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Transcription:

19 Portmanteau 検 定 の 解 析 Analysis of Portmanteau Tests 天 野 友 之 Amano, Tomoyuki ABSTRACT Box and Pierce (1970)proposed the test statistic TBP, now known as the classic portmanteau test. Under the null hypothesis that the autoregressive-moving average model of order (p,q)is adequate, they suggested that the distribution of TBP is approximated by a chi-square distribution with (m-p-q)degrees of freedom, if m is moderately large. However, Taniguchi and Amano (2009)showed that this approximation is inadequate and proposed an important portmanteau test TWLR of natural Whittle type which is always asymptotically chi-square distributed under the null hypothesis that ARMA model is adequate. Amano (2008)compared TWLR with other famous portmanteau tests (Ljung-Box s TLB, Li-McLeod s TLM and Monti s TMN)and proved TWLR s accuracy by simulation. This paper reviews results of Taniguchi and Amano (2009)and Amano (2008). 概 要 株 価 や 金 融 データなど, 時 とともに 変 動 する 観 測 系 列 を 時 系 列 と 言 う 世 の 中 には 様 々な 性 質 を 持 つ 時 系 列 データがあふれているのでそれらのデータの 性 質 を 捉 えるように 多 くのモデルが 提 案 されてきた ARMA モデルはこれらの モデルの 中 でも 広 く 用 いられる 重 要 なモデルである しかしこのモデルをデー タへ 当 てはめたとしてこのモデルはデータのモデルとして 正 しいだろうか?そ のためにこのモデルがデータのモデルとして 正 しいかどうか 検 定 を 行 わなけれ

20 経 済 理 論 367 号 2012 年 5 月 ばならないが 計 量 経 済 においては Box and Pierce(1970)によって 提 案 された Portmanteau 検 定 が 有 名 でありこの 検 定 は 長 く 用 いられ 研 究 されてきた し かし Taniguchi and Amano(2009)において,この Portmanteau 検 定 が 検 定 と して 不 適 切 である 事 を 理 論 的 に 証 明 し, 代 わりとなる 自 然 な Whittle 型 の 尤 度 比 検 定 を 提 案 した 更 に Amano(2008)において 数 値 解 析 によって,この 提 案 した 検 定 が 代 表 的 な Portmanteau 検 定 より 良 いことを 示 した 本 論 文 では Portmanteau 検 定 を 解 説 しながら Taniguchi and Amano(2009),Amano(2008) の 結 果 をレビューする この 論 文 において 1 節 では 時 系 列 解 析 の 序 論,2 節 で は ARMA モデルの 定 義,3 節 では Portmanteau 検 定 と 自 然 な Whittle 型 の 尤 度 比 検 定 の 定 義,4 節 では 数 値 解 析 による 自 然 な Whittle 型 の 尤 度 比 検 定 と 代 表 的 な Portmanteau 検 定 との 比 較, 論 文 中 で 用 いられる 図 は 論 文 の 最 後 に 置 いた 1 時 系 列 解 析 序 論 時 と 共 に 変 動 する 観 測 系 列 の 事 を 時 系 列 と 言 う 例 えば 時 系 列 データの 例 としては 株 価, 地 震 波, 川 の 水 位 などがあげられる この 時 系 列 データは 経 済 学, 自 然 科 学, 医 学 などのあらゆる 分 野 で 見 られるため 近 年,そ の 解 析 の 必 要 性 は 急 速 に 高 まりそして 発 展 している 特 に, 経 済 学 においては 金 融 データなどの 多 くの 時 系 列 データがあるためにその 必 要 性 と 発 展 は 顕 著 で ある この 時 系 列 データの 統 計 解 析 を 時 系 列 解 析 と 言 うが, 時 系 列 解 析 においてま ず 初 めに 行 うのが 時 系 列 データがどのようなモデルに 従 っているかの 推 定 であ る しかしこの 推 定 したモデルが 正 しいかどうかの 疑 問 がある そのために 推 定 したモデルが 正 しいかの 検 定 を 行 うがこの 検 定 が 時 系 列 解 析 における 重 要 な トピックの 一 つとなっている 本 論 文 ではこの 時 系 列 解 析 の 検 定 における 著 者 の 結 果 を 報 告 する そのためにまず 統 計 学 の 序 論 より 入 っていく まず 確 率 変 数 の 平 均 と 言 うのは 観 測 値 が 無 限 コ 得 られたと 仮 定 した 時 のその 平 均 の 理 論 値 の 事 である そして, 次 で 与 えられる 値 を

Portmanteau 検 定 の 解 析 21 の 分 散 という (1) この 分 散 は の 平 均 からのばらつき 具 合 をあらわす 量 でこれが 大 きいほ ど は 平 均 から 大 きくばらつく 確 率 変 数 となる 次 に と の 共 分 散 を 定 義 する (2) この 共 分 散 は と の 相 関 を 表 す 量 であるが の 平 均 が 大 きくなれば 共 分 散 も 大 きくなるので 次 のように 標 準 化 したものが と の 相 関 係 数 である (3) この 相 関 係 数 は と の 相 関 を 表 しこの 値 の 絶 対 値 が 大 きいほど と は 互 いに 影 響 力 のある,すなわち 相 関 の 強 い 確 率 変 数 である 更 にこの 相 関 係 数 は 次 の 性 質 を 持 つ ( の 時 ) 次 のようになりやすい (4) (5) ( の 時 ) 次 のようになりやすい (6) (7) 多 くの 時 系 列 データが 満 たす 条 件 として, 時 系 列 解 析 においては 次 の 制 約 条

22 経 済 理 論 367 号 2012 年 5 月 件 を 一 般 的 に 課 す 定 数 ( 任 意 の ) (8) (9) この 制 約 条 件 を 満 たす 時 系 列 を 定 常 過 程 と 言 う この 条 件 は 自 然 に 次 の 条 件 に 書 き 直 せる 定 数 ( 任 意 の ) (10) (11) 更 にこの 条 件 は 自 然 に 以 下 のように 書 き 直 すことができる 定 数 ( 任 意 の ) (12) (13) つまりこの 条 件 は, と の 相 関 が 時 刻 の 差 にのみ 依 存 すると 言 う 事 である 特 にこの を 自 己 相 関 関 数 と 言 う この 自 己 相 関 関 数 は 異 なる 時 刻 におけるデータの 相 関 を 測 る, 時 系 列 においては 非 常 に 重 要 な 量 である つまり 全 ての の 値 を 知 ればデータの 持 つ 確 率 構 造 が 分 かるのでデータの 値 の 予 測 なども 可 能 になる しかし 一 般 的 に は 未 知 であるので 推 定 しなければならない その の 推 定 量 が 次 に 与 えら れる 標 本 自 己 相 関 関 数 である (14) ここに は 標 本 平 均 で である 次 の 節 ではこの 論 文 の 主 題 である ARMA モデルを 定 義 する 2 ARMA モデル この 節 では 計 量 経 済 において 広 く 用 いられてきた ARMA モデルを 定 義 する そのためにまず 最 も 単 純 な 定 常 過 程 を 紹 介 する 時 系 列 が 任 意 の 時 刻 に 対 し 次 の 条 件 を 満 たすときこの 時 系 列 を 無 相 関 過 程 と 言 う (15)

Portmanteau 検 定 の 解 析 23 (16) つまりこの 無 相 関 過 程 は, 異 なる 時 刻 における 値 どうしは 相 関 が 無 いという 最 も 単 純 なモデルである この 無 相 関 過 程 を 用 い, 次 のように MA(q)モデルを 定 義 する (17) ここで, とする このモデルは 無 条 件 に 定 常 過 程 となる もう 一 つ,この 無 相 関 過 程 を 用 いたモデルを 紹 介 する 次 で 定 義 されるモデ ルを AR(p)モデルと 言 う このモデルは 一 般 的 な 正 則 条 件 のもと 定 常 過 程 と なる (18) ここで, とする これらのモデルはそれぞれに 長 所 を 持 った 用 いやすいモデルであるが 世 の 中 の 時 系 列 データを 記 述 するには 表 現 力 に 乏 しい そのためにこれらを 合 わせた 次 のような ARMA(p,q)モデル(autoregressive moving average process)が 提 案 された このモデルも 一 般 的 な 正 則 条 件 のもと 定 常 過 程 となる (19) ここで,,, とする この ARMA モデルは 非 常 に 表 現 力 に 富 んだモデルであらゆる 時 系 列 データにこのモデルが 当 てはめられ 解 析 されてきた 本 論 文 ではこの ARMA モデルについて 議 論 する 3 Portmanteau 検 定 前 節 で 紹 介 した ARMA モデルは 経 済, 自 然 科 学 など, 多 くの 分 野 で 広 く 使 われてきた 重 要 なモデルである しかし,データにこの ARMA モデルを 当 て

24 経 済 理 論 367 号 2012 年 5 月 はめたとき,このモデルがそのデータのモデルとして 正 しいのかと 言 う 疑 問 が ある そのためにこのモデルが 正 しいかどうかの 検 定 を 行 わなければならない が,そのために Box and Pierce(1970)によって Portmanteau 検 定 が 提 案 された この Portmanteau 検 定 は 計 量 経 済 において 長 年 研 究 されそして 多 くの 修 正 ヴァージョンが 提 案 されてきた この 節 ではまずその Portmanteau 検 定 を 紹 介 する データに ARMA モデルを 仮 定 し,その 係 数, (20) が 次 で 推 定 されたとする, (21) この, を ARMA モデル (22) の, の 代 わりに 代 入 すれば 誤 差 列 の 推 定 量 が 得 られる もし 仮 定 した ARMA モデルが 正 しいなら,この 系 列 の 標 本 自 己 相 関 関 数 について 次 の 近 似 ができると Box and Pierce(1970) は 主 張 した (23) ここに は 近 似 の 意 味 で は 自 由 度 のカイ2 乗 分 布 であ る これより Box and Pierce(1970)は (24) が 分 布 に 従 えば 仮 定 した ARMA モデルが 正 しいという 検 定 を 提 案 し, これが Portmanteau 検 定 と 呼 ばれる

Portmanteau 検 定 の 解 析 25 しかしながらモデルが ARMA モデルに 従 っていても,この Box and Pierce (1970)の Portmanteau 検 定 が 分 布 で 十 分 に 良 く 近 似 されないと 指 摘 され Ljung and Box(1978)によって 次 のような 新 たな Portmanteau 検 定 が 提 案 さ れた (25) 更 に 現 在 に 至 るまで 多 くの Portmanteau 検 定 の 修 正 ヴァージョンが 提 案 さ れ 研 究 されている しかし 先 行 文 献 において Box and Pierce(1970)と Ljung and Box(1978)の Portmanteau 検 定 が 分 布 で 近 似 できないことを 理 論 的 に 示 した 文 献 は 無 いのでTaniguchi and Amano(2009)において 次 の 事 を 示 した 定 理 1 仮 定 した ARMA モデルが 正 しくても 次 が 成 り 立 つ (26) (27) この 定 理 より 従 来 の Portmanteau 検 定 は ARMA モデルの 検 定 として 不 適 切 な ので Taniguchi and Amano(2009)においては 代 わりとなる 次 の ARMA モデ ルの 検 定 を 提 案 した 定 義 1 (28) ここに ARMA 係 数 を とし,,, は 次 で 与 えられる (29) 更 に は のピリオドグラムであり

26 経 済 理 論 367 号 2012 年 5 月 (30) (31) (32) である 更 に Taniguchi and Amano(2009)で について 次 を 示 した 定 理 2 仮 定 した ARMA モデルが 正 しい 時, 次 が 成 り 立 つ (33) つまり は 仮 定 した ARMA モデルが 正 しいとき 分 布 に 収 束 するので ARMA モデルの 検 定 として 適 切 である 次 にもし 仮 定 した ARMA モデルが 誤 っているときそれを が 十 分 に 検 出 できるかと 言 う 事 を 考 える そのために に 相 関 を 与 えその 時 の の 検 出 力 を 見 た 定 理 3 ARMA モデルの の 次 までの 自 己 共 分 散 関 数 を とした 時, 定 数 ベクトル に 対 し のもとで 次 が 成 り 立 つ (34) ここに は 自 由 度, 非 心 パラメーター の 非 心 カイ 2 乗 分 布 であり, は 次 より 与 えられる (35)

Portmanteau 検 定 の 解 析 27 つまりこの 定 理 が 示 すことはもし 誤 ってモデルが ARMA モデルに 従 っておら ずその 誤 差 列 に 相 関 があり,その 相 関 が 標 本 数 と 共 に O に 近 づいても がその 誤 りを 検 出 してくれる 良 い 検 定 である 事 を 示 している 4 数 値 解 析 この 節 では 前 節 において 提 案 した ARMA モデルの 検 定 と 次 の 代 表 的 な Portmanteau 検 定 を 比 較 する (36) (37) (38) ここに は の 次 の 標 本 部 分 自 己 相 関 関 数 である 先 行 文 献 と 今 ま での 解 説 より,もし 仮 定 した ARMA(p,q)モデルが 正 しければ,, は 分 布 で 近 似 できるとされた そして は 分 布 に 収 束 することが 示 された これらの 事 より と 他 の Portmanteau 検 定 の 分 布 への 近 似 の 良 さを 比 較 する 更 に 誤 ったモデルを 選 択 した 時 の 検 定,,, の 検 出 力 を 見 る Example4.1 まず を 次 で 与 えられる AR(1)モデルとする (39) こ こ に は 独 立 同 分 布 で に 従 う と す る こ の モ デ ル に お い て と,, を 比 較 する このセッティングの もとでは は 分 布 に 収 束 し,, は 分 布 で 近 似 でき

28 経 済 理 論 367 号 2012 年 5 月 るとされたのでこれらの 分 布 への 近 さを 見 る ここで 分 布 の 平 均 は 1, 分 散 2 なので,,, の 標 本 平 均 と 標 本 分 散 がそれぞれどのくらい 1 と 2 に 近 いかを 見 る 標 本 平 均 につ いては 図 1, 標 本 分 散 は 図 2 に 描 いた 更 に 図 3 には,,, の %の 有 意 水 準 を 描 いた ( 数 値 解 析 はデータ の 長 さ, 数 値 解 析 の 回 数 は 1000 回 で 行 った ) (また 図 の 横 軸 はモデルの 母 数 を 取 り, を とした ) 図 1 より 明 らかに の 方 が 他 の Portmanteau 検 定 より 標 本 平 均 が 1 に 近 いことが 分 かる つまり 平 均 に 関 しては の 方 が 他 の Portmanteau 検 定 より 分 布 へ 近 いことが 分 かる 図 2 より 明 らかに の 方 が 他 の Portmanteau 検 定 より 標 本 分 散 が 2 に 近 いことが 分 かる つまり 分 散 に 関 しては の 方 が 他 の Portmanteau 検 定 より 分 布 へ 近 いことが 分 かる 図 3 より の 有 意 水 準 の 方 が 明 らかに 他 の Portmanteau 検 定 より 大 き く 0.05 に 近 いので の 方 が 分 布 への 近 似 が 良 い 事 が 分 かる Example4.2 まず を 次 で 与 えられるモデルとする (40) ここに 通 常 は ここでは は 無 相 関 過 程 でこの 時 このモデルは AR(1)モデルとなるが は 平 均 0, 分 散 1 の MR(1)モデルとしその 自 己 共 分 散 関 数 を で 与 える つまりこのような AR(1)モデルで 無 いモデルを AR (1)モデルと 誤 って 仮 定 した 時,その 誤 りの 検 出 を と 他 の Portmanteau 検 定 がどの 程 度 するかを 見 るのである ここで,もしモデルが AR(1)モデル

Portmanteau 検 定 の 解 析 29 に 従 っていれば は 分 布 に 従 うので, が 分 布 の % 点 より 大 きな 値 を 取 る 事 はほとんどない つまり が 分 布 の % 点 を 超 えたらモデルは AR(1)モデルに 従 っていないと 判 断 する このように 実 際 に AR(1)モデルに 従 っていないモデルを がどのくらい 検 出 するの か 見 るのである (ここでこの 検 出 する 割 合 の 事 を 検 出 力 と 言 う ) 更 に,, は AR(1)モデルが 正 しいとき 分 布 で 近 似 できるとされ たので 同 様 に の % 点 をこれらの Portmanteau 検 定 がどの 位 超 える かを 見 ることにより 実 際 に AR(1)モデルでないモデルをどの 位,これらの Portmanteau 検 定 が 検 出 するかを 見 る 図 4 では,,, の 検 出 力 を, 図 5では,,, の 検 出 力 を 描 いた (データ の 長 さ, 数 値 解 析 の 回 数 は 1000 回 とした ) (また 図 の 横 軸 はモデルの 母 数 を 取 り, を とした ) 図 4, 図 5 より 明 らかに の 方 が 他 の Portmanteau 検 定 より 検 出 力 の 大 きい 検 定 である 事 が 分 かる これらの 数 値 解 析 より 実 際 に 仮 定 した ARMA モデルが 正 しい 時, の 方 が 他 の 代 表 的 な Portmanteau 検 定 より 分 布 への 近 似 が 良 い 事 が 分 かっ た また 誤 った ARMA モデルを 仮 定 した 時, の 方 が 他 の 代 表 的 な Portmanteau 検 定 よりその 誤 りを 検 出 できる 事 が 分 かった つまり の 方 が ARMA モデルの 検 定 として 他 の Portmanteau 検 定 より 良 い 事 が 分 かった 参 考 文 献 [1]Amano, T. (2008)Comparison of Whittle type portmanteau tests. Scientiae Mathematicae Japonicae, 68, No 2, 247 254. [2]Box, G. E. P. and Pierce, D. A. (1970)Distribution of residual autocorrelations in autoregressive-integrated moving average time series models. J. Amer. Statist. Assoc.

30 経 済 理 論 367 号 2012 年 5 月 65, 1509 1526. [3]Li, W. K. and McLeod, A. I. (1981)Distribution of the residual autocorrelations in multivariate ARMA time series models. J. Roy. Statist. Soc. Ser. B. 43, 231 239. [4]Ljung, G. M. and Box, G. E. P. (1978)On a measure of lack of fit in time series models. Biometrika 65, 297 303. [5]Monti, A. C. (1994)A proposal for a residual autocorrelation test in linear models. Biometrika. 81, 776 780. [6]Taniguchi, M. and Amano, T. (2009)Systematic approach for portmanteau tests in view of Whittle likelihood ratio. Journal of the Japan Statistical Society, 39, No 2, 177 192.

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