福祉施設経営の読み解き方 2009/05/29 Fri 愛港園廣田憲司
老人福祉事業者の倒産 老人福祉と医療の倒産 08 年度は過去最多 民間調査会社の帝国データバンクによると 特別養護老人ホームや在宅介護サービスなど老人福祉事業者の 2008 年度の倒産件数が前年度より 5 件増え 過去最多の 26 件となった 5 年連続の増加で この 3 年で約 4 3 倍になった 医療機関の倒産も過去最高だった前年度と同じ 40 件 高齢化が急速に進む中で 医療 介護の現場が厳しい経営環境に直面している実態が浮き彫りとなった 倒産急増の理由として 同社は 00 年の介護保険法施行以降 ノウハウを持たない安易な新規参入企業が相次ぎ競争激化を招いた と指摘 医療機関については 病院の勤務医が診療所や歯科医院を開業するケースが増え 過当競争に陥った と分析している (2009 年 5 月 28 日 20 時 07 分読売新聞 )
福祉施設の倒産が現実味を帯び てきた 財務上での赤字が増大してきている 建設時の借入金の金額が大きくなり 医療福祉機構 銀行などからの借入金の返還ができなくなってきている 介護労働者の確保がむずかしく 事業規模が縮小してきている 事業所が増える中で サービスの競合が起こり 利用者の確保がむずかしくなってきている サービスの質の向上だけを考えている時代ではない 福祉施設としての優れた経営手腕が問われている
介護保険制度下の経営 措置制度の時は 国や自治体からの手厚い保護の下で施設は運営されていたので 経営 という概念は福祉の世界では育ってこなかった 介護保険制度の中では事業の安定は 施設運営上の大きな課題になってきた 介護報酬の改定のたび (2 回 ) に 報酬単価が引き下げられてきたので 経営者はコスト削減 人件費抑制を余儀なくされてきた
介護保険事業の悪循環 労働環境の悪化に伴い 介護職員の流出 介護人材確保の困難性が表出 介護の専門性を高めるキャリアアップシステムが 人材確保と微妙な関係になっている ( いい面と悪い面 ) いい人材を確保するためには 人材確保と育成に投資が必要になるのに 財務的に難しい状況になっている サービスの低下も現実問題として起こりつつある
安定した施設と危ない施設の見 分け方 五つのポイント 1. 財務上の安定性バランスのよい収支になっているのか 2. 人材確保の安定性採用計画 採用方法 人材の育成 3. 運営指針の明確さ未来のあるビジョンが描かれているのか 4. 施設の特性の強調強み ( 魅力 ) を生かし切れているのか 5. 情報公開と事業運営の透明性
財務上の安定性 バランスのよい収支状況になっているか 福祉施設の場合は 収益率の高さが施設運営の良さとはつながらない 収入の安定度と将来性 人件費比率の目安は 60%~65% 高くても低くても問題は多い 人件費比率の詳細な評価は 職員構成 ( 職員数 パート比率 年齢など ) との比較が必要 借入金償還金の占める比率 必要な部分への投資は行っているのか ( 事例 ) 社会福祉法人みなと寮の 平成 20 年度社会福祉法人みなと寮事業活動収支計算書総括表 ( 特別編集 ) を読み解く
人材確保の安定性 職員採用計画 採用方法 人材の育成 都市部における介護職員の確保の困難性にどのように対応しているのか インターネットによる求人の有効性採用における地域性からの脱却 愛港園のホームページの活動性が マイナビサイトとうまく連動する しかし 法人としては 人材育成 プリセプター制度など 課題は多い
運営指針の明確さ 未来のあるビジョンが描かれているのか 愛港園は運営指針を明確にしている愛港園平成 21 年度事業計画 二つの理念 ( 情報公開と人権擁護 ) 短期 中期 長期のスパンごとの運営指針の明確さ 三つの標語 ( 笑顔で支援など )
施設の特性の強調 施設の強みを認識して それを ( 魅力 ) を生かし切れているのか 施設の弱みを理解しているのか それに対する具体的改善策はあるのか スタッフ全員が 働いている施設と自分の立っているロケーションを理解すべき 何をのばしていくことが 施設の将来にとって大切なのかを明確にする
情報公開と事業運営の透明性 愛港園は全国 6 千カ所の特養の中で 最も優れた情報公開を行っている その先駆性を生かした事業運営が問われている 例えば 積極的に介護事故への取り組みを行っていく 介護事故防止のネットワークを構築する 情報の完全公開 と 情報の毎日発信 の推進 情報公開は リスクマネジメント 虐待防止 コンプライアンス サービス評価などの要に位置する
財務諸表を読み解く理由 施設管理者だけではなく スタッフ全員が施設の財務状況を理解していくことで 厳しい状況を乗り越えられる 財務状況に無関心では 将来大変な場面になったときに 個人の責任性も問われるのだと思う 適正にお金は使われているのか 人件費は適切な額なのか 収入だけではなく支出を監視していく 収益はどのように処理されているのかを知る 赤字施設は原因を把握して改善していく方向性が必要 法人にとって不必要な部分は 切り離すなどの処理をすることも必要
福祉施設の財務諸表の見方 資金収支計算書 1. 資金の収入と支出の明細 2. キャッシュフロー計算書 事業活動収支計算書 1. 一会計期間中の損益計算を表示 貸借対照表 1. 資産 負債及び純資産の年度末の残高
事業活動収支計算書を読む 今回は事業活動収支計算書に焦点を当てて 数値の意味を知る 事業活動収支計算書は 事業の採算性を検討できる 1. 事業活動収支差額 + 2. 事業活動外収支差額 + 3. 経常収支差額 + 全て + が望ましい 2 がマイナスはよくあるケース
事業活動収支差額 事業活動収支差額をどのぐらいの水準にするのかが 経営者の手腕 収入に対する比率で言うと 5%~10% が望ましい 赤字の場合は収支の具体的改善策が必要 5% 以下の場合も将来に対する不安は残る 10% 以上の収益率があるところは 収益を利用者サービス 職員待遇に回す必要がある
人件費比率 人件費を 事業活動収入から国庫補助金等特別積立金取崩額を引いた額で割る 施設経営的には 65% が限界である それを超えると赤字施設に転落していく 理想的に言えば 55% 程度がいいが 施設の規模 設立年数 構成員 地域性などによって違うので一概に数値では表しにくい 超過勤務手当なども比較する
事務費支出 事業費支出 同規模の施設と比較すると問題点が見えてくる 事業費支出の中では 特に給食費の確保が大切である 一定水準の給食費の設定が求められる 詳細な検討は内訳表が必要になるが どの法人も内訳表は公表していない 愛港園は情報の完全公開をうたっているので 内訳表も公開している
法人の事業活動収支計算書を読 み解く 社会福祉法人みなと寮平成 20 年度事業活動収支計算書総括表 ( 特別編集 ) 事業活動収支差額人件費比率経理区分間繰入金支出 収入
施設運営の大切な話 今日の講義は 本来ならば法人職員の管理職 幹部職員に聞いてもらいたい内容である 法人の幹部職員といえども 措置制度で長く会計を担当してきたものにとっては 経営分析の視点が不足している 措置制度の中では 単年度の会計処理しか考えられないという問題もある 半年ごとの会計報告を ぜひ読み解くことで自分たちの施設の置かれている立場を理解してほしい
愛港園の平成 20 年度の赤字 愛港園の平成 20 年度事業活動収支差額は 2500 万円ほどの赤字を計上している これは 開設以来 26 年が経過する中で 初めて厨房の大改修を行った経費が大きい ( 支出増 ) もう一つは 介護職員数の減少の中で 利用者の安全を優先するために 利用率を抑えたことである ( 収入減 ) 構造的には愛港園は法人みなと寮の中核施設 ( 会計規模 職員数が最大 ) であり 例年は年間 3000 万円程度の黒字運営
法人全体の経営状況 福祉施設全体は経営的に厳しいと言われているが 当法人は順調に推移している 当法人の事業は 大きく分けて救護施設関係と介護保険関係の二つに分かれる 救護施設は全体的に経営的には順調 第 2 愛港園と在宅介護支援センターは赤字体質 デイサービスは堅調だが 利用者が減少気味 ホームヘルプはヘルパーの確保がむずかしく 利用減
まとめ 介護職員は 財務について苦手な人が多いが これからは資金の動きに敏感になってほしい いい施設 ( 法人 ) 運営は 資金の流れについても透明性が必要である 収益をどこに投資していくのかが大切である お金を残すだけではなく 将来のために何に向けてお金を使うのかが大切なのだ