18.9.29 利 回 り 法 における 継 続 賃 料 利 回 りについての 考 察 小 林 達 哉 1. 不 動 産 鑑 定 評 価 基 準 に 基 づく 算 式 基 礎 価 格 継 続 賃 料 利 回 り+ 価 格 時 点 における 必 要 諸 経 費 等 2. 不 動 産 鑑 定 評 価 基 準 における 基 礎 価 格 必 要 諸 経 費 等 及 び 継 続 賃 料 利 回 りの 内 容 (1) 基 礎 価 格 及 び 必 要 諸 経 費 等 の 求 め 方 については 積 算 法 に 準 ずるものとする (2) 継 続 賃 料 利 回 りについては 現 行 賃 料 を 定 めた 時 点 における 基 礎 価 格 に 対 する 純 賃 料 の 割 合 を 標 準 とし 契 約 締 結 時 及 びその 後 の 賃 料 改 定 時 の 利 回 り 基 礎 価 格 の 変 動 の 程 度 近 隣 地 域 内 若 しくは 同 一 需 給 圏 内 の 類 似 地 域 における 対 象 不 動 産 と 類 似 の 不 動 産 の 賃 貸 借 等 の 事 例 又 は 同 一 需 給 圏 内 の 代 替 競 争 不 動 産 の 賃 貸 借 等 の 事 例 における 利 回 りを 総 合 的 に 比 較 考 量 して 求 める 3. 論 点 の 抽 出 及 び 展 開 (1) 基 礎 価 格 に 関 しては 元 本 市 場 における 価 格 を 賃 貸 市 場 において 基 礎 とすること の 矛 盾 点 いいかえると( 少 なくとも 需 要 者 側 は) 市 場 における 認 識 がない 観 点 か ら 理 論 的 に 導 くのは 小 手 先 であること (2) 上 記 1(1)における 価 格 時 点 における 必 要 諸 経 費 等 は 2(2)において 積 算 法 に 準 ずると 記 載 されている 1 積 算 法 ( 利 回 り 法 )における 必 要 諸 経 費 等 ア 減 価 償 却 費 イ 維 持 管 理 費 ( 維 持 費 管 理 費 修 繕 費 等 ) ウ 公 租 公 課 ( 固 定 資 産 税 都 市 計 画 税 等 ) エ 損 害 保 険 料 ( 火 災 機 械 ボイラー 等 の 各 種 保 険 ) オ 貸 し 倒 れ 準 備 費 カ 空 室 等 による 損 失 相 当 額 以 上 が 記 されている 1
必 要 諸 経 費 等 の 内 容 に 関 しては 地 代 家 賃 の 別 によって 異 なると 考 えられるが さらに 家 賃 に 関 しては 用 途 ( 住 居 系 事 務 所 系 店 舗 系 ) 契 約 内 容 によって も 大 きく 異 なってくる 2 最 近 の 賃 貸 物 件 における 必 要 諸 経 費 等 さらに 家 賃 については 最 近 の 不 動 産 証 券 化 の 進 展 により J-Reit ファ ンド 用 不 動 産 における 必 要 諸 経 費 等 は 下 記 のように 分 解 されている ア BM( 建 物 維 持 管 理 費 - 人 件 費 エレベーター 管 理 費 警 備 費 用 消 防 対 策 費 清 掃 費 ゴミ 処 分 費 用 等 ) イ 水 道 光 熱 費 ( 電 気 ガス 水 道 下 水 道 代 金 ソーラーシステム 管 理 費 自 家 発 電 費 用 地 域 冷 暖 房 システム 費 用 ) ウ PM( 不 動 産 管 理 費 - テナント 管 理 テナント 募 集 管 理 ) エ AM( 資 産 管 理 費 - 毎 月 の 賃 貸 状 況 報 告 決 算 報 告 将 来 的 な 企 画 中 長 期 計 画 ) 但 し AMに 関 しては 信 託 報 酬 と 同 様 に 不 動 産 そのものに 必 要 な 費 用 ではないため 除 外 すべきであるとの 意 見 もある オ 広 告 宣 伝 費 仲 介 手 数 料 ( 賃 貸 募 集 費 用 賃 貸 仲 介 費 用 ) カ 原 状 回 復 費 用 ( 退 去 時 において 敷 金 保 証 金 で 補 填 されない 部 分 ) キ 公 租 公 課 ( 土 地 建 物 の 固 定 資 産 税 都 市 計 画 税 償 却 資 産 の 固 定 資 産 税 ) ク 損 害 保 険 料 ( 火 災 機 械 ボイラーの 各 種 保 険 店 舗 総 合 保 険 地 震 保 険 ) ケ 経 常 的 な 修 繕 費 用 ( 費 用 的 支 出 ) コ 中 長 期 修 繕 費 用 ( 資 本 的 支 出 ) 上 記 クの 地 震 保 険 は 含 めないこともある 上 記 ケとコは 分 解 が 困 難 で 一 緒 のこ とがある 上 記 1アの 減 価 償 却 費 は 2においては 考 慮 されず 還 元 利 回 りを 償 却 率 を 含 め たものにすることによっている( 但 し 中 長 期 修 繕 費 の 大 小 との 関 係 はある ) 上 記 1オの 貸 し 倒 れ 準 備 費 もNCFを 考 察 する 場 合 において その 算 定 根 拠 が 困 難 である 等 の 理 由 から2においては 必 要 諸 経 費 等 として 含 めていないことが 多 い 上 記 1カについては 総 収 入 の 段 階 で 差 し 引 いている 場 合 が 多 い 上 記 より 家 賃 の 必 要 諸 経 費 等 に 関 しては 上 記 1と2の 考 え 方 が 大 きく 異 なり 最 近 の 不 動 産 市 場 におけるいわゆる 収 入 支 出 をALLIN-ALLOUT 方 式 で 把 握 するNCFベースの 考 え 方 に 鑑 定 評 価 基 準 上 で 列 挙 されている 必 要 諸 経 費 等 が 現 実 に 即 していない 面 が 否 定 できない 2
(3) 現 行 賃 料 を 定 めた 時 点 における 基 礎 価 格 に 対 する 純 賃 料 の 割 合 を 標 準 とすること に 関 する 時 間 的 把 握 の 困 難 性 1 最 近 におけるケース 最 近 行 った 店 舗 の 継 続 賃 料 の 鑑 定 評 価 において 以 下 のような 場 合 があった 昭 和 55 年 4 月 1 日 建 物 賃 貸 借 契 約 締 結 : 月 額 賃 料 1,000,000 円 共 益 費 200,000 円 保 証 金 5,000,000 円 平 成 6 年 4 月 1 日 建 物 賃 貸 借 契 約 締 結 : 月 額 賃 料 800,000 円 共 益 費 400,000 円 保 証 金 5,000,000 円 平 成 16 年 4 月 1 日 建 物 賃 貸 借 契 約 締 結 : 月 額 賃 料 800,000 円 共 益 費 400,000 円 保 証 金 5,000,000 円 平 成 17 年 10 月 1 日 貸 主 が 借 主 に 対 して 月 額 賃 料 の 大 幅 アップを 要 求 (800,000 円 1,200,000 円 他 の 条 件 は 同 様 ) このような 場 合 は 共 益 費 を 併 せた 月 額 賃 料 との 合 計 額 が 現 行 賃 料 と 同 じだった 昭 和 55 年 が 現 行 賃 料 を 定 めた 時 点 とすべきなのか 月 額 賃 料 及 び 共 益 費 がそれぞれ 同 額 となった 平 成 6 年 4 月 1 日 なのか 直 近 の 現 行 賃 料 改 定 時 である 平 成 16 年 4 月 1 日 であるのか 混 乱 がある 2 上 記 1に 関 する 考 察 上 記 ケース 毎 に 考 察 すると 以 下 のとおりである 昭 和 55 年 4 月 1 日 を 基 準 とする 考 え 方 土 地 及 び 建 物 価 格 の 変 動 物 価 変 動 所 得 水 準 の 変 動 等 を 示 す 各 種 指 数 等 の 開 きが 大 きく 変 動 率 適 用 に 際 しての 妥 当 性 が 欠 ける 但 し 月 額 賃 料 共 益 費 等 を 合 計 した 総 収 入 から 賃 貸 収 入 を 把 握 していこうとするい わゆるALLIN-ALLOUT 方 式 の 観 点 からは 総 収 入 の 数 値 が 変 化 していない 昭 和 55 年 4 月 1 日 を 基 準 とすることに 一 定 の 合 理 性 が 認 められる 平 成 6 年 4 月 1 日 を 基 準 とする 考 え 方 土 地 及 び 建 物 価 格 の 変 動 物 価 変 動 所 得 水 準 の 変 動 等 を 示 す 各 種 指 数 等 の 開 きは あるが 実 際 の 月 額 賃 料 及 び 共 益 費 が 現 行 賃 料 に 改 定 されたこの 時 点 を 基 準 とするこ とは 賃 料 改 定 時 と 鑑 定 評 価 時 点 との 変 動 率 を 把 握 するという 基 準 の 本 来 の 趣 旨 に 合 致 しており 合 理 性 がある 3
平 成 16 年 4 月 1 日 を 基 準 とする 考 え 方 直 近 の 契 約 更 新 時 点 において 関 係 当 事 者 が 月 額 賃 料 及 び 共 益 費 等 の 契 約 条 件 につ いて 合 意 しているという 観 点 から 鑑 みると 現 行 賃 料 を 定 めた 直 近 の 時 点 は 平 成 6 年 4 月 1 日 ではなく 平 成 16 年 4 月 1 日 である 賃 貸 借 契 約 は 月 額 賃 料 共 益 費 等 の 金 額 的 条 件 が 中 心 とはいえ 契 約 期 間 更 新 条 件 退 去 手 続 き 等 に 関 しての 内 容 変 更 をも 伴 うものであり それらの 条 件 が 月 額 賃 料 共 益 費 に 包 含 されている また 直 近 の 契 約 更 新 時 点 を 基 準 にすると 変 動 率 の 比 較 も 容 易 で 説 得 性 のあるものとなる 3 結 論 直 近 の 契 約 更 新 時 点 において 関 係 当 事 者 が 月 額 賃 料 及 び 共 益 費 等 の 契 約 条 件 につ いて 合 意 しているという 観 点 を 重 視 し 上 記 のケースにおいては 平 成 16 年 4 月 1 日 を 基 準 とすべき 考 え 方 に 近 いが そもそも 契 約 当 初 から 月 額 賃 料 + 共 益 費 という 総 収 入 が 同 一 であるというところに 継 続 賃 料 としての 設 定 に 関 する 紛 争 が 生 ずる 要 因 となっていることをも 鑑 み 平 成 6 年 4 月 1 日 の 場 合 昭 和 55 年 4 月 1 日 の 場 合 に おける 変 動 率 も 併 記 して 結 果 を 比 較 検 討 してみるべきであると 考 える 4. 契 約 締 結 時 及 びその 後 の 賃 料 改 定 時 の 利 回 り 基 礎 価 格 の 変 動 の 程 度 近 隣 地 域 内 若 しくは 同 一 需 給 圏 内 の 類 似 地 域 における 対 象 不 動 産 と 類 似 の 不 動 産 の 賃 貸 借 等 の 事 例 又 は 同 一 需 給 圏 内 の 代 替 競 争 不 動 産 の 賃 貸 借 等 の 事 例 における 利 回 りを 総 合 的 に 比 較 考 量 して 求 める (1) 契 約 締 結 時 及 びその 後 の 賃 料 改 定 時 の 利 回 り 相 当 期 間 が 経 過 している 場 合 は 価 格 時 点 との 関 連 性 が 乏 しくなり 殆 ど 参 考 にすることが 出 来 ない (2) 基 礎 価 格 の 変 動 の 程 度 同 上 (3) 近 隣 地 域 内 若 しくは 同 一 需 給 圏 内 の 類 似 地 域 における 対 象 不 動 産 と 類 似 の 不 動 産 の 賃 貸 借 等 の 事 例 又 は 同 一 需 給 圏 内 の 代 替 競 争 不 動 産 の 賃 貸 借 等 の 事 例 におけ る 利 回 り これらの 利 回 り 把 握 は 市 場 賃 料 を 意 識 することの 重 要 性 を 意 図 しているが 市 場 賃 料 は 純 賃 料 + 必 要 諸 経 費 等 の 最 終 的 な 次 元 においてしか 把 握 されないため 仮 にこれらの 元 本 価 格 を 適 切 に 把 握 できるとしても 必 要 諸 経 費 等 を 判 断 するのは 困 難 であり 収 益 純 賃 料 を 求 める 次 元 における 継 続 賃 料 利 回 りの 妥 当 性 の 検 証 が 難 しい また これらの 市 場 賃 料 は 新 規 賃 料 であることが 殆 どであ ると 思 われる 4
5. 継 続 賃 料 利 回 りに 関 する 一 考 察 利 回 り 法 がテクニカルな 手 法 であるゆえ 市 場 における 上 記 4(3)の 検 証 は 必 要 不 可 欠 であり そのためには 基 礎 価 格 継 続 賃 料 利 回 り( 必 要 諸 経 費 等 の 割 合 を 含 む )の 算 式 が 自 然 である なお 契 約 締 結 時 においても 必 要 諸 経 費 等 の 割 合 を 含 む 継 続 賃 料 利 回 りを 求 め その 割 合 を 基 礎 価 格 に 乗 ずるのは ひとえに 基 礎 価 格 の 変 動 率 に 結 果 が 左 右 され るため 実 際 実 質 賃 料 ( 実 際 支 払 賃 料 ) 現 行 賃 料 を 定 めた 時 点 における 実 際 実 質 賃 料 又 は 実 際 支 払 賃 料 に 即 応 する 適 切 な 変 動 率 (スライド 率 )を 採 用 する 場 合 のス ライド 法 において 変 動 率 を 基 礎 価 格 の 変 動 率 とした 場 合 と 同 様 な 結 果 になる こ のことは いわゆる 利 回 り 法 はスライド 法 の 一 種 であるといわれる 一 因 と 考 えられ る いずれにしても 利 回 り 法 において その 継 続 賃 料 利 回 りの 合 理 性 を 市 場 賃 料 と 比 較 検 討 して 把 握 する 作 業 は 困 難 であり 結 果 として 賃 貸 事 例 比 較 法 等 の 他 の 手 法 により 求 めたものから 逆 算 して 継 続 賃 料 利 回 りを 判 断 せざるを 得 ない しかし その 弊 害 を 除 き 利 回 り 法 を 独 立 した 手 法 として 存 在 感 があるものにす るためには むしろ 賃 料 改 定 時 における 継 続 賃 料 利 回 りの 修 正 を 価 格 時 点 にお いては 国 債 利 回 り Tibor 等 の 市 場 金 利 水 準 短 期 プライムレート 公 定 歩 合 等 の 金 利 市 場 の 変 動 を 基 に 修 正 すべきではないかと 考 える たとえば 賃 料 改 定 時 における 継 続 賃 料 利 回 り 2% 賃 料 改 定 時 における10 年 長 期 国 債 利 回 り 5% 賃 料 改 定 時 における 短 期 プライムレート 3.75% 賃 料 改 定 時 におけるTibor(3 月 ) 3.25% 価 格 時 点 における10 年 長 期 国 債 利 回 り 2% 価 格 時 点 における 短 期 プライムレート 1.75% 価 格 時 点 におけるTibor(3 月 ) 0.75% 上 記 のケースでは 金 利 水 準 はおおむね2~3% 低 下 しており 継 続 賃 料 利 回 りも その 程 度 低 下 すると 考 えるのか 合 理 的 な 説 明 は 困 難 であるが 金 利 水 準 の 半 分 程 度 1~1.5% 程 度 が 低 下 すると 考 えるのか といった 展 開 が 可 能 である 以 上 5