1 2015 年 8 月 18 日 2015 年 第 2 四 半 期 の SNA について( 修 正 版 ) 齊 藤 誠 要 旨 1 日 本 経 済 全 体 で 見 ると 石 油 価 格 を 中 心 に 一 次 産 品 価 格 の 下 落 と 円 安 の 恩 恵 を 受 けてきた 1.1 石 油 価 格 の 下 落 を 中 心 として 一 次 産 品 価 格 が 低 下 したことから 交 易 条 件 は 15 年 第 1 四 半 期 に 引 き 続 き 今 期 も 改 善 した 1.2 その 結 果 今 期 の 実 質 GDP( 国 内 総 生 産 )は 0.4% 低 下 したものの 交 易 条 件 を 反 映 する 実 質 GDI( 国 内 総 所 得 )は 横 這 いで 推 移 した 1.3 さらには 海 外 で 稼 いだ 外 貨 建 て 所 得 の 移 転 が 円 安 の 影 響 を 受 けて 円 建 てで 一 層 膨 らみ 交 易 条 件 と 移 転 所 得 の 両 方 を 反 映 する 実 質 GNI( 国 民 総 所 得 )は 0.5% 拡 大 した 1.4 すなわち 日 本 経 済 全 体 としてみると 交 易 条 件 の 改 善 と 円 安 の 恩 恵 で 実 質 GDP の 落 ち 込 み が 示 すほど 悲 観 的 なものではなかった 2 しかし こうした 交 易 条 件 の 改 善 や 円 安 の 恩 恵 は 家 計 消 費 には 及 ばなかった 2.1 耐 久 財 消 費 や 半 耐 久 財 消 費 の 停 滞 には 依 然 として 14 年 4 月 の 消 費 税 増 税 の 影 響 を 認 めること ができた ただし そもそも 消 費 増 税 の 影 響 を 受 けにくいサービス 消 費 は 減 少 していない 2.2 しかし 今 期 の 消 費 が 15 年 第 1 四 半 期 から 第 2 四 半 期 にかけて 停 滞 した 背 景 には 円 安 などで 消 費 財 価 格 が 上 昇 した 影 響 も 大 きい 2.3 この 点 は 消 費 財 価 格 が 14 年 第 4 四 半 期 から 15 年 第 1 四 半 期 にかけて 低 下 して 家 計 消 費 を 下 支 えしたのと 好 対 照 である 2.4 前 期 に 消 費 財 価 格 が 低 下 して 家 計 消 費 が 堅 調 で 今 期 に 消 費 財 価 格 が 上 昇 して 実 質 消 費 が 停 滞 した という 側 面 に 着 目 すると デフレマインドが 払 拭 されていないから 消 費 が 停 滞 したとは 言 い 難 い 2.5 交 易 条 件 の 改 善 と 円 安 の 恩 恵 を 受 けている 実 質 GNI に 対 する 実 質 家 計 消 費 の 割 合 は 2014 年 第 1 四 半 期 から 急 速 に 低 下 している 政 府 の 主 張 とはまったく 逆 に 家 計 部 門 は 過 去 1 年 半 あま り 経 済 の 好 循 環 から 完 全 に 外 された 格 好 となっている 2.6 なお 実 質 雇 用 者 報 酬 は そもそも 実 質 GDP の 増 減 の 影 響 をストレートに 受 けにくかったこと から その 低 下 率 は 実 質 GDP の 下 落 率 よりも 小 さかった 3 その 他 の 支 出 について 3.1 民 間 住 宅 投 資 については 消 費 税 増 税 の 影 響 が 弱 まってきている 3.2 なお 15 年 第 1 四 半 期 の 実 質 GDP を 見 せかけ 上 押 し 上 げた 民 間 在 庫 の 顕 著 な 積 み 上 がりも 今 期 は 認 められなかった
2 1. 交 易 条 件 の 改 善 の 影 響 輸 出 輸 入 デフレーターの 動 向 と 交 易 条 件 まずは GDP デフレーターの 動 向 を 見 ていこう GDP デフレー ターは 前 期 の 94.2 から 94.6 へと 0.4% 増 加 している GDP デフレーター 14 年 IV 93.2 15 年 I 94.2 15 年 II 94.6 その 背 景 としては 輸 出 デフレーターの 上 昇 (96.4 97.5 海 外 に 高 い 値 段 で 輸 出 できるようになった)と 輸 入 デフレーターの 低 下 (117.8 117.2 海 外 から 安 い 値 段 で 輸 入 できるようになった)が 合 わさった 結 果 輸 出 デフレーターを 輸 入 デフレーターで 割 った 交 易 条 件 は 前 期 の 0.818 から 0.832 に 改 善 したからであった ( 図 1 参 照 ) 交 易 条 件 輸 出 デフレーター 輸 入 デフレーター ( 輸 出 価 格 / 輸 入 価 格 ) 14 年 IV 98.4 128.1 0.768 15 年 I 96.4 117.8 0.818 15 年 II 97.5 117.2 0.832 実 質 GDP と 実 質 GDI こうした 交 易 条 件 の 改 善 があった 結 果 交 易 利 得 が 生 じた( 海 外 からの 所 得 移 転 が 増 えた)ために 実 質 GDP( 国 内 総 生 産 )の 落 ち 込 みほどには 交 易 条 件 の 改 善 を 反 映 した 実 質 GDI( 国 内 総 所
得 )は 低 下 しなかった むしろ 横 ばいで 推 移 した なお 季 節 調 整 済 みの 四 半 期 データの 成 長 率 を 見 る 場 合 に 年 率 に 換 算 するという 悪 弊 はあえて 控 えたいと 思 う(なお 本 メモでも 季 節 調 整 済 みの 四 半 期 データの 水 準 については 依 然 として 年 率 換 算 する 慣 行 に 従 って いる) こうした 悪 しき 慣 習 は 成 長 の 時 代 に 成 長 率 をより 高 く 見 せかけることを 目 的 としたもので 安 定 成 長 に 入 っても なお 数 字 を 4 掛 けしてしまうと( 年 率 換 算 してしまうと) 停 滞 の 度 合 いを 過 大 に 印 象 付 けてし まうことになる 具 体 的 に 見 ていこう 実 質 GDP は 前 期 から 0.4% 低 下 したが 実 質 GDI は 前 期 から 変 化 していない し たがって 今 回 の 実 質 GDP の 低 下 については 数 字 が 示 すほどにあまり 悲 観 的 にみる 必 要 はないのでないだろ うか 3 実 質 GDP 実 質 GDI 実 質 GNI 14 年 IV 524.7 (0.3%) 501.8 (0.6%) 528.0 (1.6%) 15 年 I 530.5 (1.1%) 512.8 (2.2%) 534.7 (1.3%) 15 年 II 528.4 (-0.4%) 512.7 (0.0%) 537.3 (0.5%) 単 位 : 兆 円 括 弧 内 前 期 比 また 交 易 利 得 に 加 えて 国 内 からの 所 得 移 転 を 考 慮 した 実 質 GNI( 国 民 総 所 得 )は 前 期 から 0.5% 成 長 した 海 外 において 外 貨 建 てで 稼 いだ 所 得 の 国 内 への 移 転 が 円 安 の 影 響 によって 円 建 てベースでいっそう 拡 大 し 実 質 GNI の 拡 大 に 寄 与 したことになる ( 図 2 参 照 ) こうして 見 てくると 日 本 経 済 全 体 としては 石 油 価 格 などの 一 次 産 品 価 格 の 下 落 と 円 安 による 恩 恵 を 受 けて きたといえる
4 2. 家 計 消 費 の 動 向 : 消 費 税 増 税 vs 物 価 上 昇 家 計 消 費 支 出 デフレーター 一 方 季 節 調 整 済 みの 家 計 消 費 支 出 デフレーター( 持 ち 家 帰 属 家 賃 を 除 いたもの) の 動 向 を 見 ると 一 次 産 品 価 格 下 落 の 恩 恵 が 及 んでおらず 円 安 による 輸 入 物 価 上 昇 の 影 響 の 方 が 強 いことが 分 かる 家 計 消 費 支 出 デフレーターは 14 年 第 4 四 半 期 から 15 年 第 1 四 半 期 にかけて 0.5% 低 下 し そのことが 実 質 家 計 消 費 を 下 支 えしたが 15 年 第 1 四 半 期 から 第 2 四 半 期 にかけては かえって 0.3% 上 昇 している ( 図 3 参 照 ) 14 年 II 2.2% 14 年 III 0.0% 14 年 IV 0.2% 15 年 I -0.5% 15 年 II 0.3% 実 質 雇 用 者 報 酬 実 質 GDP の 拡 大 をストレートに 反 映 してこなかった 実 質 雇 用 者 報 酬 は 今 回 の 実 質 GDP の 低 下 も 直 接 反 映 することはなかった 実 質 雇 用 者 報 酬 は 前 期 の 260.7 兆 円 から 260.2 兆 円 へと 0.2%の 減 少 に とどまった 実 質 雇 用 者 報 酬 14 年 IV 259.3 (0.0) 15 年 I 260.7 (0.6) 15 年 II 260.2 (-0.2) 単 位 : 兆 円 括 弧 内 前 期 比
家 計 消 費 支 出 の 動 向 それでは 家 計 消 費 の 動 向 について 消 費 税 増 税 の 影 響 と 物 価 上 昇 の 影 響 の 2 つの 可 能 性 を 探 ってみよう 2014 年 4 月 の 消 費 税 増 税 は 当 然 ながら 2013 年 度 に 消 費 の 前 倒 しをもたらすので 比 較 する 水 準 は 前 期 比 や 2013 年 度 の 水 準 でなくて 消 費 税 増 税 の 駆 け 込 みの 影 響 が 表 れていないと 考 えられる 2013 年 第 1 四 半 期 と してみよう 家 計 消 費 は 15 年 第 2 四 半 期 に 停 滞 傾 向 を 示 した 季 節 調 整 済 みで 見 た 国 内 家 計 最 終 消 費 の 水 準 は 前 期 から 2.2 兆 円 低 下 して 300.0 兆 円 となり 13 年 第 1 四 半 期 の 水 準 (303.6 兆 円 )からさらに 離 れていった その 背 景 には 消 費 税 増 税 の 影 響 が 依 然 として 残 っている 可 能 性 があると 考 えられる なぜなら 消 費 税 増 税 の 影 響 を 受 けやすいと 考 えられる 耐 久 財 や 半 耐 久 財 への 支 出 が 低 下 した 一 方 消 費 税 増 税 の 影 響 を 受 けにくいと 考 えられるサービスの 落 ち 込 みは 軽 微 であったからである 5 国 内 家 計 最 終 消 費 耐 久 財 半 耐 久 財 非 耐 久 財 サービス 13 年 I 303.6 43.6 22.8 71.5 169.3 14 年 IV 300.7 43.6 22.4 68.9 169.7 15 年 I 302.2 43.9 22.7 69.1 170.6 15 年 II 300.0 42.9 21.8 68.7 170.3 単 位 : 兆 円 しかし 消 費 税 増 税 の 影 響 ばかりとはいえない 面 もある 先 ほど 述 べたように 15 年 第 1 四 半 期 から 第 2 四 半 期 にかけて 消 費 財 価 格 が 上 昇 したことも 実 質 消 費 の 低 下 をもたらした 可 能 性 も 考 えられる より 消 費 者 の 実 感 に 近 いと 考 えられる 原 系 列 デフレーター( 季 節 調 整 をしていない 系 列 )を 用 いてみると 消 費 財 デフレーター 上 昇 率 ( 四 半 期 率 )は 国 内 家 計 最 終 消 費 で 1.1% 耐 久 財 で 1.1% 半 耐 久 財 で 2.0% 非 耐 久 財 で 0.9% サービスで 1.0%であった こうした 傾 向 は 14 年 第 4 四 半 期 から 15 年 第 1 四 半 期 にかけて 消 費 財 価 格 が 下 落 して 実 質 消 費 を 下 支 えした のと 対 照 的 であったといえる
6 国 内 家 計 最 終 消 費 耐 久 財 半 耐 久 財 非 耐 久 財 サービス 14 年 II 2.6% 3.1% 4.0% 2.9% 2.2% 14 年 III -0.3% -1.8% -0.7% 0.5% -0.5% 14 年 IV 0.2% -0.7% 1.7% -1.0% 0.6% 15 年 I -1.2% 0.4% -1.5% -0.7% -1.4% 15 年 II 1.1% 1.1% 2.0% 0.9% 1.0% 第 1 節 でみてきたように 交 易 条 件 の 改 善 と 円 安 の 恩 恵 を 受 けて 実 質 GNI は 拡 大 した 一 方 耐 久 財 や 半 耐 久 財 に 消 費 税 増 税 の 影 響 が 依 然 として 認 められることと 円 安 などの 影 響 を 受 けて 15 年 第 1 四 半 期 から 第 2 四 半 期 にかけて 消 費 財 価 格 が 上 昇 したことで 実 質 家 計 最 終 消 費 支 出 は 伸 び 悩 んだ まとめてみると 日 本 経 済 全 体 に 恩 恵 をもたらしている 交 易 条 件 の 改 善 と 円 安 は 物 価 上 昇 のチャンネルを 通 じて 家 計 消 費 にダメージを 与 えている すなわち 国 際 環 境 の 改 善 で 日 本 経 済 全 体 が 享 受 している 付 加 価 値 の 改 善 は 家 計 部 門 にまったく 及 んでいないことになる 以 上 のことは 実 質 家 計 消 費 が 実 質 GNI に 占 める 比 率 が 14 年 第 1 四 半 期 から 急 速 に 低 下 していることでも 確 認 できる ( 図 5 参 照 )
7 3. その 他 の 支 出 項 目 民 間 住 宅 投 資 民 間 住 宅 投 資 も 消 費 税 増 税 の 影 響 を 受 けやすい 支 出 項 目 なので 前 期 比 や 2013 年 度 の 水 準 でなくて 消 費 税 増 税 の 駆 け 込 みの 影 響 が 表 れていないと 考 えられる 2013 年 第 1 四 半 期 としてみよう 実 質 民 間 住 宅 投 資 は 13 年 第 1 四 半 期 の 水 準 (13.9 兆 円 )には 及 ばないが 15 年 第 一 四 半 期 から 0.3 兆 円 増 加 して 13.4 兆 円 と 13 年 第 1 四 半 期 の 水 準 にかなり 近 づいてきた こうした 回 復 傾 向 は 1997 年 の 消 費 税 増 税 が 民 間 住 宅 投 資 に 及 ぼした 影 響 よりも 軽 微 であったことを 示 している 実 質 民 間 住 宅 投 資 13 年 I 13.9 14 年 IV 12.9 15 年 I 13.1 15 年 II 13.4 単 位 : 兆 円 実 質 民 間 在 庫 投 資 15 年 の 第 1 四 半 期 の 実 質 GDP を 押 し 上 げた 民 間 在 庫 の 積 み 上 がりは(14 年 第 4 四 半 期 の-3.3 兆 円 から 15 年 第 1 四 半 期 の-0.6 兆 円 へと 大 幅 な 増 加 )は 見 せかけの 実 質 GDP を 押 し 上 げた しかし 今 期 の 民 間 在 庫 投 資 には そうした 大 幅 な 在 庫 積 み 増 しは 観 察 されなかった 在 庫 調 整 は ほぼ 完 了 したとみて よいであろう 実 質 民 間 在 庫 14 年 IV -3.3 15 年 I -0.6 15 年 II -0.3 単 位 : 兆 円