1 虫 歯 菌 のATP 合 成 酵 素 を 標 的 とする 抗 菌 薬 スクリーニングシステム 岩 手 医 科 大 学 薬 学 部 分 子 生 物 薬 学 講 座 助 教 荒 木 信
Streptococcus mutansについて グラム 陽 性 の 通 性 嫌 気 性 の 連 鎖 球 菌 う 歯 の 原 因 菌 虫 歯 菌 とも 呼 ばれる 糖 を 分 解 して 乳 酸 を 分 泌 し 酸 性 環 境 を 作 ることでう 蝕 を 起 こす 感 染 性 の 心 内 膜 炎 や 誤 嚥 性 肺 炎 の 原 因 菌 としても 注 目 されている 誤 嚥 性 肺 炎 の 割 合 ( % ) 100 80 60 40 20 0 http://www.saishika.jp/biofilm/aa.html 0~39 40~49 50~59 60~69 70~79 80~89 90~ 年 齢 ( 才 ) 肺 炎 入 院 患 者 における 誤 嚥 性 非 誤 嚥 性 肺 炎 の 割 合 (Teramoto et al. JAGS 2008) 非 誤 嚥 性 誤 嚥 性 2
既 存 抗 菌 薬 の 作 用 機 序 細 胞 壁 合 成 阻 害 βラクタム 系 バンコマイシン DNA 合 成 阻 害 ニューキノロン 系 細 胞 壁 DNA 細 胞 膜 葉 酸 合 成 阻 害 サルファ 剤 PABA DHF THF mrna リボソーム 50S 30S 50S 30S 転 写 阻 害 リファンピシン タンパク 質 合 成 阻 害 マクロライド 系 アミノグリコシド 系 テトラサイクリン 系 細 胞 膜 障 害 ポリミキシンB 3
ATP 合 成 酵 素 とは ATP ADP+Pi δ β α b γ ε c a H + H + H + H + H+ H + H + H + H+ 細 胞 質 ペリプラズム ATP 合 成 酵 素 はバクテリアの 細 胞 膜 や 真 核 生 物 では 葉 緑 体 やミトコンドリア 内 膜 に 存 在 する バクテリアのATP 合 成 酵 素 は8つの サブユニットから 成 り 膜 表 在 性 の F 1 (α 3,β 3,γ,δ,ε)と 内 在 性 の F O (a,b 2,c 10~15 )で 構 成 されている F 1 は 触 媒 部 位 を3ヶ 所 もちADPと 無 機 リン 酸 からATPの 合 成 を 行 う F O はプロトンの 輸 送 路 として 働 い ている また ATPを 利 用 して プ ロトンを 排 出 する 機 能 も 持 つ 4
ATP 合 成 酵 素 cサブユニットの 保 存 性 TM1 TM2 プロトン 輸 送 に 関 与 する2つ 目 の 膜 貫 通 領 域 の 酸 性 アミノ 酸 は 保 存 されている cサブユニットの 一 次 構 造 は 細 菌 間 で 多 様 性 がある 菌 種 特 異 的 な 抗 菌 薬 が 期 待 できる 5
炭 素 源 とATP 産 生 経 路 グルコース 解 糖 系 ATP ATP 合 成 酵 素 NADH NAD + TCA cycle ATP H + H + コハク 酸 H + フマル 酸 H + ADP+Pi 細 胞 質 e - cサブユニット 複 合 体 Ⅰ 複 合 体 Ⅱ H + 複 合 体 Ⅳ H + H + H + H + H + H + H + H + H+ ペリプラズム 炭 素 源 がコハク 酸 の 場 合 ATP 合 成 酵 素 依 存 的 な 菌 の 増 殖 が 解 析 可 能 H + 6
7 試 験 株 の 概 要 ATP 合 成 酵 素 欠 損 大 腸 菌 (DK8) に 大 腸 菌 のcサブユニット 以 外 を 発 現 するプラスミド( c)を 形 質 転 換 した さらにE. coliまたはs. mutans のcサブユニット 発 現 プラスミド を 形 質 転 換 した ATP 合 成 酵 素 cサブユニットの 違 いに よる 増 殖 の 差 から ATP 合 成 酵 素 の 活 性 を 評 価 することが 可 能
8 予 備 検 討 1 グルコース コハク 酸 1: ( ) 2: pbwu13 (E. coli F O F 1 ) 3: pbwu13 c ( c) 4: E. coli c (Ecc) 5: c + Ecc 6: S. mutans c (SmcEE) 7: c + SmcEE 試 験 株 をグルコースまたはコハク 酸 寒 天 培 地 に 塗 布 して37 で 3 日 間 培 養 した E. coliのcサブユニット(ecc)またはs. mutansのcサブユニット (SmcEE)を 形 質 転 換 するとコハク 酸 培 地 で 増 殖 した ハイブリッドF O F 1 が 機 能 することが 明 らかとなった
予 備 検 討 2 OD 600 4 3 2 1 グルコース OD 600 1.5 1.0 0.5 コハク 酸 ( ) 7 ( ) 5 c 7 c 5 c+ecc 7 c+ecc 5 c+smcee 7 c+smcee 5 0 0 5 10 15 20 hour 0.0 0 10 20 30 40 50 hour 試 験 株 をグルコースまたはコハク 酸 液 体 培 地 で37 で 培 養 し 増 殖 を 解 析 した コハク 酸 培 地 において c+eccはph7.5で c+smceeは ph5.5で 増 殖 が 良 好 であった 液 体 培 地 でもATP 合 成 酵 素 依 存 的 な 増 殖 が 解 析 可 能 9
小 括 S. mutansのcサブユニットはe. coliの cサブユニットの 機 能 を 相 補 可 能 phに 依 存 した 増 殖 の 差 が 見 られた プロトン 輸 送 にはcサブユニットの53 番 目 の グルタミン 酸 が 必 要 (データ 省 略 ) [Araki et al. (2013) J Bacteriol. 195(21)] 試 験 株 によるATP 合 成 酵 素 cサブユニット 特 異 的 抗 菌 薬 のアッセイ 系 の 構 築 を 行 った 10
11 従 来 技 術 とその 問 題 点 これまでにATP 合 成 酵 素 に 作 用 する 化 合 物 の ハイスループットなアッセイ 系 は 無 い 細 菌 に 対 する 抗 菌 薬 をスクリーニングする 主 な 方 法 は 対 象 とする 細 菌 を 培 養 し 増 殖 を 解 析 し ていた しかし 細 菌 の 培 養 が 困 難 な 場 合 や 特 異 的 作 用 を 持 つ 抗 菌 薬 の 同 定 が 困 難 等 の 問 題 があった
アッセイの 概 要 試 験 株 を37 で 前 培 養 30 で 静 置 培 養 24~48 時 間 培 地 菌 体 化 合 物 を 各 ウェルに 添 加 マイクロプレートリーダーで 濁 度 (OD 630 )を 測 定 簡 便 な 手 法 低 コストでアッセイが 可 能 12
13 新 技 術 の 特 徴 従 来 技 術 との 比 較 従 来 技 術 では 対 象 とする 細 菌 を 培 養 して 抗 菌 薬 のスクリーニングを 行 うため 菌 の 培 養 や 特 異 的 な 化 合 物 の 同 定 が 困 難 であった 本 技 術 は E. coliを 宿 主 にしてS. mutansのatp 合 成 酵 素 cサブユニット 組 換 え 体 を 使 用 して アッセイを 行 うため 培 養 が 容 易 で 特 異 的 な 抗 菌 薬 のスクリーニングが 可 能 である
アッセイ 系 のバリデーションの 方 法 LB 培 地 で 試 験 大 腸 菌 株 を37 で 前 培 養 ストレプトマイシン(100 µg/ml) 菌 体 を 回 収 してコハク 酸 培 地 に 懸 濁 ( 菌 体 +) 10 mg/ml ストレプトマイシンを1.5 µlずつ ウェルへ 添 加 (2,11 列 ) 菌 体 -(1,12 列 )と 菌 体 +(2~11 列 )の 懸 濁 液 を 各 ウェルに150 µlずつ 添 加 菌 体 - 菌 体 + 菌 体 - 30 で48 時 間 静 置 培 養 0%コントロール:1,12 列 100%コントロール:3~10 列 ストレプトマイシン:2,11 列 マイクロプレートリーダーで 吸 光 度 を 測 定 14
アッセイのバリデーション 結 果 ヒートマップ 表 示 ( 吸 光 度 ) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 A 0.0387 0.0431 0.1333 0.1328 0.1318 0.13 0.1296 0.1325 0.1351 0.1397 0.0413 0.0362 B 0.0379 0.0447 0.1345 0.1304 0.1299 0.1266 0.1266 0.1267 0.1309 0.1399 0.0406 0.0373 C 0.041 0.0425 0.1312 0.1264 0.1272 0.1248 0.1248 0.1235 0.1267 0.1301 0.0421 0.0365 D 0.0356 0.0421 0.1295 0.1231 0.1261 0.1221 0.1232 0.1255 0.1232 0.128 0.0396 0.0368 E 0.0384 0.0405 0.1291 0.1258 0.1271 0.125 0.1246 0.1256 0.1245 0.1272 0.0404 0.036 F 0.0354 0.0407 0.1295 0.1237 0.1256 0.1228 0.1208 0.1208 0.1221 0.1247 0.0373 0.041 G 0.0397 0.041 0.1367 0.1284 0.1265 0.1259 0.1281 0.1254 0.1289 0.1303 0.0399 0.0349 H 0.033 0.0405 0.1374 0.1331 0.1332 0.1311 0.1292 0.1272 0.1291 0.1322 0.0379 0.0352 0%コントロール:Av=0.0371 SD=0.0022 CV=6.0% ストレプトマイシン:Av=0.0408 SD=0.0018 CV=4.7% 100%コントロール:Av=0.1282 SD=0.0043 CV=3.3% vs 0%コントロール:S/B=3.46 Z =0.78 vs ストレプトマイシン:S/B=3.14 Z =0.78 各 項 目 とも 基 準 値 を 満 たし 良 好 なアッセイが 可 能 (CV 値 :10% 以 内 S/B 比 :2 以 上 Z 値 :0.5 以 上 ) CV 値 :ばらつき S/B 比 :シグナル 強 度 の 比 Z 値 :アッセイ 系 の 質 15
16 アッセイの 想 定 される 結 果 と 判 定 Δc + Ecc Δc + SmcEE 化 合 物 グルコース コハク 酸 グルコース コハク 酸 判 定 A + + + + 効 果 なし B - - - - 非 特 異 的 増 殖 阻 害 C + + + - S. mutans 特 異 的 阻 害 D + - + + E. coli 特 異 的 阻 害 E + - + - ATP 合 成 酵 素 発 現 阻 害 or ATP 合 成 酵 素 非 選 択 的 阻 害 F - + - + 解 糖 系 阻 害 両 試 験 株 をグルコース 培 地 コハク 酸 培 地 でアッセイする ことで 特 異 的 な 阻 害 薬 のスクリーニングが 可 能 となる
アッセイの 特 異 性 の 確 認 OD 630 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 グルコース 培 地 - Ecc SmcEE SmcQE SmcEQ ベンジルペニシリン(100µg/ml ) ストレプトマイシン(100µg/ml ) クロラムフェニコール(100µg/ml ) 滅 菌 精 製 水 (1% ) エタノール(1% ) OD 630 0.5 0.4 0.3 0.2 コハク 酸 培 地 ストレプトマイシン クロラムフェニコールに 対 しては 耐 性 遺 伝 子 を 持 たず ATP 合 成 酵 素 非 依 存 的 に 増 殖 を 阻 害 する 0.1 0 - Ecc SmcEE SmcQE SmcEQ 17
18 本 新 規 技 術 のまとめ S. mutansのatp 合 成 酵 素 cサブユニットに 作 用 する 抗 菌 薬 がスクリーニング 可 能 作 業 が 容 易 で 安 価 ハイスループットスクリーニングにも 適 応 可 能 (384wellプレートもOK)
19 想 定 される 用 途 S. mutansの 抗 菌 薬 の 開 発 非 選 択 的 なATP 合 成 酵 素 阻 害 薬 の 探 索
20 実 用 化 に 向 けた 課 題 現 在 ハイスループットなアッセイが 可 能 な 段 階 まで 開 発 済 み 未 だS. mutansのcサブユニット 特 異 的 な 阻 害 剤 などは 無 く ポジティブコントロール についてはアッセイできていない 今 後 化 合 物 ライブラリーなどの 試 験 化 合 物 につい てアッセイを 行 う 陽 性 化 合 物 については S. mutansのcサブユニット に 特 異 的 に 作 用 することをさらに 解 析 する
21 応 用 例 現 在 はS. mutansに 対 する 実 験 系 となってい るが 別 の 菌 のcサブユニットについても 解 析 可 能 であると 考 えている 濁 度 を 測 定 する 方 法 で 簡 便 で 安 価 であるが ルシフェラーゼによる 測 定 に 変 更 することで 感 度 精 度 を 上 げ アッセイ 時 間 も 短 縮 可 能
22 企 業 への 期 待 現 在 までにアッセイ 系 は 構 築 できているので 化 合 物 ライブラリーや 植 物 抽 出 物 など 候 補 化 合 物 のある 企 業 との 共 同 研 究 を 希 望 S. mutans 以 外 で 抗 菌 剤 の 開 発 が 期 待 される 細 菌 や 生 物 の 候 補 のアイデアも 募 集
23 本 技 術 に 関 する 知 的 財 産 権 発 明 の 名 称 : 病 原 菌 のATP 合 成 酵 素 を 標 的 とする 抗 菌 薬 スクリーニングシステム 出 願 番 号 :2012-84230 公 開 番 号 :2013-212077 出 願 人 発 明 者 : 岩 手 医 科 大 学 : 前 田 正 知 荒 木 信
24 お 問 い 合 わせ 先 岩 手 医 科 大 学 リエゾンセンター 事 務 員 吉 野 明 仁 TEL 019-651-5110(Ext 3275 3276) FAX 019-651-5158 e-mail liaison@j.iwate-med.ac.jp