杏林医会誌 5 巻 2 号 75 79984 年 6 月 75 熱流センサを利用した新しい深部体温計 杏林大学医学部第二 福岡正和 島津秀昭 生理学教室 2 青木宏之 伊藤寛志 2 早稲田大学理工学部機械工学科 (984.3.4 受付 ) 要 旨 従来の深部体温計では 2 個のサーミスタによる熱流検出法を用いているが, 本研究ではこれを廃し, 小型熱流センサを利用することによーりプロブの薄型軽量化と応答時間の短縮を図った 基本原理は従来の手法と同じで, 熱流センサの信号が 0 になるようにーヒタを制御し, 皮膚面に断熱層を形成するものである 深部体温は, 熱流センサに内蔵された熱電対を用いて, 断熱時の皮膚表面温度として求められる 本装置と従来の深部体温計 ( テルモ社製 ) にっいて簡単な特性試験を行ない, 両者を比較した その結果, 熱流センサを利用したプーロブは熱容量が小さいため, 装着時の初期応答が従来の恥以下に改善されることが明らかとなった はじめに Fox and Solmanv により創始された深部体温 計測法は, 外界の影響を受けるこ となく皮下深部 組織温度を測定できる簡便な手法である その後, Togawa et al. 2) によりプローブに改良が加えら れ, これはコアテンプ ( テルモ社製 ) の名称で市 販され, 臨床使用されている 本法の基本原理は, 皮膚面での放熱量を検出し, これと同量の熱を逆 にヒータにて皮膚に加えるもので, 熱流補償法 (zero heat.flow) methods ) と呼ばれる この揚 合皮膚は実質的に断熱された状態に置かれ, 組織の温度を表皮面で測定できる 深部 現在市販されている深部体温計は, 簡素で操作 性も簡便であるが, プ P 一ブ自身の熱容量が大き いため装着時の初期応答が遅い また装着部位に よっては, プ U 一ブの自重のために皮膚との密着 性が悪い揚合もある これらの欠点はプローブの 大きさに起因する こ とで あるが, 従来の 3 方法, 即ち断熱材を挾む 2 点の温度を各々サーミスタで 検出する方法では, 機構的にプローブの小型化, 薄型化は困難である また 2 個のサーミスタの特 性を揃える必要があり, そのばらつきは深部体温 計の精度を左右する 本研究では, 上記の 2 個のサーミスタを廃し, 熱流センサによる熱流および温度検出法を採用してプローブの薄型軽量化を計った 新しいプ U 一 ブは自己の熱容量が著しく小さいため, 測定初期 の応答が速く, また熱流検出が 個のセンサで行 なわれるため調整が不要で, 原理的に精度が高い また電気回路も極めて簡素で, も可能である 実験 方法 装置全体の小型化. 原理 Fig に本装置の原理を模式的に示す 通常, 体温は気温より高いので, 皮膚表面では放熱が行 なわれる この熱流 Ω を熱流センサで検出し, コ Key words : Deep body thermometer,heat fiow sensor,response characteristics
76 憑岡正和ほか杏林医会誌 5 巻 2 号 Heat flow sensor Q cont O 細 er Amp. 十 Comparator 一 Thermocouple a 叩 Dig 醗 aldisplay Fig. Schematic diagram showing the principle of the dcep body thermometry. 〆 ethane foam Silver Plate Ω ), および断熱材から成り, 大きさは 2 30mm, 厚さ約 4mm, 重量 2.4g ( リード線を除く ) であ る 熱流センサは昭和電工製の ES センサ ( 厚さ 0.6mm ) を用いた 本センサの常用温度範囲は一 20 50, 公称感度は 200kcal / m2 h mv であ る また本セ ンサは表面温度測定用 T 型熱電対を 内蔵しており, これを用いて断熱時の皮膚温 ( す なわち深部体温 ) を測定できる プローブ表層の 断熱材は原理的には不要であるが, ヒータの効率 を向上させるために厚さ 2.5mm の発泡ウレタン Heat f ow sensq l} ThermQcouPle [ Fig.2 Bas 量 c construction of the probe. ンパ レータにて 0 レベ ル と比較する 次にコ ンパ ーレタの差分出力に応じてヒー タを駆動し, 皮膚 に対して逆に熱流 Ω を加える 以上の制御によ っ て Ω =! Ω が保たれるとき, 熱流セ ンサを通過 する熱流は無く, 実質的に皮膚表面は断熱される 断熱時の 皮下組織内温度分布は, Kobayashi et al4 ) の 理論解析か ら,Fig. に示すようにプロ ー ブの 中心線を対称軸として上に凸の 曲線群で 表わ され, 深部体温が皮膚表面にて 測定できる 2. 装置の構成 試作したプロ ーブの構造を Fig.2 に示す プ ローブは熱流セ ンサ, 熱拡散用銀板, ー ヒタ (32 材を接着した Fig.3 に, 試作した深部体温計の 電気回路を示 す 回路は大別して熱流信号増幅部, ヒータ制御 部, および表皮温測定部から成る 熱流センサ出 力は低ドリフト Op アンプにより約 0000 倍に増 幅された後, コンパレータによって基準信号 (V ) と比較される 両者の差分信号に応じてヒータが 作動し, 熱流センサ出力が 0 になるように制御さ れる 一方, 熱電対は熱電対用増幅器 ( アナログ デバイセズ社 ;AD 595 ) に接続されており, デ ィジタル ディスプレイにて表皮温度を得る AD 595 は冷接点温度補償回路を内蔵した K 型熱 電対用 IC であるが, T 型熱電対にもそのまま使 用でき, 通常の休温測定範囲 (20 45 ) では温度一出力電圧の線形性も実用上十分であるため, 特にリニアライザを必要としない 3. 特性試験の方法 一般に物体の温度を瞬時に変化させることは困 難であるため, 温度計のステップ応答特性を直接
984 年 6 月熟流センサを利用した新しい深部体混計 77 + 2v HeatflDsensor Thermocouple AD595 8 4 T 5 Fig.3 Electronic circuit of the deep body thermometer. β 3 ck ate 葦 oo 20 Type I Type 皿 Fig.4 Experimental arrangement for the mea 9.urement of the stepwise response chara cterlstlcs, = o Ω ooo に 測定することはできない そこでとりあえず以下 のような実験装置を用い, 疑似ステップ状の温度 変化に対する応答特性について, 熱流センサ型深 部体温計と従来の深部体温計を比較した 本実験では, 深部体温計プロ ーブを低温の物体 から高温体へ瞬時に移しかえる方法を用いた 実際には Fig.4 に示すように, あらかじめプロー ブを室内に放置した真鍮ブロック上に密着させて おき, これを恒温水槽の水面付近に固定したアル ミ製の皿上に移しかえた 恒温水槽は大きさ 30 0 一 25 30 一 35 40 Water temperature Fig.5C mparis n of the response ti{nes f Type Iand Type II thermometer. 46cm, 深さ 5cm で, 水は十分に攪伴されている またアルミ皿は 22.5 28,5cm で, 底板の厚みは 0.5mm である 水温はアルミ皿直下に固定した サーミスタにより常時モニタした 実験は試作装置および従来の深部体温計につい OC
The Kyorln Kyorin Medloal Medical Soolety Society 78 福岡正和ほか 杏林医会誌 5 巻 2 号 て, 各種の水温において行なった 比較した深部 体温計はテルモ社製コアテンプで, プローブは PD 7 型 ( 直径 5mm, 高さ 8.4mm, 重量約 5g ) を 使用した 両深部体温計の出力は自動平衡型レコーダ ( 理科電機 K.K. ; R 0 : ペンスピード 600 mm!s 以上 ) にて記録し, 00 % 応答時間を求めた Φ 3 歪 Ω Φ ト 40Q 3 5 3 0 2 5 Fig.5 は, 結 果 各種の恒温水温度における従来の深 部体温計 ( コァテンプ ; Type I ) および熱流セ ンサ型深部体温計 (Type H ) の 00 % 応答時間を プロットしたものである これより熱流センサ型 の応答時間はコアテンプのそれの 3 稿であるこ とが分かる 本実験における被測定体は内部に温 度勾配を持たない恒温水であるから, プローブ 装着に伴う被測定体の温度変化は無い っ従て Fig.5 における応答時間はプーロブ自身の熱的変 化の遅れを表わすものである 通常の使用ではコ ァテンプ (PD 7 型プローブ ) のヒータ消費電力 は約 W ( 動作時 ) で, 熱流センサ型のそれは約 0.8W であるから, 同図における応答時間の差異 は熱流センサ型プロ ことを示している ーブの熱容量が極めて小さい 考 既述のように熱流センサ型プローブは, 今回比 較実験に用いた PD 7 型プローブや, 臨床でよく 用いられる PD 3 型プローブ ( 直径 25mm, 高さ,7mm, 重量約 g ) に比べ薄く軽量であるため, 皮膚への装着が容易である 従来の 2 個のサーミ スタによる熱流検出方式では, 熱流補償の精度の 観点から薄型化は困難と考えられる すなわちサーミスタ間距離が短い揚合, 温度差は小さく電気 察 回路にかなりの精度が要求される 逆に距離が長 い場合, ヒータによる熱流補償の時間的遅れが大きく, 完全な断熱層が形成されない 従ってサー ミス タ間隔, および温度勾配を決定するサーミス タ間の素材の種類は, 深部体温計の断熱精度およ び応答特性を左右する重要な因子である さらに 2 個のサーミスタの特性のぼらつきも熱流補償の 精度に影響を及ぼす これらの観点からすると, 0 0 TIme20 min30 Fig.6 An example of the tllerlnomctcr response measurements in the forehead. あらかじめ調整され, かっ薄型の熱流センサを利 用することは, 電気回路の簡素化および測定精度 の向上に極めて有効と考えられる Fig.5 の結果からも明らかなように, 熱流セン サ型深部体温計はプローブの熱容量が小さいため に原理的には応答は速い しかし実際の生体では 深部から表皮に向かって温度勾配が有り, その様 相はプロープの装着 ( すなわち皮膚の断熱 ) と同 時に変化する その変化の速度は皮下組織におけ る熱の 拡散係数または熱容量に依存し, さらに皮 膚血流の影響をも受ける 従って生体における深 部体温計の応答は必ずしも速いとは言えない 例 えば Fig.6 は健康成人男子の前額部における各 深部体温計の装着時の応答を記録したもので, 使 用した装置は Fig.5 と同じである 同図から明 らかなように, 熱流センサ型は従来の深部体温計 に比べ応答は速いものの, 測定値を得るまでには 3 分以上の時間を要する これは上述のように, 装置の の大きさお 応答の遅れではなく, むしろ組織の熱容量 よび血管運動反射を含めた生体側の応 答の遅延によるものと推定される 謝 辞 本研究に当たり技術指導を賜っ た東京医科爾科大学医 用器材研究所戸川達男教授および同豊島健助手, に御助言頂い ならび た北海道大学応用電気研究所山越憲一助教 授に謝意を表する また装置の使用に当たっり便宜を計一て頂いたテルモ ( 株 )ME 開発課日ド部正宏および横山能周両氏に深謝したい なお, 本研究の一部は昭和 58 年度文部省科研費補助 ( 課題番号 58770756 ) によるものである NII-Electronic N 工工一 Eleotronlo Llbrary Library
The KyorinMedicalSociety Medical Society 98tl IF 6n pt Md -tr? f it[]mlksulvi ua utizsnt su- 79! ma ) Fox RH & Solman AJ: A new technique for monltoring the deep body temperature in man frorn the intactskin surface. J Physiol (London) 22:8-0, 97, 2) Togawa T, Nemoto T & Kobayashi T: A modified internal temperature measurement device, Med Biol Eng 4:36-364, 976. 3) Togawa T : Non-invasive deep body temperature "Non-invasive measurement, In Physiological Measurements, Vol, ", ed Rolfe P. Academic Press, London, 26-277, 979. 4) Kobayashi T, Nemoto T, Kamiya A & Togawa T: Irnprovement of deep body thermometer for rnan. Ann Biomed Eng 3 : 8-88, 975. J KyorinMedSoc 5 (2)75--79 Development of the Deep Body Thermometer Using a Heat Flow Sensor Masakazu FUKUOKAi, Hiroyuki AOKI2, Hideaki SHIMAZUi and Hiroshi ITO' idepartment of Physiology, Kyorin University School of Medicine 2Department of Mechanical Engineering, Waseda Unversity The deep body thermometer (DBT) originally reported by Fox & Solman has been irnprovedby Togawa et al., and their DBT is now comrnercial]y available supplying useful data in clinical survey. However, its initialresponse time is comparatively long when itis attached on the skin surface, because of the large heat capacity of the probe. In the new DBT, a heat flow sensor is used instead of two thermistors in the previous DBT. The sensor isso thin (O.6-mm-thick) that a thinner and lighter probe can be designed and then the response characteristic is improved. In this system, the heatfluxfrom the skin isdetectedby the sensor, and a heater is controlled to make the heat flux null (zero-heat-flow method). Thus, the skin surfaceis thermally insulatedand, consequently, the deep body temperature can be measured on the skin surface by the thermocouple mounted on the heat flow sensor. The initlalresponse time of this DBT islessthan half of the previous one. Moreover, the probe contacts well with the skin because of itsthinness and lightness. NII-Electronic Library