丸 山 葉 ONE PIECE における< 泣 き>... 25 三 浦 琴 未 宮 崎 駿 監 督 作 品 における 固 体 と 流 動 体... 26 三 留 茜 有 川 浩 論 その 文 体 をめぐって... 27 峯 田 翔 子 山 口 百 恵 論... 28 湯 田 美 怜 現 代 の 食

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新 潟 大 学 人 文 学 部 情 報 文 化 課 程 文 化 コミュニケーション 履 修 コース 2011 年 度 卒 業 論 文 概 要 岩 井 遼 祐 巨 大 ロボットアニメ 史 におけるガンダムシリーズ ~ 富 野 由 悠 季 がもたらした 変 化 と 発 展 ~... 1 尹 成 哲 水 城 せとな 作 品 における 生 と 性... 2 澁 川 亜 樹 ロシア アニメーション 研 究 Р.カチャーノフ 作 品 を 中 心 に.. 3 荒 井 雅 樹 新 海 誠 作 品 における 切 なさ と 物 語 構 造 風 景 との 関 係 性... 4 五 十 嵐 あゆ 美 ファッションイラストレーションという 形 態... 5 池 田 早 来 桜 庭 一 樹 と 少 女 のフィクション... 6 居 城 舞 映 画 作 家 ティム バートンの 自 画 像 俳 優 ジョニー デップを 中 心 に... 7 一 牛 悠 紀 子 ゼロ 年 代 におけるインディーズ ミュージック... 8 今 古 賀 真 紀 村 上 春 樹 の 作 品 における 歴 史 と 物 語... 9 岡 村 知 也 自 己 を 語 るヒト... 10 川 口 沙 野 花 現 代 音 楽 における 沈 黙 への 問 い... 11 小 泉 香 織 ロリータファッションにおける 自 己 と お 洋 服 の 関 係 性... 12 齋 藤 まりん 乙 女 ゲームにおける 恋 愛 表 現... 13 佐 藤 輝 ハリウッド 映 画 とタバコの 関 係 -タバコを 吸 うジェームズ ボンドの 魅 力 とは-... 14 庄 司 平 宝 島 論... 15 杉 田 世 里 香 ニコニコ 動 画 がつくる 仮 想 空 間... 16 高 木 絵 里 奈 東 京 ディズニーリゾートにおける 演 出... 17 高 木 萌 テレビゲームによる 歴 史 への 介 入 戦 国 BASARA を 中 心 に.. 18 田 中 葉 SMAP 論 日 本 の 男 性 アイドル 史 の 中 で... 19 谷 澤 摩 理 子 現 代 日 本 における 動 物 の 姿 ~バラエティ 番 組 を 中 心 に~... 20 外 山 恵 東 野 圭 吾 白 夜 行 夜 を 中 心 とした 考 察... 21 西 尾 拓 也 草 創 期 の こどものとも の 歴 史 的 意 義 松 居 直 の 絵 本 観 とその 反 映... 22 根 津 瑞 枝 宮 崎 駿 の 変 身... 23 星 野 香 菜 子 火 の 鳥 における 生 命 と 時 間... 24

丸 山 葉 ONE PIECE における< 泣 き>... 25 三 浦 琴 未 宮 崎 駿 監 督 作 品 における 固 体 と 流 動 体... 26 三 留 茜 有 川 浩 論 その 文 体 をめぐって... 27 峯 田 翔 子 山 口 百 恵 論... 28 湯 田 美 怜 現 代 の 食 卓... 29 渡 辺 明 穂 三 國 志 演 義 における 劉 備 の 善 と 曹 操 の 悪... 30 渡 邉 由 里 橋 口 亮 輔 作 品 にみる 女 性 の 表 象... 31 今 井 ひかる 現 代 日 本 における 広 告 の 変 遷 PR 誌 花 椿 を 中 心 に... 32 伊 丸 岡 未 来 ゆずという 二 人 組... 33 大 平 祥 子 雑 誌 Zipper と 少 女 文 化... 34 齋 藤 愛 美 キノの 旅 論... 35 濱 松 穂 那 美 ラーメンズ 論 プレゼンテーションの 工 夫... 36 古 田 和 人 初 音 ミク 消 費 体 系... 37 大 橋 あゆ 美 ミヒャエル ハネケ 作 品 論... 38 鶴 巻 春 翔 アメリカン カートゥーンアニメーションの 分 析 ディズニー ライバルズの 黄 金 期... 39

巨 大 ロボットアニメ 史 におけるガンダムシリーズ~ 富 野 由 悠 季 がもたらした 変 化 と 発 展 ~ 岩 井 遼 祐 アニメは 子 ど も 騙 しのものだと 考 え ら れ ていた 戦 後 日 本 に お い て 宇 宙 戦 艦 ヤ マ ト 機 動 戦 士 ガンダム 新 世 紀 エヴァンゲリオン はアニメ 界 全 体 に 革 命 と 呼 ば れることのあるほどの 影 響 を 及 ぼした 作 品 である これらによってアニメは 現 在 のような 多 くの 人 々が 気 軽 に 見 ることのできる 映 像 作 品 となった これらの 内 の2つが 巨 大 ロボッ トの 登 場 するアニメである アニメがどのような 進 歩 を 遂 げてきたのか 考 える 手 段 の 一 つ として 本 論 ではこの 巨 大 ロボットアニメの 歴 史 とその 変 遷 の 中 で 機 動 戦 士 ガンダ ム 以 降 現 在 まで 制 作 され 続 けているガンダムシリーズを 中 心 として 巨 大 ロボットアニメ を 扱 った 第 1 章 では 機 動 戦 士 ガンダム 以 前 までの 代 表 的 な 巨 大 ロボットアニメを 取 り 上 げ 巨 大 ロボットアニメが 段 々と 方 向 性 を 定 めていったことを 述 べた その 過 程 で 巨 大 ロボッ トが 登 場 する 作 品 ではないが 宇 宙 戦 艦 ヤマト が 与 えた 影 響 についても 触 れ この 作 品 がガンダムシリーズの 制 作 の 中 心 人 物 となる 富 野 由 悠 季 にどのような 影 響 を 及 ぼし 機 動 戦 士 ガンダム までの 富 野 の 作 品 においてどのような 変 化 があったのかについて 述 べた 第 2 章 ではガンダムシリーズ 最 初 の 作 品 である 機 動 戦 士 ガンダム から 機 動 戦 士 Vガンダム で 富 野 が 降 板 するまでのガンダムシリーズを 取 り 扱 った 機 動 戦 士 ガンダ ム がそれまでの 巨 大 ロボットアニメと 何 が 大 きく 異 なっていたのか について 主 に 考 察 した 簡 潔 に 述 べると 機 動 戦 士 ガンダム によって 巨 大 ロボットアニメは 単 なるヒーロ ー 物 から 物 語 性 の 深 い 群 像 劇 を 描 くことのできるジャンルへとその 可 能 性 を 広 げた とし た 第 3 章 ではまず ガンダムシリーズにおいて 綿 密 な 舞 台 設 定 やSF 設 定 が 制 作 陣 の 意 図 を 超 えて 深 まった 結 果 こうした 設 定 を 擁 する 巨 大 ロボットアニメが リアルロボット もの と 呼 ばれるようになったことについてまず 触 れた また それらの 要 素 を 取 り 入 れ つつも 趣 の 異 なる 作 品 として90 年 代 にヒットした 新 世 紀 エヴァンゲリオン について 述 べた この 新 世 紀 エヴァンゲリオン は 設 定 のパターンとしてはガンダム 以 前 のもの を 引 き 継 いでいるものであり その 内 容 も80 年 代 の 巨 大 ロボットアニメの 主 流 とは 全 く 異 なる 後 に セカイ 系 と 呼 ばれるジャンルに 近 いものであった そして こうした 流 れの 中 で 富 野 が99 年 に 制 作 した (ターンエー)ガンダム について 分 析 した は ガンダムシリーズの 世 界 観 をまとめるというガンダムシリーズの 中 においての 意 義 がある だけでなく それまでの 巨 大 ロボットアニメと 毛 色 の 異 なる 物 語 を 描 いた これは 巨 大 ロ ボットアニメが 作 品 として 様 々な 方 向 性 を 志 向 できるという 可 能 性 を 示 す 意 味 でも 大 変 重 要 な 作 品 である ということを 述 べた 結 果 として 富 野 由 悠 季 は 単 なるヒーロー 物 という 扱 いであった 巨 大 ロボットアニメの 物 語 としての 発 展 性 を 機 動 戦 士 ガンダム によって 示 し 20 年 後 の ガンダム で 更 にその 中 で 物 語 の 多 様 性 を 深 めた このことから 今 後 も 巨 大 ロボットアニメには 更 な る 発 展 の 可 能 性 があることが 富 野 由 悠 季 によって 明 らかにされた と 結 論 づけた 1

水 城 せとな 作 品 における 生 と 性 尹 成 哲 水 城 せとなは 自 身 の 作 品 でほぼ 必 ず 性 の 要 素 を 取 り 入 れ 時 には 性 をストーリーの 中 心 に 置 いた 作 品 を 発 表 している 漫 画 家 である 本 論 文 は 水 城 作 品 の 分 析 を 通 して 彼 女 の 独 自 性 や 他 のジャンルや 作 家 にはないもの そして 彼 女 が 何 を 描 きたいのかについて 考 察 する 第 一 章 では 少 年 愛 ボーイズラブやレディースコミックといったジェンダーやセック スといった 性 の 要 素 を 描 いている 女 性 向 け 漫 画 作 品 の 歴 史 を 振 り 返 った ボーイズラブや レディースコミックの 特 徴 として 性 的 快 楽 をはっきり 描 く 性 描 写 を 挙 げた それが 過 去 にボーイズラブ 誌 やレディースコミック 誌 で 作 品 を 発 表 したことがある 水 城 の 作 品 にお いても 見 られるものであることを 述 べた 第 二 章 では 水 城 の 代 表 作 である 窮 鼠 はチーズの 夢 を 見 る と 俎 上 の 鯉 は 二 度 跳 ねる を 女 性 身 体 空 間 の 3 つの 側 面 から 分 析 し 他 の 女 性 向 け 漫 画 作 品 との 比 較 を 通 して 水 城 の 独 自 性 と 他 の 作 品 との 共 通 点 について 論 じた そして 第 一 章 で 述 べたこ とをはじめとして いくつか 共 通 点 は 見 られるものの 物 語 を 前 進 させる 重 要 な 存 在 とし て 描 かれた 女 性 骨 ばって 描 かれた 理 想 化 されていない 身 体 文 字 数 を 考 慮 した 吹 き 出 し や 屋 内 と 屋 外 で 展 開 される 場 面 の 描 き 分 けといった 空 間 の 使 い 方 など 水 城 の 独 自 性 を 明 らかにした 第 三 章 では 水 城 のもう 一 つの 代 表 作 である 放 課 後 保 健 室 の 分 析 を 行 った ここで はまず 二 つの 性 の 間 で 揺 らぐ 主 人 公 真 白 が 最 終 的 に 女 性 という 一 つの 性 を 選 ぶに 至 る 過 程 で 重 要 な 役 割 を 果 たしたクラスメイトの 大 原 桃 花 と 物 語 の 中 での 変 化 していく 真 白 の 身 体 の 描 かれ 方 について 分 析 した 次 に 放 課 後 保 健 室 の 最 大 の 謎 である 卒 業 に 隠 されたものについて 論 じた こ の 物 語 は 母 親 の 胎 内 で 展 開 されており 卒 業 とはこの 世 に 生 まれるということだった のである 生 徒 たちの 卒 業 をかけた 戦 いを 描 いていると 思 われていたこの 作 品 は 実 は 出 産 という 女 性 読 者 にとってシビアな 現 実 を 突 きつけている そして 傷 つき 血 を 流 し ながら 戦 うという 怖 い 要 素 はあくまで 表 向 きのものであり その 裏 でこれまでの 女 性 向 け 漫 画 作 品 が 描 くのを 避 けてきた 出 産 に 対 する 不 安 や 恐 怖 を 水 城 は 描 いていることを 指 摘 し た 終 章 では これまで 論 じたことを 振 り 返 り 水 城 の 作 品 には 独 自 性 と 他 の 女 性 向 け 漫 画 作 品 の 特 徴 との 共 通 点 の 両 方 があるということを 確 認 した 水 城 は 厳 しい 現 実 や 苦 難 に 直 面 した 人 という 描 きたい 主 題 をジャンルの 表 現 方 法 を 用 いながら 謎 を 物 語 終 盤 まで 秘 密 にしておくことで 読 者 をひきつけ 自 身 が 伝 えたいことを 伝 えている 作 家 である そし て 物 語 の 結 末 において 厳 しい 現 実 だけではなく そこから 前 を 向 いて 進 んでいくとい う 希 望 をも 描 くのである 2

Исследование русской анимации - преимущественно мультипликации Р. Качанова Аки Сибукава Эта статья была написана с целью проанализировать такой феномен, как загадочное существование Чебурашки. В первой главе рассказывается о способах создания рисованной мультипликации Качанова, истории его перехода к кукольной мультипликации, развитии собственной техники. Анализ мультипликации приводится в соответствии с теорией Юрия Лотмана «Язык мультипликации». Качанов попытался создать рисованную мультипликацию в технике Эклер (Ротоскопирование), однако ему не удалось достичь реалистичности. С другой стороны, он был очарован куклами. Он создал кукол и смог сделать их реальными благодаря «незначительному движению». В второй главе анализируются «Варежка», «Письмо» и «Мама», которые были созданны примерно в один период времени, и на которых оказало значительное влияние теории Ю. Лотмана и Ф.Мейерхольда, касающиеся характеров кукол. Как и в его последней работе, основываясь на существенных особенностях кукол, Качанов реализовал, выразил «Варежку», т.е. он исполнил желание кукол, которое заключается в том, чтобы стать реальными. А в «Письме» и «Маме» он создал кукол и их окружение реальными, другими словами он заставил кукол сопротивляться самому их характеру. В третьей главе рассказывается о «Чебурашке», преимущественно истории «Крокодил Гена и его друзья». В главе указывается, что в даной серии скрыта сатира на Советское общество, но также полагается, что Качанов хотел сатирой вызвать катарсис у зрителей. То есть Качанов старался сделать рассказ о «Чебурашке» интересным и юмористическим, а вопреки его желанию, в этой серии герои обрели свое реальное существование. С разных сторон существование Чебурашки было «незначительным». Такой «неясный» Чебурашка вызвал у зрителей «остранение». Таким образом у самих зрителей мог возникнуть вопрос, выраженный и словами самого Чебурашки: «Кто я такой?». 3

新 海 誠 作 品 における 切 なさ と 物 語 構 造 風 景 との 関 係 性 荒 井 雅 樹 新 海 誠 は 美 麗 な 風 景 描 写 が 特 徴 的 な 日 本 のアニメーション 作 家 である 2002 年 に 脚 本 作 画 演 出 美 術 編 集 などのほぼ 全 ての 作 業 を 1 人 で 担 当 した 約 25 分 間 のフルデ ジタルアニメーション ほしのこえ -The voices of a distant star- を 発 表 し 高 い 評 価 を 得 た 2004 年 には 初 の 劇 場 長 編 作 品 となる 雲 のむこう 約 束 の 場 所 2007 年 には 連 作 短 編 アニメーション 秒 速 5 センチメートル が 公 開 され 国 内 外 で 高 い 評 価 を 受 けている 2011 年 5 月 7 日 には 最 新 作 の 星 を 追 う 子 ども が 公 開 された 本 稿 では 新 海 誠 が 描 く 胸 が 締 めつけられつつも 温 かい ある 意 味 で 叙 情 性 を 兼 ね 備 えた 切 なさ について 述 べ 新 海 作 品 における 切 なさ と 物 語 構 造 風 景 との 関 連 性 について 考 察 した そして 新 海 作 品 における 叙 情 的 な 切 なさ が 何 によってもたらさ れるのかについて 論 究 した 第 1 章 では 新 海 作 品 に 共 通 する 物 語 構 造 として 遠 距 離 恋 愛 構 造 を 取 り 上 げ 新 海 作 品 において 時 間 的 要 因 が 主 人 公 とヒロインの 障 害 となっていることを 指 摘 した そして 抗 いようのない 時 間 的 要 因 によるヒロインとの 関 係 の 変 化 を 受 け 入 れつつ 前 向 きに 生 きようとする 主 人 公 の 姿 が 叙 情 的 な 切 なさ をもたらすと 指 摘 した 第 2 章 では 新 海 作 品 における 風 景 についての 分 析 を 行 った 新 海 誠 の 描 く 風 景 は 登 場 人 物 のアクションやセリフ 以 上 に 心 情 を 物 語 る 心 象 風 景 としての 一 面 や よ ごれ 光 の 繊 細 な 描 写 によるリアルでノスタルジックさを 演 出 する 風 景 など 多 くの 機 能 を 担 っていることを 指 摘 した また 新 海 の 描 く 風 景 は 絶 えず 動 き 変 化 する 風 景 であり それらの 風 景 の 連 鎖 によって 観 客 に 時 間 のうつろいを 強 く 体 感 さ せると 述 べた そして 化 物 語 (2009)との 比 較 分 析 を 行 い 現 実 の 風 景 写 真 をト レースして 描 かれる 新 海 作 品 の 風 景 が 登 場 人 物 が 存 在 する 虚 構 世 界 と 我 々の 存 在 す る 現 実 世 界 の 双 方 に 立 脚 しながらも 風 景 のリアルな 描 写 によってふたつの 世 界 の 境 界 を 曖 昧 にすると 指 摘 した 故 に 観 客 は 新 海 作 品 の 世 界 での 時 間 のうつろいや 心 情 の 変 化 を 現 実 の 出 来 事 であるかのように 鮮 烈 に 感 じ 取 れるのである この 章 での 分 析 は 新 海 作 品 における 風 景 が 新 海 作 品 の 世 界 への 一 番 のアプローチ 手 段 であることを 示 す ものであった 第 3 章 では 秒 速 5 センチメートル の 踏 切 シーンの 分 析 を 経 て 物 語 構 造 や 哀 愁 漂 うノスタルジックな 風 景 自 体 がもたらす 切 なさ を 指 摘 した そして 変 化 す る 風 景 の 連 鎖 や 虚 構 と 現 実 の 境 界 を 曖 昧 にする 風 景 の 機 能 によって 感 情 移 入 を 超 える 登 場 人 物 の 心 情 や 時 間 感 覚 世 界 観 への 同 調 が 可 能 になる その 結 果 新 海 誠 作 品 においては 物 語 と 風 景 描 写 自 体 のもたらす 切 なさ が 増 幅 され 観 客 はそれをよ り 鮮 烈 に そして 叙 情 的 に 体 感 することができるという 結 論 に 達 した 4

ファッションイラストレーションという 形 態 五 十 嵐 あゆ 美 今 日 フ ァッション 雑 誌 へ の 掲 載 が 少 な いファッションイラストレーションだが 1960 年 代 以 前 では ファッションを 伝 達 する 媒 体 として 大 いに 用 いられた 本 稿 では 現 代 でもファッションイラストレーションがファッションを 伝 達 する 有 用 な 媒 体 であると 証 明 することを 目 的 とする そのために 多 くのファッションイラストレーターが 活 躍 し ていた 戦 後 初 期 に 注 目 し その 中 でも ファッションイラストレーター 中 原 淳 一 を 取 り 上 げる 彼 は 女 性 向 けファッション 雑 誌 を 多 く 創 刊 し ファッション 雑 誌 によって 当 時 の ファッション 文 化 に 高 い 影 響 を 与 えた 第 一 章 では 中 原 淳 一 の 経 歴 をまとめ 中 原 が 生 涯 のテーマとして 挙 げていた 独 自 の 美 学 美 しく 生 きる について 言 及 した 少 女 の 友 より 女 学 生 服 装 帖 ソレ イユ より それいゆ ぱたん の 二 つの 企 画 を 取 り 上 げ 彼 がファッションイラストレ ーションによってファッションを 提 示 し 消 費 者 である 女 性 たちを 理 想 の 女 性 像 に 近 づけるために 指 導 を 行 っていたことが 分 かった それをふまえて 理 想 の 女 性 像 について 具 体 的 に 考 察 し 読 者 が 自 らの 力 で 美 しい 暮 らしを 作 り 上 げるために ファッシ ョンだけではなく 様 々な 面 から 独 自 の 美 学 を 発 信 していたことを 明 らかにした 第 二 章 では 中 原 がイラストレーションで 表 現 したファッションが 受 け 手 である 読 者 にどのように 消 費 されているかについて 戦 後 初 期 に 巻 き 起 こった 洋 裁 洋 裁 学 校 ブームをファッション 雑 誌 がどのように 発 信 しているかについて 言 及 した そこから 当 時 の 婦 人 雑 誌 の 画 一 化 を 垣 間 見 る 事 が 出 来 た また 実 際 に 洋 裁 ページに 注 目 し 衣 服 を つくる こととイラストで 描 くこととの 関 係 について 考 察 した そこでのファッショ ンイラストレーションは 技 術 面 を 説 明 するものではなく 衣 服 のデザインやイメージな どを 伝 達 するために 用 いられていたことが 分 かった そして 洋 裁 ブームが 収 束 に 向 かっ ても 尚 つくる ことを 追 求 していた 中 原 の 独 自 性 をも 明 らかにした 第 三 章 では ファッションイラストレーションとファッション 写 真 との 比 較 を 行 い ファッションイラストレーションの 特 性 について 分 析 した 現 代 ではファッションイラス トレーションも 多 様 化 し 定 義 出 来 ない 程 に 表 現 も 豊 かになっている 特 に ファッショ ンを 身 に 纏 う 身 体 に 関 しては ファッションイラストレーションの 表 現 の 幅 は 写 真 をも 超 える 現 代 のファッションビジネスモデルは 画 一 化 が 進 んでおり ファッション 雑 誌 では ファッション 写 真 によるモデルの 身 体 への 効 果 に 頼 り 切 っていることが 分 かった 多 様 化 し 更 なる 可 能 性 に 満 ちた 将 来 の 日 本 のファッションにおいて 独 自 性 を 貫 き 他 雑 誌 との 差 別 化 を 積 極 的 に 行 っていく 中 原 の 姿 勢 や アーティストの 独 自 性 を 発 揮 する ことが 容 易 なファッションイラストレーションは 時 代 の 流 れに 左 右 されやすく それに よって 画 一 化 されるファッションビジネスを 打 破 し ファッションメディアだけではなく 日 本 のファッション 産 業 の 活 性 化 に 繋 げる 糸 口 になり 得 るのではないだろうか 5

桜 庭 一 樹 と 少 女 のフィクション 池 田 早 来 桜 庭 一 樹 は 2000 年 にオリジナル 小 説 デビューをした 作 家 である 本 稿 では 彼 女 が 作 中 で 少 女 を 頻 出 させている 点 に 着 目 し 桜 庭 作 品 に 共 通 する 特 徴 のうちの 二 つ ヒロ インと 関 わるもう 一 人 の 人 物 の 存 在 と 少 女 と 場 所 との 関 係 を 手 がかりにしながら 桜 庭 作 品 の 少 女 を 通 して 描 かれるものを 分 析 した まず 第 一 章 では 現 代 に 至 るまでの 少 女 小 説 の 歴 史 を 概 観 した 上 で 桜 庭 作 品 にお ける 少 女 の 描 かれ 方 をいくつかの 作 品 を 挙 げて 探 った 少 女 小 説 的 な 共 通 点 が 見 られる 桜 庭 作 品 では 自 らの 意 志 によって 行 動 し 個 人 的 な 成 長 をとげていく 少 女 の 姿 が 描 かれる に 留 まらず 少 女 が 抱 える 問 題 やその 解 決 を 通 して 少 女 以 外 の 人 物 の 成 熟 のしにくさや ある 種 の 社 会 的 な 問 題 を 明 るみに 出 していると 述 べた また インタビューの 発 言 などを 引 き 作 中 の 少 女 が ヒロインの 少 女 個 人 に 限 らない 問 題 を 描 きだす ツール として 用 いられていることに 触 れ 少 女 たちの 問 題 探 究 の 深 刻 さが 桜 庭 が 活 躍 していたライトノ ベルの 領 域 で 求 められる 内 容 から 外 れうるものだったのではないかと 述 べた 第 二 章 では 砂 糖 菓 子 の 弾 丸 は 撃 ちぬけない を 分 析 した 語 り 手 の 少 女 と 作 中 で 死 ぬもう 一 人 の 少 女 を 分 身 的 関 係 と 捉 えた 上 で 後 者 を 昔 話 における 異 類 としても 当 て はめ その 死 が 供 犠 的 であり 語 り 手 の 通 過 儀 礼 のために 機 能 していると 述 べた 同 時 に 死 の 直 接 的 な 原 因 にも 触 れ 後 者 の 死 が 語 り 手 の 視 線 を 世 の 中 へと 向 かわせる 契 機 と なっていると 同 時 に その 死 の 原 因 が 語 り 手 個 人 に 関 わる 成 長 や 経 験 に 留 まらない 問 題 として 語 り 手 から 意 味 付 けされることを 示 した また 語 り 手 が 家 庭 などの 境 遇 の 点 で 自 らを 不 幸 だとしながらも 舞 台 からの 脱 出 が 不 可 能 に 終 わる 事 態 に 対 しては 血 縁 からの 逃 れ 難 さを 表 していると 述 べた さらに 語 り 手 が 行 うもう 一 人 の 少 女 の 正 体 につ いての 言 及 に それまで 作 品 を 発 表 してきた 領 域 に 対 する 桜 庭 の 自 己 言 及 性 を 見 た 第 三 章 は 少 女 七 竈 と 七 人 の 可 愛 そうな 大 人 を 分 析 した 大 塚 英 志 の 双 子 物 語 論 を 用 いて 少 女 と 少 年 の 鏡 像 的 な 関 係 を 整 理 し 主 人 公 の 少 女 が 都 会 に 向 かうこ とが 少 年 との 別 れとなり その 出 立 は 主 人 公 が 大 人 になるためのイニシエーションである ことを 示 した 主 人 公 と 母 親 との 関 係 にも 着 目 し 主 人 公 が 都 会 に 向 かうきっかけと なる 特 質 である 美 しさ が 母 親 の 生 き 方 に 由 来 していること 出 立 が 母 親 の 影 響 下 か ら 脱 してゆくものであることも 示 した さらには 美 しさ を 呪 い と 考 えていた 主 人 公 が 出 立 に 際 して 自 らを 受 け 入 れていく 姿 勢 を 作 中 人 物 と 比 較 した そしてその 姿 勢 を 母 親 や 主 人 公 の 持 つような 特 質 に 憧 れる 人 物 が 成 し 得 ようとしてこなかった 生 の 肯 定 であると 考 え 出 立 する 少 女 の 姿 は それら 少 女 以 外 の 人 物 の 潜 在 的 な 姿 を 浮 かび 上 がら せているのではないかと 指 摘 した 桜 庭 一 樹 作 品 における 少 女 は 少 女 以 外 の 人 物 の 悩 みや 問 題 を 仮 託 される 存 在 であり 作 中 の 少 女 の 示 す 行 動 や 少 女 のつかみ 取 るものは 作 中 の 他 の 人 物 や ひいては 読 者 に 対 する 普 遍 的 なメッセージとしても 表 れている 6

映 画 作 家 ティム バートンの 自 画 像 俳 優 ジョニー デップを 中 心 に 居 城 舞 ティム バートンは 毒 々しい 映 像 美 などによって 独 自 の 世 界 観 を 作 り 出 しており 普 通 の 映 画 監 督 に 留 まらない 活 動 を 続 けている よって 本 論 文 では 彼 をより 作 家 性 の 強 い 映 画 作 家 として 位 置 付 けた 作 品 の 中 核 をなす 主 人 公 達 は 概 してアウトサイダーであ り 幼 年 期 から 青 年 期 にかけて 周 囲 との 関 係 を 築 くのが 苦 手 であったバートンの 姿 に 重 な る つまり 彼 らはバートンの 自 画 像 なのだ 本 論 文 の 目 的 は これまでバートン 作 品 の 主 人 公 を 最 も 多 く 演 じてきた 俳 優 ジョニー デップの 身 体 に 焦 点 を 当 て バートンの 自 画 像 としての 主 人 公 がどのように 描 かれ 作 り 上 げられているのかを 明 らかにすること である 第 1 章 では 二 人 の 経 歴 を 追 い 彼 らがどちらも 幼 少 期 から 成 人 後 に 至 るまでアウトサ イダーであったことを 示 した また 二 人 が 初 めて 仕 事 をした シザーハンズ (1990)でバートンは 自 作 品 の 顔 となる 俳 優 を 獲 得 したこと デップにとっては 同 作 がコンプレックスを 抱 いていた 顔 を 隠 す 為 の 白 塗 り デビュー 作 であったことを 指 摘 した 第 2 章 では 俳 優 のスター 性 = 顔 であると 定 義 し 多 くのバートン 作 品 でメイクに より 顔 を 隠 されているデップのスター 性 について 考 察 した その 際 アリス イン ワン ダーランド (2010)を 取 り 上 げ メイクの 下 からにじみ 出 る 彼 の 整 った 容 貌 がアリス との 恋 愛 を 思 わせると 指 摘 し デップのスター 性 は 隠 れていないと 結 論 づけた また こ のメイクが 当 初 整 った 顔 を 隠 す 為 の 手 段 だったのに 対 し 今 では 彼 の 老 化 を 隠 匿 する 働 き をしていることを 明 らかにした これは 何 故 デップが 俳 優 にとって 致 命 的 となる 白 塗 りキ ャラクターを 演 じ 続 けているのか という 問 いに 対 する 答 えでもある さらに デップに よる 年 齢 不 詳 の 非 人 間 的 な 主 人 公 達 が 作 り 物 めいた 世 界 観 をさらに 強 化 していると 指 摘 し た しかし 彼 が 持 ち 込 んだ 恋 愛 要 素 は 非 人 間 的 に 見 える 主 人 公 の 人 間 臭 い 部 分 であり 過 剰 に 人 工 的 なバートンの 世 界 を 曖 昧 化 している そしてバートンも 作 品 に 私 生 活 を 投 影 することで 自 身 の 人 工 的 な 世 界 を 曖 昧 にし 虚 構 と 現 実 のグレーゾーンな 状 態 を 生 み 出 し ていた 第 3 章 では バートンと 同 様 に 二 枚 目 俳 優 を 起 用 し 続 けたフェデリコ フェリーニを 取 り 挙 げた 彼 は 俳 優 マルチェロ マストロヤンニの 顔 をさらに 魅 力 的 に 見 えるように 撮 る ことで 自 画 像 を 美 化 理 想 化 し さらに 俳 優 の 老 化 に 対 する 対 処 を 行 わなかった 一 方 バートンはデップの 顔 をそのまま 使 わずに 白 塗 りメイクによって 覆 い 隠 し さらには CG などの 様 々な 方 法 で 手 を 加 えた つまり 彼 の 自 画 像 は 歪 められたものなのである バートンにとって デップは 自 身 の 作 り 物 めいた 世 界 観 を 強 化 させる 為 の 有 効 な 材 料 で ある 一 方 デップにとってバートン 作 品 で 得 た 白 塗 りというペルソナはコンプレックス を 抱 く 顔 を 隠 すことが 出 来 さらに 二 枚 目 俳 優 にとって 重 大 な 懸 念 要 素 である 老 化 を 隠 匿 出 来 る 最 良 の 手 段 となった 映 画 作 家 ティム バートンの 自 画 像 は 需 要 と 供 給 が 合 致 し た 俳 優 ジョニー デップとの 持 ちつ 持 たれつの 関 係 によって 描 かれ 表 現 され 続 けている 7

ゼロ 年 代 におけるインディーズ ミュージック 一 牛 悠 紀 子 メジャー レコードの CD の 生 産 枚 数 が 2001 年 をピークに 下 降 し 続 けている 一 方 で インディーズ シーンが 盛 り 上 がりを 見 せている そこで 本 稿 では インディーズと は 何 か ということを 主 題 に 置 いて インディーズ ミュージックの 歴 史 を 概 観 するとと もに ゼロ 年 代 におけるインディーズ ミュージックを 考 察 した 第 一 章 では メジャー レコードの CD 生 産 枚 数 の 低 下 とその 原 因 を 把 握 した 上 で イ ンディーズ ミュージックとは そしてその 魅 力 とは 何 なのかという 問 題 提 起 を 行 った 第 二 章 では URC の 登 場 をインディーズの 始 点 として なぜインディーズが 生 まれた のか その 理 由 を 考 察 した 反 体 制 や 反 商 業 主 義 と 結 びついた 非 大 衆 的 である 音 楽 を 自 由 に 発 表 する 場 として 生 まれたインディーズは 過 激 な 歌 詞 や 表 現 方 法 を 伴 ったがゆえ に 放 送 禁 止 や 発 売 禁 止 となるレコードを 世 に 発 信 する 場 として 機 能 していたことが 明 ら かになった 第 三 章 では インディーズ レーベルの 役 割 の 変 化 を 考 察 した 1970 年 代 の 初 期 は 業 界 寄 りであったのに 対 し 1980 年 代 になるとアーティストが 独 立 し 自 給 自 足 で 音 楽 を 作 る 環 境 が 出 来 上 がる プロではなく 聴 き 手 側 に 近 いアマチュアによるバンド 活 動 が 盛 ん に 行 われた 1990 年 代 に 入 ると 青 田 買 いの 場 として 機 能 することともなったが 2000 年 代 に 入 るにつれ メジャーという 選 択 肢 があっても あえてインディーズを 選 ぶアーティ ストが 増 えた 第 四 章 では インディーズとメディアの 関 係 を 振 り 返 ることによって 非 大 衆 化 をめ ざしたインディーズがいかに 大 衆 化 してきたのか その 経 緯 を 把 握 することが 可 能 となっ た 深 夜 ラジオやミニコミ 誌 など 情 報 を 伝 える 手 段 が 限 られていたインディーズだが カセット テープの 開 発 に 伴 いカセット ブックによる 伝 達 が 可 能 となるなど テクノロ ジーの 発 達 とともに 伝 播 するスピードや 規 模 が 大 きくなっていったことが 明 らかとなっ た 第 五 章 では それらを 踏 まえたうえで ゼロ 年 代 のインディーズの 魅 力 とは 何 か 改 めて 考 察 した メジャーと 違 い インディーズは 聴 き 手 とアーティストとの 距 離 が 近 いこ とが 挙 げられる また 自 主 制 作 における 手 作 り 感 もさることながら インディーズの 魅 力 はぬくもりを 感 じ 取 れることなのではないかという 結 論 に 至 った 第 六 章 では インディーズとは 何 か という 問 いに 対 して 分 からない という 答 えを 出 した なぜなら インディーズは 現 在 進 行 形 でそのかたちを 変 え 続 けているから である 何 十 年 もインディーズに 関 わってきた 人 たちのなかには 現 在 も 旺 盛 な 音 楽 活 動 を 続 けている 人 がたくさんいる 音 楽 がひとりひとりのアイデンティティと 結 びついてい る 以 上 簡 単 に 結 論 づけることはできないのだ むしろ 音 楽 は 無 機 物 ではなく 人 と 人 と のかかわりの 中 で 絶 えず 変 化 していくものだということが 本 論 の 導 き 出 した 答 えになる 8

村 上 春 樹 の 作 品 における 歴 史 と 物 語 今 古 賀 真 紀 本 論 文 は 村 上 春 樹 の 転 換 点 と 言 われる ねじまき 鳥 クロニクル (1993 年 )から 海 辺 のカフカ (2002 年 ) をへて 1Q84 (2009-2010 年 )の 三 部 作 に 至 る 三 つの 長 編 小 説 を 分 析 し 長 編 小 説 作 家 としての 村 上 春 樹 の 変 遷 を 明 らかにすることを 目 的 としたものであ る まず 序 論 で 本 論 で 扱 う ねじまき 鳥 以 前 に 書 かれた 世 界 の 終 りとハードボイル ド ワンダーワンド (1985 年 )に 触 れ その 物 語 構 造 が カフカ 1Q84 の 基 である ことを 確 認 した 世 界 の 終 り では 超 越 論 的 な 自 己 が 失 われた 結 果 他 者 性 歴 史 性 を 排 除 した 内 在 的 な 自 己 の 世 界 へと 同 一 化 してしまう ねじまき 鳥 以 降 の 村 上 の 物 語 の 変 遷 は 世 界 の 終 り で 排 除 したものを 獲 得 するプロセスではないか と 仮 定 した 第 一 章 では ねじまき 鳥 クロニクル について 分 析 した ねじまき 鳥 は 村 上 の コ ミットメント に 対 する 姿 勢 歴 史 的 モチーフの 導 入 などから 村 上 の 作 品 の 転 換 点 だと 言 われている しかし まず 第 1 部 第 2 部 が 世 界 の 終 り 以 降 の 物 語 と 同 じ 構 造 であり 構 造 が 変 化 する 第 3 部 こそが 転 換 点 だと 指 摘 した ねじまき 鳥 第 3 部 で は メタ 的 な 視 点 を 持 つ 登 場 人 物 が 導 入 される メタ 的 客 観 的 な 視 点 の 導 入 と 歴 史 語 りは 他 者 性 の 再 獲 得 をめざすものであった しかし 物 語 は 主 人 公 の 自 己 の 内 部 へ と 閉 じていくかたちで 結 末 をむかえ 他 者 性 の 再 獲 得 には 至 らなかったと 考 えられる 第 二 章 では 海 辺 のカフカ について 分 析 した まず ねじまき 鳥 以 降 の 物 語 につい て 触 れ カフカ が 従 来 とは 異 なる 新 しい 小 説 として 描 かれたことを 確 認 した そ れを 踏 まえ カフカ が 世 界 の 終 り で 失 われた 超 越 論 的 な 自 己 の 回 復 を 果 たし 内 在 的 な 他 者 の 世 界 から 新 しい 世 界 の 一 部 として 開 かれていく 物 語 である ことを 論 じた 同 様 に 三 人 称 による 他 者 性 の 獲 得 メタファー として 機 能 する 歴 史 語 り など 世 界 の 終 り で 失 ったもの を 再 獲 得 し 始 めていることから カフカ が ねじまき 鳥 第 3 部 以 降 の 新 しい 小 説 として 一 つの 到 達 点 に 達 す ると 考 えた 第 三 章 では 前 章 までを 踏 まえ 1Q84 について 論 じた まず 1Q84 が BOOK 1 BOOK 2 と BOOK 3 で 物 語 構 造 が 異 なることを 確 認 した 1Q84 はジョージ オ ーウェル 1984 年 (1985 年 )を 意 識 したものであり BOOK 1 BOOK 2 では 1984 年 で 失 われる 過 去 や メタファー が 存 在 の 根 拠 として 重 要 視 されている 一 方 BOOK 3 でその 比 重 が 過 去 から 現 在 へと 変 化 していることを 明 らかにした 以 上 から 自 己 と 他 者 の 関 係 性 物 語 構 造 歴 史 の 変 化 が 如 実 にあらわれる ねじ まき 鳥 以 降 の 長 編 小 説 は 世 界 の 終 り で 失 われたものの 再 獲 得 のプロセスであ ると 結 論 づけた また 最 後 に 1Q84 BOOK 3 の 結 末 について 考 察 した 第 三 の 物 語 世 界 に 移 動 した 主 人 公 たちは 世 界 に ランディング= 着 地 し 開 かれていく よ うに 見 える 一 方 で 私 たち という 内 閉 した 共 同 体 を 閉 じていく ような 両 義 性 も 見 受 けられる このような 両 義 性 曖 昧 さこそが 村 上 の 物 語 の 本 質 といえるのではないだろ うか 9

自 己 を 語 るヒト 岡 村 知 也 犯 罪 者 によって 著 される 自 伝 文 学 作 品 はこの 世 界 に 多 く 存 在 するわけである 作 品 の 中 で 自 身 の 犯 罪 を 弁 明 したり 正 当 化 する 者 もいれば 自 身 の 犯 罪 行 為 を 強 く 後 悔 し 反 省 する 者 もおり 犯 罪 者 が 自 伝 を 記 す 時 その 目 的 は 極 めて 多 岐 に 渡 る しかしながら 彼 らが 自 伝 を 記 す 時 目 的 は 違 えどそこにはある 二 つの 共 通 点 が 存 在 している それは 自 己 を 知 る べくして 書 かれたもの/ 自 己 を 知 ってもらう べ くして 書 かれたものという 2 点 である この 共 通 点 をふまえていても 犯 罪 者 永 山 則 夫 によって 記 された 自 伝 作 品 無 知 の 涙 を 解 釈 するのは 非 常 に 難 しい 本 論 文 では 永 山 が 自 伝 の 中 で 探 した 自 己 そして 伝 えたかった 自 己 とはいったい 何 だったのかを 考 察 対 象 とし 研 究 を 進 めた 第 1 章 では 自 己 を 語 る という 行 為 そのものに 関 して 考 察 した 犯 罪 者 に 限 らず われわれ 人 間 はどのような 場 合 に 自 己 を 語 る という 行 為 に 出 会 うのか また 犯 罪 者 が 頻 繁 に 自 己 を 語 る という 行 為 と 遭 遇 する 背 景 には 一 体 何 が 存 在 しているのかに ついて 自 身 の 考 えをまとめた 第 2 章 では 永 山 則 夫 という 人 物 についての 詳 細 をまとめた 永 山 の 生 い 立 ちに 始 まり 起 こした 4 件 もの 殺 人 事 件 投 獄 そして 自 伝 を 書 くに 至 るまでの 経 緯 を 細 かに 記 した 第 3 章 では 永 山 が 自 伝 の 中 で 本 当 に 伝 えたかったことが 何 だったのかについて 考 察 し た 永 山 は 無 知 の 涙 の 中 で 普 通 の 人 間 に 戻 りたい! / 自 分 は 天 才 肌 の 犯 罪 者 だ! と 一 見 矛 盾 しているとも 思 える 対 局 の 叫 びを 繰 り 返 す しかしながら 永 山 が 本 当 にありたかったのは 普 通 の 人 間 であった 一 見 対 局 しているように 見 える 叫 びが 実 は 一 貫 して 人 間 に 戻 りたい! という 願 望 であったのだ この 逆 説 構 造 について 考 察 したのが 本 章 である 第 4 章 にて 永 山 の 見 つめてきた 自 己 その 結 果 どのような 自 己 を 発 見 したのかにつ いてまとめた 無 知 の 涙 の 中 で 見 つめてきた 自 己 発 見 した 自 己 伝 えたかった 自 己 について 考 察 し 最 終 的 に 永 山 があろうとした 自 己 が 何 だったのか 自 身 の 考 えを 示 し 結 論 とした 10

現 代 音 楽 における 沈 黙 への 問 い 川 口 沙 野 花 20 世 紀 に 入 り 現 代 音 楽 と 称 されるようになったクラシック 音 楽 は 沈 黙 の 発 見 に 至 る 多 くの 作 曲 家 が 音 楽 における 沈 黙 について 語 り それを 自 身 の 曲 の 中 に 取 り 入 れる 方 法 を 模 索 した 彼 らの 多 くは 沈 黙 は 多 数 の 音 の 集 まり だと 考 え その 可 能 性 に 大 きな 期 待 を 抱 いていた 音 楽 における 沈 黙 とは 一 体 どのようなもので あるのだろう そしてそれは 音 楽 にどのような 影 響 を 与 えたのか 本 稿 では そのような 現 代 音 楽 における 沈 黙 の 問 題 を 考 察 した 第 一 章 では 沈 黙 の 意 味 の 定 義 づけを 行 った 沈 黙 という 言 葉 は 充 分 に 多 義 的 である そこで 本 稿 で 扱 う 沈 黙 の 意 味 を 明 確 に 捉 えるために 音 楽 事 典 バフチン の 言 葉 などを 借 りながら それと 類 似 した 語 との 比 較 を 行 った また 作 曲 家 や 音 楽 評 論 家 の 言 葉 特 に 武 満 徹 ジョン ケージの 沈 黙 に 関 する 言 葉 を 中 心 的 に 扱 い 沈 黙 の 本 質 を 探 った そして 本 稿 で 扱 う 沈 黙 を 単 なる 無 音 の 持 続 ではなく あらゆ る 音 の 可 能 性 潜 在 性 を 秘 めた 無 音 の 持 続 であると 位 置 づけた 第 二 章 では 沈 黙 の 獲 得 の 背 景 を 探 った ただ 単 に 曲 の 中 に 無 音 を 置 くだけでは 沈 黙 とはみなされない よって 20 世 紀 の 音 楽 家 たちが どのようにして 音 楽 の 中 に 沈 黙 を 表 現 することを 可 能 にしたのかを 楽 譜 を 見 ることによって 考 察 した そこ で 1950 年 代 に 楽 譜 が 従 来 の 五 線 記 譜 法 を 離 れ 図 形 楽 譜 という 全 く 新 しい 表 現 方 法 を 得 たことにより 均 一 的 な 時 間 の 流 れから 脱 却 し 自 由 な 時 間 を 獲 得 したことを 指 摘 した そして その 時 間 の 解 放 が 沈 黙 の 表 現 を 可 能 にする 手 段 であることを 述 べた また 時 間 の 解 放 に 至 った 経 緯 として 美 術 による 影 響 も 欠 かせないものとし 音 楽 と 美 術 の 関 係 についても 論 じた そして 時 間 を 解 体 することで 浮 き 彫 りになる 空 間 の 問 題 を 提 示 した 第 三 章 では 沈 黙 の 獲 得 が 音 楽 にもたらしたものについて 考 察 した 音 楽 の 中 に 沈 黙 が 表 現 され 始 めた 頃 ブラック マウンテン イヴェント という 企 画 が ケ ージを 含 む 様 々な 芸 術 家 の 手 によって 催 された そのイヴェントが 統 一 されない 複 数 の 時 間 を 作 り 出 すことを 一 つの 目 的 としている 点 において 極 めて 沈 黙 の 問 題 と 近 いものであると 考 え 他 の 類 似 したイヴェントやパフォーマンスなども 挙 げ 沈 黙 が 音 楽 にもたらした 影 響 を 知 るための 一 つの 指 針 とした そして 複 数 の 時 間 が 複 数 の 空 間 を 作 り 出 すことを 指 摘 し 音 楽 における 沈 黙 と 空 間 の 問 題 を 武 満 とケ ージの 考 えを 軸 に 考 察 した 音 楽 にとって 確 かに 時 間 とは 欠 くことのできない 重 要 な 要 素 である しかし 音 楽 は 時 間 の 要 素 だけではなく 本 来 は 空 間 の 要 素 も 内 包 している 終 章 では 音 楽 における 沈 黙 の 誕 生 は 音 楽 における 時 間 の 複 数 化 と 空 間 性 の 回 復 をもたらしたと 述 べ 結 論 とした 11

ロリータファッションにおける 自 己 と お 洋 服 の 関 係 性 小 泉 香 織 ロリータファッションとは 大 きく 広 がったスカートやフリルやリボンなどの 装 飾 によ って 少 女 性 を 強 調 したストリートファッションである このような 装 いをする 者 は 自 らを ロリータ と 呼 んでおり ファッションとアイデンティティの 強 い 結 び 付 きを 物 語 って いる 本 論 文 ではファッションによる 自 己 同 定 に 着 目 し ロリータファッションにおける 衣 服 と 自 己 の 濃 密 な 関 係 性 について 考 察 した 第 一 章 では 1970 年 代 に 始 まるガーリースタイルの 流 れから ロリータファッションが 生 まれるまでの 経 緯 をまとめた ロリータ というファッションカテゴリーが 世 間 で 認 識 され 始 めた 90 年 代 には 作 家 の 嶽 本 野 ばらが 自 身 のエッセイの 中 で 乙 女 の 美 意 識 を 提 唱 した そこには 過 去 への 郷 愁 死 や 残 酷 さへの 憧 憬 といった 思 想 が 存 在 しており これ らは 過 剰 な 少 女 趣 味 を 持 った 乙 女 たちに 浸 透 していった さらに 嶽 本 は 2000 年 に 小 説 家 としてデビューし 少 女 と 衣 服 の 精 神 的 な 繋 がりを 描 いた これによりロリータファッシ ョンにおける 衣 服 は 着 る 人 間 の 自 己 にも 強 く 影 響 する お 洋 服 へと 昇 華 された 第 二 章 で はロリータたちの 身 体 レベルでの 自 己 表 象 に ついて 論 じた その 中 でルイ ス キャロルの 不 思 議 の 国 のアリス のアリスを 例 に 彼 女 たちが 理 想 とするのは 少 女 性 とグロテスクさを 併 せ 持 つ 人 造 美 女 的 人 形 的 身 体 イメージであること 指 摘 した さ らに 嶽 本 の 小 説 分 析 を 行 い 見 る/ 見 られる という 男 女 関 係 の 構 図 や 性 器 の 交 わりを ロリータたちが 忌 避 していることを 明 らかにした しかしその 一 方 で 嶽 本 の 描 く 性 は 皮 膚 感 覚 的 な 番 い という 新 しい 身 体 的 結 び 付 きの 可 能 性 を 開 いていることを 示 した 第 三 章 では お 洋 服 の 構 造 分 析 を 行 い それを 身 に 纏 ったときの 身 体 感 覚 について 考 察 した 大 きく 広 がるスカートや 日 傘 は 他 者 との 距 離 を 作 り 出 し 編 み 上 げや 不 安 定 な 厚 底 靴 は 着 る 人 間 の 身 体 を 拘 束 していた これはロリータファッションが 自 己 防 衛 的 かつ 自 律 的 なものであることの 表 れであると 述 べた さらに 少 女 性 で 覆 われた 部 分 には 何 重 も の 影 が 落 ち 少 女 の 精 神 性 を 象 徴 していた またリボンやフリルによる ひらひら 感 覚 が 現 実 / 非 現 実 の 境 界 のゆらぎを 引 き 起 こし 二 つの 世 界 を 同 時 に 生 きることを 可 能 とし ていることを 指 摘 した さらにロリータファッションを 着 ること 自 体 が 偽 りの 自 分 から 本 当 の 自 分 になるという 多 元 的 な 生 き 方 の 獲 得 を 示 すものであった 現 代 の 日 本 社 会 には 効 率 志 向 未 来 志 向 が 根 付 いており これらは 過 去 や 死 の 世 界 に 思 いを 馳 せるロリータたちの 精 神 風 土 とは 相 反 するものである それゆえに 彼 女 たちは 現 実 世 界 において 何 らかの 孤 独 を 背 負 わなければならなかった 皮 膚 感 覚 でもって お 洋 服 という 存 在 を 実 感 することは 他 者 との 番 い の 可 能 性 を 示 唆 しており 孤 独 なロリータ たちに 希 望 を 与 えている しかしながら 実 際 にロリータファッションを 着 ることが 出 来 な い 人 々も 大 勢 いることも 否 定 出 来 ない 嶽 本 の 小 説 における 細 やかな お 洋 服 描 写 は そのような 乙 女 たちに 向 けられた 贈 り 物 なのである 12

乙 女 ゲームにおける 恋 愛 表 現 齋 藤 まりん 乙 女 ゲームは プレイヤーが 複 数 のキャラクターと 疑 似 恋 愛 を 体 験 することができる 女 性 向 けの 恋 愛 シミュレーションゲームである 本 論 文 では 近 年 急 激 な 盛 り 上 がりを 見 せる 乙 女 ゲームを 取 り 上 げ 同 じ 恋 愛 を 扱 ったものでも 映 画 や 小 説 少 女 漫 画 などに 比 べて 評 価 され 難 いのはなぜか そしてその 一 方 で 様 々なメディア 展 開 がなされるほどの 人 気 が 出 た 理 由 は 何 なのかというところに 注 目 し 男 性 向 けの 美 少 女 ゲームとの 比 較 を 行 いながら 乙 女 ゲームのプレイヤーは 乙 女 ゲームに 何 を 求 めているのかを 探 った 第 一 章 では 乙 女 ゲームの 概 要 を 述 べた 上 で いくつかのゲームを 取 り 上 げて 美 少 女 ゲームと 乙 女 ゲームの 特 徴 の 比 較 を 行 った 特 に 主 人 公 像 の 比 較 では 美 少 女 ゲームは 攻 略 対 象 のヒロインを 見 る ことに 特 化 したゲームであり 主 人 公 はプレイヤーが 視 線 を 同 化 させやすいように 没 個 性 的 な 人 物 として 作 られている 一 方 乙 女 ゲームの 主 人 公 は 設 定 ビジュアル 共 にはっきりした つまり キャラが 立 った キャラクターであるという ことを 述 べ プレイヤーはあくまで 一 歩 引 いたところからキャラクター 同 士 の 恋 愛 を 見 つ め 主 人 公 に 同 化 するというよりは 感 情 移 入 という 形 で 疑 似 恋 愛 に 打 ち 込 んでいるとい うことを 明 らかにした 第 二 章 では 乙 女 ゲームにおける 声 優 について 述 べた 男 は 視 覚 で 刺 激 され 女 は 聴 覚 で 刺 激 されると 言 われるように 欲 望 を 消 費 する 対 象 として 男 性 の 文 化 では 美 少 女 フィギュ アが 女 性 の 文 化 ではドラマ CD がそれぞれ 発 達 していると 言 えるだろう また 声 優 に 関 する 部 分 では ゲームの 声 優 イベントの 盛 り 上 がりも 美 少 女 ゲームに 比 べて 乙 女 ゲー ムの 方 が 大 きいということがわかった 美 少 女 ゲームとの 比 較 で 見 てみると 乙 女 ゲーム における 声 声 優 は 美 少 女 ゲームよりもオフィシャルかつ 中 心 的 なコンテンツとして 扱 われているということを 指 摘 した 第 三 章 では 乙 女 ゲームのゲームシステムの 特 徴 を 述 べつつ 乙 女 ゲームのプレイヤーが 求 めるもの つまり 乙 女 ゲームの 魅 力 を 明 らかにした マルチエンディングシステムがも たらす ままならなさ と 半 強 制 的 な 受 け 身 の 恋 愛 を 始 めとする 様 々な 制 限 は 恋 愛 を 乙 女 ゲームという 型 にはめるものであり 乙 女 ゲームは 恋 愛 を 数 値 でしか 判 断 し 得 ないゲームなのだと 実 感 させられると 同 時 に 現 実 の 恋 愛 の 曖 昧 さ 複 雑 さを 再 認 識 させる 機 能 も 持 っているのだと 述 べた 乙 女 ゲームのプレイヤーは 必 ずしも 疑 似 的 な 恋 愛 を 体 験 したくて 乙 女 ゲームに 没 頭 す る 訳 ではない 囁 きかけてくれる 素 敵 な 声 マルチエンディングシステムによって 様 々な 方 向 から 補 完 されていく 世 界 観 など 普 段 経 験 できない ときめき や 非 日 常 の 空 間 時 間 を 求 めている そして 乙 女 ゲームはそうしたプレイヤーに 応 えるのである 13

ハリウッド 映 画 とタバコの 関 係 -タバコを 吸 うジェームズ ボンドの 魅 力 とは- 佐 藤 輝 映 画 は 視 聴 者 の 喫 煙 を 促 進 する 強 い 影 響 力 を 持 つとされ 世 界 中 で 映 画 の 喫 煙 シーン に 関 する 規 制 が 進 んでいる しかし それでも 製 作 される 映 画 の 半 数 以 上 に 喫 煙 シーンが あるのが 現 状 である では 映 画 におけるタバコの 役 割 とは 何 であろうか 本 稿 では 映 画 に 喫 煙 シーンが 登 場 する 理 由 として タバコ 産 業 が 映 画 会 社 に 働 きか けている 可 能 性 があることをもふまえ アメリカにおけるタバコ 規 制 やタバコ 産 業 による 広 告 宣 伝 の 歴 史 を 見 た 上 で 映 画 におけるタバコの 描 かれ 方 がどう 変 わってきたのかを 1962 年 から 現 代 まで 製 作 され 続 けている 映 画 007 シリーズを 例 にとって 考 察 した 第 一 章 では アメリカにおけるタバコの 規 制 運 動 と 擁 護 運 動 の 歴 史 を 概 観 した 喫 煙 のスティグマ 化 と 喫 煙 の 名 誉 回 復 という 相 反 する 二 つの 動 きは 現 代 まで 繰 り 返 されてきた また 当 初 マイナスなイメージを 持 っていた 紙 巻 タバコは 第 一 次 世 界 大 戦 の 影 響 によっ て 威 厳 や 勇 気 といったプラスの 象 徴 的 意 味 を 獲 得 するようになったのである 第 二 章 では タバコにポジティブなイメージを 持 たせようとするタバコ 産 業 の 広 告 宣 伝 戦 略 の 歴 史 を 概 観 した アメリカでは 1970 年 代 にテレビでのタバコ CM が 禁 じられると タバコ 産 業 は 銘 柄 名 や 企 業 名 を 付 けられるようなタバコ 以 外 の 製 品 やサービスを 見 つけ 出 し 始 めた タバコ 産 業 の 行 ってきた CM や スポンサー 活 動 などのイメージ 向 上 戦 略 の 中 に は マルボロマン を 始 めとした 男 性 俳 優 を 用 いた 広 告 宣 伝 がある タバコの 広 告 は 消 費 者 が 自 己 同 一 化 できるようなヒーロー 像 を 提 示 している タバコや 喫 煙 行 為 の 魅 力 形 成 には 広 告 や 宣 伝 によって 作 られたイメージが 重 要 な 役 割 を 果 たしているのである 第 三 章 では 実 際 の 映 画 作 品 における 喫 煙 シーンを 分 析 するために 映 画 007 シリ ーズをとりあげ ヒーローとタバコの 関 係 に 限 定 して 検 討 を 行 った 主 人 公 であるジェー ムズ ボンドが 喫 煙 する 場 面 は 彼 を 魅 力 的 に 見 せるシーンのひとつであった ボンドのイ メージと 喫 煙 シーンは 密 接 につながっており 演 じる 俳 優 が 変 わるとともにシーンも 変 化 し また 紙 巻 タバコが 葉 巻 になったりした それは 時 代 の 反 映 でもあり 新 しいボンドに 先 代 ボンドのイメージを 踏 襲 させたり あるいは 逆 に 差 異 化 したりするための 手 段 でもあ った しかし 禁 煙 傾 向 が 強 まっている 現 代 ボンドはタバコを 吸 わなくなった それはタ バコがボンドを 魅 力 的 に 見 せるアイテムから 排 除 されたことを 意 味 する 以 上 のように 007 シリーズからは 映 画 作 品 においてタバコの 持 つ 意 味 が 変 わってきているという 事 実 が 明 瞭 に 見 てとれるのである こうした 現 状 に 対 してハリウッドの 映 画 製 作 者 は 今 後 どのように 対 応 していくのだろ うか いずれにせよ これからも 喫 煙 に 対 する 世 間 の 考 え 方 が 映 画 における 喫 煙 シーン に 影 響 を 与 えてゆくのは 間 違 いない 映 画 におけるタバコは 作 品 によって 異 なる 役 割 を 果 たすが そのひとつとして 主 人 公 を 魅 力 的 に 見 せるというものがある タバコが 嫌 われる 現 代 においても タバコを 吸 う 者 はカッコいい という 神 話 は 未 だに 存 在 しているのであ る 14

宝 島 論 庄 司 平 本 論 文 は ヴィクトリア 朝 末 期 のイギリス 作 家 ロバート ルイス スティーヴンソンの 冒 険 小 説 宝 島 ( 一 八 八 三 )を 取 り 上 げ その 作 品 分 析 を 論 の 中 心 としている 先 行 す る 冒 険 小 説 の 要 素 を 取 り 入 れる 一 方 で 後 世 の 冒 険 小 説 に 大 きな 影 響 を 与 えることにもな った 宝 島 は 冒 険 小 説 の 変 遷 を 見 る 上 で 優 れた 題 材 であると 判 断 し 比 較 分 析 を 通 し てその 特 質 を 考 察 する また 冒 険 小 説 と 密 接 に 連 動 していた 帝 国 主 義 との 関 係 に 注 目 す ることで 宝 島 の 社 会 的 な 意 味 合 いを 探 る これらを 通 して 宝 島 を 時 代 の 転 換 点 として 捉 え 直 すことを 課 題 とした 第 一 章 では 宝 島 が 世 に 出 た 時 代 の 特 質 およびその 時 代 における 冒 険 小 説 の 地 位 を 明 らかにする 宝 島 が 生 まれたのは 大 英 帝 国 の 対 外 進 出 活 動 が 最 も 盛 んな 時 期 に 当 たる 帝 国 の 建 設 と 維 持 は 国 民 の 義 務 として 喧 伝 されるようになり 冒 険 小 説 はこの 帝 国 の 風 潮 と 積 極 的 に 手 を 組 み 帝 国 の 活 動 を 称 揚 する 役 割 を 担 った しかし 二 〇 世 紀 に 入 ると 帝 国 主 義 的 動 向 は 急 速 に 縮 小 し 反 帝 国 的 な 作 品 が 現 れ 始 める 宝 島 はこの 時 代 の 境 目 に 位 置 する 作 品 であった 第 二 章 から 第 四 章 にかけては 宝 島 の 登 場 人 物 の 分 析 を 行 った 第 二 章 では 主 人 公 ジ ム ホーキンズに 注 目 し 冒 険 小 説 における 少 年 像 の 変 化 を 論 じた 指 導 者 の 大 人 に 従 属 するそれまでの 少 年 たちに 対 して ジムは 大 人 の 支 配 から 抜 け 出 す 自 由 な 少 年 像 を 提 示 し それはピーター パンなどの 後 世 の 少 年 主 人 公 たちに 受 け 継 がれていく 第 三 章 では 海 賊 の 頭 ジョン シルヴァーの 陰 に 隠 れ 先 行 研 究 ではほとんど 語 られてこなかった 配 下 の 海 賊 たちについて 考 察 した 島 における 彼 らの 破 滅 的 な 行 動 は 従 来 の 冒 険 小 説 の 登 場 人 物 たちが 隠 蔽 してきた 冒 険 の 裏 にある 帝 国 の 実 態 を 明 らかにし 帝 国 の 権 威 を 揺 るがす 働 きを 持 っていた その 影 響 は 後 続 の 作 品 におよび 冒 険 小 説 の 伝 統 を 方 向 転 換 させること にもなる 第 四 章 ではイズレイル ハンズとジョン シルヴァーという 宝 島 の 二 人 の 大 物 海 賊 を 取 り 上 げた 船 上 でのハンズとジムの 切 実 な 会 話 は 帝 国 主 義 の 教 育 媒 体 とい う 冒 険 小 説 の 伝 統 的 役 割 に 一 石 を 投 じた 二 面 性 を 持 つシルヴァーの 逸 脱 的 な 行 動 からは 抑 圧 的 な 帝 国 体 制 からの 脱 出 を 求 める 時 代 動 向 とその 変 化 への 戸 惑 いとがうかがえる 第 五 章 では 後 続 作 品 との 比 較 を 行 うことで 冒 険 小 説 というジャンル 内 における 宝 島 の 位 置 づけをより 明 確 にした 宝 島 出 版 当 時 の 文 学 界 ではまだ 扇 情 的 な 冒 険 小 説 が 主 流 であり この 作 品 の 先 駆 性 は 突 出 していたといえる 一 方 二 〇 世 紀 以 降 の 新 しい 冒 険 小 説 を 見 れば 宝 島 の 生 み 出 した 要 素 が 受 け 継 がれていることが 読 み 取 れる 宝 島 は 冒 険 小 説 の 伝 統 的 な 男 性 性 や 非 日 常 への 憧 憬 を 満 たしながらも その 水 面 下 には 冒 険 小 説 が 根 ざしてきた 帝 国 の 体 制 への 挑 戦 があった それはスティーヴンソンの 人 生 の 二 面 性 とも 対 応 する 支 配 体 制 から 脱 しきれず それでも 飛 び 出 そうとする 精 神 は 逸 脱 性 という 魅 力 となって 表 出 し 現 在 まで 多 くの 読 者 を 引 きつけている 15

ニコニコ 動 画 がつくる 仮 想 空 間 杉 田 世 里 香 ニコニコ 動 画 とは 2006 年 12 月 12 日 よりサービスを 開 始 した 動 画 共 有 サービスであ る 動 画 にコメントを 投 稿 できる コメント 機 能 から 導 き 出 される ニコニコ 動 画 独 自 の 時 間 性 を 提 示 したうえで その 構 造 及 び 機 能 に 言 及 する かつニコニコ 動 画 という 仮 想 空 間 の 中 でユーザーが 真 に 何 をどのように 消 費 しているのかを 明 らかすることで ニコニコ 動 画 がいかなる 場 であるかを 考 察 した 第 1 章 では ニコニコ 動 画 の 持 つ 時 間 性 について 視 聴 者 同 士 の 動 画 視 聴 体 験 の 共 有 を 擬 似 的 に 実 現 するという 擬 似 同 期 と 照 らし 合 わせて 考 察 した 視 聴 者 に 各 々 流 れる 時 間 を 検 討 し また 擬 似 同 期 の 定 義 の 不 明 確 さをあげ 擬 似 同 期 は 視 聴 者 同 士 ではなく 動 画 とコメントの 間 に 起 こることを 指 摘 した 加 えて ユーザーはコメントを 投 稿 することによって 無 意 識 に 複 数 の 時 間 を 追 加 し 操 作 するといった 推 移 する 時 間 性 を 保 つ 役 割 を 果 たし かつユーザー 同 士 が 時 間 操 作 やコメント 投 稿 などという 他 者 の 行 為 に 依 存 していることを 明 らかにした 第 2 章 では ニコニコ 動 画 の 空 間 の 検 証 を 試 みた ニコニコ 動 画 に 実 装 されてい る 機 能 と 実 際 に 投 稿 されている 動 画 を 足 がかりに 複 数 の 時 間 が 共 生 するという 特 殊 な 時 間 性 が 組 み 込 まれていることを 述 べた このことから コメント 機 能 では 視 聴 者 同 士 は 互 いに コミュニケーションができない ことを 示 した コメントは 投 稿 される と 同 時 に 視 聴 者 の 手 を 離 れ 動 画 コンテンツに 取 り 込 まれることで 動 画 とコメントは 一 体 化 する そのため それぞれの 動 画 コンテンツは コメントが 存 在 する 空 間 があり 無 数 に 存 在 する 空 間 の 中 で 投 稿 者 や 視 聴 者 などといった 役 割 をユーザーが 担 うことで 成 り 立 っている ユーザーは 他 の 役 割 を 担 う 他 者 の 存 在 を 大 いに 意 識 し 動 画 という 一 つの 空 間 の 中 で 作 品 に 介 入 しながら 相 互 作 用 していると 分 析 した 第 3 章 では ニコニコ 動 画 の 生 放 送 サービスに 焦 点 を 当 て 動 画 共 有 サービスと 比 較 することでユーザーの 動 きを 見 ていった 動 画 共 有 サービスとは 異 なる 同 期 的 なサービス だが コメントを 投 稿 できることから 同 様 に 空 間 が 存 在 する ただし 生 放 送 サービ スは 単 一 な 時 間 性 であり それゆえにユーザーの 役 割 が 確 定 されるため ニコニコ 動 画 内 ではユーザー 同 士 で 唯 一 コミュニケーションができる 空 間 である ユーザーはコ ミュニケーションをするために 生 放 送 サービスを 利 用 し 同 じ 空 間 にいる 他 者 と 作 品 を 作 り 上 げていることを 指 摘 した 終 章 では 以 上 の 論 述 をまとめるとともに ニコニコ 動 画 というサービスは ユーザー がひとりぼっちで 現 実 空 間 にいるにもかかわらず 無 意 識 に 他 者 を 意 識 させ かつ 動 画 及 び 番 組 という 作 品 にユーザー 自 ら 相 互 作 用 することで 仮 想 空 間 に 存 在 させるとい うことを 述 べた その 中 で ユーザーは 点 在 する 空 間 に 関 与 し 新 しい 作 品 を 作 り 出 すという 行 為 そのものを 消 費 していると 結 論 付 けた 16

東 京 ディズニーリゾートにおける 演 出 高 木 絵 里 奈 1983 年 に 東 京 ディズニーランドが 千 葉 県 浦 安 市 で 開 園 して 以 来 日 本 各 地 にテーマパ ークが 乱 立 した だが これらのテーマパークは 現 在 赤 字 経 営 で 苦 戦 を 強 いられている 所 や 閉 鎖 に 追 い 込 まれてしまった 所 も 多 い その 中 で 東 京 ディズニーリゾートの 年 間 総 入 場 者 は 2 位 のユニバーサル スタジオ ジャパンの 3 倍 以 上 であり 独 走 状 態 となって いる これほどまでに 人 々の 心 を 虜 にするのはなぜだろうか 本 論 文 では 東 京 ディズニーリゾートの 中 の 2 つのパークに 焦 点 を 絞 り そこで 繰 り 広 げられる 演 出 について 考 察 した 第 1 章 では アメリカでディズニーランドが 誕 生 してから 東 京 ディズニーランドが 開 園 し テーマパークからテーマリゾートへと 変 貌 するまでの 経 緯 について 説 明 した そして 東 京 ディズニーリゾートは 日 本 人 が 生 活 の 中 で 最 もレジャーに 関 心 を 向 けるようになっ た 時 代 に 誕 生 したのであり 日 本 人 のレジャーの 特 徴 にもマッチした 空 間 であることを 述 べた 第 2 章 では 東 京 ディズニーランドが 徹 底 的 にテーマ 性 や 物 語 性 に 沿 った 非 日 常 空 間 として 演 出 されていることを 示 した そして ディズニーランドの 発 案 者 であるウォル ト ディズニーはもともと 映 画 のプロデューサーであったわけだが ディズニー 映 画 の 世 界 をパークで 3 次 元 化 する 上 でも 映 画 的 技 法 を 用 いることで ゲストを 物 語 世 界 へと すんなり 入 り 込 ませていることを 明 らかにした また 人 気 アトラクションである スプ ラッシュ マウンテン を 取 り 上 げ アトラクションの 構 造 と 演 出 を 分 析 した そして スプラッシュ マウンテン では 映 画 の 物 語 をアトラクションとして 表 現 し 展 開 して いく 上 で 蛇 行 トンネル スプラッシュという 3 つの 要 素 が 効 果 的 に 用 いられており ゲストが 容 易 に 物 語 消 費 できるよう 演 出 されていることを 指 摘 した 第 3 章 ではディズニーランドはアメリカ 史 のテーマパークでもあるという 先 行 研 究 を ふまえた 上 で 東 京 ディズニーランドが 単 なるアメリカのディズニーランドのコピーその ものではなく 日 本 的 コンテクストに 合 わせて 変 更 されているということを 具 体 例 を 挙 げ ながら 述 べた また 新 たに 日 本 独 自 のディズニーランドとして 2001 年 に 誕 生 した 東 京 ディズニーシーでは より 日 本 的 なコンテクスト 化 が 施 されていることを 検 証 した そして 第 2 章 で 述 べたような 演 出 に 加 え 第 3 章 で 述 べたようにさりげなく 日 本 的 に コンテクスト 化 されているということが 人 々の 心 を 掴 む 鍵 となっているのであり 本 来 アメリカから 輸 入 されたものである 東 京 ディズニーリゾートは 現 代 日 本 を 象 徴 する 場 と なっていると 結 論 づけた 17

テレビゲームによる 歴 史 への 介 入 戦 国 BASARA を 中 心 に 高 木 萌 戦 国 BASARA( 以 下 BASARA) (2005)とは 織 田 信 長 や 伊 達 政 宗 など 実 在 の 戦 国 武 将 を 基 にしたキャラクターが 登 場 するテレビゲームである 個 性 豊 かに 描 かれた キャラクター と 簡 単 な 操 作 による 派 手 な 技 が 特 徴 であるこの 作 品 は 歴 史 好 きの 女 性 を 指 す 新 たな 呼 称 歴 女 の 原 因 であるともいわれる これまでにも 歴 史 を 扱 った 作 品 は 多 く 存 在 するが 虚 構 作 品 から 歴 史 へと 関 心 を 向 ける 人 の 流 れが 非 常 に 大 きく 表 れて いる 点 に 目 を 向 けたい 本 論 文 ではこの 原 因 を BASARA が 今 までの 歴 史 を 基 にし た 作 品 とは 異 なった 要 素 を 含 んでいたからではないかと 仮 定 し 歴 史 を 基 にしたテレビゲ ーム 作 品 がどのようにして 享 受 されるのかを 見 ていくとともに BASARA の 特 異 性 を 明 らかにする 第 一 章 では テレビゲーム とりわけアクションゲームにおけるキャラクターについて 考 察 した 内 容 が 非 常 に 似 ている 戦 国 無 双 (2004)との 比 較 をし BASARA が アクションゲームとして 発 売 されながらも キャラクターゲームとして 受 け 手 に 認 知 され ている 原 因 を 探 った それは アクションゲームがキャラクターゲームの 構 造 を 含 んでい ることに 関 係 する BASARA は キャラクターが 自 分 の 操 作 によって 反 応 すること を 悦 ぶ 操 作 的 快 楽 を 極 限 まで 求 めたアクションゲームであり それに 付 随 するかたち でキャラクターゲーム 性 がアクションゲーム 性 を 上 回 るほどに 高 まったのではないだろう か 第 二 章 では プレイヤーの 存 在 について 注 目 した BASARA では 簡 単 な 操 作 と 明 確 なストーリーの 存 在 が 無 いことにより プレイヤーはゲーム 世 界 を 自 由 に 操 れる 感 覚 を 持 つことが 可 能 である また 史 実 上 の 人 物 が 持 つ 強 大 なキャラクター 性 と ゲーム 内 で 描 かれた 史 実 と 虚 構 の 双 方 から 乖 離 したキャラクターとが この 感 覚 をさらに 強 めてい ると 思 われる 第 三 章 では メディアとしてのテレビゲームと 歴 史 との 関 係 について 考 察 した テレビ ゲームと 既 存 のメディアとの 違 いは 受 け 手 が 介 入 できるという 点 である すなわち 歴 史 を 基 に 作 られたテレビゲーム 作 品 の 場 合 作 り 手 と 受 け 手 によって 本 来 過 去 のもので ある 歴 史 に 対 して 二 回 の 作 品 化 が 行 われているのではないかと 述 べた また 歴 女 によ る 歴 史 のたしなみ 方 が 歴 史 小 説 に 代 表 されるような 従 来 の 共 感 や 感 情 移 入 といった 内 面 的 なものとは 異 なり 武 将 ゆかりの 地 を 訪 ねるといった 外 部 からも 分 かりやすいものであ ることを 指 摘 した これが あたかも 歴 女 が 新 しい 流 れであると 認 識 される 要 因 では ないだろうか BASARA は プレイヤーが 介 入 できるテレビゲーム 作 品 の 中 でも 特 にその 範 囲 が 広 いものだった 受 け 手 であるプレイヤーに 自 由 さを 与 える 一 方 で 歴 史 を 基 にしてい るという 強 固 な 背 景 があるために ある 程 度 の 世 界 観 を 保 つことができたのだろう これ らから 歴 史 と プレイヤーの 介 入 性 をうまく 利 用 していたことが BASARA の 特 異 性 だったのではないかと 結 論 付 けた 18

SMAP 論 日 本 の 男 性 アイドル 史 の 中 で 田 中 葉 現 代 の 日 本 の 中 心 ともいえる 文 化 のひとつに 芸 能 があり 中 でもとりわけ 国 内 外 やそ の 分 野 を 問 わず 広 く 人 々に 知 れ 渡 っている 存 在 としてアイドルが 挙 げられる アイド ル とはメディアを 通 して 歌 やダンスといったパフォーマンスを 披 露 し 人 々を 魅 了 する 職 業 であると 同 時 に それらをおこなう 少 年 あるいは 少 女 たちを 指 す これまで 多 種 多 様 な アイドルたちがデビューし 引 退 してきた 私 はそんなアイドルたちに 興 味 を 持 ち 本 稿 では 男 性 アイドルについて 彼 らの 魅 力 や 形 態 を 探 り 考 察 を 試 みるべく とくに 今 日 にいた るまで 男 性 アイドル 界 の 発 展 を 支 え デビューから 20 周 年 を 迎 えた 今 もなお 活 躍 し 続 け るアイドルグループ SMAP について 深 く 研 究 することとした 第 1 章 では 男 性 アイドルの 歴 史 について 再 考 した 男 性 アイドルの 根 源 なるものが 1960 年 代 に 活 躍 した 若 手 映 画 スターや 青 春 歌 謡 の 歌 い 手 そして 当 時 活 動 を 開 始 したば かりのジャニーズ 事 務 所 の 存 在 にみられ 以 降 80 年 代 までにかけて アイドル という ものがつくりあげてこられた そして 昭 和 から 平 成 へ 時 代 が 変 化 し 迎 えた 90 年 代 は 音 楽 番 組 の 相 次 ぐ 終 了 や 不 況 によってアイドルの 存 続 にも 大 きく 影 響 した そんな 時 代 にデ ビューしたのが SMAP であり 現 在 にいたってはジャニーズ 事 務 所 のアイドルが 男 性 ア イドル 界 の 王 道 を 歩 んでいることをとらえた 第 2 章 では SMAP の 経 歴 についてそれらを 分 野 別 に 分 け 述 べた そこでは アイド ル= 王 子 様 として 活 躍 してきた 先 輩 アイドルとは 違 い アイドル 業 以 外 の 仕 事 も 積 極 的 にこなしたことによって SMAP がそれまでのアイドルとは 違 う 存 在 だと 位 置 づけるにふ さわしい 数 々の 経 歴 をあげることができた 第 3 章 では SMAP の 活 動 の 中 でもとりわけ 彼 らの 独 自 性 にむすびつき 特 徴 づけて いる 事 柄 を 数 点 挙 げ それについて 論 じた SMAP はそれまで 以 上 に 個 性 の 強 い 個 人 が そろい 解 散 の 危 機 になりかねない 出 来 事 や 苦 難 が 数 多 く 存 在 してきたアイドルである SMAP はアイドルの 枠 にとらわれないさまざまな 活 動 を 通 して 彼 らのもつマイナス 面 や 個 性 を 巧 みに 披 露 し 強 みに 変 えてきた また 彼 らのもつ 視 線 や 関 係 性 は SMAP を 維 持 していく 上 で 重 要 な 要 素 であった SMAP の 人 気 は 決 して 事 務 所 の 商 業 的 な 戦 略 だけでなく 彼 ら 自 身 の 努 力 と 意 志 への 評 価 ともいえる そして SMAP はメンバーの みならず 周 りで 彼 らを 支 える 人 々やファンも 含 めて 構 成 される 空 間 のようなものであると いえ それを 共 有 することで SMAP が 成 長 し より 魅 力 的 なものになっているとのべ た SMAP がアイドルグループとして 現 在 も 引 退 せずに 業 界 の 一 線 で 活 動 を 続 けている 点 や 彼 らの 限 界 はまだ 達 するにいたらずこれからも 魅 力 の 向 上 が 期 待 できる 点 から 本 稿 において 彼 らの 魅 力 や 形 態 を 断 言 することは 難 しい しかし 現 在 の SMAP からは 年 齢 的 には おじさんたち でありながらも それを 感 じさせない 内 に 秘 める 光 が 感 じら れ それが 魅 力 につながっているとして 結 論 とした 19

現 代 日 本 における 動 物 の 姿 ~バラエティ 番 組 を 中 心 に~ 谷 澤 摩 理 子 ドラマや 映 画 を 始 め インターネット 上 でも 動 物 に 関 する 映 像 が 溢 れている 現 代 にお いて 日 常 生 活 の 一 部 として 身 近 なテレビの 中 で 映 し 出 される 動 物 とはいかなる 存 在 なの か 本 論 文 では 動 物 番 組 に 焦 点 を 当 て そこで 描 かれる 動 物 の 姿 から 現 代 における 動 物 がいかに 消 費 されているのか その 位 置 付 けの 分 析 を 試 みた 第 一 章 ではテレビ 文 化 の 発 展 を 追 い 娯 楽 として 大 きな 役 割 を 担 ってきたテレビが 単 なる 娯 楽 ではなくなり 感 動 を 提 供 するツールとしての 機 能 を 強 めていったと 述 べた この 傾 向 は 90 年 代 頃 から 見 られていたが 東 日 本 大 震 災 を 機 にクローズアップされ つながり や 絆 といったキーワードに 注 目 が 集 まったと 論 じた また テレビ 番 組 全 体 が 画 一 化 したバラエティ 的 な 形 式 をとっている 中 で 特 に 2012 年 1 月 現 在 放 送 さ れている 動 物 バラエティ 番 組 に 関 しては 構 成 をはじめ 内 容 やテーマ 自 体 にも 類 似 点 が 多 いことを 指 摘 した 第 二 章 では 人 と 動 物 の 関 わりとして 最 も 身 近 に 存 在 する 動 物 園 とペットについて 考 察 し 日 本 の 動 物 園 の 在 り 方 が 見 直 されたことを 確 認 した それは 複 数 の 視 点 を 取 り 入 れた 新 たな 展 示 に 関 心 が 寄 せられる 結 果 となり 動 物 の 見 せ 方 の 工 夫 として 大 きな 変 化 が あったと 述 べた また ペットに 対 する 関 心 の 高 まりと 同 時 に 愛 護 精 神 に 基 づく 極 端 な 反 応 があることを 受 けて その 扱 いに 慎 重 さが 必 要 になったことを 確 認 した 第 三 章 では 動 物 番 組 の 変 遷 とそれぞれの 特 徴 を 分 析 した 民 放 の 動 物 番 組 は 野 生 動 物 や 自 然 の 姿 をドキュメンタリー 的 に 放 送 する 教 養 番 組 から 始 まり 次 第 にエンターテ インメント 性 を 高 めていった 現 在 主 に 扱 われるのはペットや 動 物 園 であり 視 聴 者 の 身 近 にある 話 題 にほぼ 限 られるようになった ここでは 飼 い 主 や 飼 育 員 をはじめ 動 物 に 関 わる 人 々の 個 々の 事 情 や 心 情 が 語 られ 動 物 ではなく 人 間 の 立 場 に 関 心 が 向 けられて いると 論 じた また 人 々が 温 もりを 求 めているという 背 景 を 受 けて 出 演 者 の 立 ち 位 置 や 振 舞 い あるいはセットの 配 置 によって 親 密 な 距 離 感 を 持 つ 親 和 的 空 間 が 演 出 され 視 聴 者 に 好 印 象 を 与 えると 同 時 に 強 い 共 感 を 呼 ぶための 工 夫 が 施 されていることを 明 ら かにした NHK の 自 然 動 物 番 組 においても 教 養 番 組 としては 比 較 的 親 しみやすい 演 出 がなされており 視 聴 者 に 歩 み 寄 る 姿 勢 が 見 受 けられた 感 動 共 感 志 向 が 強 まる 中 現 在 の 動 物 バラエティ 番 組 は それに 応 える 形 で 制 作 されていったのである 映 し 出 される 動 物 が 人 と 関 わり 合 う 動 物 に 移 行 したことは 絆 や つながり を 強 調 するうえで 重 要 な 変 化 であった その 動 物 に 関 係 する 人 々の 内 面 描 写 も 含 め 人 間 の 立 場 を 意 識 した 構 成 を 取 ることで 結 果 的 に 視 聴 者 の 感 動 や 共 感 を 呼 びやすくなったか らである 動 物 番 組 とりわけ 動 物 バラエティ 番 組 に 多 くの 類 似 点 が 見 られるのは 視 聴 者 が 共 感 を 求 め 温 もりを 共 有 しようとしている 結 果 だと 考 え その 中 で 動 物 は 絆 を 確 認 し つながり を 意 識 させるものとして 消 費 されていると 結 論 付 けた 20

東 野 圭 吾 白 夜 行 夜 を 中 心 とした 考 察 外 山 恵 白 夜 行 は 質 屋 殺 し 事 件 をきっかけに 犯 罪 を 重 ねながら 生 きていく 主 人 公 桐 原 亮 司 と 唐 沢 雪 穂 の 人 生 を 描 いた 小 説 である 2 人 はいつも 犯 罪 という 暗 い 夜 の 世 界 を 生 き ていたが 彼 らは 自 らの 人 生 を 白 夜 を 歩 いていると 例 えている 本 論 文 では 白 夜 行 の 舞 台 や 主 人 公 たちの 人 間 関 係 などを 夜 と 昼 というキーワードをもとのに 対 比 させて 考 察 し 物 語 の 中 に 存 在 する 白 夜 は2 人 の 人 生 であり 絆 そのものだというこ とについて 述 べた 第 一 章 では 物 語 の 舞 台 である 大 阪 と 東 京 を 夜 としての 大 阪 昼 としての 東 京 として 分 析 した 白 夜 行 に 描 かれている 大 阪 は 暗 い 過 去 を 象 徴 する 場 所 であり 東 京 はきらびやかな 明 るさに 満 ちた 場 所 だったが 物 語 の 最 後 に 雪 穂 は 東 京 で 得 た 明 るさ(ブ ティック R&Y )を 大 阪 に 持 ち 込 むことで 夜 の 空 間 である 大 阪 を 白 夜 に 変 え 過 去 との 決 別 を 示 した 次 に 亮 司 と 雪 穂 という 罪 を 生 み 出 してしまった 彼 らの 家 庭 環 境 を 考 察 した 彼 らの 両 親 は 子 どもに 与 えるべき 愛 情 を 十 分 に 与 えておらず 亮 司 と 雪 穂 は 家 庭 に 居 場 所 がなかった 彼 らは 互 いの 存 在 が 唯 一 安 らげる 場 所 であり 希 望 だったので ある 第 二 章 では 主 人 公 たちが 犯 した 罪 についてまとめ 2 人 の 間 に 存 在 した 夜 と 昼 について 考 察 した 犯 罪 は 主 に 亮 司 が 実 行 犯 となり 雪 穂 はその 犯 罪 によって 社 会 的 地 位 を 手 に 入 れた よって2 人 の 間 においては 亮 司 が 夜 雪 穂 が 昼 を 担 っていたと 考 えることができ 亮 司 は 雪 穂 の 影 のように 常 に 近 くで 彼 女 を 支 えて2 人 でひとつの 人 生 を 歩 んでおり 夜 の 亮 司 と 昼 の 雪 穂 がともに 人 生 を 歩 むことで 彼 らの 人 生 は 白 夜 となっていた そして 亮 司 と 同 様 に 雪 穂 も 犯 罪 と 関 わっており また 亮 司 も 表 の 社 会 の 人 間 との 関 わりを 持 っていたことから 2 人 とも 夜 と 昼 の 顔 を 持 ち 合 わせてい たことがうかがえる このことから 彼 ら 自 身 の 中 にも 白 夜 が 存 在 していた 第 三 章 では 白 夜 行 の 姉 妹 作 品 ともいわれる 幻 夜 を 比 較 対 象 としてとりあげ 幻 夜 における 夜 がどのようなものであったかを 指 摘 した 上 で 白 夜 行 における 夜 ( 白 夜 ) がどのようなものだったのかを 考 察 した 非 常 に 共 通 点 の 多 い 作 品 だが 幻 夜 の 主 人 公 たちには 亮 司 と 雪 穂 の 間 にあったような 絆 はなく 彼 らはそれぞれたっ たひとりで 犯 罪 とつながる 夜 を 生 き 決 して 手 に 入 れることのできない 幻 とともに 生 きていた 一 方 で 物 語 中 の 主 人 公 たちの 行 動 から 白 夜 行 の2 人 の 間 に 絆 が 存 在 してい たことは 明 らかであり 第 一 章 第 二 章 で 示 した 白 夜 は2 人 の 絆 の 象 徴 彼 らが 支 え あってきた 人 生 そのものだったと 結 論 付 けた 以 上 のとおり 彼 らにとって 犯 罪 と 関 わる 人 生 は 夜 だったが そこには 互 いの 存 在 と いう 光 が 存 在 しており 決 して 闇 のみの 空 間 ではなかったのである 白 夜 行 における 夜 の 空 間 は 亮 司 と 雪 穂 が 犯 した 罪 と 絆 によって 生 まれたもので 白 夜 は2 人 の 間 に 存 在 する 絆 であり 人 生 そのものなのである 21

草 創 期 の こどものとも の 歴 史 的 意 義 松 居 直 の 絵 本 観 とその 反 映 西 尾 拓 也 現 在 絵 本 は 対 象 とする 年 齢 が 細 分 化 しており 絵 本 観 の 多 様 化 が 起 こっている こうした 多 様 化 が 顕 在 化 したのは 1970 年 代 である 本 稿 では その 多 様 化 に 至 る 過 程 を 明 確 にするために 草 創 期 の こどものとも の 歴 史 的 意 義 について 考 察 を 行 った そ の 際 に 1956 年 の こどものとも 創 刊 当 時 企 画 編 集 を 担 当 していた 松 居 直 の 絵 本 観 という 観 点 から 論 を 展 開 した なお こどものとも 創 刊 号 から 100 号 までを 資 料 とした 第 一 章 では 松 居 の 幼 少 期 の 絵 本 体 験 に 触 れて こどものとも に 反 映 された 絵 本 観 について 考 察 を 行 った その 際 に 松 居 が 自 身 の 著 書 で 影 響 を 受 けたと 発 言 している コ ドモノクニ キンダ ブック 講 談 社 の 絵 本 の 三 誌 について 特 徴 を 論 じた こ れら 三 誌 は 松 居 の 絵 本 観 形 成 に 絵 本 の 絵 や 文 の 表 現 性 を 編 集 方 針 として 活 かしていく という 肯 定 的 な 影 響 だけでなく 同 じ 轍 を 踏 まないようにするという 否 定 的 な 影 響 も 与 え ていた 第 二 章 では 戦 時 下 から こどものとも 創 刊 までの 絵 本 の 出 版 情 勢 について 触 れて こどものとも 創 刊 の 動 機 を 明 らかにした 戦 時 下 の 絵 本 出 版 は 戦 時 統 制 の 急 速 な 進 行 により 軍 国 色 の 強 い 画 一 化 したものになっていった それが 戦 後 になると 多 数 の 絵 本 雑 誌 が 出 版 され 海 外 の 翻 訳 絵 本 の 出 版 も 行 われるようになった 松 居 は 日 本 の 戦 時 下 における 絵 本 出 版 と 比 較 し 戦 争 の 影 を 感 じさせない 欧 米 の 絵 本 の 絵 本 水 準 の 高 さや 物 語 絵 本 の 楽 しさに 衝 撃 を 受 けたとしている そして このような 海 外 の 絵 本 から 受 けた 影 響 や 幼 少 期 に 形 成 された 絵 本 観 が こどものとも 創 刊 の 動 機 となっているのである 第 三 章 では こどものとも について 表 紙 や 判 型 等 の 形 式 面 と 絵 本 の 絵 や 文 の 内 容 面 の 二 点 から 考 察 を 行 った 形 式 面 では 横 型 の 体 裁 への 移 行 等 の 大 きな 変 化 が 見 られ た 1961 年 末 から 1962 年 初 めの 期 間 に 一 つの 区 切 りを 迎 えたということが 読 み 取 れた この 期 間 以 降 は 創 刊 当 初 はあった 啓 蒙 性 が 徐 々に 希 薄 になっていくのである 内 容 面 では こどものとも を 三 分 野 に 分 類 し 分 野 別 に 論 を 展 開 した 創 作 物 語 絵 本 の 分 野 では 類 型 化 しているジャンル 表 現 方 法 から 差 別 化 を 図 ろうとしていることが わかった こうした 編 集 方 針 は 絵 本 の 世 界 観 を 広 げることにつながっている また 翻 訳 再 話 物 語 絵 本 の 分 野 では 語 りの 文 や 擬 音 の 軽 妙 さが 特 徴 的 であった これらの 分 野 には 戦 前 の 絵 本 から 受 けた 表 現 性 の 影 響 が 反 映 されている 一 方 生 活 科 学 絵 本 の 分 野 には 啓 蒙 的 要 素 を 持 つ 作 品 が 登 場 し 戦 時 下 の 絵 本 出 版 の 影 響 を 見 ることができる 草 創 期 の こどものとも には 松 居 が 持 つ 複 数 の 絵 本 観 の 影 響 が 反 映 されているのであ る 草 創 期 の こどものとも の 意 義 は 松 居 の 複 数 の 絵 本 観 が 相 互 に 関 連 し 合 うことで 絵 本 の 表 現 や 世 界 観 を 広 げたことにある それは 戦 時 統 制 による 画 一 化 で 失 われつつあ った 戦 前 の 絵 本 雑 誌 の 表 現 性 を 再 興 したということでもあった このとき 松 居 の 絵 本 観 は 戦 前 と 戦 後 の 絵 本 出 版 を 結 びつけている また この 意 義 から 戦 前 の 絵 本 雑 誌 の 表 現 性 や 戦 時 下 の 影 響 の 中 で 現 代 の 絵 本 観 の 多 様 化 が 生 じてきたということができるのである 22

宮 崎 駿 の 変 身 根 津 瑞 枝 異 なる 者 への 変 身 は 物 語 のポピュラーなテーマとして 神 話 や 民 話 など 古 今 東 西 で 扱 われてきた 物 語 それぞれにおける 変 身 は 物 語 ごとの 様 々な 要 素 によってその 意 味 合 い を 大 きく 異 にしている だが 変 身 する 者 のそのほとんどが 物 語 中 に 重 要 な 役 割 を 担 わさ れており その 他 の 登 場 人 物 引 いては 物 語 の 展 開 に 大 きな 影 響 を 与 えているといえるだ ろう 日 本 を 代 表 するアニメーション 作 家 である 宮 崎 駿 ( 以 下 宮 崎 )の 劇 場 版 長 編 アニメーショ ン 作 品 の 中 にも 変 身 が 幾 度 も 登 場 する 変 身 の 取 り 上 げ 方 は 様 々であるが 多 くの 人 なら ざるものが 登 場 する 宮 崎 の 作 品 の 中 で 人 とそれ 以 外 どちらでもありうる 変 身 者 の 変 身 が どのような 効 果 を 持 っているか 作 品 登 場 人 物 ごとに 変 身 を 抽 出 し その 傾 向 を 比 較 考 察 した 取 り 上 げた 作 品 は 年 代 順 に 紅 の 豚 千 と 千 尋 の 神 隠 し ハウルの 動 く 城 崖 の 上 のポニョ である 第 一 章 では 各 作 品 の 紹 介 及 び 変 身 の 抽 出 を 行 った 変 身 の 機 能 方 法 変 身 前 後 の 姿 変 身 への 主 体 性 を 主 軸 に それぞれの 作 品 において 変 身 のもつ 意 味 に ついて 考 察 した 作 品 ごとに 重 要 視 される 要 素 は 異 なるが ここで 変 身 は 物 語 ごとの 状 況 要 素 を 持 ちながらも 共 通 項 があることがわかった 特 に 変 身 に 対 して 受 動 的 であるか 能 動 的 であるかは 宮 崎 の 作 品 の 中 でも 作 品 を 越 えた 共 通 項 となり 変 身 の 機 能 を 考 察 す るにあたって 基 幹 となる 要 素 であることがわかった また 変 身 する 対 象 が 持 つイメー ジは 変 身 そのものに 大 きく 関 わることが 示 された 第 二 章 で は 前 章 で 抽 出 された 要 素 共 通 類 似 項 を 元 に 変 身 方 法 の 類 似 自 発 的 強 制 的 変 身 とその 機 能 主 人 公 の 変 身 と 状 態 表 現 の 三 点 に 分 けて 考 察 した 宮 崎 の 変 身 にはその 方 法 として 多 く 魔 法 が 扱 われている 魔 法 を 用 いることで 物 語 における 変 身 という 事 象 を 受 け 手 に 対 してよりシンプルに 受 け 取 り 易 くしている また このことは 方 法 以 外 の 要 素 をより 印 象 的 にする 効 果 をもたらしている 前 章 でも 述 べた 変 身 の 受 動 能 動 に 関 して 受 動 つまり 強 制 的 に 被 る 変 身 は 多 くが 呪 いとして 機 能 し 変 身 者 へ またはその 近 親 者 への 困 難 として 与 えられることがわかった 変 身 を 解 くための 困 難 が 近 親 者 に 与 えられるとき それは 童 話 世 界 に 多 い 典 型 的 な 変 身 譚 をなぞるものになるといえる 最 後 に 変 身 者 が 主 人 公 である 場 合 をあげ その 特 異 性 を 考 察 した 主 人 公 のものと して 変 身 が 描 かれるとき 変 身 した 姿 は 一 定 ではなく 主 人 公 の 意 思 を 超 え 主 人 公 の 精 神 状 態 によって 変 動 する 主 人 公 以 外 の 変 身 が 固 定 されるのに 対 して 主 人 公 の 姿 は 流 動 的 で 物 語 と 相 互 に 影 響 を 与 える 関 係 になっている 物 語 の 展 開 によって 主 人 公 の 心 情 の 変 化 がもたらされるとその 姿 は 変 動 し 姿 が 変 動 することによって 受 け 手 は 物 語 の 展 開 に 踏 み 込 む 手 掛 かりを 得 ることになる 主 人 公 という 特 殊 な 人 物 を 描 くにあたって 変 身 はその 心 情 を 映 す 重 要 な 要 素 だといえる 以 上 から 宮 崎 作 品 における 変 身 は 構 造 そのものをシンプルにすることによって 非 常 に 受 け 入 れやすくなる 一 方 で 人 間 と それ 以 外 を 多 く 描 いて 来 た 宮 崎 作 品 に おいて 登 場 人 物 の 心 情 そして 前 記 した 二 つの 対 立 項 を 描 き より 人 間 を 表 現 す るのに 最 適 なテーマであったと 結 論 付 けた 23

火 の 鳥 における 生 命 と 時 間 星 野 香 菜 子 火 の 鳥 は 手 塚 治 虫 の 長 編 漫 画 である この 漫 画 は 手 塚 が 34 年 間 に 渡 って 漫 画 少 年 少 女 クラブ COM COM コミックス COM 復 刊 号 マン ガ 少 年 野 性 時 代 と 掲 載 誌 を 変 えながらも 描 き 続 け 未 完 に 終 わっている 全 体 の 構 成 として 過 去 と 未 来 が 現 代 を 軸 に 反 復 するという 特 徴 一 貫 して 生 命 の 尊 厳 がテーマで あると 手 塚 自 身 が 語 っていることから 本 稿 は 火 の 鳥 を 時 間 生 命 を 中 心 に 作 品 を 分 析 した 第 一 章 では 火 の 鳥 の 成 立 背 景 を 手 塚 自 身 の 経 歴 と 時 代 の 出 来 事 漫 画 界 の 動 向 などを 踏 まえて 確 認 した 手 塚 の 初 期 の 少 年 少 女 漫 画 から 劇 画 ブーム 時 に 陥 った 不 調 そ れからの 長 編 漫 画 家 としての 復 活 という 漫 画 家 人 生 の 殆 どに 火 の 鳥 は 寄 り 添 っている 第 二 章 では 火 の 鳥 の 基 本 的 な 構 造 についての 概 要 を 述 べた 火 の 鳥 というキャラ クターは 手 塚 の 医 学 生 時 代 の 体 験 に 基 づいて 生 まれたこと 手 塚 マンガに 採 用 されている スターシステムの 不 在 宗 教 への 冷 静 な 視 点 があることについて 触 れた 第 三 章 では 火 の 鳥 における 時 間 についての 分 析 を 行 い 基 本 的 に 三 つの 時 間 があると 指 摘 した 第 一 に 登 場 する 人 間 たちが 持 つ 不 可 逆 的 な 直 線 的 な 時 間 が 存 在 する 第 二 に 火 の 鳥 が 持 つ 無 時 間 的 な 時 間 があることを 指 摘 した これは 火 の 鳥 が 火 の 鳥 の 構 造 と 同 様 に 過 去 未 来 を 自 在 に 行 き 来 する 永 遠 を 内 包 した 存 在 であ ることを 示 している 第 三 に 黎 明 編 未 来 編 に 見 られる 人 類 の 歴 史 があたかもル ープしているかのように 見 えることから 円 環 的 な 時 間 があることを 述 べた 以 上 の 三 つより 火 の 鳥 における 時 間 とは 人 間 は 円 を 描 く 歴 史 をたどっているように 見 えて 実 はその 度 に 細 部 が 異 なっていることから 流 れる 時 間 は 重 なることなく 螺 旋 を 描 いた 立 体 的 モデルになることが 分 かる これが 作 中 で 火 の 鳥 の 望 む 正 しい 生 命 の 使 い 方 に 呼 応 する 形 に 近 づいているものと 見 ることができる 第 四 章 では 火 の 鳥 における 生 命 について 論 じた 第 一 に 物 語 に 現 れる 女 性 性 は 生 命 に 直 接 結 びついているものとして その 精 神 性 は 母 親 の 強 かさ と 母 親 で ない 女 性 性 の 母 的 献 身 性 にあることを 指 摘 した 第 二 に 登 場 人 物 の 身 体 の 変 容 につい て 述 べた ムーピーなどの 変 化 する 不 定 形 の 身 体 を 持 つ 女 性 性 のエロチックさとグロテス クさは 根 源 的 に 生 命 力 と 繋 がっていると 言 える 第 三 に 火 の 鳥 における 生 命 とは 何 かを 見 る 際 に ロビタというロボットと 猿 田 を 取 り 上 げて 分 析 した 手 塚 の 構 想 し た 宇 宙 生 命 (コスモゾーン) というエネルギーが 物 質 に 飛 び 込 むことで 生 きてい る 状 態 になるのだ こうして 無 機 物 惑 星 宇 宙 にも 生 命 は 存 在 するという 生 命 観 が 火 の 鳥 を 壮 大 にしている 以 上 のように 火 の 鳥 と 手 塚 は 時 間 と 生 命 を 通 し て 分 相 応 に 一 所 懸 命 生 を 全 うする という 普 遍 的 命 題 を 登 場 人 物 読 者 に 訴 えている それ 故 に 火 の 鳥 は 火 の 鳥 の 如 く 時 間 を 越 え 多 くの 人 々に 読 み 継 がれる 名 作 となり 得 た のである 24

ONE PIECE における< 泣 き> 丸 山 葉 尾 田 栄 一 郎 が 描 く 漫 画 ONE PIECE は 少 年 漫 画 の 王 道 である 週 刊 少 年 ジャン プ に 掲 載 され そのターゲットである 小 中 学 生 の 少 年 に 向 けて 描 かれている し かし そのコミックスの 購 買 層 の 約 9 割 は 大 人 であり さらに この 作 品 を 泣 け る と 評 している 現 代 の 子 ども 向 けコンテンツの 代 表 作 の 一 つである ONE PIECE によって 大 人 が< 泣 き>を 消 費 する そこには どのような 構 造 があるのだろうか 本 論 文 では < 泣 き>を 物 語 作 品 によって 涙 を 流 す 行 為 と 定 義 し 漫 画 的 技 法 と 物 語 構 造 という 異 なる 二 つの 観 点 から ONE PIECE における< 泣 き>を 分 析 した その 中 で 如 何 にして 子 ども 向 けのコンテンツを 大 人 が 積 極 的 に 消 費 するに 至 ったのかを 探 り 21 世 紀 という 時 代 における 物 語 のテーマなるものの 一 断 面 を 切 り 取 ることを 試 み た 第 一 章 では ONE PIECE における 物 語 世 界 の 描 かれ 方 と< 泣 き>の 関 連 性 を 論 じ た まず ONE PIECE が バトル 漫 画 に バトル 以 外 の 要 素 すなわち 人 間 ド ラマ という 要 素 を 取 り 込 むことで 少 年 漫 画 における< 泣 き>を 実 現 したことを 述 べた そして 主 人 公 の 纏 う 軽 薄 さ と 内 語 の 排 除 というキャラクター 造 形 の 方 法 が 読 者 の 想 像 との 落 差 を 生 み 出 し< 泣 き>をもたらすことを 指 摘 した また 泣 き 顔 を 過 度 に 崩 す デフォルメするという 描 画 方 法 が< 泣 き>に 貢 献 していることをここで 言 及 した 第 二 章 以 降 では 如 何 なる 漫 画 的 技 法 と 物 語 構 造 を 以 て 読 者 の< 泣 き>をもたらすかを 具 体 的 な 場 面 を 取 り 上 げながら 論 じた 第 二 章 では まず 汗 や 吐 息 といった 漫 画 的 記 号 とオノマトペの 効 果 的 な 使 用 が キャラクターのより 動 的 で 具 体 的 な 心 理 描 写 を 可 能 にし < 泣 き>に 貢 献 していることを 示 した さらに 見 開 きに 大 きく 描 かれる 一 枚 絵 が ONE PIECE における< 泣 き>の 特 徴 の 一 つであることを 指 摘 し 連 続 するコマの 中 の 一 つでありながらそれを 一 枚 絵 として 成 立 させているのが モノに 物 語 を 付 与 する 方 法 であるとした 読 者 が 一 枚 絵 に 直 面 する 際 それまでの 物 語 がフラッシュバックされ ると 同 時 に 読 者 の 視 界 の 広 がりを 意 味 するコマの 開 放 が 最 大 限 に 起 こることによっ て 読 者 を 抑 圧 から 解 放 し < 泣 き>がもたらされる 第 三 章 では ONE PIECE における 共 同 体 の 在 り 方 に 注 目 し < 泣 き>の 構 造 を 解 明 した 視 線 の 同 一 化 と デフォルメされた 泣 き 顔 が 読 者 とキャラクター さらに は 作 者 との 同 化 を 促 し< 泣 き>を 誘 発 することを 示 した また< 泣 き>を 論 じる 中 で そ の 中 に 組 み 込 まれた 擬 似 家 族 というモチーフが 社 会 ( 親 )が 生 きる 意 味 を 示 せなく なった 現 代 における 一 つの 自 己 成 長 の 在 り 方 の 提 示 であると 導 き その 根 拠 を 船 とい う 居 場 所 と 精 神 的 外 傷 という 繋 がりにあるとした さらに 子 どもが 主 人 公 が 海 賊 王 になる という 大 きな 物 語 に 胸 を 躍 らせる 一 方 で 大 人 は 船 という 限 定 的 な 共 同 体 における 人 間 ドラマ という 小 さな 物 語 またそれによってもたらされる< 泣 き> という 娯 楽 に ONE PIECE の 魅 力 を 見 いだし 積 極 的 に 消 費 していったと 指 摘 し 結 びとした 25

宮 崎 駿 監 督 作 品 における 固 体 と 流 動 体 三 浦 琴 未 宮 崎 駿 監 督 作 品 には ドロドロとした 流 動 体 のイメージが 数 多 く 登 場 する これらの 物 体 は アメーバのように 不 定 形 で 重 力 に 従 わず 伸 縮 自 在 に 動 きまわる 異 質 なものとし て 表 現 されている これらは 原 作 から 新 たに 付 加 された 宮 崎 作 品 の 要 素 として 特 徴 的 な 表 現 である この 流 動 体 は 宮 崎 作 品 においては 物 語 の 大 きな 転 換 としての 役 割 を 果 た すものとして 繰 り 返 し 描 かれている 本 論 文 では 宮 崎 作 品 における 流 動 体 の 表 現 を 分 類 することによって 作 品 のテーマや 流 動 体 の 表 現 の 役 割 について 考 察 した 第 一 章 では 崖 の 上 のポニョ (2008)と もののけ 姫 (1997)のシシ 神 を 取 り 上 げた ここで 登 場 する 流 動 体 は 対 照 的 な 着 色 でありながら どちらも 圧 倒 的 なエネル ギーとして 描 かれており 他 の 固 体 を 取 りこんで 膨 張 していくイメージを 持 つ ここでは 宮 崎 は 流 動 体 を 生 と 死 などのように 対 立 する 二 つの 性 質 が 同 居 する 場 所 として 描 いてい ると 述 べた また 流 動 体 がそれぞれの 作 品 のテーマを 示 すものとして 使 用 されている 第 二 章 では 千 と 千 尋 の 神 隠 し (2000)と もののけ 姫 (1997)のタタリ 神 に ついて 取 り 上 げた 固 体 が 流 動 体 に 覆 われている 表 現 について 宮 崎 の 発 言 から これら が 登 場 人 物 の 心 象 表 現 であるとして 考 察 した 宮 崎 作 品 の 登 場 人 物 は 内 面 の 葛 藤 を 言 葉 で 表 現 することが 少 ないため 流 動 体 を 使 うことによって 台 詞 で 表 現 するよりも 視 覚 的 に 分 かりやすく その 登 場 人 物 の 心 情 が 表 現 できると 述 べた また これらの 流 動 体 は 登 場 人 物 の 体 から 滲 み 出 て 動 き 回 ることにより 物 語 の 世 界 を 変 化 させる 役 割 があると 述 べた 第 三 章 では 風 の 谷 のナウシカ (1984) 千 と 千 尋 の 神 隠 し (2000) ハ ウルの 動 く 城 (2004)について 取 り 上 げ ここに 登 場 する 物 語 の 重 大 な 転 換 のきっか けとして 使 われない 流 動 体 について 考 察 した これらは 兵 器 として 生 み 出 された 望 まれ ない 生 命 であるなど 不 遇 なものとして 描 かれている 物 語 の 中 では 現 れた 秒 数 が 非 常 に 短 く 絵 コンテにも 細 かい 記 載 が 無 いことから 宮 崎 が 注 力 して 描 いたものではないこと がうかがえる これらは 作 品 の 中 では 共 通 して 他 の 登 場 人 物 に 利 用 され 道 具 扱 いされ ているものとして 描 かれている このことから 宮 崎 作 品 における 流 動 体 は 強 い 意 志 の かたまりのような 固 体 と 結 びつくことなしには 物 語 のなかで 重 要 な 位 置 を 担 うことがで きないと 述 べた 終 章 では 第 1 章 から 考 察 してきたことをまとめ 固 体 と 流 動 体 が 合 わさることで 物 語 の 世 界 に 変 化 が 生 まれ 物 語 や 登 場 人 物 の 動 きが 成 り 立 つとまとめた 宮 崎 作 品 におけ る 固 体 と 流 動 体 は それぞれ 異 なる 意 味 を 持 ち 物 語 において 心 象 表 現 や 自 己 の 回 復 というテーマを 担 う 特 徴 があると 述 べた 第 1 章 から 考 察 した 流 動 体 は 崖 の 上 のポニ ョ を 例 外 的 に 除 いては どれもが 共 通 して 重 い 着 色 であった 子 供 も 多 く 観 るアニメー ションとしては 子 供 が 怖 がるのではないかと 思 われるほど 不 可 解 な 動 きをしている 宮 崎 アニメーションにおける 流 動 体 の 運 動 は 意 識 の 深 部 に 対 しても 訴 えかける 効 果 があ ることを 述 べた 26

有 川 浩 論 その 文 体 をめぐって 三 留 茜 有 川 浩 は 2004 年 に 塩 の 街 でデビューして 以 来 現 在 も 活 躍 する 作 家 である 本 論 文 では 有 川 の 文 体 における 特 徴 がよく 現 れている 図 書 館 戦 争 シリーズを 主 に 考 察 分 析 した 有 川 の 作 品 のその 文 体 に 焦 点 を 当 て 有 川 がどのような 語 りを 選 択 したかをみ ることによって 有 川 作 品 と 作 家 有 川 浩 を 明 らかにしようと 考 えた 第 一 章 では 有 川 の 作 品 の 焦 点 人 物 に 注 目 し 考 察 した 三 人 称 で 描 かれ 焦 点 人 物 が 頻 繁 に 変 わる 有 川 の 作 品 は 感 情 移 入 する 作 中 人 物 は 読 者 に 委 ねられる 構 造 がみられ 読 者 に 作 中 人 物 たちを 公 平 に 観 察 する 感 覚 を 与 えるとした また 焦 点 人 物 を 変 えることで 焦 点 人 物 の 内 言 も 描 き 作 中 人 物 のそれぞれの 性 格 の 肉 付 けをしていることを 明 らかにした さらに 焦 点 人 物 が 急 に 移 行 する 場 面 の 読 者 の 意 識 の 内 の 聞 き 手 は 一 時 的 に 仮 の 焦 点 人 物 になることを 指 摘 した 第 二 章 では 有 川 の 作 品 の 内 言 の 描 き 方 に 注 目 した 有 川 の 作 品 では 三 人 称 の 語 り の 中 にいきなり 内 言 が 描 かれ 語 り 手 の 声 に 作 中 人 物 の 声 がいきなり 立 ち 現 れて いた このことと 第 一 章 で 述 べた 作 中 人 物 の 性 格 描 写 と 合 わせて 作 中 人 物 の 声 は よりその 作 中 人 物 らしい 声 として 読 者 の 意 識 の 中 で 再 生 されるとした 加 えて 補 助 記 号 によっても 心 中 を 表 現 しつつ 作 中 人 物 と 語 り 手 の 声 は 変 化 させられており 有 川 の 作 品 は 声 に 富 んだ 作 品 だと 指 摘 した さらに 作 中 人 物 の 名 前 や 人 称 を 使 い 分 け 虚 構 の 語 り 手 や 人 称 を 強 調 することで 読 者 は 作 中 人 物 の 声 を 感 じながらも 客 観 的 に 作 中 人 物 をみてとれることになり 作 品 世 界 を 傍 観 する 作 用 が 強 まっていることを 明 らかにした こうした 構 造 が 読 者 の 意 識 の 内 で 作 中 人 物 の 声 を 強 く 感 じさせること に 繋 がり 語 り 手 の 声 と 作 中 人 物 の 声 の 差 を 色 濃 く 示 していたのである 第 三 章 では 焦 点 人 物 がいない 場 面 と 焦 点 化 の 判 断 が 困 難 な 場 面 の 声 焦 点 人 物 がいる 場 面 の 曖 昧 な 言 葉 について 考 察 した 図 書 館 戦 争 シリーズでは 有 川 の 表 現 の 自 由 を 侵 すこと や 検 閲 に 対 する 主 張 が 語 り 手 の 存 在 を 強 く 感 じさせるもの そ してそれを 誰 の 感 情 感 覚 から 言 われた 意 見 であるか 断 定 できなくさせるものに 現 れてい るとした また 焦 点 人 物 のいる 場 面 が 大 部 分 の 有 川 の 作 品 は 基 本 的 には 読 者 に 焦 点 人 物 をみとめさせたうえで 他 者 の 言 葉 や 作 者 の 言 葉 を 挿 入 しており 読 者 に 自 然 と 図 書 館 の 自 由 を 守 る ということを 伝 えていると 指 摘 した 有 川 は 読 者 に 作 中 人 物 たちのダイレクトな 声 を 感 じさせつつ 作 中 人 物 とある 程 度 距 離 を 取 らせ 一 人 一 人 を 公 平 に 観 察 する 感 覚 を 与 えていた 描 き 出 す 作 中 人 物 たち の 声 とあらゆる 人 間 関 係 の 行 く 末 に 注 目 させ 読 者 に 物 語 を 読 み 進 めさせることで そこに 潜 ませた 作 者 の 声 の 可 能 性 もある 図 書 館 の 自 由 を 守 る 声 検 閲 に 断 固 とし て 反 対 する 声 をも 巧 みに 伝 えていたのである 27