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Title Author(s) Citation Issue date 2015 Resource Type Resource Version URL Kobe University Repository : Kernel 中 学 校 検 定 教 科 書 の 語 用 論 的 観 点 からの 分 析 : 平 成 28 年 度 改 訂 版 Sunshine English Course を 例 に 大 和, 知 史 / アダチ, 徹 子 神 戸 大 学 国 際 コミュニケーションセンター 論 集, 12: 79-89 Departmental Bulletin Paper / 紀 要 論 文 publisher http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81009382 Create Date: 2016-07-11

中 学 校 検 定 教 科 書 の 語 用 論 的 観 点 からの 分 析 平 成 28 年 度 改 訂 版 Sunshine English Course を 例 に 大 和 知 史 1 アダチ 徹 子 2 1.はじめに 本 論 は, 中 学 校 において 指 導 のベースとなる 検 定 教 科 書 を 取 り 上 げ, 用 いられている 表 現 が, 語 用 論 的 にどれだけ 配 慮 されているかを 確 認 するものである 具 体 的 には, 平 成 28 年 4 月 より 使 用 が 開 始 される 英 語 科 教 科 書 として 編 修 された Sunshine English CourseⅠ Ⅲ を 取 り 上 げ,その 中 で 用 いられている 表 現 の 語 用 論 的 機 能 分 類 から 教 材 の 持 つ 課 題 や 問 題 点 を 明 らかにすることである まず, 語 用 論 的 能 力 や 語 用 論 的 機 能 といった 基 本 概 念 とその 重 要 性 を 確 認 した 後, 語 用 論 的 観 点 が 学 習 指 導 要 領 にどのように 示 されてきたかを 示 す そして, 教 科 書 分 析 を 行 った 先 行 研 究 の 結 果 なども 踏 まえな がら, 最 新 版 の 教 科 書 を 一 例 として,どのような 語 用 論 的 機 能 を 持 った 表 現 が 用 いられているのか 分 析 を 行 う その 結 果 を 踏 まえ, 英 語 授 業 における 語 用 論 的 観 点 の 重 要 性 を 改 めて 主 張 し, 教 科 書 に 求 められるべき 語 用 論 的 観 点 教 員 が 教 材 分 析 において 持 つべき 視 点 観 点 について 提 案 をする 2. 語 用 論 的 能 力 の 重 要 性 現 在 の 英 語 教 育 において,コミュニケーション 能 力 の 育 成 が 謳 われて 久 しいが,それを 構 成 する 一 要 素 と して 語 用 論 的 能 力 がある 語 用 論 的 能 力 とは, 社 会 文 化 的 規 範 についての 知 識 や 理 解,そしてそうしたも のを 応 用 し, 他 者 とのコミュニケーションにおいて 運 用 できる 能 力 ( 石 原 コーエン, 2015, p.2) のことであるが, 後 述 する 学 習 指 導 要 領 の 中 でも, 言 語 の 使 用 場 面 と 言 語 の 働 き として 取 り 上 げられており,その 重 要 性 は 認 識 されている 水 島 (2015)は, 自 身 の 教 授 経 験 を 振 り 返 り, 学 習 者 は 依 頼 をする 相 手 や 場 面 によっては 丁 寧 な 表 現 を 使 うべきであるといった, 場 面 に 応 じた 配 慮 の 必 要 性 は 認 識 しているが,それを 伝 える 段 階 では 紋 切 り 型 の 限 られた 表 現 しか 思 い 浮 かばない,と 述 べており, 学 習 者 の 語 用 論 的 知 識 の 不 足 や 偏 りが 見 られると 述 べて いる こうした 語 用 論 的 知 識 の 不 足 や 偏 りの 原 因 の 一 つとして, 学 習 者 がインプットとして 言 語 情 報 を 得 る 教 材 教 科 書 が 考 えられる(LoCastro, 2012; 水 島, 2015; 清 水, 2009) 指 導 を 行 う 教 員 の 側 は, 自 身 が 語 用 論 的 知 識 を 備 えていることはもちろんのこと, 教 材 教 科 書 における 語 用 論 的 知 識 の 不 足 や 偏 りに 十 分 に 配 慮 しなくてはならない 言 い 換 えると, 語 用 論 的 観 点 を 持 って 教 材 研 究 にあたらねばならないのである 語 用 論 的 観 点 の 重 要 性 を 表 す 事 例 として,ある 教 育 実 習 での 出 来 事 を 紹 介 する 中 学 校 3 年 生 を 指 導 し 1 2 神 戸 大 学 大 学 教 育 推 進 機 構 国 際 コミュニケーションセンター yamato@port.kobe-u.ac.jp 宮 崎 大 学 大 学 院 教 育 学 研 究 科 adachit@cc.miyazaki-u.ac.jp -79-

た 実 習 生 が 担 当 した 箇 所 には, 目 標 文 として how to を 含 む 表 現 があった 意 味 や 用 法 の 導 入 の 後, 練 習 と してビンゴゲームを 行 った ワークシートには, know how to use a computer や know how to make miso soup といった how to を 含 む 表 現 がイラストとともにマスに 記 され,クラスメイトに Do you know how to ~? と 質 問 をし, Yes, I do. の 回 答 を 得 るとマスに 名 前 を 書 いていき,4 人 の 名 前 が 並 ぶとビンゴといった 趣 向 であっ た 活 動 に 入 ると,ある 生 徒 が これって 頼 んでるんじゃないんですか? 答 える 時 に Yes, I do. だけでいいん ですか? と, 筆 者 に 尋 ねてきた この 生 徒 は Do you know how to ~? の 持 つ 依 頼 という 言 語 の 働 き に 気 づいていたが, 実 習 生 は,この 表 現 を 事 実 を 確 認 する という 言 語 の 働 き として 扱 い, 機 械 的 な 練 習 に 落 とし 込 んでしまった 更 には, 実 習 生 自 身 や 指 導 に 当 たった 教 員 においても, 言 語 の 働 き に 無 頓 着 であ ったと 言 わざるを 得 ない 3. 指 導 要 領 における 言 語 の 働 き 過 去 の 外 国 語 科 の 学 習 指 導 要 領 において, 言 語 の 働 き がどのように 示 されているかを 概 観 する まず, 昭 和 22(1947) 年 に 発 表 された 学 習 指 導 要 領 ( 試 案 ) においては, 各 学 年 の 指 導 方 法 の 一 部 として 教 室 で 読 むもの についての 記 述 がある 例 えば, 家 族 家 庭 環 境 などについての 家 庭 生 活, 友 だちや 勉 強 に ついての 学 校 生 活,クリスマスや 住 んでいる 町 についての 市 民 生 活 などの 例 が 示 されているが,これら は 文 章 の 題 材 の 例 のようなものであり, 言 語 の 働 き についての 意 識 があったようには 見 受 けられない 昭 和 26(1951) 年 の 改 訂 版 においては, 場 面 と 機 能 という 言 葉 が 使 われているが,どちらも 現 在 でいう 文 脈 のような 意 味 で 用 いられており, 同 じ 単 語 でも 文 脈 によっては 違 う 意 味 をもつという 例 が 示 されている そ の 後 何 度 か 改 定 された 学 習 指 導 要 領 においても, 言 語 の 働 き に 相 当 する 記 述 は 見 られず, 指 導 すべき 文 法 事 項 や 語 彙 が 中 心 となっている ただ, 平 成 元 (1989) 年 の 学 習 指 導 要 領 では,それまでと 異 なり, 学 年 ご とに 指 導 すべき 文 法 事 項 の 指 定 がなくなった 教 科 書 作 成 や 言 語 活 動 の 設 定 において,より 自 由 度 を 広 げ ようというねらいが 感 じられる 言 語 の 働 き が 示 されるようになったのは, 平 成 10(1998) 年 版 からである 言 語 活 動 の 取 扱 い に 関 する 留 意 点 として, (ア) 実 際 に 言 語 を 使 用 して 互 いの 気 持 ちや 考 えを 伝 え 合 うなどのコミュニケーションを 図 る 活 動 を 行 うとともに,(3)に 示 す 言 語 材 料 について 理 解 したり 練 習 したりする 活 動 を 行 うようにすること (イ) コミュニケーションを 図 る 活 動 においては, 具 体 的 な 場 面 や 状 況 に 合 った 適 切 な 表 現 を 自 ら 考 えて 言 語 活 動 ができるようにすること (ウ) 言 語 活 動 を 行 うに 当 たり, 主 として 次 に 示 すような 言 語 の 使 用 場 面 や 言 語 の 働 きを 取 り 上 げるようにすること の 3 点 が 挙 げられた そして, 平 成 20(2008) 年 に 告 示 された 現 行 の 学 習 指 導 要 領 でも, 言 語 の 働 き は 例 示 されているが, 平 成 10 年 度 版 と 少 し 変 わっている 以 下 の 表 1 に,10 年 度 と 20 年 度 版 の 言 語 の 働 き の 例 を 示 す -80-

表 1 二 つの 学 習 指 導 要 領 の 言 語 の 働 き の 例 平 成 10 年 度 版 平 成 20 年 度 版 a 考 えを 深 めたり 情 報 を 伝 えたりするもの a コミュニケーションを 円 滑 にする 意 見 を 言 う 説 明 する 報 告 する 呼 び 掛 ける 相 づちをうつ 聞 き 直 す 発 表 する 描 写 する など 繰 り 返 す など b 気 持 ちを 伝 える b 相 手 の 行 動 を 促 したり 自 分 の 意 志 を 示 したりするもの 礼 を 言 う 苦 情 を 言 う 褒 める 謝 る など 質 問 する 依 頼 する 招 待 する c 情 報 を 伝 える 申 し 出 る 確 認 する 約 束 する 説 明 する 報 告 する 発 表 する 賛 成 する/ 反 対 する 承 諾 する/ 断 る など 描 写 する など d 考 えや 意 図 を 伝 える c 気 持 ちを 伝 えるもの 申 し 出 る 約 束 する 意 見 を 言 う 賛 成 する 礼 を 言 う 苦 情 を 言 う 褒 める 謝 る など 反 対 する 承 諾 する 断 る など e 相 手 の 行 動 を 促 す 質 問 する 依 頼 する 招 待 する など このように, 指 導 内 容 や 配 列 を 文 法 からだけでなく, 場 面 及 び 言 語 の 働 き という 観 点 から 考 えるという 視 点 が 入 ったことは,もちろん 教 科 書 にも 影 響 を 与 えた 図 1 5 は, 出 版 年 が 異 なる 開 隆 堂 の 検 定 教 科 書 Sunshine English CourseⅠ の Lesson (Program) 2 の 最 初 のページを 示 したものである 図 1 昭 和 61 年 度 版 Lesson 2 の 見 開 き 図 2 平 成 4 年 度 版 Program 2 の 見 開 き 図 3 平 成 8 年 度 版 Program 2 の 見 開 き 図 4 平 成 13 年 度 版 Program 2 の 見 開 き -81-

図 5 平 成 27 年 度 版 Program 2 の 見 開 き 昭 和 61 年 度 のものには, 本 文 以 外 にはターゲットセンテンスくらいで, 言 語 の 働 き を 明 示 してはいない (タイトルの あれ 何 かしら? に 多 少 の 配 慮 があるようにも 見 えるが, 他 のレッスンと 比 較 すると 単 なるタイトル に 過 ぎないと 判 断 できそうである ) 平 成 4 年 度 版 と 平 成 8 年 度 版 には,ページの 下 半 分 に 言 語 の 働 き に 近 いと 思 われる 注 釈 がつけられるようになっている はっきり 変 わったのは 平 成 13 年 度 版 からで,ページの 上 部 に 身 の 回 りのものについてたずねたり, 答 えたりできるようにしよう というように,この Program で 学 習 す る 言 語 の 働 き を 示 すようになった 練 習 の 箇 所 に 関 しても, 例 えば 平 成 8 年 度 版 の 右 ページの 下 には 絵 や 実 物 を 示 して 練 習 しましょう という 指 示 がなされているが, 最 新 の 平 成 27 年 度 版 の 左 ページでは ちび まる 子 ちゃんの 家 族 の 一 人 になったつもりで 自 己 紹 介 をする という 設 定 になっており, 目 標 表 現 の 定 着 か ら 言 葉 を 使 って 何 かをする というように 教 科 書 作 成 の 意 図 が 変 化 したことが 読 み 取 れる 4. 教 科 書 分 析 4.1 教 科 書 分 析 を 行 った 先 行 研 究 これまで, 語 用 論 的 観 点 に 立 ち, 教 材 や 教 科 書 を 分 析 した 例 はいくつかあるが(Diepenbroek & Derwing, 2013; Nguyen & Ishitobi, 2012; Vellenga, 2004 など),いずれもあまり 芳 しい 結 果 を 得 ていないのが 現 状 のよう である 石 原 コーエン(2015)は 次 のように 述 べている 語 用 論 的 観 点 から 行 われた 教 科 書 分 析 に 共 通 する 傾 向 は, 新 しい 教 材 の 中 には 改 善 の 兆 しが 見 られるものの, 現 在 使 われている 言 語 教 材 の 多 くは, 語 用 論 的 言 語 データや 自 然 な 会 話 の 分 析 から 得 られる 洞 察 を 学 習 者 のインプットとなる 会 話 例 に 十 分 に 採 用 してい ないばかりか,そのようなインプットがある 場 合 でも 語 用 論 的 指 導 が 十 分 に 行 われていな いという 点 である 残 念 ながら 語 用 論 的 指 導 に 関 しては, 教 科 書 を 全 面 的 に 頼 りにすること はできず, 教 員 の 裁 量 や 力 量 次 第 であるというのが 現 状 のようだ(171) ここでは, 検 定 教 科 書 を 語 用 論 的 観 点 から 考 察 した 研 究 (Shimizu, Fukasawa, & Yonekura, 207: 2008 な ど),の 中 でも, 主 な 分 析 例 として 次 の 2 つの 研 究 を 概 説 する 水 島 (2015)は, 高 等 学 校 検 定 教 科 書 英 語 表 現 Ⅰ の 8 冊 の 例 文 の 機 能 分 析 を 行 い,コンテクスト 性 相 互 行 為 性 ディコース 性 メタ 語 用 論 的 解 説 の 4 つの 観 点 から 評 価 し, 分 析 を 行 っている その 結 果, 言 語 機 能 -82-

のバリエーションに 偏 りがあり,コンテクストが 不 在 あるいは 不 明 確 であることが 分 かった また, 相 互 行 為 性 に 乏 しい 例 文 や 一 文 ( 発 話 ) 単 位 で 完 結 してしまっている 例 文 が 多 いことが 明 らかになった メタ 語 用 論 的 解 説 も 少 なく,あったとしても 助 動 詞 に 限 定 的 であることが 分 かった この 結 果 から, 教 科 書 に 求 められる 提 言 と して,もっと 多 様 に,コンテクストを, 相 互 行 為 や 談 話 の 流 れをイメージできるもの, 幅 広 い 文 法 項 目 にメタ 語 用 論 的 解 説 を 取 り 入 れるべきであるとのことであった 日 浅 (2014)は, 中 学 校 3 年 生 用 の 英 語 教 科 書 6 社 分 について 学 習 指 導 要 領 の 改 訂 前 と 改 訂 後 の 12 冊 の 会 話 文 を 分 析 し, 言 語 の 働 き を 基 にして 類 型 化 している 会 話 文 を 一 つのディスコースとみなし,その 単 位 で 言 語 の 働 きのどれに 当 てはまるかを 確 認 したところ, 会 話 文 の 数 言 語 の 働 き の 観 点 から, 指 導 要 領 の 改 訂 の 影 響 はみられなかったと 結 論 づけている そこで, 本 論 では, 先 の 日 浅 (2014)では 変 化 がないとされた 教 科 書 であるが, 改 定 版 を 取 り 上 げることとし, 会 話 文 をディスコースとみなす 形 式 ではなく, 本 文 の 一 つ 一 つの 機 能 を 確 認 することとした また, 日 浅 (2014)と 水 島 (2015)の 両 方 が 観 点 として 用 いていた, 言 語 の 働 き を 語 用 論 的 観 点 として 用 いて 検 討 する こととした なお, 平 成 28 年 4 月 より 使 用 される 予 定 である, 改 定 版 となった 中 学 校 検 定 教 科 書 の 中 から Sunshine English CourseⅠ Ⅲ ( 開 隆 堂 出 版 )を 例 として 取 り, 本 文 表 現 の 機 能 分 析 を 行 うこととした 4.2 Sunshine English CourseⅠ Ⅲの 分 析 分 析 対 象 は, 各 Program の 本 文 のみとし, 練 習 問 題 や 例 文 等 についてはコンテクストが 不 十 分 であるもの が 多 いため 対 象 としなかった 本 文 の 一 つ 一 つについて, 発 話 行 為 の 別 に 分 類 し, 学 習 指 導 要 領 が 例 とし て 挙 げている 五 つの 言 語 の 機 能 を 基 本 とし( 表 1 参 照 ), 指 導 要 領 解 説 の 具 体 例 も 参 考 にしながら 筆 者 ら の 合 議 で 行 った また, 各 Program がどの 言 語 の 働 き に 焦 点 をあてているかについて, 開 隆 堂 出 版 が 公 開 しているウェブサイト(http://www.kairyudo.co.jp/contents/02_chu/eigo/h28/index.htm)を 参 照 し,これらの 情 報 とも 比 較 して 考 察 を 行 った 4.2.1 発 話 行 為 の 機 能 分 類 各 文 がどのような 発 話 行 為 に 該 当 するかを 分 類 した 結 果, 下 の 表 2 のようになった 発 話 行 為 の 種 類 は, 学 習 指 導 要 領 が 示 す 例 以 上 にあり, 中 学 生 のレベルであってもさまざまなことを 表 現 できることがうかがえる 以 下,この 分 類 から 分 かることを 考 察 する まず, 発 話 行 為 の 件 数 別 で 見 ると, 最 も 多 く 現 れている 発 話 行 為 は 説 明 する 報 告 する 描 写 する であり, 3 学 年 を 通 して493 例 であり, 全 体 の 62%を 占 めている 最 も 基 本 的 な 発 話 行 為 であり,いわゆる 陳 述 文 はほ ぼすべてこのカテゴリーに 当 てはまるものである 次 に 最 も 多 く 現 れているのが,3 学 年 を 通 して 79 例 の 情 報 を 求 める 質 問 する で,およそ 10%を 占 める 典 型 例 としては, Are you a baseball fan? (Sunshine English CourseⅠ, Program 2: 以 下 S1-P2 のように 記 載 する), What language do they speak? (S2-P2)などで ある その 次 に 多 かったのが, 相 づちをうつ の 32 例 で, 典 型 例 は Really? (S1-P4), Did you? (S2-P1) などである 続 いて, 話 の 流 れを 示 す 前 置 きをする 話 題 を 変 える 話 題 を 元 に 戻 す 発 表 する も 32 例 あり, 典 型 例 としては Well, all right. (S2-P4), How many volcanoes have you seen? (S3-P2) などであった また,22 例 みられた 注 意 を 引 く も Excuse me (S1-P3)などの 典 型 例 から 分 かる 通 り, 比 較 的 多 いものであることが 分 かった それら 以 降 となると,3 学 年 を 通 して 10 例 前 後 と 少 な -83-

くなる 言 語 機 能 の 多 様 性 という 観 点 から 教 科 書 本 文 を 見 ると, 先 の 水 島 (2015)の 指 摘 と 同 様 に, それほどバラエティに 富 んでいるとは 言 えない ただし, 本 研 究 は 分 析 対 象 をプログラムの 本 文 に 限 定 しているので,プログラム 以 外 の 技 能 別 の 言 語 活 動 のページなどを 含 めると,さらに 多 様 な 機 能 や 文 が 含 まれている 可 能 性 がある 表 2 Sunshine English CourseⅠ Ⅲ 本 文 の 言 語 の 働 き による 分 類 言 語 の 働 き 発 話 行 為 SH1 SH2 SH3 Total 相 づちをうつ 6 19 7 32 挨 拶 する 10 6 2 18 a コミュニケーションを 円 滑 にする ポライトネスマーカー 1 0 0 1 注 意 をひく 11 6 5 22 感 嘆 詞 18 2 1 21 礼 を 言 う 3 0 0 3 b 気 持 ちを 伝 える 謝 罪 する 1 0 0 1 褒 める 9 0 1 10 支 持 する 0 3 0 3 話 の 流 れを 示 す 前 置 きをする 話 題 を c 情 報 を 伝 える 変 える 話 題 を 元 に 戻 す 発 表 する 5 14 13 32 説 明 する 報 告 する 描 写 する 123 205 165 493 提 供 する 3 0 0 3 約 束 する 引 き 受 ける 1 0 2 3 保 証 する 何 かが 正 しいと 主 張 する 1 0 1 2 否 定 する 1 1 0 2 同 意 する 2 0 3 5 d 考 えや 意 見 を 伝 える 受 入 れる 了 承 する 1 0 0 1 許 可 を 与 える 0 0 1 1 ののしる 0 0 1 1 叱 る 1 0 0 1 同 意 しない 不 満 を 表 す 2 1 0 3 断 る 3 0 0 3 疑 いをはさむ 1 1 0 2 情 報 を 求 める 質 問 する 32 36 11 79 意 見 を 求 める 0 0 1 1 確 認 を 求 める 2 1 3 6 e 相 手 の 行 動 を 促 す 許 可 を 求 める 0 0 1 1 依 頼 する 6 2 2 10 命 令 指 示 する 4 8 3 15 提 案 する 1 3 2 6 誘 う 7 0 0 7 255 308 225 788 言 語 の 働 き のカテゴリー 別 に 見 ると, 先 の 発 話 行 為 別 でも 見 た 通 り c 情 報 を 伝 える が 最 も 多 くなって いる(525 例 ) 対 話 では 情 報 をやり 取 りすることが 多 いため, 当 然 と 言 えば 当 然 の 結 果 であるが, 教 科 書 での -84-

対 話 文 であるという 構 成 上, 説 明 的 にならざるを 得 ないという 理 由 も 大 きいのではないだろうか また, 二 番 目 に 多 いカテゴリーは, e 相 手 の 行 動 を 促 す であった(125 例 ) 情 報 を 求 める 質 問 をする 行 為 が 多 いこと に 加 え, 依 頼 する や 命 令 指 示 する なども, 対 話 ではよくある 行 為 と 言 えよう a コミュニケーションを 円 滑 にする のカテゴリーが 比 較 的 全 学 年 に 渡 って 均 等 に 見 られるのは, 各 Program の 対 話 などの 出 だしや, やり 取 りの 各 所 で, 相 づちをうつ ( 例 : Is that right? (S3-1))や 注 意 をひく ( 例 : Look at these names. (S2-5))などの 発 話 行 為 が 使 われているためである 比 較 的 少 なかったのは, b 気 持 ちを 伝 える, d 考 え や 意 見 を 伝 える であった 次 に, 特 徴 的 であったと 思 われる 発 話 行 為 を 取 り 上 げる e 相 手 の 行 動 を 促 す の 中 でもポライトネスが 最 も 現 れやすい 発 話 行 為 依 頼 する である この 行 為 は, 全 3 学 年 で 11 例 の 表 現 が 見 られた それらの 内, Please で 始 まる 5 例 と 命 令 形 の 3 例 が 直 接 的 依 頼 表 現 であり, Can you ~? などの 間 接 的 依 頼 表 現 が 3 例 ( 内 1 例 は 文 脈 から 同 等 のものと 判 断 した),そしてより 丁 寧 度 が 高 い Would you ~? による 間 接 的 依 頼 表 現 が 1 例 見 られた 直 接 的 な 依 頼 表 現 が 多 く, 間 接 的 な 依 頼 が 少 ないため, 丁 寧 さを 表 す 表 現 や 依 頼 表 現 自 体 に 多 様 性 がない この 原 因 としては, 対 話 文 のほとんどが 家 族 や 親 しい 友 人 との 間 でのやりとりから 構 成 さ れているためと 思 われる 4.2.2 発 話 行 為 の 分 類 と 教 科 書 の 言 語 の 働 き との 比 較 先 に 述 べた 通 り, 教 科 書 の 出 版 元 である 開 隆 堂 出 版 のウェブサイトには, 各 Program に 盛 り 込 まれ ている 言 語 材 料 や 言 語 の 働 き, 主 として 扱 う 技 能 などの 一 覧 が 公 開 されている この 一 覧 表 と 今 回 の 分 類 を 比 較 してみると, 教 師 が 教 科 書 分 析 を 行 う 際 に 留 意 すべき 点 がいくつか 浮 かび 上 がる まず 一 つは, 当 然 のことながら Program ごとの 言 語 の 働 き とされているもの 以 外 にも, 本 文 中 にさまざまな 働 きの 文 が 使 用 されている 点 である 例 えば,S2-P3 が 扱 う 働 き は 意 見 を 言 う, 誘 う, 賛 成 する, 質 問 する とされている しかし,Section 3 には We can sell our old books and CDs and get some money. We can send the money to a charity group. のように, 提 案 する 文 が 含 まれている can は,S1-P8 で できることを 言 えるようにしよう として 学 習 したすぐあとに,スピーキングの 活 動 として 許 可 を 求 める 依 頼 する という 働 きの 言 語 活 動 が 設 定 されている しかし,S2-P3 の We can sell our old books and CDs and get some money. という 発 話 は, 許 可 を 求 めるわけでも, 単 にできること を 述 べているのでもなく, こんなことができるからやってみませんか という e 相 手 の 行 動 を 促 す 働 きを 持 った 提 案 する であると 考 えられる 第 二 の 留 意 点 としては, 本 文 の 中 心 的 な 内 容 とは 言 い 難 い 文 が,その Program で 扱 うとされている 言 語 の 働 き を 担 っていることもあるということである 例 えば,S1-P6 には, 叱 る という 働 きが 含 まれているとされている これは, 本 文 中 ではふざけて 冗 談 を 言 った 少 年 Matt にあきれた 友 人 Judy の, Matt! という 発 言 のことである(この 場 面 では, 叱 る というより たしなめる という 状 況 ではないかと 思 われる) 相 手 の 名 前 を 呼 ぶだけでもさまざまな 言 葉 の 働 きがあるという 気 づき を 促 すためには 良 い 例 かもしれないが,この 一 例 のみで 叱 る を 十 分 に 理 解 することは 困 難 ではな いだろうか 先 の can の 事 例 とも 合 わせ,Program ごとだけでなく,さらに 小 さなレベルである 文 ご との 機 能 に 注 意 を 払 った 教 材 分 析 が 求 められると 言 えよう 第 三 に, 学 年 が 上 がるにつれて, c 情 報 を 伝 える を 除 いて 確 認 できた 言 語 の 働 き の 数 が 少 なくなっている 点 である これは, 学 年 進 行 とともに 読 み 物 教 材 が 多 くなり, 言 葉 を 使 って 人 と 関 わ -85-

る 対 話 文 が 少 なくなることが 主 な 原 因 である さらに,3 年 生 では,その Program の 目 標 となる 表 現 を 含 む 文 が, 本 文 中 にあまりあらわれないセクションも 多 くなっているためでもある 例 えば,S1-P3 の Section 1 の 目 標 は 自 分 の 好 きなことや,ふだんすることを 言 えるようにしよう であるが, 本 文 の 新 しい ALT の 自 己 紹 介 7 文 のうち,4 文 がこの 働 きをもつ 文 である 3 年 生 の S3-P6 の Section 1 で は,8 文 のうち 2 文 が 目 標 の 今 何 かをしている 人 やもののくわしい 説 明 が 言 えるようにしよう に 相 当 する 文 である 3 年 生 の 教 科 書 本 文 は, 盛 り 込 まれる 情 報 量 が 多 いこともあり,1 年 生 より 語 彙 数 が 増 えているにも 関 わらず, 働 き を 持 つ 文 は 目 立 ちにくくなっている 教 師 が 言 語 活 動 などで 生 徒 が 実 際 にその 機 能 を 果 たす 練 習 をする 場 を 設 定 する 必 要 があると 言 えよう 第 四 の 留 意 点 は, 指 導 者 の 側 で 言 語 の 働 き あるいは 発 話 行 為 を 補 足 すべきではないか,という 点 である 例 えば, 教 材 の 性 質 上 仕 方 がないことかもしれないが, 本 文 中 の 会 話 は 概 ねスムーズに 進 む 時 々 登 場 人 物 が Jakarta? The capital of Indonesia? (S3-P1)のように 聞 き 返 す 以 外 は,あまりミスコ ミュニケーションが 発 生 している 場 面 はない 生 徒 が 自 分 の 言 いたいことが 言 えなかったり, 相 手 の 言 っていることが 理 解 できないなどの 困 難 に 直 面 した 時 に, 自 力 でコミュニケーションを 修 復 する 方 策 を 身 に 着 けさせるためにも, 相 づちをうつ だけでなく, 聞 き 直 す や 確 認 を 求 める とい った 発 話 行 為 に 着 目 し, 適 宜 補 足 が 必 要 ではないだろうか 補 足 する 事 例 としてもう 一 つ, 褒 める 働 きの 例 を 見 てみたい 学 習 指 導 要 領 解 説 には, 褒 め る の 具 体 的 な 表 現 の 例 として, Good job! Wonderful! What a nice dress! の 三 つが 挙 げられている 教 科 書 に 出 てくる 褒 める 表 現 は, 例 えば, This is very good chijimi. (S1-P5), Cool! (S1-P5), London is a wonderful city. (S1-P6), Interesting! (S3-P1)などがある しかし, 教 科 書 で 用 いられている 表 現 は,3 学 年 を 通 して 10 例 とあまり 多 くない しかも, 相 手 や 相 手 の 持 ち 物 等 を 直 接 褒 める What a nice dress! のような 場 面 はほとんど 登 場 しない Oh, you re good at origami. (S1-P8)や I like your paper bird. (S1-P8)などがその 少 ない 例 である 褒 める ことは, 人 間 関 係 を 円 滑 にし, 場 を 和 ませる 働 きがあり, 会 話 などでも 機 会 をとらえて 褒 めることが 望 ましい I like your dress. など,やさしい 表 現 でも 褒 めることは 可 能 なため,もっと 教 科 書 に 載 せてもよい,あるいは 教 員 が 補 足 するべき 働 きの 一 つではないかと 思 われる 5.まとめ: 語 用 論 的 観 点 をもった 指 導 のために ここまで, 中 学 校 検 定 教 科 書 一 例 ではあったが, 用 いられている 発 話 行 為 を 確 認 した 上 で, 言 語 の 働 き に 分 類 することを 通 して, 教 科 書 本 文 に 用 いられる 表 現 が 語 用 論 的 にどの 程 度 配 慮 されているかを 確 認 した その 結 果, 言 語 の 働 き や 表 現 の 分 布 には 偏 りがあり, 文 脈 が 十 分 に 提 示 されているものではないことが 明 らかとなった また, 指 針 として 提 示 されている 出 版 元 による 言 語 の 働 き との 比 較 により,1) 一 つの 表 現 形 式 における 発 話 行 為 の 多 重 性 に 注 意 する,2) 学 習 者 が 幅 広 い 発 話 行 為 に 出 会 い, 練 習 を 行 うことができる 機 会 を 保 障 する,3) 十 分 に 取 り 扱 うことができていない 言 語 の 働 き について, 教 員 自 身 の 教 材 分 析 の 重 要 であること,といった 点 が 課 題 として 浮 き 彫 りとなった 特 に, 最 後 の 課 題 点 については, 石 原 コーエン (2015)も, 語 用 論 的 情 報 を 駆 使 して 教 科 書 に 加 筆 することや, 補 助 教 材 を 作 成 することを 提 案 しており,どの ように 手 を 加 えることができるか 実 例 をいくつか 提 示 している 本 論 の 語 用 論 的 機 能 分 類 は, 多 くの 制 約 を 受 けている 検 定 教 科 書 を 一 側 面 から 批 判 する 意 図 はなく,それを 用 いてどの 部 分 を 補 足 し,より 有 効 な 補 助 補 足 教 材 を 用 いることができるのか, 教 員 がどのように 本 文 などを 教 材 研 究 することができるのか,といった -86-

課 題 を 検 討 するための 一 つの 資 料 となるのではないだろうか 教 員 はともすると, このプログラムでは 現 在 完 了 を 教 える, 今 日 は 動 名 詞 を 扱 う といった 意 識 で 授 業 をしがちであるが, うまく 相 づちをうちながら 会 話 をさせたい, 週 末 に 一 緒 に 何 かをしようと 友 だちを 誘 うスキットを 演 じさせる といった 言 語 の 働 き から の 視 点 を 教 材 研 究 や 授 業 設 計 に 加 えることで,さらに 生 徒 のコミュニケーション 能 力 の 育 成 に 寄 与 できると 期 待 できる また, 今 回 の 分 析 では, 教 科 書 本 文 のみを 対 象 とし, 各 Program に 含 まれる 練 習 や 例 文,その 他 のページ, あるいは 音 声 資 料 なども 分 析 の 対 象 としていないことから, 言 語 の 働 き の 幅 には 若 干 の 変 化 が 見 られる 可 能 性 はある 更 には, 本 論 では, 今 回 全 6 社 の 内 1 社 分 の 教 科 書 分 析 を 行 うことしかできず, 全 ての 中 学 校 検 定 教 科 書 の 傾 向 を 推 し 量 ることはできなかった 今 後 の 課 題 としては,それらを 確 認 することがまずは 挙 げ られるであろう 謝 辞 本 論 は,JSPS 科 研 費 25370729 の 助 成 を 受 けたものである 引 用 文 献 Diepenbroek, L., & Derwing, T. M. (2013). To what extent do popular ESL textbooks incorporate oral fluency and pragmatic development? TESL Canada Journal, 30, 1-20. 日 浅 彩 子 (2014) 新 旧 中 学 検 定 教 科 書 のメタ 分 析 : 語 用 論 的 観 点 からのテキスト 分 析 英 検 Bulletin, 26, 171-177. 石 原 紀 子 ( 編 著 ) アンドリュー D コーエン( 著 ) (2015) 多 文 化 理 解 の 語 学 教 育 語 用 論 的 指 導 への 招 待 東 京 : 研 究 社 LoCastro, V. (2012). Pragmatics for language educator: A sociopragmatic perspective. NY: Routledge. 松 畑 煕 一 松 本 青 也 和 田 稔 佐 野 正 之 ほか (2002) Sunshine English CourseⅠ 東 京 : 開 隆 堂 出 版 水 島 理 紗 (2015) 高 校 英 語 教 科 書 の 分 析 から 語 用 論 的 指 導 の 可 能 性 を 探 る 関 西 英 語 教 育 学 会 第 20 回 研 究 大 会 ワークショップ 資 料 2015 年 6 月 13 日 ( 土 ) 於 : 神 戸 学 院 大 学 文 部 科 学 省 (2009) 中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 外 国 語 編 東 京 : 開 隆 堂 出 版 Nguyen, H. T. & Ishitobi, N. (2012). Ordering fast food: Service encounters in real-life interaction and in textbook dialogs. JALT Journal, 34, 151-185. 新 里 眞 男 佐 藤 寧 高 梨 芳 郎 卯 城 祐 司 ほか (2015) Sunshine English CourseⅠ Ⅲ 東 京 : 開 隆 堂 出 版 佐 藤 喬 佐 藤 秀 志 ほか (1986) Sunshine English CourseⅠ 東 京 : 開 隆 堂 出 版 島 岡 丘 青 木 昭 六 池 浦 貞 彦 松 畑 煕 一 ほか (1992) Sunshine English CourseⅠ 東 京 : 開 隆 堂 出 版 島 岡 丘 青 木 昭 六 松 畑 煕 一 和 田 稔 ほか (2006) Sunshine English CourseⅠ 東 京 : 開 隆 堂 出 版 清 水 崇 史 (2009) 中 間 言 語 語 用 論 概 論 第 二 言 語 学 習 者 の 語 用 論 的 能 力 の 使 用 習 得 教 育 東 京 : スリ ーエーネットワーク Shimizu, T., Fukasawa, E., & Yonekura, S. (2007). Introductions and practices of speech acts in oral communication 1 textbooks: From a viewpoint of interlanguage pragmatics. Sophia Linguistica, 55, 143-163. Shimizu, T., Fukasawa, E., & Yonekura, S. (2008). Introductions and practices of responses in oral -87-

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Pragmatic Analysis of MEXT Authorized Textbooks - In the Case of Sunshine English Course - Kazuhito YAMATO Tetsuko ADACHI This paper focuses on the analysis of MEXT (Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology) authorized textbooks from the viewpoint of pragmatic functions. The current Course of Study for junior high school states that in conducting language activities, teachers should focus on language-use situations and functions of language with lists of examples of situations and functions. First, this paper overviewed the importance of developing learners pragmatic competence and how pragmatic viewpoints have been incorporated in English education. Then textbooks that are to be used from 2016 were analyzed by categorizing sentences into functions of language and speech acts. The major findings of the analysis are that the varieties of pragmatic functions in the textbooks are not very large, and that the distribution of functions of language was uneven in the numbers of sentences for each function. Another finding is that pragmatic functions contained in a passage are more than one, although the publisher of these textbooks provides sample functions of language as target function for each unit. From the results of this study, it is hoped that teachers pay more attention to pragmatic functions of passages in textbooks, not only to grammatical structures when they prepare lessons. Moreover, it is suggested that teachers edit textbooks or develop teaching materials out of passages in textbooks in order to develop students pragmatic competence. -89-