RIETI Discussion Paper Series 08-J-019
RIETI Discussion Paper Series 08-J-019 長 時 間 労 働 の 経 済 分 析 * 大 阪 大 学 社 会 経 済 研 究 所 大 竹 文 雄 大 阪 大 学 大 学 院 / 日 本 学 術 振 興 会 奥 平 寛 子 要 約 本 稿 では 長 時 間 労 働 を 規 制 することの 経 済 学 的 根 拠 について 整 理 を 行 い 行 動 経 済 学 的 視 点 か らアンケート 調 査 を 用 いた 実 証 分 析 を 行 った 分 析 の 結 果 前 年 と 比 較 して 健 康 状 態 が 改 善 する と 週 60 時 間 以 上 の 長 時 間 労 働 を 行 う 確 率 は 有 意 に 増 加 するが 健 康 状 態 が 悪 化 したからといっ て 長 時 間 労 働 を 行 う 確 率 は 減 少 しないことが 示 された また 男 性 管 理 職 では もともと 仕 事 を 先 延 ばしする 特 性 を 持 つ 場 合 週 60 時 間 以 上 の 長 時 間 労 働 を 行 う 確 率 が 有 意 に 高 くなる 一 方 女 性 労 働 者 や 管 理 職 以 外 の 男 性 労 働 者 では 先 延 ばし 行 動 が 長 時 間 労 働 を 促 す 効 果 は 確 認 されな かった 男 性 管 理 職 の 先 延 ばし 行 動 による 長 時 間 労 働 は 職 場 に 負 の 外 部 性 をもたらしている 可 能 性 があり 強 制 的 に 定 時 で 仕 事 を 終 わらせるコミットメントメカニズムが 必 要 である キーワード 長 時 間 労 働 中 毒 時 間 選 好 率 プロビット 推 定 Journal of Economic Literature 分 類 コード D01 J20 J88 * 本 研 究 は 独 立 行 政 法 人 経 済 産 業 研 究 所 における 労 働 市 場 制 度 改 革 研 究 会 ( 座 長 : 鶴 光 太 郎 上 席 研 究 員 ) のプロジェクトの 一 貫 として 行 われた 本 稿 の 作 成 にあたっては 川 口 大 司 ( 一 橋 大 学 ) 鶴 光 太 郎 氏 ( 経 済 産 業 研 究 所 )より 大 変 貴 重 なコメントを 頂 いた ここに 感 謝 の 意 を 記 したい ただし 本 稿 における 誤 りは 全 て 著 者 に 帰 するものである ohtake@iser.osaka-u.ac.jp okudaira@iser.osaka-u.ac.jp, ege002oh@mail2.econ.osaka-u.ac.jp
1.はじめに 労 働 時 間 の 規 制 はなぜ 必 要 なのだろうか これは 当 たり 前 のようで 意 外 に 難 しい 問 題 である 労 働 時 間 規 制 がなければ 会 社 は 安 い 給 料 で 従 業 員 に 長 時 間 労 働 を 強 いること になる 現 に 多 くの 職 場 では 長 時 間 労 働 サービス 残 業 で 従 業 員 が 疲 弊 しているし 過 労 死 の 問 題 も 起 きている これを 解 決 するには 労 働 時 間 規 制 をきちんと 守 らすことが 必 要 だ というのが 常 識 的 な 答 えだろう しかし このような 一 見 常 識 的 な 答 えは 二 つの 意 味 で 考 え 直 す 必 要 がある 第 一 に 日 本 の 労 働 時 間 規 制 の 強 化 に 関 する 歴 史 的 な 動 きは 労 働 者 が 望 んで 生 じてきたわけではないことである 第 二 に 健 康 状 態 を 自 分 で 合 理 的 に 管 理 するという 合 理 的 な 労 働 者 と 経 営 者 がいたならば 労 働 者 が 健 康 を 害 して 生 産 性 が 低 下 す るほどの 長 時 間 労 働 を 課 す 経 営 者 とそれに 従 う 労 働 者 がいるはずがないからだ まず 労 働 時 間 の 短 縮 化 に 関 する 歴 史 的 な 経 緯 を 振 り 返 ろう 日 本 の 労 働 時 間 時 短 縮 の 経 緯 を 見 てみると 必 ずしも 日 本 の 労 働 者 が 望 んだ 結 果 労 働 時 間 規 制 が 強 化 されてきた わけではないことがわかる 菅 野 (2002)によれば 日 本 の 平 均 労 働 時 間 が 1990 年 代 に 短 縮 されたきっかけは 1987 年 の 労 働 基 準 法 の 改 正 で 週 法 定 時 間 を 48 時 間 から 40 時 間 に 変 更 され その 短 縮 を 10 年 かけて 段 階 的 に 実 施 したことにある しかし この 労 働 時 間 短 縮 は 日 本 の 労 働 者 からの 要 望 で 行 われたというより 当 時 の 貿 易 摩 擦 において 日 本 と 欧 州 諸 国 間 の 労 働 時 間 水 準 のギャップは 不 公 正 競 争 の 格 好 の 批 判 材 料 とされた ことから 政 府 主 導 で 行 われたのである 4 菅 野 (2002)によれば 当 時 の 企 業 別 組 合 は 雇 用 を 確 保 しつつ 賃 上 げを 達 成 することに 腐 心 し 労 働 時 間 の 面 で 企 業 に 足 枷 を 課 すること は 回 避 していた ということだ こうして 貿 易 摩 擦 への 対 応 として 行 われた 労 働 時 間 規 制 が 日 本 の 90 年 代 における 経 済 停 滞 の 原 因 になったと 主 張 する 研 究 もある Hayashi and Prescott(2002)は 90 年 代 の 日 本 の 経 済 停 滞 の 要 因 は 生 産 性 の 上 昇 率 が 低 下 したことに 加 えて 労 働 時 間 が 短 縮 されたこ とであったと 主 張 している 実 際 1990 年 代 半 ば 以 降 は 非 正 規 雇 用 の 短 時 間 雇 用 者 の 比 率 が 上 昇 してきた 影 響 もあ って 日 本 の 平 均 的 な 労 働 時 間 の 短 縮 は 進 んだ 図 1 にパートと 一 般 労 働 者 の 両 方 を 含 めた 労 働 時 間 の 時 系 列 的 推 移 を 示 している また 図 2 には 男 性 長 時 間 雇 用 者 の 比 率 の 推 移 を 企 業 規 模 別 に 示 している 二 つの 図 から 80 年 代 後 半 から 90 年 代 にかけて 平 均 的 な 労 働 時 間 が 短 縮 したことに 加 えて 全 体 の 雇 用 者 に 占 める 長 時 間 雇 用 者 の 比 率 も 減 少 したこ とが 確 認 できる 4 菅 野 和 夫 (2002) p.200 2
図 1 労 働 時 間 の 時 系 列 的 推 移 ( 総 実 労 働 時 間 指 数 季 節 調 整 済 み) 125.0 120.0 115.0 110.0 105.0 100.0 95.0 90.0 1970 年 1 月 1972 年 1 月 1974 年 1 月 1976 年 1 月 1978 年 1 月 1980 年 1 月 1982 年 1 月 1984 年 1 月 1986 年 1 月 1988 年 1 月 1990 年 1 月 1992 年 1 月 1994 年 1 月 1996 年 1 月 1998 年 1 月 2000 年 1 月 2002 年 1 月 2004 年 1 月 2006 年 1 月 2008 年 1 月 ( 資 料 出 所 ) 毎 月 勤 労 統 計 調 査 従 業 員 30 人 以 上 図 2 男 性 長 時 間 雇 用 者 比 率 の 推 移 ( 非 農 林 業 週 60 時 間 以 上 ) 0.3 0.28 0.26 0.24 0.22 0.2 0.18 0.16 0.14 0.12 0.1 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 雇 用 者 1-29 人 企 業 規 模 500 人 以 上 企 業 規 模 ( 資 料 出 所 ) 労 働 力 調 査 年 平 均 しかし 全 体 の 労 働 時 間 の 短 縮 化 が 進 んだにも 関 わらず 90 年 代 末 から 正 社 員 労 働 者 の 中 でも 30 代 の 男 性 を 中 心 に 長 時 間 労 働 者 の 比 率 が 高 まった 労 働 時 間 の 二 極 化 現 象 である 図 3 と 図 4 に 年 間 250 日 以 上 就 業 している 有 業 者 のうち ふだん 1 週 間 就 業 時 間 が 60 時 間 以 上 の 割 合 を 男 女 別 に 示 している 1992 年 から 1997 年 への 変 化 に 着 目 すると 長 時 間 労 働 者 の 割 合 が 特 に 男 性 の 20 代 30 代 女 性 でも 20 代 では 増 加 していることが 分 かる 3
働 きたくても 仕 事 が 見 つからない 失 業 者 や 正 社 員 になれないフリーターが 増 加 した 一 方 で 週 60 時 間 以 上 も 働 く 長 時 間 労 働 の 正 社 員 が 増 えてきたのである この 時 期 から 長 時 間 労 働 の 正 社 員 がうつ 病 になったり 過 労 自 殺 になったりすることが 社 会 問 題 となってきた 図 3 年 間 250 日 以 上 就 業 している 有 業 者 のうち ふだん 1 週 間 就 業 時 間 が60 時 間 以 上 の 男 性 の 割 合 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 28.0 26.7 27.5 26.326.1 25.0 24.0 23.8 24.2 23.6 21.9 22.8 24.8 21.121.2 18.6 23.1 23.5 20.5 19.3 22.4 21.0 20.9 18.018.2 19.6 18.0 17.8 11.8 11.4 5.0 0.0 総 計 15-19 歳 20-2425-2930-3435-3940-4445-4950-5455-59 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳 1987 年 1992 年 1997 年 図 4 年 間 250 日 以 上 就 業 している 有 業 者 のうち ふだん 1 週 間 就 業 時 間 が60 時 間 以 上 の 女 性 の 割 合 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 19.8 16.5 15.7 14.7 13.4 12.4 17.0 15.7 14.7 9.6 13.8 14.4 12.2 11.3 7.9 8.1 7.1 11.7 11.7 9.1 6.7 6.2 7.0 7.0 7.9 7.9 7.3 7.9 8.7 5.4 総 計 15-19 歳 20-24 歳 25-29 歳 30-34 歳 35-39 歳 40-44 歳 45-49 歳 50-54 歳 55-59 歳 1987 年 1992 年 1997 年 ( 資 料 出 所 ) 就 業 構 造 基 本 調 査 労 働 時 間 規 制 が 強 化 されたにも 関 わらず 長 時 間 労 働 の 弊 害 が 近 年 になって 問 題 になっ てきたことは 働 き 方 の 変 化 が 大 きいと 考 えられる 労 働 時 間 管 理 が 比 較 的 容 易 なブルー カラー 労 働 者 の 比 率 が 下 がり 時 間 管 理 が 困 難 なホワイトカラー 労 働 者 の 比 率 が 増 えてき 4
たことが 原 因 ではないだろうか ホワイトカラーの 仕 事 は 労 働 時 間 を 厳 密 に 管 理 するこ とは 不 可 能 である 会 社 での 仕 事 時 間 をきちんと 管 理 したところで 自 宅 で 仕 事 を 続 ける こともできる 逆 に オフィス 街 の 喫 茶 店 で 長 時 間 休 憩 しているサラリーマンも 多 い ホワイトカラーの 長 時 間 労 働 は 本 当 に 抑 制 すべき 問 題 なのだろうか もし 長 時 間 労 働 を 抑 制 すべきだとしたとすれば どのような 手 法 が 望 ましいのだろうか 長 時 間 労 働 の 問 題 を 考 える 上 で 労 働 者 がワーカホリック( 仕 事 中 毒 )になっているか そうでないかが 重 要 である ワーカホリックとは 長 時 間 労 働 をすると 労 働 それ 自 体 が 苦 痛 でなくなってくるというアルコールや 喫 煙 と 似 た 依 存 症 である いったんワーカホリッ クになると 本 人 には 長 時 間 労 働 を 止 める 理 由 がなくなってきて ますます 長 時 間 労 働 が ひどくなるという 悪 循 環 に 陥 る ワーカホリックになる 労 働 者 がいた 場 合 でも それを 政 策 的 に 抑 制 すべきなのか 否 かは ワーカホリックが 本 人 以 外 にどのような 社 会 的 なコストをもたらすかによる ワーカホリ ックは 本 人 が 好 きで 仕 事 をしている 分 には 他 人 に 迷 惑 をかけることが 少 ないどころか 生 産 性 を 高 めるという 利 点 がある 場 合 が 多 い 同 僚 の 一 人 がワーカホリックになってくれ て 自 分 のグループの 生 産 性 が 上 昇 すれば 周 りの 人 にとって 望 ましいことである タバコ 中 毒 の 場 合 は 仕 事 中 の 喫 煙 時 間 という 形 で 本 人 の 生 産 性 を 減 らす 可 能 性 もある 上 に タバコの 場 合 は 受 動 喫 煙 という 形 で 他 人 に 迷 惑 をかける( 経 済 学 でいう 外 部 性 ) そ のため タバコに 対 して 税 や 規 制 によって 喫 煙 を 減 らすという 政 策 を 採 ることは 正 当 化 で きる しかし ワーカホリックの 場 合 は そうとは 限 らないことが 問 題 を 難 しくしている まとめると ワーカホリックを 抑 制 すべきか 否 かは 他 人 に 迷 惑 をかけるか 否 か( 負 の 外 部 性 があるか 否 か)に 依 存 する 本 稿 では 第 2 節 において 労 働 時 間 規 制 の 経 済 学 的 根 拠 を 議 論 し 第 3 節 で 日 本 の 労 働 者 で 長 時 間 労 働 をするものの 特 徴 を 実 証 的 に 分 析 する 第 4 節 では 長 時 間 労 働 に 対 する 政 策 的 対 応 を 議 論 する 第 5 節 では 結 論 をまとめる 2. 労 働 時 間 規 制 の 経 済 学 的 根 拠 2-1.ワーカホリックがない 場 合 まず 労 働 者 がワーカホリックでない 場 合 に 労 働 時 間 規 制 は 必 要 かどうかを 考 えてみ よう 労 働 者 がワーカホリック( 仕 事 中 毒 )でない 場 合 労 働 時 間 もし 競 争 的 な 労 働 市 場 が 成 立 していたのなら 意 に 反 して 長 時 間 労 働 をさせられる 会 社 があれば 会 社 をやめて 他 の 会 社 に 勤 めることができる 長 時 間 労 働 で 高 賃 金 である 正 社 員 と 短 時 間 労 働 で 低 賃 金 である 非 正 規 社 員 から 働 き 方 を 選 択 することも 可 能 である 誰 でも 短 時 間 労 働 で 高 賃 金 の 仕 事 を 選 びたいが それほど 現 実 は 甘 くない 逆 に 低 賃 金 労 働 だからこそ 長 時 間 働 きたいという 労 働 者 や 高 賃 金 が 一 時 的 なものだと 知 っているからこそ 長 時 間 働 く 労 働 者 もいる そうした 人 たちが 長 時 間 働 く という 選 択 を 制 限 する 必 要 性 はどこにもない 人 気 タレントが 睡 眠 時 間 を 削 って 働 き 続 け 5
るのは 彼 らの 時 間 給 が 極 端 に 高 い 上 に その 人 気 が 長 続 きするかどうか 分 からないから である ワーカホリックの 問 題 がなく 自 分 で 労 働 時 間 を 選 べるだけの 競 争 的 な 労 働 市 場 が 存 在 していれば 労 働 時 間 規 制 の 必 要 はどこにもない 長 時 間 労 働 の 規 制 が 必 要 なのは 他 に 職 場 がないために 仕 方 なく 低 賃 金 で 長 時 間 労 働 を せざるを 得 ないという 場 合 や 長 時 間 労 働 の 職 場 であるということを 知 らないで 就 職 してき たが 転 職 市 場 が 十 分 にないので 長 時 間 労 働 をせざるをえない 場 合 である いずれにしても 競 争 的 な 労 働 市 場 が 存 在 しない 場 合 には 労 働 時 間 規 制 が 正 当 化 できる 労 働 市 場 の 競 争 的 状 態 を 高 めるような 制 度 改 革 を 行 うことでも 解 決 が 可 能 である 長 時 間 労 働 が 健 康 を 悪 化 させることが 問 題 だという 可 能 性 もある ところが 長 時 間 労 働 による 健 康 悪 化 の 可 能 性 を 労 働 者 自 身 が 理 解 していたならば 労 働 者 みずからが 健 康 を 守 るように 労 働 時 間 を 調 整 するはずである 労 働 者 の 健 康 悪 化 によって 生 産 性 が 低 下 する のであれば 企 業 は 生 産 性 が 低 下 しないように 健 康 管 理 をするはずである そのため 企 業 が 労 働 者 の 健 康 を 悪 化 させるほどの 長 時 間 労 働 をさせ 続 けるということは 企 業 の 合 理 的 な 行 動 とは 考 えにくい しかし 雇 用 者 を 長 期 間 雇 うことを 考 えていない 企 業 の 場 合 は 長 時 間 労 働 で 短 期 的 に 生 産 性 を 高 めて 労 働 者 の 健 康 を 悪 化 させるという 戦 略 を 取 る 可 能 性 がある つまり 短 期 雇 用 の 職 場 では 労 働 者 が 健 康 な 状 態 の 期 間 だけ 雇 っておき 長 時 間 労 働 で 健 康 が 悪 化 すれば 解 雇 するという 戦 略 である この 場 合 の 政 策 としては 健 康 悪 化 のコストを 企 業 に 負 担 させる 仕 組 みを 作 ることである たとえば 医 療 費 負 担 を 企 業 に 課 するか 労 働 者 の 募 集 時 に 健 康 悪 化 可 能 性 の 情 報 を 開 示 義 務 づけることである 後 者 の 場 合 には 健 康 悪 化 のリスクを 考 慮 した 高 い 賃 金 でないと 労 働 者 は 集 まらない まとめると ワーカホリックの 問 題 がなければ 労 働 市 場 が 競 争 的 ではない 場 合 には 労 働 時 間 に 関 して 法 的 規 制 が 正 当 化 できる 労 働 市 場 を 競 争 的 にすれば 労 働 時 間 規 制 の 必 要 性 は 小 さくなる 競 争 的 な 労 働 市 場 があれば 労 働 者 の 健 康 を 守 るためには 職 場 の 健 康 情 報 を 開 示 させることか 労 働 による 健 康 悪 化 の 費 用 を 企 業 に 負 担 させることが 直 接 的 な 対 応 策 である 2-2.ワーカホリックがある 場 合 労 働 者 がワーカホリックになる 可 能 性 がある 場 合 に 労 働 時 間 を 抑 制 するような 政 策 は 正 当 化 できるだろうか ワーカホリックになって 本 人 が 健 康 を 害 してしまう 場 合 には そ の 健 康 リスクを 企 業 に 負 担 させることが 直 接 的 な 解 決 方 法 である それでは 健 康 悪 化 まで 問 題 が 深 刻 化 しない 場 合 には ワーカホリックは 社 会 的 な 問 題 になるだろうか Hamermesh and Slemrod(2005)は 職 場 と 家 庭 におけるワーカホリック の 外 部 性 を 考 察 している 彼 らは 職 場 においても 家 庭 においてもワーカホリックの 外 部 性 には プラスの 場 合 とマ イナスの 場 合 があるという 言 い 換 えると ワーカホリックが 周 囲 に 歓 迎 される 場 合 と 迷 6
惑 がられる 場 合 の 二 つの 可 能 性 がある 職 場 において ワーカホリックが 歓 迎 されるのは 同 僚 がワーカホリックになってくれたケースである この 場 合 同 僚 は 仕 事 自 体 が 好 きな ので 低 賃 金 でも 長 時 間 労 働 をしてくれる 職 場 の 生 産 性 は 高 くなって ワーカホリックに なっていない 人 は 通 常 の 労 働 時 間 働 いて 高 くなった 生 産 性 をもらうことができる ワー カホリックになった 本 人 が 健 康 を 害 してしまうと 問 題 が 生 じるが 周 囲 はワーカホリック の 社 員 が 健 康 を 害 さない 程 度 に 長 時 間 働 いてくれることを 一 番 歓 迎 する ワーカホリック になった 本 人 は 仕 事 が 苦 ではないのだから 問 題 ない この 場 合 ワーカホリックを 減 ら すべき 必 要 性 はない 問 題 になるのは ワーカホリックになった 人 が 昇 進 して 職 場 全 体 を 長 時 間 労 働 にさせ る 権 力 をもった 場 合 である この 場 合 部 下 の 多 くは 長 時 間 労 働 を 望 んでもいないのに ワーカホリックの 上 司 のために 残 業 させられ 帰 宅 できない という 負 の 外 部 性 が 発 生 する これが 多 くの 職 場 で 観 察 される 現 象 である 家 庭 におけるワーカホリックの 外 部 性 も プラスの 効 果 とマイナスの 効 果 がある プラ スの 効 果 は 夫 がワーカホリックになった 妻 にとって その 分 所 得 が 増 え より 多 くの 消 費 ができることである マイナスの 効 果 は 夫 と 余 暇 を 共 有 できないこと 夫 が 家 事 をし てくれないことである 亭 主 元 気 で 留 守 がいい というのは 所 得 が 増 える 効 果 が 夫 の 余 暇 が 減 少 することの 効 果 を 上 回 るということである ワーカホリックが 配 偶 者 に 対 して 負 の 外 部 性 をもたらすのであれば 離 婚 率 が 高 まるという 影 響 もでる Hamermesh and Slemrod(2005)は ワーカホリックの 存 在 を 労 働 時 間 に 関 する 好 みが 実 際 に 変 化 するか 否 かを 検 証 することで 明 らかにしている 彼 らは 予 想 引 退 年 齢 と 実 際 の 引 退 行 動 の 差 がどのような 特 性 をもった 人 ほど 大 きいかということをデータから 分 析 した その 結 果 高 学 歴 で 高 所 得 の 人 の 方 が 予 想 引 退 年 齢 よりも 実 際 の 引 退 年 齢 が 高 いという ことを 示 している つまり 所 得 が 高 いために 労 働 時 間 が 長 くなると 労 働 の 不 効 用 が 小 さくなり より 長 時 間 労 働 することを 選 好 するようになる ということの 傍 証 を 提 示 した のである ワーカホリックが 職 場 や 家 庭 にマイナスの 外 部 性 をもたらしている 場 合 には ワーカホ リックを 引 き 起 こさないような 仕 組 みが 必 要 であると 指 摘 している 彼 らが 発 見 したよう に 高 い 賃 金 が 長 時 間 労 働 を 発 生 させることがワーカホリックの 引 き 金 になるのであれば 累 進 所 得 税 をかけることでワーカホリックの 発 生 を 引 き 下 げることができることになる ただし 彼 らの 分 析 結 果 は 引 退 時 期 の 先 延 ばし 行 動 を 明 らかにしただけであり 長 時 間 労 働 がワーカホリックから 発 生 しているか 否 かを 明 らかにしているわけではない 次 節 では 日 本 のアンケート 調 査 を 用 いて 長 時 間 労 働 を 行 う 人 の 行 動 特 性 を 明 らかにするこ とにより どのような 労 働 時 間 規 制 が 日 本 の 労 働 者 にとって 望 ましいのかを 議 論 する 3. 長 時 間 労 働 の 決 定 に 関 する 実 証 分 析 3-1. 分 析 に 用 いたデータ 7
本 稿 の 分 析 には 大 阪 大 学 21 世 紀 COE プログラム くらしの 好 みと 満 足 度 についてのア ンケート のデータを 用 いる このアンケート 調 査 は 大 阪 大 学 が 2003 年 より 毎 年 行 ってい るアンケート 調 査 で 全 国 から 無 作 為 抽 出 法 で 選 ばれた 回 答 者 を 継 続 的 に 調 査 しているほ か 新 たなサンプルの 追 加 も 行 っている 今 回 は 分 析 に 必 要 な 調 査 項 目 が 全 て 揃 う 2006 年 と 2007 年 調 査 のデータをプールしたサンプルに 基 づいて 分 析 を 行 う また パートタイム 労 働 者 を 含 む 主 婦 および 学 生 引 退 もしくは 失 業 中 のサンプルは 分 析 対 象 から 省 いた 大 阪 大 学 COE アンケート 調 査 には 時 間 選 好 率 や 双 曲 割 引 等 の 個 人 の 選 好 パラメーター に 関 する 質 問 項 目 が 豊 富 に 含 まれており これまでに 喫 煙 やアルコール 中 毒 といった 依 存 症 と 個 人 のせっかちさや 後 回 し 行 動 との 関 係 が 明 らかにされてきた 後 回 し 行 動 を 示 す 指 標 として 子 供 のころの 夏 休 みの 宿 題 をいつ 頃 終 わらせていたのかをたずねる 質 問 項 目 がある 5 後 回 し 行 動 やせっかちさは 現 在 と 将 来 の 便 益 を 比 較 してダイエットや 禁 煙 を 行 うか 否 かを 判 断 する 際 に 重 要 な 意 味 を 持 つ 長 時 間 労 働 を 行 うか 否 かの 判 断 についても 現 時 点 で 面 倒 な 仕 事 を 片 付 けるコストを 過 大 に 評 価 してしまい その 仕 事 を 先 延 ばしにし てしまうことにより 長 時 間 労 働 に 従 事 するようになる 可 能 性 がある 3-2. 推 定 方 法 長 時 間 労 働 を 促 す 要 因 を 探 るために 以 下 のプロビットモデルを 推 定 する Pr( y i = 1 x ) = x ' β + ε i i i yi は 週 の 労 働 時 間 をたずねる 調 査 項 目 において 個 人 i が 60 時 間 以 上 を 回 答 した 場 合 に 1 をとるダミー 変 数 である また 説 明 変 数 には 労 働 需 要 側 と 労 働 供 給 側 の 要 因 をコントロールする 変 数 をそれぞれ 加 えた まず 労 働 供 給 側 の 要 因 をコントロールする 変 数 として 学 歴 ダミー 子 供 の 数 既 婚 ダミー 健 康 改 善 ダミー 健 康 悪 化 ダミー 年 齢 年 齢 の2 乗 世 帯 所 得 世 帯 の 金 融 資 産 額 世 帯 の 住 宅 土 地 資 産 額 住 宅 ローン その 他 の 負 債 額 を 加 えた また 労 働 需 要 側 の 要 因 をコントロールする 変 数 として 産 業 および 勤 務 形 態 ダミー( 自 営 業 会 社 員 公 務 員 経 営 者 ) 2007 年 ダミーを 加 えた さら に 都 市 へ 労 働 者 が 集 積 することによって 労 働 者 間 の 競 争 が 過 熱 するため 特 に 専 門 的 な 職 業 では 労 働 時 間 が 上 昇 することが 指 摘 されている(Rosenthal and William 2008) 本 稿 では 労 働 者 の 集 積 効 果 を 代 理 する 変 数 として 都 市 規 模 を 示 すダミーを 説 明 変 数 に 加 えた 5 あなたは こどもの 時 休 みに 出 された 宿 題 をいつごろやることが 多 かったですか 当 てはまるものを 1つ 選 び 番 号 に をつけてください(2005 年 調 査 問 1) 1 休 みが 始 まると 最 初 のころにやった 2 どちらかというと 最 初 のころにやった 3 毎 日 ほぼ 均 等 にやった 4 どちらかというと 終 わりのころにやった 5 休 みの 終 わりの 頃 にやった 8
表 1 記 述 統 計 男 性 女 性 変 数 名 観 測 値 平 均 標 準 偏 差 観 測 値 平 均 標 準 偏 差 週 労 働 時 間 が60 時 間 以 上 (=1) 611 0.275 0.447 207 0.126 0.332 夏 休 みの 終 わりの 頃 に 宿 題 (=1) 611 0.660 0.474 207 0.628 0.485 所 得 611 632.242 310.565 207 273.430 236.159 年 齢 611 50.362 9.260 207 47.932 9.161 世 帯 土 地 住 宅 資 産 額 611 2441.080 2408.405 207 2208.937 2282.825 世 帯 金 融 資 産 額 611 936.784 1444.488 207 987.923 1413.303 世 帯 住 宅 ローン 額 611 1103.723 980.631 207 1114.130 999.485 世 帯 その 他 の 負 債 額 611 149.959 253.745 207 172.705 267.366 子 供 の 数 611 2.173 0.801 207 2.145 0.689 既 婚 (=1) 611 0.403 0.491 207 0.454 0.499 健 康 改 善 (=1) 611 0.252 0.435 207 0.227 0.420 健 康 悪 化 (=1) 611 0.286 0.452 207 0.227 0.420 中 卒 ダミー 611 0.100 0.300 207 0.111 0.315 高 卒 ダミー 611 0.491 0.500 207 0.478 0.501 短 大 卒 ダミー 611 0.059 0.236 207 0.256 0.438 大 卒 ダミー 611 0.314 0.465 207 0.155 0.362 院 卒 ダミー 611 0.036 0.186 207 0 0 農 林 業 ダミー 611 0.029 0.169 207 0.034 0.181 鉱 業 ダミー 611 0 0 207 0 0 建 設 業 ダミー 611 0.173 0.379 207 0.087 0.282 製 造 業 ダミー 611 0.195 0.396 207 0.087 0.282 卸 売 小 売 ダミー 611 0.124 0.330 207 0.174 0.380 金 融 保 険 業 ダミー 611 0.051 0.220 207 0 0 不 動 産 業 ダミー 611 0.007 0.081 207 0 0 運 輸 通 信 業 ダミー 611 0.059 0.236 207 0 0 電 気 ガス 水 道 熱 産 業 ダミー 611 0.028 0.165 207 0 0 サービス 産 業 ダミー 611 0.172 0.378 207 0.324 0.469 その 他 の 産 業 ダミー 611 0.162 0.369 207 0.295 0.457 会 社 員 団 体 職 員 ダミー 611 0.599 0.490 207 0.498 0.501 公 務 員 ダミー 611 0.118 0.323 207 0.169 0.376 会 社 経 営 者 役 員 ダミー 611 0.087 0.282 207 0.039 0.193 自 営 業 主 ダミー 611 0.175 0.380 207 0.130 0.338 家 族 従 業 者 ダミー 611 0.021 0.144 207 0.164 0.371 事 務 職 ダミー 611 0.160 0.367 207 0.295 0.457 販 売 職 ダミー 611 0.082 0.274 207 0.116 0.321 管 理 職 ダミー 611 0.268 0.443 207 0.029 0.168 専 門 的 技 術 的 職 業 ダミー 611 0.178 0.383 207 0.280 0.450 サービス 業 ダミー 611 0.105 0.306 207 0.193 0.396 現 業 職 ダミー 611 0.173 0.379 207 0.053 0.225 農 林 漁 業 ダミー 611 0.033 0.178 207 0.034 0.181 2006 年 ダミー 611 0.401 0.490 207 0.454 0.499 2007 年 ダミー 611 0.599 0.490 207 0.546 0.499 15 大 都 市 ダミー 611 0.224 0.417 207 0.217 0.413 人 口 10 万 人 以 上 ダミー 611 0.457 0.499 207 0.440 0.498 その 他 の 市 ダミー 611 0.229 0.421 207 0.217 0.413 町 村 ダミー 611 0.090 0.286 207 0.126 0.332 最 後 に ワーカホリックを 長 時 間 労 働 への 依 存 症 として 定 義 し 労 働 時 間 への 中 毒 の 度 9
合 いを 確 認 するために 過 去 の 労 働 時 間 を 示 す 変 数 を 説 明 変 数 に 加 えた 6 また 後 回 し 行 動 を 示 す 変 数 として 夏 休 みの 宿 題 を 加 えた 記 述 統 計 を 表 1に 示 している 第 一 行 目 より 週 60 時 間 以 上 の 長 時 間 労 働 に 従 事 する 労 働 者 の 割 合 は 男 性 では 27.5% 女 性 では 12.6%であることが 分 かる この 割 合 は 図 3 と 図 4 で 確 認 された 就 業 構 造 基 本 調 査 の 長 時 間 労 働 者 の 割 合 ( 総 計 )とほぼ 同 じ 水 準 で あり 本 稿 で 用 いるサンプルは 日 本 の 労 働 者 の 特 性 を 大 よそ 代 表 するものと 考 えられる 3-3. 推 定 結 果 プロビット 推 定 により 上 式 を 推 定 した 際 の 係 数 推 定 値 を 表 2に 示 している 男 女 とも 全 ての 推 定 式 において 前 年 と 比 べて 健 康 状 態 が 改 善 した 場 合 週 60 時 間 以 上 働 く 確 率 が 有 意 に 増 加 する 効 果 が 確 認 される 一 方 興 味 深 いことに 前 年 と 比 べて 健 康 状 態 が 悪 化 し たからといって 週 60 時 間 以 上 働 く 確 率 が 有 意 に 減 少 するわけではない これは 職 場 の 雰 囲 気 や 業 務 に 対 する 責 任 などにより 健 康 状 態 が 悪 化 したとしても 労 働 者 自 身 が 自 由 に 労 働 時 間 を 減 らせる 訳 ではない 可 能 性 を 示 唆 する サンプルを 男 性 に 限 定 した 第 1 列 と 第 2 列 の 推 定 結 果 に 着 目 すると 夏 休 みの 宿 題 を 子 供 のころ 後 回 しにしていた 人 ほど 60 時 間 以 上 働 く 確 率 が 有 意 に 高 くなることが 分 かる また 第 2 列 の 推 定 結 果 より 前 年 の 労 働 時 間 が 60 時 間 以 上 であったかどうかが 今 年 も 長 時 間 労 働 を 行 うか 否 かの 決 定 に 大 きな 影 響 力 を 持 つ この 結 果 は 二 通 りに 解 釈 するこ とができる 第 一 に 継 続 的 な 長 時 間 労 働 は 仕 事 量 の 正 の 自 己 系 列 相 関 を 示 すと 解 釈 でき る つまり 前 年 に 長 時 間 労 働 を 行 った 労 働 者 の 仕 事 量 は 今 年 になったからといって 減 少 するわけではない 第 二 に 継 続 的 な 長 時 間 労 働 は 労 働 者 自 身 の 習 慣 形 成 によるものと 解 釈 することもできる もしも 習 慣 形 成 による 効 果 が 大 きければ 前 年 と 比 較 して 実 質 的 な 仕 事 量 が 減 少 しても 労 働 者 は 習 慣 として 同 水 準 の 労 働 供 給 を 行 うことになり ワーカホ リック( 仕 事 中 毒 ) 労 働 者 である 可 能 性 が 示 唆 される 一 方 男 性 と 比 較 して 女 性 の 場 合 は 前 年 の 労 働 時 間 は 有 意 な 影 響 を 与 えない また 男 性 に 確 認 された 後 回 し 行 動 の 影 響 も 観 察 されなかった むしろ 女 性 の 長 時 間 労 働 の 選 択 に 影 響 を 与 えるのは 世 帯 の 負 債 および 資 産 額 である また 有 意 性 は 低 いが 子 供 の 数 が 多 ければ 多 いほど 60 時 間 以 上 働 く 確 率 は 減 少 する(p- 値 =0.115) 6 ただし 上 記 モデルの 誤 差 項 に 観 察 されない 時 間 を 通 じて 不 変 な 個 人 属 性 が 含 まれるならば dynamic panel の 問 題 を 考 慮 する 必 要 がある 本 稿 の 分 析 では 加 えた 説 明 変 数 によって 個 人 属 性 が 全 てコントロ ールされていると 考 えて dynamic panel によって 生 じる 問 題 を 無 視 している 10
表 2 長 時 間 労 働 の 決 定 要 因 に 関 するプロビット 推 定 被 説 明 変 数 : 60 時 間 / 週 以 上 働 く=1 男 性 男 性 女 性 女 性 前 年 の 労 働 時 間 が 60 時 間 / 週 以 上 =1 1.1057 *** 0.6124 (0.12871) (0.44774) 所 得 -0.0003-0.00030-0.0010-0.00007 (0.00074) (0.00078) (0.00184) (0.00198) 所 得 の2 乗 項 *10000 0.0004-0.0000104 0.0005-0.00662 (0.00000) (0.00000) (0.00000) (0.00000) 年 齢 -0.1286 * -0.0670 0.1297 0.1476 (0.05583) (0.05985) (0.17182) (0.17281) 年 齢 の2 乗 項 0.0012 * 0.0007-0.0014-0.0017 (0.00056) (0.00060) (0.00180) (0.00181) 世 帯 土 地 住 宅 資 産 額 0.0000-0.00002 0.0004 *** 0.000337 *** (0.00003) (0.00003) (0.00010) (0.00010) 世 帯 金 融 資 産 額 0.0000 0.000042-0.0001-0.00012 (0.00005) (0.00005) (0.00011) (0.00012) 世 帯 住 宅 ローン 額 0.0001 0.000086-0.0002-0.0002 * (0.00007) (0.00007) (0.00020) (0.00020) 世 帯 その 他 の 負 債 額 0.0002 0.00033-0.0016 * -0.00160 (0.00023) (0.00024) (0.00073) (0.00074) 子 供 の 数 0.0110 0.0398-0.4780-0.5154 (0.07560) (0.08187) (0.32605) (0.32678) 既 婚 (=1) -0.2676-0.2764 0.2257 0.0814 (0.38491) (0.38726) (0.45428) (0.47450) 健 康 改 善 (=1) 0.3369 * 0.3065 * 0.7567 * 0.7304 * (0.14045) (0.14864) (0.36314) (0.36223) 健 康 悪 化 (=1) 0.0007-0.0216-0.3728-0.4556 夏 休 みの 終 わりの 頃 に 宿 題 (=1) (0.13920) (0.14740) (0.47901) (0.51047) 0.4033 ** 0.3065 * 0.4177 0.3974 (0.12822) (0.13518) (0.37628) (0.37532) 年 効 果 学 歴 ダミー 産 業 ダミー 勤 務 形 態 ダミー 都 市 規 模 ダミー サンプルサイズ 611 611 207 207 対 数 尤 度 -330.5380-292.4828-47.3029-46.3619 擬 決 定 係 数 0.0802 0.1861 0.3954 0.4074 ( 注 ) プロビット 推 定 の 係 数 推 定 値 を 示 している 職 業 によって 労 働 時 間 への 裁 量 が 異 なる 可 能 性 を 考 慮 するために 職 種 別 に 分 析 を 行 っ た 結 果 を 表 3に 示 している 加 えたコントロール 変 数 は 表 2の 分 析 と 同 じものであり 1 期 前 に 週 60 時 間 以 上 労 働 をしていたかどうかを 示 すダミー 変 数 と 先 延 ばし 行 動 を 示 す 夏 休 11
みの 宿 題 ダミー 変 数 の 係 数 推 定 値 のみを 表 に 示 した 表 3 長 時 間 労 働 の 決 定 要 因 に 関 するプロビット 推 定 : 職 種 別 男 性 事 務 販 売 職 被 説 明 変 数 : 60 時 間 / 週 以 上 働 く=1 男 性 専 門 管 理 職 男 性 専 門 職 男 性 管 理 職 前 年 の 労 働 時 間 が 60 時 間 / 週 以 上 =1 夏 休 みの 終 わりの 頃 に 宿 題 (=1) 1.9724 *** 1.3642 *** 1.1683 *** 1.3731 *** (0.46007) (0.22281) (0.23690) (0.32150) 0.2359 0.6555 ** 0.4590 0.8127 * (0.37947) (0.24775) (0.27085) (0.39742) サンプルサイズ 対 数 尤 度 擬 決 定 係 数 ( 注 ) 139 271 208-108.1077 0.3017-49.9894 0.3793-93.4196 0.2724 159-59.3431 0.4006 プロビット 推 定 の 係 数 推 定 値 を 示 している 表 1と 同 じ 特 定 化 で 分 析 を 行 っている 加 えたコントロール 変 数 は 所 得 所 得 2 乗 項 年 齢 年 齢 2 乗 項 土 地 住 宅 資 産 額 金 融 資 産 額 住 宅 ローン その 他 の 負 債 額 子 供 の 数 既 婚 ダミー 健 康 改 善 ダミー 健 康 悪 化 ダミー 学 歴 ダミー 産 業 ダミー 勤 務 形 態 ダミー 都 市 規 模 ダミー 年 ダミーである この 表 より 管 理 職 に 従 事 する 労 働 者 の 長 時 間 労 働 が 労 働 者 の 先 延 ばし 行 動 によっても たらされるのに 対 し その 他 の 職 業 では 先 延 ばし 行 動 の 影 響 が 有 意 に 確 認 されなかった 管 理 職 の 先 延 ばし 行 動 の 効 果 を 示 す 夏 休 みの 宿 題 ダミーの 係 数 推 定 値 は 約 0.8 であり 限 界 効 果 は 最 大 で 約 0.32 となる 7 つまり 夏 休 みの 宿 題 を 最 後 の 頃 に 終 わらせていた 労 働 者 は そうでない 労 働 者 と 比 較 して 週 労 働 時 間 が 60 時 間 以 上 である 確 率 が 最 大 で 約 30%ポイン ト 程 も 高 いことになる 管 理 職 に 就 く 労 働 者 が 宿 題 と 同 様 に 仕 事 を 後 回 しにし 残 業 時 間 に 仕 事 を 行 うために 長 時 間 労 働 が 行 われてきたのかもしれない 8 まとめると 上 記 の 推 定 結 果 で 明 らかにされたことは 次 の 点 である 第 一 に 男 性 労 働 者 では 長 時 間 労 働 をしている 人 は 継 続 的 長 時 間 労 働 をする 可 能 性 が 高 いことである 週 60 時 間 以 上 働 いている 男 性 は 次 の 年 も 週 60 時 間 以 上 働 く 確 率 は そうでない 男 性 よりも 最 大 で 約 44%ポイント 高 い 所 得 水 準 をコントロールしてもこのような 影 響 があるという ことは 習 慣 形 成 による 選 好 の 変 化 の 可 能 性 がある 第 二 に 子 供 の 頃 夏 休 みの 宿 題 を 夏 休 みの 最 後 の 方 にやっていたという 後 回 し 行 動 をとる 特 性 を 示 す 変 数 は 大 人 になって 長 時 間 労 働 をしやすい この 傾 向 は 労 働 時 間 を 自 分 で 決 めることが 可 能 な 管 理 職 に 顕 著 7 限 界 効 果 は P / x j = φ( x' β) ˆ β によって 計 算 される 本 稿 では 標 準 正 規 分 布 に 従 う 尤 度 を 用 いたプロビ j ット 推 定 を 行 っているので 累 積 密 度 分 布 は 最 大 で Φ( x' β ) = 0. 5 となり 密 度 関 数 の 最 大 値 は φ( x' β ) 1/ 2π 0.4 となる 8 ただし 夏 休 みの 宿 題 ダミーが 有 意 に 正 であることはもう 一 つの 可 能 性 を 示 唆 する 夏 休 みの 宿 題 を 後 回 しにしていた 労 働 者 は 現 在 の 時 間 選 好 率 が 将 来 の 時 間 選 好 率 と 比 較 して 高 い 双 曲 割 引 を 示 すことが 指 摘 されてきた つまり 今 の 状 況 をより 重 視 するため 仕 事 を 頼 まれた 時 に 将 来 の 仕 事 量 が 増 加 すること によって 生 じる 損 失 を 低 めに 見 積 もり 現 時 点 で 受 け 入 れることの 満 足 度 をより 高 く 評 価 してしまう こ の 時 労 働 者 は 仕 事 をつい 多 目 に 引 き 受 けてしまい 長 時 間 労 働 を 行 うことになる 12
に 現 れる 限 界 効 果 を 計 算 すると 子 供 のころに 後 回 し 行 動 を 取 っていた 男 性 管 理 職 は そうでない 男 性 管 理 職 人 よりも 最 大 で 約 30%ポイント 高 い 確 率 で 長 時 間 労 働 をしている ここでの 推 定 結 果 は 暫 定 的 なものあると 断 った 上 で 推 定 結 果 のインプリケーション を 考 えるとつぎのようになる いやなものを 後 回 し 行 動 しやすい 人 は 仕 事 も 後 回 し 行 動 をする 可 能 性 が 高 く 長 時 間 労 働 をすることになりやすい 一 度 長 時 間 労 働 をすると 長 時 間 労 働 に 慣 れて それがあまり 苦 痛 でなくなる その 結 果 ますます 長 時 間 労 働 になる このような 傾 向 は 労 働 時 間 を 自 分 で 決 めることがより 容 易 である 管 理 職 の 方 に 顕 著 に 現 れる 4.ワーカホリックへの 政 策 職 場 でのワーカホリックで 一 番 迷 惑 なのが 上 司 がワーカホリックになってしまうこと である もし 所 得 が 高 い 人 ほどワーカホリックになりやすいのであれば 所 得 の 高 い 管 理 職 層 でワーカホリックが 多 いことになり その 弊 害 は 職 場 全 体 に 及 ぶことになる とこ ろが 管 理 職 に 対 して 労 働 時 間 規 制 をしたところでその 実 効 性 はほとんどない Hamermesh and Slemrod(2005)は 高 所 得 層 ほどワーカホリックになりやすいのであれば 累 進 所 得 税 をかけることがワーカホリック 対 策 として 有 効 であると 主 張 している 累 進 所 得 税 は 高 所 得 層 の 労 働 意 欲 を 削 ぐことになり 彼 らがワーカホリックになる 比 率 を 引 き 下 げる そうすると 高 所 得 である 管 理 職 のワーカホリックが 減 って 部 下 が 望 んでいな い 職 場 での 長 時 間 労 働 も 減 るということである 日 本 の 所 得 税 制 の 累 進 度 は90 年 代 後 半 から 低 下 してきた 長 時 間 労 働 が 問 題 になりだ したのも90 年 代 後 半 からである このように 所 得 税 がフラット 化 したことが 日 本 の 管 理 職 のワーカホリックを 増 やして その 部 下 たちの 長 時 間 労 働 問 題 が 深 刻 化 した 可 能 性 は ある しかし 日 本 のデータを 用 いた 研 究 では 所 得 が 高 いほど 長 時 間 労 働 が 発 生 すると いうよりも 後 回 し 行 動 をとる 男 性 管 理 職 男 性 労 働 者 に 長 時 間 労 働 が 見 られることが 示 された このような 後 回 し 行 動 によって 長 時 間 労 働 が 発 生 しているのであれば 残 業 割 増 率 の 上 昇 は 長 時 間 労 働 の 根 本 的 な 解 決 にならないどころか 長 時 間 労 働 を 増 加 させてしまう 後 回 し 行 動 を 防 ぐ 方 法 は 定 時 に 仕 事 を 終 わらせるコミットメントメカニズムの 方 が 有 効 である ある 時 間 以 降 は 職 場 に 残 ることができないようにする コンピューターのシス テムを 止 めてしまう 電 灯 を 消 す といった 強 制 的 なコミットメントメカニズムが 有 効 に なる 労 働 時 間 管 理 が 困 難 なホワイトカラー 層 の 労 働 時 間 を 引 き 下 げる 方 法 としては 残 業 を していると 生 活 が 困 難 になるような 規 制 をすることも 一 つである 商 店 の 開 店 時 間 に 規 制 をかけると 残 業 をすると 生 活 に 困 るということになるかもしれない そうすると 長 時 間 労 働 をしたいワーカホリックの 管 理 職 であっても 部 下 に 残 業 を 命 じることが 難 しくなる もう 一 つの 方 法 は 健 康 管 理 は 管 理 職 の 責 任 だというシステムを 設 計 することである 部 13
下 に 長 時 間 労 働 をさせて 短 期 的 に 業 績 が 上 げたとしても 部 下 の 健 康 状 況 を 悪 化 させた 場 合 には その 管 理 職 の 評 価 を 低 くするという 仕 組 みを 作 るのである 従 業 員 の 健 康 状 況 が 企 業 の 収 益 に 影 響 されるのであれば 企 業 は 管 理 職 に 対 してこのような 評 価 制 度 をつくる ことになる 5.おわりに 本 稿 では 長 時 間 労 働 がなぜ 発 生 し それを 規 制 すべきかどうかを 標 準 的 な 経 済 学 の 枠 組 みで 議 論 し 日 本 における 実 証 分 析 を 行 った その 結 果 男 性 労 働 者 の 中 で 後 回 し 行 動 を 取 るものが 長 時 間 労 働 をする 傾 向 が 高 いこと 長 時 間 労 働 を 行 うものは 継 続 的 に 長 時 間 労 働 を 行 うことが 多 いこと 健 康 状 態 がよくなると 長 時 間 労 働 を 行 う 可 能 性 が 高 く なることが 示 された つまり 健 康 になって 長 時 間 労 働 をするようになるとワーカホリッ クになりやすく そうなると 健 康 状 態 が 悪 化 しても 長 時 間 労 働 を 続 けてしまうのである 後 回 し 行 動 を 取 る 人 が 長 時 間 労 働 をしないようにするためには つい 残 業 するというこ とができないようなコミットメントメカニズムをつくることが 必 要 である 参 考 文 献 菅 野 和 夫 (2002) 新 雇 用 社 会 の 法 有 斐 閣 Hamermesh, Daniel S. and Joel Slemrod (2005) The Economics of Workaholism: We Should not Have Worked on This Paper, NBER Working Paper No.11566. Hayashi, Fumio and Edward C. Prescott (2002) The 1990s in Japan: A Lost Decade, Review of Economic Dynamics 5(1),206 35. Rosenthal, Stuart and William Strange (2008) Agglomeration and Hours Worked, The Review of Economics and Statistics 90(1), 105-118. 14