過程はどれか? A. 生殖細胞 DNA から B 細胞 DNA が複製される過程 B. B 細胞 DNA から RNA へ転写される過程 C. 転写された RNA がスプライシングされる過程 D. スプライシングされた mrna が翻訳される過程 E. 翻訳後就職の過程 遺伝子再編成は DNA 鎖のリアレンジメントで B 細胞の成熟過程におこる

CBT 過去問集 14 14) 肥満細胞と抗塩基球の表面に結合する免疫グロブリンはどれか? A. IgA B. IgM C. IgG D. IgD E. IgE

CBT 過去問集 15 15) 胎盤を通過できる免疫グロブリンはどれか? A. IgA B. IgM C. IgG D. IgD E. IgE

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