シンポジウム 女 性 と 年 金 ~ 女 性 活 躍 と 出 産 育 児 配 慮 の 在 り 方 を 求 めて~ 日 時 : 平 成 27 年 11 月 26 日 ( 木 )14:00~17:00 会 場 : 東 海 大 学 校 友 会 館 第 1 部 論 点 提 示 女 性 と 年 金 の 問 題 永 瀬 伸 子 (お 茶 の 水 女 子 大 学 基 幹 研 究 院 人 間 科 学 系 教 授 日 本 年 金 学 会 幹 事 ) 1. 女 性 と 年 金 : 論 点 整 理 <シンポジウムの 意 図 > 現 在 安 倍 政 権 では 103 万 円 の 壁 あるいは 103 万 円 の 壁 をどういうふうに 変 えようかとい うことが 話 し 合 われています このシンポジウムを 企 画 した 昨 年 は 今 ほど 新 聞 に 取 り 上 げられていま せんでしたが 女 性 と 年 金 の 在 り 方 を 考 えるシンポ ジウムをぜひ 開 きたいということで 今 回 諸 先 生 方 にお 集 まりいただきました 実 は 私 は 2000 年 に 厚 生 労 働 省 で 開 かれた 通 称 女 性 と 年 金 検 討 会 の 委 員 でした その 当 時 ものすごく 活 発 な 議 論 がありまして 新 聞 にも 毎 回 取 り 上 げられました 第 3 号 被 保 険 者 制 度 はどうなのだろうかという 否 定 的 な 意 見 と 第 3 号 被 保 険 者 制 度 は 重 要 であるという 意 見 とがあり 結 局 は 第 3 号 被 保 険 者 制 度 は 変 わりませんでし た そのときに 出 てきた 幾 つかの 案 としては 例 えば 年 金 を 夫 婦 で 分 割 する 案 ある いは 第 3 号 被 保 険 者 の 期 間 は 子 どもが 幼 いうちだけに 限 定 する 案 あるいは 第 3 号 被 保 険 者 がいる 人 といない 人 で 保 険 料 を 変 える 案 などがありました 結 局 離 婚 分 割 は 国 会 を 通 り 法 律 となりましたが その 他 はなかなか 変 えられなかったというのが 当 時 だったのではないかと 思 います それから 15 年 たち 日 本 の 年 金 をめぐる 状 況 は 一 層 変 わってきました 一 つは 働 く 女 性 が 増 加 してきたこと 一 方 で 当 時 と 比 べても 男 性 も 女 性 も 雇 用 が 不 安 定 化 し 非 正 規 雇 用 が 増 えてきたこと それから 家 族 という 点 では 無 配 偶 男 女 が 増 えて 生 涯 シングルも 増 えてきたこと そして 高 齢 期 に 子 ども 夫 婦 と 同 居 する 者 が 大 幅 に 減 少 したこと さらに これから 先 を 見 通 すと 25 年 後 には 65 歳 以 上 人 口 が 4 割 にな ると 予 想 されており その 点 からも 女 性 と 年 金 の 在 り 方 を 新 たに 考 えていく 必 要 があると 思 われます 老 後 の 年 金 は 手 厚 いことに 越 したことはないわけですが こういった 変 化 の 中 で 現 役 女 性 の 年 金 加 入 はどういうものを 考 えていったらいいのか それから 高 齢 期 の 2
女 性 の 年 金 給 付 上 の 配 慮 はどういうふうに 変 えていったらいいのかということです 現 在 女 性 への 配 慮 としては 第 3 号 被 保 険 者 制 度 遺 族 年 金 離 婚 分 割 育 児 期 間 などがあります サラリーマンの 妻 に 対 する 配 慮 は 比 較 的 ありますが 低 賃 金 の 単 身 の 方 非 正 規 雇 用 のご 夫 婦 母 子 世 帯 の 母 等 への 年 金 上 の 配 慮 はかなり 薄 いものと なっており 老 後 の 年 金 が 不 十 分 な 場 合 は 生 活 保 護 に 行 かざるを 得 ない 状 況 です 生 涯 シングルの 女 性 が 増 え 低 所 得 世 帯 の 妻 や 離 別 女 性 母 子 世 帯 も 増 えていく 中 で 女 性 が 自 分 で 老 後 に 備 えられる 仕 組 みをもっと 拡 大 していく 必 要 があるのではない かと 考 えます ただし 女 性 と 年 金 ということになると 2000 年 の 会 議 のときも そうだったのですが ご 自 身 のご 家 族 自 分 の 奥 さんの 働 き 方 がどうであるかによっ てそれぞれのお 一 人 お 一 人 の 考 え 方 がかなり 変 わると 思 うのです 私 は 大 学 の 教 員 をしているので 永 瀬 さんには 分 からないよ と 言 われるのです が 私 は 結 婚 してから 途 中 までは 第 3 号 被 保 険 者 で 第 2 子 が 2 歳 になったときに 第 2 号 被 保 険 者 になりました その 途 中 に 第 1 号 被 保 険 者 の 期 間 があります です から 第 3 号 被 保 険 者 第 1 号 被 保 険 者 第 2 号 被 保 険 者 を 経 験 した 当 事 者 でもあ ります あまり 年 齢 は 言 いたくないのですが 生 まれ 年 がどの 辺 かというのはとても 重 要 だと 思 います 私 は 均 等 法 の 前 に 就 職 していて つまり 1960 年 ごろに 生 まれま した その 頃 の 私 の 同 級 生 の 多 くは 結 婚 退 職 か 出 産 退 職 をしています 友 人 たちのそ の 後 はいろいろでして 生 涯 シングルの 方 もいますし 私 のように 仕 事 に 本 格 的 に 戻 った 人 もいます それから 主 婦 として 103 万 円 ぐらいまでで 働 いている 方 もいま す 日 本 全 体 の 統 計 を 見 ると いったん 辞 めた 妻 は 大 体 103 万 円 ぐらいまでで 働 い ている 方 が 多 いというのが 私 の 世 代 の 日 本 の 女 性 像 です そういう 女 性 像 を 支 えているのが 男 性 の 長 期 雇 用 の 安 定 的 な 働 き 方 であり 女 性 については 第 3 号 被 保 険 者 制 度 をはじめとする 社 会 保 障 制 度 です しかしながら 今 後 現 役 人 口 が 大 きく 減 り 高 齢 人 口 が 増 えるような 社 会 において また 子 どもが 持 ち にくい 状 況 を 緩 和 すべき 社 会 において 社 会 保 障 女 性 と 年 金 についてどういうふう に 考 え 直 す 必 要 があるのか 新 たに 議 論 討 論 することが 重 要 と 考 えています こんなことを 考 えていたときに 年 金 と 経 済 という 雑 誌 から 2014 年 の 政 府 の 財 政 検 証 について 特 にパートの 厚 生 年 金 への 適 用 拡 大 オプション 試 算 の 結 果 につ いての 論 文 依 頼 がありました これから 先 年 金 水 準 がどんどん 下 がっていくだろう という 試 算 結 果 についてです 注 意 深 く 読 むと 経 済 成 長 が 中 位 の 試 算 において 私 の 世 代 すなわち 1960 年 生 まれですが 65 歳 になったときに 今 の 賃 金 で 夫 婦 で 20 万 2000 円 ぐらいをモデル 年 金 で 頂 けると 試 算 されていました しかしながら その 後 はマクロ 経 済 スライドでどんどん 年 金 水 準 は 下 がっていき ありそうな 経 済 のケー スでも 85 歳 のときに 夫 婦 で 14 万 円 ぐらいに 下 がるとの 検 証 結 果 が 示 されていた のです なお 財 政 検 証 では 現 役 の 代 替 率 としてのパーセンテージしか 出 されていま せんのでこの 金 額 そのものが 示 されていたわけではありません 代 替 率 から 現 在 の 賃 金 をもとに 賃 金 表 示 したものです モデル 年 金 というのは 夫 が 40 年 平 均 賃 金 で 働 いて 奥 さんも 専 業 主 婦 という 世 帯 ですが そこの 年 金 が 85 歳 ぐらいになるまで に 20 万 円 から 14 万 円 ぐらいにまで 下 がっていくという 見 通 しが 出 されたわけです 3
このような 状 況 に 対 抗 する 方 法 として 厚 生 労 働 省 はオプション 試 算 1 2 という のを 出 しています オプション 試 算 2 というのは 月 5.8 万 円 以 上 稼 ぐ 人 は 全 員 が 第 2 号 被 保 険 者 になり 第 1 号 被 保 険 者 の 人 も 月 5.8 万 円 以 上 稼 ぐ 人 は 全 員 が 第 2 号 被 保 険 者 に 入 るという 試 算 です そうすると 第 2 号 被 保 険 者 が 1200 万 人 増 え 年 金 財 政 がかなり 改 善 され 年 金 低 下 ももう 少 し 小 幅 で 済 むという 試 算 でした なおオ プション 試 算 1 とはほんの 少 しパートの 年 金 加 入 がすすむという 試 算 で 影 響 は 小 さ いものです そういう 試 算 を 読 んだわけですが そのような 大 きな 変 更 をルール 化 すればそれ で 女 性 たちが 喜 んで 第 2 号 被 保 険 者 になるでしょうか これを 疑 問 に 思 いました 現 在 では 103 万 円 103 万 円 までの 方 が 得 だということで 就 業 調 整 が 起 きているよ うな 状 況 があるので ルールをつくっただけではそう 簡 単 に 第 2 号 被 保 険 者 には 移 動 しないでしょう 第 3 号 被 保 険 者 制 度 を 含 めて 年 金 の 在 り 方 を 大 きく 再 考 する 必 要 があるというと 思 うということをその 雑 誌 に 書 きました そのための 工 夫 とし て 少 しでも 収 入 がある 人 には 同 じように 社 会 保 険 料 を 賦 課 する しかしベンドポイ ント 制 をとり 低 賃 金 の 人 には 相 対 的 に 高 い 給 付 を 与 える 加 えて 育 児 期 間 の 考 慮 再 就 職 の 評 価 といったような 試 案 を 書 きました これは1つの 試 案 にすぎませんが 女 性 が 年 金 に 入 るのに どういう 課 題 があっ て また 高 齢 化 のすすむ 社 会 に 向 けてどういうことを 考 えていったらいいのかは 重 要 な 課 題 です すぐさまの 一 致 した 答 えは 出 ないかもしれませんが 大 勢 の 先 生 方 の 知 恵 を 絞 り 議 論 できればと 存 じます まず 現 在 の 制 度 についてお 話 しするのが 私 の 役 目 ですので そのようにさせてい ただきます 2. 女 性 への 年 金 配 慮 : 第 3 号 被 保 険 者 制 度 <1985 年 改 正 の 制 度 設 立 当 時 の 意 味 > 1985 年 の 年 金 の 大 改 正 は ちょうど 私 が 20 代 のころです その 時 に 第 3 号 被 保 険 者 制 度 が 通 りました 図 1の 左 側 をご 覧 ください 厚 生 労 働 省 の 資 料 からです が 定 額 部 分 というのは 賃 金 が 低 い 人 でも 高 い 人 でも 雇 用 者 であれば 同 じように もらえる 部 分 で 当 時 のモデル 年 金 では 32 年 加 入 で 7 万 6800 円 でした また 奥 さんがいる 人 には 1 万 5000 円 の 加 給 年 金 がありました それから 報 酬 比 例 部 分 は 給 料 が 高 い 人 はたくさん 低 い 人 は 少 しもらえるという 年 金 の 部 分 で 当 時 のモ デル 年 金 では 81300 円 でした 1985 年 改 正 の 後 は 図 1の 右 側 ですが すぐさま 給 付 が 変 わるわけではありません 当 時 の 20 代 の 人 つまり 私 の 世 代 ですが が 60 歳 になったときにはこういう 制 度 が 完 成 するという 改 正 です その 完 成 図 ですが 具 体 的 には 妻 分 に 月 5 万 円 の 年 金 ができ 夫 分 に 5 万 円 の 基 礎 年 金 ができるとされました これが 現 在 では 一 人 あ たり 月 約 6 万 5000 円 になっている 基 礎 年 金 のことです それから 報 酬 比 例 部 分 は 昔 は 32 年 加 入 だったのが 40 年 加 入 がモデル 年 金 となり 1 年 あたりの 加 入 に 4
対 する 給 付 乗 率 が 下 がる そのため 報 酬 比 例 部 分 は 少 し 小 さくなり モデル 年 金 で 76200 円 となると 示 されています しかし 離 婚 しなければ 改 正 前 も 改 正 後 も 夫 婦 世 帯 のモデル 年 金 は 17 万 円 強 と 変 わらず ただし 奥 さん 名 義 の 年 金 ができるのだと 1985 年 改 正 は 説 明 されました 1985 年 の 40 代 の 女 性 というと 主 婦 が 多 かったので この 改 正 は 比 較 的 歓 迎 され ました しかしその 後 この 改 正 は 専 業 主 婦 優 遇 なのではないか と 言 う 単 身 女 性 の 方 たちも 増 えました 図 2をご 覧 ください 改 正 前 は 賃 金 が 低 い 人 も 高 い 人 も 働 く 者 が 共 通 にもらう 定 額 部 分 が 7 万 6800 円 でした それが 単 身 だと 5 万 円 に 縮 小 し てしまいます それから 報 酬 比 例 部 分 ですが 女 性 は 平 均 では 男 性 の 賃 金 の 半 分 程 度 しか 得 られていませんので 報 酬 比 例 部 分 も 小 さい つまり 夫 婦 世 帯 であれば 1985 年 改 正 でも 年 金 給 付 水 準 は 変 わらなかったのですが 単 身 もしくは 共 働 きの 場 合 はプラス 5 万 円 の 分 がありません その 上 で 定 額 部 分 が 縮 小 し 乗 率 が 下 がった ので 共 働 きおよび 単 身 特 に 低 所 得 の 層 の 単 身 については 時 間 をかけながら 年 金 水 準 が 下 がる 改 正 でもあったわけです < 第 3 号 被 保 険 者 制 度 の 当 時 の 評 価 と 将 来 社 会 に 向 けての 評 価 > これについてどう 評 価 するかですが 当 時 はそれほどシングルが 増 えると 思 われ ていなかったのです 当 時 はこの 改 正 はとても 歓 迎 されたものでした しかしなが ら その 後 は 共 働 きおよび 単 身 の 方 たちが 増 えていったのです 日 本 の 女 性 の 年 金 配 慮 は 第 3 号 被 保 険 者 制 度 が 中 心 で 扶 養 されているサラリー マンの 配 偶 者 の 年 収 が 現 在 は 130 万 円 未 満 であれば 社 会 保 険 料 を 自 分 では 負 担 せ ず かわりに 厚 生 年 金 全 体 が 負 担 して 基 礎 年 金 権 を 得 られます これにより 確 かに 主 婦 にとって 老 後 の 年 金 を 得 られる 者 が 拡 大 しました そして 夫 婦 2 人 分 の 基 礎 年 金 がもらえるので 専 業 主 婦 世 帯 の 年 金 水 準 が 安 定 するという 役 割 がありました 半 面 で 今 後 のように 労 働 力 がどんどん 減 っていき しかも 寿 命 が 延 びていて 子 ども 数 が 減 っていて 中 年 期 の 働 ける 時 代 が 長 くなったような 時 期 には 大 変 問 題 が 大 きいと 思 います 主 婦 が 社 会 保 険 料 免 除 のために 年 間 130 万 円 に 非 課 税 のため に 年 間 103 万 円 までに 仕 事 を 調 整 する そこまでしか 働 かないような 要 因 になって いることが 大 きな 問 題 です さらに 本 人 がそうするだけではなく そういう 働 き 方 を 提 示 すれば 企 業 は 年 金 保 険 料 を 払 わなくて 済 むので 企 業 が 短 時 間 で 働 く 人 を 募 集 して 短 時 間 の 働 かせ 方 をするわけです そして 長 期 で 見 れば 主 婦 は 自 分 で 負 担 しなくても 基 礎 年 金 ならばもらえるという 見 方 もできますが 基 礎 年 金 しかもら えないということにもなります また 年 間 103 万 円 未 満 で 比 較 的 優 秀 な 主 婦 の 方 たちが 働 くので シングルの 非 正 規 の 人 たちが 同 じような 賃 金 水 準 つまり お 小 遣 い 賃 金 に 過 ぎない 水 準 の 賃 金 しか 得 られない 一 つの 原 因 にもなり 得 ます そういった 意 味 で 女 性 の 基 礎 年 金 の 第 3 号 被 保 険 者 制 度 というのは 女 性 の 年 金 拡 充 の 重 要 な 役 割 を 持 ってはいますものの 大 きい 問 題 が 積 み 上 がってきているわけです ですから 85 年 改 正 は 専 業 主 婦 世 帯 の 給 付 は 変 わらなかったけれども そうではない 世 帯 の 給 付 を 下 げたということで 5
す それから 非 正 規 雇 用 者 や 自 営 業 の 妻 については 第 3 号 被 保 険 者 という 制 度 は ないのです 日 本 では 女 性 の 6 割 ぐらいは 出 産 した 後 にいったん 無 職 になっている のですが そうした 自 営 世 帯 では 出 産 後 無 業 になった 女 性 は 自 身 で 年 金 保 険 料 を 払 わない 限 り 年 金 がないことになります < 遺 族 年 金 > 次 にサラリーマンの 配 偶 者 の 遺 族 年 金 です 遺 族 年 金 は 日 本 において 老 後 の 女 性 の 暮 らしに 非 常 に 重 要 な 役 割 を 果 たしています というのは 女 性 の 賃 金 が 低 く 自 分 の 年 金 が 低 いからです 現 在 は 夫 の 死 亡 時 に 自 分 の 厚 生 年 金 か 夫 の 遺 族 年 金 を 選 ぶ もしくは 両 方 の 2 分 の 1 かを 選 ぶ 制 度 ですが ほとんどの 方 は 夫 の 遺 族 年 金 を 選 んだ 方 が 年 金 が 高 いのです そうしますと 例 えばパートで 20 年 働 いて 自 分 の 年 金 が 2 万 円 付 いたとします ああ よかった と 思 っていると 夫 が 亡 くなった ときにはその 2 万 円 を 実 質 的 には 放 棄 して 夫 の 遺 族 年 金 だけになるということが 制 度 上 あります これは 給 付 という 面 から 女 性 の 年 金 加 入 のメリットを 引 き 下 げてい ます このように 日 本 の 年 金 制 度 は なぜか 女 性 が 働 くことについては 結 構 厳 しい 制 度 を 持 つのですが 妻 への 配 慮 はあり たとえば 高 齢 者 と 少 しの 期 間 であっても 結 婚 し 未 亡 人 となれば 遺 族 年 金 が 来 ます つまり 結 婚 については 優 しいが 女 性 が 働 くこ とには 冷 たい 制 度 ともいえます < 年 金 と 育 児 期 間 > それから 年 金 上 の 育 児 期 の 配 慮 です 最 近 は 育 児 期 間 の 無 業 や 低 収 入 は 年 金 上 社 会 的 に 評 価 するのが 世 界 の 年 金 の 流 れです 子 どもが 育 つということは 年 金 を 維 持 する 上 でとても 重 要 なことです しかし 子 どもを 育 てることで 賃 金 が 下 がったり 無 業 になれば 年 金 は 下 がってしまう そこで 育 児 は 社 会 的 に 年 金 上 評 価 するという 方 向 です 日 本 の 場 合 も 育 児 休 業 中 の 保 険 料 の 免 除 等 の 改 正 はされているのですが 過 半 数 の 女 性 は 辞 めてしまっています それから 非 正 規 の 方 も 多 いため 育 児 期 の 配 慮 は 厚 生 年 金 加 入 者 でかつ 育 児 休 業 を 取 った 人 には 行 われているのですが 多 くの 出 産 女 性 には 届 いていないという 問 題 があります < 離 婚 分 割 > 離 婚 分 割 は 2004 年 改 正 で 導 入 されました これ 以 前 は 離 婚 分 割 がなかったので これは 離 婚 した 方 にとってはよかったのではないかと 思 います 3. 女 性 と 年 金 の 課 題 < 現 在 の 年 金 給 付 > 現 在 の 高 齢 期 の 年 金 はどのくらいもらえているのかというのが 皆 さんのご 関 心 が あるところだと 思 いますが 実 は 結 構 高 いのです 厚 生 労 働 省 年 金 制 度 基 礎 調 査 平 成 23 年 によれば 夫 婦 世 帯 の 方 は 年 金 300 万 ~400 万 円 というところにピークが 6
あります これは 70~74 歳 層 を 見 たものです 60 代 はまだ 仕 事 をしている 人 もい ますし 年 金 年 齢 の 引 き 上 げ 途 上 でもありますので 70~74 歳 で 厚 労 省 の 調 査 で 見 ました ただ 先 ほども 述 べたとおり 今 後 の 年 金 はもっとずっと 下 がっていくこと が 予 想 されているわけです 男 女 別 に 見 ると 厚 生 労 働 省 国 民 生 活 基 礎 調 査 平 成 24 年 という 別 の 調 査 から ですが 同 じく 70-74 歳 層 について 男 性 は 200 万 ~300 万 円 ぐらいにピークがあ って 女 性 は 基 礎 年 金 ぐらいである 60 万 ~80 万 円 あるいは 少 し 厚 生 年 金 をもら っている 80 万 ~100 万 円 ぐらいにピークがあります 両 者 が 夫 婦 であれば 300 万 ~ 400 万 円 の 年 金 になるわけです しかし 単 身 だけで 見 ますと 単 身 女 性 の 4 割 が 年 間 100 万 円 未 満 の 年 金 しかも らっていませんし 61%が 年 間 150 万 円 未 満 の 年 金 しかもらっていません 同 じく 厚 生 労 働 省 年 金 制 度 基 礎 調 査 平 成 23 年 からです なぜか この 年 齢 層 の 方 たち は 第 3 号 の 保 険 者 制 度 ができたときに 40 代 だった 方 たちです 当 時 はまだ 女 性 の 家 族 従 業 者 がかなりいて 自 営 世 帯 も 多 かったのです つまり 1 号 の 方 々も 多 かった それから サラリーマンでずっと 働 き 続 けていたシングルの 女 性 の 場 合 は 男 性 よ りかなり 賃 金 が 低 く しかも 正 社 員 を 続 けられなくて 途 中 から 非 正 規 になってしま うような 方 も 比 較 的 多 かった このような 諸 要 因 のために 年 金 が 低 くなってしまい ます 単 身 の 中 では 遺 族 年 金 を 受 給 している 方 はそれでも 年 金 水 準 が 高 いのですが 生 涯 シングルの 方 の 年 金 がかなり 低 いことが 分 かっています またここまでの 統 計 に は 示 されていませんが 年 金 がすごく 低 い 方 たちは 子 同 居 世 帯 の 女 性 にも 多 いです < 現 役 女 性 の 就 業 調 整 の 実 態 > 現 役 の 働 き 方 への 影 響 ですが 厚 生 労 働 省 21 世 紀 成 年 者 縦 断 調 査 という 1968 ~1982 年 生 まれの 方 たちの 調 査 で 見 たものがパワーポイントの 図 です 結 婚 してい る 方 と 未 婚 の 方 で 分 け それぞれを 正 社 員 の 方 と 他 の 就 業 形 態 の 方 に 分 けています 左 側 の 有 配 偶 女 性 をみると 正 社 員 の 方 たちは 200 万 ~700 万 円 ぐらいに 年 収 が 分 布 していますが 時 間 給 で 働 く 人 たちは 103 万 円 のところに 非 常 に 大 きなピークがあ り そこに 就 業 調 整 しています 130 万 円 はより 小 さなピークですが そこにもピー クはあります そして 単 身 の 方 も 右 の 図 のようにやはり 103 万 円 のところに 調 整 する 小 さいピ ークはありますが 調 整 とは 無 関 係 の 正 社 員 就 業 の 方 が 全 般 にずっと 多 いです これ に 対 して 有 配 偶 女 性 については 就 業 調 整 のピークにいる 方 の 数 は 大 きくて 時 給 で 働 く 妻 の 多 くが 税 金 や 社 会 保 険 のことを 考 えつつ 就 業 調 整 をしていることが 分 かる と 思 います 女 性 の 年 金 の 課 題 としては 現 役 世 代 について 働 く 人 が 就 業 調 整 したくなるよう な 徴 収 構 造 はなくすべきです 現 状 では 他 の 統 計 等 を 見 ますと 子 どもが 義 務 教 育 を 修 了 しだんだん 母 親 がより 長 時 間 働 けるようになったときに 103 万 の 壁 にぶつか り 就 業 調 整 が 増 えるとわかっています また 夫 の 収 入 が 高 い 方 が 就 業 調 整 をしてい 7
ます 就 業 調 整 をしないと 年 間 20 万 ~30 万 円 ぐらいの 社 会 保 険 料 が 突 然 掛 かる ようになるのです そのため 就 業 調 整 をするのが 大 変 合 理 的 なような 徴 収 構 造 にな ってしまっているわけです さらに 遺 族 年 金 からも せっかく 年 金 を 積 み 立 てたと 思 っても 夫 が 亡 くなると 自 分 の 年 金 分 がなくなってしまう そういうことで もう 少 し 女 性 が 就 業 するという 前 提 で 社 会 保 障 を 再 考 した 方 がよろしいのではないだろう か 4. 試 案 をもとに 山 本 克 也 氏 によるシミュレーション そこで 先 ほどの 私 の 論 文 をもとに 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 の 山 本 克 也 先 生 が 年 金 シミュレーションしてくださいました お 配 りした 冊 子 には 間 に 合 わなくて 追 加 資 料 として 資 料 集 に 入 っています 私 の 考 えた 案 とは 年 金 と 経 済 の 2014 年 第 34 巻 第 1 号 24-39 頁 にありますが 米 国 のようなベンドポイント 式 の 年 金 を 考 えました 米 国 のベンドポイント 式 とは 例 えば 月 収 8 万 円 までは 年 金 代 替 率 が 9 割 すなわち 9 割 の 金 額 を 年 金 としてもらえる 月 収 が 高 くなると 代 替 率 は 32%と 下 がり さらに 高 くなると 16%に 下 がる 仕 組 みです たとえば 生 涯 8 万 円 で 働 く 人 は 年 金 を 7 万 2000 円 もらいます そのように 低 賃 金 に 厚 い 給 付 構 造 ですが かわり にわずかな 収 入 でも 原 則 としてすべて 社 会 保 険 料 を 課 します 米 国 の 制 度 にならっ た 事 例 ですが こういう 形 にしたらどういうことになるか その 上 で 第 3 号 のよう な 配 慮 を 子 育 て 期 間 だけにしたらどういうことになるか さらに 育 児 理 由 で 退 職 し 再 就 職 した 人 には 年 金 が 加 算 されるような 就 業 奨 励 の 工 夫 をしたらどういうことに なるか また 女 性 が 遺 族 年 金 をもらうときに 自 分 の 年 金 が 完 全 にカットされるので はなくて 低 い 人 には 自 分 の 年 金 が 上 がるにつれてだんだん 遺 族 年 金 は 下 がるよう な 形 で 自 分 の 年 金 の 上 に 遺 族 年 金 が 載 る 形 にしたらどうなるだろうかということを 書 き その 案 に 基 づいてそれを 簡 略 化 し 山 本 先 生 がシミュレーションをしてくださ いました そのシミュレーションの 結 果 についてご 紹 介 します 山 本 先 生 は 社 会 保 障 人 口 問 題 研 究 所 の 研 究 者 で 年 金 の 財 政 のシミュレーションがご 専 門 です 今 日 は 残 念 な がら 来 られませんでしたので 私 がどこまできちんとご 説 明 できるか 分 かりません が 先 生 が 今 回 の 財 政 検 証 のもう 1 回 前 の 2009 年 の 財 政 検 証 のプログラムを 使 い 中 位 の 物 価 上 昇 率 中 位 の 賃 金 上 昇 率 中 位 の 運 用 利 回 りの 仮 定 の 下 で 厚 生 労 働 省 が 当 時 行 ったのと 同 じような 初 期 値 で 計 算 をしてくださいました 年 金 加 入 者 が 毎 年 どのように 変 化 していくか 報 酬 がどのように 変 化 していくかを 試 算 に 入 れて 計 算 してくださったものです 私 の 案 は 育 児 期 間 の 保 険 料 の 免 除 という 仕 組 みがありますが 山 本 先 生 の 案 では 第 3 号 被 保 険 者 を 廃 止 して 第 3 号 被 保 険 者 は 全 員 が 原 則 新 2 号 となる( 育 児 期 も 第 2 号 と 評 価 する)ものとして 計 算 されています 先 ほど 説 明 したようなベンドポ イント 制 を 仮 定 したので 低 収 入 の 人 には 保 険 料 納 付 の 割 に 給 付 が 高 い 形 になってい ます 旧 制 度 の 方 は 旧 制 度 で 計 算 されていますが 新 制 度 に 移 ったらその 時 から 新 制 8
度 として 給 付 されるということです そして マクロ 経 済 スライドをここでは 適 用 さ せていません 年 収 が 低 い 人 は 9 割 ぐらい 年 金 をもらえ そして そこから 先 は 少 しベンドして もっと 年 収 が 高 いともっと 代 替 率 が 下 がる 方 式 です 例 えば 3 号 の 方 も 1 号 の 方 も 生 涯 10.5 万 円 で 働 いたと 仮 定 すると 年 金 が 8 万 円 ぐらいになりま す それでどういうことになるかを 見 てみましょう 私 の 論 文 では 再 就 職 の 加 算 などありますが その 辺 は 全 部 端 折 って 計 算 されてい ます 結 果 として 第 1 号 被 保 険 者 の 方 の 年 金 給 付 はかなり 上 がります 第 3 号 被 保 険 者 の 方 は 少 し 年 金 給 付 が 上 がります 第 2 号 被 保 険 者 の 方 は 時 代 がかなりた って 年 金 給 付 が 上 がるという 形 になっています そうすると 高 齢 化 がすすむ 2040 年 には 現 在 の 制 度 に 比 べて 7 兆 円 ぐらいのお 金 が 掛 かって 年 金 給 付 は 全 体 に 上 が るという 結 果 になりました また 第 2 号 被 保 険 者 が 新 制 度 に 移 行 しない 場 合 には 第 1 号 と 第 3 号 の 変 化 だけになります 結 論 としては 低 所 得 の 方 たちの 年 金 を 拡 充 することで 2040 年 には 約 9 兆 円 ( 消 費 税 3% 分 相 当 )のお 金 が 掛 かるとなりました また 第 2 号 被 保 険 者 制 度 を 変 えない と 仮 定 すると 5 兆 円 ぐらいで 消 費 税 2% 分 の 支 出 に 当 たるというのが 山 本 克 也 先 生 の 試 算 でした この 他 にもう 少 し 試 算 があるのですが 時 間 の 制 約 から 説 明 はここ まででとさせていただきたいと 思 います これは 一 つの 試 算 ですが これから 大 きく 高 齢 化 に 向 かっていく 中 で 女 性 の 働 き 方 それから 子 育 て 期 の 年 金 の 考 え 方 を 女 性 の 就 業 を 奨 励 する 方 向 に 再 考 する 必 要 があると 思 います 一 番 貧 困 になりやすいのは 高 齢 女 性 です 女 性 の 老 後 の 年 金 と 女 性 の 現 役 期 の 保 険 料 負 担 についてどういうふうに 考 えるか ここで 議 論 したいと いうことで 論 点 整 理 と 問 題 提 起 をいたしました ( 参 考 資 料 ) 永 瀬 伸 子 (2015) 特 集 公 的 年 金 改 革 について パートの 厚 生 年 金 の 適 応 拡 大 について 年 金 の 財 政 検 証 と 適 用 拡 大 オプションの 試 算 から 年 金 と 経 済 第 34 巻 第 1 号 24-39 頁 9