外 商 投 資 企 業 の 資 本 金 に 関 する 外 貨 規 制 屠 錦 寧 ( 中 国 律 師 ) 中 国 では 外 資 による 中 国 の 不 動 産 や 株 式 などの 市 場 への 参 入 が 厳 格 な 管 理 や 制 限 を 受 けている そのため 海 外 の 投 機 的 資 金 がこれらの 規 制 を 回 避 しようと 通 常 の 外 商 投 資 企 業 の 資 本 金 を 装 うことは 実 務 上 しばしばみられるところである 中 国 政 府 は 金 融 市 場 の 安 定 確 保 を 図 るため 外 商 投 資 企 業 の 資 本 金 の 使 用 特 に 外 貨 資 本 金 の 人 民 元 への 換 金 ( 以 下 という )への 監 督 管 理 を 強 化 する 傾 向 がある 1. により 取 得 した 人 民 元 の 用 途 制 限 外 商 投 資 企 業 は 外 貨 資 本 金 の により 取 得 した 人 民 元 について 許 認 可 された 経 営 範 囲 内 で 使 用 するとされている 1 不 動 産 の 開 発 経 営 や 中 国 での 持 分 投 資 などを 除 く 一 般 事 業 に 従 事 する 外 商 投 資 企 業 は により 取 得 した 人 民 元 をもって 1 自 社 用 以 外 の 中 国 不 動 産 を 購 入 し またはその 購 入 に 係 る 関 連 費 用 を 支 払 うこと 2 直 接 人 民 元 A 株 に 投 資 すること 3 国 内 企 業 の 持 分 投 資 を 行 うこと 4 銀 行 を 介 して 他 の 企 業 に 貸 し 付 け 他 社 からの 借 入 ( 第 三 者 立 替 金 を 含 む ) 他 社 に 転 貸 した 銀 行 ローンを 返 済 することは いずれも 認 められていない 2 外 国 外 国 出 資 者 による 出 資 中 国 現 地 法 人 外 貨 資 本 金 口 座 他 企 業 への 出 資 貸 付 経 営 範 囲 内 の 正 常 支 出 不 動 産 株 式 市 場 など 1 国 家 外 貨 管 理 局 が 2008 年 8 月 29 日 に 公 布 した 外 商 投 資 企 業 の 外 貨 資 本 金 の 支 払 管 理 に 係 る 業 務 オペレーションの 問 題 の 改 善 に 関 する 通 知 ( 以 下 2008 年 142 号 令 と いう )の 第 三 条 2 2008 年 142 号 令 の 第 三 条 国 家 外 貨 管 理 局 が 2011 年 11 月 9 日 に 公 布 した 一 部 の 資 本 項 目 外 貨 業 務 管 理 に 係 る 問 題 の 更 なる 明 確 化 および 規 範 化 に 関 する 通 知 ( 以 下 2011 年 45 号 令 という )の 第 一 条
外 商 投 資 企 業 は 経 営 範 囲 内 で 保 証 金 を 支 払 う 場 面 があるが 資 本 金 口 座 から 各 種 の 保 証 金 を 支 払 う 際 に 保 証 先 が 所 在 地 の 外 貨 管 理 局 で 開 設 した 保 証 金 専 用 外 貨 口 座 に 外 貨 のまま 振 り 込 むこととなる 保 証 金 を 払 うための 資 本 金 の や 保 証 先 の 保 証 金 専 用 外 貨 口 座 内 の 資 金 の は いずれも 認 められていない 3 工 場 やオフィスを 借 り る 場 合 の 前 払 金 手 付 金 などが 保 証 金 に 該 当 するかどうかについて 銀 行 実 務 では か かる 金 員 が 一 定 の 条 件 の 下 で 支 払 側 に 戻 されるという 契 約 内 容 であれば 名 義 を 問 わず 保 証 金 として 取 り 扱 うと 解 釈 されることもある 2. 時 の 提 出 書 類 外 商 投 資 企 業 は 経 営 範 囲 内 で 支 払 のニーズが 発 生 する 都 度 銀 行 に 対 して 資 本 金 の 処 理 を 申 請 することになる その 際 に 次 の 書 類 を 銀 行 に 提 出 する 必 要 がある 番 号 書 類 名 説 明 1 外 貨 登 記 IC カード 2 支 払 依 頼 書 外 商 投 資 企 業 が 銀 行 宛 に 発 行 する 資 本 金 の 対 外 支 払 の 依 頼 書 のこと 当 該 書 類 には 金 額 支 払 金 額 受 取 人 の 名 称 振 込 先 の 銀 行 名 口 座 番 号 および 資 金 用 途 を 明 記 3 資 金 用 途 証 明 書 商 業 契 約 または 受 取 人 が 発 行 した 請 求 書 を 含 む 請 求 書 には 契 約 の 主 要 条 件 金 額 受 取 人 の 名 称 振 込 先 口 座 番 号 および 資 金 用 途 を 明 記 4 出 資 払 込 検 査 報 告 会 計 士 事 務 所 が 発 行 する 直 近 のもの 5 6 7 前 回 の 資 金 の 支 払 証 憑 使 用 状 況 明 細 領 収 書 などの 証 憑 ( 原 本 4 ) 領 収 書 の 真 偽 確 認 書 類 銀 行 が 必 要 とする その 他 の 補 充 資 料 前 回 の 資 金 の 使 用 明 細 は 外 商 投 資 企 業 が 銀 行 宛 に 発 行 する 資 本 金 の 実 際 の 支 払 についての 説 明 書 類 のこ と 当 該 書 類 には 前 回 の 金 額 実 際 に 支 払 った 金 額 受 取 人 の 名 称 振 込 先 の 銀 行 名 口 座 番 号 および 資 金 用 途 を 明 記 税 務 部 門 のオンライン 確 認 システムで 真 偽 の 確 認 がで きる 場 合 は オンライン 真 偽 確 認 結 果 の 印 刷 書 面 ;オン ラインで 確 認 できない 場 合 は 税 務 部 門 が 個 別 に 発 行 す る 真 偽 鑑 別 証 明 を 提 出 することが 必 要 銀 行 は 資 金 用 途 の 合 法 性 真 実 性 資 料 間 の 一 致 性 を 確 認 する 観 点 から 外 商 投 資 3 2011 年 45 号 令 の 第 一 条 ( 四 ) 4 2008 年 142 号 令 の 第 四 条 では 前 回 の 資 金 の 使 用 について 領 収 書 などの 証 憑 のコ ピーを 提 出 すれば 足 りるが 国 家 外 貨 管 理 局 が 2011 年 7 月 18 日 に 公 布 した 外 商 投 資 企 業 の 外 貨 資 本 金 の 支 払 管 理 に 係 る 業 務 オペレーションの 問 題 の 改 善 に 関 する 補 充 通 知 ( 以 下 2011 年 88 号 令 という )の 第 一 条 では 係 る 証 憑 のコピーではなく 原 本 を 提 出 する 必 要 があるとされている
企 業 が 提 出 した 申 請 書 類 を 審 査 照 合 する 資 料 間 の 不 一 致 や 矛 盾 がないと 判 断 し た 場 合 は 係 る 対 外 支 払 処 理 を 行 う その 後 銀 行 は 資 本 金 の 状 況 につい て 外 貨 管 理 局 に 届 け 出 ることになる 実 務 では 資 本 金 の 資 金 用 途 にかかる 証 明 書 類 の 提 出 が 困 難 な 場 面 もある その 場 合 銀 行 は 企 業 の 申 請 書 類 企 業 による 支 払 の 真 実 性 などに 関 する 誓 約 書 および 銀 行 の 意 見 書 をまとめたうえ 外 貨 管 理 局 に 事 前 届 出 を 行 い 後 者 からの 届 出 受 領 通 知 を 取 得 した 後 に 処 理 を 行 うとされている 3. 手 元 準 備 金 の 例 外 的 な 扱 い 外 商 投 資 企 業 は 日 常 的 な 小 額 の 経 費 ( 以 下 手 元 準 備 金 という)のために 資 本 金 の を 行 うことができる 手 元 準 備 金 の は 資 金 用 途 証 明 書 前 回 の 資 金 の 支 払 証 憑 使 用 状 況 明 細 領 収 書 などの 証 憑 領 収 書 の 真 偽 確 認 書 類 の 提 出 が 免 除 され る 5 受 取 人 への 支 払 は 通 常 当 日 ( 外 商 投 資 企 業 の 資 本 金 口 座 と 人 民 元 口 座 が 同 じ 銀 行 で 開 設 されている 場 合 )またはその 2 日 以 内 に( 資 本 金 口 座 と 人 民 元 口 座 が 異 なる 銀 行 で 開 設 されている 場 合 ) 行 う 必 要 がある これに 対 して 手 元 準 備 金 は 当 該 規 制 を 受 けず により 取 得 した 人 民 元 を 外 商 投 資 企 業 の 人 民 元 口 座 に 留 保 することができ る 外 商 投 資 企 業 は 上 記 例 外 を 利 用 して 外 貨 資 本 金 を 手 元 準 備 金 という 名 義 で 小 額 ず つ し その 後 に 経 営 範 囲 以 外 の 目 的 で 利 用 することが 実 務 上 少 なくない 国 家 外 貨 管 理 総 局 はこれを 防 ぐために 手 元 準 備 金 の について 1 回 につき 5 万 米 ドル 相 当 額 以 下 月 に 10 万 米 ドル 相 当 額 以 内 という 制 限 を 設 けた 6 4. 支 払 後 の 返 品 取 引 の 取 消 インボイスの 廃 棄 実 務 では 資 本 金 の 用 途 制 限 および 書 類 管 理 を 回 避 するために 資 本 金 の 支 払 後 に 返 品 や 取 引 の 取 消 を 行 い 取 引 相 手 から 取 り 戻 した 人 民 元 を 他 の 用 途 に 利 用 す ることもある これを 阻 止 するために 国 家 外 貨 管 理 局 は 企 業 が 上 記 の 状 況 が 発 生 し てから 5 営 業 日 以 内 に を 行 った 銀 行 に 報 告 し 銀 行 が 所 在 地 の 外 貨 管 理 局 に 月 ベースで 報 告 すると 定 めている 7 5. 規 制 違 反 の 法 的 リスク 外 商 投 資 企 業 が 虚 偽 の 領 収 書 をもって し または により 取 得 した 人 民 元 の 用 途 を 勝 手 に 変 更 したなどの 場 合 外 貨 管 理 局 より 行 政 処 罰 ( 警 告 違 法 所 得 の 没 収 過 料 )を 課 せられ 情 状 が 重 大 な 場 合 は 刑 事 罰 まで 処 される 可 能 性 がある そのほか 外 貨 管 理 局 では 資 本 金 規 定 違 反 のブラックリスト 制 度 も 確 立 されており リストア ップされた 企 業 は その 後 の 資 本 金 がより 重 点 的 に 外 貨 管 理 局 の 検 査 を 受 けること になる 5 2008 年 142 号 令 第 四 条 2 項 6 2011 年 88 号 令 第 十 一 条 7 2011 年 88 号 令 第 五 条
6. 人 民 元 直 接 投 資 が 抜 け 道 になるか 中 国 では 海 外 で 保 有 する 人 民 元 による 対 中 直 接 投 資 ( 以 下 人 民 元 直 接 投 資 とい う )が 2011 年 末 に 正 式 解 禁 となった 人 民 元 直 接 投 資 の 場 合 外 国 出 資 者 から 出 資 金 を 人 民 元 で 投 資 先 の 資 本 金 口 座 に 振 り 込 むため 投 資 先 では 手 続 を 行 う 必 要 はな く その 使 用 について 外 貨 管 理 局 の 許 認 可 を 取 得 する 必 要 もない しかし 中 国 の 銀 行 は 海 外 人 民 元 資 本 金 の 使 用 について 真 実 性 合 法 性 の 審 査 を 行 い 用 途 が 制 限 される と 認 められた 場 合 は 人 民 元 資 金 の 引 き 出 し 対 外 支 払 ができない 海 外 人 民 元 資 本 金 の 用 途 制 限 については 国 家 の 関 係 部 門 が 許 可 した 経 営 範 囲 内 に 使 用 するとし 1 有 価 証 券 および 金 融 派 生 商 品 への 投 資 2 委 託 貸 付 3 資 産 運 用 商 品 4 自 社 用 以 外 の 不 動 産 または5 中 国 国 内 の 再 投 資 に 使 用 してはならない とされている 8 この 制 限 は 外 貨 資 本 金 の 用 途 制 限 と 大 きく 違 うものではない 海 外 人 民 元 資 本 金 の 引 き 出 し または 対 外 支 払 にあたり どのような 資 料 を 銀 行 に 提 出 するのかについて は 明 文 の 規 定 が 公 布 されていない 実 務 では 銀 行 に 個 別 確 認 する 必 要 があるが 銀 行 が 外 貨 資 本 金 の を 参 照 して 必 要 書 類 を 求 める 可 能 性 も 十 分 ある 以 上 のことか ら 人 民 元 直 接 投 資 を 利 用 して 外 貨 資 本 金 の 規 制 を 回 避 することは 難 しいと 思 われ る [キーワード: 外 商 投 資 企 業 資 本 金 用 途 制 限 人 民 元 直 接 投 資 ] 8 中 国 人 民 銀 行 による 外 商 直 接 投 資 人 民 元 決 済 業 務 操 作 細 則 の 明 確 化 に 関 する 通 知 ( 銀 発 [2012]165 号 ) 第 十 六 条
屠 錦 寧 (Tu Jinning) 中 国 律 師 ( 中 国 弁 護 士 ) 1978 年 生 まれ アンダーソン 毛 利 友 常 法 律 事 務 所 所 属 京 都 大 学 大 学 院 法 学 博 士 一 般 企 業 法 務 のほか 外 国 企 業 の 対 中 直 接 投 資 M&A( 企 業 の 合 併 買 収 ) 知 的 財 産 中 国 国 内 企 業 の 海 外 での 株 式 上 場 など 中 国 業 務 全 般 を 扱 う 中 国 ビジネスに 関 する 著 述 講 演 も 付 記 論 考 の 中 で 表 明 された 意 見 等 は 執 筆 者 の 個 人 的 見 解 であり 科 学 技 術 振 興 機 構 及 び 執 筆 者 が 所 属 する 団 体 の 見 解 ではありません