報告書 No. 5 成 における術後疼痛管理 術後疼痛緩和は 患者の健康と穏やかな 活にとって重要であり より早くより良い術後回復を促す 従来のモルヒネや他のオピオイド鎮痛薬に頼る治療法から 有効性を め副作 を減らす 的で オピオイド製剤や区域 酔法を利 したマルチモーダル ( 治療法の組み合わせ ) な 法に進化している 多くのエビデンスの蓄積により それぞれの患者に対する必要性や 術の種類に応じて適切な 薬剤と鎮痛法を選択することができるようになってきている これらのエビデンスは以下の 3 つの基幹的な鎮痛法の根拠となっている : マルチモーダル ( 治療法を組み合わせた ) 鎮痛法 術式に特化した鎮痛法 術後急性期のリハビリテーション マルチモーダル鎮痛法歴史的に 術後疼痛管理には主にモルヒネなどのオピオイド鎮痛薬が使 され 多くは筋 内注射で投与されていた
オピオイド鎮痛薬は重度の術後疼痛の管理では依然として重要な役割を持つが それのみで鎮痛を得ようとすると換気不全 鎮静 嘔気嘔吐および腸機能の回復遅延など重 な問題を来す これらの副作 は患者の安全な管理に悪影響を及ぼし 術後の回復 リハビリテーションを妨げ 結果的に退院の遅延につながる エビデンスに基づいたガイドラインでは 作 部位 作 機序の異なる鎮痛薬 鎮痛法を 2 種 類以上組み合わせる 法 ( マルチモーダル鎮痛法 バランス型鎮痛法 ) を推奨している マル チモーダル鎮痛法の利点は下記の通りである : 優れた疼痛コントロール オピオイド鎮痛薬の必要量の低下 ( オピオイド鎮痛薬の節約 ) オピオイド鎮痛薬による副作 の低減 現在のエビデンスによると 局所 酔および末梢神経ブロック 脊髄神経幹鎮痛等がマルチモーダル鎮痛法における重要な鎮痛法として位置づけられている 術後鎮痛に いられる全 投与の薬剤のうち マルチモーダル鎮痛における位置付けが されている あるいはその可能性があると考えられているものは以下の薬剤である : アセトアミノフェン 選択的および COX-2 選択的 NSAIDs カルシウムチャネルα2δリガンド ( ガバペンチン プレガバリン ) NMDA 受容体拮抗薬 ( ケタミン ) α2 アドレナリン受容体作動薬 ( クロニジン デクスメデトミジン ) 所 酔薬全 投与 ( 静脈注射 ) コルチコステロイド 術式に特化した鎮痛法
現在までに 術後疼痛管理に関するシステマティックレビューにより得られた知 の多くは 不均 な集団で われた臨床試験の結果に基づいている このようなレビューでは 特定の術式やある特定の患者集団に対する特定の鎮痛薬 鎮痛 法の特異的な効果が判別できていない可能性がある 外科的処置の内容が異なれば術後痛に以下のような差異が出るのは明 である 疼痛の機序が異なる ( 例 : 整形外科 術後の筋 格痛 腹部 術後の内臓痛 ) 疼痛の重症度と疼痛による機能障害が異なる 疼痛部位が異なる これらの状況から 特定の術式や特定の集団に対し特化した鎮痛法が必要であることがわか る エビデンスに基づき 術式毎に特化した術後鎮痛法の推奨が閲覧可能である ( 後述の PROSPECT ウェブサイト参照 ) ある術後状態の患者にとってどのような鎮痛法の組み合わせ が最適かを特定するためには今後のさらなる研究が必要である 術後急性期のリハビリテーション術後の良好な疼痛コントロールのみでは術後の転帰 回復を改善するには不 分であることが現在明らかとなっている 術後回復の向上のためには術後疼痛管理に加えたマルチモーダルな治療 法が発展し 術後回復に対する多 的な取り組みが進められている このような治療法の適 が 院期間の短縮および合併症率の低下を促進する可能性がある これらの術後回復を促進するマルチモーダル治療法は下記のような項 に重点を置いている : 外科的ストレス応答と臓器機能不全のリスクの減少 周術期の輸液および体温の最適な管理 不要なドレーン 経 胃管 カテーテルなどの回避
術後早期の経腸摂取 術後早期の離床と運動療法 これらの 標の達成を促進する鎮痛 法は 特にオピオイド鎮痛薬の減量との相乗効果により 術後回復を急速に促進するクリニカルパスを実現できる可能性がある 参考 献 / リソース Acute Pain Management: Scientific Evidence (4th edition, 2015) published by Australian and New Zealand College of Anesthetists and its Faculty of Pain Medicine (http://fpm.anzca.edu.au/resources/publications) Management of Postoperative Pain: A Clinical Practice Guideline From the American Pain Society, the American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine, and the American Society of Anesthesiologists' Committee on Regional Anesthesia, Executive Committee, and Administrative Council (http://www.jpain.org/article/s1526 5900(15)00995 5/pdf) PROSPECT (Procedure Specific Postoperative Pain Management) (http://www.postoppain.org/) ERAS Society (http://erassociety.org/) 著者 Stephan A. Schug, MD, FANZCA, FFPMANZCA Chair of Anaesthesiology Pharmacology, Pharmacy, and Anesthesiology Unit School of Medicine and Pharmacology University of Western Australia Director of Pain Medicine, Royal Perth Hospital Perth, Australia Ramani Vijayan, MBBS, FRCA, FFARCS(I), FANZCA, FAMM Professor, Department of Anesthesiology University Malaya, Kuala Lumpur, Malaysia Andi Husni Tanra, MD, Ph.D Anesthesiologist and Pain Management Faculty of Medicine Hasanuddin University, Makassar, Indonesia 査読者 Norman Buckley, MD, FRCPC Professor and Chair, Department of Anesthesia Michael G. DeGroote School of Medicine McMaster University Henrik Kehlet, Prof., MD, Ph.D. Section for Surgical Pathophysiology 4074
Rigshospitalet Blegdamsvej 9 Copenhagen, Denmark 翻訳者 阿部博昭 ( 東京 学医学部附属病院 酔科 痛みセンター / 緩和ケア診療部 ) 住 昌彦 ( 東京 学医学部附属病院緩和ケア診療部 / 酔科 痛みセンター ) Hiroaki Abe, MD Clinical Physician, Department of Anesthesiology and Pain Relief Center/Pain and Palliative Medicine, The University of Tokyo Hospital, Tokyo, Japan Masahiko Sumitani, MD, PhD Associate Professor, Department of Pain and Palliative Medicine/Anesthesiology and Pain Relief Center, The University of Tokyo Hospital, Tokyo, Japan 国際疼痛学会について (the International Association for the Study of Pain ) 国際疼痛学会 (IASP) は 痛みに関する全ての科学 診療 および教育の分野における専 学会である 疼痛の研究 診断 または治療に関与する全ての者が 会資格を持つ (Membership is open to all professionals) IASP には 133 カ国 7,000 の会員が所属し 90 の国単位の 部学会 20 の分科会がある 術後痛 克服年として IASP は 術後痛 に関する 連の報告書を作成した これらの 書 は 複数の 語に翻訳され 無料でダウンロードできます 詳細は www.iasppain.org/globalyear をご覧ください