トンボの体色変化と体色多型 誌名 蚕糸 昆虫バイオテック = S-k SSN 巻 / 号 掲載ページ - 発行年月 年 月 農林水産省農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tk B-Adm S, A, d R S
( - ( 蚕糸昆虫バイオテツク T SANSH卜KNHUB 集 特 ト 昆 虫 の 色 素 紋 様 形 成J トンボの体色変化と体色多 型 一一士君主 主宣 * 司 -T 産業技術総合研究所 生物プロセ研究部門 生物共生進 化機構研究グループ はじめに 今からおよそ 年前に 毘虫学者の RT ; d-a が行われてきた しかし チョウ目毘虫の体色形成メカニズムの解明が近 年急速に進む一方で トンボの休色形成メカニズムに関 J の中に以下 D TB dは 著書 しては 世界的に見てもほとんど着 目されていないのが 7 d T のように記している 現状である d Nd L x d チョウ目毘虫を除いて 色の美 しさや多様性で d トンボ目毘虫に勝る毘虫はいない トンボの体色変化 他の多くの昆虫とは異なり トンボは成虫になってか ;尾園 二橋 ら体色を劇的に変化 させる種が多い ( チョウの成虫の色の多様性は ほとんどが遡でみられ mやハラ m シオカラトンボ ら るのに対して トンボは麹色に加えて体表にみられる色 のオのように淡い m ビロトンボ L の多様 性が際立つている 黄色から水色になる種や モ 一トンイ トト ンボ M J トンボ 目毘虫は 鼓膜を持った構造(いわゆる耳を のメのように 黄色から緑色になる ; 6 持たず 触角も退化してい て非常'に短い(西野 のオのよう m 種 マルタンヤンマ A 尾園ら 一方で複眼はよく 発達してお り アメ に複眼や斑紋が黄色から鮮やかなコバル トブルーになる 67個の リカギンヤンマ A似 U/Uの片方の複眼に 種など さまざまなパターンが知られている(図 個眼が含ま れていたという報告は 過去に報告された毘 一般の人にも馴染みの深い アカ トンボ は オが成 虫の中で 個眼数が最も多い例とされている Sk 熟すると黄色から赤色へと変化する(図 上なお ア さらに 赤色を認識で きないショウジョ ウバエ 7 カ トンボ という名称は赤くなる トンボの総称と して使 mm やミツバチとは異なり アメリカア カネミ mに含ま れる種類を指 われ 狭義にはアカネ属 Sm m は紫外線から赤色までの非常に幅広い波長の d すことが多い(尾園ら アカトンボは オが Mz 色を認識できることが知られている 成熟すると鮮やかな赤色に変化するのに対し メ は成 α 熟しでもあま り色が変わらないことが多 く 雌雄の色の 違いは 繁殖行動や縄張り 争いの際に 重要で あると考え 四回二 斗中 く ω い 一 トンボは基本的に 見た目 で相手を区別しているた 酬 め トンボの体色は繁殖行動の際に 相手の認識に非常 トンボは dmk られている に重要であ り 生態学的 行動学的な面から多くの研究 アカ トンボ 一般の人にも馴染みの深い昆虫であるが の赤色色素を含め トンボの赤色や黄色 緑色などの鮮 やかな色の正体は 意外なととにこれまで知られてい な かった の で あ る (二橋 Z 6 茨城県つくば市東 6 ぉ 産総研 央第 6 い j @ -m 司
SANSH-KNHU BT V N ラビ ロトンボ(オ モ一トンイトトンボ(メ マルタンヤンマ(オ 図 トンボの体色変化の例 生態写真は全て筆者が撮影他の図も同様 ショウジョウトンボ ハッチョウトンボ ことが確認された オモクロー ム系色素は ショウジョウバエの赤い眼など ほとんど の毘虫の成虫の複眼に存在するほか カイコでは卵の色 としても利用されている アカトンボの 種類のオモクローム系色素の混合比は 赤みが鮮やかなショウジョウ トンボ ナツアカネ アキ アカネの順に赤紫色のキサントマチンの割合が多くなっ ており 色素の混合比が アカトンボの種聞の赤みの違 いに関連していることが確認されたショウジョウトン ボでは 成熟オの方が メよりもキサントマチンの 割合が高かったが アキアカネやナツアカネでは 休色 喜 が異なるにも関わらず 雌雄で色素の混合比に目立った 世 溺 禄 違いは見られなかった同じ色素の混合比であるにも関 ; わらず 休色が大きく 違うのはなぜだろう か 酸化還元反応による アカトンボJの体色変化 図 ( 上ショウジョウトンボとハッチョウトンボの休色変化 (下還元剤を矢印の部分に局所注入したときの体色変化 酸化還元反応によるアカトンボの体色変化 オモクローム系色素の特徴として 試験管内で 酸化還 元反応により色が可逆的に変化することが知られていた アカトンボの色素の正体 L z巴 7 そこで ショウジョウトンボの成熟オ から抽出した赤い色素に酸化剤(亜硝酸ナトリウム 筆者らは アカトンボの 赤色 の正休を明らかにす を加えてみたところ 黄色に変化することが確認された る た め ア キ ア カ ネ 砂mm斤q ナツアカネ この状態でさらに還元剤(アコルビン酸 いわゆるビ Smmd w ショウジョウトンボ - タミン を加えたところ 再び赤色に戻ることが確認 / の 種類のアカトンボの 赤色色素を L-MS m された同様な可逆的な色の変化は 人工的に合成した 解析で調べたその結果 いずれも脱炭酸型キサントマ 色素でも確認された チン(還元型は樺色とキサントマチン(還元型は赤紫 次に ショウジョウトンボの未成熟オから抽出した 色の 種類のオモクローム系色素が主要な色素である 黄色い色素に還元剤を加えてみたところ こちらも赤色 6
に変化することが確認された興味深いことに この黄 ョウトンボ(オ ョウジ ーーー シ 色から赤色への変化は ちょうど未成熟から成熟に変化 ーーー ショウジョウトンボ (メ ミ 所投与を行っ たところ 未成熟のオだけでなく 通常 眠 ーー溶媒 剛容パギヤ制四日 j (ビタミン の局 そこで 生きた 個体に 還元斉 上 酬G するときの休色変化と似ているように思われた(図 国 ゐ 自 d は赤くならない成熟 メ までもが成熟オのように赤く から アカ トンボの体色の違いは オモクローム系色素 鑑 変化してしまうことが確認された(図 下 この結果 ~ 間!! ム の酸化還元状態の違いを反映している可能性が高いと考 えられた オモクローム系色素の酸化型と還元型を分けて測定す る方法を いろいろ検討した結果 最終的に 抽出した 色素の酸化還元電流を測定す ることで調べること が可能 V 参照電極に対する電圧 ( アカトンボ j でみられる抗酸化作用 図 トンボの皮膚を水で抽出し て酸化還元電流を測定した結果 赤い成熟オでは抗酸化物質の量が多いことが確認さ れた になった この方法で解析した結果 アキアカネ ナ ツ アカネ ショウジョウ トンボの 種類ともに成熟オ の アカ トンボの成熟オは あたかも植物がビタミン み還元型の割合が %以上 と非常に高くなっているこ を蓄えているように 還元型のオモクローム系色素を蓄 とが確認された以上の結果から アカ トンボの体色変 える乙とで抗酸化能を示 している 乙れは 赤くなった 化の際には オモクローム系色素の還元反応が関わって 成熟オが日なたで縄張りを作る際に 紫外線によって いることが明らかになった休色を変化させる動物は出 発生する活性酸素の酸化 トレを軽減する役割があ る 刊こ広く見られるが そのほとんどは①色素の合成や 仁 の のかもしれない たしかに 全身が真っ赤に なるショウ ③餌からの色素の取り込み 分解 ②色素の局在の変化 ジョウ トンボの 成熟オは 日本で最も赤 いトンボと の つが原因とさ れている アカ トンボの体色変化は いっても過言ではないが 真夏の日差 しに非常に強い種 同じ色素の酸化還元状態の変化という 動物から過去に 赤い色素は としても知られている(尾園ら 報告例のないもので あった ( 漢方薬にもなっていたアカトンボ 還元型のオモク ローム系色素を水で薄めて放置 してお くと 空気中で自動酸化されて黄色 っぽくな り 自動的 に還元型に戻ること はないこのこと から アカ トンボ のオが成熟する際に 酸化型の色素を還元型に変化さ トンボの紫外線対策 という面でも重要な役割を果たして いる可能性があるちなみに アカ トンボは日本や中国 で漢方薬として 利用 されていたことが知られているが アカ トンボを食べることでビタミン ( を摂取するような効果があったのかもしれない トンボの体色多型 6 せるためには 特別な メカニズムが存在することが予想 トンボは雌雄や成熟度によって体色が大きく異なる種目 ビタミン などの天然の抗酸 が多いが さらに種内で色彩多型がある例も多く知ら れ 化物質がオで蓄積するというものである 実際に 成 ている たとえば ア カ トンボは通常メはオのよう 熟オと成熟メの腹部を水で 抽出して抗酸化能を測定 な鮮やかな赤色にはならないが 赤いオが顕著であることが確認された(図 すると どの個体(オ型のメが出現する乙とがある しかし HPLで分画 して解析 した結果 乙の抗酸化能 αは 麹の表面が j m 左チョ ウ トンボ R される つの可能性は 中にはオと見紛うほ オは青紫色 メ は緑色に聞くが メでもオと同 じように 青紫色に輝く個体が時々現れる(図 中オ 化す るメカニズムは 現時点では不明だが ギナン ドロ 型のメの存在は トンボの幅広い種で確認されてお モルフ(オの特徴を持つ部分とメの特徴を持つ部分 り 飼育実験の結果からは 色彩多型は遺伝的に決まっ をモザイク状に持つ個体では オ の部分のみ鮮やか オ型の ている例が多い(二橋 ;尾園ら な赤色になることが知られているため 細胞 ごとに調節 メが出現する 理由とし ては 産卵 しているときに 他の 細胞内(頼粒内? されている乙とが分かる(石津 オからの干渉を避ける効果がある などとさ れて いる に色素を還元型に変換する酵素や 選元型の色素を安定 R が 詳しく調べら れた例 は少ない ( 化する結合蛋白質が存在するなどの可能性が考えら れる α α 面白いことに アオモンイ トト ンボ 7 α Aコ Z の正休は 還元型の色素そのものである可能性が高いと 色素が還元型に変 考えら れた ( 酬 田 川町 二 べ斗山市 い 山 豆 (
SANSH-KNHUBT V N オナガアカネ ニホン力ワトンボ オ オ オ(メ型 メ メ(オ型 メ 図 トンボの体色多型の例 はオ型が劣性の 遺伝子座のメンデル遺伝に従うと報 ボの全種 全亜種の DNAの部分配列を既に解析 公開 告されているが (TkdW 近縁な しており P本あればど んなトンボでも同定可能であ マンシュウイトトンボ では 逆にオ るという点では 他の毘虫よりもリードしていると考え 型が優性の 遺伝子座のメンデル遺伝に従うと報告され ている(二橋 また 最近の技術の進歩により 近縁種間で優性 ている (Sz-Gと 次世代シークエンサーを用いて遺伝子発現を網羅的に解 劣勢が逆転している点は非常に興味深く オ擬態の分 析する方法 (RNAq が非モデル毘虫においても主流 子機構の解明が待たれる になりつつあるが 筆者も複数のトンボで RNAq解析 オ型のメの出現は 多くのトンボで報告されてい を進めているところである トンボでは 雌雄や成熟度 るが カワトンボ属では逆にオがメに擬態する例が で体色が異なる種や 色彩多型が見られる種 さらに近 知られている(図 右 この場合はメ擬態のオは 縁種間で体色や模様が大きく異なるグループなど さま 縄張りを作らずに 縄張りオの目を盗んでメと交尾 ざまな例が知られている たとえば 狭義のアカトンボ するという戦略をとっている また 縄張りを作るオ (アカネ属の中には 体色が青 くなる種(ナニワトン は 逆に 異物に対する免疫力が低下すると報告されてい ボ 秒m や オも生涯オレンジ色で赤く では縄 る(椿 ニホンカワトンボ M ならない種(オオキトンボ Smm[m なども 張りを作る樟色の麹を持つオが優性 メに擬態した 知られている これらの種を用いた RNA巴qの結果から 無色透明の麹を持つオが劣性の 遺伝子座のメンデル 赤くなるアカトンボの進化に関わる分子機構を解明でき 遺伝に従うとされているが (Tk 遡の色 るのではないかと考えているトンボで得られた知見を 縄張り行動 免疫力の変化(いずれもメラニンが関与 し チョウ目昆虫で報告されている知見と合わせることで ている可能性が高いが 遺伝子座に制御されている非 昆虫の体色の多様性が進化したメカニズムが より深く 常に興味深い例と考えられる(二橋 解明されることを期待している 7 トンボの体色形成に関わる分子機構の解明に 向けて 冒頭に述べたように トンボの体色形成や体色多型の 分子メカニズムに関しては 世界的に見てもほとんど研 究例がない現時点ではゲノム配列決定が進められてい る種も存在せず 非モデル昆虫の筆頭であるといっても 過言ではないだろうしかしながら 筆者は国内のトン 引用文献 P S ( D 制 問 B αd d " U P A ( " D ddj Md d A " m d ァR x du P L Mk P A ( V 山