特 集 中 小 企 業 の 知 財 活 性 化 小 さな 企 業 のブランド 化 への 歩 みと 知 財 戦 略 有 限 会 社 竹 田 ブラシ 製 作 所 要 約 ( 有 ) 竹 田 ブラシ 製 作 所 は,1947 年 の 創 業 から 現 在 まで, 営 業 部 門 のない 小 さな 会 社 である よって どこ にもない 製 品 を 作 る 事 は 必 須 それが 今 の 世 界 初 世 界 一 の 品 質 への 志 に 繋 がっており, 今 まで 弁 理 士 2 人 の 手 助 けで,これらの 製 品 開 発 に 関 わる 構 造 や 意 匠,ロゴやブランドを 知 財 として 保 護 してきている こ れらの 会 社 規 模 を 越 えた 量 ( 経 費 )の 知 財 が,どのように 経 費 以 上 の 効 果 を 生 むのか,1989 年 の 世 界 初 世 界 一 の 品 質 の 両 方 を 持 つ 製 品 の 開 発 を 切 っ 掛 けに, 自 社 ブランドの 確 立 世 界 一 の 品 質 を 目 指 し ブ ランド 化 の 玄 関 口 に 辿 りつくに 至 った 経 緯 や,ブランド 名 Takeda Brush / 竹 田 ブラシ が 商 標 を 取 得 す るまでに 至 るまでの 経 緯, 知 財 を 活 用 しなかった 例 などを 参 考 に, 詳 細 に 述 べていく 目 次 1.はじめに 2. 地 域 産 品 としての 熊 野 筆 の 概 要 と 竹 田 ブラシ 3. 商 品 開 発 と 特 許 事 務 所 1 三 原 特 許 事 務 所 a)ロゴマーク b)リップブラシの 係 止 具 c) 押 出 式 紅 筆 における 穂 先 部 の 回 転 防 止 構 造 2 携 帯 用 スライド 式 チークブラシの 件 3 鈴 木 正 次 特 許 事 務 所 a) 化 粧 用 具, 及 び, 化 粧 品 の 収 納 ケース b) 開 口 部 の 開 閉 構 造 c)takeda Brush / 竹 田 ブラシの 商 標 4. 団 体 商 標 熊 野 筆 について a) 団 体 商 標 の 運 用 規 則 等 の 取 り 決 め b)ロゴマークの 策 定 c) 運 用 上 の 問 題 点 1.はじめに 2011 年 夏, 女 子 サッカーのワールドカップ 大 会 で, なでしこ JAPAN が 優 勝 それを 称 えて, 選 手 とス タッフを 含 めた 35 名 に 国 民 栄 誉 賞 が 贈 られた その 副 賞 となった 化 粧 ブラシセットは, 弊 社 が 内 閣 府 から の 直 接 の 依 頼 で 製 作 納 品 したものだ 営 業 部 門 もない 小 さな 会 社 がこのような 名 誉 な 仕 事 を 受 注 できたのは, 非 常 に 運 が 良 かったとしか 言 いよ うもないが, 我 々が, 製 品 開 発 の 中 で 知 財 をフル 活 用 して ブランド 化 を 目 指 す 中 で 蒔 いた 多 くの 種 が, それぞれ 幸 運 に 導 かれるようにタイミング 良 く 芽 吹 い たという 見 方 もできるだろう 選 定 の 条 件 の 中 に, 都 内 に 店 舗 がある ( 新 宿 タカシマヤ 1F に 弊 社 の 直 営 店 Takeda Brush Hiroshima[2003 年 8 月 開 設 業 界 初 の 百 貨 店 内 常 設 店 舗 ]), 世 界 的 な 著 名 人 が 愛 用 している[ 品 質 への 信 頼 性 ] ( 海 外 の 世 界 的 有 名 女 優 の 愛 用,パリコレ 舞 台 裏 への 招 待 など)があったと 伝 え 聞 いている 銀 座 和 光 への 製 品 納 入 の 信 頼,そし て, 当 時, 弊 社 のマーケティングコンサルタントをお 願 いしていた 三 宅 曜 子 先 生 の 力 添 えも 大 きかった 弊 社 は, 現 在 までにいくつもの 世 界 初 の 製 品 群 を 作 り 出 しているが,その 構 造 や 意 匠,ロゴやブランドを 知 財 として 保 護 する 方 針 は,1976 年 頃 から 始 まった そして,ヨーロッパの 技 術 と 熊 野 筆 の 技 術 と 融 合 させ た 独 自 の 製 造 法 をはじめて 使 い, 商 標 登 録 された 弊 社 のロゴマークをデザインの 中 に 組 み 込 んだ 携 帯 用 リップブラシ( 毛 量 が 従 来 品 の 2 倍 形 状 も 当 初 珍 し いラウンド 型 世 界 初 )を 開 発 したのが 1989 年 であ り,この 時 から, 弊 社 は, 世 界 最 高 品 質 を 目 指 し 始 め た 以 後, 他 の 製 品 も 種 別 ごとの 改 良 を 繰 り 返 し,20 年 掛 けて,ようやく,ほぼ 完 成 に 近 づけた 前 述 の 銀 座 和 光 への 納 品,メイクアップアーティス トの 経 験 もある 三 宅 先 生 との 契 約,その 両 方 の 切 っ 掛 けとなったのが, 前 述 の 携 帯 用 リップブラシである そして, 銀 座 和 光 への 商 品 納 入 によって 生 まれた 出 会 いを 切 っ 掛 けに 開 始 した 全 国 の 百 貨 店 での 催 事 販 売, Vol. 69 No. 2 17 パテント 2016
化 粧 ブラシブームの 到 来,その 流 れに 乗 って, 都 内 ( 新 宿 )に, 直 営 店 舗 を 開 設 海 外 著 名 人 などの 顧 客 化 に 伴 い, 知 名 度 は 一 気 に 急 上 昇 した その 流 れのまま に,パリコレ 舞 台 裏 への 招 待 を 受 けた 一 方, 弊 社 のような 小 さな 会 社 が, 規 模 に 見 合 わぬ ほど 多 くの 知 財 を 活 用 している 事 で, 中 小 企 業 庁, 経 済 産 業 省 などの 目 にとまり, 国 の 地 域 資 源 活 用 を 目 指 す 様 々な 取 り 組 みの 中 での 協 力 をいただける 機 会 も 増 えた それぞれの 長 官, 大 臣 ( 当 時 )にもお 越 しいた だいた 事 もある 知 名 度 の 上 昇 も 相 まって,メディア への 露 出 も 増 えた 知 財 の 活 用 そのものが, 経 費 以 上 の 宣 伝 効 果 を 生 む 好 例 ではないだろうか そして,2007 年 に,ついに, 非 常 に 困 難 と 目 された, 竹 田 ブラシ/Takeda Brush の 商 標 の 取 得 に 成 功 し た 世 界 初 の 開 発 技 術 と 世 界 一 の 品 質 を 志 す 改 良 の 繰 り 返 しの 両 輪 が, 知 財 を 活 用 する 事 で 上 手 く 機 能 し, ブランド 化 の 玄 関 口 に 辿 りつくことができ た 2. 地 域 産 品 としての 熊 野 筆 の 概 要 と 竹 田 ブラシ 江 戸 時 代 後 期 の 熊 野 町 では, 農 閑 期 に 出 稼 ぎに 上 方 に 出 て, 帰 りに 筆 を 仕 入 れ, 行 商 するのが 一 般 的 であった 180 年 前 頃 に, 奈 良 などから 生 産 技 術 を 習 得 し, 村 人 に 広 めたのが 産 地 としての 起 こりと 伝 えら れている 原 材 料 が 地 域 内 に 無 いにも 拘 らず, 生 産 技 術 と 営 業 販 売 のノウハウのみで 産 地 として 成 り 立 っ ている 非 常 に 珍 しい 産 地 である 明 治 になり, 学 校 教 育 の 普 及 に 合 わせ, 分 業 による 効 率 的 な 量 産 体 制 をい ち 早 く 導 入 することに 成 功 し, 全 国 での 筆 産 地 として の 確 たる 地 位 を 築 き,1975 年 に 伝 統 的 工 芸 品 の 産 地 に 認 定 ( 当 時 : 通 商 産 業 大 臣 )された 伝 統 的 工 芸 品 指 定 製 品 は, 書 筆 のごく 一 部 であるが, 戦 後 に 生 ま れた 画 筆 と 化 粧 筆 などは, 技 法, 職 人, 原 料, 品 質 基 準 などは 各 社 全 く 異 なる このように 化 粧 筆 一 つとっ ても, 互 いに 全 く 異 なる, 多 種 多 様 な 技 術 体 系, 品 質 基 準 を 持 つ 会 社 が 集 まっているのも, 熊 野 の 大 きな 特 徴 と 言 える それらをまとめて 地 域 ブランド 化 する 意 図 に 加 え, 職 人 を 守 る 目 的 の 為,2004 年 12 月 に 熊 野 筆 事 業 協 同 組 合 が 団 体 商 標 熊 野 筆 を 取 得 した( 詳 細 は 後 述 ) 竹 田 ブラシは, 熊 野 町 初 の 化 粧 ブラシ( 刷 毛 ) 専 門 メーカー 竹 田 逸 雄 商 店 として 1947 年 1 月 に 創 業 国 内 の 卸 問 屋 小 売 店 向 けの 商 品 からスタートし, 1955 年 頃 から 商 社 を 通 しての 輸 出 を 開 始 徐 々に 輸 出 比 率 が 高 くなり,90%を 超 え,1970 年,ʼ71 年 には 輸 出 貢 献 企 業 として 通 商 産 業 大 臣 表 彰 を 受 けたが, ʼ71 年 のニクソンショック 以 降 の10 年 間 は 赤 字 1980 年 に 私 が 会 社 を 継 いだ 1975 年 頃 から, 世 界 市 場 を 視 野 に 据 えた 新 規 性 の 高 い 新 製 品 の 開 発 に 着 手 当 然, 特 許 や 実 用 新 案 でこれらを 守 る 必 要 性 も 生 まれた ま た, 業 界 的 に 下 請 孫 請 が 製 造 元 の 宿 命 であった この 時 期 だからこそ, 逆 に, 強 い 製 造 元 の 明 確 化 (ブランド 化 )という 意 識 の 下,その 一 歩 としてロゴ マークを 作 製 し 商 標 出 願 を 行 ったのは 1970 年 世 界 水 準 を 意 識 した 知 財 活 用 の 方 針 はこの 頃 からスター トした 1982 年 には 世 界 初 の 商 品 群 を 開 発 開 発 と 同 時 に 契 約 が 次 々に 決 まり, 大 量 生 産 の 時 代 も 経 験 し た 1986 年 あたりからメイクの 本 場 ヨーロッパの 技 術 を 導 入 しはじめ, 従 来 の 産 地 の 技 術 である 熊 野 筆 の 技 術 ( 和 の 技 術 )と 融 合 し, 今 までの 知 識 経 験 を 基 に, 独 自 の 技 法 品 質 基 準 の 基 礎 を 作 り, 徐 々に 世 界 一 の 品 質 を 目 指 す 方 向 への 方 針 転 換 を 開 始 した そし て,1989 年 に,ヨーロッパ 整 毛 のイタチ 毛 を 従 来 の 量 の2 倍 以 上 使 用 し, 新 しい 技 法 により, 穂 先 の 形 状 も 当 時 は 珍 しいラウンド 型 ( 先 端 を 山 形 )に 仕 上 げた 携 帯 用 リップブラシの 開 発 に 成 功 した これを 使 った 人 は,その 使 い 心 地 に 慣 れる 事 で, 二 度 と 他 社 の 製 品 を 使 えなくなる という 断 トツの 品 質 の 差 を 念 頭 にお いて 開 発 した 穂 先 が 本 体 ケースから 出 入 りする 携 帯 用 紅 筆 としては 世 界 初 の 商 品 と 考 えている 卸 販 売 の みであったこの 製 品 デザインの 中 にも,もちろん 前 述 のロゴマークを 組 み 込 んだ 参 考 までに, 今 でも, 当 時 購 入 いただいた 製 品 の 買 い 替 えの 際 に,ロゴマーク を 頼 りに 弊 社 を 探 し 出 すお 客 様 がいる ただし, 発 売 当 初 は, 消 費 者 の 手 元 に 渡 る 小 売 希 望 価 格 が 馬 毛 の 紅 筆 ( 当 時 の 主 流 )の 3 倍 を 超 える 価 格 (1800 円 )と なった 為, 当 初 はほとんど 売 れなかった 1995 年 3 月 5 日, 日 本 テレビ 系 ズームイン 朝! の こだわりの 逸 品 コーナーで 紹 介 され,その 後 の 一 年 間 でそれま での 総 売 上 本 数 の2 倍 以 上 (17500 本 程 度 )を 売 り 上 げ, 以 降, 口 コミの 拠 点 が 広 がった 事 で 弊 社 の 看 板 製 品 にまで 成 長 した そして,この 製 品 の 穂 先 を 作 った 職 人 は,2001 年 秋 にNHK BS2 ザ プロフェッショ ナル で 口 紅 を 鮮 やかに 彩 る というタイトルで 取 り 上 げられた この 商 品 開 発 が 世 界 最 高 品 質 を 目 指 す 第 一 歩 であると 同 時 に オリジナルブランド と パテント 2016 18 Vol. 69 No. 2
してのブランドイメージを 強 く 意 識 する 切 っ 掛 けにも なった 以 降, 約 20 年 近 く 掛 けて, 全 てのオリジナル ブランド 製 品 を 現 状 のレベルに 至 るまで, 徐 々に 品 質 改 良 を 行 っていくことになる 一 方, 都 内 常 設 店 舗 の 開 設 や 2001 年 に 開 始 した 全 国 の 百 貨 店 でのイベント 販 売 により, 消 費 者 との 対 面 販 売 の 窓 口 が 出 来 た 事 で, 使 い 方 選 び 方 などの 一 般 普 及,つまり, 自 社 製 品 と 他 社 製 品 の 差 別 化 を 含 めた, 啓 蒙 的 な 要 素 の 重 要 性 に 気 づいたが,これらは, 全 て,オリジナルブランドとしての 知 名 度 や 製 品 力 の 向 上 を 中 心 軸 に 定 めた 上 での 本 質 的 な 信 用 の 獲 得 が, 必 須 条 件 となる 為, 手 探 り 状 態 の 中 で 様 々な 試 行 を 繰 り 返 した その 中 で,フリーランスのメイクアップ アーティスト( 化 粧 品 などの 販 売 業 を 生 業 とするので はなく, 撮 影 等 の 現 場 でのメイクを 生 業 としている, もしくは, 現 役 から 退 いたメイクアップアーティス ト)によるコンサルタント 販 売 の 導 入 ( 我 々の 知 識 や 販 売 員 全 体 の 質 の 向 上 も 目 的 )は, 出 展 当 初 から 今 で も 続 いている 他 面 では, イタチ 毛 製 品 の5 年 間 保 証 書, 現 在 も 改 良 を 繰 り 返 している 各 商 品 群 の 使 い 方 メンテナンスガイドの 添 付 など, 長 期 間, 良 い 状 態 で 弊 社 の 化 粧 ブラシを 使 ってもらえる 工 夫 を 常 に 行 っている これらは, 我 々 自 身 の 自 社 製 品 そのもの への 理 解 を 含 めた 市 場 調 査 の 役 割 も 大 きく, 製 品 開 発 や 技 術 改 良 などにも 大 いにつながっている 熊 野 筆 の 名 は, 化 粧 ブラシブームの 中 で 確 実 に 広 まっていき,ある 時 は, 弊 社 の 露 出 が 熊 野 筆 の 名 前 や 産 地 としての 町 の 知 名 度 に 繋 がり,また,ある 時 は, 弊 社 が 熊 野 という 伝 統 に 根 ざす 産 地 で 製 品 作 りを 続 けている 事 により, 弊 社 のメディア 露 出 や 国 関 連 の 事 業 に 好 影 響 を 及 ぼすという 事 が 繰 り 返 されてい る 2004 年 と 2005 年 に JAPAN ブランドの 事 業 の 一 環 で,パリの 展 示 会 に 商 工 会 の 一 員 として, 熊 野 の 筆 業 者 が 一 緒 に 出 展 した 事 があるが,この 時 には, 弊 社 の 製 品 が,パリのファッション 雑 誌 数 社 に 取 り 上 げられた また,これを 期 にパリのアーティストとの 交 流 も 深 まり,2006 年 には,パリコレ 舞 台 裏 への 招 待 を 受 けた 国 民 栄 誉 賞 副 賞 受 注 製 造 の 際 には, 地 域 の 同 業 他 社 との 混 同 など, 地 域 ブランドへの 貢 献 と 自 社 のブランド 化 の 協 立 の 難 しさも 痛 感 する 一 面 もあった が, 熊 野 の 知 名 度 向 上 に 少 なからず 貢 献 できたと 自 負 している 3. 商 品 開 発 と 特 許 事 務 所 弊 社 が 社 歴 の 中 で 出 願 した 知 的 財 産 は,ここで 説 明 しきるには, 数 が 膨 大 すぎる 為,ここでは, 現 在 も 継 続 して 使 用 している 主 要 製 品 の 一 部 に 関 してのみの 説 明 を 行 う 1 三 原 特 許 事 務 所 a)ロゴマーク ( 有 ) 竹 田 ブラシ 製 作 所 は,1960 年 頃 から 地 方 の 問 屋 大 型 小 売 店 向 けに White Lily の 名 で 出 荷 していた 南 米 の 調 査 から 帰 国 した 頃 は, 大 学 紛 争 の 最 中 で 大 学 に 通 う 代 りに 父 の 会 社 の 手 伝 いをしていた 私 は, 商 標 登 録 をするために ユリの 花 をイメージしたロゴマークをデザイナー に 依 頼 した 1970 年 に 商 標 登 録 願 1973 年 4 月 に 登 録 ( 商 標 登 録 :1010072 号 ) b)リップブラシの 係 止 具 この 考 案 により,この 部 品 の 単 価 は,1/5に 組 み 込 みの 作 業 性 は10 倍 になった 1976 年 に 出 願 1980 年 7 月 末 に 実 用 新 案 登 録 ( 登 録 第 1337323 号 ) 第 三 図 が 従 来 型 で, 第 二 図 が 改 良 版 ( 両 端 を 面 取 りした 針 金 を 曲 げて 使 用 ) この 係 止 具 を 利 用 した 携 帯 用 リップブラシ( 使 用 時 と 収 納 時 ) Vol. 69 No. 2 19 パテント 2016
c) 押 出 式 紅 筆 における 穂 先 部 の 回 転 防 止 構 造 1981 年 に 出 願 1984 年 5 月 実 用 新 案 登 録 ( 登 録 第 1536502 号 ) 大 阪 のパフメーカーから 資 生 堂 の 紅 筆 ( 穂 先 の 出 入 り 口 を 楕 円 にした 金 属 製 携 帯 用 紅 筆 )と 同 じような 外 観 のものを 作 ってほし い と 依 頼 された すでに 市 場 には,それと 同 様 の, 出 入 り 口 が 楕 円 状 の 紅 筆 は, 他 社 が 権 利 を 保 有 する 数 種 類 の 内 部 構 造 のものが 販 売 されていた ( 一 部 は 外 部 の 形 状 を 犠 牲 にして) それに 抵 触 し ない 形 での 開 発 だったが, 意 外 と 簡 単 に 考 案 でき た コイル 状 のスプリングの 特 性 を 有 効 に 利 用 し,この 種 の 携 帯 用 紅 筆 に 必 要 な 最 低 限 の 部 品 の みで 機 能 する 構 造 を 考 案 し, 他 の 商 品 よりも 1 2 ケ 以 上 少 ない 部 品 での 作 成 が 可 能 となった 出 願 後,すぐに 商 品 化 し, 三 種 類 の 品 を 作 った 一 つ 目 は, 依 頼 通 り, 資 生 堂 とほぼ 同 じ 形 状 の 品 二 つ 目 は, 開 口 部 を 大 きくし,アイシャドウ 用 途 ( 紅 筆 よりも 大 きい)に 利 用 この 型 を 利 用 する ことで,1989 年 に, 従 来 よりも 2 倍 以 上 の 毛 量 を 使 ったラウ ンド 型 の 世 界 初 のリップブラシ No.58C を 製 作 三 つ 目 は, 当 時 の より 細 く より 薄 く の 流 行 に 乗 り,ブラシ 部 分 は 従 来 品 と 同 じ 大 きさのまま, 見 た 目 感 覚 で 半 分 の 細 さに 見 えるスリムボディの 紅 筆 を 開 発 した これも 世 界 初 の 商 品 で, 開 発 直 後 に U.S.Aのシャネルにデザ インも 含 めて 採 用 され,2001 年 に 先 方 からの 注 文 依 頼 を 断 るまでの 19 年 間 継 続 した 無 印 でもよ く 売 れ,2010 年 までの 間 に 販 売 本 数 は 300 万 本 以 上 に 達 した 1985 年 頃 にこのブラシのコピー(2 社 )が 発 見 された 為, 弁 理 士 に 警 告 書 を 送 付 して もらい, 最 終 的 には,その 2 社 の 代 理 の 弁 理 士 と の 交 渉 で 今 後 の 不 使 用 を 約 束 させたが,その 後 も 販 売 を 継 続 した 為, 再 警 告 書 を 送 付 してもらい, 損 害 金 の 支 払 いを 受 けた 上 2 本 がスリムタイプ(1982 年 開 発 ) 下 2 本 が No.58C (1989 年 開 発 ) 2 携 帯 用 スライド 式 チークブラシの 件 1982 年 に 西 ドイツの 商 社 からの 依 頼 で 開 発 した 商 品 10 年 前 に 集 計 したデータでの 累 計 は,400 万 本 以 上 を 出 荷 した 大 ヒット 商 品 実 用 新 案 等 は 無 理 だと 最 初 から 判 断 し, 出 願 しなかったが, 最 低 限, 意 匠 登 録 は 出 願 すべきだったと 悔 いたが 後 の 祭 りだった 2 年 後 には, 日 本 でコピー( 私 が 依 頼 した 金 型 屋 で 製 作 ) 数 年 後 には, 韓 国 で, 更 には 中 国 でもコピーされた コピー 品 は, 全 て, 太 さ 長 さ 等, 全 く 同 じサイズで あり,それが 最 も 使 い 易 いサイズであるという 理 由 も 大 きいが,やはり,サイズを 変 える 事 による,ブラシ の 出 入 りの 際 の 毛 の 乱 れやガタツキなどを 避 けたと 考 えられ,サイズを 変 更 した 設 計 が 出 来 なかったものと 推 測 している 少 なくとも 意 匠 登 録 をしておけば, 日 本 では 同 じような 形 状 にはできず,コピーは 難 しかっ たのではないかと 考 えている 鈴 木 正 次 特 許 事 務 所 の 方 にこの 話 をした 際 は, 著 作 権 という 手 段 もあると 言 われたが,あまりにも 時 間 が 経 過 しすぎていた 半 年 に 一 度 でも 弁 理 士 の 方 に 気 軽 に 相 談 できる 場 があれ ば, 何 らかのアドバイスをいただけたのかとも 思 う アルミニウム 製 プラスティック 製 の 製 品 もある 3 鈴 木 正 次 特 許 事 務 所 a) 化 粧 用 具, 及 び, 化 粧 品 の 収 納 ケース 特 願 2000-102704 4 月 4 日, 特 願 2001-571955 4 月 4 日,2006 年 5 月 に 登 録 ( 特 許 第 3806838 号 ) 何 故,1 年 後 に 名 称 を 変 更 して 出 願 したかは 覚 えて いないが, 変 更 後 の 名 称 の 方 がより 的 確 である U.S.A, 欧 州 でも 出 願 し 登 録 されている 口 紅 等 の 容 器 として 考 案 したもので 片 手 の 操 作 で 蓋 が 開 き, 口 紅 が 出 てくる 収 納 時 も 口 紅 が 収 納 され たのちに 蓋 が 閉 じる 口 紅 の 替 りにチークブラシ 等 の 化 粧 ブラシでも 同 様 に 使 える 為,2007 年 から 始 まった 経 済 産 業 省 の 地 域 資 源 活 用 補 助 事 業 に 応 募 し, 試 作 品 に 着 手 した テスト 販 売 の 結 果, 操 作 する 際 の 操 作 ボタンの 移 動 距 離 が, 女 性 の 手 の 大 きさと 比 較 すると 長 すぎる 事 が 判 明 2011 年 パテント 2016 20 Vol. 69 No. 2
の 国 民 栄 誉 賞 副 賞 受 注 製 造 による 売 り 上 げ 増 加 に よる 収 益 を 投 入 し, 蓋 を 両 面 開 きにして 全 長 と 操 作 距 離 を 10mm 短 く 設 計 し 直 して 発 売 片 面 開 きの 試 作 品 両 面 開 きの 改 良 版 提 出 し 登 録 に 成 功 海 外 にも 出 願 し, 登 録 4. 団 体 商 標 熊 野 筆 について a) 団 体 商 標 の 運 用 規 則 等 の 取 り 決 め 熊 野 筆 が 何 故 団 体 商 標 として 登 録 できたのか? 疑 問 に 思 われる 弁 理 士 の 方 々がかなりおられたし, 私 も 直 接 何 人 かの 人 の 声 も 聞 いた 三 原 特 許 事 務 所 から 出 願 し,2004 年 12 月 に 熊 野 筆 事 業 協 同 組 合 が 取 得 で きたわけだが,これは,2006 年 4 月 に 施 行 された 地 域 団 体 商 標 のモデルケースと 考 えれば 理 解 できる 2005 年 1 月 に 当 時 の 竹 森 理 事 長 から 私 を 含 めた 4 名 ( 書 筆 部 門 2 名, 画 筆 部 門 1 名, 化 粧 筆 部 門 1 名 ) が 指 名 され, 熊 野 筆 の 運 用 規 定 作 りを 任 された 最 初 の 会 合 には 4 名 と 組 合 の 事 務 長 の 他 に 政 策 科 学 研 究 所 ( 当 時 )から 3 名 が 同 席 され, 毎 月 1 回 2 3 時 間 の 会 合 が 半 年 間 続 いた そこで 話 された 内 容 を 毎 回, 研 究 所 の 方 がまとめ, 研 究 所 の 方 の 意 見 も 含 めなが ら, 次 回 に 進 めた 熊 野 筆 の 定 義 : 筆 先 ( 穂 先 )は 熊 野 地 域 で 作 られ たものに 限 り, 同 地 域 で 最 終 工 程 まで 仕 上 げる 開 口 部 の 拡 大 写 真 b) 開 口 部 の 開 閉 構 造 特 願 2008-31302(2008 年 2 月 ) 2009 年 8 月 に 登 録 ( 特 許 第 4352157 号 ) 先 の 試 作 品 の 設 計 時 に,バネを 使 う 事 なく, 構 造 の 仕 組 みのみで, 蓋 の 開 閉 が 可 能 となる 新 しい 機 能 構 造 を 発 見 この 出 願 費 用 は, 経 済 産 業 省 の 補 助 金 を 活 用 した U.S.A, 欧 州, 韓 国, 中 国,カ ナダ,インドにも 出 願 c)takeda Brush / 竹 田 ブラシ の 商 標 商 願 2006-10290 2007 年 3 月 登 録 ( 商 標 登 録 第 5030802 号 ) 以 前 から 登 録 しないまま 商 品 などに 使 用 していた 出 願 したが, 当 然, 拒 否 された 弁 理 士 の 提 案 で,メディア 雑 誌 等 への 掲 載 履 歴 や 放 送 された 資 料, 全 国 百 貨 店 催 事 の 記 録 を 集 め, 弁 理 士 事 務 所 側 では,このような 事 例 が 認 め られた 審 決 判 決 事 例 に 加 え,google 検 索 での 弊 社 関 連 の 情 報 を 大 量 にコピーし, 意 見 書 として A4 版 で 厚 さ 10mm 近 くにも 及 ぶ 資 料 を 作 成 して 筆 (ブラシ)の 最 も 重 要 な 部 分 は, 筆 先 ( 穂 先 ) であり,この 地 域 の 職 人 が 作 ったもの 以 外 は 認 めず, 海 外 の 安 価 な 筆 と 差 別 化 する 事 で, 最 終 的 に 熊 野 の 職 人 を 守 る 事 につながれば,という 意 識 も 働 いた 製 法 や 原 料 については, 化 粧 筆, 画 筆 などについては 会 社 による 違 いが 大 きすぎる 為, 定 義 への 導 入 は 回 避 し た むろん, 品 質 については, 会 社 による 基 準 そのも のが 全 く 異 なる 為, 統 一 のルールの 設 定 は 基 本 的 に 不 可 能 である( 熊 野 筆 は 毛 先 を 切 らない というのも 基 本 的 に 定 義 になく 実 態 にも 則 してはいない) b)ロゴマークの 策 定 事 務 長 を 含 めた 5 人 のメンバーがデザイナーを 選 定 し,2006 年 初 めにはデザインが 決 まった 黒 ( 書 ), 黄 ( 画 ), 赤 ( 化 粧 )のイメージで3 色 を 使 い, 熊 野 の K をイメージさせるマークである( 商 標 登 録 ) 広 島 県 庁 での 記 者 会 見 の 場 で 公 表 した また,4 月 以 降 に 中 国 経 済 産 業 局, 及 び, 九 州 経 済 産 業 局 の 主 催 で, 地 域 団 体 商 標 を 考 える 方 々に 向 けて,これらの 経 験 を 発 表 する 機 会 をいただいた Vol. 69 No. 2 21 パテント 2016
c) 運 用 上 の 問 題 点 はたして 適 正 な 運 用 がなされているか? 本 当 に 職 人 を 守 る 事 に 役 立 っているか? 少 し 疑 問 を 感 じる 点 もある 現 時 点 では 実 質 を 伴 わないが, 最 終 的 な 目 標 として, 製 造 証 明 の 役 割 を 担 せたい, 商 標 証 紙 の 使 用 については, 各 業 者 がそれぞれの 製 造 履 歴 を 保 管 するように 決 めているが, 全 て 自 己 申 告 が 原 則 で あり, 製 造 実 態 調 査 や 検 査 機 関 の 設 置 などは 全 く 進 ん でいない また, 知 的 財 産 権 の 何 たるかについてまる で 知 らない 組 合 員 も 多 い 中, 商 標 という 概 念,ルー ル 作 りとその 徹 底 の 重 要 性,などを 全 員 に 理 解 させる のは, 非 常 に 難 しい 実 際 に, 商 標 を 獲 得 して 10 年 以 上 経 過 する 現 在 でも, 商 標 の 使 用 について 違 反 した 業 者 ( 組 合 員 )に 対 する 罰 則 規 定 は,まだ, 作 成 できて いない 本 来, 製 造 実 態 や 販 売 表 記 のグレイゾーンを 少 しで も 減 らす 事 を 目 的 の 一 部 にした 商 標 登 録 だったが, 逆 に, 熊 野 の 業 者 ならば,すべて 大 丈 夫 といった 具 合 に, 商 標 使 用 権 の 保 有 者 ( 登 録 業 者 であったり,その 製 品 を 一 部 取 り 扱 う 業 者 )でありさえすれば, 全 製 品 に 関 しての, 消 費 者 や 流 通 業 者 に 対 する 製 造 証 明 としての 口 実 (アリバイ)のような 役 割 を 果 たす 光 景 も 多 々 見 られる(ナンセンスな 例 としては 品 質 証 明 になるケースも) とある 大 手 の 化 粧 品 会 社 の 販 売 の 現 場 で, 販 売 員 が 熊 野 筆 と 称 して 販 売 を 行 ってい たのをよく 目 撃 していたが,その 化 粧 筆 の 供 給 先 の 会 社 に 関 して,ある 信 頼 調 査 会 社 による 調 査 を 行 った 際, OEM 製 品 の 大 半 は 中 国 製 である 事 を 示 す 記 載 ( 数 値 上 もそれを 裏 付 けする)が 見 受 けられた 内 情 を 知 っている, 一 部 の 職 人 や 筆 業 者 からは, ただの 隠 れ 蓑 が 用 意 されただけで, 無 い 方 がまだマシである という 声 も 入 ってくる 事 がある 実 際 に 熊 野 には, 以 前 から, 海 外 に 製 造 拠 点 を 持 つ 会 社 も 多 く,それその ものは 立 派 な 経 済 活 動 とも 言 える 本 来 ならば, 品 質 を 安 定 させ, 真 のブランド 化 を 目 指 す 為 の 基 盤 としての 商 標 登 録 であったが,その 価 値 を 食 いつぶす 方 向 にばかり 思 考 が 偏 っているよう に 見 受 けられる 業 者 も 一 部 存 在 するのは 非 常 に 残 念 な ことである そんな 中 で 自 己 申 告 という 各 社 のモ ラルのみに 支 えられる 商 標 使 用 の 実 態 は,いかに も 頼 りなく,かと 言 って, 実 質 的 な 製 造 実 態 の 明 確 化 は, 非 常 に 困 難 を 極 める 現 在 も, 内 部 の 疑 いの 声 を 払 拭 するには 程 遠 い 状 況 である 少 なくとも, 悪 質 な 行 為 の 規 制 や 悪 質 な 業 者 の 排 除 を 行 っていく 事 も 商 標 を 使 った 真 のブランド 化 への 重 要 な 側 面 である が, 商 標 を 扱 うメンバーを 含 め, 組 合 員 は,それぞれ が 同 業 他 社 であるという 面 も 少 なからず 影 響 する 為, そういった 商 標 の 価 値 にぶら 下 がる 行 為 も 含 め, 各 社 の 経 済 活 動 の 一 環 と 見 なす 向 きも 当 然 存 在 する 為,こ れらの 排 除 を 目 的 とした 罰 則 規 定 の 策 定 ですら, 非 常 に 困 難 なのが 現 状 である 現 実 的 な 問 題 として, 書 の 分 野 は, 職 人 の 高 齢 化 に よる 減 少, 製 造 現 場 の 衰 退 が 著 しく, 今 後 は 商 標 使 用 における 熊 野 筆 の 定 義 の 見 直 しも 含 めて 検 討 する 必 要 に 迫 られる 日 が 近 いかもしれない ( 原 稿 受 領 2015. 12. 3) パテント 2016 22 Vol. 69 No. 2