教 育 講 演 Ⅰ 肩 のバイオメカニクス ~ 臨 床 的 観 点 からの 検 討 ~ 佐 藤 久 友 大 阪 医 科 大 学 附 属 病 院 リハビリテーション 科 バイオメカニクスの 使 い 方 理 学 療 法 士 は 医 師 の 診 断 をもとに 患 者 の 病 態 や 主 訴 Needs を 把 握 し 機 能 障 害 に 対 する 評 価 治 療 を 行 う 肩 関 節 の 機 能 障 害 を 明 らかにするには 一 般 的 な 値 との 比 較 と 個 別 性 という2つの 観 点 が 重 要 となる 1) 一 般 的 ( 一 般 性 ) か 否 かの 評 価 には 健 常 者 の 関 節 運 動 を 理 解 するために バイオメカニク ス( 生 体 力 学 )の 知 識 が 必 要 である バイオメカニクスとは 身 体 運 動 を 力 学 的 に 解 明 することであり 肩 のバイオメカニクスを 理 解 する ということは 人 間 の 肩 関 節 がどのように 動 くかを 知 る ことである このバイオメカニクスの 知 識 は 異 常 動 作 を 判 断 するときの 重 要 な 指 標 となる 例 えば 重 力 に 抗 して 肩 関 節 を 屈 曲 する その 際 肩 甲 骨 が 上 方 回 旋 するはず なのに 逆 に 下 方 回 旋 する 場 合 胸 椎 後 弯 が 減 少 するところで 胸 椎 が 伸 展 しない 場 合 肩 甲 上 腕 関 節 の 屈 曲 が 過 剰 もしくは 不 足 している 場 合 など 明 らかに 通 常 とは 異 なる 動 きで 特 定 のパターンでしか 運 動 を 行 えないものを 異 常 と 判 断 す ることができる しかし 肩 関 節 は 複 合 関 節 である 肩 関 節 運 動 では 解 剖 学 的 関 節 ( 滑 膜 関 節 ) である 胸 鎖 関 節 肩 鎖 関 節 肩 甲 上 腕 関 節 と 機 能 的 関 節 である 肩 甲 胸 郭 関 節 第 2 肩 関 節 第 2 肩 鎖 関 節 (CC メカニズム)が 複 雑 に 関 係 し さらには 脊 柱 も 関 与 している このように 肩 関 節 は 多 くの 関 節 により 構 成 され 若 年 者 と 高 齢 者 の 姿 勢 の 違 い 痩 せ 型 と 肥 満 型 といった 体 型 による 胸 郭 脊 柱 の 変 化 四 肢 長 の 差 異 など 個 体 差 が 運 動 のバリエーションに 幅 をもたせており 一 般 性 だけでは 患 者 個 人 の 異 常 を 検 出 することは 難 しい そこで 一 般 性 との 比 較 に 加 え 肩 関 節 運 動 の 左 右 差 や 脊 柱 の 対 称 性 などを 考 慮 した 個 別 性 という 観 点 から 異 常 を 抽 出 することが 重 要 となる 以 上 のことから 肩 のバイオメカニクスは 一 般 性 と 個 別 性 を 考 慮 し 用 いることで 患 者 個 人 の 肩 関 節 運 動 における 異 常 動 作 を 明 らかにし 機 能 障 害 の 抽 出 治 療 の 効 果 判 定 を 行 うための 有 用 な 道 具 に 成 り 得 ると 考 える 肩 甲 胸 郭 関 節 肩 甲 胸 郭 関 節 における 肩 甲 骨 は 胸 鎖 関 節 と 肩 鎖 関 節 の 共 同 した 動 きの 結 果 と して 運 動 が 生 じるため これらの 関 節 運 動 を 理 解 しておく 必 要 がある 肩 甲 骨 12
は 上 肢 運 動 を 行 う 際 の 土 台 であり その 安 定 性 は 上 肢 の 運 動 を 規 定 するため 肩 甲 上 腕 関 節 の 観 察 に 先 立 って 評 価 した 方 がよいと 考 える 胸 鎖 関 節 は 胸 骨 と 鎖 骨 から 構 成 される 上 肢 と 体 幹 を 連 結 する 唯 一 の 関 節 で 鞍 関 節 に 分 類 される 2)3) 鞍 関 節 は 2 軸 性 であるが 2 つの 軸 周 りに 運 動 が 生 じ るときは 自 動 回 旋 ( 連 合 回 旋 )が 生 じる 4) ため 運 動 自 由 度 3 となる 2) 胸 鎖 関 節 の 運 動 は 胸 骨 に 対 する 鎖 骨 の 運 動 で 表 され 前 方 突 出 と 後 退 拳 上 と 下 制 後 方 回 旋 といった 運 動 がある 肩 鎖 関 節 は 肩 甲 骨 と 鎖 骨 から 構 成 される 平 面 関 節 である 肩 鎖 関 節 の 運 動 は 鎖 骨 に 対 する 肩 甲 骨 の 運 動 で 表 され 上 方 回 旋 と 下 方 回 旋 前 傾 と 後 傾 など 多 数 の 運 動 がある このように 肩 鎖 関 節 の 運 動 は 多 岐 にわたるが 一 方 非 常 に 不 安 定 で 脱 臼 を 起 こしやすく 烏 口 鎖 骨 靭 帯 で 補 強 されている 烏 口 鎖 骨 靭 帯 は 上 肢 の 支 持 および 肩 甲 骨 の 内 外 転 回 旋 を 制 御 する 役 割 をもち この 機 構 は CC メカニズムといわれている 5) 肩 甲 胸 郭 関 節 は 機 能 的 関 節 であり 肩 甲 下 筋 と 前 鋸 筋 の 間 の 疎 性 結 合 組 織 か ら 構 成 される 6) 肩 甲 胸 郭 関 節 の 運 動 は 胸 郭 に 対 する 肩 甲 骨 の 運 動 で 表 される が 実 際 には 胸 鎖 関 節 と 肩 鎖 関 節 の 共 同 運 動 により 肩 甲 骨 の 動 きが 決 まる 肩 甲 胸 郭 関 節 における 肩 甲 帯 の 拳 上 ( 肩 甲 骨 の 拳 上 )は 胸 鎖 関 節 の 拳 上 と 肩 鎖 関 節 の 下 方 回 旋 によって 生 じ 肩 甲 帯 の 屈 曲 ( 肩 甲 骨 の 外 転 )は 胸 鎖 関 節 の 前 方 突 出 と 肩 鎖 関 節 の 水 平 面 での 調 整 によって 生 じる( 図 1, 文 献 2 一 部 改 編 ) 重 力 に 抗 した 肩 関 節 の 屈 曲 外 転 運 動 では 胸 鎖 関 節 と 肩 鎖 関 節 の 運 動 力 学 や 運 動 学 に 関 して 統 一 した 見 解 は 得 られていない 2,5,7) が 胸 鎖 関 節 では 鎖 骨 の 拳 上 と 後 方 回 旋 肩 鎖 関 節 では 肩 甲 骨 の 上 方 回 旋 と 後 傾 が 重 要 であることは 共 通 して いる したがって 胸 鎖 関 節 と 肩 鎖 関 節 の 共 同 運 動 の 結 果 生 じる 肩 甲 胸 郭 関 節 の 評 価 は 重 要 であり その 異 常 は 肩 甲 骨 アライメントや 肩 甲 骨 の 動 きにみられる 肩 甲 骨 は 第 2 胸 椎 から 第 7 胸 椎 の 間 に 位 置 し 内 側 縁 は 脊 柱 と 平 行 である 胸 椎 棘 突 起 と 肩 甲 骨 内 側 縁 の 距 離 は 個 人 で 異 なるが 5cm~ 7.5cm 程 度 と いわれている 4)8) ただし 上 肢 下 垂 にお ける 重 力 の 影 響 の 有 無 座 位 や 立 位 によ 図 1 肩 甲 胸 郭 関 節 の 動 き 13
る 脊 柱 の 弯 曲 の 違 い 身 長 および 体 重 胸 郭 の 大 きさなどの 個 別 性 に 配 慮 するため 左 右 差 を 評 価 する 必 要 がある また 肩 甲 骨 は 肩 甲 骨 周 囲 筋 に 係 留 されているため 筋 張 力 の 影 響 を 強 くうける 筋 が 短 縮 もしくは 過 剰 に 延 長 し 静 止 張 力 が 変 化 すると 肩 甲 骨 アライメントも 変 化 する 長 さ 張 力 曲 線 によると 筋 の 短 縮 延 長 のどちらとも 筋 の 収 縮 効 率 が 低 下 するため 異 常 な 肩 甲 骨 アライメントをもつ 患 者 は 異 常 動 作 がみられるこ とが 多 い 野 田 らは 頭 頚 部 が 前 方 に 変 位 している 群 (FHP 群 )は 非 FHP 群 に 比 べ 上 肢 下 垂 で 肩 甲 骨 が 下 方 回 旋 し 外 転 45 における 肩 甲 骨 の 上 方 回 旋 が 減 少 していたと 報 告 している 9) 篠 田 は 骨 盤 後 傾 位 の 条 件 設 定 では 肩 甲 骨 内 方 傾 斜 角 度 ( 肩 甲 骨 の 水 平 面 調 整 )が 減 少 し 肩 甲 骨 上 方 回 旋 の 減 少 肩 甲 上 腕 関 節 の 過 剰 な 動 きが 認 められ 最 大 拳 上 角 度 も 減 少 したと 報 告 している 10) 以 上 より 肩 甲 骨 アライメントと 肩 関 節 運 動 時 の 肩 甲 骨 の 動 きを 観 察 することは 機 能 障 害 を 有 している 筋 群 を 推 察 するために 有 効 な 評 価 となる 図 2a の 肩 甲 骨 は 正 常 のアライメントに 比 べ 下 制 下 方 回 旋 している 重 力 に 抗 して 肩 関 節 の 屈 曲 運 動 を 行 うと 肩 甲 骨 の 上 方 回 旋 角 度 が 不 足 し 180 の 屈 曲 は 不 可 能 である( 図 2b) そこで 屈 曲 の 際 に 肩 甲 骨 の 拳 上 と 上 方 回 旋 を 介 助 すると 最 大 屈 曲 角 度 は 増 大 する( 図 2c) この 評 価 から 僧 帽 筋 上 下 部 線 維 前 鋸 筋 の 過 剰 な 延 長 に 伴 う 筋 力 低 下 が 推 察 される 肩 関 節 の 屈 曲 外 転 運 動 において 前 鋸 筋 の 重 要 性 は 周 知 されているが 僧 帽 筋 下 部 線 維 も 重 要 である 11) 頚 部 郭 清 術 では 術 侵 襲 により 副 神 経 が 障 害 され 結 果 として 僧 帽 筋 が 麻 痺 し 筋 力 低 下 が 生 じる 僧 帽 筋 の 筋 力 回 復 に 要 する 時 間 は 上 部 中 部 下 部 の 順 に 長 くなり 12) 臨 床 では 僧 帽 筋 上 部 線 維 中 部 線 維 の 筋 力 が 回 復 しても 僧 帽 筋 下 部 線 維 の 筋 力 低 下 が 原 因 で 肩 関 節 の 屈 曲 外 転 が 制 限 されることを 経 験 する 僧 帽 筋 下 部 線 維 は 肩 甲 骨 を 下 制 上 方 回 旋 後 傾 させ 特 に 外 転 の 後 期 に 筋 活 動 量 が 増 加 する 13) ことから 拳 上 の 最 終 域 での 肩 甲 骨 の 運 動 に 関 与 し 積 極 的 に 強 化 する 必 要 性 が 高 い 筋 の 1 つであると 考 える 図 2 a: 肩 甲 骨 アライメント b: 屈 曲 c: 自 動 介 助 屈 曲 図 2b は 立 位 での 肩 関 節 の 自 動 屈 曲 を 示 している 肩 甲 骨 下 角 が 中 腋 窩 線 まで 到 達 しておら ず 最 大 屈 曲 ができずに 上 方 回 旋 が 不 足 していた 図 2c は 肩 甲 骨 上 方 回 旋 を 介 助 することで 屈 曲 角 度 が 増 大 したことを 示 している 14
脊 柱 肩 関 節 の 屈 曲 外 転 運 動 を 180 まで 行 うには 体 幹 機 能 すなわち 脊 柱 の 伸 展 が 必 要 であり 4) 肩 関 節 の 運 動 には 姿 勢 の 影 響 が 強 く 反 映 される 本 邦 の 加 齢 による 姿 勢 変 化 は 胸 椎 後 弯 部 で 最 も 著 明 で 14) 腰 椎 の 後 弯 化 ( 腰 部 変 性 後 弯 )は 40 代 後 半 より 現 れ 加 齢 とともに 進 行 し 15) その 進 行 は 10 年 間 で 1.7 16) と 報 告 されている したがって 姿 勢 の 加 齢 変 化 は 胸 椎 後 弯 の 増 加 と 腰 椎 前 弯 の 減 少 が 特 徴 であり この 変 化 が 肩 関 節 の 拳 上 角 度 の 減 少 に 関 連 していると 考 えられる 実 際 肩 甲 骨 面 拳 上 を 若 年 者 と 高 齢 者 で 比 較 すると 若 年 者 では 最 大 拳 上 位 で 胸 椎 後 弯 角 の 減 少 骨 盤 前 傾 角 の 増 加 がみられたが 高 齢 者 で は 拳 上 に 伴 う 有 意 な 変 化 を 認 めず 最 大 拳 上 角 度 が 減 少 すること 17) や 若 年 者 でも 意 図 的 に 骨 盤 を 後 傾 させた 場 合 肩 甲 骨 の 上 方 回 旋 角 度 が 減 少 し 代 償 的 に 肩 甲 上 腕 関 節 が 過 剰 に 動 くものの 最 大 拳 上 角 度 が 減 少 す るという 報 告 10) があり 肩 関 節 運 動 におけ る 脊 柱 の 重 要 性 が 示 唆 されている このように 肩 関 節 運 動 の 機 能 障 害 を 評 価 するには 脊 柱 の 評 価 も 必 要 となる なかで も 骨 盤 前 傾 や 腰 椎 安 定 性 に 関 与 する 18)19) 大 腰 筋 の 評 価 は 重 要 である 大 腰 筋 は 40~50 歳 代 より 筋 断 面 積 が 有 意 に 減 少 する 20)21) この 年 齢 は 腰 椎 が 後 弯 してくる 時 期 とほぼ 図 3 a: 運 動 前 b: 運 動 後 一 致 する 大 腰 筋 の 弱 化 は 筋 を 過 剰 に 延 長 させ その 結 果 骨 盤 が 後 傾 し 重 心 線 が 大 転 子 の 後 方 を 通 過 する sway back posture となる この 姿 勢 ( 図 3a)は 胸 椎 後 弯 の 増 加 を 伴 うことが 多 く 胸 椎 後 弯 の 増 加 は 肩 甲 骨 の 前 傾 を 強 める 8) ため この 姿 勢 が 習 慣 化 すると 肩 関 節 屈 曲 外 転 運 動 の 阻 害 因 子 となることが 予 測 される したがって 大 腰 筋 の 筋 力 を 保 つことが 姿 勢 維 持 だけでなく 二 次 的 に 肩 関 節 の 機 能 障 害 を 予 防 することにつな がると 考 える 大 腰 筋 の 筋 力 低 下 による 姿 勢 変 化 に 関 しては 適 切 な 筋 力 強 化 運 動 を 行 うことで 姿 勢 を 矯 正 することができる ( 図 3 b) また 図 4 は 腱 板 修 復 術 後 患 者 に おける 座 位 での 最 大 屈 曲 を 示 している こ の 患 者 は 座 位 立 位 での 肩 関 節 屈 曲 運 動 に おいて 腰 椎 が 過 剰 に 伸 展 し 歩 行 において も 腰 部 の 過 剰 な 動 きを 認 めた そこで 腰 椎 の 安 定 性 を 高 める 目 的 で 大 腰 筋 の 筋 力 強 化 を 行 った その 運 動 前 後 では 肩 関 節 の 治 療 を 行 っていないにもかかわらず 最 大 屈 曲 角 度 が 約 10 増 加 し 患 者 の 手 の 上 げやす 図 4 a: 運 動 前 b: 運 動 後 15
さの 感 覚 も 改 善 した 肩 甲 上 腕 関 節 狭 義 の 肩 関 節 である 肩 甲 上 腕 関 節 は 肩 甲 骨 と 上 腕 骨 で 構 成 される 肩 甲 骨 ア ライメントは 肩 甲 骨 周 囲 筋 の 筋 張 力 により 変 化 するため 肩 甲 骨 と 上 腕 骨 との 位 置 関 係 は 肩 甲 骨 を 整 えた 後 に 評 価 する 必 要 がある また 肩 甲 上 腕 関 節 の 運 動 には 大 結 節 烏 口 肩 峰 アーチ 肩 峰 下 滑 液 包 腱 板 からなる 第 2 肩 関 節 も 関 与 している 肩 関 節 を 最 終 域 まで 屈 曲 外 転 するためには 烏 口 肩 峰 アーチを 大 結 節 が 通 過 しなければならない この 際 腱 板 の 作 用 と 肩 関 節 の 自 動 回 旋 が 必 要 となる まず 腱 板 作 用 について 考 える 三 角 筋 のみが 収 縮 した 場 合 は 骨 頭 の 上 方 変 位 が 顕 著 となり 屈 曲 外 転 運 動 は 困 難 と なる しかし 屈 曲 外 転 の 初 期 に 棘 上 筋 図 5 棘 上 筋 による 関 節 包 内 運 動 が 収 縮 することで 関 節 窩 に 上 腕 骨 頭 を 圧 迫 する 力 が 生 まれ 上 腕 骨 頭 の 滑 り 転 がり 運 動 が 生 じる( 図 5, 文 献 2) この 棘 上 筋 の 働 きが 骨 頭 の 上 方 変 位 を 抑 制 し 肩 甲 上 腕 関 節 の 屈 曲 外 転 運 動 を 円 滑 にしている さらに 屈 曲 外 転 角 度 が 増 すにつれて 棘 上 筋 は 徐 々にモ ーメントアームが 短 くなり 力 が 発 揮 できなくなるが 22) 棘 下 筋 小 円 筋 肩 甲 下 筋 が 骨 頭 の 上 方 変 位 に 対 して 骨 頭 を 引 き 下 げる 力 として 作 用 する このよう に 異 なる 2 点 に 作 用 する 力 が 物 体 の 回 転 運 動 を 生 じさせることを 偶 力 作 用 (force couple)といい 肩 関 節 運 動 で はこの force couple が 頻 繁 に 用 いられ ている( 図 6, 文 献 2) 棘 上 筋 と 三 角 筋 の 関 係 は 従 来 から 多 くの 研 究 がなされているが どちらの 筋 がより 重 要 なのかを 判 断 することは 難 しい Linge らは 若 年 者 を 対 象 に 肩 甲 上 神 経 を 麻 痺 させ 棘 上 筋 の 筋 活 動 が 失 わ れた 状 態 でも 重 力 に 抗 して 屈 曲 外 転 運 動 は 最 終 域 までの 可 能 であったと 報 告 している 23) 加 えて 三 角 筋 中 部 線 維 は 拳 上 初 期 の 骨 頭 を 押 し 下 げる 作 用 を 図 6 外 転 運 動 における force couple もち 骨 頭 の 安 定 性 に 重 要 であるとの 報 告 24) や 三 角 筋 の 付 着 部 断 裂 は 手 術 を 行 っても 機 能 改 善 は 難 しいといった 報 告 25) があり 三 角 筋 の 重 要 性 がうかがえる したがって 棘 上 筋 の 機 能 不 全 に 対 して 三 角 筋 や 他 の 肩 関 節 周 囲 筋 が 代 償 することで 短 期 的 に 屈 曲 外 転 運 動 を 行 うことは 可 能 であると 思 われる しかし 腱 板 機 能 不 全 の 状 態 で 長 期 間 繰 り 返 し 拳 上 運 動 を 行 うことは 腱 板 断 裂 を 引 き 起 こし 最 終 的 には 三 角 筋 断 裂 へと 進 行 する 26)27) 二 次 的 な 障 害 予 防 が 可 能 で かつ 適 切 な 肩 関 節 の 機 能 改 善 を 目 指 す 16
ために 理 学 療 法 士 は 棘 上 筋 を 含 む 腱 板 作 用 と 三 角 筋 などの 肩 関 節 周 囲 筋 の 両 方 を 観 察 し 治 療 対 象 としていかなければならないと 考 える 次 に 自 動 回 旋 作 用 について 考 える 肩 関 節 の 屈 曲 外 転 運 動 に 関 して 烏 口 肩 峰 アーチを 大 結 節 が 通 過 するためには 上 腕 骨 の 自 動 回 旋 が 必 要 であり その 通 過 経 路 には anterior path と posterolateral path の 2 つがある 肩 関 節 の 外 転 は 上 腕 骨 の 外 旋 を 伴 い 7),22-24) posterolateral path を 通 過 するが 屈 曲 では 統 一 した 見 解 が 得 られていない 屈 曲 は 上 腕 骨 の 内 旋 を 伴 うという 報 告 28)29) や 外 旋 を 伴 うという 報 告 7)30) 肩 甲 骨 の 運 動 を 含 め 複 合 的 に 観 察 すると 相 対 的 に 上 腕 骨 は 内 旋 し 肩 関 節 は 外 旋 するという 報 告 31) などが 散 見 される 臨 床 では 後 方 関 節 包 を 含 む 後 方 関 節 構 成 体 の 硬 さが 問 題 となることが 多 く この 硬 さは 外 転 位 での 内 旋 可 動 域 と 相 関 がある 32) 後 方 関 節 構 成 体 が 硬 い 場 合 つまり 外 転 位 での 内 旋 制 限 がある 場 合 肩 関 節 の 拳 上 に 伴 い 上 腕 骨 頭 が 前 上 方 へ 変 位 し 肩 峰 下 などでの Impingment により 接 触 圧 が 高 まり 小 結 節 部 での 疼 痛 の 発 生 につながる 28) したがって 肩 関 節 の 外 転 では あらゆる 外 転 角 度 での 外 旋 可 動 域 の 確 保 が 必 要 だが 屈 曲 ではあらゆる 屈 曲 角 度 での 内 外 旋 両 方 の 可 動 域 を 有 しておく 必 要 があると 考 える まとめ 1 肩 関 節 は 複 合 関 節 であり その 評 価 は 肩 のバイオメカニクスを 十 分 理 解 した うえで 一 般 性 と 個 別 性 を 考 慮 して 行 うべきである 2 肩 甲 骨 は 肩 甲 骨 周 囲 筋 の 筋 緊 張 によりその 位 置 を 変 化 させる 肩 甲 骨 アライ メントの 異 常 は 肩 関 節 の 運 動 にも 反 映 されるため その 評 価 が 必 要 となる 3 肩 関 節 の 評 価 では 体 幹 機 能 評 価 も 行 うべきである 加 齢 に 伴 い 胸 椎 後 弯 の 増 加 腰 椎 前 弯 の 減 少 がみられ 症 例 によっては 腰 椎 安 定 性 に 寄 与 する 大 腰 筋 の 評 価 が 重 要 である 4 肩 甲 上 腕 関 節 は 肩 甲 骨 アライメントを 整 え 腱 板 作 用 と 肩 関 節 周 囲 筋 の 関 係 および 内 外 旋 可 動 域 に 着 目 し 第 2 肩 関 節 が 適 切 に 機 能 しているか 否 かの 評 価 が 必 要 である 参 考 文 献 1) 山 口 光 國 : 肩 関 節 機 能 の 評 価 法 と 臨 床 推 論 の 進 め 方. 理 学 療 法. 2008; 25: 1274-1281. 2) Neumann DA ( 訳 ) 嶋 田 智 明 他 : 筋 骨 格 系 のキネシオロジー. 医 歯 薬 出 版, 東 京, 2005, pp99-144. 3) 金 子 丑 之 助 : 改 訂 19 版 日 本 人 体 解 剖 学 上 巻, 南 山 堂, 東 京, 2000, pp166-221. 4) A.I.KAPANDJI ( 訳 ) 塩 田 悦 仁 : カラー 版 カパンジー 機 能 解 剖 学 I 上 肢 原 著 第 6 版. 医 歯 薬 出 版, 東 京, 2006, pp4-75. 5) 信 原 克 哉 : 肩 - その 機 能 と 臨 床 - 第 3 版. 医 学 書 院, 東 京, 2001, pp156-168. 6) Schünke M ( 訳 ) 坂 井 健 雄 : プロメテウス 解 剖 学 アトラス 解 剖 学 総 論 / 運 動 器 系. 医 学 書 院, 東 京, 2007, pp226-237. 7) Ludewig PM, et al.: Motion of the shoulder complex during multiplanar 17
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