(Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol. 67, No. 5, pp. 508-513, May 2018 解説 窒化ホウ素結晶多形の高圧合成と不純物制御による新たな機能探索 High-Pressure Synthesis of Polymorphic form of Boron Nitride Crystals and Their Impurity Control by Takashi TANIGUCHI* Taniguchi 谷口尚 Hexagonal boron nitride BN (hbn) and cubic BN (cbn) are known as the representative crystal structures of BN. The former is chemically and thermally stable, and has been widely used as an electrical insulator and heat-resistant materials. The latter, which is a high-density phase, is an ultra-hard material second only to diamond. In addition to those, wurtzite BN (wbn) is also known as other polymorphic phase. As crystal growth technique is not, however, applicable for wbn due to its thermodynamically metastable nature, fundamental properties of wbn with bulk crystalline form is not well studied so far. Among those BN crystals, some progresses in the synthesis of high purity BN crystals were achieved by using Ba-BN as a growth solvent material at high pressure (HP) of 5.5GPa. Band-edge natures (cbn Eg=6.2eV and hbn Eg=6.4eV) were characterized by their optical properties. The key issue to obtain high purity crystals is to reduce oxygen and carbon contamination in the HP growth circumstances. Then an attractive potential of hbn as a deep ultraviolet (DUV) light emitter and also superior properties as substrate of graphene devices were realized. By using high purity hbn crystal as a starting materials, high purity cbn sintered body and also highly oriented wbn crystalline form were obtained by high-pressure phase transformation process. In this paper, recent studies on BN polymorphic phases obtained at high pressure with respect to impurity control and their function will be reported. Key words: Cubic boron nitride, Hexagonal boron nitride, Wurtzite boron nitride, High pressure, Ultraviolet light emission, LED * 1 緒言物質合成の研究に着目すれば, 圧力は温度, 組成と共に最も基本的なパラメーターである. 結晶の安定性は圧力と温度に支配され, 同一の結晶組成においても, その熱力学的な安定性により圧力 温度環境に応じた多様な形態をとる. 宝石として有名なダイヤモンドは炭素の高圧多形の一種類であり, 地表から 100~200km 程度の高圧環境において生成したと推定されている 1). 図 1に炭素の多形となる黒鉛とダイヤモンドの圧力 - 温度相図を示す. 一気圧下では黒鉛が安定相であるが, 高圧, 高温領域ではダイヤモンドの方が熱力学的に安定となる. 人工ダイヤモンドの合成は 1960 年代初頭, 米 GE 社によりなされた 2). 黒鉛を Fe,Ni,Co 等の遷移金属と共にダイヤモンドの熱力学的安定条件下 ( 例えば 5GPa(1GPa=1 気圧 ), 1400 ) で加熱すると, 溶融金属中で炭素が過飽和となりダイヤモンドとして析出する. 一方, ホウ素と窒素からなる窒化ホウ素 (BN) は III- 図.11 Phase diagram of carbon and boron nitride. V 化合物として, 周期律表の IV 族最上段で炭素原子の両隣に位置し, 炭素と同様の振る舞いを呈する. すなわち, 黒鉛と類似の構造を有する六方晶窒化ホウ素 (hbn) は高密度相としてダイヤモンドと同構造の立方晶窒化ホウ素 (cbn) に転換する. また, hbn から cbn への固相転換過程において熱力学的な準安定相な中間相としてウルツ鉱型窒化ホウ素 (wbn) が生成する. この BN 高圧 原稿受理平成 29 年 10 月 15 日 Received Oct. 15, 2017 2018 The Society of Materials Science, Japan * 物質 材料研究機構機能性材料研究拠点超高圧グループ 305-0044 茨城県つくば市並木 1-1 * National Institute for Materials Science, Namiki, Tsukuba 305-0044
509 多形 (wbn と cbn) は上述の先駆的なダイヤモンドの高圧合成研究を行った GE 社の R.Wentorf.Jr により初めて合成された天然に産しない物質である 3). 炭素と類似の結晶構造を有する hbn を高圧 高温下でダイヤモンドと同様の高密度相に転換させ, そのダイヤモンドに次ぐ超硬質物質としての特性を引き出した Wentorf の発想は, まさに超高圧を用いた物質合成研究の面白さ, 醍醐味を表している様に思える. 工学的な観点では, 前者 (hbn) は断熱材, 耐火坩堝等の応用が進められており, 後者 (cbn) はダイヤモンドに次ぐ硬度を有しつつ, 高温では鉄系金属に対して化学的に安定な特性が鉄鋼材料等の切削工具として応用されている. また wbn は結晶構造としては他の III-V 化合物 (AlN,GaN など ) と馴染みが深いが, 熱力学的な準安定相であり微粒子, 焼結体としてのみ, その合成が報告されている. ダイヤモンドと BN はワイドギャップ半導体としての特性を有するが, その実用は未踏であり, 高品位結晶の合成と基礎物性の評価が研究対象と云える. とりわけ, カラット級単結晶が工業生産されているダイヤモンドの合成が長い研究の歴史を通じて成熟したものであるのに対して, 現在迄に得られている cbn 単結晶の大きさは 3mm 程度迄であり, cbn 単結晶の大型化 高純度化は長年の課題と言える. 本報告では,, 始めにベルト型高圧装置による高圧下の単結晶成長技術を紹介した後単結晶技術を紹介した後, 筆者らがこれまでに進めてき, てきた窒化ホウ素の各種高圧多形 (cbn, (cbn, hbn, hbn, wbn) wbn) の高圧の高圧合成とその不純物制御に向けた取り組みを, 半導体材料, 材料の視点から紹介するとしての視点から紹介する. 更に. 更に, 最近の高純度, hbn hbn 単結単結晶に関する話題として, グラフェンデバイス用の絶縁性, 性基板としての展開について, その一部を紹介したい,.. 2. ベルト型高圧合成装置図 2 に筆者らが用いているベルト型高圧装置の概略断面図を示す. 上下に配置した対抗型のアンビルで円筒形状のシリンダー内の試料を加圧する構成となっている 4). ベルト型高圧装置のコンセプトは発明者の T.Hall が米,GE 社に在籍時に考案し, これにより人工ダイヤモンド合成の先駆的な研究が進められてきた. 通常のペレット成形などで馴染みのあるピストンシリンダー型の金型は, 高圧発生部材 ( 超硬合金 : タングステンカーバイド ) の破壊により 2GPa 以上の圧力発生は困難である. Hall は図に示すようにアンビルとシリンダーの形状に曲率を持たせて対向させることにより, 6GPa 以上での加圧下でアンビル表面に作用する荷重を分散させることでアンビルの破壊の回避に成功した. また, シリンダーコアは大型のシリンダーケース内に加圧充填されることでシリンダー内部に予加圧状態を実現し, 試料加圧時の引張り応力に耐えて, やはり 6GPa 以上の高圧合成環境の確保を達成している. 試料を内包した円筒状の黒鉛ヒーターを充填した試料セルは シリンダー内部でパイロフィライト等の圧力伝達物質 ( 固体ガスケット ) に囲まれ, 試料中心部に発生する超高圧力はガスケット内をその末端部まで緩やかに緩和される. 高圧下で結晶成長を行う際には, 高圧試料容器内の温度勾配が重要なパラメーターとなる. 円筒状の黒鉛ヒーターでは熱が上下方向に散逸するために中心部分の温度が高い. 図 2 に示すように, 中心の原料と低温部分の種子結晶を挟む様に溶媒を配することで高温度下で溶媒に溶けた原料が低温部に拡散して, 種子結晶上での結晶成長がなされる. 図 2 Belt type high-pressure apparatus, :whole view, :sample assembly for crystal growth 前節で述べたようにダイヤモンドの場合には Fe,Ni,Co 等の遷移金属系溶媒を用いて 20 カラット以上の良質単結晶の合成が報告されている. 通常, 高圧合成ダイヤモンドは黄色を呈しており, この着色は窒素不純物による影響であることが知られている. この単結晶育成プロセスにおいて中に窒素ゲッターとなるアルミニウムやチタンを添加することにより, 窒素不純物を除去した高純度ダイヤモンドの合成が可能である 5). 3. 立方晶窒化ホウ素工業的には, cbn の合成溶媒は, アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属系元素のホウ窒化物が用いられている. その合成様式はダイヤモンドの場合と同様に, 基本的には溶媒となるアルカリ金属ホウ窒化物に hbn が溶解し, cbn として晶出するものとして理解されている. 上述したダイヤモンドと比較して, cbn の場合には大型単結晶の育成は依然として難関である. cbn 結晶の成長速度はダイヤモンドと比較して数百倍程度遅い 6). また, 結晶は典型的には琥珀色に着色しており, これは炭素, あるいは酸素不純物による影響と考えられる. 高純度, かつ大型の cbn 単結晶合成が依然として大きな課題であり, 現在もその取り組みが進んでいるが, ここではダ
谷 510 イヤモンドと異なる cbn のユニークな性状を紹介する. 図 3 は cbn の結晶合成後のモリブデン容器の破断面 である. 中央部の白色部は高圧下で溶融, 凝固したアル カリ土類系溶媒であり, 上下の茶褐色の粒子が高圧下, 低温度側で自然核発生によりで生成した cbn 結晶であ る(拡大写真を図 3に示す). この結晶は合成の際に微 量に Be を添加している. ダイヤモンドに B を添加する と青色に着色し p 型半導体となる. cbn も同様に Be は アクセプターとなり, 青色の p 型半導体となることが知 られている. この Be の添加量を微量に制限すると cbn 単結晶中の(111)成長セクターに Be が局在し, 他のセク ターと顕著な濃度差が生じる. 一方, 先に通常の高圧合 成で得られる cbn は琥珀色に着色していると述べたが, この着色の起源は主として原料中に含まれる炭素不純 物であり, 別の測定によりこの琥珀色の cbn 結晶は炭素 がドナーとなる n 型の半導体となる. すなわち, cbn 単 結晶の琥珀色の n 型半導体中に Be 起源の p 型の領域が 局在する事になる. 図4は当該単結晶の光学顕微鏡写 真であるが図 4に示すように当該結晶に電圧を印加す ることで紫外線発光が観測される 7). いわゆる cbn の LED が一度の高圧合成プロセスで得られることになる. 発光スペクトルは図 5 に示すように中心波長が 300nm 付 近であり(図 4で青色を呈するのは 500nm の裾野部分), cbn 本来のバンド端発光(波長 205nm)は観測されなか った. 同様の傾向(添加したアクセプター元素の局在)は ダイヤモンドでも同様に見られるが, ダイヤモンドは n 型半導体化が著しく困難であり(主たる不純物である窒 素はドナーレベルが大きく, 活性化しない), 今回紹介し た cbn 結晶の LED としての挙動は cbn がワイドギャッ プ半導体でありながら, p,n 両型の結晶の合成が比較的容 易であることを示している. 別の実験で測定した cbn 中 の Be アクセプターと S ドナー準位はそれぞれ 0.22eV8) および 0.32eV9)である. cbn は間接型半導体であり, UVLED 等の発光デバイ スとしての応用には不向きであるが, 比較的浅い p,n 両 型の形成はワイドギャップ半導体としての大きなポテ ンシャルを秘めていると言えよう. これら電子材料とし て基本物性を明らかにする上での前提となるのは高純 度の良質単結晶合成である. 先述した通り, cbn 中の主たる不純物は炭素と酸素で ある. 高純度の cbn 単結晶を得るためには, 育成溶媒中 に強い還元作用, 脱炭素効果をもたらす物質の探索が課 題となっていたが, 試行錯誤の末 溶媒としてホウ窒化 バリウムを使用した際にほぼ無色の cbn 単結晶が育成 できることが見出された 10,11). SIMS 分析によると琥珀色 結晶の酸素, 炭素濃度がそれぞれ 1019/cm3 と 1020/cm3 の オーダーであるのに対し, ほぼ無色の結晶ではそれぞれ の不純物濃度が約 2 3 桁程度低減した. カソードルミ ネッセンス(CL)による観察では, 不純物に起因する発光 が依然として支配的ではあるが, 波長 200nm 付近にバン ド端の自由励起子発光と見られるスペクトルが室温で 観測されている. 4 六方晶窒化ホウ素 上に述べたように, 窒化ホウ素の本来の特性を引き出 す上では, 酸素 炭素不純物の除外が必要である. 冒頭 に述べたと通り, 溶媒を用いた溶解再析出による高圧下 に述べた通り 溶媒を用いた溶解再析出による高圧下 の結晶成長では熱力学的な安定相が結晶化する. すなわ ち, hbn の安定領域で上述の高純度 cbn 合成と同様の 結晶成長を行えば, 高純度 hbn 結晶が合成できる. 4GPa, 1600 で合成した hbn 結晶の光学顕微鏡写真を図 6 に 示す. この結晶の光学的特性をカソードルミネッセン 02-2017-0146-(p.508-513).indd 510 口 尚 図 3 Optical photographs of recovered cbn crystals Sectioned whole view, Top view of cbn crystals with solvent. 図 4 Be doped cbn single crystals Crystals with electrodes LED performance(c) Emission spectrum. 図 5 Electro luminescence spectra of cbn LED (c) 図 6 Optical photographs of recovered hbn crystals Sectioned whole view as recovered state, Enlarged view (c) hbn crystals after acid treatment 図 7 Cathode luminescence spectra of hbn 2018/04/23 16:36:05
511 ス (CL) により評価したところ, 図 7 に示すように高輝度の遠紫外線発光が観測された 12). hbn は 古くから絶縁体や耐熱材料として広く応用されている物質であるが, 種々の評価に適する良質単結晶が得られた例はなく, とりわけバンド端近傍の電子励起状態等に着目した研究りわけバンド端近傍の電子線励起状態等に着目した研究はなされていなかった. 今回観測された波長 215nm の高輝度発光は高純度 hbn のみから得られるバンド端発光であり, その挙動は残留する不純物やひずみ等の影響を受けやすい. SIMS 分析による炭素 酸素濃度が 10 18 /cm 3 程度以下 ( 検出限界以下 ) でバンド端発光が明瞭に観測されるが, これら不純物濃度が高い場合には, 波長 215nm の発光は減衰し, 代わりに 350nm 付近に別の発光が顕れる 10). 波長 215nm 付近における hbn のバンド端発光は, 近年活発に開発が進められている遠紫外線発光源の候補として興味深く, 将来的には, p,n 両型の半導体化とその接合による注入発光の実現など, 新たな遠紫外線発光素子材料等としての応用を期待している 13). 更にこれら発光機能発現に加え, 最近の重要な動向として, 次節で述べるグラフェンデバイスのための基板材料としての高純度 hbn 単結晶の応用展開が進んでいる. 4-1 グラフェンデバイス用高品位基板としての展開上記の遠紫外線発光素子材料としての応用に加え, 高純度 hbn 単結晶における最近の重要な動向として, グラフェンデバイスのための基板材料としての応用展開が進んでいる. 現在新たな電子デバイスとして注目を集め, 世界各国で活発に研究が進められているグラフェンデバイスの特性発現において, これまで一般的に用いられているシリコン基板上の酸化膜は平坦性に乏しく, またグラフェンのキャリアーの散乱因子を内包している. そこで, グラフェンデバイスの真の特性を評価する上では 基板を除去したグラフェンの架橋 ( 宙づり ) 構造が採用されてきた. しかし架橋構造デバイスの作製は容易ではなく, 更にデバイス寸法上の制約を打破する為の, 新たな基板材料が求められてきた ( 架橋構造できるデバイス面積には制限があり, これが真の特性発現の制約となっていた ). コロンビア大グループとの共同で, 先に紹介した良質 hbn 単結晶を当該基板に利用することにより顕著な効果が見出された 14). すなわち, 図 8 に示すように hbn 結晶を基板とすることで, グラフェンは SiO2 基板からの擾乱を避けることが出来る. 現在は, グラフェンから MoS2 等をはじめとする遷移金属ダイカルコゲナイド (TMD), 黒リン等の 2 次元半導体結晶の基板, 保護膜等としての展開が進んでいる. hbn 結晶で挟んだグラフェンの電極構造を最適化することで, 室温下ではほぼ理論限界のキャリア - 移動度が観測されている 15). 現在筆者が関わっているグラフェンデバイス用基板としての hbn 結晶の活用は, グラフェンおよび hbn 基板を共にはく離法により調整する基礎的な手法であり, 実際の応用展開としては大面積化が必須であろう. 現在, 実用化を意図して, グラフェン等の 2 次元系光 電子材料の気相合成研究が活発に進められているが, これと同期して気相合成法, あるいは常圧下における溶媒を用いた液相成長法による高品位, 大面積 hbn 基板 薄膜の合成研究が加速することが期待される. 5. ウルツ鉱型窒化ホウ素先述した通り ウルツ鉱型は結晶構造としては AlN, GaN を始めとする III-V 化合物ではより一般的であり, 一連の AlGaN 系固溶体によるバンドギャップ制御研究 図 8 Utilization of hbn crystal as a substrate of graphene device. (c) 図 9 XRD profile of hbn treated at high pressure. Measured as received crystals, Optical view of hbn crystals (C) Measured for powdered sample. の延長として BN 系を位置づけた場合には, wbn 結晶の基本特性を理解することが重要であろう. しかしながら wbn は熱力学的に準安定相として知られており, 溶媒法による結晶成長を行うことができず, 単結晶による物性の評価は未踏である. すなわち, 溶媒による結晶化では如何なる圧力, 温度条件下でも wbn は得られず, エネルギー的により安定な hbn か cbn が生成する. 一方, 溶媒を用いない hbn から cbn への圧力誘起相転移過程では, hbn から wbn への無拡散型の転換がなされ, その後エネルギー的により安定な cbn へ拡散を伴う相転換がなされる 16). 前節で紹介した通り, mm スケールの高純度 hbn 単結晶が得られたので, これを出発試料として wbn への固相転換を試みた. ベルト型高圧装置を用い, 10GPa, 室温 ~1500 の圧力温度領域において, NaCl 圧力媒体中で hbn 単結晶を処理し, 回収後, X 線回折, ラマン分光, カソードルミネッセンス等により評価した. 参照試料として hbn 焼結体と pbn 円板を高温, 高圧処理した結果と比較すると, hbn 単結晶からの wbn への転換はより低温で進行した. 良質 hbn 結晶を C 軸方向に加圧することで, 無拡散型の転移による wbn への転換効率が促進されるものと捉えている. 図 9 に hbn 単結晶を 10GPa 850 から 1350 で処理した試料の X 線回折図形を示す ( 縦軸はログスケールで表示 ). また, 図 9 に hbn 単結晶の高圧処理の前後による外観変化の例を示す. hbn 結晶は自形を保ったまま, 透明から黒 - 灰色に変化し, X 線回折により wbn への転換が確かめられた.
512 図 9(c) に当該単結晶を粉砕して得られた X 線回折図形を示す. 縦軸をログスケールとしているが, hbn 相が残留しているものの, 10GPa, 850 で wbn への転換が認められる. ラマン測光では, cbn への転換は認められない. 得られた wbn 結晶の研磨面をナノインデンテーション法により評価したところ, 硬度 54GPa, ヤング率 860GPa を得た. 参照試料として cbn 単結晶の (111) 面方位を評価した値は, 硬度 61GPa, ヤング率 1070GPa を得た. wbn 結晶の硬度, ヤング率は cbn のおよそ 8~9 割程度ということになる 17). 図 10 は cbn と wbn 結晶の室温下光吸収スペクトルの比較である. 着色した cbn は 300nm 付近に不純物起源の光吸収が見られるが, 高純度 hbn 単結晶から得た wbn ではこの光吸収は見られず, 高純度 cbn と同等の特性呈している特性を呈している.. wbn 結晶の色調が黒いのは,, 不純物ではなく別の微細構造観察で見られた多数の転位, 積層欠陥化によるものと考えられる 18). 超高圧環境を新物質合成のプロセスとして位置づけた場合, その特有の現象として, 圧力誘起構造相転移の制御因子に着目している. ダイヤモンドが常圧下で準安定相として存在し得るのは, 黒鉛への逆転換のためのエネルギー障壁が高いことによる. 他方, このエネルギー障壁が低い物質は, 高圧相への転換が容易である一方, 常圧相への逆転換も容易に進行する. ここで紹介した wbn は室温下で hbn 単結晶から固相転換 ( 無拡散転移 ) しているにもかかわらず, 圧力解放後も安定に回収されるという希有な事例である. 高圧下での構造相転移は初期の結晶方位に依存し, hbn は c 軸が保存され (hbn(002)//wbn(002)) となる. 同様の振る舞いとして黒鉛からの六方晶ダイヤモンドへの転換が知られているが, 相転換後の脱圧過程で乱層構造に逆転換してしまう. wbn と六方晶ダイヤモンドの高圧相としての構造安定性を支配する因子を明らかにし, その制御指針を得ることが出来れば, これまで回収が困難であった, あまたの高圧相の特性を評価 活用するなど, その波及効果は極めて大きいと考えている. 6 結言一般的に, 超高圧下の単結晶合成プロセスでは不純物の制御が容易ではなく, また, 試料空間の制約などを受けるため, 試料の高純度化や大型化が困難であると受け止められていよう. 反面, 常圧下での単結晶等の合成プロセスでは, 高温度下での試料や溶媒の分解等により, その合成条件の制限を受けるが, 高圧合成プロセスは, 高圧安定相の合成に限らず, これら試料や溶媒の高温度下での分解の抑制が可能である. 高圧合成の立場としては, 引き続き大型 良質の cbn 合成と共に, 更に良質 大面積の hbn 合成はチャレンジであり, その品質向上に向けた連携が cbn と hbn 両結晶の高品位化のための基礎として重要であると考えている. このような取り組みを通じて, 窒化ホウ素のみならず, 他の新たな物質 材料合成研究の土壌として, 高圧合成環境の優位性が更に整備 展開されることを期待する. ここで紹介した研究内容は多くの方々との共同研究によるものです. 旧無機材質研究所当時よりベルト型高圧装置の開発, 利用技術の革新を進めてこられた福長脩 ( 元無機材研総合研究官 ), 山岡信夫 ( 元 NIMS 総合研究官 ), 赤石實 ( 同 ), 神田久生 ( 同 ) 各博士らに謝意を表します. また, cbn, hbn の遠紫外線発光特性の研究は渡邊賢司博士 (NIMS), wbn 結晶の機械的特性 図 10 Optical absorption spectra. cbn crystals wbn crystal. 評価は出浦桃子博士ら ( 東大マテリアル ) との共同研究によるものです. 参考文献 1) M.Akaishi,H.Kanda and S.Yamaoka, Synthesis of diamond from graphite-carbonate systems under very high temperature and pressure,j.cryst.growth,104,578-581(1990). 2) F.P.Bundy,H.T.Hall,H.M.Strong, and R.H.Wentorf Jr., Manmade diaomd, Nature 176 51-55 (1955). 3) R.H.Wentorf,Jr., Preparation of semiconducting cubic boron nitride J.Chem.Phys. 36,1990-1991 (1962). 4) S.Yamaoka, M.Akaishi, H.Kanda, T.Osawa, T.Taniguchi, H.Sei and O.Fukunaga, Development of Belt Type High Pressure Apparatus for materials synthesis at ~8GPa, JHPI, 30,249-258 (1992). 5) H.Sumiya and S.Sato, High-pressure synthesis of high-purity diamond crystal Diamond Relate.Mater., 5, 1359-1365 (1996). 6) T.Taniguchi and S.Yamaoka, Spontaneous nucleation of cubic boron nitride single crystal by temperature gradient method under high pressure, J.Cryst.Growth, 222, 549-557 (2001). 7) T.Taniguchi, K.Watanabe, S,Koizumi, T.Sekiguchi, I.Sakaguchi and S.Yamaoka, Ultraviolet light emission from self-organized p-n domains in cubic boron nitride bulk single crystals grown under high pressure Appl.Phys.Lett., 81,4145-4157 (2002). 8) T.Taniguchi, K.Watanabe, S,Koizumi, T.Sekiguchi, I.Sakaguchi and S.Yamaoka, High pressure synthesis of UV-light emitting cubic boron nitride single crystals Diamond and Relat. Mater., 12,1098-1102(2003). 9) T.Taniguchi, T.Teraji, S.Koizumi, K.Watanabe and S.Yamaoka, Appearance of n-type Semiconducting Properties of cbn Single crystals Grown under High Pressure. Jpn.J.Appl.Phys., 41 L109-L111 (2002). 10) T.Taniguchi and K.Watanabe, Synthesis of high purity
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