国 際 交 流 基 金 バンコク 日 本 文 化 センター 日 本 語 教 育 紀 要 第 12 号 (2015 年 ) 日 本 のアニメやドラマなどのコンテンツに 対 する 学 習 者 の 関 心 度 松 井 夏 津 紀 1. はじめに 現 在 日 本 のマンガやアニメやドラマなどのポップカルチャーに 興 味 を 持 っている 日 本 語 学 習 者 が 非 常 に 多 いことはこれまでにも 指 摘 されてきた( 熊 野 2010 近 藤 村 中 2010 櫻 井 2010 熊 野 川 嶋 2011 等 ) また マンガやアニメに 興 味 を 持 ったことがきっかけとなり 日 本 語 学 習 を 始 めた 学 習 者 が 少 なくはないことも 報 告 されている( 熊 野 廣 利 2008 櫻 井 2010 熊 野 2010 熊 野 川 嶋 2011 等 ) タイにおいても 特 に 若 い 年 齢 層 の 学 習 者 に 日 本 のポップカルチャーを 通 じて 日 本 語 に 触 れ 始 めたという 例 が 多 々 観 察 される タイの 日 本 語 学 習 者 の 大 幅 な 増 加 が 報 告 された 国 際 交 流 基 金 による 2012 年 度 の 調 査 報 告 では その 背 景 に 親 日 的 感 情 や 日 タイの 経 済 関 係 の 強 さ また 日 本 観 光 ブームといったもの 以 外 にアニメや J-POP などの 日 本 のポップカルチャー の 流 入 があることが 指 摘 されている( 国 際 交 流 基 金 2013:42-43) タイでは 80 年 代 に 急 速 に 日 本 のマンガやアニメが 浸 透 してきたが( 箕 曲 2007) 幼 少 の 頃 から マンガやアニメに 触 れている 現 代 のタイの 若 者 にとって 日 本 のポップカルチャーは 何 か 外 国 の 特 別 なものであるという 感 覚 はないように 思 われる しかし その 一 方 で 日 本 のマンガやアニ メなどのポップカルチャーは 自 国 のものではないということも 十 分 認 識 されている 日 本 という 国 や 日 本 人 の 実 態 を 知 らないタイの 若 者 たちの 間 でも 日 本 や 日 本 人 に 対 するイメージがポップ カルチャーを 通 して 持 たれていることもある(Cf. Pravalpuruk 1990) そして ポップカルチャー に 興 味 を 持 ったことがきっかけとなり 中 等 教 育 機 関 や 高 等 教 育 機 関 で 第 2 外 国 語 を 選 択 する 際 に 日 本 語 を 選 択 したり 語 学 学 校 で 学 習 を 始 めたりするケースも 多 い 学 習 者 の 多 くが 興 味 を 示 しているアニメやドラマなどのコンテンツを 授 業 で 利 用 することが 有 効 であることは 先 行 研 究 でも 述 べられてきた( 加 藤 2003 熊 野 廣 利 2008 矢 崎 2009 小 室 2009 熊 野 川 嶋 2011 等 ) 小 室 (2009)は 海 外 の 日 本 語 学 習 者 は 日 本 国 内 の 学 習 者 とは 異 な り 日 常 生 活 で 日 本 語 のバリエーションを 観 察 する 機 会 が 少 ないため 教 室 内 でアニメやドラマ などの 映 像 素 材 を 使 用 することは 様 々なバリエーションの 日 本 語 に 対 する 認 識 を 高 めることに 効 果 的 であるとの 見 解 を 示 している しかし 映 像 素 材 を 使 用 した 授 業 を 効 果 的 に 展 開 するには 学 習 項 目 に 相 応 しい 素 材 を 選 ぶことに 加 え 学 習 者 の 興 味 に 即 した 素 材 を 選 ぶことも 必 要 である と 考 えられる そうでなければ アニメやドラマなどのコンテンツを 利 用 しても 学 習 に 対 する 動 機 づけにはならず 学 習 効 果 が 希 薄 になってしまう 可 能 性 があるからである 本 稿 では 日 本 のポップカルチャーの 代 表 とも 言 えるアニメを 含 む 映 像 コンテンツに 対 して タイの 学 習 者 が 実 際 にどの 程 度 の 関 心 を 寄 せているのかという 点 を 調 査 結 果 に 基 づいて 考 察 して 107
[ 実 践 調 査 報 告 ] 日 本 のアニメやドラマなどのコンテンツに 対 する 学 習 者 の 関 心 度 いく 次 節 より 教 師 が 学 習 者 の 関 心 の 傾 向 を 把 握 することの 重 要 性 を 主 張 し そして 1)タイ の 学 習 者 はアニメやドラマなどのコンテンツは 学 習 に 有 効 だと 考 えているのか 2)タイの 学 習 者 が 興 味 を 持 っている 日 本 のコンテンツはどういう 分 野 か 3)タイの 学 習 者 は 日 本 のコンテンツに 対 しどの 程 度 の 認 識 があるのかという 点 について 調 査 結 果 を 示 し 考 察 を 加 えることにする 2. 学 習 者 と 教 師 とのコンテンツに 対 する 意 識 のギャップ 日 本 語 教 育 にアニメやドラマなどのポップカルチャーが 活 用 されるようになったが 加 藤 (2003)はその 要 因 として 情 報 通 信 メディアの 発 達 という 点 と 素 材 入 手 の 簡 易 化 という 点 を 挙 げている また このような 側 面 は 海 外 の 学 習 者 が 日 本 のコンテンツを 視 聴 しやすくなったと いう 学 習 者 の 日 本 語 との 接 点 の 変 化 にも 関 わっている 熊 野 (2010)の 調 査 では アニメやマン ガが 好 きな 学 習 者 のほとんどが 出 身 国 や 地 域 に 関 係 なく アニメやマンガをパソコンで 観 たり 読 んだりしていることが 報 告 されている パソコンの 普 及 により 著 作 権 問 題 が 発 生 するものの ポップカルチャー 好 きの 学 習 者 は 世 界 中 のどこにいても 最 新 の 作 品 に 触 れることができるように なった 海 外 の 学 習 者 たちには YouTube 等 の 動 画 投 稿 サイトやファンサブと 呼 ばれる 英 語 などの 翻 訳 字 幕 が 付 いたサイトを 利 用 する 者 が 多 く アニメやマンガの 視 聴 や 情 報 入 手 が 容 易 く 行 われ ていることを 熊 野 川 嶋 (2011:107-108)が 指 摘 しているが タイの 学 習 者 もその 例 外 ではない 現 在 学 習 者 は 日 本 の 様 々な 映 像 作 品 に 簡 単 に 触 れることができ 教 師 も 教 材 として 日 本 のコ ンテンツを 取 り 入 れることに 積 極 的 になっている しかし 熊 野 (2010:89)も 指 摘 しているよ うに そのような 状 況 の 中 教 師 は 学 習 者 がアニメやマンガとどう 接 しているのかという 実 態 を 知 らずにいるという 現 状 があることは 否 めない 教 師 世 代 のアニメやマンガの 取 扱 いと 若 い 学 習 者 ではギャップがある ポップカルチャーを 教 材 として 用 いるとしても 学 習 者 の 興 味 に 即 してい るかどうかという 点 など 素 材 の 選 択 に 教 師 自 身 が 戸 惑 いを 感 じることも 多 いのではないだろうか 熊 野 (2010)は 教 師 が 自 分 の 好 きなマンガを 授 業 で 使 用 しても 学 習 者 が 知 らないマンガであっ たりすることで 学 習 の 動 機 づけとしてはうまくいかなかったというような 例 もあるのではない かと 述 べている ポップカルチャーを 利 用 した 授 業 を 行 う 場 合 学 習 者 の 方 が 教 師 よりも 新 しい 情 報 を 豊 富 に 得 ていることが 多 いという 点 に 教 師 も 留 意 しておく 必 要 があるだろう 古 い 素 材 を 利 用 することを 否 定 するということではないが アニメやドラマなどのコンテンツ を 日 本 語 教 育 の 現 場 で 教 材 として 活 用 する 場 合 教 師 が 学 習 者 たちの 興 味 の 傾 向 を 把 握 しておく ことも 必 要 ではないかと 思 われる 学 習 の 更 なる 動 機 づけとなるように 映 像 素 材 を 用 いるのなら 学 習 者 たちの 興 味 を 無 視 して 素 材 選 びをすることは 合 理 的 な 策 ではないからである 108
国 際 交 流 基 金 バンコク 日 本 文 化 センター 日 本 語 教 育 紀 要 第 12 号 (2015 年 ) 3. 教 材 としての 映 像 作 品 に 対 する 学 習 者 の 視 点 3.1 調 査 方 法 本 節 では タイの 学 習 者 がアニメやドラマなどの 映 像 作 品 に 対 して どの 程 度 の 関 心 があるの かについて 述 べていく 本 稿 で 報 告 する 調 査 内 容 は 2014 年 11 月 18 日 2015 年 3 月 3 日 ~2015 年 3 月 18 日 にチュラーロンコーン 大 学 文 学 部 東 洋 言 語 学 科 日 本 語 講 座 に 在 籍 する 日 本 語 主 専 攻 の 3 年 生 ~5 年 生 の 学 生 を 対 象 にアンケート 形 式 で 行 われた 調 査 をまとめたものである ( 1) 調 査 対 象 者 のレベルは 中 上 級 から 上 級 で 3 年 生 40 名 4 年 生 3 名 5 年 生 14 名 の 計 57 名 から 回 答 を 得 た ( 2) 調 査 対 象 者 の 約 9 割 が 将 来 日 本 語 を 使 った 仕 事 がしたい と 希 望 している 学 習 者 で 卒 業 後 は 日 系 企 業 に 就 職 することや 通 訳 者 や 翻 訳 家 になることを 考 えている 者 が 多 く 実 践 で 使 える 日 本 語 力 の 向 上 を 目 指 している 学 習 者 がほとんどである 3.2 日 本 のコンテンツを 見 ることは 学 習 に 役 立 つか では 対 象 者 となった 学 習 者 たちは 実 際 にアニメやドラマなどの 日 本 のコンテンツを 観 ること が 日 本 語 学 習 に 効 果 的 だと 考 えているのかという 点 について 言 及 していきたい まず 日 本 の 映 画 やアニメやドラマを 観 ることは 日 本 語 学 習 に 役 立 つか という 質 問 に 対 し 非 常 に 役 立 つ と 回 答 したのが 44 名 で 全 体 の 約 77% 続 いて ある 程 度 役 立 つ との 回 答 が 10 名 で 全 体 の 約 18 % で 対 象 者 の 約 95%が 日 本 のコンテンツを 観 ることが 学 習 に 役 立 っていると 感 じていることがわ かった また 学 習 者 の 7 割 以 上 がアニメやドラマや 映 画 或 いはバラエティー 番 組 やニュース 番 組 などのテレビ 番 組 を 利 用 して 自 主 学 習 をすることがあると 答 えた これらの 結 果 からも 授 業 でアニメやドラマなどの 映 像 作 品 を 用 いることは 学 習 者 の 想 定 範 囲 内 のことであり その 学 習 効 果 が 学 習 者 からも 期 待 されていることが 理 解 される 次 に 学 習 者 が 日 本 のコンテンツを 観 ることで 具 体 的 にどのような 学 習 効 果 を 期 待 している かという 点 について 述 べる 以 下 の 図 1 は 日 本 の 映 画 やアニメやドラマを 観 ることは 学 習 のど んなことに 役 立 つか という 質 問 に 対 しての 回 答 結 果 を 示 したものである 図 1 コンテンツを 利 用 した 学 習 に 対 する 学 習 者 が 期 待 する 学 習 効 果 図 1 が 示 すように 聴 解 力 の 向 上 や 発 音 矯 正 という 音 声 面 語 彙 や 表 現 力 の 増 加 という 語 彙 面 109
[ 実 践 調 査 報 告 ] 日 本 のアニメやドラマなどのコンテンツに 対 する 学 習 者 の 関 心 度 また 性 別 や 年 齢 による 話 し 方 のバラエティーや 敬 語 という 語 用 面 のそれぞれに 学 習 効 果 が 期 待 さ れている また このような 言 語 面 に 加 え 全 体 の 約 85%が 日 本 の 文 化 や 習 慣 に 関 する 知 識 を 習 得 するのに 役 立 つ と 回 答 しており 日 本 のコンテンツは 文 化 面 の 知 識 を 得 るツールであると も 考 えていることがわかった 学 習 者 の 多 くがアニメやドラマなどのコンテンツを 学 習 に 利 用 することで 様 々な 学 習 効 果 が 得 られると 考 えていることが 判 明 した また 海 外 で 日 本 語 を 学 ぶ 学 習 者 たちは 日 本 人 の 生 活 を 目 にする 機 会 がなかなか 持 てないことが 多 いので 日 本 のアニメやドラマなどのコンテンツを 観 ることで 日 本 文 化 や 日 本 人 の 生 活 に 関 わる 習 慣 などを 学 ぼうとしていることがうかがえた 4. 学 習 者 の 日 本 のコンテンツに 対 する 関 心 度 と 認 知 度 4.1 日 本 のコンテンツを 観 る 頻 度 本 節 では 学 習 者 の 日 本 のコンテンツに 対 する 関 心 度 及 び 認 知 度 について 見 ていくことにす る まず 日 本 のアニメやドラマなどのテレビ 番 組 や 映 画 などのコンテンツがどの 程 度 の 頻 度 で 視 聴 されているのかという 点 から 述 べたい 日 本 の 映 画 やアニメやドラマなどをよく 観 るか と いう 質 問 に 対 して 週 に 3 回 以 上 観 る と 答 えた 学 習 者 が 12 名 週 に 1 2 回 観 る が 16 名 また 月 に 何 度 か 観 る が 15 名 で 調 査 対 象 者 全 体 の 約 75%が 頻 度 の 差 はあるものの 定 期 的 に 日 本 のコンテンツを 観 ていることがわかった また 日 本 のコンテンツを 観 るときに 音 声 や 字 幕 はどうしているのかという 質 問 では 全 員 が 日 本 語 の 音 声 で 視 聴 すると 答 えたが 字 幕 に 関 し てはタイ 語 や 英 語 などの 字 幕 付 きで 観 るという 回 答 が 66.7%で 字 幕 なしで 観 ている 学 習 者 は 33.3%にとどまった 現 在 インターネットで 翻 訳 字 幕 付 きの 作 品 を 観 ることができるため 学 習 者 の 多 くが 字 幕 付 きのものを 好 んで 視 聴 していることがわかった 次 に 学 習 者 が 視 聴 しているコンテンツのジャンルについて 述 べる 図 2 は 7 つに 分 類 した コンテンツのジャンルに 対 して それぞれ 観 ることがあると 回 答 した 学 習 者 の 割 合 を 示 している 図 2 学 習 者 が 観 るコンテンツのジャンル 110
国 際 交 流 基 金 バンコク 日 本 文 化 センター 日 本 語 教 育 紀 要 第 12 号 (2015 年 ) 図 2 が 示 すように 最 も 多 く 観 られるジャンルはアニメだということがわかった アニメに 関 し ては 映 画 版 もテレビ 版 もそれぞれ 約 8 割 の 学 習 者 が 観 ると 回 答 した また テレビドラマや 映 画 もそれぞれ 78.9% 77.2%と 高 い 割 合 で 観 られていることがわかった 次 に バラエティー 番 組 を 観 ると 回 答 した 学 習 者 は 筆 者 の 予 想 以 上 の 割 合 で 6 割 近 くにのぼった 一 方 ニュースやド キュメンタリーのような 硬 い 内 容 のものは 積 極 的 に 観 られていないことがわかった このように かなりの 割 合 の 学 習 者 がアニメやドラマを 定 期 的 に 視 聴 している 学 習 者 が 日 常 的 に 日 本 のコンテンツを 観 ることが 習 慣 となっているので アニメやドラマのような 映 像 素 材 を 授 業 で 教 材 として 効 果 的 に 扱 えば 学 習 者 の 自 主 学 習 の 手 引 きにもなり 日 本 のコンテンツを 利 用 した 自 主 学 習 の 習 慣 化 へと 導 いていくことも 可 能 であると 考 えられる 4.2 アニメに 対 する 関 心 度 日 本 のアニメ 作 品 は 旧 作 から 新 作 まで その 数 が 非 常 に 豊 富 であるが 学 習 者 たちはどの 程 度 認 識 しているのだろうか このことを 調 べるために まず 1) 2000 年 以 降 に 公 開 されたアニメ 映 画 で 興 行 収 入 が 多 かった 作 品 2) 2000 年 以 降 に 放 送 されたテレビアニメで 視 聴 率 が 高 かっ た 作 品 3) 2013 年 のテレビアニメで DVD と BD の 売 り 上 げが 高 かった 作 品 4) 2014 年 に 放 送 されたテレビアニメで DVD と BD の 売 り 上 げが 高 かった 作 品 の 4 項 目 の 上 位 10 作 品 をン ターネットサイトに 掲 載 されている 興 行 収 入 や 視 聴 率 のランキングを 参 考 にしリストアップした (3) 次 に 調 査 対 象 者 となった 57 名 の 学 習 者 たちにアニメ 作 品 のリストを 配 布 し 視 聴 したこ とがあるもの 全 てにチェックを 入 れさせた 次 の 表 は 上 記 の 項 目 1)と 2)にランクインした 作 品 が 学 習 者 にどのくらい 認 知 されているかを 調 査 した 集 計 結 果 をまとめたものである 4 ) 表 1 2000 年 以 降 に 公 開 放 送 された 人 気 映 画 アニメとテレビアニメに 対 する 学 習 者 の 認 知 度 映 画 アニメ 興 行 収 入 上 位 10 作 品 認 知 度 テレビアニメ 視 聴 率 上 位 10 作 品 認 知 度 千 と 千 尋 の 神 隠 し 73.7% サザエさん 35.1% ハウルの 動 く 城 47.4% 名 探 偵 コナン 68.4% 崖 の 上 のポニョ 43.9% ちびまる 子 ちゃん 61.4% 風 立 ちぬ 22.8% こちら 葛 飾 区 亀 有 公 園 前 派 出 所 7.0% 借 りぐらしのアリエッティ 36.8% 犬 夜 叉 22.8% STAND BY ME ドラえもん 14.0% ワンピース 54.4% ゲド 戦 記 17.5% ドラえもん 71.9% ONE PIECE FILM Z 17.5% 金 田 一 少 年 の 事 件 簿 24.6% ヱヴァンゲリヲン 新 劇 場 版 :Q 5.3% クレヨンしんちゃん 64.9% ポケットモンスター* 7.0% ポケットモンスター 56.1% (* 劇 場 版 ポケットモンスターダイヤモンド&パール ディアルガ VS パルキア VS ダークライ ) 111
[ 実 践 調 査 報 告 ] 日 本 のアニメやドラマなどのコンテンツに 対 する 学 習 者 の 関 心 度 2000 年 以 降 に 公 開 されたアニメ 映 画 で 興 行 収 入 の 多 かった 上 位 10 作 品 で 学 習 者 が 観 たこと があると 答 えた 上 位 5 作 品 は 千 と 千 尋 の 神 隠 し ハウルの 動 く 城 崖 の 上 のポニョ 借 りぐらしのアリエッティ 風 立 ちぬ の 順 であった これらの 作 品 はいずれも スタジオジブ リ 制 作 で 借 りぐらしのアリエッティ を 除 く 全 てが 宮 崎 駿 監 督 の 作 品 である 国 内 外 で 評 価 の 高 い 宮 崎 駿 アニメは タイの 日 本 語 学 習 者 にも 非 常 に 馴 染 み 深 いものであることがわかった 次 に 2000 年 以 降 に 放 送 された 高 視 聴 率 アニメ 上 位 10 作 品 に 対 しての 学 習 者 の 認 知 度 を 述 べ る 最 も 視 聴 されていたものは ドラえもん で 続 いて 名 探 偵 コナン クレヨンしんちゃ ん ちびまる 子 ちゃん ポケットモンスター の 順 となった テレビアニメで 高 視 聴 率 を 得 ているものは アニメの 放 送 時 間 帯 から 考 えると 子 どもも 視 聴 できる 内 容 のものであることがわ かる つまり これらの 作 品 は 子 ども 向 けに 制 作 されているものが 多 いということである タイ の 学 習 者 にとっても ドラえもん や 名 探 偵 コナン などのアニメは 子 どもの 頃 から 観 ている もので 非 常 に 馴 染 み 深 いもののようである しかし その 一 方 で 日 本 で 最 も 視 聴 率 が 高 かっ た サザエさん を 観 たことがある 学 習 者 は 全 体 の 3 割 程 度 にとどまった また 日 本 では 人 気 の 高 い こちら 葛 飾 区 亀 有 公 園 前 派 出 所 を 観 たことがあると 答 えた 学 習 者 も 全 体 の 7%に 過 ぎ なかった なぜ これらの 作 品 がタイの 学 習 者 にあまり 視 聴 されていないかという 点 は 気 になる ところであるが 本 稿 では その 原 因 を 追 究 するには 至 らなかった 続 いて 項 目 3)と 4)についての 結 果 を 見 てみる 以 下 の 表 は 2013 年 と 2014 年 の DVD ブルーレイディスク( 以 下 BD)の 売 り 上 げ 上 位 10 位 に 入 ったアニメ 作 品 に 対 する 学 習 者 の 認 知 度 をまとめたものである 表 2 2013 年 2014 年 の DVD BD 売 り 上 げが 高 かったテレビアニメに 対 する 学 習 者 の 認 知 度 2013 年 DVD BD 売 上 上 位 10 作 品 認 知 度 2014 年 DVD BD 売 上 上 位 10 作 品 認 知 度 進 撃 の 巨 人 50.9% ラブライブ!2nd Season 8.8% 物 語 シリーズセカンドシーズン 17.5% 妖 怪 ウォッチ 8.8% 宇 宙 戦 艦 ヤマト 2199 7.0% ハイキュー! 22.8% うたの プリンスさまっ * 15.8% ソードアート オンラインⅡ 22.8% ラブライブ! 14.0% Free! Eternal Summer- 29.8% Free! 38.6% 鬼 灯 の 冷 徹 14.0% ウサビッチ シーズン 5 12.3% 月 刊 少 女 野 崎 くん 26.3% 黒 子 のバスケ 2nd SEASON 26.3% ジョジョの 奇 妙 な 冒 険 ** 8.8% とある 科 学 の 超 電 磁 砲 S 14.0% 魔 法 科 高 校 の 劣 等 生 8.8% IS<インフィニット ストラトス>2 8.8% Persona 4 the Golden ANIMATION 10.5% (* うたの プリンスさまっ マジ LOVE2000% ** ジョジョの 奇 妙 な 冒 険 スターダストクルセイダース ) 112
国 際 交 流 基 金 バンコク 日 本 文 化 センター 日 本 語 教 育 紀 要 第 12 号 (2015 年 ) 前 述 の 項 目 2)の 作 品 リストはテレビで 視 聴 される 子 ども 向 けのアニメが 多 かったが 項 目 3) 4) でリストアップした 作 品 は 主 に DVD や BD が 購 入 できる 大 人 に 人 気 を 博 している 作 品 である と 考 えられる これらの 作 品 で 最 も 学 習 者 に 認 知 されていたのは 進 撃 の 巨 人 で 調 査 対 象 者 の 半 数 以 上 が 既 に 作 品 を 観 たことがあると 回 答 した ついで Free! が 38.6%で 約 4 割 の 学 習 者 が 視 聴 したことがあるということだった 表 2 の 作 品 リストの 中 で 最 も 認 知 度 の 高 い 進 撃 の 巨 人 は 原 作 マンガの 発 行 部 数 が 記 録 的 だったことのみならず 企 業 とのコラボレーションが 話 題 になったり 2014 年 2015 年 にアニメ 映 画 の 公 開 また 実 写 映 画 化 も 2016 年 と 2017 年 に 公 開 予 定 であったりするなど 一 大 ブームを 巻 き 起 こしている 作 品 である このような 日 本 で 大 きく 話 題 となった 作 品 は 学 習 者 がインターネットなどから 情 報 を 得 ることで 関 心 を 集 めやすいと いうことが 言 えるのではないだろうか しかし 同 じく 2014 年 に 日 本 で 大 ブームとなった 妖 怪 ウォッチ に 関 しては 観 たことがあると 答 えた 学 習 者 は 8.8%に 過 ぎなかった この 差 は 進 撃 の 巨 人 が 日 本 の 大 人 の 間 で 人 気 となったことと 妖 怪 ウォッチ が 子 どもの 間 で 人 気 となっ たことに 関 係 しているのかもしれないが 本 稿 ではその 原 因 を 調 査 するには 至 らなかった 4.2 実 写 版 映 画 とテレビドラマに 対 する 関 心 度 日 本 の 映 画 とテレビドラマを 観 ることがあるかという 質 問 に 対 して それぞれ 8 割 近 くの 学 習 者 が 観 ると 回 答 したということを 先 述 したが アニメの 場 合 と 異 なり 日 本 で 人 気 がある 作 品 が 学 習 者 に 高 い 割 合 で 認 知 されているという 結 果 にはならなかった ( 5) まず 映 画 に 関 してだが 2000 年 以 降 の 興 行 収 入 が 多 かった 上 位 10 作 品 のうち 学 習 者 に 最 も 多 く 観 られていたのは 少 女 マンガが 原 作 である 学 園 ドラマが 映 画 化 された 花 より 男 子 ファ イナル で 半 数 近 い 約 42%が 観 たことがあると 回 答 した しかし 映 画 作 品 ではこの 作 品 以 外 で は 20%を 超 えるものはなかった また これまでに 観 た 映 画 で 好 きなもの について 自 由 回 答 での 回 答 を 得 たが 学 習 者 に 好 まれる 作 品 の 傾 向 はアニメではある 程 度 観 察 されたが 実 写 版 映 画 では 嗜 好 にかなりのばらつきがあり 学 習 者 が 好 む 作 品 の 傾 向 は 把 握 できなかった 次 に テレビドラマでは 2000 年 以 降 に 放 送 され 日 本 で 高 視 聴 率 を 得 たものの 上 位 10 作 品 の うち 学 習 者 に 最 も 視 聴 されていたドラマは 半 沢 直 樹 で 全 体 の 約 33%が 観 たことがあると 回 答 した 次 いで ガリレオ (2007 年 放 送 )と 家 政 婦 のミタ が それぞれ 20.0% 17.5% で 全 体 の 2 割 程 度 の 認 知 度 であることがわかった テレビアニメを 観 ることがあると 答 えた 学 習 者 の 数 とテレビドラマを 観 ると 答 えた 学 習 者 の 数 は それぞれ 45 名 で 同 数 だったにも 関 わらず 日 本 で 高 視 聴 率 を 獲 得 した 人 気 ドラマは 人 気 アニ メと 比 べると 全 体 的 に 学 習 者 に 認 知 されている 割 合 が 低 いということがわかった このことか ら ドラマの 場 合 半 沢 直 樹 のように 日 本 で 相 当 話 題 になったドラマを 除 いては 好 みがかな り 分 かれるということが 判 明 した 113
[ 実 践 調 査 報 告 ] 日 本 のアニメやドラマなどのコンテンツに 対 する 学 習 者 の 関 心 度 5. まとめ 本 稿 では タイの 大 学 生 が 日 本 のコンテンツに 対 してどのような 認 識 を 持 っているのかについ て 調 査 した 結 果 から 以 下 のことを 明 らかにした (1) 学 習 者 の 多 くにとって 日 本 のアニメやドラマなどのコンテンツを 観 ることが 習 慣 化 して いる また 日 本 のコンテンツを 観 ることで 音 声 面 語 彙 面 語 用 面 また 文 化 面 など 様 々な 項 目 において 学 習 効 果 が 得 られると 考 えている (2) 学 習 者 が 最 も 関 心 を 寄 せている 日 本 のコンテンツのジャンルはアニメで 映 画 版 テレ ビ 版 ともに 日 本 で 人 気 の 高 いアニメが 多 数 の 学 習 者 に 視 聴 されている (3) 映 画 アニメに 関 しては 特 にスタジオジブリの 作 品 が 学 習 者 に 広 く 認 知 されている (4) テレビアニメに 関 しては ドラえもん のような 子 ども 向 けの 長 寿 番 組 から 日 本 で も 大 人 に 人 気 のある 進 撃 の 巨 人 のような 新 作 品 まで 幅 広 く 視 聴 している 学 習 者 が 多 い (5) アニメに 続 いて 興 味 が 持 たれているのはドラマである しかし 実 写 版 の 映 画 と 同 様 一 部 の 作 品 を 除 くと アニメで 観 察 されたような 学 習 者 の 嗜 好 に 全 体 的 な 傾 向 は 見 られ ず 個 人 の 好 みにばらつきがある アニメやドラマなどの 映 像 素 材 を 教 材 として 授 業 で 利 用 することは 様 々な 学 習 効 果 が 期 待 さ れることと 学 習 者 の 学 習 への 更 なる 動 機 づけになるということから 非 常 に 有 意 義 になり 得 る しかし 既 存 の 教 材 として 出 来 上 がっているものを 使 用 するのではないので その 素 材 選 びには 教 師 がより 慎 重 になる 必 要 が 生 じる 学 習 項 目 に 相 応 しい 映 像 素 材 を 選 ぶという 観 点 はもちろん 学 習 者 が 興 味 を 持 つようなものでなければ 学 習 の 更 なる 動 機 づけに 繋 がりづらくなることが 予 測 されるからである 映 像 素 材 を 教 室 で 利 用 する 場 合 より 効 果 的 な 授 業 を 展 開 するためには 学 習 者 の 興 味 の 傾 向 を 教 師 がある 程 度 把 握 しておくことも 必 要 であると 思 われる 映 像 素 材 を 教 材 として 選 ぶ 際 には 内 容 のおもしろさや 授 業 での 学 習 目 標 に 即 しているのかという 教 師 が 判 断 する 基 準 以 外 に 学 習 者 が 教 材 として 求 めているものかどうかという 点 も 考 慮 すべきであるだろ う 本 稿 では タイの 学 習 者 がどのような 日 本 のコンテンツに 興 味 を 示 しているのかを 調 査 し 映 像 素 材 を 選 ぶ 際 の 参 考 となる 一 例 を 示 した 注 (1) 本 調 査 の 一 部 は タイ 国 日 本 語 教 育 研 究 会 第 27 回 年 次 セミナー で 報 告 したものであるが 本 稿 で 報 告 する 調 査 結 果 では 対 象 者 数 が 6 名 増 加 している (2) 対 象 者 となった 4 年 生 の 数 が 少 ないのは 4 年 生 の 多 数 の 学 生 が 受 講 した 前 年 度 の 授 業 に て 日 本 の 映 像 作 品 を 既 に 使 用 していたため その 授 業 を 受 講 しなかった 留 学 帰 りの 学 生 の みを 調 査 対 象 としたためである 114
国 際 交 流 基 金 バンコク 日 本 文 化 センター 日 本 語 教 育 紀 要 第 12 号 (2015 年 ) (3) 項 目 1)は 日 本 国 内 歴 代 総 合 興 行 収 入 ランキング1 位 -100 位 映 画 ランキングドットコ ム http://www.eiga-ranking.com/boxoffice/japan/alltime/total/ (2014 年 11 月 17 日 閲 覧 ) 項 目 2)は アニメ 歴 代 最 高 視 聴 率 http://1st.geocities.jp/june_2007_taste/saikou.html (2014 年 11 月 17 日 閲 覧 ) 項 目 3)は 2013 年 TV アニメ 上 位 作 品 アニメ DVD BD 売 り 上 げ 一 覧 表 まとめ Wiki http://www38.atwiki.jp/uri-archive/pages/176.html 項 目 4)は 2014 年 TV アニメ 上 位 作 品 アニメ DVD BD 売 り 上 げ 一 覧 表 まとめ Wiki http://www38. atwiki. jp/uri-archive/pages/225.html (2014 年 11 月 17 日 閲 覧 )を 参 考 にした (4) 本 稿 では 認 知 度 をタイトルやアニメの 存 在 を 知 っているという 意 味 ではなく 視 聴 し たことがあるという 意 味 で 用 いている (5) 実 写 晩 映 画 とテレビドラマは 2000 年 以 降 に 公 開 された 映 画 の 興 行 収 入 が 多 かった 上 位 10 作 品 は 日 本 国 内 歴 代 総 合 興 行 収 入 ランキング1 位 -100 位 映 画 ランキングドットコム http://www.eiga-ranking.com/boxoffice/japan/alltime/total/ (2014 年 11 月 17 日 閲 覧 ) 2000 年 以 降 に 放 送 されたドラマで 高 視 聴 率 だった 上 位 10 作 品 は 視 聴 率 データ 過 去 の 視 聴 率 データ Video Research Ltd. http://www.videor.co.jp/data/ratedata/junre/01drama.htm (2014 年 11 月 17 日 閲 覧 )を 参 考 にした 参 考 文 献 加 藤 清 方 (2003) 教 育 資 源 としてのテレビ アニメーション 番 組 と 日 本 語 教 育 日 本 語 学 11 月 号 明 治 書 院 pp 56-64 熊 野 七 絵 (2010) 日 本 語 学 習 とアニメ マンガ ~ 聞 き 取 り 調 査 結 果 から 見 える 現 状 とニーズ~ 広 島 大 学 留 学 生 セ ン タ ー 紀 要 第 20 号 広 島 大 学 留 学 生 セ ン タ ー pp 89-103 http://www.jfkc.jp/clip/images/page/anime/animemanga_2010a.pdf 2015 年 3 月 19 日 熊 野 七 絵 廣 利 正 代 (2008) アニメ マンガ 調 査 研 究 地 域 事 情 と 日 本 語 教 材 国 際 交 流 基 金 日 本 語 教 育 紀 要 第 4 号 国 際 交 流 基 金 pp 55-69 熊 野 七 絵 川 嶋 恵 子 (2011) アニメ マンガの 日 本 語 Web サイト 開 発 趣 味 から 日 本 語 学 習 へ 国 際 交 流 基 金 日 本 語 教 育 紀 要 第 7 号 国 際 交 流 基 金 pp 103-117 国 際 交 流 基 金 (2013) 海 外 の 日 本 語 教 育 の 現 状 2012 年 度 日 本 語 教 育 機 関 調 査 より くろしお 出 版 小 室 リー 郁 子 海 外 の 日 本 語 教 育 における 映 像 素 材 活 用 の 意 義 とその 実 践 報 告 Journal CAJLE, 10, p p 8 9-105 h t t p : / / w w w. c a j l e. i n f o / w p - c o n t e n t / u p l o a d s / 2 0 1 2 / 0 6 / C A J LE -Vo l -10. 89-105.pdf 2014 年 1 月 29 日 近 藤 裕 美 子 村 中 雅 子 (2010) 日 本 のポップカルチャー ファンは 潜 在 的 日 本 語 学 習 者 といえ るか 国 際 交 流 基 金 日 本 語 教 育 紀 要 第 6 号 国 際 交 流 基 金 pp 1-7 115
[ 実 践 調 査 報 告 ] 日 本 のアニメやドラマなどのコンテンツに 対 する 学 習 者 の 関 心 度 櫻 井 孝 昌 (2010) COOL JAPAN 世 界 が 好 きな 日 本 文 化 月 刊 日 本 語 5 月 号 pp 12-15 箕 曲 在 弘 (2007) タイにおける 日 本 製 マンガの 受 容 文 化 のグローバル 化 とローカル 化 早 稲 田 大 学 大 学 院 文 学 研 究 科 紀 要 第 3 分 冊 pp 63-70 矢 崎 満 夫 (2009) アニメを 素 材 とした 日 本 語 学 習 活 動 アニメで 日 本 語 の 開 発 : アニマシオ ン のティーチング ストラテジーに 着 目 して 静 岡 大 学 国 際 交 流 センター 紀 要 3 静 岡 大 学 国 際 交 流 センター pp 27-42 http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/bitstream/10297/3723/1/090714001.pdf 2014 年 12 月 6 日 Sor Wasna Pravalpuruk. (1990) Japanese Comics and Animations for Children in Thailand. Kunio Yoshihara (ed.) Japan in Thailand. Tokyo: Falcon Press 116