Disorders of keratinization 近 年 角 化 のメカニズムが 次 々と 明 らかになりつつあり, 不 明 とされていた 遺 伝 性 角 化 症 の 原 因 遺 伝 子 が 同 定 さ れてきている.しかし 今 なお 原 因 不 明 な 角 化 症 もあり, 今 後 のさらなる 解 明 が 期 待 される 分 野 の 一 つである. 角 化 症 は 遺 伝 性 角 化 症 ( 魚 鱗 癬,D ダリエー arier 病 など)と 後 天 性 角 化 症 とに 大 別 され,さらに 後 天 性 角 化 症 は, 炎 症 そうよう たいせん けいがん べん を 主 体 とし 瘙 痒 などを 伴 う 炎 症 性 角 化 症 ( 乾 癬, 扁 平 苔 癬 など), 炎 症 を 伴 わない 非 炎 症 性 角 化 症 ( 鶏 眼, 胼 胝 に 分 類 することができる. 本 章 では, 以 上 の 分 類 に 基 づいて 代 表 的 な 角 化 症 について 解 説 する. ち ) A. 遺 伝 性 角 化 症 hereditary keratoses ぎ ょ a. 魚 り ん 鱗 せ ん 癬 ichthyoses 表.1 魚 鱗 癬 の 新 国 際 分 類 ( 内 は 従 来 の 病 名 ) 魚 鱗 癬 とは, 角 層 の 剥 脱 機 構 に 異 常 が 生 じた 結 果, 全 身 の 皮 らくせつ 膚 が 乾 燥 および 粗 造 化 して 落 屑 を 生 じる 状 態 のことをいう. 魚 うろこ の 鱗 のようにみえることから 名 づけられた. 皮 膚 の 角 化 や 脱 落 過 程 に 先 天 的 な 異 常 があり, 遺 伝 性 角 化 症 に 分 類 されるものが 大 部 分 であるが,まれに 後 天 的 にこの 症 状 を 呈 する 場 合 があり, 内 臓 悪 性 腫 瘍 に 伴 うことが 多 い. 魚 鱗 癬 は, 原 因 遺 伝 子 や 臨 床 症 状, 罹 患 部 位 などによって 10 種 類 以 上 に 分 類 されるが, 2009 年 新 国 際 分 類 ( 表.1)に 基 づき, 大 幅 に 病 名 の 呼 称 が 変 更 になったので, 注 意 が 必 要 である.ここでは 代 表 的 な 病 型 について, 以 下 それぞれ 述 べる. 1. 尋 常 性 魚 鱗 癬 ichthyosis vulgaris 常 染 色 体 半 優 性 遺 伝 で,フィラグリンの 遺 伝 子 変 異 による. 皮 膚 の 乾 燥 と 落 屑 が 特 徴. 魚 鱗 癬 のなかでは 最 も 軽 症. 罹 患 率 2 10%くらいのきわめて 頻 度 の 高 い 疾 患 である. 乳 幼 児 期 に 発 症 し, 主 に 四 肢 伸 側 や 体 幹 に 魚 鱗 様 外 観, 乾 燥, 落 屑. 夏 季 に 軽 快. 治 療 は 対 症 的. 保 湿 剤 など. 症 状 出 生 時 は 無 症 状 で, 乳 幼 児 期 に 発 症 して 10 歳 頃 まで 進 行 性 である. 青 年 期 以 降 軽 快 することが 多 い. 四 肢 伸 側 や 体 幹 にお ひ こう いて, 皮 膚 が 乾 燥 し 粃 糠 様, 小 葉 状 落 屑 を 呈 する.とくに 下 腿 伸 側 や 背 部 に 好 発 し, 関 節 屈 側, 腋 窩, 外 陰 は 侵 されにくい( 図 251 Ⅰ. 非 症 候 性 の 遺 伝 性 魚 鱗 癬 1. 遅 発 性 魚 鱗 癬 ( 出 生 時 に 症 状 を 認 めない) 尋 常 性 魚 鱗 癬 X 連 鎖 性 劣 性 魚 鱗 癬 伴 性 遺 伝 性 魚 鱗 癬 2. 先 天 性 魚 鱗 癬 ( 出 生 時 から 症 状 を 認 める) 常 染 色 体 劣 性 先 天 性 魚 鱗 癬 道 化 師 様 魚 鱗 癬 葉 状 魚 鱗 癬 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 非 水 疱 型 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 ケラチン 症 性 魚 鱗 癬 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 水 疱 型 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 表 在 性 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 Siemens 型 水 疱 性 魚 鱗 癬 その 他 ロリクリン 角 皮 症 Ⅱ. 魚 鱗 癬 症 候 群 ( 表.3 も 参 照 ) Netherton 症 候 群 Sjögren-Larsson 症 候 群 KID 症 候 群 Dorfman-Chanarin 症 候 群 (neutral lipid storage disease with ichthyosis) Refsum 症 候 群 Conradi-Hünermann-Happle 症 候 群 変 動 性 紅 斑 角 皮 症 Ⅲ. 後 天 性 魚 鱗 癬 悪 性 リンパ 腫, 内 臓 悪 性 腫 瘍,サルコイドー シスなど (Oji V, et al. Revised nomenclature and classification of inherited ichthyoses:results of the First Ichthyosis Consensus Conference in Sorèze 2009. J Am Acad Dermatol. 63:607, 2010 より 要 約.この 分 類 法 コンセ ンサス 会 議 には 著 者 も 含 め 世 界 の 魚 鱗 癬 の 専 門 家 20 名 ほどが 参 加 した)
252 章 角 化 症.1). 自 覚 症 状 はなく,まれに 瘙 痒 がある 程 度. 夏 季 に 軽 快 する. 掌 紋 の 増 強 (palmoplantar hyperlinearity)や 毛 孔 性 角 化 症 を 伴 うことが 多 い.アトピー 性 皮 膚 炎 に 合 併 することも 多 い (7 章 p.109 参 照 ). 病 因 角 層 間 に 存 在 し, 保 湿 などにかかわるフィラグリン(filaggrin; FLG) 遺 伝 子 変 異 により, 角 質 脱 落 の 障 害, 皮 膚 の 乾 燥 や 落 屑 を 生 じる(1 章 p.8 参 照 ). 常 染 色 体 半 優 性 遺 伝 (semi-dominant) を 示 し,フィラグリン 遺 伝 子 の 両 方 のアレル( 対 立 遺 伝 子 )に 変 異 遺 伝 子 をもつ 患 者 は 症 状 が 強 くなる. 病 理 所 見 過 角 化 と 顆 粒 層 の 減 少 ないし 消 失 が 認 められる. 毛 孔 性 角 化 もみられやすい. 診 断 鑑 別 診 断 皮 疹 の 分 布, 家 族 歴 や 掌 紋 の 増 強 などから 診 断 する. 他 の 遺 伝 性 魚 鱗 癬 では 出 生 時 から 発 症 し, 四 肢 関 節 屈 側 も 侵 されるこ とが 多 い( 表.2).アトピー 性 皮 膚 炎 患 者 の 20 50%はフ ィラグリン 遺 伝 子 変 異 をもっていることも 最 近 解 明 された(7 章 p.109 参 照 ).すなわちアトピー 性 皮 膚 炎 患 者 でみられるド ライスキンの 多 くは 本 症 である. 図.11 尋 常 性 魚 鱗 癬 (ichthyosis vulgaris) 皮 膚 は 乾 燥 し 粃 糠 様, 小 葉 状 落 屑 を 呈 する. 治 療 対 症 療 法 が 主 体 となる. 保 湿 剤,サリチル 酸 ワセリン, 活 性 型 ビタミン D3 外 用 などを 行 う. 表.2 魚 鱗 癬 の 各 病 型 の 比 較
A. 遺 伝 性 角 化 症 253 2.X 連 鎖 性 劣 性 魚 鱗 癬 X-linked ichthyosis 同 義 語 : 伴 性 遺 伝 性 魚 鱗 癬 ステロイドスルファターゼの 欠 損 あるいは 著 明 減 少 により, 角 質 の 脱 落 遅 延 が 生 じる.X 連 鎖 劣 性 遺 伝. 症 状 は 尋 常 性 魚 鱗 癬 よりも 重 症. 皮 疹 は 関 節 伸 側 だけでなく 屈 側 にも 生 じる. 症 状 生 後 まもなく 発 症 し, 加 齢 により 軽 快 しない. 皮 膚 症 状 は 尋 りんせつ 常 性 魚 鱗 癬 よりも 高 度 で, 鱗 屑 は 大 きく 暗 褐 色 を 呈 する( 図.2). 四 肢 関 節 伸 側 ばかりでなく 屈 側 も 侵 され, 体 幹 では 背 部 のみならず 腹 部 も 侵 される. 角 膜 に 点 状 混 濁 を 伴 うことがあ る. 尋 常 性 魚 鱗 癬 と 同 じく, 冬 季 に 悪 化 し 夏 季 に 軽 快 する. 病 因 X 染 色 体 上 にあるステロイドスルファターゼ(steroid sulfatase;sts) 遺 伝 子 の 変 異 により 発 生 する.これは 角 層 細 胞 間 の 接 着 に 寄 与 する 硫 酸 コレステロールを 分 解 する 酵 素 である (1 章 p.9 参 照 ).ステロイドスルファターゼが 欠 損 すると 硫 酸 コレステロールが 角 層 細 胞 間 に 蓄 積 し, 角 質 細 胞 が 剥 離 遅 延 を 起 こして 本 症 を 発 症 する.X 連 鎖 劣 性 遺 伝 であるため, 基 本 的 に 男 性 にのみ 発 症 する. 図.12 尋 常 性 魚 鱗 癬 (ichthyosis vulgaris) 病 理 所 見 検 査 所 見 過 角 化 を 認 めるが, 尋 常 性 魚 鱗 癬 と 異 なり, 顆 粒 層 および 有 棘 層 は 正 常 ないし 軽 度 肥 厚 する. 毛 孔 性 角 化 はまれ. 角 層, 白 血 球, 線 維 芽 細 胞 中 のステロイドスルファターゼの 欠 損 あるい は 著 減 をみる. 患 者 の 母 ( 保 因 者 )では 尿 中 エストリオールの 低 下 をみる. 最 近 では 末 梢 血 白 血 球 のステロイドスルファター ゼ 遺 伝 子 を FISH 法 にて 視 覚 化 でき, 本 症 の 診 断 に 有 用 である. 鑑 別 診 断 治 療 尋 常 性 魚 鱗 癬 との 鑑 別 にはステロイドスルファターゼの 低 下 を 証 明 する. 治 療 は 尋 常 性 魚 鱗 癬 に 準 じる. 図.2 X 連 鎖 性 劣 性 魚 鱗 癬 (X-linked ichthyosis) 比 較 的 大 きな 鱗 屑 を 有 し, 尋 常 性 魚 鱗 癬 より 症 状 が 強 い.
254 章 角 化 症 3. 道 化 師 様 魚 鱗 癬 harlequin ichthyosis 同 義 語 : 道 化 師 様 胎 児 (harlequin fetus) 出 生 時 から 皮 膚 がきわめて 厚 い 角 質 で 覆 われ, 深 い 亀 裂 を 伴 い, 眼 瞼 外 反 や 口 唇 突 出, 開 口 が 著 しく, 生 後 2 週 間 以 内 に 死 亡 する 例 が 多 い( 図.3). ABCA12 遺 伝 子 の 変 異 により 発 症 する.ABCA12 は 層 板 顆 粒 に 存 在 する 主 要 な 脂 質 輸 送 蛋 白 であ る.この 欠 損 によりセラミドに 代 表 される 角 質 細 胞 間 脂 質 が 著 しく 減 少 し, 発 症 する(1 章 p.9 参 照 ). 本 症 では 層 板 顆 粒 の 形 成 異 常 がある. 常 染 色 体 劣 性 遺 伝. 出 生 前 診 断 の 適 応 にもなる. 図.3 道 化 師 様 魚 鱗 癬 (harlequin ichthyosis) 全 身 の 著 明 な 過 角 化 を 認 める. 眼 部 が 赤 いのは 眼 瞼 外 反 を 呈 しているためである. 正 常 な 眼 球 はその 下 に 存 在 している. 4. 葉 状 魚 鱗 癬 lamellar ichthyosis 粗 大 で, 暗 褐 色, 板 状, 葉 状 の 大 きな 鱗 屑 が 全 身 に 広 範 囲 に みられるが, 発 赤 や 潮 紅 ( 紅 皮 症 )が 目 立 たないものをいう( 図.4). 膜 様 の 厚 い 角 化 物 質 (コロジオン 膜 )に 覆 われて 出 生 す ることがあり コロジオン 児 (collodion baby),この 膜 は 1 2 日 以 内 に 自 然 脱 落 する. 本 症 は 臨 床 的 に 類 似 したものを 集 めた 疾 患 概 念 であり, 遺 伝 的 には 多 様 なものを 含 む. 約 半 数 の 症 例 では, 周 辺 帯 (cornified cell envelope)の 形 成 に 関 与 するトラ ンスグルタミナーゼ 1 遺 伝 子 (TGM1)の 欠 損 により 発 症 する( 図 1.18 および 1 章 p.9 参 照 ).そのほか,ICHTHYIN, ALOXB12, ABCA12 の 変 異 症 例 も 報 告 されている. 大 部 分 は 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 形 式 であるが, 一 部 に 優 性 遺 伝 の 症 例 も 存 在 する. 5. 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 congenital ichthyosiform erythroderma 同 義 語 : 非 水 疱 型 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 (non-bullous congenital ichthyosiform erythroderma;nbcie) 症 状 コロジオン 児 ( 前 項 参 照 )で 出 生 することが 多 く,コロジオ ン 膜 の 脱 落 後 は, 全 身 のびまん 性 潮 紅 ( 紅 皮 症 )と 細 かい 鱗 屑 を 伴 う 落 屑 をきたす( 図.5). 眼 瞼 外 反 をきたすこともある. 掌 蹠 の 過 角 化 を 伴 うこともある. 季 節 による 症 状 の 変 動 は 少 な い.10 歳 頃 まで 進 行 性 で, 以 後 停 止 または 軽 快 することが 多 い. 図.4 葉 状 魚 鱗 癬 (lamellar ichthyosis) 暗 褐 色 の 葉 状 の 大 きな 鱗 屑 が 特 徴. 病 因 本 症 は 臨 床 的 に 類 似 したものをまとめた 概 念 であり, 多 くは 病 因 不 明 である.いずれも 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 形 式 をとる. 一 部
A. 遺 伝 性 角 化 症 255 図.5 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 (congenital ichthyosiform erythroderma) 全 身 性 のびまん 性 潮 紅 と 細 かい 鱗 屑 を 伴 う 落 屑. 水 疱 形 成 はみられない.
256 章 角 化 症 の 症 例 は TGM1( 前 項 参 照 )の 遺 伝 子 変 異 によって 生 じるが, 正 常 な 症 例 も 多 い.TGM1 の 活 性 が 完 全 欠 損 すると 葉 状 魚 鱗 癬 となり, 活 性 が 少 し 残 ると 本 症 を 発 症 する.ABCA12, ALOXE3 などの 変 異 症 例 も 報 告 されている. 治 療 尋 常 性 魚 鱗 癬 に 準 じた 外 用 療 法 のほか,レチノイド 内 服 が 有 効. 二 次 感 染 を 予 防 するため 皮 膚 を 清 潔 に 保 つ. 6. 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 epidermolytic ichthyosis 同 義 語 : 水 疱 型 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 (bullous congenital ichthyosiform erythroderma;bcie) 症 状 コロジオン 児 として 出 生 することがある.びまん 性 の 潮 紅 を 伴 い, 乳 幼 児 期 は 物 理 的 刺 激 を 受 けた 部 位 に 水 疱 形 成 を 繰 り 返 す. 成 長 とともに 水 疱 形 成 は 減 少 し, 過 角 化 が 目 立 つようにな る. 学 童 期 には 高 度 の 過 角 化 が 固 定 する( 図.6). 潮 紅 を 伴 う 皮 膚 面 上 の 厚 い 角 化 性 局 面 は 特 徴 的 な 臭 気 を 伴 う. 四 肢 関 節 屈 側 を 含 めて 全 身 が 侵 され, 暗 紅 色 調 の 紅 皮 症 を 呈 する.ケラ チン 1 の 変 異 では 手 掌 足 底 にも 過 角 化 をきたすが,ケラチン 10 の 変 異 では 手 掌 足 底 は 正 常 である. 生 命 予 後 は 良 好 である. 病 因 有 棘 細 胞 の 細 胞 骨 格 ( 中 間 径 線 維 )はケラチン 1 と 10 によ り 構 築 されている. 本 症 はケラチン 1 または 10 遺 伝 子 の 変 異 の 結 果,ケラチン 線 維 の 形 成 に 障 害 が 生 じ, 細 胞 骨 格 が 乱 れ, 表 皮 内 水 疱 形 成 をきたし, 続 発 性 の 過 角 化 を 生 じる( 図 1.16 参 照 ). 大 部 分 は 常 染 色 体 優 性 遺 伝. 図.61 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 (epidermolytic ichthyosis) 潮 紅 と 厚 い 角 化 を 伴 う 皮 膚 病 変 を 全 身 に 認 める. 病 理 所 見 角 層 や 有 棘 層 の 肥 厚 のほか, 顆 粒 層 から 有 棘 層 にかけて,ケ ラチン 線 維 の 凝 集, 大 型 のケラトヒアリン 顆 粒 をもつ 空 胞 化 細 胞 が 特 徴 的 にみられる 顆 粒 変 性 (granular degeneration), 図.7. 鑑 別 診 断 治 療 とくに 新 生 児 期 には 水 疱 形 成 が 著 明 であり, 表 皮 水 疱 症 や 色 素 失 調 症, 伝 染 性 膿 痂 疹 との 鑑 別 が 必 要. 病 理 所 見 により 鑑 別 する.レチノイド 内 服 や 各 種 外 用 療 法 を 行 う.
A. 遺 伝 性 角 化 症 257 図.62 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 (epidermolytic ichthyosis) 全 身 性 皮 膚 の 潮 紅. 手 掌, 足 蹠 に 汚 穢 な 色 調 の 強 い 角 化 を 伴 う. 7. 表 在 性 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 superficial epidermolytic ichthyosis 同 義 語 :S シーメンス iemens 型 水 疱 性 魚 鱗 癬 (ichthyosis bullosa of Siemens) 顆 粒 層 で 発 現 するケラチン 2 遺 伝 子 の 変 異 により 生 じる 常 染 色 体 優 性 遺 伝 疾 患. 病 理 組 織 学 的 に, 有 棘 層 上 層 と 顆 粒 層 に 限 局 した 顆 粒 変 性 を 認 める. 臨 床 的 に 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 と 類 似 の 皮 膚 症 状 を 呈 するが, 軽 症 である( 図.8). 図.7 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 の 病 理 組 織 像 表 皮 の 顆 粒 変 性 を 認 める. 8.ロリクリン 角 皮 症 loricrin keratoderma 常 染 色 体 優 性 遺 伝. 角 質 細 胞 の 周 辺 帯 を 形 成 するロリクリン
258 章 角 化 症 (LOR) 遺 伝 子 変 異 による 角 化 症 をさす. 指 端 断 節 性 掌 蹠 角 化 症 (p.263)と 進 行 性 紅 斑 角 皮 症 (p.264)の 一 部 を 含 む 疾 患 概 念 で ある. 9. 魚 鱗 癬 症 候 群 ichthyosis syndrome 図.8 表 在 性 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 (superficial epidermolytic ichthyosis) 潮 紅 と 過 角 化 を 伴 い, 臨 床 的 には 軽 症 の 表 皮 融 解 性 魚 鱗 癬 を 呈 する. 魚 鱗 癬 の 皮 膚 症 状 に 加 えて, 一 定 の 他 臓 器 の 先 天 異 常 を 伴 う まれな 遺 伝 性 疾 患 を 総 称 して 魚 鱗 癬 症 候 群 と 呼 ぶ. 皮 膚 症 状 は 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 に 類 似 したものが 多 い. 以 下 に 比 較 的 頻 度 の 高 いものをあげる( 表.3). 1Netherton ネザートン 症 候 群 常 染 色 体 劣 性 遺 伝.セリンプロテアーゼインヒビターをコー ドする 遺 伝 子 (SPINK5)の 変 異 により 生 じる. 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 様 の 皮 疹 ないしアトピー 性 皮 膚 炎 類 似 の 皮 疹 を 呈 する ( 図.9). 紅 斑 の 辺 縁 に 二 重 の 鱗 屑 をつける 特 徴 的 な 所 見 を 有 する 曲 折 線 状 魚 鱗 癬 (ichthyosis linearis circumflexa). 頭 髪 は 節 をもった 結 節 性 裂 毛 (bamboo hair)で, 短 く 折 れやすい. 成 長 障 害 や 精 神 遅 滞 を 伴 うことがある. 本 症 に 対 してタクロリ ムス 外 用 は 吸 収 されやすく, 血 中 濃 度 の 上 昇 をきたすため 注 意 が 必 要 である. 2S シェーグレン jögren-larsson ラルソン 症 候 群 常 染 色 体 劣 性 遺 伝. 先 天 性 魚 鱗 癬, 痙 性 四 肢 麻 痺, 精 神 遅 滞 を 3 主 徴 とする( 図.10).fatty aldehyde dehydrogenase(aldh3a2) 遺 伝 子 に 異 常 による. 皮 疹 は 頸 部, 下 腹 部, 四 肢 屈 側 でとくに 著 しい. 3KID 症 候 群 常 染 色 体 優 性 遺 伝.コネキシン 26 をコードするGJB2 遺 伝 子 の 変 異 による. 角 膜 炎 (keratitis), 魚 鱗 癬 (ich thyosis), 聴 覚 障 害 (deafness)を 特 徴 とする. 顔 面 や 四 肢 を 中 心 に 乳 頭 腫 a b c d e f g h i j k l m n o p a b c d e f g h i j k l m n o p 図.9 Netherton 症 候 群 (Netherton syndrome) a:アトピー 性 皮 膚 炎 様, 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 様 皮 疹 を 伴 う.b: 毛 は 節 をもっており(bamboo hair), その 部 分 で 折 れやすいため 短 毛 である. 図.10 Sjögren-Larsson 症 候 群 (Sjögren-Larsson syndrome) 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 様 の 皮 疹 を 伴 う.
A. 遺 伝 性 角 化 症 259 表.3 主 な 魚 鱗 癬 症 候 群 しょうせき 状 棘 状 の 角 化 性 病 変 を 生 じ, 脱 毛 や 掌 蹠 の 角 化 をきたす( 図.11) 4D orfman-c ドルフマン hanarin シャナリン 症 候 群 (neutral lipid storage disease with ichthyosis) 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 の 中 性 脂 肪 代 謝 異 常 症.ABHD5(CGI58) 遺 伝 子 の 変 異 が 原 因 である.トリアシルグリセロールがさまざ まな 細 胞 の 細 胞 質 内 に 蓄 積 し, 脂 肪 滴 を 形 成 する. 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 のほか, 肝 障 害, 聴 覚 障 害, 精 神 遅 滞, 白 内 障, 眼 振 など を 伴 うことがある.( 図.12). 5Refsum レフサム 症 候 群 常 染 色 体 劣 性 遺 伝. 食 物 中 に 含 まれるフィタン 酸 (phytanic acid)の 代 謝 に 関 与 する 遺 伝 子 変 異 (PHYT など)による,ペ ルオキシソーム 病 の 一 種. 青 年 期 に 尋 常 性 魚 鱗 癬 に 類 似 した 皮 疹 を 呈 する. 網 膜 色 素 変 性, 小 脳 性 運 動 失 調, 多 発 性 神 経 炎, 難 聴 など.ペルオキシソーム 病 パネル 検 査 で 血 中 フィタン 酸 の 図.11 KID 症 候 群 (KID syndrome) 脱 毛 と 角 化 性 丘 疹 を 認 める. a b c ad b e c af d b g e h c a f d i b ge j c h kf d ig l e mj h f kn i g lo j h mp k i nl j om 図.12 Dorfman-Chanarin 症 候 群 (Dorfman-Chanarin syndrome) 臨 床 的 に 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 に 相 当 する 皮 膚 症 状 を 呈 する.
260 章 角 化 症 上 昇 をみる. 6C コンラディ onradi-hünermann-h ヒューネルマン apple ハップル 症 候 群 皮 膚 萎 縮 を 伴 う 先 天 性 魚 鱗 癬 様 紅 皮 症 の 症 状 に 加 え, 低 身 長, 軟 骨 形 成 異 常, 白 内 障 などを 認 める. 点 状 軟 骨 異 形 成 症 (chondrodysplasia punctata)の 一 種 である. 本 症 は X 連 鎖 優 性 遺 伝 形 式 をとり,EBP 遺 伝 子 の 異 常 により 生 じる. 原 則 とし て 羅 患 女 児 は 出 生 するが, 男 児 は 胎 内 死 亡 する. s 変 動 性 紅 斑 角 皮 症 p.264 参 照. a b c d e f g h i j k l m n o p 10. 後 天 性 魚 鱗 癬 acquired ichthyosis 悪 性 腫 瘍 ( 悪 性 リンパ 腫 など),サルコイドーシス, 薬 剤 な どに 続 発. 尋 常 性 魚 鱗 癬 に 類 似 した 臨 床 像 をとるが, 関 節 伸 側 のみでな く 屈 側 も 侵 す. 症 状 病 理 所 見 尋 常 性 魚 鱗 癬 に 類 似 した 皮 疹 が 生 じる. 関 節 伸 側 のみでなく 屈 側 も 侵 す( 図.13). 病 理 組 織 学 的 にも 尋 常 性 魚 鱗 癬 に 類 a b c d e f g h i j k l m n o p 図.13 後 天 性 魚 鱗 癬 (acquired ichthyosis) a:hodgkin 病 に 伴 う.b: 菌 状 息 肉 症 に 伴 う. 似 する. 病 因 悪 性 腫 瘍 悪 性 リンパ 腫 (とくに H ホジキン odgkin 病 ), 白 血 病, 内 臓 悪 性 腫 瘍,K カポジ aposi 肉 腫 など, 全 身 性 疾 患 (サルコイドーシス, 甲 状 腺 機 能 低 下 症,ハンセン 病, 結 核,SLE,AIDS など), 薬 剤 (ニコチン 酸 など)を 背 景 として 生 じうる. 診 断 皮 膚 症 状 や 病 理 所 見 のみでは 他 の 先 天 性 魚 鱗 癬 との 鑑 別 は 不 可 能. 臨 床 経 過 と 基 礎 疾 患 の 検 索 が 診 断 に 重 要 となる. し ょ う せ き b. 掌 蹠 角 化 症 palmoplantar keratoderma;ppk 図.141 掌 蹠 角 化 症 (palmoplantar keratoderma) 定 義 分 類 遺 伝 性 に 手 掌 や 足 底 に 高 度 な 過 角 化 をきたす 疾 患 の 総 称. 臨 床 型 や 遺 伝 形 式 によりいくつかの 病 型 に 分 類 されている( 図.14, 表.4)が, 遺 伝 子 変 異 は 一 部 の 病 型 でしか 同 定 され