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エミリ ブロンテ 詩 的 想 像 の 世 界 (2) 川 股 陽 太 郎 詩 的 想 像 の 世 界 (1) では 年 代 と 傾 向 に 言 及 し エミリの 創 作 活 動 を 初 期 中 期 後 期 の 三 期 に 分 けてみた 初 期 の 詩 を 習 作 期 としたが 初 期 の 作 品 が 必 ずしも 一 定 の 水 準 にあるわけで はなく その 中 には 中 期 後 期 の 優 れた 作 品 の 萌 芽 となるもの 例 えば No.2 のような 詩 があることはすでに 指 摘 したとおりである また 18 歳 頃 から 20 歳 (No.1-No.79)までを 初 期 習 作 の 時 代 20 歳 から 22 歳 (No.80-No.142)までを 中 期 創 作 ) 22 歳 から 晩 年 (No.143-No.193)までを 後 期 とした 初 期 の 作 品 には 明 らかに 書 きかけの 詩 数 行 しかない 詩 も 少 なからず 見 受 けられる 例 えば No.3, 6, 8, 13, 17, 18, 20, 21, 22, 23, 24, 26, 28, 30, 31, 38, 44, 45, 46, 47, 48, 49, 50, 51, 54, 58, 65, 66, 67, 68, 69, 70, 71, 72, 73,74, 77, 79 等 がそうである 詩 的 想 像 の 世 界 (2)では 初 期 の 詩 として No.1 から No.79 までのうち No.55 までを 見 てみよう No.1 冷 たく 澄 み 渡 り 青 く 曉 の 天 は アーチ 高 みに 蒼 穹 を 広 げる 冷 たく 澄 み 渡 り 青 く ワ-ナ 湖 の 水 は -39-

川 股 陽 太 郎 その 冬 空 を 映 す ヴィーナス 月 は 沈 んでしまった だが 曉 の 星 は 輝 く 静 かな 白 銀 の 星 この 詩 には 詩 人 としてのエミリの 産 声 が 聞 こえる イングランド 北 部 ペ ナイン 山 脈 の 山 頂 に 近 いハワ-スで 大 自 然 の 声 に 耳 を 傾 けているエミリの 姿 が 良 く 出 ている 空 は 冷 たく 澄 み 渡 り あくまで 広 く 湖 は 冬 空 を 映 し 出 し 空 には 宵 の 明 星 が 見 えている 曙 光 の 空 は 弓 なりに 弧 を 描 き 大 気 は 冷 気 となって 流 れる ヴィーナス 月 は 沈 んでしまったが 曉 の 星 は 静 かに 白 銀 の 星 となっている この 一 連 六 行 詩 に 冬 空 とそれを 映 し 出 す 湖 冷 気 と 大 気 の 流 れが 視 覚 的 に 感 覚 的 にさり 気 なくしかし 的 確 に 描 き 出 されている エミリは 自 然 を ある がまま を 見 つめ 実 相 を あるがまま に 描 き 出 す 彼 女 はその 研 ぎ 澄 まさ れた 感 性 で 自 然 界 を 見 つめ それが 晩 年 に 向 かうにしたがい 確 固 たる 確 信 へと 繋 がっていく No.2 今 日 は 晴 れるでしょうか 曇 るでしょうか あさひ 心 地 よく 曙 光 が 射 し 始 めました だが 天 は 雷 雨 に 震 えるかも 知 れません 太 陽 が 沈 む 前 に アポロ お 妃 さま 太 陽 の 旅 路 を 見 守 りなさい あなたの 最 初 のお 子 の 歩 む 道 はこうなるでしょう もや もし 太 陽 の 光 が 夏 の 靄 を 通 り 抜 け いとも 穏 やかに 大 地 を 暖 めるなら たえ 姫 君 の 日 々は 妙 なる 静 穏 につつまれ 楽 しい 夢 のように 過 ぎてゆくでしょう 40-

エミリ ブロンテ ひ かげ もし 陽 が 翳 り もし 影 が 光 を 消 し 雨 を 呼 び 寄 せるなら 花 はひらき 蕾 はほころぶかも 知 れません だが 蕾 も 花 も ひとしく 空 しい 姫 君 の 日 々は 悲 しい 物 語 に 似 て 憂 いと 涙 と 苦 しみの 内 に 過 ぎてゆくでしょう さわ のどか もし 風 が 爽 やかに 長 閑 に 吹 き 大 空 が 晴 れ 渡 り 雲 ひとつなく 青 く こ が ね 森 と 野 と 黄 金 色 の 花 々が 日 の 光 を 浴 び 露 に 濡 れて 輝 くなら 姫 君 の 日 々は 世 の 荒 涼 とした 荒 野 を 栄 光 の 光 につつまれ 過 ぎてゆくでしょう この 詩 は 最 初 の ゴンダル の 詩 である 姫 君 オ-ガスタ ジェラルディ -ン アルメダの 未 来 と 運 命 がすでに 予 言 されており エイ A.G ジー.A エイ の 死 (No.143) には ゴンダルの 女 王 オ-ガスタの 臨 終 の 姿 が 描 かれている No.2 の 詩 は 少 なくとも No.143 の 詩 が 書 かれる 7 年 10 ヶ 月 前 に 書 かれていたことになる 初 期 の 詩 ではあるが 均 整 のとれた 美 しい 響 きをともなう 詩 であり その 想 像 力 が 中 期 および 後 期 の 作 品 にも 繋 がっていく No.3 話 してください 話 して 下 さい ほほ 笑 んでいる 子 よ あなたにとって 過 去 とは どのようなものであるのか 静 かな 穏 やかな 秋 の 夕 べ 風 が 悲 しげにため 息 をもらす 話 してください 現 在 とは どのようなものであるのか 花 咲 き 乱 れる 緑 の 小 枝 雛 鳥 は 小 枝 に 止 まり 精 いっぱい 力 をこめて -41-

川 股 陽 太 郎 舞 い 上 がり 飛 び 立 とうとしている では 未 来 とは どのようなものであるのか 幸 せな 子 よ 雲 ひとつなく 太 陽 の 下 に 輝 く 海 原 果 てしなく 輝 かしい 眩 い 海 原 は 無 限 に 伸 び 広 がる これはエミリが 書 いた 最 初 の 三 連 四 行 詩 である 彼 女 は 度 々 四 行 詩 で その 才 能 を 遺 憾 なく 発 揮 する ここでいう ほほ 笑 んでいる 子 幸 せな 子 とは 悠 久 の 時 の 流 れを 指 すの であろう エミリは 過 去 現 在 未 来 の 持 つ 意 味 にその 思 考 をめぐらす 過 去 とはすべて 過 ぎ 去 ったものであり 牧 師 館 の 自 室 の 窓 から 見 える 寂 しい と き 光 景 を 毎 日 眺 めながら 流 れ 去 る 時 間 を 静 かな 穏 やかな 秋 の 夕 べ 風 が 悲 しげにため 息 をもらす いう 言 葉 で 表 している 現 在 とはエミリにとって 生 命 の 始 まりである 春 と 夏 は 生 きとし 生 ける ものすべての 生 命 が 躍 動 する 時 である 花 は 咲 き 乱 れ 小 枝 は 新 緑 を 纏 い 秋 と 冬 は 生 命 が 消 えゆく 季 節 であるが 同 時 に 再 生 ための 目 には 見 えない 躍 動 の 時 であり 決 して 否 定 的 なものではない 未 来 をエミリは 雲 ひとつなく 太 陽 の 下 に 輝 く 海 原 果 てしなく 輝 かしい 眩 い 海 原 は 無 限 に 伸 び 広 がる という 言 葉 で 表 現 している エミリの 時 間 と 空 間 に 対 する 概 念 は 過 去 と 現 在 と 未 来 を 一 連 のもの として 捉 え その 輪 廻 転 生 感 からすると 過 去 現 在 未 来 は 一 連 の 流 れに と き あり いわゆる 現 在 は 存 在 せず 現 在 は 時 間 の 一 連 の 流 れの 中 の 点 にす ぎないということを 直 感 的 に 感 じていたのであろう 十 九 世 紀 ヨ-ロッパにおける 自 然 科 学 の 発 達 が エミリの 思 考 に 何 らかの 影 響 を 与 えたことも 考 えられるが ペナインの 大 自 然 に 抱 かれた 環 境 と 悠 然 と 過 ぎてゆく 時 間 や 果 てし 無 く 広 がる 空 間 に 身 を 置 き また 本 来 合 わせ 持 つその 繊 細 な 感 性 と 本 質 を 見 抜 く 鋭 い 直 感 で エミリは 晩 年 に 至 るまで 生 命 自 然 42-

エミリ ブロンテ 宇 宙 の 意 味 を 考 え 詩 作 のなかで 思 考 し 続 ける No.4 心 奮 い 立 たせる 調 べの 血 わき 肉 おどる 響 き 祝 日 の 賑 わい 辺 りに 沸 き 立 つ 煌 めく 輝 きは この 世 のあらゆる 歓 びと 同 じように 消 え 去 ってしまった あの 美 しいお 妃 に 見 捨 てられ あのひと 彼 女 は 並 み 居 る 人 々のなかを 顧 みることもなく 音 もなく 通 り 抜 けてゆく 抑 えてもなお 震 え 落 ちる 涙 を かお 隠 そうとして 額 を 手 で 覆 い 隠 しながら あのひと ホール 彼 女 は 外 側 の 広 間 を 急 ぎ 通 り 階 段 を 登 り 薄 暗 い 回 廊 を 通 り 抜 ける そよかぜ 回 廊 は 微 風 の 呼 びかけに 応 えて 夜 風 の 寂 しい 夕 べの 祈 りの 賛 美 歌 を 囁 く これはエミリが 書 き 綴 った ゴンダル 詩 の 一 詩 篇 であろう あの 美 しいお あのひと 妃 とはオ-ガスタであり 彼 女 とは 身 近 な 縁 者 か 側 近 であろう 無 視 された 女 性 にとって 楽 しい 調 べと 賑 わいは 一 瞬 にして 消 え 去 り その 女 性 は 涙 を 浮 か ホール べ 大 勢 の 人 々のあいだを 逃 げるようにして 通 り 抜 けていく 広 間 を 通 り 薄 暗 い そよかぜ 回 廊 を 通 り 抜 けると 微 風 がふいており 夜 風 が 夕 べの 祈 りの 賛 美 歌 となって 聞 こえてくる ここにはさり 気 なく オ-ガスタの 非 情 さと 非 情 を 受 ける 者 の 抱 く 悲 しみを そよかぜ 描 きながら それを 慰 める 自 然 の 優 しさが 見 事 な 対 をなしている -43-

川 股 陽 太 郎 No.5 1836 年 12 月 13 日 高 く 波 うつヒ-ス 荒 れ 狂 う 突 風 に 伏 し 真 夜 中 月 明 かり 煌 めく 星 々 暗 闇 と 栄 光 は 喜 々と 交 わり 大 地 は 天 に 昇 り 天 は 下 り 人 間 の 魂 は 陰 鬱 な 牢 獄 から 解 き 放 たれ 足 かせを 砕 き かんぬき 閂 を 破 る 山 腹 一 面 を 覆 う 荒 涼 とした 森 は 生 気 を 与 える 風 に 一 つの 力 強 い 声 を 添 える 川 は 歓 喜 し 土 手 を 引 き 裂 き 谷 間 を 激 流 となって 駆 け 下 り さらに 広 く さらに 深 く 水 は 広 がり 背 後 に 荒 涼 とした 荒 れ 地 を 残 す 輝 きまた 翳 り 水 かさを 増 しまた 干 あがり 真 夜 中 から 真 昼 へ 永 遠 に 変 化 する 雷 鳴 のように 轟 き 優 しい 調 べのように 囁 き 影 は 影 を 重 ね 進 み 躍 り 稲 妻 のように 煌 めく 閃 光 は 速 やかに 来 て 速 やかに 消 える ハワ-ス 牧 師 館 の 裏 手 の 小 道 を 登 ると ヒ-スがペナイン 山 脈 を 覆 う 光 景 が 広 がる それはエミリの 見 なれた 光 景 であり エミリの 美 意 識 の 原 点 である 牧 師 館 の 窓 から 見 上 げる 夜 空 は 彼 女 の 魂 を 解 き 放 ち その 想 像 力 は 地 上 と 天 空 を 自 在 に 行 き 来 する この 詩 は 彼 女 の 形 而 上 学 的 傾 向 を 良 く 表 している 初 期 の 詩 である 44-

エミリ ブロンテ ヒ-スは 波 うち 突 風 に 伏 し 夜 空 に 満 天 の 星 が 輝 き 闇 と 光 が 交 わり 地 は 天 に 昇 り 天 は 地 に 下 り 魂 が 解 き 放 たれる 森 は 風 に 生 気 を 与 え 川 は 谷 間 を 激 流 となって 下 り 輝 きまた 輝 きを 失 い 夜 は 昼 に 昼 は 夜 に 永 遠 に 変 化 する 彼 女 は 光 と 闇 静 と 動 を 対 比 させながら 思 索 を 続 ける 光 と 闇 が 交 差 し 天 と 地 が 交 わる 彼 女 を 取 りまく 大 自 然 が 彼 女 に 創 造 と 変 化 の 意 味 を 問 いかけ る 彼 女 は 私 的 な 詩 において 時 間 と 空 間 人 間 と 存 在 の 意 味 を 問 い 続 ける No.6 森 よ あなたは わたしに 顔 を 顰 めることはない 幽 霊 のような 木 々よ そんなに 悲 しげに 侘 びしい 空 に 梢 を 揺 さぶり そんなに 苦 々しく あざ 笑 うことはない これは 初 期 の 未 完 の 詩 の 一 つである 森 は 顔 を 顰 め 木 々は 幽 霊 のように 悲 しげで 梢 は 侘 びしい 空 にその 梢 を 揺 さぶり 苦 々しげにあざ 笑 っている エ ミリは 森 と 木 々と 梢 を 描 きつつ その 折 の 彼 女 自 身 の 心 情 をこの 描 写 のなか に 託 している No.7 赤 い 胸 の 駒 鳥 よ 湿 っぽく 寒 く 灰 色 に 曇 った 朝 も 早 く あなたの 調 べは 狂 おしく 優 しく 痛 ましい 想 いを 追 い 払 う わたしの 心 は いまや 驚 喜 することなく わたしの 眼 は 涙 に 溢 れ 絶 え 間 ない 悲 しみが わたしの 額 に 歳 月 の 印 を 刻 み 込 んでいる -45-

川 股 陽 太 郎 魂 の 静 けさを 嵐 のなかで ただ 打 ち 砕 いたのは 希 望 ではなく 長 い 孤 独 な 人 生 希 望 は 抑 えられ 沸 き 上 がる 想 いは 鎮 められ もの 淋 しい 十 一 月 の 静 けさ おさなご 何 がそのとき 目 覚 めさせたのか 幼 児 は コテッジ 父 親 の 苫 屋 の 戸 口 から さまよいでて 荒 涼 とした 月 明 かりの 時 刻 に 人 気 もない 荒 野 に ひとり 身 を 横 たえた そのとき わたしは 聞 いた あなたも 聞 いた そして 天 使 のように 美 しい 声 で 駒 鳥 は あなたに 歌 いかけた だが わたしには 悲 痛 の 叫 びのように その 荒 々しい 調 べが 嘆 き 悲 しみに 聞 こえた 1837 年 2 月 これは 初 期 ゴンダル 詩 の 一 つである 湿 っぽい 寒 い 曇 った 朝 駒 鳥 が 鳴 おさなご コテッジ き 月 の 上 がる 時 刻 に 幼 児 は 苫 屋 からさまよい 出 て 荒 涼 とした 人 気 のない 荒 野 に 身 を 横 たえたる エミリは 赤 い 胸 の 駒 鳥 の 調 べの 中 に 彼 女 の 心 情 をさり 気 なく 託 している その 調 べは 優 しく 狂 おしく 悲 しく 痛 ましい 想 いを 追 い 払 いはするが それ はまた 長 い 歳 月 絶 え 間 なく 続 いてきた 彼 女 の 悲 しみでもある 四 行 連 詩 を 用 い 彼 女 は 中 期 後 期 詩 で 後 日 徐 々にその 本 領 を 発 揮 するが これはその 初 期 の 詩 の 一 つといえる 自 然 の 明 暗 と 静 寂 を 対 比 させながら 人 間 の 孤 独 と 苦 悩 を 表 現 していく 初 期 作 品 の 一 つである No.8 昨 夜 は 一 晩 じゅう ホ-ル 広 間 と 回 廊 は 明 かりに 輝 いていた 46-

エミリ ブロンテ ランプ 灯 火 はことごとく その 輝 きを 崇 拝 する 者 と 崇 拝 される 者 に 降 り 注 いだ そこに 入 る 者 で 悲 しむ 者 は 一 人 としていなかった すべての 者 が 愛 され すべての 者 が 美 しかった 夏 の 真 昼 に 輝 く 太 陽 のように 眩 しく 輝 いている 者 もいた 美 しい 琥 珀 のように 麗 しく 天 の 深 みで 生 きている 者 もいた 穏 やかで 優 しく 陽 気 な 者 もおり 朝 日 の 顔 も これほど 神 々しくはなかった 月 の 女 神 ダイアナの 日 のような 真 夜 中 の 月 明 かりの 神 聖 な 聖 堂 のような 者 もいた この 詩 は ゴンダル 詩 の 一 つである そこは 一 晩 じゅう 明 かりに 輝 き す べての 者 が 美 しく 輝 いており そこには 暗 さは 微 塵 もない しかしエミリの 詩 の 特 徴 は この 輝 きと 歓 びこそその 後 にやってくる 暗 闇 と 苦 悩 の 序 曲 となって いる ゴンダル 詩 は No.2 の 詩 に 始 まり No.143 の 詩 で 終 わる オ-ガスタ ジェ ラルディ-ン アルメダの 未 来 を 予 言 するかたちで 始 まり オ-ガスタの 死 で 終 わる 現 存 する 193 編 の 詩 が 二 つに 分 けられることはすでに 指 摘 した 通 りである 一 つは 私 的 な 詩 であり 詩 人 自 身 の 内 面 と 信 念 を 綴 ったものである もう 一 つがいわゆる ゴンダルの 詩 であり そのテ-マ 主 題 は 明 白 である ゴンダ ルの 登 場 人 物 達 は この 上 ない 喜 びを 求 め 苦 しみもがく 人 間 の 姿 であり そ れは 生 と 死 愛 と 憎 悪 至 福 と 苦 悩 の 狭 間 でもがく 人 間 の 姿 でもある -47-

川 股 陽 太 郎 No.9 A.G.A 1837 年 3 月 6 日 月 は 輝 いて 居 ます 真 夜 中 栄 光 の 幻 よ 光 輝 の 夢 よ 天 のように 神 聖 で 翳 ることなく 清 らかで 淋 しい 荒 野 を 見 おろしています 月 明 かりのもと なおいっそう 淋 しく あの 侘 しい 荒 野 は はるか 彼 方 へと 伸 び 広 がり 白 銀 の 空 域 のむこうに 何 かがあり 得 るということが 不 思 議 に 思 われます 輝 かしい 月 よ 愛 しい 月 よ 歳 月 が 流 れ 疲 れ 果 てた 足 で わたしは ついに 戻 ってきました いまなお エルノア 湖 の 胸 に あなたの 荘 厳 な 光 が 静 かに 憩 うています いまなお 羊 歯 の 葉 は ため 息 をもらしながら 会 葬 者 のように エルベの 墓 の 上 に 揺 れています 大 地 も 同 じ でも ああ 思 うに なんと 無 情 に 時 は わたしを 変 えてしまったことでしょう いまのわたしは 久 しい 昔 あの 水 辺 に 腰 をおろし あの 人 の 美 しい 頬 と 誇 り 高 い 額 から いのち 生 命 の 光 が ゆっくりと 消 えてゆくのを 見 守 っていたのと 同 じ 人 間 なのでしょうか いまでは この 山 々があの 日 の 輝 きを 感 じることはめったにありません あの 輝 きは 薄 れゆきながら 神 々しい 黄 金 の 泉 から ヒ-スの 野 辺 に 最 後 の 微 笑 を 投 げかけ そして 輝 く 地 平 線 の 上 に 煌 めく 48-

エミリ ブロンテ くちずけ 彼 方 の 雪 の 頂 きに 接 吻 をしました それはまるで 夏 のこの 上 なく 暖 かい 夕 日 の 中 で 厳 しい 冬 が 一 段 と 高 い 玉 座 を 求 めているかのようでした そして あの 人 は あの 人 の 赤 い 血 潮 が いっそう 深 い 色 に 染 めあげる 花 々の 中 に 横 たわり 迫 り 来 る 死 に 神 が 自 分 のまわりに 投 げかける ぼんやりした 薄 暗 さを 感 じて 身 震 いし いっとき 一 刻 もすれば 愛 しい 愛 しい 世 界 から 自 分 は と わ 永 久 に 引 き 離 されるだろうと 思 い しだいに 濃 くなってゆく 夕 闇 は 自 分 には 決 して 立 ち 去 りはしないと 考 え 悲 しい 想 いに 駆 られていました いえ もう 決 してありません あの 恐 ろしい 想 いは 数 知 れぬ もの 悲 しい 感 情 をもたらし 想 い 出 は そのすべての 力 を 集 結 させ 意 識 の 薄 れかけた あの 人 の 心 に にわかに 押 し 寄 せ 増 した 広 々と 広 がる 森 林 は 穏 やかな 明 るい 南 の 空 の 下 で 聳 えているように 思 われました 古 いエルベの 館 あの 人 の 壮 麗 な 生 家 は 木 々に 囲 まれ 高 々と 立 ち 緑 の 木 の 葉 は この 上 なく 麗 らかなとき 夏 の 天 から 吹 いてくる 優 しい 風 に サラサラと 音 を 立 て そして 葉 陰 を とつぜん 突 き 抜 け ひとすじ 一 筋 の 黄 金 の 日 差 しが 戯 れました 壁 に 琥 珀 色 の 光 を 浴 びせながら また 下 手 に 広 がり 雲 ひとつない 大 空 の 広 大 な 世 界 をすべて 明 るく 映 している きら 澄 みきった 湖 水 に 洸 めきながら あのひと そして なおも 彼 の 心 の 目 の 前 に -49-

川 股 陽 太 郎 そのような 馴 れ 親 しんだ 光 景 が 現 れては 消 え ついには 絶 望 と 苦 痛 に 驚 喜 し あのひと いまわ きわ 彼 は 今 際 の 際 の 顔 を わたしに 向 け 荒 々しく 叫 びました ああ もう 一 度 生 まれ 故 郷 を 見 ることが 出 来 たら もう 一 度 だけ 一 日 だけでいい 叶 わぬのか あろう 筈 もないというのか 死 ぬとは このように 遠 く 離 れたところで 死 ぬとは 人 生 はわたしに ほとんどほほ 笑 みかけたことも 無 いというのに オ-ガスタよ あなたは やがてあの 国 へ 穏 やかに 華 やかに 戻 って 行 くだろう そのとき わたしの 忘 れられた 墓 の 上 で 悲 しむのは ヒ-スしか 無 いだろう というのは あなたは エルノアの 波 打 つ 湖 畔 の 淋 しい 墓 と 朽 ちゆく 亡 骸 を 忘 れてしまうだろうから これは 八 行 連 詩 を 枕 にし オ-ガスタがエルベへの 想 いを 綴 ったものである エミリは 夜 空 に 月 明 かりの 中 で 彼 女 の 想 像 力 を 増 幅 させていく 牧 師 館 の 自 室 の 窓 から 夜 空 を 見 上 げながら 淋 しい 荒 野 がどこまでも 伸 びている 光 景 を 想 い 宇 宙 の 広 がりに 想 いを 馳 せる 歳 月 が 流 れ 疲 れ 果 てたオ-ガスタはエルノア 湖 の 湖 畔 にたたずみ いまは 亡 き 愛 しいエルベに 語 るともなく 語 りかける 久 しい 昔 水 辺 に 腰 をおろし 愛 しい 人 の 命 がゆっくり 消 えていくのを 見 守 っていた 自 分 と すっかり 変 わっ てしまった 現 在 の 自 分 を 還 り 見 て エルベの 死 に 際 を 回 想 する ここには 自 然 描 写 が 巧 みに 取 り 込 まれている 死 に 際 してのエルベの 高 貴 さ を 語 るに 際 し 古 いエルベの 館 木 々 緑 の 木 の 葉 優 しい 風 雲 ひとつない 大 空 広 大 な 世 界 澄 みきった 湖 水 といった 言 葉 が 巧 みに 織 り 込 まれている 羊 歯 の 葉 はため 息 をもらし ヒ-スの 野 辺 はどこまでも 広 がる エルベは 薄 50-

エミリ ブロンテ れゆく 意 識 のなかで ヒ-スの 荒 野 に はるか 彼 方 の 雪 の 頂 きに 視 線 を 投 げか けながら 花 々の 中 に 横 たわり 迫 り 来 る 死 がやがてこの 愛 しい 世 界 から 彼 を 引 き 離 すであろうと 感 じている 絶 望 と 苦 痛 に 驚 喜 し という 表 現 は 絶 望 と 苦 痛 からの 解 放 を 意 味 する のであろう エミリにとって ヒ-スの 荒 野 朽 ちゆく 亡 骸 芝 土 の 下 墓 石 の 上 は 日 常 的 な 見 馴 れた 光 景 であると 同 時 に 絶 えず 形 而 上 学 的 命 題 でもあ った No.10 一 日 じゅう わたしは だが 苦 痛 もなく 学 問 の 金 鉱 で こつこつと 仕 事 をした そして いまふたたび 夕 暮 れどき 月 の 光 が 優 しく 輝 いている 大 地 に 雪 はなく 風 にも 波 にも 霜 の 降 りるほどの 寒 さはない 南 の 風 が この 上 なく 優 しく 吹 いてきて 氷 の 墓 を 溶 かしてしまった さまよ 夜 あたりを 徊 い 歩 き 冬 が 逝 くのを 見 るのは 心 地 よい 夏 の 日 差 しのように 明 るい 夏 の 空 のように 暖 かな 心 を 抱 いて ああ いまわたしの 心 を 鎮 める この 安 らぎを 決 して 失 うことが ありませんように たとえ 時 が わたしの 若 々しい 顔 を 変 え 歳 月 が わたしの 額 に 陰 を 落 とそうとも -51-

川 股 陽 太 郎 みずからに 誠 実 で またすべての 人 に 誠 実 で つねに わたしが 健 やかでありますように そして 激 情 の 誘 いから 身 を 遠 ざけ みずからの 激 しい 意 志 を 抑 えられますように これはエミリの 私 的 な 詩 である 日 常 の 仕 事 を 終 えた 夕 暮 れどき 詩 作 を 始 めようとする 彼 女 の 姿 を 彷 彿 とさせる また ペナインの 山 々は 雪 を 頂 い ているであろうが ハワ-スの 牧 師 館 とその 前 にある 墓 地 の 雪 は 解 け まだ 肌 寒 いとはいえ 春 の 訪 れを 告 げる 春 風 を 感 じながら 日 も 落 ち 暗 くなりかけた 時 刻 に 散 策 するエミリの 姿 が 浮 かんでくる また 常 に 誠 実 であろう 常 に 穏 やか であろう 時 として 沸 き 起 こる 激 情 を 抑 えよう とする 彼 女 の 姿 勢 がよく 伝 わ ってくる 詩 である No.11 1837 年 5 月 17 日 わたしは 孤 独 な 人 間 その 運 命 を 訊 ねようとする 者 は ひとりもなく 見 て 悲 しんでくれる 者 もいない この 世 に 生 を 受 けて 以 来 わたしは 憂 いの 想 いを 抱 いたことはなく 歓 びの 笑 みを 浮 かべたことも いちどとして 無 かった ひそかな 楽 しみと ひそかな 涙 のうちに この 移 ろいやすい 人 生 は 瞬 くまに 時 を 進 め 十 八 年 をへて 友 はなく この 世 に 生 まれ 落 ちてきたときと 同 じ ひとりぼっちである 自 分 を 隠 しておけないこともあった それが 侘 びしかったこともあった わたしの 悲 しい 魂 が その 誇 りを 忘 れ この 世 で わたしを 愛 してくれる 人 を 憧 れ 求 めたこともあった 52-

エミリ ブロンテ と き だが それは 幼 い 感 情 の 高 揚 が みられた 時 期 のこと その 後 世 の 憂 いに 押 し 潰 され 消 え 去 って 久 しく いまではそういうとき 時 期 があったとは とても 信 じられない まず 青 春 の 希 望 が 潰 え 去 り つぎに 空 想 の 虹 が 速 やかに 色 を 失 い そして 経 験 が わたしに 教 えてくれた こころ 真 理 は 人 の 胸 のなかには 決 して 育 たないと 人 はみな 虚 ろで 卑 屈 で 不 誠 実 であると 考 えるのは とても 悲 しいことであった だが わたし 自 身 の 心 を 信 頼 しながら そこに 同 じ 堕 落 を 見 出 すのは もっと 悲 しいことであった No.10 と No.11 の 四 行 五 連 詩 は 共 にエミリの 私 的 な 詩 であり エミリ 十 八 歳 のおりに 書 いた 初 期 の 典 型 的 な 習 作 といえる この 二 つの 詩 に 共 通 するの は 常 に 常 に 平 静 であろう 常 に 平 静 であろう と 努 めるエミリの 姿 勢 であ り と 同 時 に ある 種 の 確 信 に 到 達 しようとするエミリの 姿 が 窺 える この 詩 には 物 心 ついていらい 彼 女 につきまとってきた 侘 びしさ 寂 しさ 孤 独 が 見 え 隠 れしている また 人 並 みに 憧 れを 抱 き 感 情 の 高 ぶりを 感 じた 時 期 もあった 心 の 発 露 が 見 られる そういったものと 葛 藤 し 心 の 内 に 閉 じ 込 め ようと 努 めるが やがて 青 春 期 に 抱 いた 希 望 が 消 え 去 り 瞬 く 間 に 色 を 失 い こころ 真 理 は 人 の 胸 のなかには 決 して 育 たないと とする 確 信 にも 似 たものに 到 達 している 彼 女 は No.11 で 真 理 という 言 葉 を 始 めて 用 い 自 分 自 身 を 信 頼 し 自 分 自 身 に 誠 実 であろうとする 決 意 を 表 明 している No.10 の 四 行 五 連 詩 及 び No.11 の 四 行 六 連 詩 は 一 見 平 凡 な 詩 ではあるが 後 日 の No.146 老 克 己 主 義 -53-

川 股 陽 太 郎 者 及 び No.174 想 像 力 によせて に 繋 がる 重 要 な 詩 といえる No.12 1837 年 6 月 10 日 嵐 の 夜 は 過 ぎ 去 った 明 るく 澄 みきった 陽 光 は 緑 の 荒 れ 地 に 輝 きを 与 え そよぐ 大 気 を 暖 める そこで わたしは 寝 床 を 離 れ 励 ましとなる 陽 光 の 微 笑 みを 見 て わたしを 悩 ませてきた 幻 を 頭 から 追 い 払 おうとした 幾 時 間 もずっと 薄 暗 がりのなかに わたしの 魂 は 包 み 込 まれていた 王 の 亡 骸 が 葬 られている 大 理 石 の 墓 のそばに わたしが 立 っている 夢 を 見 た まさに 夕 暮 れ 時 死 者 の 亡 霊 たちが 閉 じ 込 められ 朽 ち 果 てた 塵 の 上 に 現 れ その 悲 惨 な 運 命 を 嘆 き 悲 しむのであった 確 かに わたしの 傍 らに うつろぎ たいそう 朧 気 な 影 のような 者 を 見 た しかもなお そこにある 霊 気 は 身 の 毛 立 つ 恐 怖 と おどろき 総 毛 立 つ 驚 愕 で わたしの 血 を 凍 らせた 54-

エミリ ブロンテ わたしは 息 もつけなかった 大 気 は 肌 を 刺 すようであった だがそれでも わたしの 眼 は 狂 乱 の 眼 差 しで その 恐 ろしい 顔 に 釘 付 けになり その 者 の 眼 も わたしの 顔 を じっと 見 つめた くずお わたしは 墓 石 に 頽 れたが どうしても 眼 をそむけることが できなかった わたしが 祈 り 始 めると 言 葉 は 声 にもならぬ 呻 きになった それでもなお 霊 は 上 にかがみ 込 み 容 貌 がすっかり 見 えた それは すぐ 傍 にいるようであり それでいて 無 限 の 蒼 天 を 辿 る もっとも 遠 い 星 と 地 球 との 隔 たりより はるかに 遠 く 離 れているように 思 われた 実 際 それは 大 地 や 時 間 の 隔 たりではなく 死 の 永 遠 の 海 人 間 が これまで 決 して 行 ったことのない 決 して 決 して 越 えたことのない 深 淵 であった ああ もう 二 度 と 呼 び 戻 さないでほしい あの 時 の 恐 怖 を あの 唇 が 開 き その 声 が あたりを 支 配 する 静 寂 を 眠 りから 目 覚 めさせたとき -55-

川 股 陽 太 郎 夢 のように 微 かではあったが 大 地 は 身 を 縮 め ほし もと 天 の 光 は その 力 の 下 に 身 を 震 わせた No.12 は 四 行 五 連 五 行 二 連 四 行 一 連 六 行 一 連 五 行 一 連 六 行 一 連 計 十 連 からなる 詩 である 初 期 中 期 の 詩 にはまま 見 られる 詩 形 で 完 成 度 は 必 ずしも 高 いとはいえない しかしその 思 考 や 表 現 には 後 の 詩 の 萌 芽 となるもの が 見 受 けられ 興 味 深 いものがある エミリの 私 的 な 詩 には 時 として 夢 もしくは 幻 を 詠 んだものがあるが これもその 一 つであろう 眠 りから 覚 め 夢 の 中 で 見 た 死 者 の 亡 霊 に 驚 愕 し 身 の 毛 のよだつ 思 いを 書 き 綴 っている うつつ ただし エミリにとって 夢 は 必 ずしも 幻 ではなく 現 実 は 必 ずしも 現 ではな い 夢 は 幻 であると 同 時 に 現 でもあるという 相 反 する 要 素 がある 現 実 は 時 と して 否 現 実 であり 否 現 実 は 時 として 現 実 であるという 側 面 が 彼 女 にはある 朽 ち 果 てた 塵 の 上 に 現 れ その 悲 惨 な 運 命 を 嘆 き 悲 しむ 亡 霊 達 はエミリにと って 必 ずしも 単 なる 夢 の 中 の 幻 ではなく 現 実 に 存 在 する 亡 霊 達 でもある 彼 女 の 眼 は 恐 ろしい 顔 に 釘 付 けとなり 亡 霊 の 眼 は 彼 女 をじっと 見 つめている この 詩 は 生 と 死 の 認 識 論 の 詩 ともいえる 死 者 と 生 者 の 距 離 感 も 実 に 興 味 深 い エミリにとって 両 者 はすぐ 傍 にいるいるようでもあり 同 時 に 遠 くの 星 よ りも 離 れているようでもあると 述 べている 生 と 死 の 隔 たり この 世 とあの 世 の 隔 たりに 喩 えている 生 と 死 は 全 く 質 を 異 にしているようでありながら 実 は 隣 り 合 わせのものであるという 認 識 にしっかり 裏 打 ちされていると 言 えよう No.13 悲 しい 日 よ リジャイナの 誇 り リジャイナの 希 望 は 墓 のなか 誰 が わたしの 国 を 治 め また 誰 が 救 ってくれるのか 56-

エミリ ブロンテ 悲 しい 日 よ 血 の 涙 を 流 し 我 が 国 の 息 子 たちは 今 日 の 日 を 悔 悟 するであろう 悲 しい 日 よ 千 年 の 歳 月 も 人 間 の 行 為 を 贖 うことはできない 悲 しい 日 よ 風 に 混 じって あの 悲 しい 嘆 きが 鳴 り 響 いていた わたしの 心 は 張 り 裂 けんばかりであった あのように 侘 びしい 侘 びしい 歌 を 聞 いて No.14 幼 な 子 よ わたしは あなたがある 夏 の 日 に や とつぜん 楽 しい 遊 びを 止 めるのを 目 にし 緑 の 草 のなかに そっと 身 をよこたえ あなたの 悲 しげなため 息 に 耳 を 傾 けた わたしには その 泣 き 声 を 喚 び 起 こした 願 いが わかっていた わたしには その 涙 の 溢 れでる 源 が わかっていた このさき 訪 れる 歳 月 を 暗 く 覆 っている 帷 を 上 げてくれるよう あなたは 運 命 に 切 に 望 んだ その 切 なる 祈 りは 聞 き 届 けられ そして 力 が ひととき わたしに 与 えられ あの 静 寂 の 一 刻 に 幼 な 子 の 眼 に 未 来 の 門 を 開 いて 見 せる だが 塵 の 子 よ 芳 しい 花 々 明 るい 青 空 ビロ-ドの 芝 土 は -57-

川 股 陽 太 郎 あなたの 恐 れを 知 らぬ 足 が 辿 ってしまったにちがいない 住 処 への 見 知 らぬ 案 内 者 であった と き わたしは 時 期 を 窺 っていた 夏 が 過 ぎ いつしか 青 白 い 秋 が 過 ぎ ついに 陰 鬱 な 冬 の 夜 が 雲 の 喪 服 で 空 を 覆 った いま わたしはやって 来 た 夕 闇 は 降 りた 荒 れることなく 静 かにもの 悲 しく ひとつの 音 が 弔 いの 鐘 のように あなたの 頭 上 に 襲 い 来 て 歓 びを 追 い 払 い 憂 いを 迎 え 入 れる 定 まり 知 らぬ 一 陣 の 風 木 の 葉 を 震 わせ 陰 気 な 壁 をめぐり ひゅうと 鳴 り いつまでも 去 りかね 悲 しみを 嘆 く それは 亡 霊 の 叫 び 声 おどろき 幼 な 子 は わたしの 声 を 聞 く なんという 不 意 の 驚 愕 が その 心 臓 に 氷 のような 血 を 送 ったことか 幼 な 子 は 目 を 覚 ます その 顔 は あおじろ おぼろげなランプの 明 かりのなかで なんと 蒼 白 く 見 えたことか その 小 さな 両 の 手 は 空 しく 影 のような 悪 霊 を 押 し 退 けようとする その 額 には 恐 怖 があらわれ その 胸 には いまや 苦 悶 が 58-

エミリ ブロンテ その 眼 に 恐 ろしい 苦 悶 虚 空 を 見 すえたまま その 喘 ぎは 恐 怖 に 捉 えられ 長 く 深 いため 息 をもらす 哀 れな 子 よ もし わたしのような 霊 が 人 間 の 悲 惨 なありさまに 涙 を 流 せるものなら ひとしずくの 涙 いや とめどない 涙 を 流 すであろう 目 の 前 に 続 く 道 を 眼 にし 日 の 光 が 消 え 去 るのを 見 れば また 荒 れ 狂 う 波 が 轟 き 荒 涼 とした 岸 辺 に 打 ち 砕 け 幼 い 日 の 希 望 から 切 り 離 され 権 力 と 栄 光 から 切 り 捨 てられたと 聞 けば さだめ だが それが 宿 命 である ならば 朝 の 光 は 夜 の 嵐 を 予 示 し 幼 い 日 の 花 は 必 ずやその 輝 きを 失 う 墓 の 陰 の 下 で No.13 と No.14 はともに ゴンダル の 詩 である No.13 は 四 行 三 連 詩 No.14 は 四 行 十 連 詩 と 九 行 一 連 に 加 え 四 行 一 連 で 終 わる 十 二 連 詩 の 形 を 取 っている No.13 の 詩 は 悲 しい 日 よ という 呼 びかけに 寄 せて リジャイナの 死 とと もにその 誇 りも 希 望 も 潰 え 去 り 国 が 混 乱 状 態 にあることを 歌 っている ゴン ダルは 愛 と 憎 しみ 安 らぎと 苦 しみ 生 と 死 が 同 居 する 世 界 であり 同 時 に 争 いと 裏 切 りが 贖 いようのない 人 間 の 行 為 が 繰 り 返 し 続 く 救 いのない 世 界 であ る エミリは ゴンダル という 詩 を 用 いて 人 類 の 歴 史 が 証 明 しているよう に 人 間 が 持 つ 人 間 性 の 両 面 を 抉 り 出 そうとしているのであろう -59-

川 股 陽 太 郎 No.14 の 詩 には 幼 な 子 が 出 てくる この 詩 は ゴンダル の 詩 ではある が この 詩 を 読 むとき この 幼 な 子 の 抱 く 悲 しさや 溢 れ 出 る 涙 に エミリ の 幼 児 期 の 記 憶 が 重 なって 見 え また 幼 児 期 より 養 われてきた 自 然 にたい する 洞 察 力 を 感 じさせられる ここに 出 てくる 幼 な 子 は 単 なる 幼 な 子 ではなく 自 然 界 の 森 羅 万 象 宇 宙 そのものを 意 味 しているともいえる 芳 しい 花 々の 咲 き 乱 れる 夏 が 過 ぎ 青 白 い 秋 が 過 ぎ やがて 陰 鬱 な 冬 が 到 来 する 吹 き 寄 せる 風 は 悲 しみを 嘆 く 亡 霊 の 叫 び 声 に 似 て 弔 いの 鐘 のよう な 憂 いを 現 実 のものとして 受 け 入 れる 影 のような 悪 霊 を 空 しく 両 手 で 押 し 退 けようとする 仕 草 と それにともなう 恐 怖 は エミリの 幼 児 期 の 実 体 験 に 基 づ くものであろう 朝 の 明 かりは 必 ずや 夜 の 暗 闇 へと 繋 がり 幼 い 日 の 輝 きは 必 ずや 晩 年 の 老 いをともなう 彼 女 は 幼 な 子 に 寄 せて 自 然 の 摂 理 を 歌 ってい るのであろう No.15 1837 年 8 月 7 日 ああ 天 の 神 よ 恐 怖 の 夢 恐 ろしい 夢 は いま 終 わった 萎 える 心 萎 れる 悲 しみ 身 の 毛 立 つ 夜 総 毛 立 つ 朝 この 上 ない 悲 しみの 疼 き とめどなく 溢 れでる 熱 い 涙 いのち まるで 喘 ぐたびに 生 命 を 吐 き 出 すように 侘 びしい 住 まいから どっと 溢 れる 涙 を ことごとくあざ 笑 う 呻 き 声 だが 生 命 は 絶 望 によって 育 まれた 動 揺 と 苦 悩 の 憔 悴 歯 軋 と 凝 視 60-

エミリ ブロンテ 愚 痴 を こぼし 続 ける 苦 悩 ひとすじ 希 望 の 光 は 一 条 も 射 してはいなかった 陰 鬱 な 運 命 の 無 情 な 空 から 苛 立 つ 激 怒 いまだ 抱 くことのできぬ 想 いからの 無 益 な 尻 込 み 魂 は 絶 えず 思 考 を 続 け やがて 自 然 は 狂 喜 し 苛 まれ 落 ち 込 み ついに 嘆 くのを やめた いまや すべてが 終 わった そして わたしは 自 由 大 洋 の 風 は わたしを 優 しく 撫 でる あの 波 立 つ 大 海 原 から 吹 いてくる 激 しい 風 を ふたたび 見 ようとは 思 いもしなかった あなたに 幸 いあれ 輝 かしい 海 よ わたしの 世 界 に わたしの 魂 の 家 に あなたに 幸 いあれ すべてのものに 幸 いあれ わたしは 口 がきけない わたしの 声 は 出 ない だが 悲 しみのためではない そして わたしの 窶 れた 頬 から 塩 からい 涙 が したたり 落 ちる ヒ-スに 降 る 雨 のように どのくらいのあいだ 牢 獄 の 床 を 濡 らしていたのだろう 湿 っぽい 灰 色 の 敷 石 の 上 に 涙 を 落 として わたしは 眠 りのなかでさえ いつも 泣 いていた 夜 は 恐 ろしかった 昼 と 同 じように -61-

川 股 陽 太 郎 わたしは いつも 泣 いていた 冬 の 雪 が 格 子 窓 から 激 しく 吹 き 込 んでくるとき だが そのときの 悲 しみは もっと 静 かな 悲 しみであった すべてが わたしと 同 じように 侘 びしかったから もっとも 辛 いとき 最 悪 のときは それは 夏 の 輝 きが 壁 に いちだんと 美 しい 緑 の 野 辺 を 語 る 緑 の 光 を 投 げかけるときであった しばし わたしは 床 に 腰 をおろし ほとんど 見 えなくなった 茜 色 の 光 を じっと 見 上 げ ついには まわりに 迫 る 暗 闇 をも 忘 れて わたしの 魂 は 平 穏 な 国 を 探 し 求 めていた ア-チ 魂 は 神 々しい 天 の 蒼 穹 を 求 め 黄 金 色 の 雲 たなびく 清 らかな 蒼 天 を 求 めた 魂 は わたしが 憶 えていた 昔 の ふるさと あなたの 父 の 故 郷 と わたしの 故 郷 を 求 めた ああ いまでも あまりに 恐 ろしく 胸 張 り 裂 ける 感 情 が 甦 ってくる そういった 折 り わたしは 顔 を 膝 に 伏 せ 込 みあげてくる 呻 きを 押 さえようとした わたしは 石 の 上 に 身 を 投 げ 出 し 泣 きわめき もつれた 髪 を 掻 きむしり そして 最 初 の 感 情 の 高 ぶりが 治 まってしまうと 62-

エミリ ブロンテ いいようのない 絶 望 に 襲 われ 横 たわっていた 時 には 呪 いが 時 には 祈 りが わたしの 渇 き 切 った 舌 の 上 で 打 ち 震 えた だが どちらも 呟 きにもならず 湧 き 出 た 胸 のなかへ 消 えてしまった そして そのように 日 は 高 みで 薄 れゆき 暗 闇 は あの 淋 しい 光 を 消 してゆく また 眠 りは わたしの 不 幸 を ある 不 思 議 な 怪 しい 夢 に 変 えてゆくのであった その 夢 まぼろしの 恐 怖 は わたしに 知 らせた 人 間 の 悲 しみの 極 みを だが それは 昔 のこと なのになぜ 振 り 返 って そのような 過 去 を 思 い 煩 い 嘆 くのか 足 枷 を 払 いのけ 鎖 を 断 ち 切 れ そして 生 きて 愛 し ふたたび 微 笑 みなさい 青 春 の 浪 費 歳 月 の 浪 費 あの 牢 獄 に 囚 われていたあいだに 失 われた 身 を 苛 む 悲 しみ 希 望 のない 涙 忘 れなさいそういったものは ああ 忘 れてしまいなさいそういったものは すべて No.15 は ゴンダル の 詩 の 一 編 であろう 五 行 四 連 四 行 一 連 六 行 一 連 四 行 八 連 六 行 一 連 四 行 二 連 の 十 七 連 詩 からなっている 牢 獄 に 繋 がれている 人 物 が 誰 であるのか 不 明 であるが 囚 われ 人 の 恐 怖 の 夢 -63-

川 股 陽 太 郎 身 の 毛 立 つ 夜 総 毛 立 つ 朝 比 類 無 い 疼 き 動 揺 と 苦 悩 歯 軋 と 凝 視 陰 鬱 な エミリ 運 命 苛 立 つ 激 怒 等 は 囚 人 と 詩 人 が 共 有 するものであろう エミリは 囚 人 や 牢 獄 を 度 々 用 いるが それは 囚 われ 人 や 地 下 うつつ 牢 のイメ-ジでもある 彼 女 は 夢 と 現 拘 束 と 自 由 光 と 闇 夏 と 冬 希 望 と 絶 望 過 去 と 現 在 といった 対 立 する 言 葉 を 用 いることによって 表 現 をより 明 確 にし 強 調 するすべを 熟 知 しており 好 んで 使 う 傾 向 がある またこの 詩 にもみられるように 大 海 原 に 吹 き 渡 る 風 澄 みきった 青 空 咲 き 乱 れるヒ-ス 夏 の 輝 き 緑 の 野 辺 等 は 詩 人 にとって 憧 れと 歓 びの 象 徴 で ある 海 もなく 夏 も 短 いヨ-クシャのペナインを 想 えば それは 当 然 のことと して 理 解 できる No.16 A.G.A. A.E.によせて 1837 年 8 月 19 日 エルベ 公 エルベの 丘 に 霧 は 濃 く 風 は 冷 たく あなたの 友 の 心 は 夜 明 けから あなたが 去 ってしまった 悲 しみに ため 息 をついています エルベ 公 わたしにとって どれほど 心 地 よいものとなるでしょう 夜 風 が 突 如 として 吹 き 渡 り ヒ-スがそよぐいま あなたの 快 活 な 足 音 が 響 き ヒ-スを さわさわと 揺 り 動 かし 来 るのであれば あなたの 淋 しい 屋 敷 に 暖 炉 の 火 は 赤 々と 輝 き それは 遠 眼 にも 見 えます そして 暗 闇 が 深 まるにつれ 高 く 聳 える 森 の 大 枝 をとおし 星 のように 煌 めきながら 静 まり 返 った 敷 地 のなか ひときわ 嬉 しそうに 暖 炉 の 火 は 赤 々と 輝 いてい ます 64-

エミリ ブロンテ ああ アレグザンダ- わたしが 引 き 返 して 行 けば あの 暖 炉 の 火 のように 暖 かく わたしの 心 は 燃 えるでしょうに あなたの 足 のように 軽 やかに わたしの 足 は 向 かうでしょうに もし あなたの 声 が あの 館 に 聞 こえるものなら でも いまあなたは 淋 しい 海 の 上 ゴンダルから 引 き 離 され わたしから 引 き 離 され わたしの 嘆 きはすべて 望 みなく 空 しく 死 は 決 してその 生 贄 を 戻 したりはしません タイトルが 示 すように この 詩 は No.9 の A.G.A( 1837 年 3 月 6 日 )に 続 く ゴンダル の 詩 である オ-ガスタが 今 は 亡 きエルベを 偲 ぶ 歌 となっている エミリの 思 考 や 表 現 にみられる 特 徴 のひとつは 歳 月 や 場 所 を 含 め 時 間 と 空 間 が 自 在 に 前 後 し 視 点 が 自 在 に 移 動 し 四 次 元 の 世 界 を 形 成 すること である 後 日 映 画 の 物 語 の 進 行 中 に 過 去 の 出 来 事 を 挿 入 する 技 法 をフラッ シュ バック 技 法 というが 彼 女 はすでに 詩 や 小 説 のなかでこの 技 法 を 用 いて いる 小 説 嵐 が 丘 はその 典 型 といえる 彼 女 がそれを 意 識 的 に 用 いたのか 無 意 識 のうちに 用 いたのかは 判 らない この 詩 を 読 むとき 八 月 ヒ-スの 花 々が 丘 陵 一 面 を 覆 い 尽 くし 夜 風 が 吹 き 渡 る 光 景 が 浮 びあがってくる また 高 く 聳 える 大 枝 をとおし 遠 目 にも 主 の いない 淋 しい 屋 敷 のなかで 暖 炉 の 火 が 赤 々と 輝 いているのが 見 えるという 描 写 は 読 者 の 視 点 を 暖 炉 の 火 が 明 々と 輝 いている 館 へと 無 意 識 に 移 動 させるもの であり 時 代 を 先 取 りした 映 像 的 描 写 と 言 える No.17 1837 年 8 月 戦 いは 峠 を 越 し そして 静 かに 夕 闇 は 降 り 立 つ 一 方 天 は 夜 の 軍 勢 を 伴 い -65-

川 股 陽 太 郎 壮 麗 に 万 物 を 覆 う 死 者 は あたりに 眠 っていた ヒ-スや 灰 色 の 御 影 石 の 上 に そして 死 にゆく 者 たちは 最 後 の 見 張 りをしていた 日 の 暮 れゆくなかで これは ゴンダル 詩 の 一 場 面 を 歌 ったものである 昼 間 の 戦 いの 狂 気 の 後 にやってくる 夕 闇 と 静 寂 壮 麗 な 満 天 の 星 暮 れゆくなかでヒ-スや 灰 色 の 御 影 石 の 上 に 横 たわる 死 者 たち 死 にゆく 者 たちの 姿 が 浮 かびあがってくる エ ミリにとってヒ-スはこの 上 ない 歓 びであると 同 時 に 悲 しみでもある 彼 女 に とって 歓 びはすべて 悲 しみにつながり 自 然 界 の 摂 理 どうり 生 は 死 につながる 最 後 の 見 張 り とはこの 世 の 見 納 めの 凝 視 であろう No.18 なんと 金 色 に 輝 きながら 大 地 から 天 空 から 夏 の 日 は 沈 みゆくことか なんと 壮 麗 に 陸 の 上 に 海 の 上 に 消 えゆく 日 差 しは 輝 くことか 嵐 のなかに 声 がする あの 明 るく 楽 しげな 木 々を 揺 らす 風 のなかに * * * 海 の 上 の 消 えゆく 太 陽 は ジュッツ 水 平 線 に 触 れ 悲 しげな 悲 鳴 を 洩 らす これは 四 行 一 連 と 二 行 一 連 の 未 完 の 私 的 な 詩 である エミリにとって 夏 の 日 や 海 は 常 に 歓 びであり 憧 れでもあった 未 完 のため 四 行 二 66-

エミリ ブロンテ J.K. 連 詩 になるよう 二 連 目 の***の 後 の 二 行 は 遊 び として 敢 えて 著 者 が 付 け 加 えた No.19 けが 霧 が 微 風 もない 青 空 を 穢 したことは 無 かった 雲 が 太 陽 を 霞 ませたことはなかった 露 が 朝 いちばんに 降 りる 時 刻 から 夏 の 日 が 沈 むまで すべて 清 らかに すべて 輝 かしく 夕 暮 れの 光 は 消 えていった ひときわ 美 しく 消 えてゆく 光 は きら エルノア 湖 の 岸 辺 に 寄 せる 波 に 輝 めく ふかみ 波 もなく 静 かに あの 静 かな 湖 は つつまれている 広 漠 とした 荒 野 のなかに 厳 かに 優 しく 月 の 光 は 眠 る ヒ-スの 生 い 茂 る 岸 辺 に ねぐら 鹿 は 塒 に 集 い 野 の 羊 群 を 求 める これは ゴンダル 詩 の 一 編 である 穏 やかで 落 ち 着 いた 雰 囲 気 が 全 体 によ く 漂 っている 夜 明 けから 日 没 まで 霧 がかかり 雲 がでることもなく 晴 天 が きら 続 く 静 かに 夕 日 が 沈 み 夕 日 は 美 しく 湖 畔 の 波 に 洸 めき 月 の 光 が 静 かに 湖 水 と 荒 野 と 岸 辺 を 照 らしだしている エミリの 一 日 が 平 穏 であった 日 の 作 品 で あろう -67-

川 股 陽 太 郎 No.20 きら 輝 めく 緑 の 草 葉 先 だけが 透 き 通 り 日 差 しのなかに 震 えている 未 完 の 典 型 である 未 完 の 詩 ではあるが 確 かな 観 察 眼 の 持 ち 主 だけが 日 きら 光 が 葉 先 を 照 らすとき 葉 先 が 透 けて 見 える ことに 気 付 くと 言 える 透 き 通 り 輝 めく 葉 先 がアップで 浮 かび 上 がっ 来 るこの 表 現 には エミリの 自 然 にたいする 鋭 い 観 察 力 が 感 じられる No.21 日 は 沈 み 長 く 伸 びた 草 は 夕 べの 風 に もの 悲 しく 揺 れる 野 の 鳥 は あの 古 びた 灰 色 の 墓 石 を 飛 び 立 ち 暖 かな 窪 地 に 塒 を 求 める 見 渡 すかぎり 淋 しい 景 色 のなか 見 えるものなく 聞 こえるものもない ただ 彼 方 から 吹 く 風 が ヒ-スの 生 い 茂 る 海 原 を 吐 息 して 渡 る エミリの 詩 には 物 寂 しい 夕 暮 れ 時 の 風 景 描 写 が 多 くみられる 野 の 鳥 古 びた 灰 色 の 墓 石 ヒ-スの 生 い 茂 る 海 原 等 の 言 葉 を 用 いながら その 言 葉 の 向 こう 側 にあるものを 彼 女 は 模 索 しているのであろう ヒ-スはいつも 彼 女 と は 切 り 離 せない 密 接 な 関 係 にあり 風 の 吐 息 は 彼 女 の 吐 息 でもある 68-

エミリ ブロンテ No.22 お 妃 さま あなたの 宮 殿 で 一 度 おそらく わたしの 顔 を 御 覧 になっております いまではもう いままでの 想 いに 想 いを 馳 せることは ないのでしょうか これは ゴンダル の 詩 であるが No.4 の 詩 を 連 想 させる お 妃 さま は オ-ガスタであろう No.23 ひととき 初 めに 悲 しい 瞑 想 の 一 時 間 それから ほとばしる 悲 しい 涙 それから 歓 びと 悲 しみの 上 に 耐 え 難 い 霧 をまき 散 らす 侘 びしい 静 寂 それから 鼓 動 それから 稲 妻 いきづかい それから 天 の 呼 吸 それから 天 上 の 輝 く 星 星 煌 めく 愛 の 星 これは 四 行 二 連 の 私 的 な 詩 である エミリにとって 瞑 想 と 静 寂 は 静 と 動 いきづかい 悲 しみと 歓 びをもたらすものであり 鼓 動 と 天 の 呼 吸 を 感 じさせるものでもあ る No.24 風 よ 降 りて 眠 りなさい ヒ-スの 茂 る 荒 野 に そ ぐ あなたの 荒 々しい 声 は わたしの 心 に 似 合 わない -69-

川 股 陽 太 郎 わたしは 侘 びしい 空 を よしとしよう もし あなたさえ いなければ 太 陽 よ 沈 みなさい 夕 暮 れの 空 から あなたの 楽 しげな 微 笑 みも わたしの 笑 みを 捉 えはしない かりにもし 光 が 与 えられるものなら シンシア ああ 月 の 輝 きを 与 えてほしい ひ No.23 同 様 四 行 二 連 の 私 的 な 詩 である エミリに 取 って そよ 吹 く 風 陽 の 光 は 本 来 喜 ばしいものであるのだが ここではより 静 けさをともなう 月 の 光 を 求 めているのであろう No.25 長 らく 続 いた 無 視 が 美 しい 魅 力 的 な 微 笑 みを 半 ば 薄 れさせてしまった 時 は 薔 薇 色 を 灰 色 に 変 え 黴 と 湿 気 は その 顔 を 汚 した だが あの 絹 のような 巻 き 毛 は いまだ 絵 のなかで 絡 んでおり 昔 の その 面 影 を 語 り イメ-ジ その 姿 を 心 に 描 きだす 次 の 一 行 を 書 いた 人 の 手 は 美 しかった 愛 しい 人 よ いつまでも わたしを 真 実 と お 思 いください ペン 筆 が その 一 節 を 記 すと 細 い 指 は 速 やかに この 世 を 飛 び 去 った 70-

エミリ ブロンテ 四 行 三 連 からなる 均 整 のとれた ゴンダル 詩 である この 歌 の 歌 い 手 が 誰 で また 速 やかにこの 世 を 飛 び 去 った 人 が 誰 なのかは 不 明 出 あるが 長 らく 無 ふみ 視 された 人 絹 のような 巻 き 毛 の 持 ち 主 短 い 文 を 書 いた 人 速 やかにこの 世 を 飛 び 去 った 人 は 同 一 人 物 である ここでは 無 視 がその 微 笑 みを 薄 れ ふみ させ 時 がその 容 貌 を 衰 えさせている 短 い 文 を 書 き 速 やかにこの 世 を 飛 び 去 ったいた 人 を 次 の 一 行 を 書 いた 人 の 手 細 い 指 という 体 の 一 部 を 指 す 言 葉 で 表 現 している No.26 目 覚 めの 朝 は 天 からほほ 笑 みかける 黄 金 の 夏 の 緑 の 森 に さえずり なんと 多 くの 歌 声 が 沸 き 上 がり あの 晴 れやかな 光 を 歓 び 迎 えようとしていることか 爽 やかな 風 は 群 れなす 薔 薇 を 揺 らし 開 け 放 された 窓 を 通 り 抜 け つぶらな 瞳 の 姫 君 が 横 たわる 臥 所 で 吐 息 する 鳩 のようなつぶらな 瞳 に つややかな 髪 かたど ビロウドのような 滑 らかな 頬 は それは 美 しく 象 られ 手 は それは 柔 らかに 白 く 美 しく 雪 のような 清 らな 胸 の 上 に 重 ねられている * * * その 妹 と その 弟 の 足 どりは 芳 しい 朝 露 を 払 いのける 姫 君 は 急 ぎ 飛 び 起 き -71-

川 股 陽 太 郎 草 と 花 と 朝 日 に 挨 拶 する 四 行 四 連 からなる ゴンダル の 詩 である ゴンダル の 詩 ではあるが こ の 詩 を 読 むとき イングランド 北 西 部 に 位 置 するヨ-クシャ-のペナイン 山 脈 のただ 中 にあるハワ-スを 夏 のペナイン 山 脈 の 山 肌 一 面 を 覆 いつくすヒ-ス の 花 を 丘 陵 を 吹 き 渡 る 風 の 音 を 想 い 起 こす そこに 立 ち 見 えるのは はるか 彼 方 まで 伸 び 広 がるム-アとヒ-スの 花 々 聞 こえるのは 山 肌 を 吹 き 渡 る 風 おと の 声 だけ そこに 立 ち 感 じるのは この 上 ない 歓 喜 と 絶 対 的 孤 独 であり それ 以 外 のなにものでもない 夏 の 日 の 朝 眼 を 覚 ますと 爽 やかな 風 が 群 れなす 薔 薇 を 揺 らし 窓 を 通 り 抜 ける 緑 の 森 では 小 鳥 達 が 歌 い 囀 っている 爽 やかな 風 はつぶらな 瞳 つや やかな 髪 ビロウドのような 滑 らかな 頬 の 姫 君 の 臥 所 で 吐 息 する 目 覚 めとと もに 飛 び 起 き 朝 日 に 挨 拶 をする エミリは 夏 の 朝 にエミり 自 身 が 感 じた 爽 快 さを 語 り 手 の 手 法 を 用 い 率 直 にこの 詩 のなかで 表 明 している No.27 1837 年 8 月 ただひとり わたしは 座 っていた 夏 の 日 は にこやかな 光 のなかに 沈 んでいった わたしは 日 が 落 ちるのを 見 た 霧 の 丘 と 風 のない 林 の 空 地 から 光 が 薄 れゆくのを 見 つめた すると 胸 にさまざまな 想 いが 沸 き 上 がり わたしの 心 は その 力 に 屈 した そして 突 然 目 に 涙 が 込 み 上 げてきた それは 自 分 の 気 持 ちを 言 葉 に 表 すことができなかったから ひととき あの 神 々しい 静 かな 一 刻 わたしのまわりに 忍 び 寄 る あの 厳 かな 歓 びを 72-

エミリ ブロンテ わたしは 自 分 に 問 いかけた ああ なぜ 天 は 貴 い 贈 り 物 を 授 けなかったのか うた 想 いを 詩 に 託 すよう 多 くの 人 に 与 えられた 輝 かしい 才 能 を わたしは 呟 いた 諸 々の 夢 が わたしを 取 り 巻 いていた 憂 いを 知 らぬ 幼 い 日 の 晴 れやかな 頃 から ゆめ 諸 々の 幻 が 激 しい 空 想 に 育 まれていた 人 生 の 朝 日 の 昇 る 頃 から うた しかし わたしは 詩 を 歌 いたいと 思 っていたのに この 指 はいま なんの 調 べも 奏 でず うた それでもなお 折 り 返 す 詩 の 調 べは あがくのは もう 止 めなさい ただ 空 しいだけ これは 私 的 な 詩 である 日 付 にあるように 八 月 はペナイン 山 脈 に 抱 か れたハワ-スは 夏 の 真 っ 盛 りである 夏 の 日 の 夕 暮 れどき 夕 日 が 落 ち 薄 れゆ けしき く 光 景 を 見 ながら 胸 に 沸 き 上 がる 想 いを 歓 びの 気 持 ちを 言 葉 に 託 したくて も それを 言 葉 で 表 せないもどかしさがこの 詩 からは 伝 わってくる 初 期 の 詩 にはまま 見 られるエミリの 率 直 な 気 持 ちの 表 明 であろう 憂 いを 知 らぬ 幼 い 頃 から 諸 々の 夢 が 彼 女 を 取 り 巻 き 激 しい 空 想 に 育 まれていた と 彼 女 自 身 がこ の 詩 のなかで 述 べているように 幼 少 のころから 夢 幻 空 想 幻 想 が 彼 女 を うた 取 り 巻 き それが 彼 女 の 想 像 力 を 育 んできたのであろう 詩 を 旋 律 にたとえ こ の 指 は 調 べを 奏 でず という 表 現 は ケルトの 伝 統 的 楽 器 でもある 弦 楽 器 ハ- プを 連 想 させる -73-

川 股 陽 太 郎 No.28 1837 年 9 月 30 日 オルガンの 音 は 高 まり トランペットは 鳴 り 響 き たいまつ 数 々の 松 明 は 大 勝 利 に 赤 々と 燃 え 上 がる あたりに 集 う 幾 千 人 のうち 誰 ひとり 地 下 に 眠 る 者 のことを 考 える 者 はいない 涙 が 溢 れて 当 然 の あの 人 々の 眼 は 高 慢 にも 明 るく 曇 りなく 澄 んだ 視 線 を 投 げかける 悲 しみに 打 ち 震 えて 当 然 の あの 人 々の 胸 は 躍 り 悲 しみの 想 いに 捉 われる 者 はいない そこでは 昔 家 臣 と 兵 士 は 彼 の 日 の 出 の 勢 いを 祝 福 した しかしいま 彼 の 墓 の 上 に 誰 ひとり ため 息 を 洩 らす 者 はいない 戦 友 たちよ わたしは 見 つけようとした ひとつの 感 謝 の 影 が 沸 き 上 がるのを あなたがたの 足 が 彼 の 墓 の 暗 い 休 息 所 の 上 を 踏 みつけたとき No.28 は ゴンダル の 詩 である エミリの 詩 は 四 行 連 詩 の 形 式 をとるとき 彼 女 の 詩 のリズムは 生 々してくる 中 期 後 期 の 詩 で 完 成 度 が 高 いものはすべ て 四 行 連 詩 であるといっても 過 言 ではない 勝 利 を 祝 しオルガンとトランペット 音 が 鳴 り 響 き 松 明 が 赤 々と 燃 えている 彼 が 誰 であるのかこの 詩 では 不 明 である その 昔 日 の 出 の 勢 いを 祝 福 さ れた 今 は 亡 き 君 主 であることは 間 違 いない しかし 勝 利 に 酔 いしれる 家 臣 74-

エミリ ブロンテ 兵 士 の 誰 ひとりとして 彼 の 死 を 悼 む 者 はいない この 詩 のなかの 墓 は 協 会 内 の 敷 石 の 下 にある 身 分 の 高 い 人 の 墓 と 思 われる かつてそういった 墓 石 の 上 を 歩 いたとき ある 種 の 違 和 感 を 抱 いた ことがあった エミリは 争 いと 戦 いの 世 界 である ゴンダル という 世 界 を 用 い 生 と 死 を 対 比 させことで 生 と 死 明 と 暗 を 際 だたせ この 世 の 実 相 をあるがままに 描 こうしているかのようである 古 来 人 間 の 有 する 愚 かしさと 悲 しさに 普 遍 性 を 付 与 しようとしているのであろう 彼 女 は 脳 裏 に 浮 かんだ 情 景 を 批 判 も 弁 護 もせず 描 き 出 す すべての 登 場 人 物 は 彼 女 にとって 訪 問 者 であり 彼 女 の 脳 裏 を 行 き 来 する 旅 人 といえる No.29 1837 年 10 月 14 日 恐 ろしい 光 による 突 然 の 亀 裂 が まち 市 をめぐる 城 壁 に 口 を 開 き 夜 通 し 続 く 長 い 雷 鳴 は われわれの 勝 利 ティンダラムの 陥 落 を 宣 言 した 悲 鳴 をあげる 風 は 静 まり 沈 黙 し 穏 やか 息 苦 しい 雪 雲 は 消 え 去 った 冷 たい なんと 冷 たい 青 白 い 月 の 光 は ほほ 笑 みかけた そこには あの 黒 々とした 廃 墟 が くすぶり 横 たわっている 終 わった 戦 いの 狂 気 炸 裂 する 砲 火 大 砲 の 轟 き 叫 び 声 呻 き 声 狂 乱 の 歓 喜 死 危 険 もはやすべて 気 づかうことはなかった -75-

川 股 陽 太 郎 死 者 が 折 り 重 なっている 略 奪 された 教 会 のなかで いなな 生 気 のない 軍 馬 が 餌 を 求 めて 嘶 いた 負 傷 した 兵 士 は 頭 を 横 たえていた 屋 根 のない 血 の 飛 び 散 った 部 屋 で わたしは 眠 れなかった あの 激 しい 包 囲 攻 撃 のあいだ わたしの 心 は 激 しく 燃 え 弾 んだ そ と さわぎ こころ 外 部 の 騒 動 は それが 取 り 巻 く 内 部 の 嵐 を 鎮 めてくれるように 思 われた * * だが こういう 夢 に わたしは 耐 えられない 静 寂 は 苦 痛 の 牙 を 研 ぐ わたしは 絶 望 の 大 洪 水 が ふたたびわたしの 胸 に 戻 ってくるのを 感 じた わたしの 寝 椅 子 は 廃 墟 と 化 した 館 のなかにあり 館 の 窓 から 寺 院 の 庭 が 見 えた そこでは 冷 たい 冷 たい 白 いものが すべてを 覆 っていた 墓 石 も 骨 壺 も そして 枯 れた 芝 生 も 打 ち 砕 かれたガラス 窓 は 外 気 を なかに 入 れ 外 気 とともに とりとめのない 呻 き 声 が 聞 こえてきた わたしを 縮 みあがらせ 孤 独 にする いいようのない もの 悲 しい 声 が いちい 一 本 の 黒 い 櫟 の 木 が すぐ 下 に 生 えていた その 大 枝 が そんなに 悲 しげな 声 を 出 しているのかと わたしは 思 った 76-

エミリ ブロンテ 幽 霊 の 指 のような 枝 は まだらに 雪 が 積 もり 古 びた 丸 天 井 の 横 木 にあたり ガタガタ 音 を 立 てていた いのち わたしは 耳 を 傾 けた いや それは 生 命 いのち あるうち 捨 てられた 者 の 心 に いまだ 去 りやらぬ 生 命 であった ああ 神 よ なにが ぞっとする 金 切 り 声 を 引 き 起 こしたのか あの 悲 痛 な 苦 悶 の 発 作 を とりとめのない 恐 ろしい 夢 昔 あったことについての 夢 ものみなうち 枯 らす 光 が いつまでも 頭 上 を 飛 び 交 っていた 想 い 出 恐 ろしい 感 情 狂 気 が 生 まれ オ-ク わたしは 暗 い 樫 の 階 段 を 急 いで 降 りた ちょうつがい ドアにたどり 着 くと その 壊 れた 蝶 番 は そこここに 幾 筋 もの 月 の 光 を 投 げかけていた かんぬき わたしは 考 えることなく 閂 を 抜 いた 氷 のような ひとつの 輝 きが わたしの 目 を 捕 らえた あらゆる 星 が 消 えなんとする 想 い 出 のように あの 広 大 な 天 から じっと 眼 を 注 いだ そしてそこには 大 聖 堂 が 聳 え 立 っていた 王 冠 を 奪 い 取 られて だがこの 上 なく 堂 々と 大 聖 堂 は いとも 穏 やかに 見 おろしていた それ 自 身 の 埋 もれた 悲 しみの 王 国 を -77-

川 股 陽 太 郎 No.29 の 詩 は 四 行 十 四 連 詩 からなる ゴンダル の 詩 である 確 かに ゴン ダル 詩 ではあるが エミリの 詩 を 私 的 な 詩 と ゴンダルの 詩 に 二 分 し ようとするとき これは 前 者 であるこれは 後 者 であると 単 純 に 二 分 できない この 詩 はその 典 型 であるといえよう 1837 年 10 月 14 日 の 日 付 のあるこの 詩 は エミリが 十 九 歳 のとき 書 いた 詩 ということになる 最 初 の 五 連 と 第 六 連 以 降 の 九 連 は 一 連 の ゴンダル 詩 ではあるが 第 五 連 とそれに 続 く 第 六 連 以 降 の 十 連 は ゴンダルの 詩 である と 同 時 に 私 的 な 詩 の 混 在 しているものといえる この 詩 は 第 一 連 から 第 四 連 で 戦 いの 狂 気 と 歓 喜 その 後 に 訪 れる 静 寂 を 描 きながら わたし の 眼 をとおし その 場 の 状 況 と 心 情 を 語 る 形 をとってい る 詩 人 は わたし という 登 場 人 物 に 語 り 部 の 役 割 を 担 わせている エミ リは 幼 い 頃 より 馴 れ 親 しんできた 空 想 の 世 界 で 遊 びながら 登 場 人 物 に 自 分 自 身 を 託 す 仮 託 の 手 法 を 身 に 付 けたのであろう ひ うつつ 彼 女 は 目 覚 めの 朝 に 輝 かしい 太 陽 の 沈 む 時 刻 に 夢 と 現 のなかで 明 と 暗 歓 びと 悲 しみ 生 と 死 の 本 質 を 常 に 感 じていたのであろう 彼 女 にとって 現 実 は 否 現 実 であり 否 現 実 は 現 実 であり 両 者 のあいだに 差 異 はなく 両 者 は 彼 女 にとって 本 質 的 に 同 質 のものといえる 彼 女 は だがこういう 夢 にわたしは 耐 えられない と 言 いつつ 平 然 と 両 者 のあいだを 行 き 来 する 彼 女 の 特 質 は 罪 悪 感 を 抱 くことなく 両 者 のあいだを 行 き 来 することである 他 者 を 意 識 することなく また 他 者 と 論 議 することもな ことば く 己 の 信 念 を 言 い 放 つ 確 信 犯 であるといえる 彼 女 の 詩 の 力 強 さは ひとつ にはそこからくるのであろう 登 場 人 物 はしばしば とりとめのない 恐 ろしい 夢 を 見 る この 詩 には 後 日 嵐 が 丘 のなかで 用 いられる 手 法 がみられる 小 説 嵐 が 丘 のなかのロ ックウッドは 語 り 部 ネリイの 話 しに 耳 をかたむける 聞 き 手 でもあり また 目 撃 者 でもあるという 二 重 構 造 をとっている この 詩 にはロックウッドが 見 る 夢 ム-ア さまよ の 場 面 が 二 十 年 荒 野 を 彷 徨 ったキャシ-の 霊 が 出 てくる 場 面 と 同 じ 手 法 がす 78-

エミリ ブロンテ もみ いちい でにみられる 小 説 では 樅 の 木 の 大 枝 が 窓 をたたき この 詩 では 櫟 の 木 の 大 枝 がたいそう 悲 しげな 声 を 出 し 幽 霊 の 指 のような 枝 が 丸 天 井 の 横 木 にあ たり ガタガタ 音 を 立 てている 前 者 では 壊 れているのは 窓 の 締 め 具 で ちょうつがい 後 者 では ドアの 蝶 番 であり また 前 者 では 氷 のような 手 が 登 場 人 物 の 手 を 後 者 では 氷 のような 目 が 登 場 人 物 の 目 を 捕 らえている 静 寂 は 苦 痛 の 牙 を 研 ぎ 絶 望 が 洪 水 となって 彼 女 に 襲 いかかる 廃 墟 と 化 し た 館 のなかにたたずみ 冷 たい 白 いものですべてが 覆 われている 寺 院 の 庭 を 眺 め ているのは 他 ならぬ 彼 女 自 身 でもある 彼 女 の 目 の 前 には 王 冠 を 奪 い 取 られ た 大 聖 堂 がいとも 穏 やかに 聳 え 立 っており 彼 女 を 見 おろしている それは 彼 女 自 身 の 埋 もれた 悲 しみの 王 国 でもある No.30 すでに 夕 暮 れ 金 色 の 光 につつまれ 太 陽 は 空 を 降 りる まち 市 のざわめきは 微 かにそよぐ 西 風 と 優 しく 溶 けあう だが わたしには 侘 びしい 朝 暗 い 十 月 のように 思 われる 天 の 嵐 の 天 空 を 横 切 り 山 なす 雨 雲 は 黒 々と 湧 き 起 こる 爽 やかで 華 やかなペナインの 短 い 夏 は そのあとに 侘 びしく 陰 鬱 な 秋 を 従 える まち 市 という 言 葉 から 見 ると この 詩 は 形 式 的 には ゴンダル 詩 の 一 部 で あろう しかし この 詩 を 私 的 な 詩 であるとか ゴンダルの 詩 であると することに 意 味 はない 前 半 四 行 一 連 の 美 しい 夕 日 と 後 半 の 四 行 一 連 の 暗 い 黒 雲 は 対 照 的 であり 至 福 のあとにやってくる 苦 悶 を 暗 示 するかのようである すべての 歓 びは 悲 しみへ 続 く 道 である ということであろうか -79-

川 股 陽 太 郎 No.31 1837 年 10 月 古 びた 教 会 の 塔 と 庭 の 塀 は 秋 雨 に 黒 ずみ 侘 びしい 風 は 凶 事 を 予 告 し 暗 闇 を 呼 び 降 ろす 夕 暮 れが 陽 気 な 輝 かしい 日 と 入 れ 替 わるのを 見 守 った いっそう 深 い 暗 闇 が 夕 日 を かき 消 すのを 見 守 った そして 侘 びしい 空 を 見 つめていると 悲 しい 想 いの 数 々が わたしの 心 に 浮 かんだ... うた この 詩 は No.30 の 延 長 線 上 にあるといえる また No.27 の 詩 を 歌 いたい と 思 っていたのに この 指 はいま なんの 調 べも 奏 でず それでもなお 折 り うた 返 す 詩 の 調 べは あがくのはもう 止 めなさい ただ 空 しいだけ という 響 きを ともなう No.32 詩 行 1837 年 10 月 安 息 の 地 は はるか 遠 く あいだに 千 マイルの 道 が 続 く 数 々の 嵐 吹 く 山 の 峰 数 々の 緑 なき 荒 野 旅 人 は 疲 れ 果 て 力 尽 き その 心 は 暗 く その 眼 は 霞 み 80-

エミリ ブロンテ 希 望 も 慰 める 者 もなく よろめき 気 は 遠 く いまにも 息 絶 えんばかり 幾 度 も 無 情 な 空 を 見 上 げ 幾 度 も 侘 びしい 道 を 見 渡 し 幾 度 も 身 を 横 たえ 人 生 の 煩 わしい 重 荷 を 投 げ 出 したくなる だが 挫 けてはいけない 悲 しみに 沈 む 旅 人 よ 日 の 射 さぬ 道 を 歩 き 始 めてから 幾 マイルも 幾 マイルも 歩 んできた ならば 観 念 し 一 歩 一 歩 進 みなさい もしもなお 絶 望 を 抑 え その 囁 きを 胸 のうちに 鎮 めるなら あなたは 最 終 の 目 的 地 へと 至 り 安 息 の 地 を 手 にすることになろう この 四 行 五 連 ゴンダル 詩 は 安 息 の 地 ははるか 遠 く で 始 まり 安 息 の 地 を 手 にすることになろう で 終 わっている 旅 人 が 誰 であるのか 不 明 で ある 旅 人 は 疲 れ 果 て 人 生 の 重 荷 を 投 げ 出 したくなる 最 初 の 三 連 第 一 連 か ら 第 三 連 で 旅 路 の 険 しさと 旅 人 の 心 情 を 第 三 者 の 眼 で 歌 い 後 の 二 連 第 四 連 と 第 五 連 は 第 三 者 である 歌 い 手 が 旅 人 に 挫 けぬように 励 ましの 言 葉 を おくる 形 をとっている No.33 1837 年 11 月 さあ あなたを 信 じる 心 を 信 じ ア デ ィ ユ - さようなら という 言 葉 を しっかり 言 いなさい -81-

川 股 陽 太 郎 わたしが どこを 彷 徨 おうと ふるさと わたしの 心 は 故 郷 の あなたの 心 とともにあります もし この 世 に 真 実 がないのであれば また 誠 を 述 べた 誓 いの 言 葉 に なんの 価 値 もないのでなければ うつせみ 現 身 の 身 なる 人 間 に みずからの 不 幸 な 魂 を 支 配 する 力 がないのでなければ もし わたしの 考 えが ことごとく 変 わるのでなければ また わたしの 記 憶 が なにも 思 い 出 せないのでなければ また 遠 いゴンダルの 異 国 の 空 の 下 で わたしの 備 え 持 つ 徳 が すべて 消 え 去 るのでなければ 山 に 住 む 農 夫 は 下 界 の このうえなく 肥 沃 な 平 野 よりも ヒ-スの 茂 る 荒 野 を 愛 している 農 夫 は いつも 喜 色 に 満 ちた 平 野 すべてと 引 き 換 えに 荒 涼 とした 荒 野 ひとつ 与 えたりはしない また あなたより 色 白 の 額 の 人 が いるかも 知 れない また さらに 薔 薇 色 の 頬 の 人 が いるかも 知 れない また 神 々しい 瞳 から 稲 妻 のような 眼 差 しが わたしの 辿 る 道 筋 に 燃 え 上 がり 輝 くかも 知 れない だが これほど 長 いあいだ 慈 しみ 見 守 り 育 んできた 変 わることのない 強 い あの 清 らかな 光 こそ 初 めて あの 栄 光 を 与 えてくれた あの 愛 こそ わたしの 北 極 星 となり 墓 場 まで 導 いてくれるであろう 82-

エミリ ブロンテ No.33 の 詩 は この 詩 のなかの ゴンダルの 異 国 の 空 の 下 で という 言 葉 で わかるように ゴンダルの 詩 である わたし が 誰 なのか あなたが 誰 なのかは 不 明 である 主 題 は 不 変 の 愛 ということであろう この 詩 のなか で 注 目 すべき 点 は エミリは ゴンダルの 詩 を 歌 いながら 彼 女 の 私 的 心 情 を 第 五 連 のなかに 挿 入 している 彼 女 にとって 肥 沃 な 平 野 はなんの 価 値 も なく 不 毛 の 大 地 である ヒ-スの 茂 る 荒 野 こそ 何 ものにもかえがたいもの であることがわかる No.34 A.G.A. 1837 年 11 月 眠 りは わたしに なんの 歓 びももたらさず 想 い 出 は 決 して 消 え 去 りません わたしの 魂 は 苦 痛 にゆだねられ ため 息 のなかに 生 きています 眠 りは わたしに なんの 安 らぎももたらしません 死 者 の 影 が わたしの 寝 床 を 取 り 囲 むのも わたしの 目 覚 めた 眼 には 決 して 見 えません 眠 りは わたしに なんの 希 望 ももたらしません この 上 なく 深 い 眠 りのなかに 影 は 訪 れ 悲 しげな 姿 で 暗 闇 を いっそう 深 めます 眠 りは わたしに なんの 力 ももたらさず 勇 敢 に 立 ち 向 かう 力 も 授 けず わたしは さらに 荒 々しい 海 を 進 むしかありません さらに 暗 い 波 間 を -83-

川 股 陽 太 郎 眠 りは わたしに ひとりの 友 ももたらしません 慰 め 堪 え 忍 ぶ 手 助 けとなる 友 を 影 はみな 見 つめるだけ ああ ひどく 嘲 るように そして わたしには 絶 望 が 眠 りを わたしの 悩 める 心 を この 世 に 繋 ぎ 止 める 力 も もたらしません わたしの 唯 一 の 願 いは 忘 れることです 死 の 眠 りの 眠 りのなかで 四 行 五 連 詩 各 行 の 出 だしが 眠 りは わたしに なんの 安 らぎももたらしま せん 等 で 統 一 されているこの 詩 は ゴンダルの 女 王 オ-ガスタ ジェラルデ ィン アルメダが 安 らぎのない 孤 独 な 気 持 ちを 歌 う 形 をとっている ここに 出 てくる 荒 々しい 海 は 航 海 中 の 海 であると 同 時 に 彼 女 に 課 された 苦 難 に 満 ちた 人 生 の 荒 海 ともいえる 死 と 忘 却 と 死 の 影 は エミリの 寝 室 の 窓 から 日 常 的 に 見 える 光 景 もであった No.35 強 く わたしは 立 つ わたしは 怒 り 憎 しみ 厳 しい 軽 蔑 に 耐 えてきたが 強 く わたしは 立 ち 人 々が わたしと 戦 ってきたさまを 見 て あざ 笑 う 勝 利 者 の 影 よ わたしは 軽 蔑 する ならわし 人 の 世 の 取 るに 足 らぬ 風 習 を すべて わたしの 心 は 自 由 わたしの 魂 は 自 由 指 し 招 きなさい そうすれば わたしはあなたについてゆく 84-

エミリ ブロンテ 不 実 で 愚 かな 人 間 よ 知 りなさい あなたが 世 の 軽 蔑 を あざ 笑 おうと あなたの 卑 劣 な 魂 は はるかに 下 劣 で どんな 空 しい 虫 けらにも 及 ばないということを 塵 に 帰 る 者 よ--とどまることを 知 らぬ 驕 りをもち もはやあなたは わたしを 導 き 手 と 思 っているのではあるまい 謙 虚 な 人 々と わたしは 共 にありたい 驕 慢 な 者 たちは わたしにとって 無 にひとしい この 四 行 四 連 詩 は 私 的 な 詩 であり 後 期 の 詩 の 萌 芽 となる 詩 の 典 型 であ る エミリは わたしの 心 は 自 由 わたしの 魂 は 自 由 とこの 詩 で 初 めて 言 い 放 っている 強 くわたしは 立 つ 不 実 で 愚 かな 人 間 よ 知 りなさい あなたの 卑 劣 な 魂 ははるかに 下 劣 でどんな 空 しい 虫 けらにも 及 ばないということを と いう 彼 女 の 言 葉 は 人 間 が 持 つ 一 面 を 鋭 く 言 い 表 している これは 非 難 の 言 葉 で はなくむしろ 自 省 の 言 葉 ととるべきであろう 後 日 No.146 老 克 己 主 義 者 No.174 想 像 力 によせて No.176 わたし のために 弁 護 しなさい No.191 わたしいの 魂 は 卑 怯 ではない 等 の 詩 で 述 べているように 彼 女 はここですでに 富 権 力 信 条 の 空 しさを 明 確 に 表 明 している 彼 女 の 詩 をみていく 上 で 重 要 な 詩 といえる No.36 1837 年 11 月 夜 は わたしのまわりに 闇 を 深 め 荒 々しい 風 が 寒 々と 吹 く だが 暴 虐 な 呪 文 が わたしを 縛 り わたしはできない 進 むことができない -85-

川 股 陽 太 郎 巨 大 な 樹 々は たわみ 裸 の 大 枝 は 雪 の 重 みに かしぐ 嵐 は 疾 風 となり 吹 き 降 りてくる それでも わたしは 進 むことができない 頭 上 には 雲 につぐ 雲 地 上 には 荒 れ 地 につぐ 荒 れ 地 だが いかなる 侘 びしさも わたしを 動 かすことはできない わたしは 進 まない 進 むことができない No.35 同 様 この 四 行 三 連 詩 は 私 的 な 詩 である 夜 と 闇 に 呪 縛 された 詩 人 の 姿 が また 重 苦 しい 雪 雲 等 の 自 然 描 写 に 詩 人 自 身 の 姿 が 重 なって 見 える わたしは 進 まない 進 むことができない という 一 行 には 詩 作 が 思 うよう に 進 まぬことへの 苛 立 ちも 込 められているのであろう No.37 わたしは 訪 れよう 暗 い 部 屋 に ただひとり 横 たわり あなたが 悲 嘆 の 極 みにあるとき 気 違 いじみた 一 日 の 浮 かれ 騒 ぎが 消 え 去 り 喜 びの 微 笑 みが 夕 べの 冷 え 冷 えとした 薄 暗 がりから 追 い 払 われるとき わたしは 訪 れよう 心 に 誠 実 な 感 情 が 完 全 で 公 平 な 力 を 持 つとき わたしの 力 が 知 らぬ 間 に あなたに 襲 いかかり 深 まりゆく 悲 しみ 凍 りつく 喜 びが あなたの 魂 を 連 れ 去 ってしまうとき 86-

エミリ ブロンテ 耳 を 澄 ましなさい いまがまさにその 時 あなたにとって 恐 ろしい 時 あなたは 感 じないのか あなたの 魂 に 怒 濤 のように 押 し 寄 せる 不 思 議 な 感 情 のうねりを いっそう 厳 しい 力 の 前 触 れを わたしの 先 触 れを 五 行 二 連 六 行 一 連 の 変 則 的 な 試 作 詩 の 例 である ここでいう わたし は 詩 人 の 心 に 湧 き 上 がってくる 感 情 であろう わたし と あなた は 同 一 のもの であるといえる ただひとり 暗 い 部 屋 に 横 たわっているとき 怒 濤 のように 押 し 寄 せる 不 思 議 な 感 情 のうねり がときとしてエミリを 襲 ったのであろう No.38 わたしは 至 福 とあなたのことを ひとしく 語 る 天 の 調 べを 奏 でもしたであろうに わたしは うっとりさせる 歌 を 呼 び 起 こしもしたであろうに だが その 言 葉 は わたしの 舌 の 上 で 死 んでしまった そのとき わたしにはわかった 心 を 奪 う 調 べが 喜 びを 語 ることは 二 度 とできないことが そのとき わたしは 感 じた ( 未 完 ) 文 末 に 未 完 と 記 されているように 未 完 の 詩 である 言 葉 は わたしの 舌 の 上 で 死 んでしまった という 表 現 に 見 られるように 遅 々として 筆 が 進 まず 心 を 奪 う 調 べ が 湧 き 起 こってこない 様 子 が この 詩 から 窺 える エミリ 表 現 形 式 として そのときわたしにはわかった そのときわたしは 感 じた という 表 現 を 用 いる 傾 向 がある -87-

川 股 陽 太 郎 No.39 雪 の 花 輪 によせて A.G.アルメダ 作 1837 年 12 月 ああ 天 空 の 束 の 間 の 航 海 者 よ ああ 冬 空 の ものいわぬ 前 触 れよ どのような 逆 風 が あなたの 帆 を 駆 り 立 てたのでしょう 囚 われ 人 の 横 たわる 地 下 牢 へと 思 うに 嘆 き 悲 しむこの 額 から とても 厳 しく 太 陽 を 遮 ったその 手 は なおも 反 逆 の 仕 事 を 続 け あなたのように か 弱 いものを 阻 むこともできたでしょうに そうしていたでしょう もし あなたの 内 にひそむ 不 思 議 な 力 を 知 っていたなら というのも かつて 輝 いた 太 陽 はすべて わたしに これほど 優 しかったことは 一 度 もなかったからです 幾 日 も 幾 週 も わたしの 心 は 沈 んでゆく 暗 闇 に 押 し 潰 されました 朝 日 が 悲 嘆 の 灰 色 のうちに 昇 り わたしの 牢 獄 を 微 かに 照 らすとき だが わたしが 目 を 覚 ますと 天 使 のように たいそう 優 しく 美 しい あなたの 銀 色 の 姿 は 暗 闇 のなかから 輝 いてきて 優 しく 語 ってくれました 雲 で 覆 われた 空 飾 りない 山 々のことを 88-

エミリ ブロンテ 山 になじんだ 者 にとって この 上 なく 愛 しいものよ 故 郷 の 荒 涼 とした 頂 を 覆 う 雪 を わたしは 生 涯 にわたって 愛 してきました 山 裾 の 緑 したたる 野 辺 よりも 声 もなく 魂 もない 使 者 よ あなたの 存 在 は 心 震 える 調 べを 呼 び 覚 ましました それは あなたがここにいるあいだ わたしを 慰 め あなたがいなくなっても わたしを 支 えてくれるでしょう タイトルでわかるように この 四 行 七 連 詩 は ゴンダル の 詩 である 寒 々 とした 地 下 牢 のなかでオ-ガスタが 舞 い 降 りてくる 雪 の 花 びらに 託 し その 想 いを 述 べる 形 をとっている エミリの 詩 には 地 下 牢 が 時 々 姿 を 現 す この 囚 われのイメ-ジ はペ ナインの 冬 の 厳 しい 寒 さと それにともなう 閉 塞 感 からくるのであろう No.33 の 第 四 連 と 同 じように 山 裾 の 緑 したたる 野 辺 よりも 故 郷 の 荒 涼 とした 頂 を 覆 う 雪 を 愛 しいとしている 初 冬 のペナインの 頂 は 白 く 雪 で 覆 われており 冬 空 を 音 もなくひとひらひとひらひらひら 舞 い 降 りてくる 雪 の 花 びらの 美 しさに 魅 せられた 詩 人 の 姿 がこの 詩 にはかいまみられる No.40 ジュリアス アンゴラによる 歌 こわだか 目 覚 めよ 目 覚 めよ なんと 声 高 に 嵐 の 朝 は あたりに 休 らう 異 邦 人 たちを 呼 び 起 こしていることか 起 きよ 起 きよ あれは 嘆 き 悲 しむ 声 なのか あのように 激 しい 音 で われわれの 眠 りを 破 るのは 嘆 き 悲 しむ 声 なのか その 鳴 り 響 く 声 を 聞 け あの 勝 利 の 叫 びは 悲 しみのため 息 をかき 消 す -89-

川 股 陽 太 郎 苦 悩 する 心 は それぞれいつもの 気 持 ちを 忘 れ あかみ 色 褪 せた 頬 は それぞれ 長 らくな 失 くしていた 紅 色 を 取 り 戻 す われわれの 魂 は 喜 びに 溢 れている 神 は わが 軍 に 勝 利 を わが 敵 に 死 を 与 えた 深 紅 の 軍 旗 は その 布 を 天 になびかせ 海 緑 の 軍 旗 は 足 もとの 土 に 横 たわる 愛 国 者 たちよ あなたたちの 祖 国 の 栄 光 に けがれ 穢 はない 兵 士 たちよ その 栄 光 を 輝 かしく 自 由 に 保 ちなさい いくさ アルメダを 平 和 なときも 流 血 の 戦 のときも 勝 利 のため 一 段 と 気 高 い 名 にしよう ジュリアス アンゴラがどういう 人 物 で アルメダがどういう 国 なのか 不 明 である エミリの ゴンダル をテ-マにした 詩 は 戦 いの 後 の 状 況 を 歌 った ものが 多 い その 特 徴 は 色 彩 豊 かな 絵 画 的 描 写 である 例 えば ここでは 勝 利 の 軍 旗 は 天 に 敗 北 の 軍 旗 は 地 に 勝 利 の 軍 旗 は 深 紅 敗 北 の 軍 旗 は 海 緑 というように 天 と 地 紅 と 緑 の 対 比 をなしている No.41 詩 行 1837 年 12 月 わたしは 逝 きます だがそれは あなたにとても 長 いあいだ 慕 われたこの 胸 を 墓 が 押 さえつける 時 この 世 の 憂 いが もう わたしを 悩 ますことは 無 く この 世 の 歓 びが もう わたしにとって 無 となるとき 泣 かないで こう 考 えてください わたしは あなたに 先 だって 陰 鬱 の 海 を 渡 り 無 事 錨 をおろし ついに 90-

エミリ ブロンテ 涙 も 嘆 きも 手 の 届 かぬところに 安 らぐのだと わたしが 悲 しいのは あなたをこの 世 に 残 してゆくことです あの 暗 い 大 海 原 の 上 を 淋 しく 航 海 し 嵐 に 取 り 囲 まれ 数 々の 恐 怖 を 前 にし 優 しい 光 もないところへ だが 長 くとも 短 くとも 人 生 は 永 遠 に 比 べれば 無 にひとしい わたしたちは 地 上 で 別 れ 天 上 で 逢 います 至 福 に 満 ちた 年 月 が 決 して 終 わることのないところで No.41 詩 行 は ゴンダル の 詩 であろう しかし わたし が 誰 で あ なた が 誰 であるかは 不 明 である これは 生 と 死 をさかいとする 離 別 の 歌 である 死 は この 世 の 歓 びこの 世 の 憂 いとの 別 れであり そこは 涙 も 嘆 きもない 安 らぎの 世 界 である わたしが 悲 しいのはあなたをこの 世 に 残 してゆくことです という 言 葉 は 小 説 嵐 が 丘 の 中 のキャサリンの 臨 終 の 言 葉 と 重 なってくる また 人 生 は と き て ん 永 遠 に 比 べれば 無 にひとしい という 言 葉 は 人 生 を 宇 宙 時 間 でとらえれば 一 瞬 であり 人 生 を 否 定 的 にではなく 肯 定 的 に 捉 えているものであろう ここには 生 死 を 越 えた 永 遠 願 望 がみられる No.42 1837 年 12 月 14 日 ああ おかあさま わたしは この 惨 めなこの 世 を 去 るのを 嘆 いているのでは ありません わたしが 行 こうとしている あの 暗 い 世 界 に 忘 却 以 外 何 も ないにしても -91-

川 股 陽 太 郎 でも この 世 で 欺 かれ 疲 れ 果 て 希 望 もなく 思 い 悩 むのは 惨 めですが かつて 愛 しいと 思 ったものを 残 してゆく 苦 しみを 完 全 に 抑 えることは できません 十 二 の 二 倍 の 短 い 歳 月 すべては 終 わり 昼 と 夜 が 二 度 と 訪 れることは ありません 野 原 森 岸 辺 を さまよ 徊 い 歩 くことも もう 二 度 と ありません そして 明 け 方 早 く 真 夜 中 の 星 が 消 えてゆくのを 眺 めることも もう 二 度 と ありません 夏 の 朝 の 息 吹 を 吸 い 夏 の 輝 きを 目 にすることも もう 二 度 とありません 寺 院 の 鐘 が 鳴 っているのが 聞 こえます 鐘 の 音 は 弱 々しく もの 悲 しく 思 えますが そうでなければ 風 は 逆 に 吹 いていて 鐘 の 奏 でる 調 べを わたしの 耳 から 遠 ざけているのでしょう 風 は 冬 の 夜 留 まってはならない 想 いや 物 事 を 語 っています おかあさま そばに 来 てください わたしの 心 は 張 り 裂 けそうです わたしは 去 ってゆくのが 耐 えられません あなたの 悲 しみを 癒 し あなたの 憂 いを 鎮 めるために わたしは もう 戻 って 来 ることのないところへ 行 かなければなりません いいえ 泣 かないでください その 辛 い 嘆 きは 92-

エミリ ブロンテ わたしの 魂 を 激 しい 絶 望 で 苦 しめます いいえ 言 ってください 古 い 教 会 の 石 の 下 に わたしが 横 たわるとき あなたは 涙 を 払 い ため 息 をやめ 去 っていった 魂 を すぐ 忘 れてしまうでしょうと あなたは 長 いあいだ 教 えてほしいといっていました どのような 悲 しみが あおじろ わたしの 頬 を 蒼 白 くし わたしの 眼 の 光 を 消 してしまったのかを わたしたちは 明 日 を 待 たずして お 別 れすることになるでしょう ですから わたしは 逝 く 前 に 心 の 内 を 明 かします 十 年 前 の 九 月 に あのかた フェルナンドは 彼 の 家 とあなたのもとを 去 りました アデュ- いまでも あなたは あの 最 後 の 別 れ の 苦 しみを 覚 えているに 違 いないと 思 います あなたは よくご 承 知 です 激 しく 思 い 焦 がれながら 秋 の すっかり 侘 びしく 暮 れゆくあいだ あのかた どれほど わたしが 彼 の 顔 を 見 たがっていたかを 嵐 の 夜 も 雨 の 日 も ずっと アレオンの 森 のはずれに 淋 しい 美 しい 空 き 地 があります そこでともに 育 まれた 二 人 の 心 が 最 初 の 運 命 の 別 れをしました -93-

川 股 陽 太 郎 午 後 の 日 は 柔 らかな 日 差 しのなかで それぞれの 緑 の 丘 と そよぐ 木 々に 光 を 注 いでいました わたしの 前 に 広 がる 広 々とした 庭 園 の 向 こうに 果 てしない 海 が はるか 遠 く 広 がって 居 ました あのかた 彼 が わたしのもとを 立 ち 去 ってしまうと わたしはそこに 立 ち 青 ざめた 頬 して でも 涙 も 枯 れて いのち わたしから 生 命 と 希 望 と 歓 びを ふ ね 奪 ってゆく 帆 船 を 見 つめていました 船 は 去 ってしまい その 夜 眠 れぬ 悲 しみに わたしは 枕 を 濡 らし ひとり 悲 しみながら さまよ わたしの 魂 は いつまでも 大 波 の 上 を 彷 徊 い 永 遠 に 飛 び 去 った 恋 しい 人 を 思 って 泣 きました でも 追 憶 のなかで 明 るくほほ 笑 みながら ひととき 至 福 の 一 刻 が わたしに 戻 ってきます 一 通 の 文 が 無 事 航 海 を 終 えたと 変 わらぬ 愛 情 を 伝 えてくれました しかし 二 通 目 はありません 心 配 と 希 望 のうちに どき 春 冬 穫 り 入 れ 期 が いつの 間 にか 通 り 過 ぎてゆきました そして ついに かつては 耐 えられなかった 想 いに と き 耐 える 力 を 時 間 が もたらしてくれました そして わたしは 夏 の 夕 暮 れどき わたしたちの 最 後 の 別 れを 告 げた 場 所 へ よく 行 きました そして そこで 次 々と 浮 かんでくる 幻 を 辿 りながら 94-

エミリ ブロンテ わたしは 晩 鐘 の 鐘 の 時 刻 まで 去 りやらず 佇 んでいました No.42 の 四 行 十 八 連 詩 は ゴンダル 詩 の 典 型 である エミリは 四 行 連 詩 の 詩 形 を 用 いながらその 詩 的 才 能 を 徐 々に 開 花 させ 本 領 を 発 揮 していく この 詩 は 初 期 の 詩 なかのその 代 表 例 といえる 死 と 別 れおよび 死 がもたらす 苦 悩 と 苦 悩 からの 解 放 この 二 つの 要 素 を 対 立 させながら 同 化 させていく 表 現 法 は それが 単 に 手 法 であるだけで なく エミリの 作 品 の 本 質 と 深 いかかわりを 持 つようになる No.41 と 同 様 No.42 の 離 別 とそれがもたらす 苦 悩 は 嵐 が 丘 のキャ サリンとヒ-スクリフに 再 現 される 単 なる 死 や 安 らかな 死 ではなく 激 しい 葛 藤 と 苦 悶 のあとにやってくる 死 がこの 世 の 憂 いとの 決 別 であると 同 時 に 永 遠 の 安 らぎの 世 界 にいたるための 絶 対 条 件 となっている エミリの 作 品 はこの 認 識 無 くして 理 解 することは 出 来 ない この 認 識 無 くして 彼 女 の 作 品 を 読 むと あたしぃ- いままでにぃ- こん なぁ- 素 晴 らしいしぃ- 作 品 ん- 読 んだぁ-こともぉ-ないしぃ- こ れってぇ- 激 しぃ- 恋 愛 小 説 ぅ- ということになる もっとも 一 般 の 読 者 がどう 読 もうと 読 者 の 自 由 であるが No.41 の 悲 しいのはあなたをこの 世 に 残 してゆくことです という 言 葉 と No.42 の わたしはこの 惨 めなこの 世 を 去 るのを 嘆 いているのではありません かつて 愛 しいと 思 ったものを 残 してゆく 苦 しみを 完 全 に 抑 えることはできませ ん という 言 葉 は 同 質 であるといえる この 詩 のなかで わたし が この 世 で 欺 かれ 疲 れ 果 て 希 望 もなく と 述 べているが これはヒ-スクリフの 置 かれた 環 境 それにともなう 人 格 形 成 その 後 の 復 讐 と 復 讐 をなしとげたあとに 残 る 虚 脱 感 や 無 力 感 と 無 縁 ではな い また この 詩 のなかの 人 生 は 永 遠 に 比 べれば 無 に 等 しい という 言 葉 は 上 記 のとおり 必 ずしも 人 生 を 否 定 的 に 捉 えているものでなく 生 は 人 の 肉 体 を この 地 上 に 縛 り 付 け 愛 と 憎 しみ 歓 びと 悲 しみ 至 福 と 苦 悶 をもたらし 儚 -95-

川 股 陽 太 郎 く 貴 く それが 故 に 限 りなく 愛 おしく 尊 い と 肯 定 的 に 捉 えていると 理 解 するのが 妥 当 であろう この 詩 のなかの おかあさま わたし あなた フェルナンド がどうい う 人 物 なのか また アレオンの 森 がどういう 場 所 なのかは 不 明 である No.43 G H 1838 年 2 月 いのち 生 命 から 引 き 離 され あの 人 の 人 生 の 朝 のうちに 引 き 裂 かれ 永 遠 の 暗 闇 に 閉 じ 込 められ 望 みなき 墓 に 埋 められる だが ひざまずき あなたを 追 放 した 力 に 感 謝 しなさい 鎖 と 格 子 と 牢 獄 の 壁 は さらに 恐 ろしい 束 縛 から あなたを 救 い 出 した その 別 れが あなたの 心 を 傷 つける 前 に あなたを 引 き 離 した 力 に 感 謝 しなさい 羊 歯 とヒ-スの 生 い 茂 る 源 から 山 の 泉 は 激 しく 湧 き 出 していた その 流 が 岸 辺 まで 達 していたら その 轟 きは どれほど 無 敵 のものであったろう ゴンダル の 詩 であるが G H が 誰 であるのか 何 を 指 すのか 不 明 で ある エミリの 詩 には 地 下 牢 牢 獄 死 は 牢 獄 からの 解 放 いうテ-マが 時 折 顔 を 出 す 死 は 苦 しみからの 解 放 牢 獄 は 苦 しみからの 解 放 につながる 96-

エミリ ブロンテ No.44 わたしが この 上 なく 幸 せなのは 月 が 皓 々と 照 らす 風 の 夜 ふるさと 魂 が その 故 郷 なる 肉 体 を 遠 く 離 れ 目 が 光 り 輝 く 世 界 を さまよ 逍 うとき わたしもなく そばに 誰 もなく 大 地 も 海 も 雲 なき 空 もなく ただ 魂 だけが 無 限 の 時 空 を 通 り 抜 け あまねく さまよ 逍 うとき 私 的 な 詩 である 月 が 皓 々と 照 らす 夜 空 を 見 上 げていると エミリの 魂 は 光 り 輝 く 世 界 を 無 限 の 時 空 を 通 り 抜 ける 宇 宙 の 概 念 が 今 からわずか 半 世 紀 前 まで 当 時 とさほど 変 わらなかったことを 考 えると 時 間 と 空 間 に 対 する 詩 人 の 感 性 は 極 めて 先 進 的 であったといえる 彼 女 の 魂 は 宇 宙 空 間 を 自 在 に 往 き 来 し 遊 ぶことが 出 来 た No.45 家 のなかは すべて ひっそりと 静 まり 外 は すべて 風 としのつく 雨 だが 何 かが わたしの 心 に 囁 く 雨 のなかから 泣 き 叫 ぶ 風 のなかから 二 度 と 返 らず 二 度 と 返 らずとは なぜ 二 度 と 返 らずなのか 想 い 出 は あなたのように 真 実 の 力 を 持 っている この No.45 の 詩 は 私 的 な 詩 であるが 遅 々として 筆 の 進 まぬ 嘆 きの 例 と -97-

川 股 陽 太 郎 いえよう No.46 城 の 鐘 が 一 時 を 告 げたとき アイア-ニの 眼 は どんより 霞 んでいた 彼 女 は 不 気 味 な 自 分 の 地 下 牢 を 見 渡 した 鉄 格 子 は 怪 しげな 光 を 投 げかけていた ひとすじ 雲 間 から 洩 れる 一 条 の 冷 たい 月 明 かりであった アイア-ニは 夢 うつつに じっと 見 つめ 太 陽 を 見 たと 思 った 彼 女 は 夜 明 けだと 思 った 夜 は それほど 長 かった ゴンダル の 詩 である この 城 がどこにあって アイア-ニがどのような 身 分 の 女 性 なのか 不 明 である にもかかわらず 抗 争 に 明 け 暮 れまた 愛 と 裏 切 り に 満 ちた 世 界 にあって 地 下 牢 に 繋 がれたアイア-ニの 姿 が 浮 かんでくる No.47 だが かつて わたしを 敬 愛 した 人 の 心 は とうの 昔 に その 誓 いを 忘 れてしまっていた そして わたしのまわりに 群 がった 友 は みな わたしを 見 捨 ててしまった それは 夢 のなかで わたしに 明 かされた だが 眠 りの 夢 ではなかった 寝 ずの 苦 悩 の 泣 くまいとする 悲 しみの 夢 であった 98-

エミリ ブロンテ もう よそよそしく 顔 をそむけないで B 未 完 末 行 に 未 完 とエミリ 自 身 が 記 しているように 未 完 の ゴンダル の 詩 である だがかつてわたしを 敬 愛 した 人 の 心 はとうの 昔 にその 誓 いを 忘 れて しまっていた そしてわたしのまわりに 群 がった 友 はみなわたしを 見 捨 ててし まった とあるように No.46 と 同 様 の 世 界 が 広 がっている No.48 沈 黙 の 墓 のなか 深 く 深 く 臥 し 墓 の 上 で 嘆 くもの ひとりとしてない No.49 この あなたの 墓 石 の 上 に ひざまずき わたしは 消 え 去 った 想 いに 別 れを 告 げる わたしは あなたに 涙 と 苦 痛 を 委 ね ふたたび うつせみ 現 の 世 へ 舞 い 戻 ってゆく No.48 No.49 は 未 完 の ゴンダル 詩 であろう No.50 ああ もう 一 度 来 てください どのような 鎖 が あれほど 早 かった 足 取 りを 引 き 留 めるのですか じめじめ さあ 湿 々 した 寒 いあなたの 住 まいを 出 て もう 一 度 わたしを 訪 ねてください 私 的 な 詩 であろう 早 かった 足 取 り 湿 々した 寒 いあなたの 住 まい は 季 節 を 指 すのであろうか -99-

川 股 陽 太 郎 No.51 野 辺 は 緑 花 さき 蕾 ふくらみ のどか 夏 空 は 長 閑 な 時 でしたでしょうか あなたが わたしを 訪 ねてきたのは いいえ 花 さく 野 辺 の 時 では ありませんでした そよかぜ いいえ 芳 しい 微 風 の 時 では ありませんでした 夏 の 空 は また 訪 れるでしょう でも あなたは もうそこにはおいでにならないでしょう No.51 初 夏 を 想 い 浮 かべての ゴンダル の 歌 であろうか あなたは が 誰 であるのか 不 明 である No.52 こわだか なんと 声 高 に 嵐 は ホ-ル 館 のまわりで 鳴 り 響 くことか ア-チからア-チへ ドアからドアへ 柱 と 屋 根 と 御 影 石 の 壁 は その 咆 哮 に 揺 りかごのように 揺 れる にれ あの 楡 の 木 は 幽 霊 の 出 る 泉 のほとりにあって めぐり 来 る 夏 空 に 挨 拶 をすることはない 巨 木 は 突 然 倒 れ 道 をふさぎ 横 たわる 葬 送 の 列 は 長 らく 風 と 雪 に 阻 まれ ほとんど 進 んではいなかった 100-

エミリ ブロンテ どのようにして ふたたび 家 に 辿 り 着 くのであろう 明 日 の 夜 明 けが おそらく 教 えることだろう 私 的 な 詩 であろう 冬 馬 の 背 をしたペナイン 山 脈 を 越 えてくる 強 風 の 激 しさを 想 像 させる 嵐 は 唸 り 声 をあげて 鳴 り 響 き 石 作 りの 家 を 揺 さぶり にれ 楡 の 大 木 を 倒 す 雪 を 掻 き 分 けて 進 むこともままならない 夜 道 も 定 かでな い 吹 雪 のペナインを 歩 くことは 不 可 能 に 近 かった ロックウッドが 夜 道 を 吹 雪 のなかを 歩 いて 帰 ろうとする 場 面 と 重 なってくる 今 日 のペナインからは 当 時 のペナインの 雪 深 さは 想 像 もできない No.53 まどろ ここで 微 睡 んで なんの 意 味 があろうか 心 は 悲 しく 疲 れているとしても まどろ ここで 微 睡 んで なんの 意 味 があろうか 日 は 暗 く 侘 びしく 昇 るとしても 太 陽 が 高 く 昇 れば あの 霧 は 晴 れるかも 知 れない この 魂 は 悲 しみを 忘 れるかも 知 れない 落 日 の 薔 薇 色 の 光 は もっと 輝 かしい 明 日 を 約 束 するかも 知 れない 未 完 の 私 的 な 詩 であろうか No.54 ああ 夕 暮 れよ なぜあなたの 光 は そんなに 悲 しいのか なぜ 太 陽 の 落 日 の 光 は そんなに 冷 たいのか ほほえみ 静 かに わたしたちの 微 笑 は いつも 楽 しそう だが あなたの 心 は 老 いてゆく -101-

川 股 陽 太 郎 私 的 な 詩 であろう エミリにとって 夕 陽 はときにたいそう 輝 かしく ときに 冷 たく 悲 しいものである No.55 もう 終 わった わたしには すべてがわかった もう 心 の 内 に 隠 しておかず もう 一 度 あの 夜 を 思 い 起 こし あの 恐 ろしい 幻 を 思 い 浮 かべてみよう 夕 日 は 雲 ひとつない 輝 きのなか 神 々しい 夏 の 天 から 消 え 去 っていた 黄 昏 の 影 次 第 に 暗 く 星 が 藍 の 深 みに 現 れた 山 々のヒ-スのなか 人 目 や 憂 いから 遠 く 離 れ 物 思 いに 沈 み 目 に 涙 を 浮 かべ わたしは 厳 かな 空 を 悲 しく 眺 めていた < 続 く > 102-

エミリ ブロンテ 1. Cold, clear, and blue, the morning heaven Expands its arch on high; Cold, clear, and blue, Lake Werna s water Reflects that winter s sky. The moon has set, but Venus shines A silent, silvery star. 2. July 12, 1836 Will the day be bright or cloudy? Sweetly has its dawn begun; But the heaven may shake with thunder Ere the setting of the sun. Lady, watch Apollo s journey: Thus thy firstborn s course shall be If his beams through summer vapours Warm the earth all placidly, Her days shall pass like a pleasant dream in sweet tranquillity. If it darken, if a shadow Quench his rays and summon rain, Flowers may open, buds may blossom: Bud and flower alike are vain; Her days shall pass like a mournful story in care and tears and pain. If the wind be fresh and free, The wide skies clear and cloudless blue, -103-

川 股 陽 太 郎 The woods and fields and golden flowers Sparkling in sunshine and in dew, Her days shall pass in Glory s light the world s drear desert through. 3. Tell me, tell me, smiling child, What the past is like to thee? An Autumn evening soft and mild With a wind that sighs mournfully. Tell me, what is the present hour? A green and flowery spray Where a young bird sits gathering its power To mount and fly away. And what is the future, happy one? A sea beneath a cloudless sun; A mighty, glorious, dazzling sea Stretching into infinity. 4. The inspiring music s thrilling sound, The glory of the festal day, The glittering splendour rising round, Have passed like all earth s joys away. Forsaken by that Lady fair She glides unheeding through them all Covering her brow to hide the tear That still, though checked, trembles to fall. 104-

エミリ ブロンテ She hurries through the outer Hall And up the stairs through galleries dim That murmur to the breezes call The night-wind s lonely vesper hymn. 5. December 13, 1836 High waving heather, neath stormy blasts bending, Midnight and moonlight and bright shining stars; Darkness and glory rejoicingly blending, Earth rising to heaven and heaven descending, Man s spirit away from its drear dongeon sending, Bursting the fetters and breaking the bars. All down the mountain sides, wild forests lending One mighty voice to the life-giving wind; Rivers their banks in the jubilee rending, Fast through the valleys a reckless course wending, Wider and deeper their waters extending, Leaving a desolate desert behind. Shining and lowering and swelling and dying, Changing for ever from midnight to noon; Roaring like thunder, like soft music sighing, Shadows on shadows advancing and flying, Lightning-bright flashes the deep gloom defying, Coming as swiftly and fading as soon. -105-