三 井 住 友 信 託 銀 行 調 査 月 報 215 年 7 月 号 高 齢 化 財 政 悪 化 が 変 える 個 人 消 費 構 造 < 要 旨 > 日 本 では 年 金 受 給 者 数 が 給 与 所 得 者 数 の 約 7 割 に 達 し 高 齢 者 が 消 費 全 体 に 与 え る 影 響 は 年 々 増 してきている 214 年 は 給 与 所 得 環 境 が 改 善 したにもかかわらず 消 費 税 増 税 による 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 に 加 えて 公 的 年 金 給 付 額 の 減 少 によって 個 人 消 費 が 大 きく 落 ち 込 んだ 一 方 勤 労 者 世 帯 では 高 齢 化 に 伴 う 財 政 悪 化 を 背 景 とし た 社 会 保 険 料 率 の 上 昇 によって 2 年 代 後 半 以 降 から 消 費 は 軟 調 に 推 移 していた 今 後 公 的 年 金 給 付 額 は マクロ 経 済 スライド が 適 用 されることで 物 価 賃 金 の 上 昇 率 よりも 抑 制 されるため の 個 人 消 費 は 下 押 しされよう また 日 本 の 財 政 状 況 は これまでの 経 済 成 長 率 を 前 提 とすれば さらなる 歳 出 削 減 と 歳 入 増 加 が 必 要 であ るため 中 長 期 的 にみると 国 民 の 租 税 負 担 や 社 会 保 障 負 担 の 更 なる 増 加 によって 勤 労 者 世 帯 においても 消 費 が 抑 制 される 可 能 性 が 高 い 1. 重 要 性 が 増 す 高 齢 者 の 消 費 動 向 214 年 4 月 の 消 費 税 率 引 き 上 げ 後 に 個 人 消 費 は 大 きく 落 ち 込 み 現 在 も 回 復 ペースは 緩 慢 なままである 事 前 の 予 想 としては 大 企 業 のベースアップやボーナスの 増 加 によって 消 費 は 夏 以 降 に 持 ち 直 すとの 見 方 が 大 勢 であり 予 想 を 裏 切 る 結 果 であった 214 年 度 の 消 費 の 落 ち 込 みが 予 想 以 上 であったことは 賃 金 を 受 け 取 っておらず 年 金 で 生 活 している 高 齢 者 の 影 響 が 見 落 とされていたことが 原 因 の1つであったと 考 えられる 個 人 消 費 の 動 きを 勤 労 者 世 帯 と 高 齢 者 無 職 世 帯 で 分 けてみると 賃 金 改 善 の 恩 恵 を 受 けた 勤 労 者 の 消 費 の 減 少 率 は 前 年 比.1% 程 度 に 留 まった( 図 表 1) 一 方 で 賃 金 改 善 の 恩 恵 を 受 けない 高 齢 者 無 職 世 帯 は 同.9%と 勤 労 者 世 帯 と 比 べて 下 落 率 が 大 きかった 全 人 口 における 65 歳 以 上 の 割 合 を 示 す 高 齢 化 率 は 213 年 時 点 で 25%に 達 し 高 齢 者 が 消 費 に 与 える 影 響 は 年 々 増 している( 図 表 2) そこで 本 稿 では 214 年 に 高 齢 者 の 消 費 が 減 少 した 要 因 の 分 析 を 起 点 として 今 後 の 個 人 消 費 の 見 通 しを 考 察 する 図 表 1 214 年 消 費 支 出 ( 前 年 比 ) 図 表 2 高 齢 化 率 ( 前 年 比 %) 勤 労 者 世 帯. 3 -.2 25 -.4 -.6 2 15 1 -.8 5-1. ( 注 ) 高 齢 者 は 6 歳 以 上 無 職 世 帯 のデータ 195 196 197 198 199 2 21 ( 注 )213 年 までのデータ ( 資 料 ) 総 務 省 国 勢 調 査 1
三 井 住 友 信 託 銀 行 調 査 月 報 215 年 7 月 号 2. 年 金 給 付 額 の 変 動 と 高 齢 者 消 費 214 年 度 の 消 費 の 落 ち 込 みが 予 想 以 上 であったことは 給 与 所 得 がなく 年 金 で 生 活 している 高 齢 者 の 影 響 が 見 落 とされていたことがその 一 因 であったと 考 えられる 日 本 の 高 齢 化 が 進 む 中 で 公 的 年 金 給 付 額 の 変 動 が 消 費 に 与 える 影 響 が 増 している 213 年 度 末 の 公 的 年 金 支 給 の 対 象 者 数 は 3,95 万 人 で 給 与 所 得 者 数 の 約 7 割 にあたり 正 規 雇 用 者 数 (213 年 平 均 3,294 万 人 )を 上 回 っている( 図 表 3) 4,5 4, 3,5 3, 2,5 2, 1,5 1, 5 ( 万 人 ) 図 表 3 公 的 年 金 受 給 者 数 と 雇 用 者 数 非 正 規 雇 用 者 数 公 的 年 金 受 給 者 数 正 規 雇 用 者 数 22 24 26 28 21 212 ( 注 ) 公 的 年 金 受 給 者 数 は 年 度 末 の 数 値 雇 用 者 数 は 年 平 均 の 数 値 ( 資 料 ) 厚 生 労 働 省 厚 生 年 金 保 険 国 民 年 金 事 業 の 概 況 総 務 省 労 働 力 調 査 6 歳 以 上 無 職 世 帯 の 公 的 年 金 給 付 額 の 推 移 を 見 ると 2 年 以 降 減 少 基 調 で 推 移 していた が 214 年 は 特 に 減 少 率 が 大 きく 約 6%も 減 少 した( 図 表 4) 年 金 給 付 額 の 減 少 は 消 費 者 マイ ンドにも 影 響 を 与 え 半 年 先 の 消 費 環 境 を 予 想 するアンケート 回 答 を 指 数 化 した 消 費 者 態 度 指 数 は 213 年 後 半 以 降 に 年 金 所 得 層 の 方 が 給 与 所 得 者 よりも 大 きく 落 ち 込 んだ( 図 表 5) 図 表 4 公 的 年 金 給 付 額 図 表 5 消 費 者 態 度 指 数 21,.5 ( 年 金 所 得 者 - 給 与 所 得 者 213 年 1 月 =) 2,. -.5 19, -1. -1.5 18, -2. -2.5 17, 2 22 24 26 28 21 212 214 ( 注 ) 世 帯 主 が6 歳 以 上 の 無 職 世 帯 -3. -3.5 213 214 ( 資 料 ) 内 閣 府 消 費 者 態 度 指 数 2
三 井 住 友 信 託 銀 行 調 査 月 報 215 年 7 月 号 1 人 当 たり 年 金 給 付 額 は 214 年 度 に 減 少 した 後 215 年 6 月 から 物 価 や 賃 金 の 上 昇 を 反 映 し て 前 年 比 +.9% 増 加 する( 図 表 6) 年 金 給 付 額 が 増 加 するのは 1999 年 以 来 16 年 ぶりとなる ただし 過 去 の 物 価 下 落 時 に 据 え 置 かれた 特 例 水 準 からの 段 階 的 な 解 消 (.5%)に 加 えて 今 年 度 から 現 役 人 口 の 減 少 と 平 均 余 命 の 伸 びの 分 だけ 年 金 額 を 抑 制 する マクロ 経 済 スライド (.9%)が 適 応 され 物 価 や 賃 金 の 上 昇 率 から 算 出 される 名 目 手 取 り 賃 金 上 昇 率 (+2.3%)に 比 べて 増 加 率 は 抑 えられる ここで 前 掲 図 表 5の 2 年 以 降 の 年 金 受 取 額 を 改 めてみると 図 表 6の 年 金 額 改 定 率 と 比 べ て 減 少 率 が 大 きくなっている 年 金 額 の 改 定 のみならず 厚 生 共 済 年 金 の 支 給 開 始 年 齢 が 段 階 的 に 引 き 上 げられていることで (6 歳 以 上 の 無 職 世 帯 )の 平 均 的 な 年 金 受 取 額 が 下 押 しされたと 考 えられる( 図 表 7) 図 表 6 年 金 額 改 定 (2 年 を 基 準 とした 変 化 率 ) 図 表 7 厚 生 年 金 支 給 開 始 年 齢. -1. -2. -3. 62-4. 特 例 水 準 -5. 本 来 水 準 61 1999 21 23 25 27 29 211 213 215 ( 年 度 ) 6 ( 注 )1999~21 年 に 物 価 が 下 落 した 際 年 金 受 給 者 の 生 活 2 25 21 215 22 の 状 況 等 をかんがみ 特 例 的 に 年 金 額 が 据 え 置 かれた ( 注 ) 共 済 年 金 は 厚 生 年 金 ( 男 性 )と 同 様 に 引 き 上 げ ( 資 料 ) 財 務 省 ( 資 料 ) 厚 生 労 働 省 ( 開 始 年 度 ) 65 64 63 ( 支 給 開 始 年 齢 ) 男 性 定 額 部 分 女 性 定 額 部 分 男 性 報 酬 比 例 部 分 女 性 報 酬 比 例 部 分 3. 社 会 保 障 負 担 の 変 動 と 勤 務 者 消 費 214 年 は 年 金 給 付 額 の 減 少 を 背 景 に の 消 費 支 出 が 減 少 したが 2 年 以 降 の 基 調 的 な 消 費 支 出 の 動 きをみると 勤 労 者 世 帯 の 方 が 大 きく 減 少 している( 図 表 8) 図 表 8 1カ 月 間 の 平 均 消 費 支 出 実 額 前 年 比 増 減 率 27 26 25 24 ( 千 円 ) ( 千 円 ) 勤 労 者 世 帯 ( 右 軸 ) 35 34 33 32 4. 3. 2. 1.. -1. ( 前 年 比 %) 勤 労 者 世 帯 23 31-2. -3. 22 2 22 24 26 28 21 212 214 3-4. 21 23 25 27 29 211 213 3
三 井 住 友 信 託 銀 行 調 査 月 報 215 年 7 月 号 勤 労 者 の 消 費 の 背 景 には まず 勤 務 先 収 入 の 減 少 がある 家 計 調 査 をみると 2 以 上 の 世 帯 の 勤 務 先 収 入 は 2 年 以 降 に 約 1% 減 少 している( 図 表 9) ただし 2 年 からの 勤 務 先 収 入 の 減 少 率 は の 公 的 年 金 額 減 少 率 より 小 さく 2 年 以 降 の 勤 労 者 世 帯 の 消 費 額 が 高 齢 者 世 帯 以 上 に 減 少 したのには 勤 務 先 収 入 以 外 の 要 因 があると 考 えられる そこで 勤 労 者 世 帯 の 収 支 の 内 訳 をみると 26 年 を 底 に 社 会 保 険 料 支 払 額 が 1% 以 上 増 加 し ており 勤 労 者 世 帯 では 収 入 の 減 少 と 社 会 保 険 料 の 増 加 によって 消 費 が 減 少 基 調 で 推 移 したと 考 えられる( 図 表 1) 実 際 に 図 表 8で 勤 労 者 世 帯 の 実 質 消 費 支 出 の 前 年 比 増 減 率 が 高 齢 者 世 帯 を 下 回 った 年 を 確 認 すると 21 年 ~23 年 27~28 年 21~211 年 213 年 で あり 図 表 1 の 社 会 保 険 料 が 増 加 した 期 間 に 大 方 一 致 している 社 会 保 険 料 負 担 の 変 動 を 項 目 別 に 見 ると 26 年 以 降 では 厚 生 年 金 保 険 料 率 や 健 康 保 険 料 率 が 上 昇 している 国 の 高 齢 化 や 財 政 悪 化 が 進 むことで 勤 労 者 1 世 帯 当 たりの 負 担 が 年 々 増 加 し 続 けており この 先 も 負 担 増 の 基 調 は 変 わらないと 考 えられる 図 表 9 1カ 月 間 の 平 均 勤 務 先 収 入 図 表 1 1カ 月 間 の 平 均 社 会 保 険 料 支 払 54, 6, 12 52, 5, 4, 1 8 5, 3, 6 48, 46, 2 22 24 26 28 21 212 214 2, 1, その 他 社 会 保 険 料 4 健 康 保 険 料 公 的 年 金 保 険 料 2 勤 務 先 収 入 に 占 める 割 合 ( 右 軸 ) 2 22 24 26 28 21 212 214 ここで 国 の 財 政 状 況 を 確 認 すると 日 本 政 府 の 債 務 残 高 は 増 加 し 続 けており 名 目 GDP 比 で 2%を 超 える 水 準 は 他 の 先 進 国 と 比 べて 突 出 している( 図 表 11) 政 府 は 22 年 までに 基 礎 的 財 政 収 支 を 黒 字 化 する 目 標 を 立 てた 歳 出 を 削 減 するとこなく 目 標 を 達 成 するには 税 収 を 増 や すために 年 率 3% 以 上 の 経 済 成 長 を 維 持 することが 求 められるが これまでの 成 長 率 インフレ 率 の 実 績 からすると 達 成 は 困 難 である 仮 に 年 率 3% 以 上 の 経 済 成 長 を 達 成 したとしても 歳 出 を 9.4 兆 円 削 減 する 必 要 があるが 高 齢 化 によって 社 会 保 障 関 係 費 が 毎 年 約 1 兆 円 増 加 しており 歳 出 を 削 減 するのは 容 易 ではない 政 府 が6 月 22 日 に 公 表 した 骨 太 方 針 215( 素 案 ) では 社 会 保 障 関 係 費 の 伸 びを 毎 年.5 兆 円 に 抑 える 目 安 が 示 されたが 具 体 策 が 乏 しく 実 現 性 は 低 い ただし 一 方 で 日 本 では 所 得 に 占 める 租 税 社 会 保 障 負 担 の 割 合 は 他 の 先 進 国 と 比 較 して 低 い 水 準 にあり 相 対 的 な 上 昇 余 力 を 考 慮 すると 将 来 消 費 税 率 や 社 会 保 障 の 国 民 負 担 率 が 上 がる 可 能 性 が 高 い したがって 中 長 期 的 にみて 国 民 の 租 税 負 担 や 社 会 保 障 負 担 の 増 加 が 消 費 を 抑 制 するリスクに 注 意 を 要 しよう( 図 表 12) 4
三 井 住 友 信 託 銀 行 調 査 月 報 215 年 7 月 号 図 表 11 政 府 債 務 / 名 目 GDP 図 表 12 国 民 負 担 率 25 2 15 1 5 日 本 英 国 フランス 米 国 ドイツ 7% 6% 5% 4% 3% 2% 1% ( 対 国 民 所 得 比 ) 法 人 所 得 税 資 産 課 税 等 消 費 税 個 人 所 得 税 2 22 24 26 28 21 212 214 ( 資 料 ) 財 務 省 % 日 米 英 独 仏 ( 注 ) 日 本 は211 年 度 諸 外 国 は211 年 の 数 値 ( 資 料 ) 財 務 省 社 会 保 障 負 担 率 4.まとめ~ 中 長 期 的 見 通 し 214 年 を 振 り 返 ると 給 与 所 得 環 境 が 改 善 したにもかかわらず 消 費 税 率 引 き 上 げによる 駆 け 込 み 需 要 の 反 動 減 に 加 えて 公 的 年 金 給 付 額 の 減 少 によって 消 費 が 落 ち 込 んだ 一 方 勤 労 者 世 帯 では 高 齢 化 に 伴 う 財 政 悪 化 を 背 景 とした 社 会 保 険 料 率 の 上 昇 によって 2 年 代 後 半 以 降 から 消 費 は 軟 調 に 推 移 していた 今 後 公 的 年 金 給 付 額 は マクロ 経 済 スライド が 適 用 されることで 物 価 賃 金 の 上 昇 率 よりも 抑 制 されるため の 消 費 は 下 押 しされよう また 日 本 の 財 政 状 況 は これまでの 経 済 成 長 率 を 前 提 とすれば さらなる 歳 出 削 減 と 歳 入 増 加 が 必 要 であり 国 民 の 租 税 負 担 や 社 会 保 障 負 担 の 更 なる 増 加 によって 勤 労 者 世 帯 においても 消 費 が 抑 制 される 可 能 性 が 高 い ( 経 済 調 査 チーム 登 地 孝 行 :Toji_Takayuki@smtb.jp) 本 資 料 は 作 成 時 点 で 入 手 可 能 なデータに 基 づき 経 済 金 融 情 報 を 提 供 するものであり 投 資 勧 誘 を 目 的 としたものではありません 5