は じ め に 大 腸 がんは 男 女 ともに 40 歳 代 から 増 加 し 始 め 高 齢 になるほど 増 加 する 傾 向 にあります しかし 他 の 臓 器 にできるがんと 比 べると 比 較 的 進 行 がゆっくりで 早 期 に 発 見 できれば 根 治 する 可 能 性 も 高 いと 言 われています したがって 大 腸 がんの 治 療 成 績 向 上 には 検 診 等 で 早 期 発 見 することがとても 重 要 であると 言 えます この 小 冊 子 は 大 腸 がんの 症 状 検 査 治 療 等 を 紹 介 しており 大 腸 がんに 対 する 正 しい 基 礎 知 識 を 持 っていただくことを 目 的 として 作 成 しました 患 者 様 やご 家 族 の 皆 様 が 大 腸 がんに 対 する 理 解 を 深 め 医 療 スタッフの 方 々とのコミュニケーションに お 役 立 ていただければ 幸 いです 1 も く じ 1 大 腸 がんとは? 2 2 大 腸 がんの 症 状 3 3 大 腸 がんの 検 査 4 4 大 腸 がんの 病 期 (ステージ) 7 5 大 腸 がんの 治 療 方 法 8 6 大 腸 がんとリンパ 節 転 移 13
1 大 腸 がんとは? 結 腸 がんと 直 腸 がんに 分 けられます 大 腸 は 小 腸 から 送 られてきた 食 物 の 水 分 などを 吸 収 して 便 をつくり 肛 門 まで 運 ぶ 働 きを 担 う 消 化 器 官 で 盲 腸 結 腸 直 腸 からなっています 大 腸 がんは この 大 腸 に 発 生 するが んのこと 発 生 する 部 位 によって 盲 腸 から S 状 結 腸 までにできる 結 腸 がん と 直 腸 から 肛 門 までにできる 直 腸 がん の 2 つに 分 けられます 大 腸 の 部 位 の 名 称 2
2 大 腸 がんの 症 状 自 覚 症 状 がほとんどありません 早 期 の 大 腸 がんには 自 覚 症 状 がほとん どありません しかし 早 期 に 見 つかれば ほぼ 100% 完 治 するため 無 症 状 のうち に 健 診 や 人 間 ドックで 発 見 することが 重 要 です 40 代 から 増 加 するので 40 歳 になったら 年 に 1 度 は 検 査 を 受 けること が 望 ましいと 言 えます 3 便 通 異 常 に 要 注 意 がんが 大 きくなると 血 便 や 下 血 便 秘 と 下 痢 の 繰 り 返 しなど 便 通 異 常 が 見 られるようになります 中 でも 血 便 は 大 腸 がんの 代 表 的 な 症 状 ですが 痔 と 勘 違 いして 受 診 が 遅 れる 人 も 珍 しくありませ ん 特 に 出 血 があるが 肛 門 痛 がない 暗 赤 色 の 血 液 が 便 に 混 じる 黒 い 血 塊 が 出 る などの 症 状 があれば 大 腸 がんの 可 能 性 が 高 いといえます
3 大 腸 がんの 検 査 大 腸 がんの 基 本 的 な 検 査 便 潜 血 検 査 便 に 血 液 (ヘモグロビン)がついていない かどうかを 調 べる 検 査 が 便 潜 血 検 査 です 大 腸 にがんや 腫 瘍 ができていると 大 腸 の 中 で 出 血 し その 血 液 が 便 に 含 まれることがあ ります 簡 単 にできるので スクリーニング 目 的 で 行 われる 検 査 ですが 痔 で 偽 陽 性 になったり 出 血 のないがんは 検 出 できないなどの 弱 点 が あるので 定 期 的 な 検 査 が 必 要 です 通 常 便 潜 血 検 査 で 陽 性 になった 場 合 は 精 密 検 査 を 受 ける 必 要 があります 腸 内 をカメラで 詳 しく 観 察 大 腸 内 視 鏡 検 査 4 大 腸 がんの 確 定 診 断 は 大 腸 内 視 鏡 検 査 で 行 います 肛 門 から 内 視 鏡 を 挿 入 し 直 腸 から 盲 腸 までの 大 腸 全 域 を 直 接 観 察 します 大 腸 内 に 便 が 残 っていると 腸 内 を 十 分 にチェックで きないため 事 前 に 下 剤 などを 使 って 腸 の 内 容 物 を 排 泄 しておく 必 要 があります 検 査 時 間 が 短 く 大 きな 苦 痛 もありません この 検 査 でポリープなどの 病 変 が 見 つかった 場 合 は 組 織 の 一 部 を 採 取 して 顕 微 鏡 で 悪 性 か 良 性 か を 調 べることもあります これを 組 織 生 検 とい います また 良 性 腫 瘍 や 早 期 がんは そのま ま 内 視 鏡 で 取 り 除 く 場 合 もあります
肛 門 からバリウムと 空 気 を 注 入 し X 線 写 真 を 撮 って 大 腸 全 域 を 調 べる 検 査 です 便 のかたまりを 異 常 陰 影 と 間 違 えないように 検 査 前 に 食 事 制 限 を 行 い 下 剤 を 使 って 前 処 置 を 十 分 に 行 います X 線 を 使 って 腸 内 を 撮 影 注 腸 造 影 検 査 血 液 検 査 でがんを 推 測 腫 瘍 マーカー 検 査 5 体 内 にがんがあると がん 細 胞 や がん 細 胞 に 反 応 して 生 まれるタンパク 質 やホルモンなどの 物 質 が 血 液 などに 出 てきます これらの 腫 瘍 マーカー と 呼 ばれる 物 質 が 血 液 中 にどれぐら い 含 まれているかを 測 る 検 査 が 腫 瘍 マーカー 検 査 です 腫 瘍 マーカーは がんの 種 類 によって 違 いますが 大 腸 がんの 場 合 CEA(がん 胎 児 抗 原 ) と CA19-9(Carbohydrate antigen 19-9) などが 一 般 的 です ただし 大 腸 がんの 腫 瘍 マーカー は 早 期 がんの 段 階 では 陽 性 になりに くく 進 行 がんでも 必 ずしも 高 い 値 になるわけではありません そのため 現 在 のところこの 検 査 だけで 診 断 が 下 せるものではなく 補 助 診 断 法 の 一 つ として 使 われています
C T コンピュータ 断 層 撮 影 C o m p u t e d T o m o g r a p h y 腸 内 をさまざまな 方 法 で 撮 影 画 像 診 断 (CT MRI PET など) 全 身 にさまざまな 角 度 から X 線 (レントゲン 放 射 線 )を 当 て 得 られたデータをコンピュータ で 処 理 し 体 を 輪 切 りにしたような 画 像 を 再 現 す る 方 法 です 大 腸 がんでは 肝 臓 やリンパ 節 に 転 移 していないかどうか 腫 瘍 がどれだけ 広 がって いるかなどを 調 べます M R I 核 磁 気 共 鳴 画 像 法 M a g n e t i c R e s o n a n c e I m a g i n g 磁 気 を 使 って 体 の 内 部 を 調 べる 検 査 です 放 射 線 は 使 いません がんの 位 置 や 形 だけでなく が んの 周 辺 にある 神 経 や 血 管 の 位 置 関 係 まで 正 確 に 把 握 できるのが 特 長 です 6 P E T 陽 電 子 放 射 断 層 撮 影 P o s i t r o n E m i s s i o n T o m o g r a p h y がん 細 胞 は 盛 んに 分 裂 しているため エネル ギー 源 となるブドウ 糖 を 正 常 な 細 胞 の 何 倍 も 多 く 取 り 込 む 性 質 があります この 性 質 を 利 用 し て ブドウ 糖 に 近 い 成 分 (FDG)を 体 内 に 注 射 し FDG がどこに 集 中 しているかを 調 べる 検 査 です この 検 査 で 体 のどこにがんがあるか その 大 きさはどのくらいか を 判 定 することができます
4 大 腸 がんの 病 期 (ステージ) がんの 深 さや 転 移 で 判 断 大 腸 がんとの 診 断 がつけば どの 程 度 のがんか 他 の 臓 器 に 遠 隔 転 移 があ るかどうかなどを 調 べます その 結 果 によって がんの 進 行 度 ( 病 期 = ステー ジ)を 決 定 し 病 期 に 応 じた 治 療 計 画 を 立 てます 大 腸 がんのステージは 腫 瘍 の 大 き さではなく 大 腸 の 壁 の 中 にがんがど の 程 度 深 く 入 っているか また リン パ 節 への 転 移 や 遠 隔 臓 器 への 転 移 が あるかどうかによって 決 まります 7
5 大 腸 がんの 治 療 方 法 お 腹 を 切 らずにがんを 切 除 内 視 鏡 治 療 小 型 のポリープや 早 期 がんは 内 視 鏡 検 査 の 際 に そのまま 切 り 取 って 治 療 することができます 内 視 鏡 の 先 端 から 専 用 の 器 具 を 出 して 病 変 部 を 切 除 します 病 変 部 の 形 によって 2 種 類 の 方 法 がありますが どちらの 方 法 でも 痛 みはほとんどなく 入 院 期 間 も 短 期 間 で 済 みます ポリープ 切 除 術 (ポリペクトミー) きのこのように 茎 のある 形 をしたがんやポリープを 切 り 取 るための 方 法 です 茎 の 部 分 に 金 属 の 輪 (スネア)を 掛 けて 締 め 高 周 波 の 電 流 を 流 して 焼 き 切 ります 8 内 視 鏡 的 粘 膜 切 除 術 (EMR) E n d o s c o p i c m u c o s a l r e s e c t i o n 病 変 部 が 平 べったい 形 をしていると スネアを 引 っかけにくく きれいに 切 り 取 ることができません そこで EMR では 病 変 部 の 下 に 生 理 食 塩 水 などの 液 体 を 注 入 して 人 工 的 に 盛 り 上 げる 処 理 を 行 います そして 盛 り 上 がった 部 分 に スネアを 掛 けて 病 変 を 焼 き 切 ります
がんを 取 り 除 き 転 移 を 防 ぐ 外 科 的 治 療 ( 手 術 ) がんに 一 定 以 上 の 大 きさ 深 さがあ る 場 合 は 手 術 でがんを 取 り 除 きます がんがある 部 分 を 中 心 に 十 分 な 安 全 域 をとって 腸 管 を 切 除 するとともに 転 移 の 可 能 性 がある 周 囲 のリンパ 節 も 切 除 (リンパ 節 郭 清 )します 結 腸 がんの 手 術 結 腸 は 筒 状 の 単 純 な 構 造 をしているので 広 く 切 り 取 っても 術 後 の 機 能 障 害 は ほとんどおこりません そのため 手 術 では がんを 確 実 に 取 り 除 ける 腸 管 とリ ンパ 節 を 切 除 し 残 った 腸 管 同 士 をつなぎ 合 わせます 9
直 腸 がんの 手 術 直 腸 は 大 腸 の 中 で 最 も 肛 門 に 近 い 部 分 です 周 囲 には 膀 胱 や 子 宮 前 立 腺 な ど 重 要 な 働 きを 持 つ 臓 器 や 排 尿 や 性 機 能 をつかさどる 自 律 神 経 が 集 まってい ます これらをなるべく 傷 つけないよう に 手 術 を 行 わなければいけません 直 腸 がんの 手 術 は 肛 門 を 残 す 前 方 切 除 術 と 肛 門 を 残 さない 直 腸 切 断 術 (マイルズ 手 術 )の 2 つに 大 きく 分 けられます 前 方 切 除 術 肛 門 を 残 す 前 方 切 除 術 は 結 腸 がんの 手 術 と 同 じよう に がんのある 腸 管 部 分 と 転 移 の 可 能 性 があ るリンパ 節 を 切 除 し 残 った 腸 管 をつなぎ 合 わせる 手 術 です 肛 門 は 残 るので 手 術 後 も 肛 門 から 排 便 することができます 直 腸 切 断 術 (マイルズ 手 術 ) 肛 門 まで 切 除 がんが 肛 門 に 近 い 場 合 や がんが 進 行 して 肛 門 機 能 をつかさどる 筋 肉 を 温 存 できない 場 合 に 行 う 手 術 です がんが 肛 門 括 約 筋 の 非 常 に 近 くにある 場 合 は 肛 門 括 約 筋 も 切 除 せざるを 得 ません すると お 尻 の 穴 が 残 っ ていても 肛 門 を 締 めたりゆるめたりできなくなるの で 肛 門 の 役 割 を 果 たせなくなります この 場 合 肛 門 と 直 腸 を 切 除 し 左 下 腹 部 に 人 工 肛 門 (ストーマ) を 作 ります 10 人 工 肛 門 (ストーマ) 人 工 肛 門 (ストーマ)とは 腸 管 の 端 をお 腹 の 皮 膚 表 面 に 出 して 肛 門 に 代 わる 便 の 出 口 とするものです 人 工 肛 門 には 手 術 後 の 縫 合 不 全 などが 起 きた 時 に 一 時 的 に 作 る 一 時 的 人 工 肛 門 と 直 腸 切 断 術 により 肛 門 を 切 除 した 場 合 につくられる 永 久 的 人 工 肛 門 があります
手 術 でとれないがんに 照 射 放 射 線 治 療 放 射 線 療 法 は 放 射 線 をがんに 照 射 す ることで がん 細 胞 の 遺 伝 子 を 破 壊 し がんの 増 殖 を 抑 える 治 療 法 です 切 除 が 難 しいがんに 適 用 されるほか がんを 切 除 した 部 位 の 周 辺 に 残 ったがん 細 胞 を 死 滅 させるために 術 後 術 前 ある いは 術 中 に 行 うことがあります また 再 発 した 大 腸 がんによる 痛 みや 出 血 など の 症 状 を 和 らげるために 行 う 場 合 もあり ます 11
抗 がん 剤 による 治 療 が 化 学 療 法 です 大 腸 がんの 化 学 療 法 は 大 きく 分 けて 以 下 の 3 つです 最 近 は 大 腸 が んに 対 して 有 効 な 抗 がん 剤 が 開 発 され ており 患 者 さんの 症 状 に 合 わせて 使 用 されます 抗 がん 剤 でがんを 縮 小 化 学 療 法 大 腸 がんの 化 学 療 法 12
6 大 腸 が ん と リ ン パ 節 転 移 転 移 を 調 べて 治 療 に 生 かす 13 大 腸 がんの 外 科 手 術 で 切 り 取 った 大 腸 とリンパ 節 は がんがどの 程 度 広 がっていたか がんの 取 り 残 しがない か また リンパ 節 に 転 移 していない かなどを 病 理 検 査 で 詳 しく 調 べます 通 常 外 科 医 が 手 術 で 切 り 取 った 組 織 から はさみなどを 使 ってリンパ 節 をすべて 掘 り 出 し リンパ 節 と 大 腸 を 別 々にホルマリンに 漬 けて 固 定 しま す その 後 病 理 医 が 1 つ 1 つのリ ンパ 節 に 転 移 があるかどうかを 調 べま す 大 腸 も 細 かく 短 冊 状 に 切 って が んの 深 さや 広 がりを 調 べます リンパ 節 転 移 の 状 態 を 正 確 に 判 定 す ることは 大 腸 がんの 進 行 度 をより 正 確 に 診 断 することにつながります リ ンパ 節 へ 転 移 しているかどうかは が ん 再 発 の 危 険 性 に 大 きく 関 わってお り 術 後 の 抗 がん 剤 治 療 を 行 うかどう かなど 治 療 方 針 を 決 めるための 大 変 重 要 な 情 報 です 正 確 な 病 期 診 断 に 基 づいて 適 切 な 治 療 をすれば 治 療 の 効 果 をより 上 げることができます
お わ り に 食 生 活 の 欧 米 化 などにより 消 化 器 がんの 中 でも 特 に 増 加 傾 向 にある 大 腸 がんについて 紹 介 しました 大 腸 がんは 検 診 をうけることで 早 期 に 発 見 することが 可 能 とされてい ますが 下 剤 が 必 要 であったりお 尻 の 診 察 を 伴 うことなどもあってか 精 密 検 査 を 受 ける 人 の 割 合 はまだまだ 低 いのが 現 状 です 大 腸 がんは 早 期 発 見 できればほぼ 100% 治 る 病 気 であるとともに 他 の 臓 器 に 転 移 をしているような 進 行 した 状 態 で 発 見 された 場 合 でも 他 の 消 化 器 がんと 比 べて 治 療 効 果 が 期 待 できる 病 気 であるとされています 日 々の 生 活 と 密 接 なかかわりのある 便 通 に 異 常 を 感 じたら 是 非 と も 専 門 医 に 相 談 してみて 下 さい この 冊 子 でこれまでより 少 しでも 大 腸 がんのことを 知 ってもらい 検 診 や 病 院 を 受 診 するきっかけとなってくれることを 願 います 14 著 者 プロフィール 平 成 8 年 3 月 山 形 大 学 医 学 部 卒 業 平 成 8 年 5 月 国 立 東 京 第 二 病 院 ( 現 国 立 病 院 機 構 東 京 医 療 センター) 臨 床 研 修 医 平 成 10 年 5 月 東 京 都 立 駒 込 病 院 外 科 平 成 13 年 5 月 自 治 医 科 大 学 附 属 大 宮 医 療 センター ( 現 さいたま 医 療 センター) 外 科 平 成 17 年 3 月 自 治 医 科 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 卒 業 医 学 博 士 取 得 平 成 17 年 4 月 南 魚 沼 市 立 ゆきぐに 大 和 病 院 外 科 平 成 18 年 9 月 豪 州 コンコルド 病 院 リサーチフェロー 平 成 19 年 9 月 自 治 医 科 大 学 附 属 さいたま 医 療 センター 外 科 助 教 ( 大 腸 担 当 ) 日 本 外 科 学 会 指 導 医 専 門 医 日 本 消 化 器 外 科 学 会 専 門 医 日 本 大 腸 肛 門 病 学 会 会 員 日 本 癌 学 会 会 員 日 本 内 視 鏡 外 科 学 会 会 員 ほか 2011 年 10 月 初 版 発 行 2012 年 11 月 第 2 版 発 行 編 集 山 崎 正 稔 関 あかね