研 究 論 文 韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 男 性 中 心 的 な 軍 隊 規 範 への 順 応 に 注 目 して 兪 炳 完 佐 藤 文 香 グローバルな 軍 隊 のジェンダー 主 流 化 に 呼 応 して, 欧 米 を 中 心 に 近 年, 女 性 の 軍 隊 統 合 にかんする 社 会 学 的 研 究 の 蓄 積 がすすめられてきた だがアジア 諸 国 の 軍 隊 研 究 はそこか ら 取 りこぼされている 本 稿 では, 男 子 徴 兵 制 を 有 する 韓 国 における 女 性 軍 人 の 経 験 を 通 して, 彼 女 たちが 男 性 中 心 的 な 軍 隊 規 範 に 順 応 していく 過 程 を 考 察 する 平 和 = 強 い 国 家 = 強 い 軍 隊 の 等 式 が 浸 透 している 韓 国 で, 女 性 が 軍 人 になることはス ティグマというよりもプライドを 生 む 少 数 派 であることに 由 来 する 周 囲 の 関 心 と 高 い 評 価, 徴 兵 ではなく 志 願 して 任 務 に 就 いているという 自 負 が, 彼 女 たちのプライドを 形 成 す る 重 要 な 要 因 となっている 一 方, 少 数 派 であることは 過 度 に 注 目 されることにもつながり, 軍 隊 の 男 性 中 心 的 な 文 化 とあいまって, 女 性 軍 人 がさまざまな 困 難 を 経 験 する 要 因 ともなっている 男 性 軍 人 と の 絆 の 形 成,セクシュアル ハラスメント, 妊 娠 育 児 をめぐる 困 難 など, 彼 女 たちは 個 人 では 解 決 しがたいさまざまな 問 題 に 日 常 的 に 対 処 することを 迫 られていた このような 中, 女 性 軍 人 は 軍 隊 に 解 決 と 改 善 を 求 める 代 わりに,より 本 当 の 軍 人,より 厳 格 な 軍 人 になろうと 努 力 していた すなわち, 軍 事 化 されたプライドの 獲 得 と 日 々の 困 難 への 対 処 の 過 程 を 通 じ, 女 性 軍 人 は 軍 隊 に 変 化 を 求 める 女 性 が 軍 隊 を 変 える よ りも, 男 性 中 心 的 な 軍 隊 の 規 範 へと 順 応 していく 軍 隊 が 女 性 を 変 える のである キーワード: 女 性 軍 人, 軍 隊, 軍 事 化,ジェンダー, 韓 国 49
国 際 ジェンダー 学 会 誌 Vol. 9(2011) はじめに 今 日,ジェンダー 主 流 化 の 潮 流 は 軍 隊 にも 波 及 してグローバルに 女 性 兵 士 を 増 大 させている 欧 米 諸 国 では 1970 年 代 以 降, 女 性 たちの 軍 隊 参 入 が 人 々の 関 心 をひきはじめ,その 是 非 をめぐってはフェミニストたちの 間 で 激 しい 議 論 も 巻 き おこった( 佐 藤 2004) 1980 年 代 には, 軍 隊 の 女 性 について 各 国 の 歴 史 と 現 状 をレポートしたアンソロジーも 編 まれた 本 格 的 な 軍 隊 の 女 性 の 社 会 学 的 研 究 が 開 始 された 1990 年 代 以 降, 英 語 圏 では 手 堅 く 魅 力 的 な 研 究 が 続 々と 生 み 出 され てきたのに 対 し, 残 念 ながらアジア 諸 国 の 研 究 はいまだ 手 薄 な 状 況 にある 筆 者 のひとりである 佐 藤 (2004)は, 軍 隊 経 験 の 有 無 によって 国 民 を 序 列 化 する 近 代 国 民 国 家 の 原 理 を 絶 たれた 戦 後 の 日 本 における 女 性 自 衛 官 の 経 験 にアプローチし たが, 本 稿 で 兪 が 調 査 を 行 ったのは 軍 隊 経 験 の 有 無 と 一 流 国 民 であることとの 等 式 がいまなおきわめて 強 固 な 韓 国 における 女 性 軍 人 (1) である 韓 国 女 性 軍 人 の 起 源 は 1950 年 に 勃 発 した 朝 鮮 戦 争 に 遡 る 正 規 軍 ではなく 義 勇 軍 としての 参 加 から, 休 戦 を 迎 え 曖 昧 な 立 場 におかれ, 以 後, 彼 女 たちは 排 除 の 危 機 を 乗 りこえながらも,1980 年 代 までは, 質 的 には 行 政 補 助 的 任 務, 量 的 には 休 戦 による 激 減 のままのレベルにとどまり 続 けてきた しかし,1985 年 の 国 連 女 性 差 別 撤 廃 条 約 の 批 准, 女 性 の 公 的 領 域 への 進 出 を 主 張 するフェミニズム 運 動,さらには 大 統 領 の 意 向 (2) など, 軍 隊 外 からのプレッシャーにより,1990 年 代 以 降 その 数 は 増 大 をみせている (3) (ジュ 2000:60-66) 終 戦 ではなく 休 戦 状 況 の 中 で 高 度 な 軍 事 主 義 を 維 持 し 続 けている 韓 国 の 特 殊 事 情 は, 軍 事 化 の 作 用 を 検 討 する 上 では 利 点 となるだろう 本 稿 は, 女 性 軍 人 のプ ライドと 困 難 を 切 り 口 として 彼 女 たちの 軍 事 化 された 経 験 にせまりたい なぜ 軍 隊 内 部 の 女 性 に 注 目 するのか? 筆 者 らは, 軍 隊 の 女 性 比 率 の 増 大 がただちに 軍 隊 の 男 性 中 心 性 を 変 える,ひいては 社 会 の 脱 軍 事 化 を 導 くとは 考 えない しかし, 何 らの 変 化 ももたらさないと 決 めてかかる 前 に, 彼 女 たちの 経 験 を 丁 寧 にみてい くなかで 軍 事 化 の 複 雑 なプロセスをみさだめることこそ, 軍 隊 の 男 性 中 心 性 と 軍 事 主 義 解 体 への 道 につながる 第 一 歩 であると 考 えている Cynthia Enloe が 言 う ように, 軍 隊 の 女 性 を 研 究 することには 常 に 研 究 者 自 身 の 軍 事 化 というリスクを 伴 うが, 軍 隊 の 適 応 力 とその 限 界 を 明 らかにするには,このリスクを 避 ける 努 力 をしつつ 研 究 を 行 う 価 値 がある(Enloe 2007:82-83) 韓 国 女 性 軍 人 は 軍 隊 経 験 を 通 じて,どのようなプライドを 獲 得 し,どのような 困 難 に 直 面 しているのか そして, 彼 女 たちは 男 性 中 心 的 な 軍 隊 規 範 にどのよう に 順 応 していくことになるのか 女 性 が 軍 隊 を 変 えるのか 軍 隊 が 女 性 を 変 え るのか というフェミニストの 問 いに 対 し, 今 なお 男 子 徴 兵 制 を 抱 える 韓 国 のケ 50
韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 ース スタディを 通 じて 答 えを 出 すことが 本 稿 の 課 題 となるだろう (4) なお, 以 下 では 韓 国 国 防 部 の 公 式 資 料 および 韓 国 国 防 研 究 院 の 報 告 資 料 のほか, 兪 (2011)が 2009 年 から 10 年 にかけて 行 ったインタビューより, 下 表 に 掲 げた 女 性 軍 人 9 名 のデータを 利 用 する 対 象 者 は 将 校 階 級 に 限 定 し,インタビューし た 対 象 者 から 次 の 対 象 者 を 紹 介 してもらうスノーボール 方 式 を 採 用 した (5) 後 述 するように, 女 性 軍 人 の 属 する 階 級 は 将 校 と 副 士 官 であるが, 女 性 軍 人 のプライ ドと 困 難 に 注 目 するという 本 稿 の 目 的 に 鑑 み, 部 隊 を 管 理 指 揮 し, 男 性 兵 士 に 対 してもリーダシップを 発 揮 する 必 要 のある 将 校 階 級 のみを 対 象 とした 表 インタビュー 対 象 者 年 2009 年 面 接 女 性 服 務 結 婚 女 性 服 務 結 婚 階 級 年 階 級 軍 人 機 関 ( 子 ども 数 ) 軍 人 機 関 ( 子 ども 数 ) A 大 尉 5 年 未 婚 F(2 回 目 ) 元 大 尉 7 年 既 婚 (2) B 大 尉 8 年 既 婚 (2) G(2 回 目 ) 元 中 尉 3 年 未 婚 C 大 尉 8 年 既 婚 (1) 2010 年 H 大 尉 8 年 既 婚 (1) D 大 尉 6 年 既 婚 (1) 面 接 I 大 尉 8 年 未 婚 E 大 尉 6 年 既 婚 (1) J 中 尉 2 年 未 婚 F 元 大 尉 7 年 既 婚 (2) K 大 尉 7 年 未 婚 G 元 中 尉 3 年 未 婚 1. 韓 国 社 会 における 軍 隊 経 験 韓 国 社 会 において 徴 兵 制 は 不 可 欠 な 制 度 とみなされている クォンインスクは, 徴 兵 制 廃 止 や 徴 兵 制 に 関 する 問 題 提 起 があまりないことを 韓 国 の 特 徴 としてあげ ている(クォン 2005) 韓 国 で 徴 兵 制 が 確 固 たる 地 位 を 占 めている 理 由 は, 韓 国 の 歴 史 的 背 景 を 通 じて 説 明 される(Moon 1998) 日 本 による 植 民 地 化 と 戦 争 へ の 動 員,アメリカとソ 連 という 強 大 国 による 南 北 の 分 断,そして 米 ソの 代 理 戦 争 的 性 格 を 持 つ 朝 鮮 戦 争 は, 平 和 は 強 い 国 でなければ 維 持 できない という 観 念 を 韓 国 社 会 に 深 く 浸 透 させることになった ここでは, 平 和 = 強 い 国 家 = 強 い 軍 隊 が 一 般 化 され, 個 人 は 国 家 に 従 属 することに 疑 問 を 持 たず, 徴 兵 制 も 疑 問 視 されない 強 い 国 家 主 義 的 な 信 念 は 軍 隊 での 服 務 を 神 聖 な 義 務 として 認 識 させ る 人 々にとって, 軍 人 は 市 民 に 暴 力 を 振 るう 脅 威 でなく, 安 全 と 平 和 のために 必 要 な 存 在 となる 一 方, 兵 役 は 女 性 への 差 別 を 正 当 化 する 機 能 を 果 たしてきた 1980 年 代 以 降, 兵 役 忌 避 者 に 雇 用 を 禁 ずるといった 対 策 や, 北 朝 鮮 との 緊 張 関 係 により, 兵 役 を 男 性 の 義 務 とみなす 見 解 が 支 配 的 になっていく(Moon 2005=2007:83-86) こ こで, 軍 隊 経 験 は 少 年 を 大 人 にする 通 過 儀 礼 として, 大 きな 意 味 を 持 つよう 51
国 際 ジェンダー 学 会 誌 Vol. 9(2011) になる 人 々は 軍 隊 がつくり 出 す 男 性 像 を 本 当 の 男 性 の 姿 と 考 え,この 男 性 の 姿 を 真 の 韓 国 国 民 の 姿 だと 捉 えるようになった(キム 2002) クォンオブ ンが 大 学 の 学 生 代 表 選 挙 や 飲 み 会 などの 場 面 で 明 らかにしたように, 男 性 が 軍 隊 での 経 験 によって 分 別 ある 存 在 とみなされ, 発 言 権 を 獲 得 する 一 方, 軍 隊 経 験 の ない 女 性 は 保 護 を 要 する, 真 の 大 人 たり 得 ない 存 在 として 発 言 権 を 弱 めた(ク ォン 2000) 軍 隊 経 験 で 国 民 を 序 列 化 するこうした 韓 国 の 文 脈 が, 経 済 的 動 機 や 冒 険 心 とは 別 に, 女 性 たちが 軍 隊 の 扉 を 叩 く 動 機 をうみだしている 2. 韓 国 女 性 軍 人 の 現 状 韓 国 軍 では 階 級 は 大 きく 3 つに 分 けられる 図 1に 韓 国 軍 の 階 級 と 将 校 へのル ートを 示 したが, 階 級 は 徴 兵 される 男 性 の 兵 士 ( 兵 隊 ) 階 級, 将 校 を 補 助 し 兵 士 を 管 理 統 率 する 副 士 官 ( 下 士 官 ) 階 級,そして, 兵 士 と 副 士 官 を 統 率 する 将 校 ( 士 官 ) 階 級 に 分 類 できる 女 性 は 志 願 によって 軍 人 になるため, 兵 士 階 級 以 外 の 副 士 官 と 将 校 のみを 占 める 本 研 究 が 対 象 とする 女 性 将 校 へのルートには, 士 官 学 校 ( 士 官 生 徒 ), 士 官 候 補 生, 幹 部 士 官,そして 学 軍 団 (ROTC)の 4 通 りがあり, 陸 軍 第 3 士 官 学 校 を 出 所 )キム シン 2003:16-19 より 作 成 図 1 韓 国 軍 の 階 級 と 将 校 へのルート 52
韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 経 るルートのみが 女 性 に 閉 じられている(キム シン 2003:19) 副 士 官 階 級 から 将 校 階 級 になる 少 数 の 幹 部 士 官 (6) と 女 性 に 開 放 されたばかりの 学 軍 団 (ROTC)を 除 き, 多 くの 女 性 たちは 士 官 学 校 と 士 官 候 補 生 を 経 て 軍 人 と なっている 女 性 の 士 官 候 補 生 は 女 軍 士 官 と 呼 ばれ, 朝 鮮 戦 争 中 の 1950 年 以 来 の 一 番 長 い 歴 史 を 持 つ 士 官 学 校 は 軍 隊 のエリート 養 成 機 関 であり, 女 性 の 入 学 は 空 軍 1997 年, 陸 軍 98 年, 海 軍 99 年 以 降, 入 学 人 数 は 各 軍 15 から 25 人 程 度 で 定 員 のおよそ 10%の 割 合 である 安 定 的 な 職 業 だと 思 われている 軍 人 であるが, 実 際 には 軍 隊 にとどまることの できる 期 間 はかぎられている 義 務 づけられる 服 務 期 間 は 図 1のようにコースご とに 定 められており,この 期 間 に 男 女 差 はない 義 務 となる 期 間 を 超 えて 服 務 す ることも 可 能 であるが, 士 官 学 校 出 身 者 以 外 は 長 期 服 務 を 申 請 する 必 要 があり, たとえば, 士 官 候 補 生 の 場 合,これが 認 められれば 10 年,そうでなければ 軍 隊 に 残 れるのは 最 長 で 7 年 となる また, 年 金 がもらえる 20 年 以 上 の 服 務 には 少 佐 に 該 当 する 少 領 への 昇 進 が 必 要 であり,その 見 込 みがない 場 合 は 義 務 期 間 を 終 えて 除 隊 する 傾 向 が 強 い 女 性 軍 人 の 数 は 増 えてはいるが 依 然 として 少 数 である 2010 年 の 国 防 白 書 によると,その 数 は 現 在, 将 校 3,050 人, 副 士 官 3,153 人 の 計 6,203 人 である 将 校 と 副 士 官 を 含 めた 幹 部 定 員 の 約 3.5%が 女 性 軍 人 であるが, 兵 士 まで 含 めて 考 えるとその 比 率 は 1%にも 満 たない 2006 年 の 男 女 別 の 階 級 比 率 を 示 した 図 2 を 見 ると, 少 領 以 上 の 階 級 が 男 性 軍 人 では 30%を 占 めるのに 対 し, 女 性 軍 人 で は 約 10%と, 低 い 階 級 に 集 中 していることがわかる 注 ) 准 尉 は 将 校 階 級 に 属 するが, 副 士 官 の 昇 進 可 能 な 最 高 位 階 級 である 出 所 )シンほか 編 2006:74-75 より 作 成 図 2 男 女 別 の 階 級 比 率 低 い 階 級 への 集 中 だけではない 各 軍 人 は 専 門 分 野 である 兵 科 を 持 つが, 女 性 軍 人 は 一 定 の 非 戦 闘 兵 科 に 集 中 する 傾 向 がある 2006 年 の 陸 軍 女 性 軍 人 将 校 の 53
国 際 ジェンダー 学 会 誌 Vol. 9(2011) 割 合 をみると,たとえば 戦 闘 兵 科 の 歩 兵 に 占 める 女 性 比 率 は 0.9%にすぎない 陸 軍 女 性 将 校 比 率 3.3%を 基 準 に 考 えると,これを 上 回 る 女 性 比 率 は 副 官 経 理 政 訓 医 政 などで, 行 政 補 助 的 な 兵 科 に 女 性 が 集 中 していることがわか る (7) (ムンほか 2006:52) 3. 軍 隊 の 中 の 女 性 の 経 験 - 少 数 派 という 立 場 女 性 軍 人 が 少 数 派 であるということは 2 つの 意 味 を 持 つ ひとつは 全 体 の 数 が 少 ないということ,もうひとつは 高 い 階 級 に 位 置 する 女 性 が 少 ないということで ある 先 述 の 通 り, 徴 集 兵 を 考 慮 すれば, 女 性 軍 人 の 割 合 は 1%に 満 たない 部 隊 には 数 多 くの 男 性 兵 士 が 存 在 し, 女 性 軍 人 は 部 隊 に 所 属 して 初 めて 自 分 たちが 圧 倒 的 少 数 派 であることを 実 感 することになる (8) このような 構 造 の 中, 女 性 軍 人 は 当 然 にも 男 性 軍 人 とは 異 なる 経 験 を 有 する 以 下 ではその 経 験 を, 女 性 軍 人 としてのプライドと 困 難 として 記 述 してみよう (1) 女 性 軍 人 としてのプライド 職 業 として 軍 人 を 選 択 した 女 性 たちは, 男 性 とは 違 ったプライドを 持 つように なる まず, 韓 国 軍 が 女 性 の 募 集 人 員 を 限 定 しているため, 女 性 たちは 激 しい 競 争 により 選 抜 される (9) この 高 い 競 争 率 を 勝 ち 抜 いた 女 性 軍 人 は, 軍 隊 に 入 れた こと 自 体 に 自 負 の 念 を 抱 く 軍 隊 での 少 数 派 という 立 場 も, 彼 女 たちのプライドを 支 える 女 性 軍 人 は 韓 国 トークン 軍 の 先 進 性 を 示 す 象 徴 であるが, 同 時 に 彼 女 たちの 認 知 度 が 高 いことも 意 味 して おり,このことが 女 性 軍 人 に 自 負 心 を 持 たせる 効 果 を 持 っているのだ 女 性 軍 人 の 赴 任 は 男 性 軍 人 よりも 関 心 を 持 たれ(I 将 校 ), 部 隊 の 上 層 階 級 の 人 々にも 顔 を 覚 えられやすい(G 将 校 ) 軍 隊 の 中 だけでなく, 軍 隊 の 外 でも 女 性 軍 人 の 評 価 は 高 い 男 性 大 尉 より 女 性 大 尉 を 偉 くみてくれる (I 将 校 )と 言 うように, 同 じ 軍 人 で 同 じ 階 級 である 場 合, 女 性 軍 人 が 希 少 であるためにさらなる 付 加 価 値 がつくのである 士 官 学 校 の 制 服 を 着 ている 女 子 生 徒 をあまりみたことないから, 電 車 やバス に 乗 るとみんな 珍 しそうにみていて こんな 経 験 もありますよ 市 場 に 行 った んですが, 私 が 制 服 姿 で 入 ったら, 道 が 開 いていく ははは (D 将 校 ) D 将 校 の 経 験 は 少 尉 として 赴 任 する 前 の 士 官 学 校 時 代 のものであるが, 道 が 開 く 体 験 は 軍 人 としてのプライドを 形 成 したに 違 いない 軍 隊 が 平 和 を 維 持 し 54
韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 てくれるありがたい 存 在 とみされる 韓 国 では, 軍 隊 外 でのこうした 経 験 が 女 性 軍 人 のプライドを 培 っていくことになる さらに, 男 性 のように 徴 兵 義 務 がない 点 も 重 要 である 女 性 軍 人 は 男 性 軍 人 と 違 って 自 ら 志 願 して 軍 隊 に 入 るため, 男 性 とは 違 う 心 構 えを 持 つ 傾 向 にある リ ュウヨンスクが 指 摘 しているように, 男 性 軍 人 の 場 合, 軍 人 になることが 義 務 と しての 意 味 を 多 く 持 つのに 対 し, 女 性 の 場 合,それは 個 人 の 目 標 や 職 業 としての 選 択 を 意 味 する(リュウ 2002:41-44) この 差 によって, 女 性 軍 人 は 軍 人 とし ての 使 命 感 やプライドを 男 性 よりも 多 く 持 つことになるのである こうしたプライドに 起 因 する 現 象 が 2 つある ひとつは 座 学 に 臨 む 男 性 軍 人 と 女 性 軍 人 の 態 度 の 差 である 男 性 軍 人 が 座 学 の 時 間 を 適 当 に 過 ごそうとするのに 対 し, 女 性 軍 人 は, 授 業 に 集 中 し,よい 成 績 をとろうと 努 力 する 女 性 軍 人 の 語 りからは, 義 務 として 軍 隊 にきている ちゃんとやる 気 がない 男 性 と 対 比 する 形 でこうした 女 性 軍 人 の 自 負 が 示 された(H 将 校 ) もうひとつは, 女 性 軍 人 のプライドによって, 彼 女 たちが 軍 人 妻 のネットワー クから 距 離 をとろうとする 現 象 である 女 性 軍 人 は 男 性 軍 人 と 結 婚 することが 多 く,この 場 合, 軍 人 でありながら, 軍 人 の 妻 という 立 場 にもなる 昼 間 の 勤 務 が あることが 軍 人 妻 のネットワークに 参 加 できない 大 きな 理 由 ではあるが, 時 には あなたも 軍 人 妻 では? と 言 われることもあるという(C 将 校 ) だが, 女 性 軍 人 の 多 くはこれをあまり 気 にかけずに 生 活 している 女 性 軍 人 は 彼 女 たち 軍 人 妻 とは 一 線 を 画 することでプライドを 維 持 しようとするため, 軍 人 家 族 間 の 助 け 合 いを 確 保 するこのネットワークから 距 離 をおくのだ 結 果, 異 なる 立 場 から 軍 隊 を 支 える 女 性 たちは 出 会 う 機 会 を 逸 してしまうことになる (2) 少 数 派 としての 困 難 とその 対 策 女 性 軍 人 は 士 官 学 校 や 訓 練 所 といった 軍 人 養 成 機 関 では, 少 数 派 であることや, それに 伴 う 孤 立 感 をあまり 感 じていない その 理 由 は, 配 属 部 隊 での 女 性 比 率 1 % 未 満 という 立 場 と, 士 官 学 校 の 女 性 比 率 10%との 差 異 に 起 因 するだけではな い 同 期 の 女 性 と 一 緒 に 訓 練 や 生 活 をしているため, 同 じ 経 験 や 苦 労 を 味 わって いる 女 性 が 身 近 にいるし,それが 慰 めにもなるのだ 士 官 候 補 生 の 場 合 も 状 況 は 同 じである だが, 士 官 学 校 を 卒 業 してあるいは 訓 練 所 の 訓 練 を 終 えて 部 隊 に 配 属 されると, 教 育 機 関 での 経 験 とは 異 なる 孤 立 感 を 味 わう この 孤 立 感 は 圧 倒 的 な 少 数 派 とい う 点 に 由 来 することもあるが, 周 りが 男 性 だらけの 中 で 男 性 軍 人 との 絆 をどうや って 形 成 するかという 悩 みにもよる 女 性 軍 人 に 対 する 多 大 な 関 心 と 性 的 な 事 件 が 起 こるかもしれないという 懸 念 から, 女 性 軍 人 は 男 性 軍 人 と 親 しくなることに 55
国 際 ジェンダー 学 会 誌 Vol. 9(2011) 困 難 をおぼえるのだ また, 女 性 軍 人 は 軍 隊 の 男 性 中 心 的 な 文 化 に 起 因 する 困 難 を 訴 えている 軍 隊 において, 女 性 への 配 慮 は 期 待 できない とりわけ,セクシュアル ハラスメン ト 問 題 にかかわると, 問 題 視 されるのは 女 性 のほうになる 可 能 性 が 高 い 今 日 は 化 粧 がいいね とか, 唇 の 色 がきれいだな と 冗 談 のように 言 われた 時, 不 快 になって 周 囲 の 人 間 や 上 官 に 話 したところで, それぐらいで, 敏 感 になりす ぎじゃない? という 反 応 を 受 けやすいし, 会 食 の 場 で 問 題 が 起 きたとしても, 女 性 軍 人 のほうが なぜ 二 次 会 や 三 次 会 に 行 ったのか? と 責 められる(D 将 校 ) 加 えて,セクハラを 問 題 化 することは 自 分 が 軍 人 として 相 応 しくないことを 宣 言 するに 等 しい 行 為 であるため(Sasson-Levy 2003: 455), 女 性 軍 人 自 身 もこれを 問 題 化 しようとしない G 将 校 が 自 身 を 軍 隊 内 の 芸 能 人 スター であると 表 現 したほどの 注 目 を, 彼 女 たちは 日 々 浴 びている 一 般 の 職 場 であれば, 関 心 の 対 象 にならないような 些 細 なことも, 軍 隊 ではゴシップの 対 象 となる 化 粧 ひとつ 変 えたり, 外 出 する 時 の 服 も, 靴,ま 赤 い 靴 履 いたりしてもた だただうわさになりますよ ( 赤 いのを 履 くだけで? 兪 )ええ( 中 略 ) 誰 か とご 飯 食 べた, 誰 と 3 度 食 べた~ (3 度 食 べた? それでは, 数 えてるんで すか? 兪 ) それが,みていない, 気 にしていないふりをしながらも, 男 性 同 士 で 集 まると 女 性 軍 人 たちの 話 をしたり, 悪 口 を 言 ったり ( 中 略 )タレン トたち, 誰 と 誰 がつき 合 っているんだって, 結 婚 するんだって,みたいに, 女 性 軍 人 が 何 かすれば 話 題 になるらしいです (G 将 校 ) 彼 女 は 女 性 軍 人 の 歴 史 が 長 い 陸 軍 出 身 で, 軍 隊 での 任 務 も 行 政 職 という 女 性 の いちばん 多 い 職 場 にいるのだが,それでもなお 彼 女 の 行 動 のひとつひとつが 関 心 の 対 象 であり, 人 々の 目 をひいていると 言 う 空 軍 に 初 の 女 性 少 尉 として 赴 任 した F 将 校 もまた, 部 隊 に 配 属 されたときの 経 験 を 行 動 の 一 挙 一 動 が 監 視 されている ようで 非 常 にストレスフルだったと 語 った このことは, 女 性 軍 人 が 軍 隊 の 内 外 で 人 々の 関 心 を 引 いていることが 必 ずしもポジティブにのみはたらくわけではなく, 女 性 軍 人 の 軍 隊 生 活 を 困 難 にす るネガティブな 側 面 も 持 つのだということを 示 している 極 端 な 少 数 派 の 地 位 を 占 めることは, 女 性 軍 人 ひとりひとりがそのまま 女 性 軍 人 全 体 の 代 表 とみなされる 結 果 も 生 み 出 す ひとりの 女 性 軍 人 のイメージが 全 体 の 女 性 軍 人 のイメージをつくってしまうということを 女 性 軍 人 たちは 非 常 によく 理 解 している(B 将 校,I 将 校 ) だから, 男 性 軍 人 より, 言 動 にもっと 気 をつ 56
韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 けなければと 考 えるようになる その 結 果, 自 由 に 行 動 できなくなったり, 周 り を 意 識 するようになったりして, 自 分 らしさがなくなり, 気 の 小 さい 性 格 に なっていく(C 将 校 ) 一 方, 同 じミスを 男 性 軍 人 がしてもそれほど 問 題 視 され ることはない 市 販 の 軍 靴 があるでしょう ファスナーになっているもの ( 中 略 ) 軍 隊 か ら 補 給 されるものではない,とても 軽 くて 便 利 です 同 じ 軍 靴 ですよ 男 性 軍 人 と 女 性 軍 人 が 同 じように 履 いたとします 男 性 だったら こいつ, 市 販 の 軍 靴 履 いたのか?,これですむんですよ 女 性 が 履 いた そうしたら 全 体 に 広 がりますよ 分 別 がない 女 性 軍 人 みたか? って 市 販 の 軍 靴 を 履 いたんだ って と (G 将 校 ) 少 尉 という 階 級 は 将 校 の 中 でも 赴 任 して 1 年 にも 満 たない 新 参 者 である この 場 合, 不 便 であっても, 規 定 どおりの 行 動 や 服 装 をすることが 期 待 されている 少 尉 の 時 に 市 販 の 軍 靴 を 履 く 行 動 は, 男 性 軍 人 であれ 女 性 軍 人 であれ 非 難 の 対 象 となるが, 女 性 軍 人 が 履 いた 場 合 にはその 反 応 はもっと 激 しい 軍 隊 全 体 に 知 ら れ 分 別 がない といった 表 現 で 軍 人 としての 心 構 えを 疑 われ, 軍 人 としての 自 覚 がないと 罵 倒 されることになるのである 少 数 派 という 立 場 と 男 性 中 心 的 な 文 化 の 中 で 男 性 軍 人 とどういう 関 係 を 築 け ばよいのか, 部 隊 での 生 活 の 困 難 をどう 解 決 すればよいのか は 女 性 軍 人 にと って 切 実 な 問 題 である しかし,この 問 題 の 答 えを 出 すことは 難 しい そのひと つの 理 由 は 部 隊 の 中 で 女 性 軍 人 のロールモデルになり 得 る 存 在 をみつけることが 難 しいからである 当 たり 前 のことだが, 男 性 軍 人 の 先 輩 は 女 性 軍 人 のロールモデルとしては 不 適 切 である 女 性 軍 人 が 部 隊 で 感 じている 圧 迫 感 は 男 性 軍 人 のものとは 異 なる 男 性 兵 士 や 副 士 官 など 200 人 の 部 下 のなかでただひとりの 女 性 である (A 将 校 ) ことの 意 味 はその 立 場 にない 男 性 にはわからないだろう 男 性 軍 人 は 軍 隊 で 困 難 を 乗 り 越 える 方 法 を 男 性 軍 人 から 教 わることもできるが, 女 性 軍 人 にとってそれ は 容 易 なことではない 男 性 軍 人 が 女 性 軍 人 を 後 輩 として 認 めないからではない 男 性 軍 人 が 教 えてくれる 解 決 方 法 やアドバイスが 彼 女 たちの 役 に 立 たないからで ある(A 将 校 ) だからといってロールモデルになる 女 性 軍 人 の 先 輩 をみつけるのも 容 易 なこと ではない 女 性 軍 人 は 非 戦 闘 分 野 の 任 務 に 集 中 しているので, 戦 闘 任 務 を 担 当 す る 女 性 軍 人 は 似 たような 困 難 を 経 験 する 女 性 軍 人 の 先 輩 をみつけることが 特 に 難 しい 非 戦 闘 任 務 の 女 性 軍 人 であれば, 女 性 の 先 輩 に 出 会 う 可 能 性 は 高 くなるが, 57
国 際 ジェンダー 学 会 誌 Vol. 9(2011) その 先 輩 女 性 も 依 然 として 悩 みを 抱 えたままの 場 合 が 多 い 加 えて, 女 性 軍 人 は 低 い 階 級 に 集 中 しているため,さらに 問 題 解 決 に 苦 労 する 男 性 中 心 的 な 文 化 に 起 因 するわいせつな 冗 談 を 含 むセクハラ 問 題 について,I 将 校 は, 制 度 はできているが, 実 際 の 解 決 にいたるには 限 界 があると 語 った その 理 由 として 彼 女 があげるのは, 上 官 が 男 性 だけであることである I 将 校 は 中 隊 長 になって 以 降, 指 揮 系 統 上, 自 分 より 高 い 階 級 の 女 性 軍 人 がいないと 語 ったが, まったくその 通 りなのである 図 2 で 確 認 したように, 中 隊 長 となる 大 尉 より 上 の 階 級 には 1 割 の 女 性 軍 人 しかいないのだ また, 軍 隊 の 特 性 上, 指 揮 系 統 以 外 のルートを 通 して 問 題 提 起 をすれば, 周 りからさらにひどい 非 難 を 受 けて 孤 立 し, 部 隊 で 融 和 を 図 ることは 不 可 能 になってしまう 量 的 にも 質 的 にも 少 数 派 の 女 性 軍 人 が,この 状 況 で 困 難 を 克 服 し 生 活 していく には, 軍 隊 を 変 化 させるより 自 分 が 軍 隊 に 適 応 する 以 外 に 選 択 肢 がないようにみ える こうして, 女 性 軍 人 が 困 難 を 乗 り 越 えようと 格 闘 して 選 ぶひとつの 道 が, もっとよい 軍 人 になるよう 努 力 することである 女 性 軍 人 が 後 輩 の 女 性 軍 人 に 厳 しい 態 度 をとることは,この 努 力 のひとつのあらわれである 同 じ 部 隊 の 女 性 の 上 官 が 後 輩 の 女 性 に 女 性 軍 人 だからなんだかんだという 声 が 出 ないように (E 将 校 ) 注 意 するという 話 は 頻 繁 に 聞 いたし, 訓 練 所 では 男 性 訓 練 将 校 より, 女 性 訓 練 将 校 の 方 がもっと 厳 しく 女 性 軍 人 を 訓 練 する 傾 向 があるという(E 将 校,G 将 校,H 将 校 ) ひとりひとりの 女 性 軍 人 の 行 動 に 目 を 光 らせ, 彼 女 たちは 女 性 軍 人 を 厳 しく 管 理 する たとえ 管 理 されなくとも, 自 発 的 に 周 りからとやかく 言 われないよう 努 力 する 訓 練 所 では 行 軍 の 時, 体 力 に 余 裕 のある 者 が 隣 の 軍 人 の 装 備 を 持 ってや ることもあり 得 るが, 女 性 軍 人 は やはり 女 性 軍 人 は と 言 われないように, 自 分 の 装 備 を 託 さずに 行 軍 をやり 遂 げる(H 将 校 ) また, 部 隊 に 配 された 後 は, 不 眠 不 休 の 任 務 や, 朝 まで 兵 士 を 管 理 する 当 直 などで, 規 定 どおりに 勤 務 しよう とする 訓 練 評 価 で 部 隊 が 低 い 評 価 を 受 ければ 女 性 軍 人 が 非 難 の 的 になるため, これを 避 けようと 懸 命 に 努 力 する(G 将 校 ) こうして, 女 性 軍 人 だから とい う 非 難 を 避 けようと, 彼 女 たちは 敏 感 に 気 を 使 うのだ (10) E 将 校 の 友 人 である 女 性 軍 人 の 経 験 は, 彼 女 たちが 批 判 を 避 けるためにどれだ けの 努 力 をしているのかを 明 確 に 示 している この 将 校 は 部 隊 でサッカーをして いてボールに 当 たって 倒 れた その 際, 医 務 隊 へつれていってもらうのを 断 り, 運 動 場 の 傍 らで 少 し 休 んでからひとりで 医 務 隊 に 行 った 後 で 腕 が 動 かなくなっ たが, 週 末 は 当 直 で 病 院 へ 行 けず, 射 撃 統 制 をする 人 がいないと 聞 いて 動 かない 手 で 射 撃 もした 結 局, 病 院 に 行 ってみたときには, 骨 にひびが 入 っている 状 態 だった 彼 女 が 恐 れたのは サッカーをしてひとりの 女 性 軍 人 が 倒 れた という 58
韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 噂 と 女 性 軍 人 はサッカーの 負 傷 を 言 い 訳 に 仕 事 をしない という 非 難 であった この 経 験 が 示 すように, 女 性 軍 人 は 必 要 以 上 の 無 理 を 強 いられている 女 性 と 軍 人 を 対 立 的 にみなすまなざしをはねかえそうとして, 彼 女 たちは 男 性 軍 人 より も 軍 隊 の 理 念 を 忠 実 に 受 け 止 め,もっと 軍 人 らしい 軍 人 にならなければならない という 強 迫 観 念 を 持 つようになるのである 4. 妊 娠 育 児 をめぐる 女 性 軍 人 の 経 験 妊 娠 育 児 に 関 する 問 題 について 軍 隊 はあまり 気 を 配 ってこなかった 男 性 軍 人 の 妻 がこの 問 題 に 対 処 してきたからである 男 性 軍 人 は 妻 のおかげで, 妻 の 犠 牲 によって, 軍 隊 の 任 務 や 生 活 に 専 念 することができた だが, 女 性 軍 人 が 同 じ ように 家 庭 の 問 題 を 気 にせずにいることはできない (1) 妊 娠 育 児 をめぐる 女 性 軍 人 の 困 難 多 くの 女 性 軍 人 は, 軍 人 と 結 婚 する 傾 向 がある 休 日 にも 決 められた 地 域 を 離 れることのできない 軍 人 にとって, 軍 隊 外 の 人 間 と 親 密 な 関 係 を 保 つことは 難 し いためだ 2006 年 には 1,188 人 の 既 婚 女 性 軍 人 のうち, 軍 人 と 結 婚 した 者 が 861 人 で 73%を 占 めている( 国 防 部 2007) また, 軍 人 と 結 婚 した 女 性 軍 人 が 夫 や 子 どもと 生 活 を 共 にすることは 難 しい D 将 校 の 場 合,4 年 間 の 結 婚 期 間 中, 夫 婦 で 一 緒 に 住 んだのはたったの 1 ヶ 月 だが, これは 特 別 なケースではない (11) 将 校 の 夫 婦 であれば, 同 居 の 可 能 性 はさらに 低 まるのだ 将 校 は 1 ~ 3 年 で 服 務 地 を 移 動 しなければならないため, 夫 婦 一 緒 にひとつの 場 所 に 定 着 できない 場 合 が 多 い また,1 ヶ 月 に 7 ~ 8 晩 の 当 直 があり, 訓 練 があれば 1 週 間 は 家 を 空 ける 女 性 軍 人 も 夫 も 週 末 に 自 由 な 時 間 ができる 保 障 はないため,1 月 に 1 度 も 会 えないこともあり 得 る 夜 勤 や 当 直 を 抱 えながら, そこに 育 児 が 加 わればさらに 困 難 は 増 す だが, 育 児 問 題 は 女 性 軍 人 に 任 されている 男 性 軍 人 は 育 児 に 気 を 使 わなくて もいい,あるいは 気 を 使 えない 存 在 として 認 められているのである これは 育 児 休 職 を 取 っている 男 女 の 割 合 をみれば 明 らかである 2008 年 に 育 児 休 職 を 利 用 した 軍 人 の 数 は 263 人 でそのうち 男 性 はたったの 11 人 である( 国 防 部 2009: 203) 女 性 軍 人 に 第 一 義 的 な 育 児 の 役 割 が 課 される 構 造 の 中 で, 妊 娠 育 児 は 女 性 軍 人 の 経 歴 に 悪 影 響 を 与 える 軍 人 という 職 業 を 安 定 した 正 規 職 と 考 えて 入 隊 した 女 性 軍 人 は, 軍 隊 で 終 身 雇 用 が 保 障 されていないことを 知 る 前 項 で 述 べたよう に, 士 官 学 校 出 身 者 には 長 期 服 務 が 約 束 されているが, 士 官 候 補 生 として 赴 任 す 59
国 際 ジェンダー 学 会 誌 Vol. 9(2011) る 大 多 数 の 女 性 軍 人 は, 長 期 服 務 を 申 請 して 長 期 服 務 者 にならなければならない また, 進 級 しなければ 軍 人 を 続 けられない しかし, 子 どもを 出 産 した 場 合, 子 育 てに 気 をとられて 業 務 に 集 中 することが 難 しくなる いくら 周 りからの 助 けが あるとしても, 仕 事 をしている 女 性 軍 人 が 育 児 の 心 配 をせずにいることは 難 しい (C 将 校 ) 韓 国 軍 では, 妊 娠 育 児 に 関 する 制 度 は 整 っている (12) 国 家 公 務 員 服 務 規 程 によって 女 性 公 務 員 は 出 産 休 暇 を 90 日,2008 年 以 降 は 育 児 休 職 を 3 年 まで 取 得 できるようになった 育 児 休 職 がとれるのは 満 6 歳 未 満 の 未 就 学 児 を 持 つ 親 であ る しかし, 軍 隊 の 中 でこの 制 度 を 使 うことはそうたやすいことではない 女 性 軍 人 が 妊 娠 することは 軍 隊 で 罪 を 犯 すことである (G 将 校 )というように, 女 性 軍 人 の 出 産 休 暇 と 育 児 休 職 は, 業 務 に 支 障 をきたすこととみなされている 同 時 に 女 性 軍 人 は 特 別 な 恩 恵 を 得 ているかのような 視 線 にさらされる 妊 娠 したこ とがわかると 当 直 などの 勤 務 からはずれるが (13),その 分 を 他 の 者 が 負 うことに なる 出 産 した 後, 部 隊 に 復 帰 しても 何 ヶ 月 かは 当 直 などの 夜 間 勤 務 免 除 の 対 象 になる 出 産 や 育 児 で 休 暇 や 休 職 を 取 ることで, 普 段 の 日 課 でも 周 囲 の 負 担 を 増 やす だから, 女 性 軍 人 が 妊 娠 すると 上 官 から どこでもいいから 転 職 してよ という 嫌 がらせめいた 冗 談 のような 反 応 を 受 けることになる(F 将 校 ) 女 性 だ から 男 性 より 特 別 な 恩 恵 を 受 けている という 批 判 に 耐 えられず, 妊 娠 8 9 ヶ 月 目 でも 勤 務 につくケースもあるという(G 将 校 ) (14) 出 産 休 暇 は 義 務 なので 90 日 間 休 むが,3 年 まで 取 得 可 能 な 育 児 休 職 は 義 務 で はない 申 請 された 育 児 休 職 期 間 をみると,この 制 度 が 十 分 活 用 されていないこ とがわかる 2008 年 度 の 場 合, 一 番 多 かった 育 児 休 職 期 間 は,263 人 中 約 半 数 の 138 人 が 取 った 10 ヶ 月 から 12 ヶ 月 間 であった( 国 防 部 2009:203) その 大 き な 理 由 は, 育 児 手 当 の 支 給 が 1 年 間 であることや, 法 律 上 1 年 以 内 の 育 児 休 職 が 服 務 経 歴 として 認 められている 点 (15) であろう 軍 人 の 場 合, 進 級 できないと 除 隊 になるという 法 律 があるため, 育 児 休 職 により 進 級 が 不 利 になりかねないこと が 十 分 な 育 児 休 職 を 取 らない 要 因 となる(D 将 校 ) 実 際, 育 児 休 職 を 取 らなか った 軍 人 が 育 児 休 職 を 取 得 した 軍 人 よりもよい 点 を 取 る 可 能 性 は 高 い そして, 休 職 を 長 く 取 れば 取 るほど, 周 りから 非 難 されるようになる (2) 妊 娠 育 児 問 題 への 対 策 軍 隊 からの 積 極 的 な 援 助 を 期 待 できない 女 性 軍 人 は, 妊 娠 育 児 問 題 で 経 歴 に 傷 がつかないように,また 軍 隊 に 負 担 をかけないように,さまざまな 方 法 で 対 処 している そのひとつが 夫 婦 軍 人 制 度 の 利 用 である 夫 婦 軍 人 制 度 とは 軍 人 夫 婦 60
韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 が 同 じ 部 隊 で 勤 務 することを 奨 励 する 制 度 であり, 夫 婦 の 一 方 が 都 市 近 郊 に 勤 務 する 予 定 があれば,この 制 度 を 利 用 して 育 児 をしやすい 都 市 近 郊 で 一 緒 に 勤 務 す るというものである もうひとつの 方 法 は 依 託 教 育 制 度 の 利 用 である 依 託 教 育 とは 2 年 間, 国 防 大 学 院 か( 国 内 もしくは 国 外 の) 民 間 の 大 学 で 教 育 を 受 けることである 軍 隊 は 2012 年 までに, 将 校 の 70% 以 上, 副 士 官 の 50% 以 上 に 修 士 号 以 上 の 学 位 を 取 得 させることを 目 指 している( 国 防 部 2008) 現 在 でも 修 士 号 はほとんどの 将 校 が 取 るようになっており, 軍 人 として 進 級 したり 軍 隊 ではたらき 続 けるためには 必 須 の 要 件 になっている 妊 娠 育 児 で 休 むことになると 周 囲 の 人 に 負 担 をかけることになるため, 女 性 軍 人 は 妊 娠 育 児 にあわせて 依 託 教 育 を 受 けることで 対 処 している 後 ろめた い 気 分 になるよりは ということで, 妊 娠 育 児 期 の 女 性 軍 人 が 依 託 教 育 制 度 を 利 用 するのである(C 将 校 D 将 校 ) 依 託 教 育 は 本 来, 経 歴 に 有 利 にはたらくのだが, 妊 娠 育 児 と 並 行 しながら 勉 強 しようとする 女 性 軍 人 が, 教 育 を 全 うしていくのは 簡 単 なことではない ある 程 度 の 成 績 を 得 られなければかえって 経 歴 に 傷 がつくのだが, 育 児 をしながら 勉 強 することは, 十 分 な 勉 強 時 間 を 確 保 できないことを 意 味 する(B 将 校 E 将 校 ) そのため, 女 性 軍 人 の 場 合, 実 際 経 歴 に 役 立 つかどうかは 微 妙 である 一 方, 男 性 軍 人 にとっては, 出 産 であれ, 育 児 であれ, 依 託 教 育 であれ,たい したことではない だから, 教 育 と 育 児 に 苦 労 する 女 性 軍 人 の 悩 みを 聞 こうとは しないし,それは 彼 らにとって 理 解 できない 悩 みである E 将 校 は, 赤 ちゃんが 病 気 がちであることと,それによる 成 績 不 良 が 原 因 でうつ 状 態 になった その 時, 夫 がアメリカで 6 ヶ 月 間 の 教 育 を 受 けることになり, 一 緒 に 渡 米 するために 休 学 することにした しかし, 休 学 に 対 する 軍 隊 の 反 応 は 厳 しかった 軍 内 教 育 担 当 官 が 依 託 を 遊 んでいると 思 っているんですよ そういうところ 依 託 教 育 にいる 人 は おい 学 校 通 いながら, 子 どもみればいいじゃない か? 何 で 休 学 をするんだよ? と 話 したそうです ( 中 略 )また, 学 軍 団 長 にもつながっているから, 学 軍 団 長 も 私 を 中 傷 したりして 私 が 休 学 した 後, 皆 に だから 女 性 に 軍 人 をさせてはいけないんだよ と 話 したりしたんですね (E 将 校 ) 妊 娠 育 児 が 女 性 ( 軍 人 )の 問 題 とみなされるかぎり, 女 性 軍 人 が 妊 娠 育 児 で 非 難 を 受 けることは 避 けられない 出 産 休 暇 であれ, 育 児 休 職 であれ, 女 性 軍 人 の 制 度 と 思 われているものは 軍 隊 には 不 必 要 な 制 度,そして 男 性 軍 人 に 対 する 61
国 際 ジェンダー 学 会 誌 Vol. 9(2011) 逆 差 別 の 制 度 だとみなされている 男 性 軍 人 ならば, 依 託 教 育 期 間 中, 十 分 な 時 間 を 勉 強 に 充 てることができる 男 性 軍 人 ならば 育 児 を 妻 に 託 することができる しかし 男 性 軍 人 による 子 育 て は 母 親 がすることだろう (E 将 校 )という 発 言 が 示 すように, 男 性 中 心 的 な 軍 隊 文 化 の 中 で 女 性 軍 人 の 困 難 は 決 して 理 解 されることがない 周 りに 負 担 をかけ ないようにと 依 託 教 育 制 度 を 利 用 しても, 子 どもを 産 むために 依 託 教 育 を 受 けて いるという 視 線 で 眺 められるだけである(B 将 校,E 将 校 ) このような 中 で, 彼 女 たちが 軍 隊 から 非 難 を 受 けずにすむ 唯 一 の 方 法,それは, 母 に 頼 ることである 助 けになる 母 の 存 在 は 絶 大 である 保 育 施 設 などを 利 用 し ている 女 性 軍 人 もいるが, 多 くは 子 どもを 自 分 の 母 あるいは 夫 の 母 に 任 せている 民 間 施 設 に 委 託 できるのは 都 市 近 郊 に 勤 務 している 時 であり, 地 方 の 部 隊 に 配 属 されると, 母 の 助 けなしでは 育 児 は 極 めて 困 難 な 状 況 になる インタビュー 対 象 者 の 女 性 軍 人 たちも, 子 どもがいる 場 合 には, 女 性 軍 人 の 母 あるいは 夫 の 母 に 育 児 を 手 伝 ってもらっていた そして, 母 に 子 どもを 任 せる 女 性 軍 人 は, 軍 隊 に 育 児 の 支 援 を 求 めることに 積 極 的 でない 軍 隊 の 支 援 がないことを 当 然 とし, 次 のように 懸 命 に 軍 隊 の 見 解 を 語 る 女 性 軍 人 もいた ( 軍 隊 から 積 極 的 な 支 援 を 兪 ) 軍 隊 からですか?(はい 兪 ) 託 児 所 をつ くるとか?(はい 兪 )それは 現 実 的 に 難 しいです 女 性 軍 人 は 多 くないです ね 少 数 の 者 のために 託 児 所 をつくることは( 中 略 ) 託 児 所 をつくる 予 算 を 支 援 したり, 運 営 することは 現 実 的 に 不 可 能 です (D 将 校 ) 女 性 軍 人 は, 育 児 に 対 する 自 らの 負 担 軽 減 よりも, 軍 隊 の 予 算 や 運 営 の 効 率 性 の 方 を 気 にかけている 軍 隊 の 考 えをわがものとして, 彼 女 たちは, 育 児 は 女 性 に 任 せるのが 適 切 だと 考 え,その 助 けを 母 にのみ 求 めるのである おわりに 高 い 競 争 率 と 軍 隊 外 からの 人 々の 視 線,そして 韓 国 の 強 い 軍 事 主 義 は 女 性 軍 人 に 軍 人 としてのプライドを 与 える 平 和 = 強 い 国 家 = 強 い 軍 隊 という 考 えが 強 く 根 づいている 韓 国 において 女 性 が 軍 人 になることは, 他 国 に 比 べればさほど スティグマ 化 されていないと 言 えるだろう 彼 女 たちのプライドは 言 うまでもな く 軍 事 化 されたプライドだ そして,このプライドを 得 ていてもなお, 彼 女 たちは 軍 隊 での 日 常 を 通 じて 幾 62
韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 多 の 困 難 を 経 験 していた その 多 くは 少 数 派 であることと, 彼 女 たち 女 性 を 一 人 前 の 軍 人 として 認 めない 軍 隊 の 男 性 中 心 性 に 由 来 する 困 難 である 女 性 軍 人 が 人 々の 関 心 を 集 めることは,プライドを 培 うというポジティブな 意 味 を 持 つ 一 方 で, 息 苦 しさを 感 じさせつつ 軍 隊 へと 過 剰 適 応 させるようなネガティブな 側 面 も 持 っていた 妊 娠 育 児 をめぐる 困 難 への 対 処 の 仕 方 には 軍 隊 の 規 範 に 抗 うのではなく,こ れに 順 応 していく 女 性 軍 人 の 姿 がよくあらわれていたと 言 えるだろう 妊 娠 育 児 による 不 利 を 男 性 とスタートラインがちがう と 不 満 に 思 いながらも 彼 女 た ちは 自 分 が 甘 受 すべき と 考 える 周 囲 の 軍 人 に 負 担 を 負 わせぬよう 彼 女 たち が 救 いの 手 を 求 めたのは 母 だった 男 性 軍 人 が 妻 に 子 どもを 託 したように, 女 性 軍 人 は 母 に 子 どもを 託 すことで 事 態 をやりくりしようとするが,これは 既 存 のジ ェンダー 規 範 にそった 解 決 策 としかなり 得 ない このように,プライドと 困 難 を 経 験 しながら, 韓 国 女 性 軍 人 は 男 性 軍 人 よりも 一 層, 本 当 の 軍 人, 厳 格 な 軍 人 になろうと 格 闘 していた 男 女 徴 兵 制 を 有 する 希 有 な 国 であるイスラエルの 女 性 兵 士 研 究 を 行 った Orna Sasson-Levy は, 戦 闘 兵 士 の 男 性 性 を 模 倣 しようとする 彼 女 たちの 努 力 の 中 に,ジェンダー 規 範 を 転 覆 し ていく 側 面 をみい 出 す 一 方 で,これを 軍 隊 の 男 性 規 範 への 追 従 とも 解 釈 し 得 るとし, 女 性 兵 士 の 実 践 が 軍 事 主 義 の 永 続 化 に 貢 献 ししばしば 女 性 の 抑 圧 とな る ことを 指 摘 する(Sasson-Levy 2003:447-8) 本 稿 が 対 象 とした 韓 国 女 性 軍 人 もまた, 軍 隊 で 些 細 なミスもしない 完 璧 な 軍 人 になることを 目 指 すことで 軍 事 主 義 の 永 続 化 に 貢 献 していた 彼 女 たちは 軍 隊 で 経 験 する 困 難 にさまざまに 対 処 する 中 で,これらを 仕 方 のないこと, 一 部 の 男 性 0 0 0 0 軍 人 の 問 題 と 考 え, 軍 隊 全 体 の 問 題 ではない と 受 け 止 めていった その 結 果, 女 性 軍 人 たちは 軍 隊 の 変 化 を 求 める 女 性 が 軍 隊 を 変 える というよりはむし ろ,これまで 男 性 軍 人 が 行 ってきたとおりのやり 方, 軍 隊 が 望 むとおりのやり 方 で, 男 性 中 心 的 な 軍 隊 の 規 範 へと 順 応 していく 軍 隊 が 女 性 を 変 える ので ある 本 稿 は, 韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 に 注 目 することで, 軍 隊 の 男 性 中 心 性 と 彼 女 たちの 軍 事 化 された 経 験 の 一 端 を 示 したが,サンプルの 制 約 からその 軍 事 化 プロセスの 複 雑 さを 描 ききるにはいたっていない 今 後 は,インタビュー 対 象 者 を 増 やし, 男 性 軍 人 (16) や 軍 隊 経 験 をもたない 女 性 たちとの 比 較 も 視 野 にいれ ながら,さらなる 考 察 をすすめていくことを 課 題 としたい (ゆ びょんわん さとう ふみか 一 橋 大 学 大 学 院 ) 63
国 際 ジェンダー 学 会 誌 Vol. 9(2011) * 本 稿 執 筆 にあたり, 兪 炳 完 の 語 学 チューターである 一 橋 大 学 大 学 院 社 会 学 研 究 科 博 士 課 程 の 浦 田 三 紗 子 さんと 同 大 学 院 言 語 社 会 研 究 科 博 士 課 程 の 井 上 徹 さんの 助 力 を 得 た ここに 記 して 感 謝 したい 注 ⑴ 本 稿 では 以 後, 兵 士 を 軍 隊 の 一 番 下 の 階 級 である 徴 集 兵 を 指 す 用 語 として 用 い,これと は 異 なる 階 級 に 属 する 女 性 には 女 性 軍 人 の 語 を 用 いる ⑵ たとえば, 盧 泰 愚 大 統 領 は 選 挙 公 約 として 軍 隊 における 女 性 活 用 を 掲 げ, 次 の 金 泳 三 大 統 領 も 1993 年 に 士 官 学 校 と 学 軍 団 (ROTC)を 解 放 するよう 指 示 した ⑶ 実 際 の 数 の 推 移 をみると,1950 年 から 88 年 まで 1,000 人 を 超 えなかった 女 性 軍 人 数 は,90 年 代 後 半 に 2,000 人 を 超 えている(オほか 1994:22) とりわけ 将 校 階 級 の 増 大 は 著 しく, 1988 年 まで 100 人 以 下 だったものが,90 年 に 200 人,94 年 に 1,000 人,2010 年 には 2,000 人 を 超 える( 国 防 部 2010:138) ⑷ 韓 国 軍 を 対 象 とした 先 行 研 究 ではイドンフンが, 男 性 中 心 的 な 文 化 に 適 応 しようとする 女 性 軍 人 の 姿 を 描 き 出 している(イ 2001:58-64) ⑸ 軍 隊 研 究 では 公 式 に 許 可 をとる 以 外 に 軍 人 を 無 作 為 抽 出 することは 不 可 能 であるが, 許 可 を とること 自 体 が 非 常 に 難 しい 知 人 を 紹 介 してもらうスノーボール 方 式 は, 女 性 軍 人 に 安 心 感 を 与 え,より 率 直 に 軍 隊 経 験 を 語 ってもらう 上 で 効 果 的 に 働 いた 各 インタビューの 平 均 所 要 時 間 は 1 時 間 半, 部 隊 を 通 して 面 接 を 行 った I 将 校 をのぞき, 喫 茶 店 などのカジュアル な 場 における 半 構 造 化 方 式 の 面 接 を 行 った なお, 現 役 と 退 役 の 差 異 にフォーカスした 分 析 については 兪 (2011)を 参 照 のこと ⑹ 幹 部 士 官 とは, 軍 隊 経 験 を 持 つ 兵 士 ( 男 性 )と 副 士 官 から, 将 校 を 選 抜 する 制 度 である 募 集 人 数 は, 男 性 約 300 人 に 対 し, 女 性 は 7 人 のみ(キム シン 2003:15) ⑺ 看 護 兵 科 を 含 めた 兵 科 ごとの 女 性 比 率 をみると, 高 い 順 に, 看 護 (88.4%), 医 政 ( 医 務 行 政 ) (12.6%), 副 官 (12.6%), 経 理 (10.5%), 政 訓 ( 軍 人 の 精 神 教 育 や 軍 隊 の 広 報 活 動 などを 担 当 する 兵 科 ) (9.6%)となっている ⑻ 2008 年 度 の 韓 国 軍 の 全 体 兵 力 は 655,000 人 である( 国 防 部 2008) ⑼ たとえば,エリートコースである 士 官 学 校 の 場 合,2010 年 に 男 子 生 徒 が 空 軍 21 倍, 陸 軍 18 倍, 海 軍 23 倍 であったのに 対 し, 女 子 生 徒 は 空 軍 45 倍, 陸 軍 38 倍, 海 軍 48 倍 とはるかに 高 い ⑽ 行 軍 の 時, 他 の 中 隊 の 訓 練 生 がドロップアウトすれば 救 急 車 に 乗 って 部 隊 に 帰 るところ, 頬 を 叩 き, 最 後 まで 女 性 軍 人 をドロップアウトさせなかった 女 性 訓 練 将 校 もいた(E 将 校 ) ⑾ 家 族 と 同 居 できている 軍 人 夫 婦 は 5 分 の 1 にとどまっている 軍 人 と 結 婚 していない 女 性 軍 人 の 場 合 は 同 居 の 割 合 が 3 分 の 1 で 軍 人 夫 婦 よりは 高 いが,それでも 女 性 軍 人 の 多 数 派 が 家 族 と 離 れ 離 れになることに 違 いはない(ドッゴほか 2005:92) ⑿ ただし, 妊 娠 による 女 性 軍 人 欠 員 補 充 の 制 度 は 不 十 分 なものである 勤 務 の 代 行 者 に 対 する 手 当 ては 月 5 万 ウォン(5 千 円 程 度 )にすぎない ⒀ 勤 労 基 準 法 の 第 68 条 2 項 によれば 妊 婦 と 18 歳 未 満 者 を 午 後 10 時 から 午 前 6 時 まで,お よび 休 日 には 勤 労 させることができない ⒁ 女 性 軍 人 の 健 康 に 関 する 調 査 によると, 自 然 流 産 は 13.4%で 平 均 の 範 疇 (10 ~ 20%)であ るが, 高 リスク 流 産 分 娩 は 21.6%で, 平 均 (7 ~ 10%)よりはるかに 高 い(ムンほか 2002:180) 妊 娠 によりプレッシャーを 感 じた 女 性 軍 人 が 無 理 をする 傾 向 が, 高 リスク 流 産 分 娩 の 要 因 のひとつであると 言 える ⒂ 軍 人 事 法 の 48 条 4 項 によれば, 出 産 育 児 休 職 では 給 料 をもらえないことになっているが, 64
韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 公 務 員 服 務 規 程 により 月 50 万 ウォンを 1 年 間 もらえる また, 軍 人 事 法 の 49 条 4 項 によっ て,1 年 の 休 暇 期 間 は 最 低 進 級 服 務 期 間 に 含 まれる ⒃ 春 木 育 美 (2000)の 研 究 は, 韓 国 男 性 の 兵 役 経 験 に 焦 点 をあてており 非 常 に 示 唆 的 である 参 考 引 用 文 献 ドッゴスン ゾヨンジン シンドンヒョン キムユンジョン(독고순 조영진 신동현 김윤정) 2005 女 性 軍 人 の 職 業 性 および 母 性 保 護 推 進 のための 服 務 制 度 改 革 案 韓 国 国 防 研 究 院 ( 여 군의 직업성 및 모성보호 증진을 위한 복무제도 발전 방안 한국국방연구원) Enloe, Cynthia 2007 Globalization and Militarism: Feminists Make the Link. Maryland: Rowman & Littlefield. 春 木 育 美 2000 軍 隊 と 韓 国 男 性 兵 役 が 韓 国 男 性 に 与 える 影 響 同 志 社 社 会 学 研 究,4, 53-65 ジュチャンジン(주찬진)2000 韓 国 女 軍 の 構 造 的 争 点 に 関 する 社 会 学 的 一 考 察 高 麗 大 学 校 社 会 学 科 修 士 論 文 ( 한국여군의 구조적 쟁점에 관한 사회학적 일 고찰 성장저해 요인을 중심으로 고려대학교 사회학과 석사논문) キムヒョニョン(김현영)2002 兵 役 義 務 と 近 代 的 国 民 アイデンティティのジェンダー ポリテ ィクス 梨 花 女 子 大 学 校 女 性 学 科 修 士 論 文 ( 병역의무와 근대적 국민정체성의 성별정 치학 이화여자대학교여성학과 석사논문) キムヨンギュン シンジェナム(김용균 신재남)2003 3 士 官 学 校 の 生 徒 過 程 の 女 性 への 開 放 韓 国 軍 事 問 題 研 究 院 ( 3 사 생도 과정 여군 문호 개방 한국군사문제 연구원) クォンインスク(권인숙)2005 大 韓 民 国 は 軍 隊 だ ( 대한민국은 군대다 )경기도:청년사(=2006 山 下 英 愛 訳 韓 国 の 軍 事 文 化 とジェンダー 御 茶 の 水 書 房 ) クォンオブン(권오분)2000 軍 隊 経 験 の 意 味 づけ 過 程 を 通 じてみる 軍 事 主 義 のジェンダー ポ リティクス 梨 花 女 子 大 学 校 女 性 学 科 修 士 論 文 ( 군대경험의 의미화 과정을 통해서 본 군사주의 성별정치학 남녀공학대학 사례를 중심으로 이화여자대학교 여성학과 석사논문) 国 防 部 (국방부)2007 軍 人 夫 婦,そして 家 族 国 防 ジャーナル 401, 22-27( 부부군인, 그 리고 가정 국방저널 401 호:22-27) 国 防 部 (국방부)2008 国 防 白 書 ( 국방백서 ) 国 防 部 (국방부)2009 国 防 統 計 年 報 ( 국방통계연보 ) 国 防 部 (국방부)2010 国 防 白 書 ( 국방백서 ) イドンフン(이동흔)2001 軍 隊 文 化 の 男 性 中 心 性 と 両 性 平 等 教 育 延 世 大 学 校 社 会 学 科 修 士 論 文 ( 군대문화의 남성중심성과 양성평등교육 연세대학교 사회학과 석사논문) ムンジョンスク ユンウォンスク ジョンジョンハ イジヨン ゾイルニム カンヨンザ(문정 숙 윤원숙 정정화 이지영 조일님 감영자)2002 女 軍 人 健 康 実 態 調 査 研 究 論 文 集 21, 軍 陣 看 護 研 究 所, 128-188( 여군 건강실태 조사연구 여군 건강 및 복지 정책 개발을 위 한 기초연구 논문집 21 호, 군진간호연구소:128-188) ムンミギョン イムヒジョン キムヨンミ(문미경 임희정 김영미)2006 国 防 女 性 の GEM 向 上 策 韓 国 女 性 開 発 院 ( 국방여성의 GEM 향상 방안 한국여성개발원) Moon, SeungSook 1998 Gender, Militarization, and Universal Male Conscription in South Korea, Lois Ann Lorentzen and Jennifer Turpin, eds., The Women & War Reader. New York: New York University Press, 90-100. 2005 Militarized Modernity and Gendered Citizenship in South Korea : Politics, History and Culture. Durham : Duke University Press. (=2007, 이현정 역, 군사주의에 갇힌 근대 국민 만들기, 시민 되기, 그리고 성의 정치 서울:또하나의 문화.) オギョンゾ キムジョンタク ウォンチャンヒ(오경조 김종탁 원창희)1994 軍 隊 内 女 性 人 65
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韓 国 女 性 軍 人 のプライドと 困 難 Pride and Trouble of South Korean Women Soldiers: Focusing on Women Soldiers Adaptation of Androcentric Military Norms YOO Byoungoan, SATO Fumika (Hitotsubashi University) Along with global gender mainstreaming of militaries, recent sociological studies of women s integration in the military have been conducted mainly around the United States and Europe. However, the fact is that most of them omit Asian militaries. Through demonstrating experiences of women soldiers in South Korea, where there still is a male conscription system, this paper will focus on their process of adapting to androcentric military norms. The general principle of peace=powerful nation=powerful military is permeated throughout South Korea. This means that a woman who becomes soldier does not bear a stigma but rather a mark of pride. Her pride stems from high recognition and the esteem in which female soldiers are held in the minority and from their service which is not mandatory. They experience some problems, however, due to excessive interest in them, as they are a minority, and male-dominated military culture. They face difficulties on a daily basis, such as creating camaraderie with male colleagues, sexual harassment, pregnancy and subsequent child care, all of which are difficult to solve individually. Under these circumstances, they aim to be true and rigid soldiers, and try not to disturb military norms instead of demanding settlements and reform. We can conclude that the military can change women more easily than women can change the military. Through their process of attaining militarized pride and struggling with daily issues, they conform to the androcentric military norms as do men. Key words:women soldier, military, militarization, gender, South Korea 67