順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号,1~10 (2008) 1 原 著 経 営 効 率 分 析 法 (DEA)を 利 用 した 野 球 チームの ラインナップ 選 定 のための 一 手 法 北 京 五 輪 野 球 日 本 代 表 候 補 選 手 を 例 として 廣 津 信 義 上 田 徹 A Method for selecting line-ups of a baseball team using Data Envelopment Analysis: An example of utilizing the candidates of Japan national baseball team for the Beijing 2008 Olympic Games Nobuyoshi HIROTSU and Tohru UEDA Abstract In this paper, we propose a mathematical approach to select line-ups of a baseball team using DEA (data envelopment analysis). We apply DEA to evaluate baseball players from the view point of uniqueness, andshowtheevaluationofplayersbymeansofdeae ciencytogetherwithsi (scoring index), a measure of batting ability. Further, we evaluate line-ups by the number of the DEA ešective players and the expected runs scored in a game by the line-up. We illustrate this method using the candidates of Japan national baseball team for the Beijing 2008 Olympic Games, and demonstrate how this approach may help to select the line-ups, by showing the concrete line-ups with the expected runs scored and the number of ešective players. Key words: Baseball, DEA, Line-up, Mathematical method, Olympic Games. 緒 言 北 京 五 輪 に 向 けて 星 野 野 球 日 本 代 表 監 督 は2007 年 5 月 7 日 付 けで,アジア 予 選 の 第 一 次 候 補 選 手 60 名 を 発 表 した. 候 補 選 手 の 選 抜 については, 多 くの 評 価 項 目 を 基 に 熟 慮 を 重 ねて 決 定 されたもの と 思 われるが,12 月 から 始 まるアジア 予 選 に 際 し ては 第 一 次 候 補 選 手 の 中 からさらに 厳 選 した 上 で ラインナップを 選 定 しなければならない. 統 計 学 研 究 室 Seminar of Statistics 成 蹊 大 学 理 工 学 部 情 報 科 学 科 Department of Computer and Information Science, Faculty of Science and Technology, Seikei University ラインナップの 選 定 当 たっては, 第 一 次 候 補 選 手 で 捕 手 野 手 31 名 だけについて 考 えても, 捕 手 5 名 から 1 名, 内 野 手 15 名 から 4 名, 外 野 手 11 名 から 3 名, 残 り23(=31-8) 名 から 指 名 打 者 1 名 を 選 定 する 組 み 合 わせの 数 は, 5 C 1 15 C 4 11 C 3 23 C 1 =25,900,875 通 りとなる.これに 打 順 の 違 い 9!=362,880 通 りを 掛 け 合 わせると, 約 9.4 兆 通 りのラインアップ 選 定 の 可 能 性 があることがわか る. 監 督 コーチはこの 膨 大 な 可 能 性 の 中 からア ジア 予 選 3 試 合 のラインナップに 絞 り 込 まなけれ ばならない. 絞 り 込 むための 評 価 基 準 については, 打 撃 能 力 に 関 係 する 数 値 指 標 について 考 えただけでも, 打 率, 長 打 率, 出 塁 率, 打 点, 本 塁 打 数 など 多 数 の
2 順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) 指 標 があり,どれを 重 視 するかで 評 価 は 変 わって くる.また, 打 点 や 本 塁 打 数 については 打 席 数 が 多 い 選 手 の 方 が 有 利 であるが, 打 率 や 長 打 率 は 一 打 数 当 たりに 平 均 化 された 指 標 となっているとい う 違 いもある. 打 撃 能 力 を 一 つの 指 標 で 総 合 的 に 評 価 するという 点 では, 同 一 選 手 が 繰 り 返 し 打 席 に 立 ったときの 1 イニングでの 期 待 得 点 値 を 指 標 としたスコアリング インデックス(SI)が,ま た 同 様 な 指 標 として, 同 一 選 手 が 1 試 合 繰 り 返 し 打 席 に 立 ったときの 期 待 得 点 値 で 打 者 を 評 価 する OERA (OŠensive Earned Run Average)があ る 4)~6)8)9). このような 指 標 を 利 用 すれば, 選 手 個 人 の 打 撃 能 力 の 評 価 が 可 能 となり,これを 9 選 手 からなる ラインナップの 1 試 合 での 得 点 能 力 の 評 価 のため に 発 展 させた ラインナップとしての 期 待 得 点 値 (SIL (Scoring Index of the Line-up)) なども 提 案 されている 8).この 指 標 に 基 づき 得 点 能 力 を 評 価 することで, 計 算 上 期 待 得 点 値 を 最 大 にするライ ンナップを 求 めることが 可 能 となる. しかしながら,このような 期 待 得 点 値 という 観 点 から 一 律 に 評 価 する 方 法 だけでは, 選 手 個 々の 特 長 を 活 かしているかという 点 で 疑 問 が 残 るであ ろう.そこで, 本 研 究 では DEA (Data Envelopment Analysis)の 手 法 を 用 いることで 個 々の 選 手 を 多 角 的 な 視 点 で 評 価 を 行 い,その 特 長 をライン ナップの 評 価 に 加 味 することで, 期 待 得 点 値 の 観 点 からのみでなく 選 手 の 攻 撃 能 力 という 点 での 多 様 性 を 勘 案 した 形 でラインナップを 策 定 する 方 法 を 提 案 する. DEA は, 経 営 効 率 分 析 法 ないしは 包 絡 分 析 法 と 呼 ばれ, 企 業 など 事 業 体 の 効 率 性 の 分 析 に 用 い られている 手 法 である 11)14)15). 回 帰 分 析 法 が 平 均 を 基 準 として 評 価 していく 方 法 であるのに 対 し, DEA は 最 も 優 れた 事 業 体 を 基 準 として 評 価 して いくところに 特 徴 がある. 今 回 は,プロ 野 球 選 手 を 対 象 として, 打 席 数, 打 数, 安 打 数, 打 点 数, 盗 塁 数 などの 攻 撃 に 関 する 多 様 なデータを 用 い, ある 面 で 最 も 優 れた 能 力 を 有 するという 観 点 から 有 能 な 選 手 を 特 定 していく. なお,DEA による 野 球 選 手 の 評 価 については 橋 本 7) や 上 田 住 舎 17) による 研 究 があり,DEA と 期 待 得 点 値 を 組 み 合 わせた 選 手 評 価 については 末 吉 ら 12)13) による 研 究 があるが, 今 回 はラインナ ップとして 評 価 することを 目 的 としている 点 で 新 たな 試 みとなっている. 本 研 究 では, 具 体 的 な 事 例 として 5 月 7 日 に 発 表 された 北 京 五 輪 野 球 日 本 代 表 ( 星 野 シャパン) 第 一 次 候 補 選 手 の 捕 手 野 手 31 名 を 対 象 とし, 今 期 (2007 年 ) 前 半 戦 の 成 績 を 基 に, 期 待 得 点 値 が 高 くかつ 選 手 の 攻 撃 能 力 という 点 で 多 様 性 のある ラインナップを 具 体 的 に 提 示 する. 当 然,アジア 予 選 については, 選 手 のコンディ ションなど 他 の 多 くの 要 因 も 絡 み, 選 抜 対 象 とな る 選 手 やその 選 抜 基 準 を 本 稿 のようには 単 純 に 決 定 することはできないであろうが, 定 量 的 な 検 討 により 約 9.4 兆 通 りから 数 通 りに 絞 り 込 むことが でき,かつ 具 体 的 なラインナップを 明 示 できるこ とに 本 手 法 の 特 徴 がある. 今 後, 野 球 チームにお ける 選 手 選 定 を 論 じる 際 の 一 つの 参 考 になればと 考 えている.. 方 法. 選 手 の 評 価.. DEA による 評 価 本 節 では 野 球 を 例 に DEA について 概 説 する. DEA は 比 率 尺 度 ( 出 力 / 入 力 )によって 評 価 対 象 の 効 率 性 を 相 対 的 に 評 価 する 方 法 と 言 える. 例 え ば, 打 率 は, 出 力 = 安 打 数, 入 力 = 打 数,とした ときの 比 率 尺 度 であり,これを 基 に 効 率 性 を 評 価 することが 可 能 となる.ただ 打 率 は 攻 撃 能 力 の 一 面 を 反 映 するだけであるが,DEA では 複 数 の 評 価 指 標 を 利 用 できる 点 に 特 徴 がある. 例 えば, 本 塁 打 率 = 本 塁 打 数 / 打 数 と 定 義 し, 出 力 =u 1 本 塁 打 数 +u 2 安 打 数, 入 力 = 打 数 と いう 比 率 尺 度 を 定 義 する.ただし,u 1,u 2 はそれ ぞれ 本 塁 打 と 安 打 の 重 みを 表 し,もし 本 塁 打 が 安 打 の 2 倍 重 要 であるとするならば,u 1 =2, u 2 =1 として 加 重 和 の 値 を 出 力 として 評 価 する.このよ うに 考 えれば, 複 数 の 評 価 指 標 を 入 れ 込 んだ 比 率 尺 度 を 作 ることができる.しかしながら,ここで 問 題 となるのが 重 み u 1,u 2 をどのような 値 にすれ
順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) ば 公 平 な 評 価 となるかという 点 であり, 現 実 的 に は 誰 もが 合 意 できる 値 を 設 定 することは 困 難 であ ろう. そこで,DEA では 個 々の 選 手 は 自 分 の 比 率 尺 度 が 最 大 となるように 重 みを 設 定 できるとしてい る.すなわち,DEA ではどの 選 手 も u 1 と u 2 に ついて, 非 負 条 件 などの 制 約 範 囲 内 で 自 由 な 値 を とることができ, 先 験 的 なウェイトの 値 を 必 要 と しない.これは,どの 選 手 も 自 分 の 長 所 を 最 大 限 活 かした 上 での 評 価 がなされることになるという 点 で 公 平 な 評 価 となっている. このように, 入 力 項 目 が m 個, 出 力 項 目 が n 個 あったとき, 対 象 選 手 j o の 入 力 項 目 k(=1, 2,..., m)に 関 するデータ x kjo に 重 み n k をかけて 加 えることにより 得 られた 入 力 m k=1 n k x kjo と, 出 力 項 目 i(=1, 2,..., n)に 関 するデータ y ijo に 重 み u i をかけて 加 えることにより 得 られた 出 力 からなる 比 率 尺 度 = n i=1 m k=1 u i y ijo n k x kjo n i=1 u i y ijo を 非 負 条 件 などの 制 約 範 囲 内 で 最 大 化 するように 評 価 対 象 の 最 適 な 重 み n k, u i を 決 定 する. 本 研 究 では, 野 球 選 手 の 評 価 について DEA の 適 用 を 行 った 上 田 住 舎 17) に 従 い, 入 出 力 項 目 を 次 のように 設 定 した. [ 入 力 項 目 ] 全 選 手 について 等 入 力 1 とした. [ 出 力 項 目 ] 本 塁 打 率, 打 点 率, 盗 塁 率, 打 率, 長 打 率, 出 塁 率, 得 点 圏 打 率 の 7 項 目 とした. ( 注 ) 本 塁 打 率 = 本 塁 打 数 / 打 数, 打 点 率 = 打 点 / 打 席 数, 盗 塁 率 = 盗 塁 数 / 出 塁 数 ただし, 出 力 項 目 で 上 田 住 舎 17) では 本 塁 打 率 = 本 塁 打 数 / 打 席 数 としているなど, 若 干 の 差 異 はあるが,ほぼ 同 等 の 評 価 がなされていると 言 え よう. 上 記 7 出 力 項 目 について, 星 野 ジャパン 第 一 次 候 補 選 手 の 捕 手 野 手 31 名 を 対 象 として 今 期 前 半 戦 終 了 時 に 当 たる 7 月 18 日 付 けでの 打 撃 成 績 10) か ら 求 めた 値 を 表 1 に 示 す. 表 1 より, 例 えば, 本 塁 打 率 については, 高 橋 由 が0.0685で 新 井 の 0.0684を 僅 差 であるが 上 回 り 最 上 位 に 位 置 してい る.また 打 点 率 では 新 井 が, 盗 塁 率 では 荒 木 が 最 上 位 となっている.これらの 本 塁 打 率, 打 点 率, 盗 塁 率 では,それぞれ 高 橋 由, 新 井, 荒 木 が 最 も 優 れていると 判 断 され,これを 基 準 として 他 の 選 手 の 効 率 値 を 求 めることとなる. ここで 表 1 にある 出 力 項 目 の 値 を 直 接 用 いて 選 手 の 効 率 性 の 良 さを 表 す 指 標 である DEA 効 率 値 を 算 出 してもよいのであるが, 各 出 力 項 目 間 での 値 のばらつきの 違 いの 影 響 を 排 除 し 各 出 力 項 目 を 均 等 に 扱 うために, 上 田 住 舎 17) と 同 様 に, 下 式 によって 出 力 項 目 i の 選 手 j に 関 する 標 準 化 され た 値 y ij を 求 め, 各 出 力 項 目 の 値 を 標 準 化 した. Y ij -min (Y ij ) j y ij = (1) max (Y ij )-min (Y ij ) j j ここで,Y ij は 出 力 項 目 i の 選 手 j に 関 する 値, max (Y ij )と min (Y ij )はそれぞれ 全 選 手 におけ る 出 力 項 目 i の 最 高 値 と 最 小 値 を 示 す.この 標 準 化 を 行 う 事 により, 各 項 目 の 最 高 値 は 1 になり, 最 小 値 は 0 になる. この 値 を 用 いて DEA 効 率 値 は 次 のように 計 算 できる.すなわち, 選 手 j o の 効 率 値 は, 出 力 項 目 i の 重 み u i と 選 手 j o の 標 準 化 された 出 力 y ijo と の 積 和 (2)を 制 約 式 (3)(4)の 下 で 最 大 化 するとい う 線 形 計 画 問 題 を 解 くことで 得 ることができる. 目 的 関 数 制 約 式 Max 7 i=1 7 i=1 u i y ijo (2) u i y ij 1 ( j=1, 2,, 31)(3) u i 0 (i=1, 2,, 6) (4) この 線 形 計 画 問 題 を 解 くと, 目 的 関 数 は 0 から 1 までの 値 をとることとなり,この 値 が DEA 効 率 値 となる. 今 回 の 例 では,DEA 効 率 値 1 かつ すべての u i が 正 の 選 手 は DEA 効 率 的 であり, 何 らかの 点 で 最 も 優 れた 能 力 を 有 している.DEA 効 率 値 が 0 以 上 1 未 満 の 選 手 は DEA 非 効 率 的 で あり, 自 分 よりも 優 れた 選 手 がいるなどの 理 由 に 3
4 順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) 表 1 第 一 次 候 補 選 手 の 出 力 項 目 に 関 するデータ No. 選 手 名 所 属 守 備 出 力 項 目 本 塁 打 率 打 点 率 盗 塁 率 打 率 長 打 率 出 塁 率 得 点 圏 打 点 1 青 木 ヤクルト OF 0.048 0.103 0.077 0.352 0.555 0.437 0.373 2 福 留 中 日 OF 0.048 0.138 0.035 0.294 0.520 0.443 0.318 3 高 橋 由 巨 人 OF 0.068 0.147 0.008 0.325 0.599 0.425 0.414 4 新 井 広 島 1B 3B 0.068 0.192 0.010 0.290 0.534 0.358 0.353 5 西 岡 ロッテ 2B SS 0.011 0.088 0.139 0.319 0.421 0.373 0.397 6 二 岡 巨 人 3B SS 0.030 0.155 0.010 0.281 0.411 0.326 0.405 7 荒 木 中 日 1B 2B 3B SS 0.000 0.048 0.185 0.245 0.275 0.295 0.277 8 中 島 西 武 3B SS 0.027 0.143 0.056 0.315 0.473 0.372 0.306 9 稲 葉 日 本 ハム OF 0.030 0.147 0.025 0.315 0.467 0.367 0.340 10 小 笠 原 巨 人 1B 3B 0.060 0.135 0.026 0.320 0.560 0.366 0.287 11 谷 巨 人 OF 0.026 0.105 0.063 0.332 0.476 0.372 0.377 12 阿 部 巨 人 C 0.063 0.173 0.009 0.293 0.530 0.368 0.324 13 大 村 ソフトバンク OF 0.003 0.070 0.065 0.334 0.379 0.356 0.329 14 梵 広 島 2B SS 0.017 0.067 0.115 0.251 0.347 0.314 0.167 15 宮 本 ヤクルト 2B SS 0.012 0.082 0.022 0.321 0.409 0.360 0.344 16 松 中 ソフトバンク 1B 0.043 0.140 0.000 0.267 0.469 0.375 0.225 17 井 端 中 日 2B 3B SS 0.009 0.080 0.096 0.278 0.368 0.346 0.347 18 鉄 平 楽 天 OF 0.025 0.102 0.056 0.259 0.379 0.314 0.346 19 村 田 横 浜 1B 2B 3B 0.045 0.135 0.000 0.284 0.486 0.365 0.289 20 和 田 西 武 OF 0.030 0.092 0.018 0.305 0.436 0.361 0.286 21 里 崎 ロッテ C 0.025 0.132 0.011 0.277 0.436 0.324 0.286 22 相 川 横 浜 C 0.005 0.079 0.000 0.288 0.354 0.369 0.327 23 多 村 ソフトバンク OF 0.034 0.128 0.010 0.275 0.437 0.346 0.280 24 今 江 ロッテ 2B 3B SS 0.028 0.132 0.000 0.269 0.414 0.299 0.286 25 村 松 オリックス OF 0.000 0.066 0.065 0.288 0.331 0.332 0.265 26 北 川 オリックス 1B 3B 0.020 0.107 0.029 0.272 0.389 0.308 0.284 27 鳥 谷 阪 神 3B SS 0.013 0.074 0.023 0.285 0.382 0.372 0.269 28 磯 部 楽 天 OF 0.006 0.087 0.044 0.279 0.357 0.330 0.244 29 今 岡 阪 神 1B 2B 3B SS 0.007 0.053 0.000 0.280 0.323 0.320 0.173 30 谷 繁 中 日 C 0.014 0.092 0.000 0.249 0.332 0.331 0.213 31 矢 野 阪 神 C 0.011 0.090 0.000 0.225 0.308 0.284 0.245 最 大 0.068 0.192 0.185 0.352 0.599 0.443 0.414 最 小 0.000 0.048 0.000 0.225 0.275 0.284 0.167 注 内 野 手 の 守 備 はベースボール マガジン 社 3) による. より 最 も 優 れている 選 手 とは 言 えない. 実 際 に は, 個 々の 選 手 j o ( j o =1, 2,,31)について 解 い ていくことで, 各 選 手 の DEA 効 率 値 とその 時 の 最 適 な 重 みが 計 算 できる... ス コ ア リ ン グ イ ン デ ッ クスによる 評 価 前 節 では,DEA について 概 説 したが, 本 節 で は SI について 述 べる.SI は 選 手 の 打 撃 能 力 の 指 標 であり, 同 一 打 者 が 繰 り 返 し 打 席 に 立 ったとし た 時 の 1 イニングでの 期 待 得 点 値 を 確 率 モデルを
順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) 5 用 いて 算 出 した 値 である. 選 手 を 得 点 能 力 という 観 点 から 一 律 に 評 価 できる 一 つの 指 標 であり,そ の 値 が 高 い 選 手 ほど 得 点 能 力 が 高 い 選 手 であると 言 える.SI 値 の 算 出 にあたっては, 打 撃 結 果 と それに 基 づく 走 者 の 進 塁 がD'Esopo and Lefkowitz モデル 1)6)8) に 従 うとしている.このモデル は, 表 2 に 示 すように,1 塁 打 2 塁 打 3 塁 打 本 塁 打 四 球 アウトというわずか 6 つの 打 撃 結 果 とその 際 の 進 塁 規 則 により 定 義 されてお り, 各 選 手 がこの 6 つの 打 撃 結 果 となる 確 率 さえ 決 めれば,SI は 計 算 できる 訳 である. 紙 幅 の 都 合 により 詳 述 はしないが, 例 えば, 各 選 手 が 1 塁 打 2 塁 打 3 塁 打 本 塁 打 四 球 アウトとな る 確 率 に 従 って 進 行 する 試 合 を 連 立 一 次 方 程 式 に て 表 現 し,それを 解 くことにより SI を 算 出 でき る 8).. ラインナップの 評 価 上 述 したように, 個 々の 選 手 は DEA 効 率 値 と SI という 異 なる 観 点 から 評 価 することが 可 能 と なるが, 本 節 では 選 手 個 々ではなくラインナップ としての 評 価 の 仕 方 について 述 べる.まず, 可 能 なラインナップについて 考 えてみると, 五 輪 での 野 球 は 指 名 打 者 制 であることから,ラインナップ として 成 立 するためには,まず 守 備 の 要 件 である 捕 手 (C), 一 塁 手 (1B), 二 塁 手 (2B), 三 塁 手 (3B), 遊 撃 手 (SS), 外 野 手 (OF)と 指 名 打 者 (DH)に 選 手 が 配 置 できることが 必 要 となる. 候 補 選 手 は 捕 手 内 野 手 外 野 手 別 に 選 抜 されて いるが, 本 研 究 では 内 野 手 は 1B,2B,3B,SSの 違 いを 考 慮 するべきであると 考 えて, 各 内 野 手 の 可 表 2 D Esopo and Lefkowitz モデル 打 撃 結 果 進 塁 規 則 1 塁 打 打 者 は 1 塁 へ.1 塁 走 者 は 2 塁 へ 進 塁 する. 2 3 塁 の 走 者 は 得 点 する. 2 塁 打 打 者 は 2 塁 へ.1 塁 走 者 は 3 塁 へ 進 塁 する. 2 3 塁 の 走 者 は 得 点 する. 3 塁 打 打 者 は 3 塁 へ.すべての 走 者 は 得 点 する. 本 塁 打 打 者 及 びすべての 走 者 が 得 点 する. 四 球 打 者 は 1 塁 へ.それに 伴 い 走 者 は 進 塁 する. アウト どの 走 者 も 進 塁 しない. 能 な 守 備 位 置 はベースボール マガジン 社 3) に 拠 ることにした. さらに,この 守 備 の 要 件 を 満 たすラインナップ について, 以 下 の 2 つの 観 点 から 評 価 していった. ) 選 手 の 多 様 性 DEA 効 率 的 な 選 手 は, 何 らかの 点 で 最 も 優 れ ており 特 長 のある 選 手 と 言 える.ここでは, DEA 効 率 的 な 選 手 の 数 が 多 い 方 が, 異 なるタイ プの 特 長 ある 選 手 が 揃 っており, 多 様 性 が 高 くラ インナップとして 優 れていると 判 断 することとし た. ) 得 点 能 力 9 選 手 からなるラインナップの 1 試 合 での 期 待 得 点 値 である SIL が 高 いほど, 得 点 能 力 が 優 れ ていると 判 断 することとした. なお,SIL は, 前 節 に 示 した SI の 計 算 と 同 様 に,D'Esopo and Lefkowitz モデルに 従 い 試 合 が 進 行 するという 前 提 で,9 選 手 の 打 順 の 推 移 を 勘 案 することにより 計 算 できる. 紙 幅 の 都 合 から, 具 体 的 な 計 算 方 法 は 廣 津 宮 地 8) を 参 照 されたい.. 結 果. 選 手 の 評 価 まず,2.1.1 節 で 述 べた 方 法 に 従 い, 表 1 に 示 した 本 塁 打 率, 打 点 率, 盗 塁 率, 打 率, 長 打 率, 出 塁 率, 得 点 圏 打 率 の 7 出 力 項 目 の 値 を(1) 式 に 基 づき 標 準 化 した 上 で,(2) (4)の 線 形 計 画 問 題 を 解 き 各 選 手 の DEA 効 率 値 を 求 めた 結 果 を 表 3 に 示 す. 同 表 に 示 すように, 青 木 福 留 高 橋 由 新 井 西 岡 二 岡 荒 木 の 7 名 の 選 手 が 効 率 値 1 かつすべての u i が 正 となり DEA 効 率 的 であ ると 判 定 された. 他 の 選 手 は 効 率 値 が 1 未 満 であ り DEA 非 効 率 的 と 判 断 され, 最 低 は 矢 野 で 効 率 値 0.35であった. また,2.1.2 節 で 述 べた 方 法 に 従 い, 各 選 手 の SI 値 を 算 出 した 結 果 を 表 3 に 併 記 している.SI の 定 義 からその 値 が 高 い 選 手 ほど 得 点 能 力 が 優 れ た 選 手 であるといえる. 例 えば, 青 木 は SI 値 が 1.05 点 であり, 青 木 が 繰 り 返 し 打 席 に 立 ったな らば 計 算 上 1 イニング 当 たり 1.05 点 得 点 できる ことを 意 味 する. 表 3 からわかるように,SI 上
6 順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) 表 3 第 一 次 候 補 選 手 の DEA 効 率 値 と SI 値 およびラインナップの 例 No. 選 手 DEA SI ラインナップ 効 果 値 参 照 集 合 SI 値 ( 順 位 ) A A B B C C D D E E F F G G H H 1 青 木 1 1.05( 1) 2 福 留 1 1.00( 2) 3 高 橋 由 1 0.98( 3) 4 新 井 1 0.75( 5) 5 西 岡 1 0.62(12) 6 二 岡 1 0.49(18) 7 荒 木 1 0.26(31) 8 中 島 0.997 青 木 新 井 西 岡 0.64(10) 9 稲 葉 0.96 青 木 高 橋 由 新 井 0.62(11) 10 小 笠 原 0.95 青 木 高 橋 由 新 井 0.78( 4) 11 谷 0.95 青 木 高 橋 由 西 岡 0.68( 8) 12 阿 部 0.93 青 木 福 留 高 橋 由 新 井 0.74( 6) 13 大 村 0.86 青 木 0.48(20) 14 梵 0.83 青 木 新 井 荒 木 0.39(27) 15 宮 本 0.81 青 木 高 橋 由 0.53(16) 16 松 中 0.79 福 留 新 井 0.69( 7) 17 井 端 0.78 高 橋 由 西 岡 0.46(21) 18 鉄 平 0.76 高 橋 由 新 井 西 岡 二 岡 0.42(24) 19 村 田 0.73 福 留 高 橋 由 新 井 0.64( 9) 20 和 田 0.67 青 木 高 橋 由 0.61(13) 21 里 崎 0.67 青 木 高 橋 由 新 井 0.49(19) 22 相 川 0.65 高 橋 由 0.51(17) 23 多 村 0.64 青 木 福 留 高 橋 由 新 井 0.55(14) 24 今 江 0.62 高 橋 由 新 井 0.43(23) 25 村 松 0.58 青 木 西 岡 0.38(28) 26 北 川 0.57 青 木 高 橋 由 新 井 西 岡 0.41(26) 27 鳥 谷 0.57 青 木 福 留 0.55(15) 28 磯 部 0.54 青 木 新 井 西 岡 0.43(22) 29 今 岡 0.43 青 木 0.35(29) 30 谷 繁 0.39 福 留 新 井 0.41(25) 31 矢 野 0.35 新 井 二 岡 0.29(30) DEA 効 率 的 な 選 手 数 7 6 5 4 3 2 1 0 期 待 得 点 値 (SIL) 最 大 6.61 7.07 7.24 7.24 7.17 6.80 6.42 6.32 最 小 5.28 4.72 4.27 3.84 3.52 3.36 3.29 3.46 位 は,プロ 野 球 屈 指 の 好 打 者 により 占 められてい る. なお, 表 3 から 読 み 取 れるように 青 木 福 留 高 橋 由 新 井 は DEA 効 率 的 でありかつ SI 値 も 高 いが, 小 笠 原 は SI 値 4 位 と 新 井 を 上 回 るもの の 効 率 値 は 0.95 であり DEA 非 効 率 的 と 判 断 され ている.この 理 由 として, 小 笠 原 の 7 出 力 項 目 で の 成 績 が, 青 木 高 橋 由 新 井 3 選 手 を 組 み 合 わ せて 得 られる 成 績 よりも 劣 っており, 小 笠 原 の 特 長 を 見 いだせないことが 挙 げられる.すなわち, DEA 非 効 率 的 な 選 手 には, 成 績 が 優 越 されると いう 意 味 で,その 選 手 を 代 替 できるような DEA 効 率 的 な 選 手 群 が 存 在 する.このような 選 手 群 は 参 照 集 合 と 呼 ばれており, 表 3 の 参 照 集 合 の 欄 に 記 載 している. 小 笠 原 の 参 照 集 合 は 青 木 高 橋 由 新 井 の 3 選 手 であるが, 大 村 のように 青 木 だけという 選 手 もいる.ちなみに, 大 村 は 表 1 か ら 察 することができるように 7 出 力 項 目 について 青 木 と 似 たような 特 性 をもつといえるが,すべて の 点 で 劣 っている. 別 の 言 い 方 をすれば,DEA 非 効 率 的 な 選 手 に 着 目 した 時, 参 照 集 合 はその 選 手 の 特 性 を 延 ばす 方 向 に 位 置 するような DEA 効 率 的 な 選 手 群 を 示 しているとも 言 える.. ラインナップとしての 評 価 次 に,ラインナップとしての 評 価 の 結 果 につい て 述 べる. 守 備 の 要 件 を 満 たすラインナップにつ
順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) 7 いて,1) 選 手 の 多 様 性,2) 得 点 能 力,という 観 点 から 策 定 した 結 果 が 表 3 に 例 示 されている.A, A, B,B の 記 号 で 示 された 欄 で* 印 のついた 選 手 がそれぞれのラインナップに 入 っている. 例 えば,A は DEA 効 率 的 な 選 手 7 名 全 員 を 揃 えた 上 で, 他 2 名 を SI の 上 位 から 小 笠 原 阿 部 と 順 に 選 ぶことにより SIL が 6.61 点 と 最 大 になるラ インナップである.A は 逆 に 他 2 名 を 矢 野 今 岡 としたもので,DEA 効 率 的 な 選 手 7 名 を 揃 え た 中 では SIL が 最 小 の5.28 点 となっている.B は DEA 効 率 的 な 選 手 数 を 6 名 とした 時 に,SIL が 最 大 となるラインナップで,B は 逆 に 最 小 となる ラインナップである. 以 下 同 様 に,C, C, D, D と 示 されている. 表 3 より,SIL は 効 率 的 な 選 手 が 4 名 のとき 最 大 で7.242 点 となる.この 時 のラインナップは D 欄 に 示 される 選 手 からなり,SI の 上 位 から 順 に ( 谷 を 除 いた)9 名 が 選 抜 された 構 成 となってい る.. 考 察. 選 手 の 評 価 まず, 各 選 手 の 評 価 結 果 について 考 察 する. 選 手 ごとに DEA 効 率 値 と SI 値 との 関 係 を 図 示 し たものが 図 1 である. 同 図 より, 全 般 的 に DEA 効 率 値 が 低 いと SI 値 も 低 くなるという 傾 向 があ り,DEA 効 率 値 が 低 いが SI 値 が 極 端 に 高 いとい うタイプの 選 手 は 存 在 しないことが 分 かる. なお, 表 1 から 読 み 取 れるが, 青 木 は 打 率 で, 福 留 は 出 塁 率 で, 高 橋 由 は 本 塁 打 率 長 打 率 得 点 圏 打 率 で, 新 井 は 打 点 率 で, 荒 木 は 盗 塁 率 で, それぞれ 最 上 位 であることから DEA 効 率 的 と 判 断 されている.また, 西 岡 は 盗 塁 率 が 2 位 で 得 点 圏 打 率 が 3 位 であり, 二 岡 は 得 点 圏 打 率 が 2 位 で 打 点 率 が 3 位 であるという 点 で,それぞれ 特 長 を 有 しており DEA 効 率 的 と 判 断 されている.. ラインナップとしての 評 価 次 に,ラインナップとしての 評 価 結 果 である が,まず 表 3 の 各 ラインナップについて,DEA 効 率 的 な 選 手 数 と SIL 値 を 2 軸 として 図 示 する と 図 2 のようになる.3.2 節 で 述 べたように SIL 図 1 DEA 効 率 値 と SI 値 の 関 係 値 は DEA 効 率 的 な 選 手 数 が 4 のとき 最 大 となっ ている.DEA 効 率 的 な 選 手 数 を 4 から 7 に 増 加 させると, 選 手 の 多 様 性 という 点 では 向 上 するが, SIL の 最 大 値 は 低 下 する.その 最 大 値 を 実 現 する ラインナップも 図 中 に 明 示 している. このように 選 手 の 多 様 性 を 向 上 させると SIL の 最 大 値 は 逆 に 低 下 するが, 図 2 で 示 したこの 境 界 に 位 置 するラインナップ A, B, C, D について は, 多 様 性 と 得 点 能 力 という 点 でトレードオフの 状 況 にあり,どれがよいかという 判 断 は 難 しい. ただ, 他 の 膨 大 な 数 のラインナップと 比 較 して 相 対 的 に 優 れており, 少 なくともこの 4 例 に 絞 り 込 むことができたことでも 十 分 ではないかと 思 われ る.また,より 複 雑 になるので 本 稿 では 示 しては いないが, 監 督 コーチからの 要 請 があれば,こ の 境 界 近 くに 位 置 するラインナップ 群 を 十 数 ~ 数 十 例 を 提 示 することも 可 能 であり,ラインナップ を 絞 り 込 む 際 の 参 考 になると 思 われる. 逆 に, 本 手 法 を 利 用 することで, 多 様 性 が 小 さ くかつ 得 点 能 力 の 低 いラインナップも 明 示 するこ とも 可 能 であり, 優 れたラインナップとの 違 いを 定 量 的 に 把 握 することもできる. 例 えば,SIL が 最 小 となるラインナップ G は DEA 効 率 的 な 選 手 としては 荒 木 が 入 っているだけで,SIL 値 は 3.29 点 となっている. 今 回 のように 優 れた 候 補 選
8 順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) 図 2 効 率 的 な 選 手 数 と 期 待 得 点 値 (SIL 値 )の 関 係 手 の 中 からの 選 抜 であっても SIL の 観 点 からは 最 大 と 最 小 で 4 点 近 くもの 開 きが 出 てくることが わかる. なお, 打 順 による 得 点 能 力 の 違 いについては, 概 ね0.2~0.3 点 程 度 であり, 打 順 よりも 選 手 選 定 の 方 がSIL への 影 響 が 大 きい. 打 順 について は, 伝 統 的 に 1 番 打 者 は 出 塁 率 が 高 い 方 がよいな ど,1~9 番 それぞれに 望 まれる 打 者 のタイプが あり, 上 田 住 舎 17) はアンケート 調 査 を 用 いて 各 番 の 望 まれるタイプを 考 慮 した 形 で, 打 順 選 定 に DEA を 利 用 した 分 析 を 行 っている.ただ, 上 述 したように 打 順 よりも 選 手 選 定 の 方 が SIL への 影 響 が 極 めて 大 きいので 今 回 は 割 愛 した.ちなみ に, 打 順 については A, B, C, D のどれについて も SI 値 の 最 も 高 い 青 木 が 2 番 に 配 置 されており, 2 番 打 者 の 重 要 性 を 指 摘 している 先 行 研 究 の 結 果 4)8) と 一 致 している. また, 今 回 は 守 備 可 能 位 置 をベースボール レ コードブック 3) に 拠 ったが, 例 えば, 村 田 は 内 野 手 として 選 抜 されているものの, 今 期 前 半 戦 につ いては 2B として 一 度 も 守 備 していないので 疑 問 視 する 方 があるかもしれない.そこで 今 期 前 半 戦
順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) で 2B を 守 備 している 内 野 手 として, 村 田 の 代 わ りに 荒 木 を 起 用 すると SIL の 最 大 が6.83 点 と 低 下 する.また, 逆 に 内 野 手 が 内 野 ならどこでも 守 備 可 能 とするならば,SI 上 位 9 名 からなるライン ナップを 組 むことができ SIL は 最 大 で7.28 点 とな る. 星 野 監 督 は 今 回 は 短 期 決 戦 のため 守 りを 優 先 させて 選 手 選 抜 したようであるが,このように 守 備 位 置 の 可 否 などの 要 因 により 想 定 されるライン ナップは 変 わる.また 今 回 は 今 期 前 半 戦 での 成 績 に 基 づき 出 力 項 目 の 値 を 決 めたが,いつの 時 点 で のデータを 用 いるかということでも 選 手 の 評 価 に 影 響 するであろう.やはり, 本 手 法 を 用 いる 際 に は, 最 終 的 には 監 督 コーチと 計 算 結 果 のやりと りをしながら 絞 り 込 みをしていくことが 望 ましい と 言 えよう.. 結 論 以 上, 星 野 ジャパン 第 一 次 候 補 選 手 を 例 とし て, 各 選 手 を DEA 効 率 値 と SI の 観 点 から 評 価 するとともに,ラインナップについて, 従 来 の SIL による 得 点 能 力 だけでなく,DEA により 選 手 の 多 様 性 も 加 味 した 形 で 評 価 し 策 定 していく 方 法 を 提 示 した.その 結 果, 得 点 能 力 という 点 では SIL は 最 大 7.24 点 が 可 能 となるが,DEA 効 率 的 な 選 手 数 は 4 名 に 留 まることを 示 した.DEA 効 率 的 な 選 手 数 を 4 から 7 に 増 加 させて, 選 手 の 多 様 性 を 向 上 させると SIL の 最 大 値 は 逆 に SIL は 6.61 点 まで 減 少 し, 具 体 的 なラインナップも 例 示 した.また,SIL が 最 小 の3.29 点 となるラインナ ップも 明 示 し, 打 順 の 影 響 も0.2~0.3 点 程 度 であ ることも 示 した. 本 稿 で 示 した 手 法 を 用 いると,ラインナップと その 能 力 が 具 体 的 にかつ 定 量 的 に 明 示 されるの で, 監 督 コーチはこれを 参 考 にして, 数 値 化 で きない 部 分 に 自 らの 主 観 を 加 えて,より 良 い 総 合 判 断 を 下 すことができるかもしれない. 本 手 法 が, 監 督 コーチの 裁 量 をより 生 かすための 補 助 的 な 役 割 を 果 たすようになればと 願 っている. なお, 今 回 はデータが 豊 富 で 数 学 的 に 扱 いやす い 攻 撃 能 力 に 焦 点 を 当 てて 解 を 得 たが, 現 実 には 投 手 の 能 力 や 守 備 能 力 も 数 値 化 し 考 慮 していくこ 9 とでラインナップを 選 定 するなど, 今 後 の 課 題 も 残 されている.また,DEA の 出 力 項 目 をどのよ うに 選 定 するかなどという 点 でも 研 究 をさらに 進 める 必 要 があると 思 われる. 例 えば, 同 系 統 の 項 目 を 主 成 分 分 析 を 利 用 してまとめることや 16), 過 去 データから 勝 利 への 貢 献 度 合 いなどを 調 査 し 出 力 項 目 の 重 みが 取 りうる 値 の 範 囲 を 領 域 限 定 法 11)14) により 設 定 することなども 可 能 であろう. 今 後,DEA をスポーツに 応 用 する 研 究 は 益 々 発 展 していくと 思 われるが, 現 実 に 役 に 立 つ 手 法 の 構 築 を 目 指 して, 選 手 チームの 評 価 などができ るように 応 用 研 究 を 進 めていきたいと 考 えている. なお,アジア 予 選 の 最 終 候 補 は10 月 に 決 定 する 予 定 であり,アジア 予 選 での 最 終 ラインナップや 実 際 の 試 合 結 果 と 比 較 するなど, 引 き 続 き 分 析 を 進 めていく 予 定 である. [ 本 研 究 は, 文 科 省 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 研 究 (A) 課 題 番 号 18201030の 助 成 を 受 け 実 施 してい る.] 文 献 1) アルバート,J., ベネット,J.(2004)メジャーリー グの 数 理 科 学 下,シュプリンガー 数 学 リーディ ングス, 第 2 巻, 東 京,シュプリンガーフェアラー ク.( 後 藤 寿 彦 監 修, 加 藤 貴 昭 訳 ) 2) Anderson, T. R. and Sharp, G. P. (1997) Anew measure of baseball batters using DEA, Annals of OR 73, 141 155. 3) ベースボール マガジン 社 編 (2006)2007ベース ボール レコード ブック. 東 京,ベースボール マガジン 社,2006. 4) Bukiet,B.,Harold,E.R.andPalacios,J.L.(1997) A Markov chain approach to baseball. Operations Research 45, 14 23. 5) Cover, T. M. and Keilers, C. W. (1977) An ošensive earned-run average for baseball. Operations Research 25, 729 740. 6) D'Esopo, D. A. and Lefkowitz, B. (1977) The distribution of runs in the game of baseball, In Optimal Strategies in Sports (S. P. Ladany and R. E. Machol, eds.),
10 順 天 堂 大 学 スポーツ 健 康 科 学 研 究 第 12 号 (2008) Amsterdam, North-Holland. 7) 橋 本 昭 洋 (1993)DEA による 野 球 打 者 の 評 価. オペレーションズ リサーチ 38, 146 153. 8) 廣 津 信 義, 宮 地 力 (2004) 野 球 チームのライン ナップ 選 定 のための 数 理 的 一 手 法 日 本 代 表 チーム の 選 定 を 例 として.オペレーションズ リサーチ 49, 380 389. 9) 木 下 栄 蔵 (1992) 野 球 に 勝 てる 数 学 数 字 から 見 た 勝 つための 条 件. 東 京, 電 気 書 院. 10) サンケイスポーツ 公 式 サイト http://www.sanspo.com/baseball/baseball.html 11) 末 吉 俊 幸 (2001)DEA 経 営 効 率 分 析 法. 東 京, 朝 倉 書 店. 12) 末 吉 俊 幸 山 岸 晋 作 (1997)DEA/OERA に 基 づ く 野 球 選 手 の 評 価. 経 営 システム 7, 41 51. 13) Sueyoshi, T., Ohnish, K. and Kinase, Y. (1999) A Benchmark Approach for Baseball Evaluation. European Journal of Operational Research 115, 429 448. 14) 刀 根 薫 (1993) 経 営 効 率 性 の 測 定 と 改 善 包 絡 分 析 法 DEA による. 東 京, 日 科 技 連. 15) 刀 根 薫, 上 田 徹 監 訳 (2000) 経 営 効 率 評 価 ハン ドブック. 東 京, 朝 倉 書 店. 16) Ueda,T.andHoshiai,Y. (1997) Application of Principal Component Analysis for Parsimonious Summarization of DEA Inputs and/or Outputs. Journal of the Operations Research Society of Japan 40, 466 478. 17) 上 田 徹, 住 舎 俊 宏 (2002)どの 野 球 選 手 の 攻 撃 力 が 優 れているだろうか.オペレーションズ リ サーチ,47, 137 141. 平 成 19 年 10 月 2 日 平 成 19 年 12 月 13 日 受 付 受 理