美作大学 美作大学短期大学部紀要 0 Vol 8 論 文 幼児期の運動能力と群れ遊びの関係について 3 The relationship between motor ability and group play in infancy 長谷川 勝 一 キーワード 運動能力 群れ遊び 自由遊び 仲間 共分散構造分析 また 群れ遊びに関する質問紙調査の結果を因子分 研究の目的 析したところ 5つの潜在因子の存在が確認された 古来より 家庭や地域内で この指止まれ から これらの潜在因子と運動能力評価点や 運動能力評価 始まる 三々五々に群れて遊ぶ 伝承遊び と呼ばれ 点に体格の要因を加味した健康度評価点 あるいはよ る群れ遊びが子どもたちの遊びの中心であったが こ く遊ぶ友達の数との関係についても関連性がある様子 のような遊びを通して子どもたちは総合的に発達して がみてとれた8 いったと考えられる1 2 3 4 しかしながら 現在 一方で 自分の言い分を押し通す 自分や特定のグ では日常生活の中で子どもの群れ集団が作りにくい状 ループに都合がよい勝手なマイルールを持ち出す 遊 況があり 家庭内や地域内で 群れ遊び 伝承遊び びの中でよくトラブルを起こす などの項目群は因子 が消失しつつある その中で 遊べない 遊ばない 分析でも第1因子として抽出されたが この因子は運 遊ぼうとしない子どもの増加が指摘されてきた 動能力とは関係が薄く 行動特性との関連性が指摘さ そこで 家庭や地域内に比較して子どもが群れ集団 れている8 また 行動特性のうち より活動的な行 を作りやすい保育園 幼稚園での群れ遊びに注目し 動型の子どもは群れ遊びを活発化する因子や仲間の存 園内での自由遊びとして群れ遊びの導入 推進への取 在に関する因子の得点が高いが 行動型以外の子ども り組みを行っている 5 が 園内で群れ遊びに取り組 は他の子どもに命令されたり付いて遊ぶ従属性の因子 む際に 群れ遊び活動と子どもの発達の関連性が目に 得点が高いことなども指摘されている7 9 見える形で明確になりにくいことから 先行研究とし これまでの研究により 因子分析の結果をもとにし 6 7 8 9 てこれらの関係を明らかにした て各因子と運動能力や友達の数との関係について示唆 先行研究では 運動能力が高い子は低い子に比較し を得たが 本研究では 園内での群れ遊び活動につい て ルールが明確でチームで協力するような遊びを好 て質問した調査項目から因子分析によって抽出した潜 み リーダー役になることが多いこと よく遊ぶ友達 在因子と運動能力評価点および健康度評価点 友達の の数も多いこと 運動能力が低い子は高い子に比較し 数について共分散構造分析を行い 群れ遊びに関する て 友達との意思の疎通が難しく 他の子に付いて遊 構造分析の知見を得ることを目的とした ぶことや一人で遊ぶことが多いこと あるいは自由遊 びの時間帯にぼーっとしていることが多いように見え ることなどの差異があることが指摘された6
点として算出した 研究方法 群れ遊びに関する質問紙の調査項目の回答は 園内 研究対象 岡山県北部T市内の公立 私立幼稚園5園 での自由遊び中での子どもの様子に関するもの 8項 の年長児名 男児8名 女児名 目 については 当てはまらないもの から よく当 調査時期 平成年月から0月にかけて実施 てはまるもの までの5段階とし 順位変数として 調査項目 生年月日 性別 身長 体重 0メートル それぞれ1から5の数値に変換した いつもよく遊 走 立ち幅跳び 硬式テニスボール投げ 群れ遊びに ぶ友達の数は平均して何人ですか の設問について 関する質問紙調査 9項目 は 0人 から 5人以上 の6段階とした いず 調査方法 体格測定項目の身長 体重と 運動能力測 れの項目についても 不明 の回答選択肢を設けた 定項目の0メートル走 立ち幅跳び 硬式テニスボー が 今回の調査対象児の中には 不明 と回答したも ル投げについては原田の測定法 0 により測定を行っ のはなかった た 群れ遊びに関する質問紙調査は今回の調査のため 因子分析には主因子法によるプロマックス回転を用 に自作したものを使用し 園児の担任に調査用紙を配 い 固有値1以上で因子を抽出した後 因子得点を 布して 園児一人ひとりに対する回答を依頼した 算出した Kaiser-Meyer-Olkinの統計量は0.798を示 し 分析の妥当性を確認した 因子の解釈に用いる項 研究の手続き 体格と運動能力の評価点は原田の重回 帰評価法 目はパターン行列の値が0.以上を示すものとした を用いて 身長は月齢による回帰評価 抽出された因子と運動能力評価点ならびに健康度評 体型 走 跳 投の運動能力項目は月齢と身長による 価点 友人数の調査項目の関係を仮説モデルとして立 重回帰評価として それぞれ 3から 3の7段階の て 共分散構造分析により因果関係を推定した 共分 評価点を算出した その上で 走 跳 投の運動能力 散構造分析においては 運動能力評価点 健康度評価 評価点を合計し 運動能力評価点とした また 身長 点を3段階にカテゴライズした変数を用い モデルの 体型の評価点を運動能力に加味したものを健康度評価 選択基準は仮説採択時に許容されるとされるRMSEA 表1 評価 調査項目の性別の 項目名 月齢 身長 体重 0m走 立ち幅跳び テニスボール投げ 身長評価 体型 走評価 跳評価 投評価 運動能力評価点 健康度評価点 質 外遊びが好き 質 遊ぶ友達はいつも同じである 質 ルールが明確な遊びを好む 質 チームで協力する遊びを好む 質 友達との意思の疎通が難しい 質6 友達と遊ぶのが好き 質7 内遊びが好き 質8 他の子に付いて遊ぶことが多い 質9 自分の言い分を押し通す 質0 リーダー役になることが多い 質 一人で遊ぶのが好き 質 他の子に命令することが多い 質 先生にまとわり付くことが多い 質 マイルールを持ち出す 質 ぼーっとしていることがある 質6 ルールが単純な遊びを好む 質7 他の子に命令されることが多い 質8 遊びの中でトラブルをよく起こす 質9 いつもよく遊ぶ友達の数 76..899 0.7.00 0.9 8.009 0.077 0.08 0.68 0.797 0..9.608.0.0.8.8..0.8.7.678.7.08.9.98.87.66.0.97.8.80 全体.77..7 0.9.06.9.6.09 0.86 0.9 0.97.0..006.0.009..07 0.8 0.9.07.68.9.09.98.077.8.06 0.98 0.967.6.0 0... 60.0.8 0 0 8 6. 8. 7.7.0.8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 76.9.789.7.8 07. 9.7 0.0 0. 0.68 0.80 0.9.96..8.8.667.7.67.06..07.98.80.07.8.6.90.679.8.80.0.09 男児..8.88 0.9.6.97.097.080 0.860 0.9 0.90.0.09 0.89 0.90.006.7.07 0. 0.90.6...097.98.0..08 0.97.0..6 06. 6.. 68.0. 8 8 6. 8. 6.7.0.8 7.99.7 9.890.99 97.806 6. 0.097 0. 0.89 0.7 0.87.968.8..08.7.6.99.6.7.0.9.6.77.9..77.6.968.87.99. 女児.9.79.99 0..690.900.7.079 0.87 0.897.0.08.0.0.0 0.988. 0.809 0.7 0.860.7 0.966.8.0. 0.98 0.99.09 0.86 0.89.00.7 0...7 60.0.8 0 0 8 6. 7.7 0. p<0.00 p<0.0 p<0.0 p<0. 性差
が0.を下回ることとした ある 従属性の因子 は群れ遊びに際して他の子に命 統計上の有意水準はいずれも両側検定で5 とし 令されたり付いて遊ぶ従属性を示す 第4の因子であ た る 仲間の因子 は群れ遊びにおける仲間の存在を 第5の因子である 一人遊びの因子 は群れ遊びにお 結果と考察 ける遊び相手の不在を示す因子である 月齢との相関 月齢 体格および運動能力評価点 健康度評価点 分析では 遠心力の因子 と 一人遊びの因子 は および群れ遊びに関する調査項目の性別の 標 負の相関を示し 向心力の因子 と 仲間の因子 準偏差 を示したものが表1である は正の相関を示すことが確認されている8 このこと 群れ遊びに関する調査項目8項目を対象に因子分析 は 前者の因子が子どもの幼さを示し 後者の因子が を実施した結果 5因子が抽出された 斜行回転後の 経験によって子どもが獲得していく資質であることを パターン行列を示したものが表2であり 因子間の相 示している 関を示す因子相関行列を示したものが表3である 因 これらの因子と各評価 調査項目との関係を分析し 子構造の分析 解釈については先行研究 8 を参照さ れたい た先行研究をもとに仮説モデルを示したものが図1で ある 第1の因子である 遠心力の因子 第2の因子で ある 向心力の因子 はともに子どもが群れ遊びをす るにあたって関係が深い因子であると考えられる 遠 心力の因子 は子どもの自己中心性を示しており 行 き過ぎると遊びを壊す働きもする 一方で 向心力の 因子 は子どもの遊びに対する向心力を示しており リーダーによる群れの統率力なども示す 両者は反対 の性質を示すように思われるが 子どもの群れ遊び活 動では表裏の関係にあると考えられる 第3の因子で 表2 群れ遊びに関する質問項目の因子分析結果 主因子法プロマックス回転後のパターン行列 変数名 質9 自分の言い分を押し通す 質 マイルールを持ち出す 質8 遊びの中でトラブルをよく起こす 質 他の子に命令することが多い 質 友達との意思の疎通が難しい 質 ルールが明確な遊びを好む 質 チームで協力する遊びを好む 質 外遊びが好き 質0 リーダー役になることが多い 質7 他の子に命令されることが多い 質8 他の子に付いて遊ぶことが多い 質6 ルールが単純な遊びを好む 質6 友達と遊ぶのが好き 質 一人で遊ぶのが好き 質 遊ぶ友達はいつも同じである 質7 内遊びが好き 質 先生にまとわり付くことが多い 質 ぼーっとしていることがある 因子1 0.889 0.869 0.87 0.7 0.77 0.0 0. 0.008 0.00 0.090 0.6 0.09 0.08 0.08 0.9 0. 0.090 0.078 因子2 0. 0.078 0.09 0.8 0.00 0.96 0.79 0.7 0. 0.09 0.0 0.9 0.089 0.00 0.0 0. 0.0 0.76 因子3 0.0 0.0 0. 0.09 0.9 0.77 0.0 0. 0.96 0.7 0. 0.68 0.0 0.6 0.7 0.00 0.0 0.8 因子4 0.060 0.0 0.0 0.9 0.88 0.07 0.90 0. 0.0 0.09 0.9 0.00 0.8 0. 0. 0.6 0. 0.008 因子5 0.007 0.06 0.09 0.076 0. 0.0 0.006 0.89 0. 0.096 0.80 0.09 0.8 0.07 0.07 0.7 0.07 0.09.000 0.69.000 0.9 0.7.000 この仮説モデルを用いて共分散構造分析を実施した ものが図2である 分析の結果 モデルに対するデー タ の あ て は ま り は χ=7.06 df=7 p=.00 GFI=.9 AGFI=.87 CFI=.9 RMSEA=.09と なった 子どもが群れ遊びを行うときの原動力となる 遠心 力の因子 向心力の因子 は標準化推定値の係数. で相互に影響を与えている もっとも係数が高かった 表3 因子相関行列 因子 図1 本研究での仮説モデル 0.09 0. 0. 0.8 0.7-0.00.000 0.0.000 パスは 向心力の因子 と 仲間の因子 の関係であ り 係数値は.の値を示した 仲間の因子 と 友 達の数 質問9 の関係も高い数値. を示す 向 心力の因子 と 一人遊びの因子 は-.6 従属性
は 因果関係を示す運動能力へのパスと異なっている 今回の分析の結果から 運動能力の一部は群れ遊び による活動の結果であると判断することができるが 友達の数は必ずしも原因とも結果とも言い切れない面 をもっていることが指摘できよう このことは 子ど もの活動を考える際に興味深い 友達がいることで群 れ遊びにつながる 友達が原因 群れ遊びが結果 こ とがある一方で 群れ遊びをすることで友達ができる こと 群れ遊びが原因 友達が結果 もあるといえる しかし 仲間の因子 から直接運動能力に伸びるパ 図2 共分散構造分析 スが存在しないことからも ただ単に友達がいたらよ いものではなく 特定のルールやリーダーシップに よって友達と協力して群れて遊ぶことが重要である の因子 は-.といずれも負の値を示した 8 をもとにした仮説モ 群れ遊び活動においてはやはり遊び仲間を作ること デルにおいて設定していなかったパスも存在した 係 がまずは重要であり 保育者はそこに注力するべきで 数値としては低いが 遠心力の因子 と 一人遊び ある 運動能力は結果であり 運動能力を伸ばしたか の因子 の間で-.7 従属性の因子 の間で-.のパ らといって友達が増え 群れ遊び活動が活発化するわ スが確認された 遠心力の因子 はともすれば群れ けではない 運動能力が向上することでより高度な技 遊びを壊しかねない要素をもっているが この因子は 術や能力が必要となる遊びに参加できるようになり 向心力の因子 と同様に群れて遊ぶために必要であ それが新しい友達を増やすのである8 ることが伺える 一方で 仮説モデルでは 従属性の 運動能力を伸ばすことは身心の健全な発達を願う教 因子 と 友達の数 質問9 の間に負の相関関係 育上の目標であるが 運動能力を伸ばすことを教育の があるとしたが 今回の分析ではパスが存在しないモ 目的 手段 とするのは趣旨が違うと考えるべきであ デルの方があてはまりはよかった る 今回の分析では 先行研究 運動能力評価点や健康度評価点との関係について 結 論 は 採用モデルでは 向心力の因子 から運動能力評 価点に対してのパスを設定したが 健康度評価点は運 本研究では幼児期の群れ遊びと運動能力の関係につ 動能力評価点との疑似相関性が高いこともあり8 向 いて調べることを目的として 体格 運動能力の測定 心力の因子 から健康度評価点に対してパスを伸ばす と園内での自由遊びにおける子どもの様子を質問紙形 モデルよりも運動能力評価点からパスを伸ばした採用 式で調査した その結果 以下のことが確認できた モデルの方がデータへのあてはまりがよいことが確認 1 群れ遊びに関する質問8項目に対する因子分析で された また 仲間の因子 から運動能力評価点に 確認された5つの潜在因子 遠心力の因子 向 対するパスも有意水準に到達しなかったため パスと 心力の因子 従属性の因子 仲間の因子 一 しては削除した 人遊びの因子 を用いた仮説モデルでは 運動能 友達の数 質問9 については 先行研究と同様 力は 向心力の因子 からの因果関係のパスが確 に 向心力の因子 や 仲間の因子 とのパスが確認 認された 向心力の因子 は 仲間の因子 遠 されたが 因果関係ではなく相互に影響を与え合う共 心力の因子 と因子間の正の共分散が高く 従 分散でのパスの方があてはまりはよかった このこと 属性の因子 と 一人遊びの因子 とは負の共分
散 を 示 した 仲 間 の 因 子 は 友 達 の 数 と 正 の 共 分 散 を 示 すが 従 属 性 の 因 子 とは 負 の 共 分 散 を 示 した 遠 心 力 の 因 子 は 従 属 性 の 因 子 一 人 遊 びの 因 子 とは 負 の 共 分 散 を 示 した. 運 動 能 力 は 群 れ 遊 びの 活 発 さを 示 す 向 心 力 の 因 子 と 因 果 関 係 にあり 群 れ 遊 びが 活 発 化 するこ とで 運 動 能 力 を 高 進 させるが 友 達 の 数 は 向 心 力 の 因 子 に 対 して 因 果 の 関 係 にはないと 考 える ことができる このことは 友 達 の 存 在 が 群 れ 遊 びを 誘 発 することや 群 れ 遊 びから 友 達 が 作 られる ことを 示 唆 しているといえる. 原 田 昭 子 他 幼 児 の 体 格 運 動 能 力 の 評 価 改 訂 に ついて 教 育 医 学 第 巻 号 9~6 頁 999. 原 田 昭 子 他 WEB 上 での 幼 児 の 体 格 運 動 能 力 評 価 判 定 教 育 医 学 第 0 巻 号 7~7 頁 00 註. 原 田 碩 三 群 れ 遊 び のすすめ 黎 明 書 房 990. 原 田 碩 三 押 しくらまんじゅう 花 いちもんめ 農 文 協 99. 原 田 碩 三 徳 田 泰 伸 編 保 育 の 実 践 北 大 路 書 房 99. 原 田 碩 三 新 版 幼 児 健 康 学 黎 明 書 房 997. 明 星 幼 稚 園 しらゆり 幼 稚 園 美 作 大 学 附 属 幼 稚 園 調 和 のとれた 心 と 体 の 発 達 を 目 指 して~ 群 れ 遊 びを 通 じた 取 り 組 み~ 平 成 年 度 全 日 本 私 立 幼 稚 園 連 合 会 中 国 地 区 私 立 幼 稚 園 教 育 研 修 会 岡 山 大 会 009 6. 拙 論 幼 児 期 の 運 動 能 力 と 群 れ 遊 びの 関 係 につい て 美 作 大 学 美 作 大 学 短 期 大 学 部 紀 要 第 6 号 ~6 頁 0 7. 拙 論 子 どもの 群 れ 遊 びと 運 動 能 力 行 動 特 性 の 関 係 について 日 本 乳 幼 児 教 育 学 会 第 回 大 会 0 8. 拙 論 幼 児 期 の 運 動 能 力 と 群 れ 遊 びの 関 係 につい て() 美 作 大 学 美 作 大 学 短 期 大 学 部 紀 要 第 7 号 7~ 頁 0 9. 拙 論 子 どもの 群 れ 遊 びと 行 動 特 性 の 関 係 につい て 日 本 乳 幼 児 教 育 学 会 第 回 大 会 0 0. 原 田 碩 三 新 版 幼 児 健 康 学 黎 明 書 房 0~0 頁 997