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Transcription:

計測自動制御学会東北支部第 250 回研究集会 (2009.6.19) 資料番号 250-16 項目反応理論を用いた WBT 教材の作成 Development of WBT teaching material using item response theory 北川翔太 *, 小玉成人 * KITAKAWA Shouta*, KODAMA Naruhito* * 八戸工業大学 *Hachinohe Institute of Technology キーワード : 項目反応理論 (item response theory), e- ラーニング (e-learning), 教材 (teaching material). 連絡先 : 031-8501 八戸市妙字大開 88-1 八戸工業大学工学部システム情報工学科 小玉成人, Tel.: (0178)25-8099, Fax.: (0178)25-1691, E-mail: naru@hi-tech.ac.jp 1. まえがき近年 少子化が問題になり 学生減少による各学生の習熟度の差が大きくなっている そのため 同じ講義内容では学習効果を上げることが難しく 学習効果を上げるためには各学生の習熟度にあった教材作成が必要となる しかし 学生毎に教材を作成していては教員の負担が増え結果として教育の質を落とすことになりかねない そこで 教員が直接関わらずとも学生が自主的に学習できる e-learning を用いる方法が考えられる 現在 コンピュータやインターネット モバイル端末などの情報通信技術 (ICT) を用いた ICT 活用教育を行っている教育機関は75.8% にのぼり これらのICT を活用し 学習者が主体的に学習できる e-learning を行っている教育機関は 51.1% と年々増加している さらに 現行の制度では通学制の場合 124 単位中 60 単位まで e-learning を含むメディアを利用 して単位認定を行うことができ e-learning を行っている教育機関の中で 実際に単位認定を行っている教育機関は 40.4% になる (10) しかし e-learning はコンテンツを準備する労力が大きく また個別の学生の習熟度に合った教材を用意することは難しい そこで 本研究では e-learning システムを用いて能力判定テストを行い その結果から項目反応理論を用いて客観的に苦手分野を求め その分野を中心に学習させることによって学習効果の向上を目指し 一定の効果をあげることができたので報告する 2. e-learning システムの概要今回 e-learning システムの構築にLMS(Learning Management System) でコース管理が容易にできる Moodle を採用した 図 1 はMoodle を用いるためのシステム構成である Moodle は 利用者や管理 1

者がネットワークを介してアクセスすることで 容易にサイトの利用や管理を行うことができ インストール アップグレードが容易であり 自動インストールパッケージがいくつか提供されている また 無償で利用することが可能であり 多くのモジュールは追加費用なしにインストールすることができる Moodle は 教材管理のほか クイズ形式の問題作成機能や会議システム ( フォーラム ) など各種機能を持つ また 図 3 は IPv4 でのデータグラム ( パケット ) の毎秒あたりの送信量である 使用したネットワーク環境は スイッチ NIC ともに 1G bps で通信している 60 人が一斉にアクセスした結果 図のように最高で約 10,000 パケット (1 パケット 1024bps=10,240,000bps) であった したがって ネットワーク環境は 60 人が同時にアクセスした場合にも問題ないことが分かった 管理者 利用者 サーバマシン (WindowsServer2003R2) Moodel Web サーバ (XAMMP) PHP などのプログラム データベース 各種モジュール 図 2 使用可能なメモリ容量 図 1 e-learning システムの構成 3. 開発環境本研究は 以下の開発環境で行った 表 1 開発環境 サーバ 管理者 Windows Sever Windows XP Home OS 2003 R2 SP2 Edition Version2002 SP3 Intel(R) Intel(R) Core(TM)2 CPU Pentium(R) 4 3.20GHz Duo 2.00GHz メモリ 2GB 2GB HDD 容量 150GB 75GB 今回の実験では 能力判定テストを講義を受講しているおよそ 60 名を対象に一斉に行うため サーバに対する負荷テストを行った 図 2 にサーバ負荷テスト時の使用可能なメモリの容量を示す 図に示されているように 使用可能メモリは 1GB を切ることは無く 2GB のメモリで十分な余裕があることが分かる 図 3 ネットワーク使用量 4. 項目反応理論の適用項目反応理論 (IRT:Item Response Theory) は 評価項目群の応答に基づいて 被験者の特性と評価項目の難易度を測定するためのテスト理論である IRT は被験者やテストの内容に依存せず 不変的に被験者の能力とテスト項目の難易度を求められるため能力値の判定に利用した 4.1 1 パラメータロジスティックモデル -1PL モデル項目反応理論の数理モデルには パラメータによって分けると 1PL( パラメータロジスティック ) 2

2PL 3PL モデルがある 今回は 計算を単純化 するため 最も単純で少ないサンプル数でも適切 な計算ができる 1PL モデルを用いた 1PL モデル では項目 i の正解率は以下の式で表される 1 ( ) = (1) i 1 + e Pi θ ( Da( θ β )) ここで (1) 式の D と a は定数で D=1.7 a=1 である また β i は項目難易度を表し θ は被験者能力を表 している 従って 正解の確率は被験者能力 θ と項 目難易度 β i の差 (=θ-β i ) により決まり 被験者の能力 が項目難易度より大きければ正解の確率は高くなり 逆に被験者の能力が項目難易度より小さければ正解の確率は低くなることを意味している また 特に D=a=1 の場合を Rasch モデルと呼んでいる 正答確率 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 β=-2 β=-1 β=0 β=1 β=2 0.0-3 -2-1 0 1 2 3 被験者能力 図 4 1 パラメータロジスティックモデル 4.2 採点方式採点方式で分けると 2 値採点モデル 段階反応モデル 混合モデルなどがある 2 値採点モデルは その項目が正答したら 1 誤答の場合 0 とする採点方式である テスト項目は互いに独立であり その項目だけで答えを出すことができるような問題に対応する つぎに 段階反応モデルは 前の問題が次の問題にも影響するもので 段階数の増加に従って 答えのパターンも増加する 最 分野名 IP アドレスルーティングその他の技術 CISCO IOS コマンドネットワーク構築 後に 混合反応モデルは前述した 2 つのモデルを混合したモデルである 今回は 計算処理を簡潔にするため 2 値採点方式を採用した 4.3 パラメータの推定 4.1 で述べたように数理モデルは 1PL モデルを用いることにした なお モデルのパラメータ推定方法には 様々な方法が開発されているが 本研究では簡単な手計算でも行うことができる PROX 法を用いた 5. 項目反応理論を用いた効果的な学習方法の提案 5.1 学習の流れ学習の流れは 図 5 に示すように始めに 1 回目の能力判定テストを行い その結果から項目反応理論を用いて受験者の能力を計算する 受験者の能力は苦手分野毎に計算し その結果から学生は不偏的に判断された自分の能力値の最も低い分野を重点的に学習することができる 学習後には 2 回目の能力判定テストを行い本研究の方法の効果を確認した 能力判定テスト (1) 項目反応理論 ( 苦手分野を求める ) IP アドレス 能力判定テスト (2) ルーティング その他の技術 CISCO IOS コマンド 図 5 学習フローチャート 表 2 学習分野概要 IP アドレスに関する基礎的な知識や計算問題などスタティックルーティングやダイナミックルーティングなどの基礎知識など VLAN やNAT DHCP などのルーティング以外のネットワーク技術など CISCO ルータの IOS コマンドに関する問題など小規模ネットワークを構築するための機器の接続や IP アドレスの配分方法など 分野別問題 ネットワーク構築 3

なお 対象とした講義は ネットワーク関連資格のCCNA の問題形式が 2 値採点モデルに似ているため CCNA 取得に関する講義を採用した また 学習分野は表 2に示すように5つの分野に分けた 5.2 Moodle を用いた e-learning システムの構築前述した Mooble を用いて作成した e-learning システムを図 6 に示す この e-learning システムには各個人を識別するためのログイン機能 講義の教材を閲覧するための機能 能力判定テストを行うための小テスト機能 問題をストックしておくためのデータベース機能などがある は 一回間違えると-0.1 され 正解すると +1.0 となる そのため 不正解の場合は 0 正解の場合は 1 となるが テスト中に何回でも回答することができるため 0.9 以下は 0 と判断する また 2 回以上同じテストを行っている学生もいるが 今回は最低点を用いるものとする 2 値に成形した能力判定テストの結果を表 3 に示す つぎに 分野別に学生の能力値を求める 例として IP アドレス分野の学生の能力値を計算する まず 表 4 の初期データから 0 点および満点の学生 正解者が 0 または全員正解の問題の特異データを除き表 5 のデータを得る 特異データを除いたデータに対して 項目の困難度については 誤答率を用いて線形性のあるものに変換する そこで 以下で定義されるロジット インコレクトに変換する ロジット インコレクト = ln ( ( 1 p ) / p ) (2) 図 6 作成した講義の e-learning システム 4.3 項目反応理論による能力判定まず始めに 能力判定テストでの採点方法を 2 値に変更する必要がある Moodle の小テスト機能 表 3 能力判定テスト (1) の結果 ここで p は正答率を意味する つぎに 求めた表 6 のロジット インコレクトは 被験者の能力の水準によって変わってくるという問題を抱えている そこで 標本の水準による影響をなくすために 各ロジット インコレクトから その標本全てのロジット インコレクトの平均を引き 平均からの差を求め表 7 に示す初期項目困難度を求める 受験者の能力については 正答率を用いて 受験者番号 #1 #2 #3 #4 #5 #6 #7 #8 #9 #10 #11 #12 #13 #14 #15 #16 #17 #18 #19 #20 #21 #22 #23 #24 #25 #26 #27 #28 #30 1 0 0 0 1 0 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 1 1 0 0 1 0 1 1 1 0 11 2 1 1 1 1 1 1 0 1 1 1 1 0 1 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 13 3 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 0 1 1 0 1 1 1 1 1 1 0 1 1 0 0 1 1 0 23 4 1 0 1 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 1 1 1 1 1 0 1 1 0 1 1 1 1 16 5 0 1 0 1 1 1 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 0 15 6 0 0 1 1 1 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 0 1 0 1 1 1 0 0 1 0 0 10 7 1 1 1 1 1 1 1 1 0 0 0 0 1 1 1 0 1 0 1 0 1 0 0 0 1 1 1 1 1 19 8 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 1 1 0 0 1 1 1 0 1 0 0 10 9 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 1 1 8 10 1 1 1 1 1 1 1 1 0 0 1 0 1 1 0 0 1 1 1 1 1 0 1 1 0 0 1 0 0 19 11 1 0 0 0 1 1 1 0 1 0 1 0 0 0 1 0 1 0 1 1 0 0 0 0 1 1 1 1 1 15 12 1 0 1 0 1 1 0 0 0 1 0 0 1 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 0 0 1 12 13 1 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0 1 0 1 1 1 1 1 0 1 1 0 1 1 0 1 16 14 1 1 0 0 0 1 0 1 1 1 0 0 1 1 1 0 1 0 1 0 1 0 1 1 1 1 1 0 1 18 15 0 0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 1 1 1 1 1 0 1 10 16 0 0 1 0 1 1 1 0 0 0 0 1 0 0 1 0 1 0 0 1 0 0 1 1 1 1 1 0 0 13 17 1 1 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0 0 1 1 0 1 9 18 1 1 1 1 0 1 1 1 1 0 0 0 0 0 1 1 1 0 1 1 1 0 1 1 1 1 1 1 1 21 19 0 0 1 0 1 1 0 0 0 1 1 0 1 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 1 1 0 0 0 10 20 0 1 1 0 1 1 1 0 1 1 0 0 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0 11 21 1 1 1 0 1 1 0 1 0 0 0 0 1 1 1 1 1 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 22 22 1 1 0 1 1 1 1 1 0 0 1 0 1 1 1 0 1 1 0 0 1 0 1 0 1 1 1 1 1 20 13 13 16 10 14 18 8 11 6 6 6 2 13 9 13 5 14 6 13 13 12 3 14 16 12 16 17 10 12 321 4

表 4 IP アドレス分野の初期データ 受験者番号 #1 #2 #3 #4 #5 #6 合計 1 0 0 0 1 0 1 2 2 1 1 1 1 1 1 6 3 1 1 1 1 1 1 6 4 1 0 1 0 1 0 3 5 0 1 0 1 1 1 4 6 0 0 1 1 1 0 3 7 1 1 1 1 1 1 6 8 0 0 1 0 0 1 2 9 0 1 1 0 0 0 2 10 1 1 1 1 1 1 6 11 1 0 0 0 1 1 3 12 1 0 1 0 1 1 4 13 1 1 0 1 0 0 3 14 1 1 0 0 0 1 3 15 0 0 1 0 0 1 2 16 0 0 1 0 1 1 3 17 1 1 1 0 0 1 4 18 1 1 1 1 0 1 5 19 0 0 1 0 1 1 3 20 0 1 1 0 1 1 4 21 1 1 1 0 1 1 5 22 1 1 0 1 1 1 5 合計 13 13 16 10 14 18 84 表 5 IP アドレス分野の特異データ除去後 受験者番号 #1 #2 #3 #4 #5 #6 合計 1 0 0 0 1 0 1 2 4 1 0 1 0 1 0 3 5 0 1 0 1 1 1 4 6 0 0 1 1 1 0 3 8 0 0 1 0 0 1 2 9 0 1 1 0 0 0 2 11 1 0 0 0 1 1 3 12 1 0 1 0 1 1 4 13 1 1 0 1 0 0 3 14 1 1 0 0 0 1 3 15 0 0 1 0 0 1 2 16 0 0 1 0 1 1 3 17 1 1 1 0 0 1 4 18 1 1 1 1 0 1 5 19 0 0 1 0 1 1 3 20 0 1 1 0 1 1 4 21 1 1 1 0 1 1 5 22 1 1 0 1 1 1 5 合計 9 9 12 6 10 14 60 表 6 IP アドレス分野の項目困難度の線形化 項目 正答率 誤答率 ロジット インコレクト 1 0.50 0.50 0.000 2 0.50 0.50 0.000 3 0.67 0.33-0.693 4 0.33 0.67 0.693 5 0.56 0.44-0.223 6 0.78 0.22-1.253 表 7 IP アドレス分野の初期項目困難度 項目 正答数 正答率 誤答率 ロジット インコレクト 初期項目困難度 ( ロジット インコレクト )^2 1 9 0.50 0.50 0.000 0.246 0.061 2 9 0.50 0.50 0.000 0.246 0.061 3 12 0.67 0.33-0.693-0.447 0.200 4 6 0.33 0.67 0.693 0.939 0.882 5 10 0.56 0.44-0.223 0.023 0.001 6 14 0.78 0.22-1.253-1.007 1.014 合計 -1.476 0.000 2.217 平均 -0.246 0.000 0.370 SD(n-1) 0.666 0.666 0.455 表 8 IP アドレス分野の能力初期値 受験者番号 正答数 正答率 ロジット コレクト 能力初期値 ( ロジット コレクト )^2 1 2 0.333-0.693-0.693 0.480 4 3 0.500 0.000 0.000 0.000 5 4 0.667 0.693 0.693 0.480 6 3 0.500 0.000 0.000 0.000 8 2 0.333-0.693-0.693 0.480 9 2 0.333-0.693-0.693 0.480 11 3 0.500 0.000 0.000 0.000 12 4 0.667 0.693 0.693 0.480 13 3 0.500 0.000 0.000 0.000 14 3 0.500 0.000 0.000 0.000 15 2 0.333-0.693-0.693 0.480 16 3 0.500 0.000 0.000 0.000 17 4 0.667 0.693 0.693 0.480 18 5 0.833 1.609 1.609 2.590 19 3 0.500 0.000 0.000 0.000 20 4 0.667 0.693 0.693 0.480 21 5 0.833 1.609 1.609 2.590 22 5 0.833 1.609 1.609 2.590 合計平均 SD(n-1) 10.000 4.828 4.828 11.614 0.556 0.268 0.268 0.645 0.171 0.779 0.779 0.923 5

線形性のあるものに変換する そこで 受験者の 能力に関しては 以下で定義されるロジット コレクトに変換する ロジット コレクト = ln ( p / ( 1 p ) ) (3) ここで p は正答率を意味する これが 表 8 に示す能力初期値となる また 標本によってそのデータのばらつきの度合いが異なっているため それぞれの標準偏差や分散を求め これらを用いて拡張要素を計算し 表 9,10 に示す最終項目困難度と最終能力を算出する 同様の方法で他の分野の各学生に対する能力値を求める これらの能力値は +の値が高い能力を表しており -の値が低い能力 つまり苦手分野を表している 表 9 IP アドレス分野の最終項目困難度 項目 初期項目項目の最終項目困難度拡張要素困難度 1 0.246 1.023 0.252 2 0.246 1.023 0.252 3-0.447 1.023-0.458 4 0.939 1.023 0.961 5 0.023 1.023 0.023 6-1.007 1.023-1.030 合計 0.000 6.139 0.000 平均 0.000 1.023 0.000 SD(n-1) 0.666 0.000 0.681 表 10 IP アドレス分野の最終能力 受験者能力の能力初期値番号拡張要素 最終能力 1-0.693 1.002-0.695 4 0.000 1.002 0.000 5 0.693 1.002 0.695 6 0.000 1.002 0.000 8-0.693 1.002-0.695 9-0.693 1.002-0.695 11 0.000 1.002 0.000 12 0.693 1.002 0.695 13 0.000 1.002 0.000 14 0.000 1.002 0.000 15-0.693 1.002-0.695 16 0.000 1.002 0.000 17 0.693 1.002 0.695 18 1.609 1.002 1.613 19 0.000 1.002 0.000 20 0.693 1.002 0.695 21 1.609 1.002 1.613 22 1.609 1.002 1.613 合計 4.828 18.039 4.839 平均 0.268 1.002 0.269 SD(n-1) 0.779 0.000 0.781 表 11 能力判定テスト (1)( 最終能力 ) 番号 能力能力の初期値拡張要素 最終能力 1-0.547 1.161-0.635 2-0.268 1.161-0.312 3 1.190 1.161 1.382 4 0.134 1.161 0.155 5 0.000 1.161 0.000 6-0.693 1.161-0.805 7 0.547 1.161 0.635 8-0.693 1.161-0.805 9-1.012 1.161-1.175 10 0.547 1.161 0.635 11 0.000 1.161 0.000 12-0.405 1.161-0.471 13 0.134 1.161 0.155 14 0.405 1.161 0.471 15-0.693 1.161-0.805 16-0.268 1.161-0.312 17-0.847 1.161-0.984 18 0.847 1.161 0.984 19-0.693 1.161-0.805 20-0.547 1.161-0.635 21 1.012 1.161 1.175 22 0.693 1.161 0.805 合計 -1.159 25.550-1.346 平均 -0.053 1.161-0.061 SD(n-1) 0.653 0.000 0.758 表 12 能力判定テスト (2)( 最終能力 ) 番号 能力能力の初期値拡張要素 最終能力 1 0.268 1.174 0.315 2-1.872 1.174-2.197 3-1.190 1.174-1.396 4-0.547 1.174-0.641 5 0.405 1.174 0.476 6 0.268 1.174 0.315 7-1.386 1.174-1.627 8 0.134 1.174 0.157 9-1.012 1.174-1.187 10-1.012 1.174-1.187 11-1.386 1.174-1.627 12 0.693 1.174 0.813 13-0.405 1.174-0.476 14 0.693 1.174 0.813 15 1.012 1.174 1.187 16-0.547 1.174-0.641 17-1.012 1.174-1.187 18-0.268 1.174-0.315 19 0.693 1.174 0.813 20-0.268 1.174-0.315 21 0.693 1.174 0.813 22 0.693 1.174 0.813 23-0.268 1.174-0.315 24 0.134 1.174 0.157 25 0.268 1.174 0.315 26 2.639 1.174 3.097 27-0.547 1.174-0.641 28-0.268 1.174-0.315 29 0.547 1.174 0.641 合計 -2.847 34.033-3.341 平均 -0.098 1.174-0.115 SD(n-1) 0.926 0.000 1.087 6

表 13 最終能力の比較 分野名 最終能力最終能力 (1) (2) IPアドレス 0.461 0.868 ルーティング -1.213-0.117 その他の技術 -0.175 0.805 CISCO IOSコマンド 0.116 0.278 ネットワーク構築 0.538 0.796 全体 0.164 0.271 求めた能力値から苦手分野を中心に分野別問題で学習してもらい 最後に能力判定テスト (2) を行った 能力判定の結果を表 11~13 に示す 表から1 回目の最終能力の平均値は 0.164 に対し 2 回目は 0.271 と上昇し 本学習方法の効果が示された しかし 今回は講義時間の都合上 1 分野につき 6 問で能力判定を行っているため より正確な能力判定を行うためには問題数を増やす必要があると考えられる また 本来の受講学生は 60 名程度だったにもかかわらず自主的に学習してもらったため 途中で能力判定テストを止めたり 1 回目か 2 回目の試験を行っていなかったりと有効な結果が得られた学生が 20 名程度となってしまった そのため ある程度の強制力を持たせる必要があると思われる また 今回はサンプル数の関係でIRT の1PL で計算したが 3PL などの高機能なモデルを用いた方法も考慮する必要がある 6. まとめ学生の多様化に対応し 学習効果を上げるため 被験者やテストの内容に依存しない項目反応理論を用いて e-learning システムを構築した この教材を用いて学習してもらった結果 最終能力は平均 0.107 向上した しかし e-learning システム上で分野別の問題を準備し 自主勉強してもらったため 分野別問題を行わなかった被験者が多く 多くのサンプル数を得られなかった そこで 自主学習ではなくブレンディッド型の授業を行うなどにより ある程度強制力を持たせる必要があると思われる また 今回は能力判定テスト後 手計算で苦手分野を求めたために 完全な形での e-learning システムを構築できなかった そこで今後は 自動的に最終能力を求める Moodle モジュールとその結果から問題を生成するモジュールの作成を行う予定である 参考文献 (1) 尾崎, 松坂 : 項目反応理論による数学の基礎能力の推移分析, 八戸工業大学紀要, 第 27 巻,pp.61-67,(2008-8) (2) 佐々木 : 項目反応理論による e-learning コンテンツの配信制御, 情報処理学会東北支部第 7 回研究会資料,No.10,(2007-12) (3) 吉田 : 項目反応理論を用いた WBT 教材の作成, 八戸工業大学工学部システム情報工学科卒業研修論文,(2009-2) (4) 尾崎, 松坂 : 項目反応理論による数学の基礎能力の推移分析, 情報処理学会東北支部第 7 回研究会資料,No.9,( 2007-12) (5) Naruhito Kodama, Tomoyuki Matsuzaka, Takayuki Iqanuma, Noburu Kurihara, Yasuhiro Ozaki : Online Education for Students and Community People Using an E-Learning System, Proc. of ITHET2007, Kumamoto,(2007-7) (6) Takayuki Iwanuma, Tomoyuki Matsuzaka: Web Based Education Method on Wind Energy Using an E-Learnig System, Proc. of Renewable Energy 2006,October,Makuhari,( 2006.10) (7) 大友 : 言語テスト データの新しい分析法項目反応理論入門, 大修館書店,(1996) (8) Frank B. Baker,Seock-Ho Kim: Item Response Theory: Parameter Estimation Techniques, Marcel Dekker Inc,( 2004) (9) 豊田 : 項目反応理論[ 理論編 ], 朝日書店, (2005) (10) 日本イーラーニングコンソーシアム : e ラーニング白書 2008/2009 年版, 東京電機大学出版局,(2008) (11) 井上, 奥村, 中田 : Moodle 入門, 海文堂, (2006) 7