Economic Trends マ クロ 経 済 分 析 レポート テーマ:エンゲル 係 数 上 昇 で 広 がる 生 活 格 差 212 年 6 月 13 日 ( 水 ) ~ 食 料 エネルギー 価 格 上 昇 と 所 得 減 で 必 要 となるインフレ 目 標 の 見 直 し~ 第 一 生 命 経 済 研 究 所 経 済 調 査 部 主 席 エコノミスト 永 濱 利 廣 (3-5221-4531) ( 要 旨 ) 経 済 的 なゆとりを 示 す エンゲル 係 数 が 年 代 後 半 から 上 昇 に 転 じている 背 景 には 新 興 国 の 台 頭 による 食 料 品 価 格 の 上 昇 と 所 得 の 減 少 がある 新 興 国 とのコスト 競 争 や 資 源 国 の 資 源 高 に 所 得 を 奪 われることで 家 計 の 節 約 が 進 む 一 方 で 新 興 国 の 台 頭 やマネーのグローバル 化 などで 食 料 品 の 価 格 が 上 昇 基 調 にある エンゲル 係 数 の 上 昇 率 を 食 料 品 の 消 費 量 と 価 格 および 全 体 の 消 費 量 と 消 費 者 物 価 に 分 けて 要 因 分 解 すると 食 料 品 の 消 費 量 減 が 消 費 量 全 体 の 減 で 相 殺 され 消 費 量 要 因 では.1 ポイントの 押 し 下 げ 要 因 となる 一 方 食 料 品 価 格 と 消 費 者 物 価 の 価 格 変 動 要 因 を 合 わせれば+.9 ポイント つまり 家 計 の 節 約 を 凌 ぐ 食 料 品 価 格 の 上 昇 が 近 年 のエンゲル 係 数 上 昇 の 実 態 近 年 の 物 価 下 落 率 の 縮 小 は 輸 入 原 材 料 価 格 の 高 騰 を 原 因 とした 食 料 エネルギーの 値 上 げにより もたらされており 国 内 需 要 の 拡 大 を 伴 わない 物 価 上 昇 により 家 計 は 節 約 を 通 じて 国 内 需 要 を 一 段 と 委 縮 させている その 結 果 企 業 の 売 り 上 げが 減 少 して 景 気 を 悪 化 させていることからす れば 悪 い 物 価 上 昇 以 外 の 何 物 でもない 欧 州 債 務 問 題 を 抱 えて 世 界 の 金 融 政 策 が 緩 和 傾 向 で 推 移 する 一 方 新 興 国 や 途 上 国 が 今 後 とも 高 い 経 済 成 長 を 遂 げて 世 界 経 済 を 牽 引 すれば 世 界 の 食 料 エネルギー 需 給 は 中 長 期 的 には 人 口 の 増 加 や 所 得 水 準 の 向 上 等 に 伴 うアジアなど 新 興 国 途 上 国 を 中 心 とした 需 要 の 拡 大 に 加 え こ れら 諸 国 の 都 市 化 による 農 地 減 少 も 加 わり 食 料 エネルギー 価 格 は 持 続 的 に 上 昇 基 調 を 辿 る 全 体 の 物 価 が 下 がる 中 で 食 料 品 の 価 格 が 上 昇 すると 特 に 低 所 得 者 層 を 中 心 に 購 入 価 格 上 昇 を 通 じて 負 担 感 が 高 まり 購 買 力 を 抑 えることになる そして 低 所 得 者 層 の 実 質 購 買 力 が 一 段 と 低 下 し 富 裕 層 との 間 の 実 質 所 得 格 差 は 一 段 と 拡 大 する 更 に 深 刻 なのは 我 が 国 の 低 所 得 者 層 が 拡 大 傾 向 を 示 していることがある 我 が 国 ではこうした 環 境 変 化 がグローバル 化 の 恩 恵 を 享 受 で きず 競 争 圧 力 にさらされた 低 所 得 者 層 の 増 加 を 招 き 結 果 として 家 計 の 生 活 水 準 格 差 拡 大 がもた らされている 日 銀 は 中 長 期 的 な 物 価 目 標 について 消 費 者 物 価 が 安 定 して 前 年 より+1% 程 度 プラスになる と 定 義 している しかし 輸 入 食 料 品 価 格 の 上 昇 により 消 費 者 物 価 の 前 年 比 が+1%に 到 達 しても それは 安 定 した 上 昇 とは 言 えず 良 い 物 価 上 昇 の 好 循 環 は 描 けない 日 銀 の 中 長 期 的 な 物 価 安 定 目 標 については 米 国 のように 食 料 エネルギー 除 く 総 合 (コアコアCPI) のインフ レ 率 を 目 標 とすべき エンゲル 係 数 で 示 される 生 活 水 準 の 低 下 経 済 的 なゆとりを 示 す エンゲル 係 数 が 我 が 国 では 年 代 後 半 から 上 昇 に 転 じている( 資 料 1) 年 度 には 前 年 に 比 べ+.3 ポイント 程 度 高 い 23.7%となり 年 度 の 水 準 は 年 度 以 来
の 高 さになっている この 背 景 には 家 計 の 節 約 や 食 料 品 価 格 の 上 昇 がある エンゲル 係 数 は 家 計 の 消 費 支 出 に 占 める 食 料 費 の 割 合 であり 食 料 費 は 生 活 する 上 で 最 も 必 需 な 品 目 のため 一 般 に 数 値 が 下 がると 生 活 水 準 が 上 がり 逆 に 数 値 が 上 がると 生 活 水 準 が 下 がる 目 安 とさ れている 23.8 資 料 1 上 昇 基 調 にあるエンゲル 係 数 23.7 23.6 23.4 23.3 23.3 23.4 23.4 23.4 23.2 23.1 23.2 23.1 23. 22.9 22.9 22.9 22.8 22.6 22.4 ( 出 所 ) 総 務 省 家 計 調 査 背 景 には 新 興 国 の 台 頭 最 近 の 我 が 国 のエンゲル 係 数 上 昇 は 食 料 品 価 格 の 上 昇 と 所 得 の 減 少 が 要 因 となっているが その 背 景 には いずれも 新 興 国 の 台 頭 が 関 係 している つまり 新 興 国 の 需 要 急 増 による 石 油 や 農 産 物 等 の 資 源 高 が 食 料 品 やエネルギーの 価 格 を 押 し 上 げる 一 方 で 新 興 国 企 業 の 市 場 参 入 による 競 争 激 化 が 我 が 国 の 稼 ぐ 機 会 を 奪 っている( 資 料 2) また サービス 価 格 の 下 落 も 新 興 国 の 労 働 力 との 競 争 激 化 による 国 内 の 賃 金 低 下 をもたらしている そして 新 興 国 の 安 い 労 働 力 や 資 源 国 の 資 源 高 に 所 得 を 奪 われることで 家 計 の 節 約 が 進 む 一 方 で 新 興 国 の 台 頭 やマネーのグローバル 化 などで 食 料 品 の 価 格 が 上 昇 基 調 にある そして こうした 海 外 に 所 得 が 流 出 する 中 での 生 活 必 需 品 価 格 の 上 昇 は 生 活 水 準 の 低 下 に 拍 車 をかけている 18 16 14 12 1 98 96 94 92 9 資 料 2 消 費 者 物 価 と 賃 金 の 関 係 ( 年 =1) 199 1991 1992 1993 1994 ( 出 所 ) 総 務 省 厚 生 労 働 省 CPI( 食 料 エネルキ ー 除 く 総 合 ) CPI( 食 料 ) 名 目 賃 金 指 数 ( 右 ) 115 11 15 1 95 9 節 約 では 追 いつかない 食 料 品 価 格 の 上 昇 年 度 のエンゲル 係 数 は 前 年 度 比 で+.3 ポイント 上 昇 し 年 度 から+.8 ポイントの 上 昇 を 記 録 した しかし 食 料 品 の 値 上 げが 相 次 いでいる 一 方 で 食 料 品 の 消 費 量 は 減 っているように 見 え る そこで エンゲル 係 数 の 上 昇 率 を 食 料 品 の 消 費 量 と 価 格 および 全 体 の 消 費 量 と 消 費 者 物 価 に 分 け て 要 因 分 解 してみた すると 食 料 品 の 消 費 量 減 1.2 ポイントの 押 し 下 げに 働 く 一 方 で 食 料 品 価
格 上 昇 と 消 費 量 全 体 の 減 がそれぞれ+.8 ポイント +1.1 ポイントの 押 し 上 げ 要 因 になっているこ とが 分 かる( 資 料 3) 消 費 量 の 中 では 食 料 品 の 消 費 量 減 と 全 体 の 消 費 量 減 が 相 殺 され トータルで.1 ポイントの 押 し 下 げ 要 因 となる 一 方 食 料 品 価 格 と 消 費 者 物 価 といった 価 格 変 動 要 因 を 合 わせれば+.9 ポイン ト つまり 家 計 の 節 約 を 凌 ぐ 食 料 品 価 格 の 上 昇 が 近 年 のエンゲル 係 数 上 昇 の 実 態 だ (%pt) 2.5 2. 1.5 1..5. -.5-1. -1.5-2. 資 料 3 エンゲル 係 数 上 昇 の 要 因 分 解 食 料 消 費 量 食 料 価 格 消 費 量 消 費 者 物 価 エンゲル ( 出 所 ) 総 務 省 第 一 生 命 経 済 研 究 所 食 料 品 価 格 の 上 昇 は 悪 い 物 価 上 昇 こうした 食 料 やエネルギーといった 国 内 で 十 分 供 給 できない 輸 入 品 の 価 格 上 昇 で 説 明 できる 物 価 上 昇 は 悪 い 物 価 上 昇 といえる そもそも 物 価 上 昇 には 良 い 物 価 上 昇 と 悪 い 物 価 上 昇 が ある 良 い 物 価 上 昇 とは 国 内 需 要 の 拡 大 によって 物 価 が 上 昇 し これが 企 業 収 益 の 増 加 を 通 じ て 賃 金 の 上 昇 をもたらし 更 に 国 内 需 要 が 拡 大 するという 好 循 環 を 生 み 出 す しかし 年 以 降 の 物 価 上 昇 や 年 以 降 の 物 価 下 落 率 の 縮 小 は 輸 入 原 材 料 価 格 の 高 騰 を 原 因 とした 食 料 エネルギー の 値 上 げによりもたらされている( 資 料 4) そして 国 内 需 要 の 拡 大 を 伴 わない 物 価 上 昇 により 家 計 は 節 約 を 通 じて 国 内 需 要 を 一 段 と 委 縮 させている その 結 果 企 業 の 売 り 上 げが 減 少 して 景 気 を 悪 化 させていることからすれば 悪 い 物 価 上 昇 以 外 の 何 物 でもない 12 資 料 4 基 準 で 異 なるCPI 総 合 ( 年 =1) 1 98 96 94 92 総 合 生 鮮 食 品 除 く 総 合 食 料 エネルキ ー 除 く 総 合 9 199 1991 1992 1993 1994 ( 出 所 ) 総 務 省 今 後 も 続 く 食 料 品 価 格 の 上 昇 このように 食 料 品 の 価 格 が 上 昇 している 背 景 としては 1 新 興 国 での 需 要 増 加 などにより 輸 入 品 の 価 格 が 上 昇 している 2 先 進 国 の 量 的 緩 和 や 新 興 国 の 外 貨 準 備 を 起 点 とした 投 機 マネーの 流 入 が 進 んでいる 3 異 常 気 象 により 農 作 物 の 収 穫 量 が 減 少 している こと 等 がある
特 に 世 界 的 な 金 融 危 機 による 世 界 経 済 の 低 迷 後 世 界 の 経 済 成 長 は 回 復 しつつあるが 欧 州 債 務 問 題 を 抱 えて 主 要 先 進 国 の 金 融 政 策 が 緩 和 傾 向 で 推 移 する 一 方 新 興 国 や 途 上 国 が 今 後 とも 高 い 経 済 成 長 を 遂 げて 世 界 経 済 を 牽 引 すると 見 込 まれる こうなれば 世 界 の 食 料 エネルギー 需 給 は 中 長 期 的 には 人 口 の 増 加 や 所 得 水 準 の 向 上 等 に 伴 うアジアなど 新 興 国 途 上 国 を 中 心 とした 需 要 の 拡 大 に 加 え これら 諸 国 の 都 市 化 による 農 地 減 少 も 要 因 となり 今 後 とも 需 要 が 供 給 を 上 回 る 状 態 が 継 続 する 可 能 性 が 高 い( 資 料 5) つまり 食 料 エネルギー 価 格 は 持 続 的 に 上 昇 基 調 を 辿 ると 見 ておい たほうがいい 1 9 8 7 6 5 4 3 2 1 資 料 5 アジアの 都 市 部 人 口 比 率 予 測 日 本 中 国 インド インドネシア 韓 国 タイ 196 ( 出 所 ) 国 連 197 198 199 22 23 24 25 生 活 格 差 をもたらす 食 料 品 価 格 の 上 昇 ここで 重 要 なのは 食 料 品 価 格 の 上 昇 が 生 活 格 差 の 拡 大 をもたらすことである 食 料 品 といえば 低 所 得 であるほど 消 費 支 出 に 占 める 比 重 が 高 く 高 所 得 であるほど 比 重 が 低 くなる 傾 向 があるためだ 事 実 総 務 省 家 計 調 査 によれば 可 処 分 所 得 に 占 める 食 費 の 割 合 は 年 収 最 上 位 2%の 世 帯 が 14.2% 程 度 なのに 対 して 年 収 最 下 位 2%の 世 帯 では 22.4% 程 度 である 従 って 全 体 の 物 価 が 下 がる 中 で 食 料 品 の 価 格 が 上 昇 すると 特 に 低 所 得 者 層 を 中 心 に 購 入 価 格 上 昇 を 通 じて 負 担 感 が 高 まり 購 買 力 を 抑 えることになる そして 低 所 得 者 層 の 実 質 購 買 力 が 一 段 と 低 下 し 富 裕 層 との 間 の 実 質 所 得 格 差 は 一 段 と 拡 大 する 25 2 15 1 22.4 資 料 6 所 得 階 層 別 食 費 の 可 処 分 所 得 比 (11 年 ) 19.3 18. 17. 14.2 5 最 下 位 2% ( 出 所 ) 総 務 省 下 位 2% 中 位 2% 上 位 2% 最 上 位 2% 更 に 深 刻 なのは 我 が 国 の 低 所 得 者 層 が 増 加 傾 向 を 示 していることがある 事 実 総 務 省 の 家 計 調 査 年 報 で 年 収 階 層 別 の 世 帯 構 成 比 を 見 ると 年 収 が 最 も 低 い 2 万 円 未 満 に 属 する 世 帯 の 比 率 は 直 近 の 年 が 2.8%となっており 年 以 降 で 最 大 となっている( 資 料 7) こうした 所 得 構 造 の
変 化 は 我 が 国 経 済 がグローバル 化 への 対 応 に 遅 れたことにより 富 が 海 外 に 移 転 し 日 本 国 民 の 購 買 力 が 損 なわれていることを 表 しているといえよう そして 我 が 国 ではグローバル 化 の 恩 恵 を 十 分 に 享 受 できず 競 争 圧 力 にさらされた 低 所 得 者 層 の 増 加 を 招 き 結 果 として 家 計 の 生 活 水 準 格 差 拡 大 がも たらされているといえる 6 5 4 3 2 資 料 7 年 収 2 万 円 未 満 と15 万 円 以 上 世 帯 の 比 率 4.8 2 万 円 未 満 4.1 4. 15 万 円 以 上 2.4 2.6 2.6 3.2 3.3 3. 3.1 3.1 3. 1.7 1.8 2.2 2.7 2.4 2.3 2.2 2.2 2.7 2.6 2.8 2.9 1 ( 出 所 ) 総 務 省 家 計 調 査 日 銀 の 物 価 目 標 に 望 ましい 食 料 エネルギー 除 く 総 合 これに 対 し 日 銀 は 中 長 期 的 な 物 価 目 標 について 消 費 者 物 価 が 安 定 して 前 年 より+1% 程 度 プラ スになる と 定 義 している しかし 輸 入 食 料 品 価 格 の 上 昇 により 消 費 者 物 価 の 前 年 比 が+1%に 到 達 しても それは 安 定 した 上 昇 とは 言 えず 良 い 物 価 上 昇 の 好 循 環 は 描 けない つまり 本 当 の 意 味 でのデフレ 脱 却 には 消 費 段 階 での 物 価 上 昇 だけでなく 国 内 で 生 み 出 された 付 加 価 値 価 格 の 上 昇 や 国 内 需 要 不 足 の 解 消 単 位 あたりの 労 働 コストの 上 昇 が 必 要 となる( 資 料 8) そしてそうなるには 賃 金 の 上 昇 により 国 内 需 要 が 強 まる 良 い 物 価 上 昇 がもたらされることが 不 可 欠 といえよう 従 って まずは 日 銀 の 中 長 期 的 な 物 価 安 定 目 標 は 米 国 のように 食 料 エネルギ ー 除 く 総 合 すなわちコアコアCPI のインフレ 率 をターゲットとすべきではないだろうか 3 2 1 資 料 8 デフレ 関 連 指 標 ( 前 年 比 %) GDPデフレーター CPI 総 合 CPI( 食 料 エネルキ ー 除 く 総 合 ) -1-2 -3 212 ( 出 所 ) 内 閣 府 総 務 省