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Transcription:

上 原 記 念 生 命 科 学 財 団 研 究 報 告 集, 25 (2011) 93. 神 経 軸 索 における ADAM22 の 局 在 機 構 とその 結 合 分 子 の 解 明 小 川 泰 弘 Key words:adam22,kv1 チャネル,ニューロン, 軸 索 明 治 薬 科 大 学 薬 学 部 生 命 創 薬 科 学 系 薬 理 学 教 室 緒 言 軸 索 の 最 も 細 胞 体 に 近 い 領 域 にナトリウムイオンチャネル(Nav1 チャネル)が 局 在 する 軸 索 起 始 部 (Axon Initial Segment)といわれる 領 域 があり,これが 軸 索 での 活 動 電 位 (Action Potential)を 送 りだす 主 体 となっている.ランビエ 絞 輪 においては,ノード 領 域 に Nav1 チャネル,このノードを 挟 んでパラノードが 存 在 し,さらに 外 側 のジャクスタパラノード 領 域 にカ リウムイオンチャネル(Kv1 チャネル)が 局 在 するようになる.Kv1 チャネルは PDZ 結 合 領 域 を 有 しており,この 領 域 は PDZ 領 域 を3つ 有 する PSD-95/PSD-93 など MAGUK ファミリー 分 子 と 結 合 する 1). 膜 一 回 貫 通 型 タンパクである Caspr2 は PDZ 結 合 領 域 を 持 ちジャクスタパラノードに 局 在 すること,またこのノックアウトマウスの 解 析 により Caspr2 が Kv1 チャネルの 局 在 にか かわることが 報 告 されている.しかしながら,これとは 別 に Kv1 チャネルと 結 合 する 分 子 が 多 々 存 在 すると 考 え,Kv1.2 チャネル の 免 疫 沈 降 と 質 量 分 析 法 により,Kv1 チャネルと 結 合 する 分 子 を 解 析 した 結 果, 免 疫 沈 降 法 により Kv1 チャネル 結 合 タンパク 複 合 体 の 中 に, 一 回 膜 貫 通 型 タンパクである ADAM22 (A disintegrin and metalloprotease domain 22) が 存 在 すること が 解 析 された 2).また,ADAM22 の 免 疫 染 色 によりこの 局 在 が Kv1 チャネルと 一 致 し,ランビエ 絞 輪 のジャクスタパラノード 領 域 に 存 在 すること,そして Kv1 チャネルと 同 様 に PDZ 結 合 領 域 を 有 する ADAM22 が,PSD-95/93 の PDZ ドメインを 介 して 結 合 していることを 解 明 した 2).そこで 本 研 究 では,ADAM22 の 機 能 解 析 を 行 うと 同 時 に,ADAM22 と 結 合 する 分 子 群 の 探 索 を 行 った. 方 法 結 果 および 考 察 1.ADAM22 は Exon28 に 該 当 する 領 域 により 軸 索 に 局 在 する ADAM22 の 軸 索 への 局 在 機 構 を 解 明 する 目 的 で, 培 養 海 馬 神 経 細 胞 に 種 々の ADAM22 改 変 タンパク 質 ( 図 1 A)を 導 入 し 解 析 したところ,ADAM22 の 細 胞 外 領 域 を 欠 損 したもの(ΔEC)において 軸 索 へのターゲティングには 十 分 であり,さらに 細 胞 内 外 領 域 を 欠 損 させる(ΔEC/ΔC)とそのターゲティングは 観 察 されないことから,ターゲティングモチーフは 細 胞 内 領 域 にあ ることが 示 された.さらに PSD 95/93 と 結 合 する 領 域 を 含 まない 発 現 コンストラクト(ΔEC/w 1st14-3-3),ADAM22 細 胞 内 領 域 において 結 合 することがわかっている 14-3-3 と 結 合 する 領 域 (ΔEC/Δ1st14-3-3)を 含 まない 発 現 コンストラクトにおいて も 軸 索 への 局 在 が 確 認 された.しかし,14-3-3 領 域 を 含 まず Exon28 に 該 当 する 領 域 を 欠 損 すると 軸 索 への 局 在 は 観 察 され なかった(ΔEC/ΔExon28).そこで,その 先 である 膜 直 下 の 領 域 である Exon27 のみを 欠 損 させたもの(ΔEC/ΔExon27)を 発 現 させると 軸 索 に 局 在 した.さらに,Exon28 に 該 当 し 14-3-3 領 域 を 含 まない 非 常 に 小 さいフラグメント(ΔEC/w Exon28)を 発 現 させたところ 軸 索 に 局 在 することが 確 認 された( 図 1 B).よって,この 領 域 が 軸 索 のターゲティングに 必 要 で あることが 示 され,14-3-3 の 結 合 及 び PSD 結 合 領 域 と 相 互 作 用 する MAGUKs ファミリーである PSD-95/93 の 結 合 は 必 要 としないことが 解 明 された.Kv1 チャネルは 膜 輸 送 に MAGUKs を 使 用 し, 軸 索 へは Kvβ サブユニットと EB1 分 子 により 輸 送 さ れることから,これらとは 全 く 別 の 輸 送 経 路 によって 軸 索 に 運 ばれることが 解 明 された. 1

図 1 ADAM22 の軸索への局在機構の解析. A ADAM22 の種々の細胞内領域改変体の模式図 B それぞれの改変体を培養海馬神経細胞に発現し その局在を抗 HA 抗体によって解析した ΔEC/ΔExon28 に おいて軸索への局在は減少した さらに Exon28 のみ有する ΔEC/w Exon28 は軸索に強く局在することから この領域 が軸索へのターゲティング領域であることが解明された scale bar; 20μm 2 ADAM22 は Kv1 チャネル PSD-95 複合体とクラスターを作り その中に 14-3-3 タンパク質を取り込む ADAM22 は細胞内領域において 2 カ所の 14-3-3 タンパク質結合領域を有する 14-3-3 タンパク質は 膜輸送にかかわる だけではなく MAP キナーゼなどシグナル伝達系にかかわることが知られている そこで ADAM22 と 14-3-3 タンパク質の相 互作用に関して検討する目的で Cos7 細胞に共発現することで検討した まず ADAM22 のエンドサイトーシスに対し 14-3-3 タンパク質の存在下において影響が起こるかを検討する目的で種々のサブタイプの 14-3-3 タンパク質をクローニングし細胞外 に HA タグを付加した ADAM22 と共発現したが エンドサイトーシスの延長などは観察されなかった data not shown ADAM22 は Kv1 チャネルと PSD-95 等 MAGUKs タンパク質によって作られるクラスターにおいて PDZ 結合領域を介して そのクラスターに取り込まれることから 14-3-3 タンパク質においてもそのクラスターに取り込まれるかを検討する目的で 4つ の遺伝子を Cos7 細胞に共発現した この結果 14-3-3 は ADAM22 が存在しない状態では 14-3-3 タンパク質はクラスター に含まれないが ADAM22 存在下ではクラスターに含まれることが明らかになった 図 2 このことから Kv1 チャネル-PSD-95ADAM22 クラスターにおいて 14-3-3 タンパク質が膜直下で何らかのシグナル伝達系に関与することが示唆される 2

図 2 ADAM22 は 14-3-3 タンパク質を Kv1 チャネル PSD-95 クラスターに取り込む. ADAM22 Kv1.4 PSD-95 14-3-3β/η/ζ をそれぞれの組合せで Cos7 細胞に共発現した Kv1.4 と PSD-95 の 共発現では それらはクラスターを作る これらと 14-3-3 タンパク質をさらに共発現してもこのクラスターに 14-3-3 タン パク質は含まれない 図右側 しかし さらにこれらの分子に加え ADAM22 を共発現したところ ADAM22 は Kv1.4 チャネル PSD-95 のクラスターに組み込まれ さらに 14-3-3 タンパク質もそのクラスターに含まれたため ADAM22 は 14-3-3 タンパク質を Kv1 チャネル PSD-95 クラスターに組み込むことが明らかになった scale bar; 20μm 3 ADAM22 は細胞外のメタロプロテアーゼ領域で Olfm1 と結合する ADAM22 と新規に結合するタンパク質を解析する目的で抗 ADAM22 抗体を用いた免疫沈降と質量分析 (LC MS) を組み 合わせて結合タンパク質の同定を行った このとき 免疫沈降法では 使用される界面活性剤によってその結合分子が変化す ることから 界面活性剤として通常使用される TritonX-100 及び Brij98 Lubrol WX と Caspr2-Kv1 チャネルの結合を 解 析 す る こ と が で き る sucrose monolaurate を 使 用 し た 免 疫 沈 降 し た 共 沈 物 は 1D ゲ ル に て 展 開 後 直 ち に Oriole BioRad にて蛍光染色し ゲル片を切り出した後質量分析 (LC MS) を受託にて行った その結果 ADAM22 と 結合することが解明できているもの ランビエ絞輪に局在しその結合が予想されるもの等を確認することができた 具体的には ADAM22 は MAGUKs PSD95/93, SAP97/102 ファミリーと PSD 結合ドメインを介して Kv1 チャネルと結合する さらにこ の Kv1 チャネルは Caspr2 Cntnap2 と MPP3 を介して結合している さらにこの Caspr2 は細胞内ドメインでは 4.1 タンパク 質と結合しこのような足場タンパク質並びに Mtap6 や Tublin Tubb2b Nefm/Nefl Neurofilament Septin-8 など細 胞骨格と結合する Caspr 2は細胞外では Contactin-2 TAG-1 と結合する 興味深いことに ADAM22 の免疫沈降で ADAM23 が共沈物として観察されたことから軸索上で何らかの相互作用をしていることが考えられる 末梢では ADAM22 ノッ クアウトマウスはミエリン低形成を示すが中枢では示さないことから ADAM23 が相補的に作用し軸索ガイダンスとミエリン形成 を担うと考えられる 今回さらに全く新規の共沈物として膜タンパク質として Na+/K+ATPase α3 Slc8a2 Slc12a5 TenascinR が 分泌タンパク質として Cfh Complement factor H 及び Olfm1 が 新規の足場タンパク質として Safb が確認でき た 表 1 3

表 1. 抗 ADAM22 抗 体 による 共 沈 物 の 解 析 抗 ADAM22 抗 体 を 用 いて 免 疫 沈 降 を 行 い,その 共 沈 物 を 質 量 分 析 により 同 定 した. 界 面 活 性 剤 の 種 類 によって 異 なる 共 沈 物 の 像 が 観 察 された.また,すでにジャクスタパラノード 領 域 等 軸 索 に 局 在 するタンパク 質 だけでなく(ライトグレー), 新 規 の 候 補 分 子 が 観 察 された(ダークグレー). Olfm1 は 中 枢 神 経 系 において 機 能 は 不 明 であったことから,これをクローニングし ADAM22 と 直 接 結 合 できるかを 検 討 した. Cos7 細 胞 に ADAM22-GFP と Olfm-HA を 共 発 現 させ, 未 固 定 の 条 件 で 抗 HA 抗 体 を 加 え, 洗 浄 後 通 常 の 抗 体 染 色 を 行 うことにより, 細 胞 外 で ADAM22 と 結 合 できるかを 検 討 した.このとき,コントロールとして 使 用 した CD4-GFP と 比 較 して 非 常 に 強 いシグナルが 観 察 されたことから Olfm1 は ADAM22 と 細 胞 外 で 結 合 することが 解 明 された( 図 3C).さらに,ADAM22 のどの 領 域 と 結 合 するかを 検 討 する 目 的 で,ADAM22 の 種 々の 改 変 タンパク 質 を 構 築 し 同 様 の 解 析 を 行 ったところ,メタロプ ロテアーゼの 欠 損 型 において Olfm1 の 結 合 が 減 少 したことから,メタロプロテアーゼ 領 域 を 介 して 結 合 することが 明 らかとなった ( 図 3D F). 次 にマウス 成 獣 脳 組 織 を 用 いて Olfm1 の 免 疫 抗 体 染 色 を 行 ったところ,Olfm1 は 大 脳 皮 質 においてニューロン にシグナルが 観 察 されたことから Olfm1 はニューロンより 分 泌 されることを 解 明 したが,ADAM22 のシグナルが 非 常 に 強 い 小 脳 ピンソウシナプスやジャクスタパラノード 領 域 では 観 察 できなかった.ADAM22 はシナプスにおいても 局 在 し,そのシグナルは 免 疫 染 色 においては 観 察 されないことから,おそらく Olfm1 は ADAM22 とシナプスで 相 互 作 用 すると 予 想 される.そこで,Olfm1 のノックダウン 用 コンストラクトを 作 製 し, 現 在 その 機 能 について 解 析 を 進 めている. 4

図 3 Olfm1 は ADAM22 の細胞外のメタロプロテアーゼドメインで結合し ニューロンから分泌する. A ADAM22 の種々の細胞外領域改変体の模式図 B-F CD4-GFP ADAM22-EGFP 及びその改変体と Olfm1-HA の共発現による結合能の解析 生細胞に対し 抗 HA 抗体を加え 洗浄後通常の染色を行い細胞外での結合を観察した CD4-EGFP B と Olfm1 は結合しない が ADAM22 とは結合することが認められた C ΔMet 改変体においてのみ結合が著しく減少したことから この領 域が結合領域であることが明らかになった D-F G マウス成獣脳での大脳皮質領域での抗 Olfm1 抗体による観察 NeuroTrace による蛍光ニッスル染色との比較に より Olfm1 のシグナルがニューロンの細胞質に存在することが確認された scale bar; 20μm 共同研究者 本研究の共同研究者は Baylor College of Medicine の Dr. Matthew Rasband である 文献 1 Ogawa, Y., Horresh, I., Trimmer, J. S., Bredt, D. S., Peles, E. & Rasband M. N. Postsynaptic density-93 clusters Kv1 channels at axon initial segments independently of Caspr2. J. Neurosci., 28 : 5731-5739, 2008. 2 Ogawa, Y., Oses-Prieto, J., Kim, M. Y., Horresh, I., Peles, E., Burlingame, A. L., Trimmer, J. S., Meijer, D. & Rasband, M. N.: ADAM22, a Kv1 channel-interacting protein, recruits membrane-associated guanylate kinases to juxtaparanodes of myelinated axons. J. Neurosci., 30 : 1038-1048, 2010. 5