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4. ユーロ圏の国々 : 速報性を維持した形での QNA の構築概要英国では生産アプローチに基づく四半期 GDP の特徴を 速報性 とし 米国では Check Engine としていた構造がはっきり確認できたが 欧州各国は QGDP(O) のどのような面を重視しているのだろうか いくつかの国では速報性を維持しつつ 三面等価のバランスを取り入れたやや高度な推計プロセスが完成しているという印象から 筆者はその答えを英国と米国の方法を融合したものとの考えを持っている 以下ではドイツ フランスというユーロ圏の GDP シェア約 48%( EU では 36%) と 大部分を占める国の動向を確認することで ユーロ圏で の QGDP(O) 作成方法の特徴を見ていきたい 15 4-1. ドイツ :SUT 構造を利用しない QNA のバランシングドイツはユーロ圏全体での公表に合わせ 当該四半期終了後 45 日で一次推計値を公表する しかし このとき内訳は公表しない さらに 10 日後の同 55 日に内訳を公表するが このときはヘッドラインの数字に修正はない ちなみにドイツはより早い段階での速報値の公表ができることを示している しかし 安定性を重視し 45 日でも十分に速報性があることを考え これ以上公表を急ぐことはないようである ( 補論 5) ドイツは生産側推計値を一次速報から使用し 支出側とバランスを取った数字を作成し 整合性を重視した QNA を構築している - 補論 5: ドイツ Flash Estimate の未公表の背景 - Federal Statistical Office (2008) によると 既にドイツは当該四半期終了後 30 日 (t+30 日 ) 以内に公表可能な速報性の高い GDP 推計値 ( いわゆる Flash Estimate) を既に開発しているという その推計方法は現在の 45 日後の公表ベースに従った方法で作成している ただし 30 日以内となると英国同様に未公表の基礎統計が増加するため ARIMA など計量手法 (Econometric forecast) 産出側と使用側の特別部署での推計(Expert forecast) Econometric forecast と Expert forecast の推計結果を調和した方法 (Reconciled forecast) の三つの推計が従来の方法に追加される ただし ドイツは以下の 7 つの理由において この Flash Estimate を公表しないと決定している 1. 四半期 GDP の計算には既に不確実性が存在するにもかかわらず Flash Estimate は更なる推計誤差を加えることになる GDP 公表の期間を t+30 日に短くすることは 重要な統計データの情報を失うことを意味している ( 生産指数 建築業統計 貿易統計について 3 ヵ月分のデータを 2 か月分のデータで代用しなくてはならない ) 2. これまで行ってきたような完全な計算チェックをできなくなる 原系列だけでなく 季節調整系列があるため t+30 日以内に前の四半期も修正する必要があるなどの問題がある 3. 季節調整値の前期比は通常は前年比に比べ小さいため 修正によって振れが大きくなる 4. Flash Estimate(t+30 日 ) の情報を次の期までそのままにしておくことはできないので t+55 日に再計算が必要になる 5. GDP の追加的な修正は注目が高まり ときに激しい批判にさらされる 修正はたくさんの公的機関や民間の経済予測に修正を迫ることになる可能性がある 6. 追加修正を迫る情報は市場の不安定性やボラティリティを高め 他の望ましくない影響をもたらす可能性がある 7. たくさんの機関で幅広い分析や予測が行われている中で 今後 公式 GDP 推計値を増やす必要があるかどうかは疑問である 15 ユーロ圏 (17 カ国 ) の GDP は 集まった指標を積み上げ Chaw-Lin 法という方法で四半期分割される -45-

図表 4-1 では QGDP(O) を作成する上で利用される基礎統計を簡単な形で示している ドイツの QGDP(O) に関する基礎データは実績値が約 69% と 英国の二次推計段階の 67% を上回ってはいる 最初の時点での生産アプローチでの推計は 主に生産指数での延長が利用され 製造業を中心に シングル デフレーション が採用される形となっている ただし この基礎データだけで GDP 全体の数字を決定する形は取らない 実績値が約 59% の QGDP(E) の情報も加え ( 図表 4-2) 四半期 年次推計共に生産側 支出側についての以下のようなバランシング プロセスによる統合を経て 推計値が作成される 四半期 GDP バランシング法 16 (Quarterly GDP balancing procedure) は1GDP 総額での調整 (Macroeconomic GDP balancing) 2 詳細項目調整 (Advance reconciliation of sub-variables) 3 品質確認工程 (In-process quality assurance) の3つの工程からなる 1 GDP 総額での調整 においては 生産と支出アプローチで推計されたそれぞれの GDP を統合する作業を行う この調整作業は経験豊富な専門家たちが 膨大なデータに基づいて 最終的に最適な結果が得られるように 繰り返し計算を行うことで作成されている ( つまり trial and error を続けることになる ) 具体的なバランシング プロセスは図表 4-3 のようなプロセスで推計が行われる 図表 4-1 ドイツ QGDP(O) に関する主要データソース ( 出所 )Federal Statistical Office (2008) に基づき筆者作成 16 四半期バランシングでは主に原系列 (original values) の前年比を基に行う ( 季節調整系列は最終段階で計算される ) 水準については年次推計を基により詳細な検証が行われる また この手法は 年次 四半期ともに同様の手順でバランスが行われる この手順の中には年次用の処理も含んでいる 当該四半期の 45 日後に公表の一次速報からスタートし 18 か月後の通常の年次推計 そして最後に National Accounts の基準改定 作成方法改訂を含む遡及改訂において それぞれの GDP 推計で行われる 推計過程では 統計データベースは密度の高いものとなり National Accounts の質は徐々に改善する -46-

図表 4-2 ドイツ四半期推計の各段階でのデータ収取状況 ( 注 ) 実際には 実績値 は Well-founded indicators と 計算されるべき特徴を良く示す基礎データに基づく (based on data sources that well represent the characteristic to be calculated) ものであり その他 は Other information と 同様の統計かその他の推計による代替指標に基づく (based on alternative indicators, conclusions by analogy or other estimation models) もの と定義されている ( 出所 )Federal Statistical Office (2008) に基づき筆者作成 図表 4-3 ドイツの GDP バランシング プロセス 1 GDP 総額での調整 ( 注 ) 年次 四半期ともに同様の手順でバランスが行われる この手順の中には年次用の処理も含んでいる ( 出所 )Federal Statistical Office (2008) に基づき筆者作成 -47-

2 詳細項目調整 は1 GDP 総額での調整の前に行われ 関連する統計での一貫性のチェックを行う 例えば 建設の総固定資本形成と建設産業生産額 個人消費からの小売り売上高と小売業の分配勘定との調整である この調整は暫定の指標と最終結果との分析にも利用される 1と2の工程を経て 3 品質確認工程 で国民経済計算における連続性の確認や外部の監査 審査などが行われ 整合的な指標が完成する 17 大きなポイントは 1でのプロセス ( 図表 4-3 の 14) の詳細分割レベルで調整した乖離を振り分けるときには 生産アプローチの結果を特に重視する としているところである それは 生産は統計の基盤が良いためあまり変化しない上 中間消費には調整する部分が存在する ということが理由だとしている 18 一方 ドイツは四半期推計の流れの中で 供給 使用表 (Supply and Use Tables SUT 19 ) についても言及しており 推計値の決定は 当該年の 3 年後に完成する SUT に基づく年次推計を重要視しているという ただし 四半期での SUT は存在しないということをはっきり示している 20 このように四半期での SUT を利用しない形ではあるが QGDP(O) を中心とした推計値は 45 日後とある程度の 速報性 を維持し Check Engine の役割を持つバランス手法も確立していることが確認できた Federal Statistical Office (2008) は四半期ごとで異なり 安定的ではないとしながらも バランスした結果と計算結果との差はより小さく 平均して 0.5% ポイント以下であるということを公表している 4-2. フランス :SUT 構造を利用した QNA のバランシングフランス国立統計経済研究所 (Institut National de la Statistique et des Études Économiques 以下 INSEE) は Preliminary Figures (premiers résultats) と呼ばれる一次速報値を当該四半期最終日から45 日後 Detailed figures (résultats détaillés) と呼ばれる二次速報を 90 日後に公表する (INSEE(2008)) ドイツは完全な形での四半期での SUT を利用できないことを示しているが フランスの QNA の推計手法は四半期での SUT を利用した四半期推計を行っていることが INSEE(2004) で示されており 以下のような段階を経て QGDP が推計される 1 まず 最終需要項目を推計する 最終消費 については 家計消費支出を小売調査などで推計し 一般政府の個別消費支出と集合消費支出は雇用者報酬などから推計する 総資本形成 については 固定資本形成を卸売業の売上統計や建設業統計で推計し 在庫は建設関連を除きスムージング 21 するかバランス項目として取り扱い 貴重品の取得 処分はスムージングする 貿易 ついては 税関統計 国際収支統計を利用する 2 次に 財 サービスを以下のような4グループに分ける グループ1: 福祉事業 輸送 以下に含まれない全ての財グループ2: 電力 ガス 水供給 卸小売 金融仲介 事業活動 ホテル 飲食グループ3: 建設 不動産 賃貸業 研究 開発 教育 医療 地域活動 社会活動 対個人サービスグループ4: 間接的に計測される金融仲介サービス (FISIM) 政府それぞれの商品は 生産 + 輸入 = 中間消費 + 最終消費 + 総固定資本形成 + 輸出 + 貴重品の取得 処分 + 在庫変動 で定義され これに基づき実質ベースでの各商品の生産と中間消費を推計する ( つまり 使用表と供給表の構成 17 詳細は Federal Statistical Office (2008) の p27 または Federal Statistical Office (2009) の p382 を参照 18 具体的には with the output (due to the better statistical basis) generally remaining unchanged and the balancing entry being made under intermediate consumption としている また 貿易統計の輸出と輸入の商品構造がかなり不透明であることも更なる弱点であるとのこと 結果が十分な根拠に基づいている政府部門と金融部門はバランシングの適用外であるとしている 19 櫻本 (2010) を参照 20 Federal Statistical Office (2008) は 四半期 SUT を作るためには多大な時間とリソースを必要とする また 四半期表では固定の使用や投入の構造に関する欠損値に年次データの固定率を仮定する必要がある場合は 潜在的に得られる情報は限定的になろう としている 21 INSEE (2004) の中では 年間ターゲット値を定め その四半期分割値の一階差の 2 乗和が最小になるようにする措置を スムージング と定義している (IMF が最小二乗分配法 (Least-Squares Distribution) と呼ぶ方法と考えられる ) -48-

を作成する ) 具体的には まず グループ1( 生産指数などで生産額を延長 ) と2の中間消費を推計し SUT を利用してグループ3の生産を推計する グループ3の中間消費をその生産から推計し バランシングによってグループ2の生産額を再度推計する グループ3の中間消費を再度集計し グループ2と3の生産の最終推計を行い グループ1の在庫を推計する グループ4は既に勘定がわかっている系列である これらの情報を利用し 36 種の商品からなる実質 QSUT を構成し 生産側と支出側の GDP 水準がバランスされた状態にする 3 2で得た実質 QSUT を名目化し その名目 SUT から 43 業種の生産勘定 ( 生産 中間投入 付加価値 ) が計算される 22 このようにフランスは QSUT を利用し QGDP(O) を作成している 同国もまた 推計値は 45 日後とある程度の 速報性 を維持し Check Engine としての役割を持つ QSUT を利用している 5. その他の国の特徴その他の国の QGDP(O) を見ると それぞれ独自の推計スタンスがうかがえる カナダは生産側統計を利用して月次 GDP を公表している ただし 月次という四半期よりも早いサイクルで公表してはいるものの 速報性を必ずしも重視しているとは言えない カナダは統計の安定性を保つため 公表 時点での推計 予測部分を限りなく小さくすることを目指しており 公表は当該月終了から 60 日後の公表になっている QGDP(O) は 実質生産額の伸び率 実質 GDP の伸び率 を仮定した シングル デフレーション による推計方法を採用している 四半期ごとに公表される QGDP(E) と QGDP(I) も当該四半期終了から 60 日後に公表される また 豪州も特徴的な QNA を持っている国である 公表は 3 つの推計値全てが当該月終了から 60 日後公表と カナダとほぼ同じである 豪州は QGDP(O) を重視ているわけではなく GDP のヘッドラインの数字は QGDP(O) と QGDP(E) と QGDP(I) の平均と 全て平等の扱いとなっている 同国の QGDP(O) も農業を除き シングル デフレーション による推計方法を採用している また QSU(quarterly supply and use) モデルという四半期の供給 使用表のシステムを利用した推計方法を開発しているが 全体経済の説明が整合的になるように調整しているだけで 三つの推計値が完全に一致するようには調整していない その他 アジア各国の状況を見ると 中国 韓国 シンガポールはかなり早いタイミングでの公表となっていることがわかる 推計方法について詳細が公表されていないため はっきりした特徴はつかめないが 中国は生産アプローチでの GDP 推計値しか出していないなど 一般的に比較的早い段階で統計が取得できる生産アプローチでの GDP 推計値を軸とした推計が多い模様である ( 図表 5-1) 22 形としては ダブル デフレーション を採用しているが 生産指数で生産額を延長することで 逆算して中間消費額を出しているところもあり シングル デフレーション での構成の側面も強い -49-

図表 5-1 QNA の国際比較 ( 注 ) ユーロ圏は 2010 年 10-12 月期から三次推計は明示的な公表はなくなり ユーロスタットのデータベースの更新だけとなった ( 出所 ) 各国統計局または中央銀行公表資料に基づき筆者作成 6. 日本における生産アプローチに基づく四半期 GDP 導入にあたって以上のように 各国の状況をみると それぞれの国でそれぞれ独自の役割を持った生産アプローチに基づく四半期 GDP 推計値を作成していることがわかった 英国の QGDP(O) は情報量の不足を補うための推計の開発などにより 高い速報性を持ちながらも 比較的高い安定性を維持しているのが大きな特徴である 一方で その特徴を活かし 不安定な要素を含む QGDP(E) QGDP(I) を補完する形で 全体の整合性を生み出しており QNA の軸としての役割をもつが 情報に偏りを生んでいる可能性も大きなポイントである 一方 米国は英国とは異なり QGDP(E) が高い速報性を持っている 四半期の産出表と使用表を導入してダブル デフレーションを行うことで QGDP(O) は速報性を捨て 安定性のみ重視していることが大きな特徴である また 米国は QGDP(E) と基準年は作成手法が違うという問題点を持ち 三面等価の情報を最大限活かすために整合性を高める Check Engine としての役割を持つことが最も大きなポイントである この二つの国の QGDP(O) は 全く異なる背景において生まれている 一方 欧州のドイツ フランスについては 英米の方法を融合したような方法と言える 前者の QGDP(O) は速報性を持つが 独自のバランシングによって整合性を保ち 英米の良い特徴を兼ね備えている フランスも同様であり 速報性を維持しつつ QSUT というフレームワークの下 QNA の整合性を作り上げている 支出側の四半期 GDP しか公表されていない日本では まずはそれに加え 生産側 所得側の四半期 GDP を加えた QNA の構築が急務である 三面等価の原則を基に -50-

四半期での詳細な経済情報の提供は GDP 統計の信頼性を高めることに繋がり より良い政策の実行を通じて 国民の経済活動の安定化をもたらすことが期待される そうした中で 日本の QGDP(O) の位置付けについても考えていく必要もある QGDP(O) に利用される生産側統計は 日本でも比較的充実していると言える 実際に 現行の四半期推計値 (QE) で既に利用されているコモ法の 90 品目分類に基づく出荷額などが利用できる ただし その統計の精度や安定性には検討の余地があろう 特に 生産側統計の大きなポイントは産業統計で大きなウェイトを持つサービス統計の充実は重要である 23 英国や米国でもサービス統計整備が四半期推計の改善をもたらしたと考えられ 図表 3-1 でも多くのサービス業で使われている米国センサス局の 四半期サービス調査 (QSS) は 2004 年に業種のカバレッジなど大幅な改善が行われている QGDP(E) との比較の観点での議論も非常に重要である 欧州では輸出入の詳細について捕捉が容易ではないため 支出側をヘッドラインの指標とすることは難しい このように 日本とは統計の性質が異なる面も見られる 在庫統計の安定性の問題も残っているため 米国のように QGDP(E) がヘッドラインとしてふさわしいと見るかについては議論を要するが QGDP(E) が GDP のヘッドラインの指標として優位である面もあろう また QNA としてQGDP(O) が QGDP(E) QGDP(I) が互いに整合的な情報をユーザーに提供するには 様々な一次統計作成部署がそれぞれの政策ニーズで基礎統計を作成し それを用いて国民経済計算を推計するという現行の日本の SNA 作成体系では極めて困難であると考えられる こうした統計作成体系の下では 一次統計と国民経済計算の間の整合性を取るのは容易ではない 統計作成体系の改善は必須である SNA 作成側においても 英国のような供給側統計を中心としたシンプルな GDP 推計における体系を構築することや 米国の目指す OneBEA への統合のように 様々な手法を通じて体系の一貫性を追求する必要があろう 四半期供給 使用表 (QSUT) の推計によりバランス システムを構築することも一つの有効な方法である このように QNA を構築後 その質をさらに向上させるという努力が重要なのであり 各国で取り組まれている 速報性 の追求や三面等価の情報を最大限活かすための 整合性 を高めるような方法を検討していくこ とも今後の重要な課題である < 参考文献 > 経済企画庁経済研究所国民所得部編 (1978), 新国民経済計算の見方 使い方, 大蔵省印刷局櫻本健 (2010), 経済センサス導入に伴う我が国の年次供給使用表推計に関する研究, 季刊国民経済計算 142 号, pp 39 126 BEA (2009) NIPA Handbook: Concepts and Methods of the U.S. National Income and Product Accounts, http://www.bea.gov/national/pdf/nipahandbookch5.pdf BOE (2010) Quarterly Inflation Report Q&A, 12th May 2010 Chatfield, C and M. Yar (1988), Holt-Winters Forecasting: Some Practical Issues, The Statistician 37, pp129 140. Compton, S (2008) Populating Quarterly Constant Price Supply and Use Tables with Seasonally Adjusted Data, IAOS Conference on Reshaping Official Statistics http://www.stats.gov.cn/english/specialtopics/iaos/ Federal Statistical Office (2008) National Accounts, Quarterly Calculations of Gross Domestic Product in accordance with ESA 1995 Methods and Data Sources (English version), Fachserie 18 Series S. 23 Federal Statistical Office (2009) National Accounts Gross Domestic Product in Germany in accordance with ESA 1995 Methods and Sources (English version), Subject-matter series 18, series S. 22 Guo, J and M. Planting (2006), Integrating U.S. Input-Output Tables with SNA: Valuations and Extensions, the 29th Conference of the International Association for Research in Income and Wealth Homepage INSEE (2004) Methodology of French Quarterly National Accounts, http://www.insee.fr/en/themes/theme.asp?theme=16&sous_ theme=8&page=methodologie.htm INSEE(2008), Methodology-Quarterly national accounts, http://www.insee.fr/en/indicateurs/ind28/method_idconj_28. pdf Kornfeld, R, B. Moyer, G. Smith, D. Sullivan, and R. Yuskavage (2008) BEA Briefing: Improving BEA's Accounts Through Flexible Annual Revisions, Survey of Current Business, June 2008 Mayerhauser, N and E. Strassner (2011) Prototype Quarterly Statistics on U.S. Gross Domestic Product by Industry, Survey of Current Business, July 2011 Meader, R and G. Tily (2008) Monitoring the quality of the National Accounts, Economic & Labour Market Review, Vol 2, No 3, pp 24 33. OECD (2007) Revisions in Quarterly GDP of OECD countries: 23 日本では 2008 年 7 月から サービス産業動向調査 の実施が開始されており 今後 四半期 GDP の精度を向上させる役割をもつことが期待されている -51-

-52- An update, www.oecd.org/dataoecd/42/38/37107910.pdf OECD (2011) Quarterly National Accounts, Volume 2010 Issue 4 ONS (2010) Summary Quality Report for Gross Domestic Product (GDP) Data Releases, Information paper, http://www.ons.gov.uk/about-statistics/methodology-andquality/quality/qual-info-economic-social-and-bus-stats/ quality-reports-for-economic-statistics/gross-domesticproduct--gdp-.pdf ONS (2011) Gross domestic product preliminary estimate 4th Quarter 2010, Statistical Bulletin, http://www.statistics.gov. uk/pdfdir/gdp0111.pdf Robbins, C, T. Howells, and W. Li (2010) Experimental Quarterly U.S. Gross Domestic Product by Industry Statistics, Survey of Current Business, February 2010 Rassier, D, T. Howells III, E. Morgan, N. Empey and C. Roesch (2007), "Implementing a Reconciliation and Balancing Model in the U.S. Industry Accounts, BEA Working Papers, WP2007-05 Skipper, H (2005) Early Estimates of GDP: Information Content and Forecasting Methods, Economic Trends 617, pp 26 35.